セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

4 / 64
2/22乱文がひどいので改訂しました。

2025/6/7 一部修正済み


≪光≫ リリーの大冒険 1st seasonその3(1st完)※大幅改訂済(修正済み)

 

 

 

 

 セブルスは"スイミー"から少し離れた、緩やかな斜面の下の方に座っていた。大部分がむき出しになっている足に細長い草のすじが当たっていて、少しちくちくとした感触がする。ぶかぶかのジャケットはすでに脱いでいて、近くに折りたたんで置いておいた。

 

 クラリスとリリーの2人はすぐ背後、斜面になっているところに並んで膝立ちになっているらしい。2人とも頭の位置がセブルスよりも少し高いようだった。

 

 2人が何事か話しながら後ろに流した髪に()()()()()()とさわっていて、セブルスには自分の心臓がいやな音を立てて跳ねる感じがした。

 

 見てくれがおかしい自覚はある。自分よりいい地区に住んでいるリリーはもちろん、5軒くらいの近所に住んでいるというクラリスさえも清潔で、サイズの合った服を身に着けているのだってわかってはいる。だから、セブルスはリリーには自分の汚れた姿を触れられるほど間近で見られたくなかった。クラリスはどうでもいいが。

 

『セブルスの、放置され続けて伸びに伸びた髪を切って使おう』。そのアイデアはクラリスから出てきたものだった。

 

「でも、そんなことを勝手にしていいの?お父さんとお母さんにきかなくて」

 リリーは自分の"当たり前"と照らしあわせて疑問に思ったらしい。ふつうの家の子なら髪の毛を両親や大人に切ってもらうものだというのはセブルスもうっすらと知っていた。ここまで長く放ってはおかないということも。

 

 クラリスはううん、と難しそうにうなった。

「ばれたらまずそうだったら、くくっておけばいいんじゃない?セブルス、少しだけ引っ張るからがまんしていてね」

 

 彼女の宣言どおり髪がひっぱられて生えぎわに痛みがした。『少し』なんてものじゃなくこぶし大くらいは持っていかれた感じだった(クラリスはひと房だけ髪を引っ張ったのだが、ほかの髪とからんでいるせいでそっちの根本もいっしょに引っ張られてしまったのである)。

 

 身体をこわばらせて痛みにたえているセブルスに気づいているのかどうか、クラリスはすぐに手を離したようだった。

 

「これが真っすぐにした長さでしょ、それで、こっちはからまってるから短く見える。だから切ってもすぐにバレないとは思うけれど……。セブルスはどう思う?ダメならそう言って」

「ぼくは……」

 どう答えたらいいものか、セブルスはしばしのあいだ逡巡(しゅんじゅん)した。ふつうの子のようにさっぱりとした見た目に突然変わってしまうのはまずい。それは事実だった。だったら現在の状態がいいかというと、それもちがう。(くし)もハサミも何年も入れていないような姿でリリーに会うのは恥ずかしかった。

 だから、(くく)ってわからないようにしてしまうというアイデアは魅力的だった。黒髪なので変化がわかりにくいだろうというのも理由の1つだ。

 

(どうせ()()()は髪なんて近くで見ない)

 セブルスはうんとうなずいた。

 

 

 

 

 セブルスの髪の毛は、陽の光の下でまじまじと見られるのはあまりに恥ずかしい状態だった。特に首のあたりには黒い羊毛の(かたまり)もかくやという程にからまりあっていて、解くのは難しいかもしれない。最後に水に濡らしたのすら、それがいつだったのかをセブルス自身も覚えていなかった。近くで見ると油脂やふけなどで元の黒にうっすら白みがかっているくらいであった。

 ずっと洗っていない大型犬ならこんな感じかもしれない。

 

 リリーは「1回濡らしてから()かした方がいいんじゃないかしら」と言った。その声に見下すような色はついていないようだった。

 

「バケツはある?」「ええ」

 リリーからの確認にうなずいたクラリスは手持ちの肩かけカバンを探って、そこからとりだした小さなバケツをリリーに差し出した。小さな子どもが砂場あそびに使うにはちょうどよいくらいのサイズで、見た目は白く汚れのういたブリキに似ている。

 

 リリーは気づいていないようだが、どう見てもそのカバンに入るものの量はおかしかった。バケツのほかにもはさみが入るような大きさではない。きっと魔法界にあるようなものなのだろう。

(あのカバンも中のものも、もしかしたら魔法界のものなのかもしれない)

 

 クラリスが「そのバケツに入れた水はすごくきれいになるの。生水でも大丈夫よ」と付け加えると、リリーはバケツをクラリスから受け取った。

「川があるといいんだけど」

 水場を探しに行くリリーのポケットから、"ジンジャー"が出てきたらしい『かさり』という音がした。道案内でもしてくれるのだろうか。

 

 ずっと3人でいたせいか、2人だけで残されるとなんとなく気まずい。特にクラリスはセブルスの邪魔ばかりをしてきて、どうしてそんなことをするのかがさっぱりわからない子だった。

 

 クラリスはううん、と悩んでから、カバンをあさってテープらしきものを取り出した。

「何をする気なんだ」とにらむように振り返ったセブルスに対し、彼女はその夜空のような複雑な色の目をぱちぱちと瞬かせた。どうして睨まれているのか、わからないらしい。

 リリーが不在のあいだに良からぬことをするつもりではないようだった。

 

「これはただのテープよ。髪の毛に貼って、その(はし)に合わせるように髪を切るの。そうすれば真っすぐにはなるわ。私は前髪しかやったことないんだけど」

 どうするにしてもまずは()かさないとね、とクラリスは穏やかに言った。

 

 どうやら彼女に嫌われているようではないらしい。だからセブルスは先ほどから気に(さわ)っていたことを尋ねた。

「……どうしてだまってるんだ」

「しゃべってるじゃない、私たち」

「リリーにだ。これからもぼくが魔法のことを言おうとするたびに邪魔する気なんだろう」

 

 彼女はリリーの前だと魔法のことについて口を割ろうとしない。でも、今ならきけると思ったのだ。きっと尋ねてもクラリスだって怒りださない気がした。もしも彼女が怒るような子だったら、"ジンジャー"のすみかにいる時にとっくに怒りだしていたはずだ。

 

「それは……」と彼女が言いにくそうに口ごもったので、セブルスは振り返った。

「なんでリリーに魔法のことをかくす。リリーだってぼくらと同じなんだぞ。どう見てもここは──魔法界なのに」

 

 それでもクラリスはすぐに話し出さなかった。ためらうようにセブルスの方をじっと見つめてから、しばらくしてようやく口を開いた。

「……ええ、そうね。たぶん私たちは魔法界に迷い込んでしまったんだわ」

 

 彼女はセブルスにははぐらかす気がないようで、真剣な表情で言った。

「でも私、リリーには魔法のことを知らせたくないの。だって……。

 もしリリーが違ったら、記憶を消されちゃうわ。今こうしていることも、今日いっしょに過ごしたことも。きっと私と友だちだったことも。全部よ。なにもかも。

 だからあなたもリリーにはなにも言わないで欲しいの」

 

 長いため息といっしょにセブルスの身体から力がぬけていった。

──なんだそんなことか、というのがセブルスが真っ先にいだいた感想だった。

 単なる意地悪であることも疑っていたが、もっと難しかったりわけのわからない理屈かもしれないと思っていたのがバカらしくなった。

 

「そんなかんたんなことなら先に言え」

「リリーの前じゃ言えないじゃないの」

 クラリスはむくれたように言い返してきた。

 

 彼女はずっとリリーの友だちでいたいのだ。仮にリリーが魔法が使えない存在(魔抜け(マグル))であってもそうなのだろう。だからウソをついたりひとの邪魔をしてでも魔法を隠していたかった。

 

「リリーがあんな連中(マグル)と同じなわけがない。絶対に魔女に決まってる!きみだってわかっているはずだ。きみだって魔女じゃないか」

「ぜったいに大丈夫だってわかったら言うわ。だってそうなら、もうすぐ学校からの手紙が届くんでしょう?それからだって遅くない」

 

 クラリスの意見はわかったが、それでもセブルスにとってリリーがマグルである可能性は存在しなかった。だからそんな可能性を考えるクラリスの方が間違いだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 よりによってリリーをあんな連中と同じだと疑うなんて。

 

 セブルスの声に自然と険がこもって、鼻でわらうような息がもれた。

「お前こそただの魔法生物のくせに。手紙なんて届かないかもしれない」

 

 クラリスは頭にきたように眉根をよせて、不快そうな調子を声ににじませて答えた。

「杖が使えるのを()()()というのならね」

 2人は目に力をこめてにらみあった。

 

 そのまま険悪になりかけたところに"ジンジャー"がふわりと宙を舞ってきた。どうやらリリーが戻ってきたようだ。

 リリーの前で言い争いなんてしたくない。

 

 話はそこまでだった。

 クラリスは先ほどまでのにらみ合いがウソだったかのように「おかえり」と明るくリリーを迎えたのだ。

 

「ええ、ただいま!」と言ってリリーはクラリスの隣に並び、水をためたバケツを足元に置いた。それから自分の(くし)を取り出した。

「じゃ、張り切って"釣り糸"にしようね!」

 

 セブルスはぎょっとして勢いよくリリーの方に振り向いた。

「きみもやるの?」

 

 リリーはどうしてそんなことを訊かれたのかわからないとでもいうように、不思議そうな顔をしている。

「ええ。だって2人で協力した方がはやいでしょ?」

 

 リリーに汚れた髪をじっくり見られるなんてあまりに恥ずかしい。

 

 彼女は何も気にしないようにセブルスの頭に両手を添え、前を向かせた。

「ほら、前を向いて。大丈夫よ。痛くないようにするもの。……あ、いえ。ごめんなさい。多分これ痛くなるわ」

 

 (くし)をにぎってものの数秒でリリーは言葉を訂正した。

 

 

 

 セブルスが自分の髪をふと房つまんで、長さをみていた時のことだ。

 

「クラリスの持ってる(くし)ってすごいのね」

 リリーは手に持った弓なりの(くし)をまじまじと見やっていた。

 

 つややかで濃い茶色をしているそれは、ただの木でできている普通のものにしか見えない。それでも髪にあててみるとどういうわけかするすると解くことができた。ふつうの(くし)だと何倍も回数をこなさなければならなかっただろう。

 

「そんなにすごいものじゃないわよ」

 クラリスはそう返して、バケツの水に残りの髪の毛を沈めてからハサミをハンカチでぬぐった。

 

 彼女らはまだ10歳だった。髪を切ってもらったり自分の前髪を整えるくらいのことはあっても、相手の髪にはさみを入れた経験があるわけない。だから刃物を顔に当たりそうな位置にもっていくのは止めようということになったのだ。

 それに、はっきり切ったのだと大人にばれない程度にしなくてはならない。

 絡み合った部分を解いたらそれまでの印象からはだいぶ長めになったので、長く感じる部分を切る、という塩梅(あんばい)に落ち着いた。

 

 結果として、肩よりも少し長めに、そして真っすぐに切ることしかできなかった。それでも特に後ろ側をまっすぐにできたのはいい出来だろう。セブルス1人で切ったら、もっとひどいことになっていたはずだ。

 

「それじゃあ準備してくるわね」

 今度はクラリスが席を立った。「どっち?」と尋ねる彼女にリリーが水場の方向を指さすと、彼女はバケツと切った髪、そして肩からかけたカバンを持って行った。

 

 ちょうどリリーはセブルスの髪をすべて後ろで(くく)ってまとめているところだった。前にたれた髪は切る前よりはましになったが、それでも顔をおおい隠すくらいになので邪魔だった。

 リリーは赤毛の長い髪をしているから、木登りなんかをするときのために何本かお気に入りの髪ゴムを、手首に通して持っていたのだ。

 

「……アイツはうそばっかりだ。君に隠し事をしてる」

 セブルスはおとなしく座ったまま、クラリスの背が見えなくなるのを見計らってそう言った。こうやればリリーだってどんなことを隠しているのか知りたがるはずだ。

 

 セブルスには、クラリスの意に沿わせるつもりなど毛頭なかった。クラリスが何を心配していたかは理解したが、そんなことは起こりっこない。こんなに優しい女の子が"あんな生き物"と同じなわけがない。

 自分だって前々からずっとリリーに話しかけたいと思っていて、どんな風に言おうかと胸の内にしまっていたのだ。結局は向こうから話しかけてきたので、そのプランは幻になってしまったが。

 

 今日話しかけられたのは──クラリスがセブルスに気づいていて、声をかけてきたからだった。

 

 これまでずっとリリーを見ているだけで話しかけることができなかったのは、()()()マグルだろうリリーの姉がいつもそばについて回っていたからだった。彼女がたびたびリリーの魔法の力を認めずに否定していたのはセブルスにも聞こえていた。

 今日正面からまみえたときの値踏みするような視線がひどく不愉快で、下等な生き物のくせに自分がそうなのだと知りもしないペチュニアを、セブルスはすでに嫌いになっていた。

 

 先に帰ってくれたのは喜ばしい。そしてそれは──それも、クラリスが「さきに荷物を持って戻ってほしい」と言ったからだ。

 

「やっぱり何かかくしてたのね」

 リリーが少しあきれたような声で、クラリスが去って行った方に頭を動かしたのがわかった。

 

(さっさとばらしてやろう)

『自分たちは3人とも魔法を使うことができて、ただのマグル(魔法が使えない人間)よりももっと上の存在なんだ』と。それを伝えたかったのにずっと(さえぎ)られ続けてきたのだ。

 

 セブルスが口を開くよりもはやく、リリーは穏やかな口調でつづけた。

「クラリスは意地悪で何かかくすような子じゃない。だから教えてくれるまで待ってるの」

 

 リリーはわかっていて『聞かないで欲しい』というクラリスのために譲っていたらしい。彼女はセブルスの予想よりも、もっとずっといい子だった。

「どうして言えないのかくらいは教えてくれたっていいのに!」と、むくれたような声を出してはいたが。

 

「セブルスはわかってるのね?クラリスがどんなことを隠しているのか」

「知ってる」

 今日一日でどれだけクラリスに邪魔されてきただろう。

 そんな彼女の行動は、リリーの言う通りセブルスにいやな気持ちをさせるためにしたことではないのだと信じられた。

 

 クラリスが魔女だったのもきっとそうだとセブルスは思っていた。杖を掲げるのを目撃する前からだ。それは見た目にきっと魔法生物だろうと思ったからじゃない。

 

──だってリリーもクラリスも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「きみも本当は知りたいだろう?クラリスが何を隠しているか」

「それは……そうだけど。でも」

 セブルスの頭に、クラリスがあまりに暗い顔で目を伏せていたのが不意に思い浮かんだ。

 

『もしリリーが違ったら、記憶を消されちゃうわ』『友達だったことさえ』

 力なく、そう言っていた。

 

「ぼくは……。ぼくも、まだ言わないでおく。アイツが言わないのはきみと友だちでいたいからだ」

 ずっとリリーと話してみたかったセブルスだって同じだった。せっかくこうやって知り合ったはずなのに、なかったことになるなんてイヤだというのは理解できた。

 

 別にクラリスを気にしたわけじゃない、とセブルスは言い訳じみたことを考えていた。リリーがせっかく「クラリスを待っている」と言っているのに無理やりばらしたら、リリーは自分のことを信用してくれなくなるかもしれない。だからだ。どうせすぐに魔法を使わないといけない何かが起こるはずだ。だからそういう事態になるまでの少しの間だけだ。

 

(少しの間だけ、だまっててやる)

 

 

 

 

「──それでね、パパったら押すボタンを間違えて、フィルムが飛び出してきちゃったのよ。フィルムを替えたばっかりだったからママもカンカン。…ああ、写真のフィルムってほら、太陽の光を当てると真っ黒になって使えなくなっちゃうのよ」

 リリーは家族の話をしていた。両親と彼女と妹の4人家族。両親にも姉にも魔法の力はないようだったが、リリーの顔は明るく輝いていた。

 

 あれだけどう話そうかとずっと見ていたリリーと、今こうして普通に話ができているのはセブルスにとってあまりに嬉しいことだった。

 

「セブルスは?きょうだいはいないの」

「いない。……3人家族なんだ」

 あまり自分の家族の話はしたくない。だから自然と口が重くなった。

 

「ゆうべも何か……、──そう、"口げんか"をしてた。仲が良くないんだ」

 リリーにありのままを伝えるには、自分の家はあまりに彼女の家と違いすぎる。どんな風に思われてもみじめな感じがした。

 

「そう」とリリーは残念そうに言った。「……はやく仲直りしてくれればいいわね」

"仲直り"か。

 両親の仲が良かった記憶はない。──いや、もっと小さかった頃はもしかしたら違った気もした。それでも今後、もとに戻るとはとても思えない。だから、リリーにはあまり家族のことを話題に出さないでもらいたかった。

 

「あの2人はけんかばっかりだ。いつも。

 ──戻ってきた」

 クラリスの姿が見えたのでセブルスは話を強引にうち切った。リリーは特に気にする風でもなく、合流したクラリスに成果を尋ねることにしたらしい。

 

「どう?」

「釣り糸はばっちりよ」

 そう返事をしながらも、クラリスはぱちぱちと目を瞬かせてリリーを見た後、セブルスと視線を合わせた。

 

 彼女は『話してないの?』と言いたげに首をかしげた。おそらくはリリーが「魔法って本当にあるのね!」だとか言ってくるかと思っていたのだろう。セブルスが自分に譲ってくれたのが予想外だったらしい。

 

 途中までそうしようと思っていただけに、見透かすような彼女の鼻をあかした結果となったので、彼は唇をつり上げて笑った。

 

 ムッとした表情に変わったクラリスに対して、リリーは2人がまたにらみ合わないようにと明るい声で言った。

「糸ができたのはいいけど、そういうことを訊いたんじゃないわ。わかったでしょ、この髪」とセブルスの方を指し示した。

 

 モップ同然の野良犬のような状態から、ぱっと見では違和感がなくなっていた。細かな点に目をつむれば、ではあったが。

 それでもはるかに良くなったには違いない。

 

「かなり動きやすそうになったわね。『大物釣り』にはぴったり」

 

 クラリスは笑顔で、手にしていた『しなり』の良い枝をまとめて何本か投げ渡してきた。

 

 

 

 

「風がきたわ」とクラリスが手をあげて合図を送ると、リリーが駆けだした。風を受けてみるみる空に上がっていくものに、()をほどいて少しずつ高度を高めた。

 彼らは簡単に枝を組み合わせて()で結んで作ったタコを掲げていた。うようよと回遊している魚群の方に向けて。

 

 あまりの突風で手を離してはいけないので、リリーとセブルスが2人で()をつかんでいた。手が近くになればなるほど、セブルスは耳まで赤くなっているのを見られないようにと面伏(おもぶ)せているようだった。

(……照れてる?)

 リリーは糸の先に集中しているので、気づいていないようにクラリスには見えた。

 

 突風にあおられても『糸』はびくともしていない。ふつうの髪の毛ではありえないほどに。ずいぶんとなめらかな手触りになっていて、セブルスが先ほど試しに切ろうとしてみても歯が立っていなかった。

 そのとき彼はクラリスのカバンの方に視線を向けていたので、姿を消しているうちに何か"魔法の道具"を使ったと考えていたのだろう。正解だったが、クラリスにはそれを明かす気はなかった。

 

 そのクラリスはいま、高台に立って、彼らよりもハーブ畑らしきものに近い場所に陣取っていた。

 リリーには"ハーブ集め役"ということにしてある。それもウソではないが、実際にはもうひと役うけ負っているのだ。

 

 クラリスはそのままリリーから見えないよう、自分の身体でかくすように気をつけながら、杖を振った。

 

 呪文はつつがなく効いて、クラリスの意のままとなったタコが動きはじめる。

 ゆらゆらと空中に留まり、すとんと一瞬おちたかと思うとまた上がる。タコの大きさは、魚一匹がおおよそネコ(手押し車)くらいのサイズだとすると、その半分……車輪くらいだ。

 

 クラリスはタコに集中して操作をするため、刺すような視線を送り続けた。えさに喰いつかせるよう誘導した方がいいと考えたためだ。そのまま擬態した魚群が食いつくのを待った。

 

 巨大な魚群こと"スイミー"はタコを見つけたらしかったが、しっぽから口元まで1匹1匹が順番に身をひるがえすものだから、全体をふり向かせるのは時間がかかるようだった。

 緩慢(かんまん)な動きのあいだによそに注意がいかないよう、クラリスはくり返し杖をふり続けた。

 

 やがて"スイミー"、つまり一番先頭の魚──絵本のように目ではない──が、興味をもつかのように(あご)を何度かタコの方に突き出し始める。

(……かかった!)

 

 今度はリリーたちがタコに巻きついた()をのばしはじめた。ほどいて長くすれば、そのぶん遠くまで誘導できるからだ。

 運のいいことに強風だ。タコはあおられてぐんぐんと高度をのばしていった。計画通りだった。

 

 クラリスは2名に手を振ってみせた。

 これからハーブを集めにいくという合図である。

 

 魚の群れがタコに誘導されてすっかりと離れて行ったと同時に、杖をしまって薬草が生えた一帯に駆け上がった。

 

 

 

 

(あともう少しで全部採れるわ!そうしたら帰れる)

 せっせと手を動かしていた時だった。

 びゅ、と音を立てた突風が、先ほどまでとは反対側から通り抜けて行ったのがわかって、クラリスは顔を上げた。

 

 2人の方をたしかめてみると、タコが急に逆方向に反転して、ぐうんと一気に高度を上げてしまった。セブルスはとっさに糸から手を離してしまったのか、そのままつんのめって後方に投げ出された。リリーは一人でもどうにか踏ん張って糸を操っていたようが、それもそろそろ限界だろう。

 

「ダメだわ!枝に!」

 リリーとセブルスが、魚を警戒して木陰にいたことが仇になってしまった。彼らのすぐ後方にあった木にたるんだ糸が絡みついてしまい、リリーがいくら手元の糸をひっぱったり緩めたりしても外れる気配はない。その間にも幾度となく吹きつける突風が、上空にあおり上げたままのタコをはげしく揺らしていた。

 

 それが"スイミー"の目に留まらないわけがない。その"えさ"に狙いを定めたようだった。

 

(ハーブを集めてる場合じゃないわ!)

 クラリスは急いで荷物をしまった。

 

 そのあいだにも、潜水艦サイズの魚はタコに向けてまっすぐ進みはじめている。そのまま速度をいっさい落とさずに先頭の魚がタコに口先を当て、跳ね飛ばした。なにを考えているかわからないが、食べ物かどうかを調べているのだろうか。

 

 突進されたタコはもみくちゃになって、ついでに枝にかかっていた糸も大きく引っ張られた。いくら強度が上がっているといっても、何をしても切れないというわけじゃない。

 クラリスの顔から血の気が引いていくのと、風がふいにやんだのは同時だった。間もなくタコは力を失って、くたり、と真下の地面に向かって落ち始めた。枝にかかった木のてっぺんから。

 

(……危なかった)

 タコが引っかかったのはそれなりに高い木だったので、枝にぶら下がったままでも2人の存在は魚には気づかれないだろう。

"スイミー"の方をうかがってみると、また突進しようというのか、回頭(かいとう)するために全体で身をくねらせていたタイミングだった。

 

 ばきり、と枝が『糸』に引っ張られて折れた音がした。激しくゆさぶられた枝の方が先に限界をむかえたらしい。

 タコはまっすぐ下に落ちた。

 

 ──セブルスのすぐ近くに。

 

 彼がおそるおそる上空を見上げると、体勢を立て直した"スイミー"がタコの方に飛び込んでくるところだった。うねりを上げて一度上空へと舵を切り、そこから急降下してきたのだ。そのままタコになだれ込むと、すぐそばにいるセブルスもいっしょに押しつぶされてしまいそうだ。

 

 立ち上がって避けるだけの時間の余裕はない。

 今にも魚がタコに殺到しそうになった時だった。

 

「イモビラス!──動くな!」

 高らかな声がセブルスとリリーのもとまで届いた。

 

 

 

 

 

 

 セブルスの目と鼻の先で、"スイミー"の潜水艦みたいな魚群がびしりと動きをとめた。

 まるで作り物に置き換わったかのようだ。身をひねって突っ込んでこようという形のままで、まるで塔のように中空にそびえていた。

 

 クラリスが呪文をつかって先頭の"スイミー"一匹を止めたのだろう。彼女は杖を握ったままで2人の方に駆け寄ってきていた。

 

 リリーの目から魔法をかくすこととセブルスを助けること、両方をてんびんにかけたクラリスは助ける方を選んだのだ。

 

「はやく逃げて!」

 リリーは何が起こったか詳しいことはわからなかっただろうが、そう声をあげた。

 

 クラリスは彼女より先にセブルスの近くにたどり着き、その腕をとって立ち上がらせようとしていた。

「急いで!」

 

(──あぶない!)

 クラリスの後方から、今度は乗用車サイズの巨大魚──最初に3人を襲ったのと同じくらいのサイズ──が突っ込んできたのが見えて、セブルスが彼女を突き飛ばした。

 目を丸くしたままあおむけに倒れたクラリスには、魚たちが泳ぎ回っているのが見えているはずだった。すぐに起き上がろうとはせず、背中を地面につけたままひじを立てて、じりじりと後ろに下がり始めた。

 

 巨大魚はどうやら、動きを止めてしまった"スイミー"を狙ったようだった。大口をひらいて"潜水艦"の胴体を食いやぶるようにして襲いかかり、何匹もの魚たちを丸のみにしたりかみ砕いていった。

 魔法がかかっていたはずの"スイミー"は潜水艦サイズに化けるのをやめ、一匹一匹がてんでばらばらの方向へ散りはじめた。

 

 クラリスが驚いたせいでとっさに魔法の力を弱めてしまったのか、それとも呪文の効果がなくなってしまったのかもしれない。

 

 群れを突きやぶっていった巨大魚の方は、くちゃくちゃと歯をかみ合わせながら上空へ散っていった魚の方を観察しているようだった。

 かみ切った魚の一部がぽとりと地面に落ちたのを、3人とも動けずに見守っていた。幸いにも3人とも魚にぶつかることもなく怪我せずにすんでいる。少し遠いところにいたリリーはもちろん、姿勢を低くしていたクラリスもセブルスもだ。

 

 クラリスはどうにか身を起こしはしたようだが、頭を抱えてその場でうずくまっていた。よくよく見ると彼女は瞬きもせず目を見開いたままで、杖先は狙いをつけられない程に細かに震えている。

 

 明らかに怯えている様子だった。

 セブルスがなにか問うより前に彼女は弾かれるように顔を上げた。いつの間にか巨大魚がクラリスをまっすぐに捉えているようだった。

「イ……イヤ……。いや!!」

 

 彼女は震えたままで、杖を向けて魔法を使うどころか、立ち上がって逃げることもできないでいた。呪文を使えるのは彼女だけなのだから、狙いを別にうつしてから彼女に仕留めてもらう方がいい。

 セブルスは、一番最初に襲われたときにリリーがやっていたことを思い返して、手近におちていた石を魚に投げつけた。だが効果はいまひとつで、魚は感情の読めない目をクラリスに向けたままだった。

 

「クラリス!」

 リリーはいつの間にかクラリスのそばまで来ていて、迷わず彼女をかばうように自分の背中の後ろに押し込めて静かに言った。

 

「クラリス、さっきのをもう一度やって」

 クラリスは震えながら首を横に振った。青色は真っ青になっていて、今にも泣きそうなほど顔をゆがめていた。

 

「できないよ……」

「大丈夫よ」

 リリーは巨大魚を真っ向から見据えたまま落ち着いた様子でクラリスの横にかがみ、杖を持ったクラリスの手をいっしょに握った。

 

 セブルスは声をあげた。

「リリー!きみにだってできる!だってきみは──」

 

「──きみは、魔女だ!」

 

『イモビラス!──動くな!』

 呪文をうけた巨大魚がその場に縫い留められるように固まったその時、リリーのズボンのポケットから、緑の紙のようなものが飛び出した。薄くて小さな人型で、もみの木みたいな葉っぱ。つまりちっちゃな"ジンジャー"だった。

 

 それは3人のすぐ目の前、巨大魚を隔てるような場所にふわりと浮くと、突如弾けるように一気に開いた。まるでたたんでいたビーチパラソルを一気に開くかのように。

 大きなカーペットほどに巨大になった葉は太陽の光をさえぎり、3人も巨大魚もまとめて影のなかに閉じ込めた。

 

 効果はてきめんだった。

 

 巨大魚は呪文の効果を振り切るためか、嫌がるように激しく身をよじらせはじめ、やがてクラリスとリリーは釣り糸を切られた釣り人のように思いきり後ろ側に転んでしまった。同時に、魚は逃げるかのように一瞬で彼方に泳ぎ去って行った。"ジンジャー"は、魚のあとを追いかけるように風に乗って飛ばされていった。

 

 あとに残ったのは彼ら3人だけと、食い散らかされた魚の残骸と、壊れたタコだけだった。

 3人はぽかんと口を開けて、お互いに何を話すでもなく顔を見合わせてしまった。なにが起こったのか整理ができなくて、何を言うべきか言葉が見つからなかったからだ。

 

 戻ってくる魚もいなければ、ほかにも来るものもいない。

 

 やがて、変化もないのを察しただろうクラリスが、杖をおろしてポケットにしまったのが見えた。

「リリーってなんだか王子様みたいね」

 満面の笑みを浮かべたクラリスに、ふふ、とリリーも笑った。

「"お姫様"って言われるよりも嬉しいかも。……あら?」

 

 リリーは何かに気づいたかのように、食いちぎられて地面に落ちた魚の残骸に近よった。

 骨と身と、あとは青いガラス片みたいなものが散らばっている。

 何枚かは割れも欠けもない無傷で、手のひらサイズくらいだった。1枚だけだと貝の片側にも似た形だったが、魚の身にたくさんついているのを見るに(うろこ)らしい。どれもが日光をはじいてきらりと光っている。

 

 リリーはそのうち3枚を拾いあげた。

 1枚はセブルスに、1枚はクラリスに渡して、リリーもまた1枚かかげてみせる。

 

「これ、今日の冒険の思い出に持っていよう。"仲間"の証ね!」

 リリーの明るく輝くような笑みにつられて2人も笑顔をうかべた。

 3人がうなずき合うと、冷たく硬いすりガラスのような青が、陽にすかされた透明な海のような色味に瞬いた。

 

 

 

 

 帰り道は意外と近かった。丘の上から3人が抜けてきたらしき小径が見えたので、どうやら無事に帰れそうだ。

 

「……ねえ、それじゃあクラリスは魔女なのね?」

「きみも魔女だ」

 リリーがクラリスに訊いたのを、セブルスが代わりに答えた。

 

「まだ魔女かどうかわからないじゃない。ほかの家族に魔法族はいないんでしょう」

 クラリスはそう主張したが、聞きいれる必要はない。

 

「そうに決まってる。ぼくにはわかる。ぼくはずっとリリーを……見てたから」

 最後の方はぼそぼそとしたしゃべり方になってしまった。リリーに知られたらどう思われるかわからないからだ。

 

「え?今わたしのことを何か言った?」

 リリーの耳には届いていなかったようである。

 

「えーっと『セブルスはリリーをずっと見──』」「やめろ」

 セブルスは真顔だった。

 

 クラリスが忍び笑いをもらしたのを見つめてからも、リリーはよくわからなそうに首をかしげていた。

「何?」

「なんでもない」

 セブルスはクラリスを睨みつけてから、むすっとした言い方で話をうち切った。

 リリーにはわからないままでいて欲しい。

 

「そう?」と答えてから、リリーは続けた。

「──それじゃ、セブルスも魔法使いなの?」

「あたり前だろう」

 そこでいちど会話がとぎれた。最初に通ってきたトンネルに差しかかったためだ。

 

 セブルスは、クラリスに先頭になるよう通路の奥を指さした。このなかで杖を持っていて呪文の使い方を知っているのがクラリスだけだからだ。

 でも、彼女はうんとはうなずかなかった。ひきつったような顔をしている。

 

 リリーは心配そうな顔で、そんなクラリスの近くまでやってきてまた手をつないだ。

「こわいの?だったらわたしも一緒に行くわ。さっきみたいに」

 

「──ねえリリー」

 手をひいて歩き出そうとしたリリーが「どうしたの」と振り向いたのを、クラリスは唇をきゅっと横にむすんでからその目をのぞいこむようにして言った。

「今日のこと、だれにも言わないでほしいの」

 

 リリーも真剣な目で真っ向からクラリスを見つめ返した。

「わけを教えて。どうしてクラリスは私にもそれをかくしてるの。どうして私はそれをだれにも言っちゃダメなの?」

 

 代わりに答えたのはセブルスだった。

「ただのマグルは魔法のことを知っちゃいけないんだ。『家族』以外は。もし知ってしまったら記憶を消さなくちゃいけない」

「私……リリーに私のこと、忘れてほしくない」

 リリーに不思議な力、つまり魔法の力が芽ぶく前から友だちだったクラリスにとって、リリーがマグルだろうが魔女だろうが友だちには変わりないのだろう。

 

「──でも絶対にリリーは魔女だ」

 セブルスがじっとクラリスの目を見ると、彼女は諦めたようにしぶしぶと言った。

「そうね。私もそう思ってるわ、実際のところ」

 

 

 

 

 

 遊び場の近くに戻った頃にはうっすらと陽が傾き始めていた。3人はリリーの自宅先に一度寄って、そこで解散することになった。クラリスがペチュニアに持って帰ってもらったバスケットを受け取ったのを横目に見ながら、セブルスはリリーの家の周囲がどんな風だかを観察していた。

 もうすぐ太陽が完全に地平線の向こうに隠れてしまいそうだった。

 密度の濃い一日を送った割には、あの場所から戻って来てから日が落ちるまでがやけに早かったような気がする。もしかしたらあの場所にはなにか魔法のちからが働いていたのかもしれない。

 

 2人は帰り道をいっしょにしていた。クラリスの言が事実ならば、クラリスの家はセブルスの家のすぐ近くのはずだ。

(……ほんとうに近所に住んでるのか?)

 セブルスは疑っていた。

 

 スピナーズ・エンド(炭鉱と工場の地域)は極貧の地区だ。そこに住んでいる女の子がこんなに清潔でいられるものだろうか。

 彼女はなにせ"うそつき"なのだ。彼女の都合をよくするためというよりも、リリーの記憶を守るためにそんな風にしていた。だからリリーの姉に抗議するために『自分も近所に住んでいる』なんてウソをついたりしそうじゃないか。

 

 セブルスの予測に反し、クラリスはセブルスの先導を待たずに自分で帰り道を選んでいた。道のりにおかしいところは何もなく、明らかにリリーの家に通いなれているようだった。

 

 道すがら、彼女は1本の小さなガラス瓶を取り出した。中には少し白みがかった液体が入っている(セブルスは見た事がなくてわからなかったが、リリーがいたならば彼女は「小さな香水瓶みたい」と言っただろう)。

「服に傷が結構ついているわ。身体にも傷がついてたら、それも消せる。……上からかけちゃいましょう」

 彼女がぱぱっと何滴かだけそれを振りかけると、傷の部分だけはごまかしがきいたようだった。きれいになりすぎてはまずかったので、セブルスは内心で胸をなでおろしていた。

 

「これも魔法の?」

「一応ね。ほんのちょっぴりしか効果はないの。今日材料がとれて良かったわ」

 セブルスは彼女の言葉に引っ掛かりを覚えた。

 

「きみは薬草を『頼まれた』って言ってなかった?"お手伝い"とか」

 彼女は少しばつが悪そうにした後、不敵なかたちに唇をつり上げて穏やかに笑った。

「頼まれたわよ。──私自身にね」

 

 道理でトラブルに見舞われるたびに、彼女がちょくちょく「もう帰ろう」と言い出すわけである。ずいぶん臆病かと思ったら、友達を自分のせいで危険な場所に追いやりそうになっていたせいだったとは。

 

「お前って本当にうそつきだな」

 

──それでもきっとそのウソは、セブルスからペチュニアを追いはらうためだった。

 

 

 

 

「私の家はここよ」とクラリスは家の前で立ち止まった。

 セブルスにもよくよく馴染みのある、あまりに見慣れたドブ川の近くだった。

 掘っ立て小屋のような周囲の建物とは一線を画すほどに、きれいな見た目だった。道路から家までは芝生になっていて、人がひとり通れるくらいの石畳がまっすぐ道路と玄関をつないでいる。

 何段かのタラップで上がっていける木製の玄関ポーチは、どこも割れたり砕けたりしていないようで、小さめのブランコさえ設置されていた。

 建物自体もそこそこ大きい。玄関ドアを真ん中にして、窓ガラスがきちんとはられた大きな窓が左右両方に据えられるのが見えた。中の様子はカーテンが閉まっているのでうかがい知れない。

 

 このあたりに住む人間なら盗みに入りそうな見た目であった。おまけに、敷地内に入った途端ドブ川の悪臭を感じなくなった。

「もしかしてこれにも魔法がかかってるのか?」

「そう。許可した人以外は入れないの」

「魔法生物の家のくせに」

「ハーフよ。魔法族のくせに、友だちをそんな風にしか言えないの?」

 

 どうやらクラリスは、魔法生物と魔法族とのあいだに産まれた子どもらしかった。いわゆる"半人間"というやつだ。セブルスにさずけられた知識によると、異種族の血を引いた魔法族はたびたびいるらしい。

"半人間"はマグルよりはましだが、純粋な魔法族よりは劣っていると聞いたことがある。

 

「……ふん。ぼくが友だちになって()()()んだ」

 さすがに友だちになったということ自体を否定する気は、セブルスにもなかった。

 

「失礼なことを言っちゃった時は『ごめんなさい』って言うものよ」

「うるさいな」

 クラリスは半人間のくせにお姉さんぶった言い方だった。

 

 

 

 

 

 

 クラリスはセブルスの態度にすっかり呆れてしまった。

 ずいぶん偉そうな物言いをするものだ。

 

「そんな言い方だと友だちをなくすわよ」

 そのまま肩をすくめてからタラップに足をかけた。

 

「待って」

 セブルスは一番下の段にあたる、石畳のところにとどまったままでクラリスの背中に声をかけてきた。

 

 まだ何か用事があったのだろうか。

「なあに?」

 クラリスが振り向くと、彼はさっきリリーに渡された自分の分の青い鱗を差しだしてきていた。受け取ったときはうれしそうだったし、帰り道でも手の中でもてあそんでいたのに。

 

「──ぼくはいらない」

 クラリスはすぐに返事ができなかった。

 

 セブルスの瞳になんの温度も宿っていないことに気づいてしまったからだ。今日一日のことを忘れてしまったかのように、まるで仮面か何かをつけたかのような無表情になっている。

 普通はそれ──つまり"仲間の証"を手放すということは、「自分は仲間じゃない」と宣言したようなものだ。「うれしそうにしていたのはウソだったのか」と思うものなのかもしれない。

 それでもクラリスはそうは受け取らなかった。裏切られた気にもならなかったし、不満にも思わなかった。むしろ、どう言葉をかけていいものなのかわからなかった。

 

 クラリスはしばらく何か声をかけてあげたくて口を開けたり閉めたりしたが、ふさわしい言葉は何も思いつかなかった。その間にもセブルスはずっと鱗を差し出したままで、やがて『早く受け取れ』と言うように一歩前に出た。

 

 そうしなければまずいのだろう、きっと。

 

「だったら私が"預かって"おくわね」

 結局クラリスはそのまま"証"を受け取って、少しさみしい心地のまま笑いかけてあげることしかできなかった。

 

 目を(みは)ったセブルスが、今度は自分も何か言いたげに口を開こうとした。しかしなにかを訴えるよりも前に、すぐそばにある自宅に目をやって、思いとどまったように首を横にふった。

 だから次に彼ののどから出てきたのは「じゃあ」と別れを告げる言葉だけだった。

 

「ええ。じゃあまたね」

「……うん」

 セブルスは小さくうなずいて、クラリスが玄関のカギを開けてドアの向こうへ滑り込んで行くまでを、ずっと見ているようだった。

 

 

 

 

 




原作でも次のシーンで髪の毛をガタガタに切ってたし、ままえやろ。

今日のハイライト:やっと「きみは魔女だ」を言わせてもらえたセブルス
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。