セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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2025/4/12 一部微修正済み


第一の試練 スリザリン寮2(修正済み)

 

 

 

 

「やっぱり名前がわかるものなんて、ドアに付いてないわね……」

 

 クラリスを守るように先行しているリリーがそう言って、緊張しているのかごくりと唾を飲み込んだのがわかった。辺りがまるで授業中のように静かなものだから、リリーの密やかな声でもひどく目立つ。

 彼女の後をついていくクラリスも、『うっかり大きな音を立ててしまったら』と胸がいやな感じにどきどきするのを覚えていた。

 

「ハッフルパフ寮の方も同じよ。ドアがワインの大樽みたく丸いけど、あとは同じ。グリフィンドール寮は?」

「廊下の感じはスリザリン寮(ここ)とそんなに変わりないわ。……私たちの方のボードには部屋わりが貼ってあったけど、手書きのメモみたいだったから生徒が貼ったんじゃないかしら。ここの寮でも同じかはわからないわ」

 

 2人は顔を見合わせてうなずきあった。やはりどこかにあるボードを見てみるしかないかもしれない。ここに来るまでに女子寮入り口の近くでもそういったものがないか探してみたが、見当たらなかった。

 

「でも、部屋わりがあるんだとしたら普通は入り口の近くに置くものなんじゃないの?」

 

 みんなに読んでもらわなくてはいけないものだったら、誰か立ち入るかわからないような奥まったところには置かないだろう。毎日寮生全員が通るような場所を使うのではないだろうか。

 

 そう疑問をもったクラリスに対して、リリーは『ぎい』と床板が音を立てたのをそうっと避けてから、ひそひそ声で答えてきた。

 

「入学してすぐだったら、自分の部屋を覚えていないから入り口の側にあるかもしれない。でも今はどうかしら。『授業をする教室が変わったお知らせ』とかの方が大事だと思うわ。みんなが見なくなったものは奥に移動しちゃっててもおかしくない」

「グリフィンドール寮はどうしてるの?」

「それが、男子も女子もぜんぶ談話室のボードに貼ってあるのよ。誰でも見えるようなところに!女の子は男子寮に入れるけど、わざわざ男の子の部屋を訪ねたりしないのに」

 

「わからないわよ。上級生の女子はするかも」

 ハッフルパフでは見たことがある。だからクラリスが「ふふふ」と笑ってみせると、リリーは少し顔を赤くしたようだった。心当たりでもあるのだろうか。

「……私、そういうのはまだ分からないわ」

「私も」

 

 女子の親友と同じくらい好きな男子というのがいたとしても、それは恋ではないらしい。そのくらいはわかるが、恋がどうこうと話せるような友だちがクラリスには乏しいので、あまりうまくイメージできなかった。

 

「奥の方って貼り紙をするようなところ、あったかしら……」

 

 ハッフルパフ寮もそうだが、寝室に続く廊下はそこまで長大ではない。ざっくりとした計算で女子が125人、それらが基本は5人でひと部屋使う

(余談だが、セブルスの寝室はアルファベットの最後の方で余りものが集まっているので4人だった)。

 

 つまり、使われているのは25室分くらい。多く見積もって30室くらいだとしても、端に行くまで10分もあれば間に合うはずだ

 

「大き目なホテルとかだったら1フロアに30室くらいあってもおかしくないわ」

 そう結論付けたリリーに、クラリスは「ふうん」といううなずきで返答した。『ホテルに泊まる』『旅行に行く』だなんて贅沢は、生まれてこの方したことがない。

 

 そのまま一本道を進んだが異常なことは何もおこらなかった。相変わらず廊下どころか建物全体がひっそりと静まり返っているかのようだ。まもなく2人で廊下の奥の方にたどり着けたので、クラリスはほっと息をついた。

 

(あとは部屋わりを確かめて戻るだけ)

 

 なんとなくリリーとつないでいた手を離して、クラリスはそのままボードに貼ってあるものに近寄った。

 

 いちばん奥の壁はほとんど暗がりになってはいたものの、壁づけのランプに照らされて何枚か貼ってあるのは判別できる。そのなかに大き目な地図のようなものがあった。

 クラリスが目をこらしてみると、どの部屋に誰がいるのかがはっきり書かれているのがわかった。読み取りやすい流麗(りゅうれい)な文字だ。

 

 しかし、2人は困惑したように目を合わせた。

 

("Ada(エイダ)"なんて名前、どこにもないわ)

 姓にも名にもそれらしいものは見当たらない。そこに書かれている人数をかぞえてみても、おおよそおかしなところはないように思える。

 それが愛称、クラリスが"リズ"と呼ばれるのと同じものだとしても、"Ada"という文字列につながりそうな名前はなかった。

 

 

 

(──まだ戻って来ない?)

 どんなに長くても廊下を往復するだけなので、10分もあれば2人とも戻ってくるはずだ。その倍以上の時間が経ったのに2人の姿は見えるどころか、何の物音すらもしない。

 

  予想できなかったことが起きているのだとは察せられても、それが何なのかまではセブルスにはわからなかった。たとえば女生徒の誰かに見つかったとしても、なにか話し声なり物音くらいはするはずだ。

 そうでない場合だと、『後ろから音もなく忍び寄られて何か呪文をかけられた』なんてことはありうる。手練れの生徒──くだんの"Ada(エイダ)"のような人物だったらできるのかもしれない。

 

 いやな予感が背中にはりついているような感じがする。セブルスがもう一度手の中におさまっている杖に目を落とした、その時なんとなく空気が動いたような気配を感じ取った。

 

(男子寮か?)

 

 ややもして、靴音のようなものが耳にとどき始めた。誰かを起こしてしまうほどでないはずのそれは、無人の空間にひどく響いて聞こえる。

 

 すぐに男子寮の出口、階段の上に姿を見せたのは、今いちばん会いたくない人物だった。

「おや」とどこか冷たさのような、普段よりいっそう見下すような声色と表情をしている。もちろんそれはプラチナブロンドの髪の監督生、ルシウス・マルフォイだった。

「夜更けに何ごとがあったかと思えば……。誰かに見張りを頼まれでもしたのかな、"半純血プリンス"」

 

 余裕ぶったしゃべり方になってはいるが、ぴりぴりとした不機嫌な空気をまとってでもいるかのようだった。深夜もとうに過ぎているのだから、寝ていたところを起こされたとみるべきだろうか。

 

(だったら、誰に?)

 

 自分たちが今夜やっていることと無関係とは思えない。あまりにもタイミングが良すぎるじゃないか。

 

 ──2人がもどって来ないことと何か関係があるのか?

 

 できる限り心のなかに危惧を閉じこめるようにして、セブルスは壁に背中をあずけたままで返答した。

「なにか頼まれたわけではないです(むしろ頼んだ側だった)。監督生こそ早起きなんですね。まだ早朝練習にはずいぶん早いようですが」

 マルフォイが片眉をぴくりと跳ねあげたのが見えた。

 

 先日のシリウスとの会談からこっち、恐らくはセブルスはマルフォイ家派閥(グループ)からブラック家派閥(グループ)へと移動したような扱いになっているようだ。べつに明言されたわけでもないが、ナルシッサ・ブラックやその下についているようなグループから話しかけられることが増えた。

 

 どちらのグループに属していても、結局は純血主義主戦派のうちなので大きくは変わらない。ただし、どうもブラック家の方がもっと純粋に純血主義を信奉しているような印象だった。『聖28一族のみ純血とすべし』なんて声高に言うような人までいる。

 

 それはセブルスとは相いれない方向だ。だからこれまで以上に内心を見せないように気を配らなくてはならなくなった。

 

 とはいえ今までのグループと一緒にいることもあるし、マルフォイ家派閥に残すことになったトーマス・ヤックスリーも同室なので、これまで通りだった。彼が聖28一族なのは確かなので、誰にも何も言われなかった。

 

 そういう中でルシウス・マルフォイもこれまでよりもほんの少し、セブルスに話しかけてくるようなことが起きるようになった。それまでは直接口を利くことなんてほとんどなかったのに。ナルシッサ(ミス・ブラック)と仲が良いようなので、彼女への付き合いというのが大きいかもしれない。

 

 マルフォイは嫌味っぽく応じてきた。

「君には身分の高い者への敬意というものが欠けているな。それとも足りないのは常識か……」

 この男に目をつけられて良いことはない。さっさと追い払うか、何のために起きてきたのかを聞き出すかしたいところだ。

 

 セブルスがもたれていた壁からまっすぐ立とうとしたその時、足首になにか当たったのがわかった。ちょうどマルフォイからは見えない角度だ。

「どうかしたのかな?」

「別に、なんでも」

 

 平静を装って返事はしたものの、かなり気色が悪い感触がする。

 足首の方からなにか、ぐにょぐにょと柔らかいものが這い上がってきているようだった。気持ち的なものではなく、明確になにかの物体だ。

 セブルスの背後にある女子寮の入り口と関係があるのだろうか。

 

 腰のあたりまでたどり着いたそれを、杖を持っていない方の手を後ろにまわしてつかんだ。鉛筆を3本くらい束ねたらこのくらいの太さだろうか。その小さく細長いものは簡単に身体から離れた。

 

 マルフォイは表情を変えずに応じた。

「何もないのなら何よりだ。実は女子寮の方にはいま、罠がしかけられていてね」

 

 ぎょっとしたセブルスが思わずマルフォイの目をのぞき込むと、彼はうすい唇を横に引き延ばすようにして、どこか虫か何かをいたぶる時のような表情をしていた。

 

「罠、というのは……」

 勢い込んで質問をしようというセブルスを制するように、マルフォイは寮の出入り口から離れた一角を指し示した。

「そこにいてうっかり巻き込まれても『こと』だ。長い話はソファに掛けてからしようじゃないか」

 

 セブルスは歩き出す前に考えをめぐらせた。

 

 ──落ち着け。もしも手の中のこれが"罠"なのだとしたら、もっとマルフォイが何か反応を見せるはずだ。彼の考えというのはひどくわかりにくいところがあるが、おそらくは本当に気づいていないのだろう。

 

 真っすぐ彼を見たまま数歩まえに進むと、彼もこちらに背をむけてソファの方へ真っすぐ進みはじめた。

 

 セブルスがちらっと女子寮の入り口を確認してみても、何かおかしなところはない。手の中のものも確認してみたが小さな蛇1匹だった。いつの間にか長い胴体をセブルスの腕に巻きつけるようにして、大人しくしていた。

(毒はなさそうだ)

 罠にするなら毒の強いものにするか、大きなものになるだろう。

 

(もしかしてリリーかクラリスが蛇を出したのか?)

 "蛇出でよ(サーペンソーティア)"の呪文なら彼女たちでも使えるだろう。なにか助けが必要なときに魔法をうつことになっているのだから、この蛇がS.O.Sの合図なのではないだろうか。

 音をたててはいけないこの状況では悪い手ではない気がする。合図がセブルスに届くまでに時間がかかる以外は。

 

 もしそうなのだとすれば、2人はやはりその"罠"とやらに何かされたのかもしれない。

(聞き出さないと)

 蛇をこっそりとポケットに入れて、セブルスは何食わぬ顔でマルフォイの指示する対面のソファに腰かけた。

 

 ばきり、と暖炉のなかで薪が音をたてたのが、がら空きの大きなスペースにはひどく響いて聞こえる。

 

「以前から気になっていたのだが、君はブラック家とどうやって接点を得た?」

 口火を切ったマルフォイは、明らかに関係のない話題をだしてきた。

「罠についてじゃないんですか」

「ものごとには順序というものがある。さきに確認が必要なのだよ」

 それが本当なのかどうかすら判断がつかない。それでもマルフォイをどうにか話す気にさせなくてはならないのだ。余計なことを言わないようしながら、彼の話につき合わなくてはいけない。

 

 セブルスは『面倒なことになった』と思いながら答えた。

「偶然知り合いました。……身分とか、よくわからないようなところで」

「ポッターのところか?」

「いいえ。ぼくはポッターのことはよく知らない」

 事実である。

 セブルスにとってジェームズ・ポッターは『スリザリン生としょっちゅう喧嘩をしているやつ』『セブルスに不信をもち続けていて友だちを奪おうとするやつ』だ。直接話したことだってほとんどない。

 

「社交の場でも、ポッターのところでもない、か……。それでブラックに引き抜こうとするとは、珍しいこともあるものだな」

「事実ですので」

「もう一人、あのハッフルパフ生も同じかな?」

「わかりません」

 

 当然うそである。スリザリン生に、しかもその親玉には幼なじみ2人のことを知られたくはない。また会えないようにされてはたまったものじゃないからだ。

 リリーについては尋ねてこないということは、彼女のことは隠し通せているのだろう。

 もしかしたら今夜で発覚してしまうかもしれないが。

 

 ふむ、とマルフォイはなにか考えを整理するかのようにつぶやいて、目線を上にやった。

「……それより、罠って」

「まあ、待ちたまえ」

 ()えざえとしたプラチナブロンドを撫でつけるようにしながら、彼はセブルスを制した。

 

「今はともかく、来年にはシリウス・ブラックの弟が入学してくる。もしも彼が"きちんと"スリザリンに組み分けされた場合、上級生としてそちらもどうにかしないといけなくなるな。君にふさわしいとは思えないが」

「ぼくは……。シリウスで手一杯です」

 

 べつにブラック家がどうこうとか、そんなところに深くかかわる気なんてない。

「ああ。君の涙ぐましい努力はわかっているとも。シリウス・ブラックを我らが純血主義に引きもどすという」

「別にそういうわけじゃ」

 

「そうでもなければ、グリフィンドール生のそばになど君を置いてはおけないのだよ。相手がいくら名だたる家系でもだ」

 まるで『そういうことにしておかないとお前に許可を与えないぞ』と脅されたようなものだ。相手はスリザリン生の大多数に命令できる立場の監督生なのだから。

 意味はセブルスにもなんとか読み取れたが、この男が何を狙っているのか全くわからなかった。

 

「どうしてそんなことを」

「なに、上級生としての助言だとも。身構えなくていい」

 怪しげな勢力の"ボス"にそう言われて「はい」なんて素直に受けいれるわけがあるか。

 

 ──こっちは罠について聞き出さなくてはいけないのに、どうでもいい話を長々と続けようというのだろうか。

 

「だったら、そろそろ本題を」

「君はせっかく『上級者と会話をする機会を得た』という意味をわかっていないようだな。君のような下級の者がじかに口を利くことなど早々できないというのに」

 

 たしかに、階級差が違いすぎるのでほとんど会話することなんてない。前回の"引き抜き"でもマルフォイとやりあっていたのはシリウスだけだった。そう考えると1対1で会話するとはずいぶん出世(?)したものである。

 

「君はナルシッサ・ブラックをどう思う」

 何を質問されたのかよくわからず、セブルスは「はい?」と訊き返した。

「ミス・ブラックですか?ええと……よく知りません。おきれいな……あー、上級生の女子だとしか」

 

 シリウスも見目が整っている。彼が言うには『上流階級は能力をどん欲に求めるので、頭角をあらわした者と結婚したがる。そして見た目がきれいだというのも能力の1つ』らしい。シリウスを見ていると、確かに見た目の良さのおかげで周りにいろいろと許してもらっている気がする。

 

「ナルシッサに迷惑をかけないようにしてもらいたいものだな」

「それは……あー、シリウスに言ってください」

 

 そのほかにも、セブルスがたびたび本題にうつろうとするたび、マルフォイは別の話題をだした。

 こうまであからさまに話を逸らされると、彼がわざとやっているのは間違いない。イラつきから眉間にしわが寄ったセブルスに対して、ますます尊大さを増した笑みを浮かべたようだった。

 

 やはり、ただの嫌がらせのようだ。そんなことに付き合っていられない。セブルスはソファから立ち上がろうとした。

 

「話すつもりがないのなら、ぼくは寝室に戻ります」

 その"罠"とやらと自分は無関係だ、と見せかけるため、セブルスは敢えてそう予告した。

 マルフォイはセブルスがその"罠"と関係していると疑っているようだ。彼の狙いがわからない以上は、疑いをそらせるならそらしておきたい。

 もちろん本心ではない。2人を放置するつもりなんてないのだ。

 

「いいのかな?"罠"について聞かなくても」

「監督生はそのお話が好きでないようですので」

 ふん、とマルフォイはつまらなそうに鼻を鳴らした。少しでもやり返すことができたらしい。

 

「──最近、どうも一部のスリザリン生が物騒なことに関わっているようでね。なにか危険な魔術を研究しているとか」

 ようやく本題に入るつもりになったのか、マルフォイは感情のわかりにくい真顔になった。たたずまいを正した彼にまっすぐにその灰色の目を向けられると、雰囲気が一気に重くなった感じがする。

 

「詳しいことは君に知らせるようなことではない。しかし我らの同胞がそんなことに関わっているなど、外の耳に入っては大変だとは理解してもらいたいものだな」

 

 彼は『君はそのグループを知っているか』とは確認してこなかった。まさか『そのグループに入っている顔ぶれを知っている』とでもいうのだろうか。セブルスがそこに加入していないというのも。

(まさか、この人は例のグループに関係があるのか)

 少しばかり飛躍した考えだったが、セブルスは疑念をいだいた。

 

「もっと重要なのは、どうやら彼らのことを知ったスリザリン外の生徒がいたらしいことだ。どういう手段でか、禁じられた森にいたらしい。スリザリン生も、そうでない生徒もだ」

 シリウスとジェームズ・ポッターのことだ。

 

 いやな汗がぶわっと背中からにじむような感じがした。まさか彼らだとマルフォイにはバレているのだろうか?シリウスは「暗がりだったから顔は見られていない」と言っていたが、なにか特殊な魔法を使われていたことだってありうる。魔法は奥が深くて、自分たちでは知らないこともあまりに沢山ありすぎた。

 

「監督生としてはそんな危険な活動を許すわけにはいかないのでね。夜間にうろついている生徒を捕らえるために対処することにした」

「スラグホーン先生は知っているんですか」

「もちろん、すぐにご相談申し上げたとも」

 

 これは嘘ではないだろう。マルフォイなら適当なことを言って先生を丸めこむことも簡単なはずだ。彼ならそれだけの能力はある。

 あるいは、『スラグホーン先生が実は死喰い人にかなり協力的』なんてこともありうる。こっちはセブルスにとってあんまり考えたくない可能性だった。

 

「だから罠を用意した。

 "罠"と言っても、けがをしたり死んでしまうような危険なものではない。ただ、夜間に廊下の奥にまで行ってどの寝室にも入らず引き返すような生徒は不審だろう。友人に用があっても寝室にくらいは入る。そういう場合に作動するようになっている。

 仮にかかったのがスリザリン生であっても、怪しげな動きをするのならば危険人物かを疑わねば」

 

 だとすると、リリーとクラリスの2人はこのままだと見つかってしまいそうな状態なのだろう。

 急いでどうにかしなくちゃいけないのに2人は動けず、セブルスにも手立てがない。追い立てられるような焦りを覚えて、セブルスはマルフォイを睨みつけて再度尋ねた。

 

「どうして、わざわざ罠があるなんてぼくに」

「その話に入る前に説明すべきことがある。まだ口を閉じていたまえ」

 この"話しあい"の主導権はこの男にあるようだった。"罠について知らなければならない"という弱みを、セブルスが握られているからだ。

 

「さて、どこまで話したか……。そうだ、夜に出歩いている生徒だったな。

『そういった夜間外出できる生徒』ならば、危険なグループがいると聞いてここ(スリザリン寮)にやって来る可能性がないでもない。禁じられた森よりは()()()()安全だからな」

 つまり罠とやらは、シリウスやジェームズをねらって設置したものなのかもしれない。問うようにセブルスが視線を向けると、マルフォイは大仰にうなずいた。

 

「──私としては"彼ら"を排除しようとは考えていない。何か面白いものを見つけてくれるかもしれないだろう?何か見つかれば、罰則にならないよう取り計らってもいいかもしれない」

 

 もしかして、マルフォイは今罠につかまっている生徒がシリウス(とジェームズ)なのだと勘違いしているのだろうか。それでセブルスが見張りをしているとでも判断した?

 シリウスがいくら校則を守るつもりのないやつでも、さすがに女子寮には入れないんじゃないだろうか。それとも何か、セブルスが気づかない手段でもあるのか。

 

「──罠に何かかかったら私のところで分かるようになっている。おかげでこんな時間に起床する羽目になった。私に何か言うべきことがあるのではないかな」

「それはそれは。……お気の毒に」

 マルフォイはこんな時間にたたき起こしたセブルスたち一派にイラついているのだろう。それでもセブルスは知らんぷりを決めこんだ。そうするしかできない。

 

「どうも下層民というのは、ひとの気持ちを読みとる能力に欠けるものらしいな」

上流階級(アッパークラス)の人ほど難しい言い回しはできませんので」

 ずいぶんとストレートな嫌味を言われたが、セブルスは負けじと言い返した。

 いくら相手が格上だろうとも、こんなところで退(ひ)いてはいられない。こんなヤツにいいようにされてたまるか。

 

 マルフォイはしばらく観察するような目を向けていたが、やがて気取ったように口元に弧をえがいた。

「──さて、君が何も知らず、これ以上興味ぶかいこともないのなら、女子寮を確認しに行かなくてはならないな」

 

 はっとしたセブルスが杖を構えるよりはやく、のど元にマルフォイの杖先がつきつけられた。抜くようなそぶりは全くなかったのに、どこに隠し持っていたのだろうか。袖のなか?

「話はまだ終わっていないぞ、無礼者」

 いっさい笑っていない灰色の目だった。

 

「なぜ君にこの話をしているか。むろん……、少々困ってしまってね。つまり良家の跡取りともあろうものは、深夜の女子寮には立ち入りがたい。──そこで」

 何か言いたいことがあるような、わざとらしいしゃべり方だった。

 

「罠を君に調べてきてもらうことも検討しているが、君はどう考える?」

 予想もしていなかった申し出に目をまるくしたセブルスを、マルフォイは試すように見下ろしてきた。いったい何を企んでいるんだろう。

 

「……ぼくでは入れない」

「安心したまえ。少々手荒だが"デパルソ(しりぞけ)"は得意でね」

 要するに『呪文で宙をすっ飛ばしてやる』という意味だろう。そんなことで入れるものなのだろうか。

 

「監督生の女子やミス・ブラックに頼めばいいことだが、こんな時間に起こすのは少々……なんと言ったかな、そう、"気の毒"だろう?」

 あてこすったように言ったマルフォイは、その灰色の目をじっとセブルスに向けた。そこには何の温度もこもっていない感じがした。

 

「これは"君への特別な配慮"と呼ぶべきものだ。だから代わりにひとつ、君に協力してもらいたいことがあるのだが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




蛇いでよ(サーペンソーティア)が謎によく出てくるなこの小説…

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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