セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
2025/4/12 一部微修正
2週間後 12月上旬
グリフィンドール寮のなかは、もうすぐクリスマスとあって飾りつけがなされていた。特に目立つのは談話室に鎮座している大きなクリスマスツリーだった。大広間のものほどではないが立派なつくりで、そこには
生徒たち、とくに1年生は2週間ほど後に予定されている初めてのクリスマス休暇を指おり待っていて、みんなシリウスとは正反対だった。シリウスにとって休暇で家に帰るというのは、ひどく嫌な思いをしに行くということだった。
グリフィンドール寮に入ったことに
それよりも、何かしら親戚を集めてのパーティーがあることの方がよほど憂うつだった。こういう時の社交は自称"魔法界の王族"としてなくなることは決してない。しかも親戚連中はみんなスリザリンで純血主義ばかりときたものだ。
つまり、周りがいつも以上に敵だらけになる。
(
日に日に気が重くなっていくのに帰らないわけにもいかないのだ。
先日、クリスマスに寮に残る生徒の希望者名簿がまわってきたので、シリウスも一応記入してはおいた。それでも両親に確認はいくだろうし、帰らなくていいなんてことは起こってくれないだろう。
(もう少し味方がいればなー……)
シリウスが真っ先にいてもらいたいと思ったのはジェームズだった。ジェームズだったら上手いことポッター家に連れて行ってくれるかもしれないし、ポッター家だったらシリウスものびのびと過ごしていられる。
だが、それが難しいのもシリウスは理解していた。ジェームズは血すじは純血でブラック家とも遠い親せきだが聖28一族ではないし、少なくとも純血主義ではない。シリウスの祖父の妹と結婚したチャールズ・ポッターは純血主義だったかもしれないが、ジェームズやその両親は絶対にちがう。
なにより、いくらなんでもグリフィンドール生は連れていけないだろう。
しかし、スリザリン生で伝手があるのはセブルスくらいしかいない。ブラックのグループに入ったような扱いなので権力で巻き込めるかもしれないが、さすがにクリスマス休暇に家族から引き離すことはしたくない。
どうやら腹をくくって一人で頑張るしかないようだった。
「シリウス?立ち止まってないで、行くよ」
すぐ前を行くジェームズが不思議そうな声でシリウスをうながした。
談話室のなかはがらんとしていて、2人のまわりで動いているのは炎の明かりくらいのものだ。今の時間帯、生徒たちはみな寝室に引っ込んでいた。
仮に眠れない誰かが談話室まで出てきても2人の姿は見つけられないだろう。かぶったものを透明にできる透明マントを、2人で使っているからだ。「相棒だから特別に教えてあげる」と釘をさしてきたジェームズは、ポッター家の家宝だというそれを惜しげもなく冒険に使っていた。
寮の出口の方に耳をすませてから、2人はそっと寮を抜け出した。夜間は生徒が出歩くことが禁止されているため、グリフィンドール塔のなかは静まり返っていた。
シリウスはマルフォイとの会談を終えた後はいそいで寮に戻った。"ホグワーツの歴史"の中身をあらためたジェームズに話を聞きたかったからだ。だが、シリウスの姿をみとめたジェームズは残念そうにため息をついて見せた。どうも中に書かれていた内容は、手に入れる労力とはつり合わないものだったらしい。
「なにか決め手になりそうなものはなかったよ。──そんな簡単にわかるものだったら、とっくに先生が解いてるよね」
ジェームズが言うには、例の垂れ幕についての情報はなにも載っていなかったそうだ。
「いちばん関係があってほしくないのは、"サラザール・スリザリンの秘密の部屋"だね。ほら、千年前に学校をつくった4人のうちの一人の。スリザリン寮の」
創設時は4人の仲は良かったものの、サラザール・スリザリンは『魔法教育を与えるのは純粋な魔法族の家系のみにすべきだ』と主張した。その結果ゴドリック・グリフィンドールと激しい言い争いになったのちに、彼は学校を去ったとされている。
その歴史自体は有名なものだしシリウスも知っていることだった。
「……で、学校に"秘密の部屋"を隠したって伝説が残ってるんだって。"真の継承者"にしか開けられないようになってて、今もあるらしいよ」
「じゃあ、あの垂れ幕が"秘密の部屋"の継承者を探し出すものだったり?」
ジェームズがううん、と考え込むように顎を引くと、彼の丸眼鏡がページを反射して白くひかって見えた。
「サラザール・スリザリンがあれだけ大々的なキャンペーンをうつかなあ。大広間に出てきたんだよ?混血の子だって先生にだって目につくところだ」
ジェームズはぱらぱらとページをめくって、隣のいすに座っているシリウスの方に本を差し出した。
「むしろこっちじゃないかな」
シリウスがページをのぞき込んでみると、目についたのはこんな文章だった。
『ホグワーツには隠された部屋や魔法がたくさんかかっているため、全貌は明らかになっていない』
『創設者時代にはなかった魔法や設備が、大規模改修や工事で新たにかけられることもある。長い歴史の中で増設され、或いは使われなくなった設備が、忘れられたまま残っている可能性もある』
シリウスはあーあ、と声をもらした。
「つまり、この学校には正体不明の魔法とか道具がたくさん残っていても不思議じゃないわけだ。ふり出しに戻ったな」
「そうだね。たとえば『図書館の棚と棚のあいだから苦しそうな声がする』とか、『地下牢の床のなかから不気味な気配がする』とか不思議なことはたくさんある。これじゃあ本を3日間も借りることなかったね」
このようなやり取りがあったので、彼らは別方面を掘ってみることにした。
あの謎かけに『こっそりと』という単語がたくさん出てくることに注目した彼らは、『もしかしたら大っぴらにうろついてはいけない時間帯を指すのかもしれない』と仮説をたてたのだ。
つまり、夜間に調べまわれば、ヒントが見つかるかもしれない。
ただ、以前きいた情報に『レイブンクロー寮に入った生徒は何も手がかりをつかめなかったし、罰則まで受けた』というのがある。他寮に入ると、それ以外の場所よりも生徒にばれる可能性は跳ね上がってしまうだろう。
『もしもそのせいで家宝の透明マントが失われたら』と考えると、寮にあたるのは最終手段にした方がいい。
だから2人は学校のなかでも、先生が立ち入らなそうなところを中心に探してまわっていた。
朝までうろついてしまうと次の日が大変なので、調査は何回かに分けることにした。この2週のあいだに2人で何度も出歩いているが、今のところ他の生徒にはばれていないようだった。
今夜は地下牢のあたりを探してみることにした。探してみるべきなのは『先生が立ち寄らなさそうなところ』なので、地下牢や、その近くの"展示室"なんかもあてはまる。"展示室"は魔法薬学教室の近くにある、教材なのか歴史的なものなのか、そういうものを安置している部屋である。あの辺りは冷え込みがきびしいので、余計に誰も立ち入ろうとはしないだろう。
道中は特に何もなかった。これまで何度か抜け出したときと同じように、燭台に火が灯っているのに人だけが消え失せてしまった校内は、見慣れぬ空間のようだった。
2人は足音を忍ばせながらも目的地に急いだ。あまり警戒しすぎる必要はない。というのも、校内は決して無音というわけではないからだ。ところどころで、時おり咳ばらいのようなものや誰かが歩き回るような物音がしていた。動くものには心当たりがたくさんある。肖像画や先生、屋敷しもべ妖精、甲冑、あとは城の管理人などだ。だから2人の足音がことさら目立つということはなかった。
何枚目かの木のドアの奥に滑りこんでから、ジェームズの後ろについていたシリウスはそうっとドアを閉じた。
閉め切られている"展示室"は古びた紙のような布のような『におい』に満ちていて、きちんと展示されたものもあれば、パッケージされたまましまい込まれているのだろう大小さまざまな物品が転がっていた。小さいものは旅行トランク程度、大きいものになると2人の背丈の倍はあるようだ。ジェームズの透明マントから出たシリウスは、足元に気をつけながらそれらの"荷物"の前に立ってまじまじと観察してみた。
あの"謎とき"が始まってから、2人も日中に何度かこの部屋に足を運んでいる。その時と別段変わりがあるようには見えないが、何かささいな変化が起きていたとしたら見逃したくない。夜間の外出なんてそうそうできるものでもないからだ。
「あれ?こんなのあった?」
後ろの方にいたジェームズがシリウスに問いかけた。透明マントをわきに抱えた彼も、シリウスと同じく室内を調べていたようだ。
「これ……。本だな」
2人の背丈を超すくらいまで横積みになっている書籍のタワーがあった。周囲の物品と同じくなにか布がかけられてはいたが、ひもで括られてはいない。
「覚えてないけど、なかった気がする。魔法史の資料とかか?」
2人はタワーをじっくりと確認してみた。書籍の印象じたいは、学校内のどこにでもある古ぼけたものと同じだ。だが、どんな本なのか背表紙を読んでみたシリウスは顔をしかめた。
『この世で最も邪悪な魔術』『反対呪文の開発について』『支配と魔法』『プロファイリングの技術』『不死研究』など、生徒が借りられそうな題名ではない。
(これ、どこかで見たな)
ひときわ目を引き付けるタイトルがあった。
『イチャイチャパラダイス』
「
シリウスは即、答えにいきついた。
「でも、DADAの研究室からずいぶん遠いよ、ここ」
ついでに言えば、教員塔からもグリフィンドール塔からも遠い。
ここから一番近い教室といえば魔法薬学だ。薬学教室、担当教授はスラグホーン先生、先生はスリザリン寮監、そしてスリザリンは手段を選ばず闇の魔術にも詳しい。ここまで連想したシリウスは、同じ発想であろうジェームズと目を合わせた。
「──作戦変更が必要だと思わないか?」
「だね。誰か来ないか見張っていよう」
「いつまで?」
「来なかったら朝まででしょ」
2人は2つある出入り口が見えるよう、壁ぎわの一角に座りこみ、透明マントをかぶって待つことにした。
しばらくは口を閉じて誰かやって来るかと待っていたのだが、あまりにも何も起こらないので2人は早々に雑談を開始していた。
「誰かきたら捕まえるか?」
「やめておいた方がいいと思う。『先生に頼まれてとりに来た』とかなんとか言われたら、夜に出歩いてるぼくらの方が注意されちゃうよ」
そこまで言うとジェームズは小さく身じろぎした。シリウスもそうだが床がかたくて落ち着かないのだろう。ちいさな
「でもさ、本当に先生が頼むってこともないと思うんだ。DADAの先生が使うならわざわざこんなところにまで持ってこないよ」
「研究室でそのまま読めばいいからな。……これ、ぜんぶ図書館の本だと思う。ここに"ホグワーツの歴史"も積んであったんだ。おれたちはそれを先生から借りた」
「……もしかして」
ジェームズがなにかに気づいて顔をあげたのと同時に、自分たちが来たのとは反対側のドアが開いた。
開いたドアの向こう側に人影はないようだ。それなのにかすかな靴音だけが何歩ぶんかシリウスの耳に届き、やがてドアが勝手にしまった。自分がやったのと同じく、音を立てないようなゆっくりとした動きだった。
(ゴーストじゃないな。妖精でもない。透明マントか?)
こちらを気取られるわけにはいかないと、シリウスはからだが1インチも動かないように力をこめた。"
自身の
2人の目の前で
(スカート?)
その人物は、緑色が目立つ生徒用ローブを着た女子だった。きょろきょろと教室のなかを見渡していて、まるで誰も見ていないのを確認するかのようだった。シリウスの知る顔ではない。何年生なのかもよくわからなかった。
彼女は2人には気づいていないのか、そのまま自身がつけていた透明マントを本のタワーにかぶせた。それから杖を取り出して本をまるごと浮かせると、やってきたのと同じドアから出て行った。
2人はそれからもしばらく動けなかった。さっきの生徒がなにかの用で戻ってきて鉢合わせ、なんて事態はさけたい。しかし今目の前で起こったことについて黙っていることもできなかった。
シリウスは透明マントの下で、ジェームズの方に目をやった。
「DADAの先生が図書館から借りた本を、スリザリン生が持って行った?」
「つまり、ぼくらと同じだよ。普通じゃ借りられない禁書をDADAの先生が借りておいて、生徒に
ジェームズはきびしさの
「そんな危ない本を、しかも夜に受け渡してる。これってばれたら
「先生が『もってこい』って頼んだだけって可能性は?」
「あると思って言ってる?」「ぜんぜん」
ジェームズは立ち上がって透明マントを頭の上からかぶりなおしながら、言った。
「スラグホーン先生だって怪しいよね。そういうやり取りがあるって知ってて見逃してるかもしれない。生徒が夜中にぬけ出しても目をつぶるつもりかもよ」
足早に寮に戻ってからも、2人はしばらく談話室で話しあった。
「あのスリザリン生が誰なのか探してみるか?」
「見当もつかないよ。毎日寮の近くを見張るってわけにもいかないし」
1学年で生徒は100人~150人くらいはいる。その四分の一、30~40人がスリザリン生だとすると、7学年で合計200~300人よりも少ないくらいになるだろう。あいだをとって250人、その半数が女子だとしても容疑者は125人になる(とてつもなくざっくりとした計算ではあるが)。
125人からも多少は人数をしぼれるだろう。シリウスが顔を知らないということは、少なくとも貴族ではないし、ブラック家関係者でもないことになるためだ。
それでも容疑者は100人くらいになってしまうのだ。大広間で食事をしているのを探してみることはできるかもしれないが、グリフィンドールとスリザリンのテーブルは離れているので、2人がじろじろ探しまわっていたら目立ってしまう。
「だったらおれたちはDADAの先生を見張ろう」
「それだって毎晩ぬけ出すわけにはいかないよ。もう少し、怪しい日に目星をつけないと」
そのまま2人でうんうんとうなっていたが、結局いいアイデアは出てこなかった。
イチャイチャパラダイスは、NARUTOのカカシ先生が読んでたアレです。
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
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【活動報告】にあげて欲しい
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【本編】にあげて欲しい