セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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おまたせ。アイスティーしか(略
やっと事件?発生しました。賢者の石と秘密の部屋を足して2で割った感じの設定になってますね。

題名ちょっとなおしときます。

2025/4/12 微修正済み


試練告知(修正済み)

 夕食の時間が近づいてきたせいか、たくさんの生徒たちが大広間へ向かう背中が見える。そのなかには緑色のローブの生徒はいないようだった。スリザリン生は普段かたまって行動していることが多いので、ざっと周囲を見渡すだけで不在が確認できるのはセブルスにとってありがたかった。

 

──どうやら『誰かに絡まれるかも』と注意を払わずに済みそうだ。

 

 セブルスは安堵のため息をついて、その人波について行くように歩を進めた。もちろんひとりだった。

 

 少し前までは一人になるしかなかったのを寂しく思っていたのに、今は真反対だなんて不思議なものだ。

 べつに一人が好きなわけじゃない。その証拠に、リリーやクラリスといる時には『一人になりたい』とは思わなかった。

 スリザリン生に彼女たちほど気を許せないせいで、シンプルに疲れているのである。

 

 リリーとクラリスとは図書館で分かれた。話し込んでいるうちにクィディッチの試合時間どころか、夕食の時間が近づいてきていたのに気づいたからだ。今日はハロウィンパーティーなので、それぞれの寮の友だちに合流するためには少し早い時間に着くくらいでちょうど良い。

 さすがに3人で移動することはできなかった。まとまっているとまた(いさか)いの種にされかねない。そのため、彼女たち2人は連れ立ってセブルスより先に出発することにしたのである。

 

 そんなことを思い返していると、セブルスはなにか違和感を覚えた。

(生徒が多い?)

 いつもより早い時間帯だからだろうか。大広間に続く大扉に近づけば近づくほど、生徒たちの黒いローブで混みあっていくようだった。大扉の前にいる生徒が人垣のようになっていて、少しずつ前に進んでいる。いっぺんに入れないので仕方なく入り口の近くにたまっているらしい。

 どうも大広間ではなにか話している……きつい言い方で叱っている?ような声がしていて、それが原因かもしれなかった。

 先生が生徒でも叱っているのだろうか。それにしては生徒が入れないのを気にかけないなんておかしい気もする。

 

 なにかヤックスリーに心当たりはないだろうか。

「ハロウィーンの日に何かあるなんて掲示板に──」

 あったか、とまではセブルスも続けられなかった。

 人ごみのなかでついトーマスが隣にいるつもりで声を発してしまい、隣に立っていた生徒が怪訝な顔になったからだ。少し気恥ずかしい。

「人違いだった」とセブルスが言うと、その生徒はそれで納得したようだった。

 どうも、セブルスは本人が思っている以上に『トーマスがいて当たり前』という感覚になっていたらしい。入学してからこの2か月間、べったりと行動をともにさせられていたからだろう。ずいぶん馴染んだものだ。

 

 セブルスはなんとなく苦いものをかかえながらも、トーマスが怒りだしたときのやり取りを思い起こした。

 どうやらトーマスは「自分たちは2人ともスリザリンに入りたくなかった」と勝手に思いこんでいたらしい。だからセブルスがそうじゃなかったと──自分で選んで入ったと知って、勝手に怒った。

 べつにセブルスに非があったわけじゃない。セブルスはマグル育ちだと明かしていないが、トーマスだって自分がどんな暮らしをしてきたかを明かしてきたわけでもないのだ。『海外にいた』とは聞いていたが、それも本当かどうかわからない。

 

(それに……)

 今のセブルスには『トーマスが的を外している』と言い切ることもできなかった。

 

 セブルスがスリザリンを選んだのは母親の望みをかなえるためだ。セブルス自身の望みは母親の望みをかなえることだった。スリザリン寮をすごくいいものだと思って選んだわけじゃない。

 セブルスの頭のなかに、図書館でのやり取りと、レイブンクロー寮を選んだ夢の光景が交互に浮かんだ。

(……あの夢はしあわせだった)

 夢のように、3人でもしもレイブンクロー寮を選んでいたらここまでの苦労は経験せずに済んだはずだ。

 組み分け帽子の順番からして、クラリスがハッフルパフに行った時点で叶わなくなった『一番しあわせなif』だった。

 

 今日クラリスから聞いた話によると、彼女にはレイブンクローの適性はあったらしい。きっとそうだろうとセブルスも思っていた。いつも呪文学の教科書で自分だけでも勉強していたからだ。

 もしもセブルスがレイブンクローに行きたいと彼女に言ったら、いっしょに入ろうと言ったら、そうなっていたかもしれない。そうしたらきっとクラリスもリリーを説得していただろう。

 リリーはグリフィンドールが真っ先に挙がるくらい飛びぬけていたらしいが、レイブンクローにも望めば入れそうだったらしい。

 

「もしあれを選んでいたら」と考える程度には、セブルスはスリザリン寮にむずかしさを覚えていた。

 もしもトーマスに「実は入りたくなかったんじゃないの」と問われたら、『ちがう』とはっきり答えられないかもしれない。

 

 セブルスが生徒たちの列について行き、やがて大広間のなかが見える位置まで進んだ。

「いったい何があったんだ」となかをのぞきこんだ彼は、そっと頭をかかえた。

 どうやら知り合いばかりが何か言い合っているようだったので。

 

 近くにいるレイブンクロー生から「またあいつらか」などとあきれたような声がぽつぽつあがるのが聞こえた。セブルスも心中で『それな』と同意した。校内ではそれなりに見慣れてしまった、グリフィンドール寮とスリザリン寮のもめごとだった。

 何か大きな声を出している主(ぬし)は、グリフィンドール寮のテーブルの近くにいた。その人物を含め、何人かのグリフィンドール生が、同じく何人かのスリザリン生とやりあっているようだ。

 

 具体的に言うと、大きな声を出しているのはシリウスだった。彼はなにか険しい顔をしながら"丸めた羊皮紙"を手に持っていて、目の前にいるトーマスを問い詰めているようだ。シリウスの隣にはジェームズもいる。周囲の生徒たちは今のところ2人の……ジェームズも含めた3人の?やり取りを見守っていて、手を出しているようではない。

 

 トーマスは少し困ったような顔をしているものの、感情的になることもなく言い返した。

「ぼくもそれが何なのかはわからない。忘れ物を届けただけだから」

 それを聞いたシリウスがまた、手のなかの"丸めた羊皮紙"を示して言った。

「スリザリン連中が親切をするなんて天地がひっくり返っても(マーリンが生き返っても)ありえないね。これは何だ?闇の魔術でもかかってるのか」

「ちょっと!」とシリウスを止めたのはリリーだった。

「言いすぎよ、シリウス。怪しいと思うなら返せばいいだけでしょ」と言って、横合いから羊皮紙を取り上げた。

 

 シリウスは端正な顔を怒りに染めながらも、リリーの方を向いた。彼女を説得にかかることにしたらしい。

「ここでわからせとかなきゃ、何度だって同じことが起きるんだよ。こいつはこっそりテーブルに置いてたんだぞ」

「もしも本当に誰かの忘れ物なら、スリザリン生の子がグリフィンドール生に話しかけて手渡せるとおもう?」

 リリーはトーマスをフォローするつもりらしい。セブルスがこれまでトーマスについて何度も手紙に書いているため、どんな子か知っているからだろう。もっと言えば、トーマスが彼らの手紙のやり取りを気づいていない風にしているのも、これまで幾度となく目にしているはずだ。

 

 次に口を開いたのはジェームズだった。リリーの説得をさえぎるようにしていて、彼女の言うことにとりあわないつもりらしかった。

「時間が経てば開くってしかけかな?誰かが談話室に持って戻った頃に中身が出てくるのかも。ずいぶん手がこんでるね」

 彼はリリーの手から羊皮紙を抜き取り、いろいろな角度から眺めはじめた。四角っぽい封蝋を引っ張ってみても外れないし、羊皮紙が破れるような気配もない。

 たしかにただの羊皮紙ではなさそうだ。

 

(トーマスがわざわざあんなものを?)と思ったセブルスは首をひねった。

 わざわざグリフィンドールに何かをしかけるのは、トーマスのイメージとはかけ離れている。かといって本当に忘れ物を届けたとも考えにくい。もしも忘れ物が本当にあったとしても、トーマスなら見て見ぬふりをするか、誰か教員や妖精にたのみそうだった。

 では嘘をついているのかというと、そうとも見えない。トーマスは先ほどから動揺するそぶりもなく、平静な様子のままだった。

 

 ジェームズはそばにいた上級生らしき筋肉男に「ホールデン」と問いかけた。

「これになにか闇の力があるのなら、どうすれば一番安全なんですか?」

「ううん……安全なのは完全に壊してしまう、まあ羊皮紙なら燃やすのが手っ取り早い。でも興味ないか?中に仕掛けられてるのがどんなものか」

 ホールデンという上級生は、グリフィンドールらしい無鉄砲な好奇心の持ち主らしい。彼は自分よりも背丈がはるかに小さいトーマスに顔を近づけ「これの中身は?」とすごむように尋ねた。

 それでもトーマスはじっと目を見返したままで答えていた。

「中身は知りません。ひとのものを開けるのは失礼だから、試してもいない」

 

「スリザリンがそんな礼儀ただしいわけないだろ。こっそり弱みを握るようなやつばっかりのくせに」

 ふん、と鼻をならしたシリウスに対し、「なんだと?」といきり立ったように答えたのはトーマスの近くにいたスリザリン上級生だった。

 いつものパターン通り、集団と集団での言い争いが始まった。集団でいるのに個々が勝手にしゃべりだすものだから、はたから見ているとごちゃごちゃしているとしかわからなかった。

 ひとの目がある大広間だからか、罵詈雑言というよりディベートをしているかのようなしゃべり方で、辛辣な皮肉を互いに投げつけあっているのだと思われた。

 

 先生が誰か来ればどっちも叱られないように撤収するのだろうが、まだ大広間のなかに先生は一人も来ていないようだった。まだパーティーの開始までは時間があるためだろう。

 気が付いていないのだろうか。それとも明らかに面罵していたり杖を抜くようなことがなければ先生も手は出せないのかもしれなかった。

 

 そのなかで、シリウスはトーマスに詰め寄っていて何か言い合いはじめた。トーマスの態度は一貫していて、困ったように眉をハの字にしながらもしっかりとシリウスの目を見つめ返しているようだった。

 

「シリウス」

 セブルスは声をかけてから2人のあいだに割ってはいった。自然とトーマスを背にかばうような位置になる。

 リーコックのような感じの悪いやつだったら放っておくのだが、トーマスは下層カーストのなかでは"嫌なやつ"ではない、というのがセブルスの印象だった。純血主義をひけらかさないだけでなく、同調するところも見たことがない。

 

 シリウスは明らかに『失望した』という顔になったので、セブルスは何か言われるより先に小声でつづけた。

「こいつはたぶん他のやつに言われて置いた」

 面倒ごとに関わりたがらないトーマスがなにか行動に出るとすれば、だれかに言われた以外に考えられなかった。特にスリザリン上級生に命じられたら断れないだろう。

 

「……本当だろうな?」

 シリウスはセブルスの言を疑っているというより『お前だまされてるんじゃ?』という聞き方だった。

「心当たりはある」

 シリウスは面倒くさそうに「あー、もう」とため息をついた。

 

「まどるっこしいのは嫌いなんだよ。やりたくないんだったらやるな。『本当はやりたくなかった』なんてこっちが知るわけないだろ。べつに忘れ物だなんて信じたわけじゃないけど」

 

 シリウスはそこまで言うと、髪の毛がぐしゃぐしゃになるほどの勢いで頭をかいた。

「スリザリンの事情なんていちいち考えたくもない。周りを気にしてお前と話しちゃダメとかも面倒くさいし。うんざりだよ。そんなことをしたくてグリフィンドールに入ったんじゃない」

 

 その点ではセブルスも同意見だった。こっそりとやり取りをするためにスリザリンに入ったわけじゃない。

「本当にうんざりだ。スリザリンは気をつけなきゃいけないことが多すぎる」

 

 シリウスはあきれたようだった。

「だから止めとけって言った。……まあ、誰だってイメージとちょっと違うことってあるよな。うちの寮のだれかマグル育ちも『ここまで仲が悪いと思わなかった』とか言ってた」

「おっしゃる通りで」とセブルスは肩をすくめた。シリウスに対してあまり弱みを見せたくはないので、ぐちぐちとなげいてばっかりなんて真似はしたくなかった。

 

「まさか、お前もイメージとちがったのか?」とセブルスが問い返すと、シリウスは口は閉じたままシニカルな笑顔を見せてきた。どんな期待をして入ったかまでは知らないが、どうもイメージとはちがっていたらしい。

 

「──ねえ、のんびり話してていいの?」

 聞きなれた女の子の声が割って入ってきた。赤と緑のローブしかいないここには、彼女の黄はひどく場違いだった。

 

「いたのか」

「リリーといっしょに大広間に入った時、ちょうど羊皮紙が置かれたの」

 クラリスは少し疲れたような顔をしていた。

 彼女は自分より背の高い、特に大人くらいの体格になった男子生徒が苦手のはずだ。グリフィンドールの輪にはいなかったようなので、少し離れたところにいたのかもしれない。

 クラリスは諍いから隠れるためか、シリウスとセブルスを壁にするようにして、2人の後ろにまわった。

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ──浮遊せよ」

 言い争いに夢中になっているジェームズの手から、羊皮紙がふわりと飛んできてクラリスの手に載った。それから羊皮紙が載ったままの手を、トーマスの目の前に突き出した。

「誰の忘れ物でもないみたいだから、返すわ。先生に相談してみた方がいいんじゃない?」

「え……うーん。それはどうだろう」とどうにも歯切れが悪い調子でトーマスは答えた。受け取ろうというそぶりもしない。まるで『できれば受け取りたくない』とでも言っているかのようだった。

 クラリスに何か思うところでもあるのだろうか。

 

 不審な目でシリウスとセブルスが見ているのに気づいたのか、トーマスは初めて慌てたような態度で、まくしたてるように言った。

「あー……、グリフィンドール生のものだと思ったんだけど、違うなら危ないものなのかも。やっぱり燃やしておかない?」

 トーマスの発言には怪しいところしかなかった。

 

 シリウスが「あれの中身は危ないものなのか!?」とトーマスを問い詰めるのを再開するのを後ろにして、セブルスは急いで羊皮紙をクラリスの手からもぎ取った。

──ぽろりと封蝋が床に落ちた。

 誰かが息をのむ音がする。

 

「デパルソ──しりぞけ!」

 その呪文を受けて羊皮紙が弾かれるようにセブルスの手から離れた。ずいぶん的確なコントロール(エイム)だ。うまくない生徒だとセブルスの身体もいっしょにすっ飛ばされていただろう。

 唱えたのはグリフィンドールの上級生で、ハニーブロンドのポニーテールが目立つ女子だった。

 

 宙に投げ出された羊皮紙は、誰も触っていないのに勝手にするすると開いていく。

「プロテゴ──守れ!」とどちらの陣営の上級生も、何人かが盾の呪文を唱えた。自分たちの仲間を守るように、空気のゆらぎのようなものが次々と盾を形づくっていく。

「インセンディオ──炎よ!」開ききった羊皮紙に誰かがとなえた炎が当たり、一気に燃え上がった。

 その場の誰も動けなかった。ただ、次に何が起こるかをおそるおそる見つめていることしかできない。

 

(……何も起こらない?)

 やがて羊皮紙の一切が灰と化しても、あぶないものどころか魔法のひとつも出てくることはなかった。拍子抜けだ。

 

 静まったままの大広間に、ばさりとなにか大きな音がひびいた。教員席の方だ。

 そこにいた生徒全員が息をのんで、一斉にそちらに視線を向けた。

 教員席、つまり大広間の奥に横向きに並べられたテーブルの、そのまた奥がいつもと変わっていた。いつもは縦に長い窓がはめこまれているだけのそこに、今は垂れ幕のようなものが左右にゆらゆらと揺れている。まるでたった今、天井から降りてきたばかりのように。

 事情を知らなければ、窓際に重たそうで立派な生地のカーテンが引かれただけのようにも見える。カーテンの下の方には、城のあちこちでよく見かけるホグワーツの校章が刺繍されていた。

 

 教授の誰かがハロウィーンの飾りつけを追加でもしただけにも思える。羊皮紙が開いたのとなにか関係があるかどうか、見出すのは難しかった。

(文字……?)

 セブルスは"カーテン"の上の方に目をこらした。アルファベットらしき刺繍が次々と浮き出てきたからだ。それも何行も。

 生徒たちが固唾をのんで見守っている視線の先で、"カーテン"には鳥やネズミのイラストまでもが次々と刺繍されてゆく。そのタッチはやけに牧歌的で、生徒たちの警戒にくらべるとひどく暢気なものだった。

 

 

 

   小鳥たちの巣のどこか

   親鳥の目が届かない場所で

   こっそりと こっそりと

   ネズミが一匹やってきた

 

   仲良しきょうだいたちは

   力を合わせて追い払った

   一羽はかぎ爪 一羽はくちばし

   一羽は歌声 一羽は尾羽

 

   小鳥たちは巣を抜け出した

   親鳥の目が届かない場所で

   こっそりと こっそりと

   ネズミを三匹やっつけた

 

   4羽の子鳥は巣に戻る

   親鳥の目が届かない場所で

   こっそりと こっそりと

   巣穴にあった秘密を持って

 

 

 

 浮かび上がったのは、なにかよくわからない童話のような、歌詞のような文章だった。

(暗号……とか?)

 あぶないものにしては子ども向けのような気がする。

 あんぐりと口を開いていた生徒たちが、少しずつそばにいた友だちに何かをしゃべりだして、やがて大広間全体が興奮したような声にあふれた。

 

 驚きにかたまっていたシリウスが、落ち着いた口調であらためてトーマスに尋ねた。

「あれ、なんなんだ?さっきの羊皮紙と何か関係あるんだろ」

「あれが何なのかなんてぼくも知らない。……ただあれを届けろって言われたんだ。テーブルに置いてこいって」

「誰に?」

「マルフォイ監督生」と聞いたシリウスの目に鋭さが増した。

 トーマスが急いで「断れるわけないでしょ」と言いつくろったが、シリウスの眉間のしわをやわらげる効果はなかったようだった。

 

「危険なものかもしれないとわかっていて置いたんだろ」と言ったその声には、トゲがありありとまじっている。

「それは……ごめんなさい。できればグリフィンドールの子に燃やして欲しかったんだ。預かったぼくが燃やすわけにはいかないから」

 素直に頭を下げたトーマスに、シリウスはその灰色の目を丸くした。まるで伝説の魔法生物でも見つけたような反応で、とっさに何と答えるべきかを見失ったかのようだった。

 

 コメントに困るシリウスをよそに、セブルスもまたトーマスの様子をじいっと観察していた。

 トーマスにとっては、あのままホールデンとかいうやつに燃やしてもらうのが一番良かったらしい。でもクラリスが返却してきたのが完全に予想外で、だから怪しすぎる説得になってしまったのだろう。

 

 先ほどトーマスが言っていた忘れ物の話はうそと考えてよさそうだった。問題は、セブルスの目にはトーマスがうそをついているとは見抜けなかったことだ。だから『マルフォイに頼まれた』という説明にだって、うそが混じっていてもわからないかもしれない。

 そう考えると、トーマスをかんたんに信用してはいけない気がした。

 シリウスがなんとか「おれに謝られても困る」とコメントをひねり出した。そこまでを見届けてから、セブルスは今度はスリザリン寮のテーブルへ目を向けた。

 

 くだんのマルフォイ監督生はいつもの取り巻きと席についていた。貴族たちのつく席というのも大体決まっているし、なにか大きな変化があったようには見えなかった。

 ただ一ついつもと違うところがあった。

 

 マルフォイだけはどこか苦々しい表情で"謎の文章"を見上げていた。

 

「──これは驚いた。このような仕掛けが大広間にあったとは」

 間もなく、このタイミングで生徒たちが一番聞きたかった先生の声がした。

 大扉の前、生徒たちの黒いローブが多くたむろしているところに、きらきら光るローブが際立っているようだった。

 

 先生は長く白いひげを撫でながらも、何てことのないようなしゃべり方で生徒たちの前に進み出た。柔和な笑みを浮かべていて、目線はマルフォイの方に向かっている。

 

「諸君、駆けつけるのが遅くなってあいすまんかった。なにせ、わしがトイレに入っているあいだに、中で思索にふけられるように配慮してもらったようでの。ドアを開けるのに手間取ってしまった。ハロウィーンにサプライズしてもらったのは久しぶりじゃよ」

 その目元には悪戯っぽい光が浮かんでいるが、一方で、視線を返すマルフォイの目には温度がこもっていないようだった。

 

 生徒たちがその態度からなにかを読み取るよりも先に、ダンブルドア校長は視線をカーテンにうつして言った。

 

「ふうむ。この幕はわしが校長をやるどころか、生徒だった頃にも見たことがないのう。いったいどこにしまってあったものやら」

 校長先生はほほえましいものを見つけたかのように目を細めていた。まるで、倉庫に入っていた先祖のものを孫が引っぱり出してきたかのようだ。

 

 セブルスも先生の目線につられるようにして、改めてその"カーテン"を観察してみた。そこに書かれた文面の調子や挿し絵のコミカルさは子ども向けのようだし、ホグワーツに備わっているもののなかでも危険には見えない。一番印象が近いのは"人狼のタペストリー"だ。人狼になってしまったひとの悲劇をえがいた、6枚組の布絵である。

 

「わしが危険はないと請け負おう。諸君、パーティーに備えて自分たちのテーブルに戻るのじゃ」

 

 生徒たちは「なあんだ」と安心したように杖をローブにしまい、あるいは自分たちの

寮のテーブルに向けて移動をはじめた。先生のかけ声があったというのもあるが、先生の目の前でいさかいを続ける気もないからだ。

 

 それはトーマスもだった。セブルスの背後から動き出した気配がする。自分がとてつもないことをやらかしたわけではないとわかったからだろう。

 いつまでもグリフィンドール寮のテーブルにいるわけにもいかない。

 

「セブルス」

 きびすを返そうとしたところをシリウスに呼び止められた。

 まわりが解散し始めているので、向かい合ったままの赤と緑のローブは目立つ。それでもシリウスは周囲に見られるのもまるっきり気にしないことにしたようだ。ジェームズが小突くのにすら何のリアクションもしていない。

 

「ヤックスリーに見張られてたんだってな。気をつけろ。同級生にあの家のやつがいたなんて、今まで聞いたことがない」

 話の内容は大っぴらにすべきではないので小声だった。

 

 セブルスは「わかった」とうなずくと、今度こそスリザリン寮のテーブルの方に足を向けた。

 大広間のなかは、謎の"カーテン"以外にいつもと変わったところはなかった。

 

 

 

 

 




マルフォイ「思ってたんとちがう」

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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