セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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2025/4/16 一部修正済み


第一の試練 スリザリン寮3(修正済み)

 

 

 目の前の上級生が言っているのは簡単な取引だった。

 つまり『罠にかかったものを黙っていてほしければ、見返りとして何がしかに"協力"しろ』という意味だ。

 

 セブルスが『罠にかかった何者かと自分は無関係だ』と言えば、飲む必要はない。しかしそれはリリーとクラリスの2人を見捨てるということになってしまう。そんなこと、できるわけがない。

 

 ルシウス・マルフォイはいったい何を要求しようというのだろう。

「"協力"って……。何に、ですか?」

「なに、そう難しい話ではない」

 

 静まり返った談話室のなか、暖炉の火と2人の話し声だけが壁に吸いこまれていくように消えていく。そのなかでマルフォイは上の立場になったことをいかにも愉快に思っているかのように、その笑みを深めた。

 

「もちろんミスター・ブラックとのことだ」

 そう前置きしてから、彼は順序だてて説明をはじめた。

 

 前回の"会談"の際、シリウス・ブラックは「自分で友人を選ぶ」と言ったが、身分が高い者の友人というのは気を許せるというだけでは許されないところがある。

 将来一緒になにか事業をやるとか、企業の売買収(企業をやったり取ったり)をするとかを見据えて、色々な分野で同格以上とつながれるようにしておくべきだ。

 

 将来シリウスが苦労しないためにも、他家との付きあいは最低限残しておいた方がいい。彼がほとんど唯一一番仲の良いポッター家は過去由緒正しかったが、上流階級としての歴史は浅いので不十分だろう。グリフィンドールのなかに、ほかに歴史の深い良家はそもそもあまりいない。

 

 "シリウス・ブラック(ブラック本家の跡取り)"とほとんど同格なのは"ルシウス・マルフォイ(マルフォイ本家の跡取り)"なので、一番付きあいを深めるべきなのは自分である。すでに親戚でもあるし、形だけでも仲良くしておいた方がいい。

 

「──先ほども言ったが、来年はレギュラス・ブラックが入学する。いずれ彼が監督生になれるよう、上級生であり同格の者として、さまざまな知識や経験を直々にさずけるつもりだ。

 そこに、シリウス・ブラックも参加できるように説得してほしい」

 

 彼の言におかしな点があるのかないのか、階層の違いすぎるセブルスには判断がむずかしかった。

 マルフォイは善意に満ち溢れたような男ではないのだから、口にはださない狙いが何かあるような気がする。

 

「……ぼくではあいつの気を変えるのは無理です」

 セブルスはひとまず、確実な事実だけを伝えた。

 

 シリウスは純血主義そのものが嫌いなのだ。もしかしたら"良家(貴族)"というのもそれ自体が嫌いなのかもしれない。怪しげな勢力の頭目(ボス)であるマルフォイと仲良しこよしなんてあり得ないだろう。

 

 弟のこともセブルスが聞いたことは(ほとん)どなかった。だから彼らがどんな兄弟関係だかも知らないが、気が合う兄弟なら2人ともグリフィンドール寮に入ってしまうはずだし、その場合マルフォイとの付き合いなんてしたくないだろう。気が合わない兄弟なら、シリウスは弟とマルフォイの両方を嫌う。

 

「どうしてもと言うのなら、友人づれで参加することも許そう」

 自分が上に立っている、と言わんばかりの(おご)った言い方だ。セブルスは内心で『えらそうに』と反発しながらも、もう一度首を横に振った。

 

「絶対に受けいれるわけない」

 セブルスがそうはっきり断っても、マルフォイは表情も顔色もまったく変えなかった。いや、むしろ笑みが少し深まったようにすら見える。予想通りなのかもしれない。

 

 どうして断られることが(わか)っていてそんな要望を出してきたのだろう。つまり……、罠について見逃す気なんてないのだろうか?でももしそうなら、はじめから有無を言わさずセブルスを呪文で石にでもしてしまえば手っ取り早いはずだ。

 

「罠のことを忘れておいでかな?」

 余裕ぶった声色でふたたび痛いところを突かれたが、無理なものは無理である。

 

 目の前でマルフォイが「ううむ」となにかを検討するように腕を組んだのが見えて、セブルスは『やけに芝居がかった仕草だな』という印象をもった。

 

「──ならば仕方がない。シリウス・ブラックが"まともな良家じゃない"のは今に始まったことでもない。良家ですらできないものを、君()()翻意(ほんい)できる(いわ)れもないな」

 

 だったら何で協力なんて持ち掛けてきたんだ。

 セブルスの眉間のしわがもっと深くなったところで、マルフォイはまた獲物をいたぶる時のような目になった。

 

「では、代わりに"君のスリザリンの友人"をお友達に加えたまえ。良家でなくてもいい……いや、君では"きちんとした良家の子"を連れ歩くのは無理だろう。

 ではヤックスリーはいかがかな。彼もシリウス・ブラックとの伝手はほしいのではないか?」

 

 これまた無理難題を吹っ掛けてくるものだ。

 トーマス・ヤックスリー自体は賛同するだろう。『純血主義・主戦派』を捨てたいようなことを言っていたので、シリウスへの伝手が欲しいのは間違いない。

 問題はシリウスの方だ。

 彼は『ヤックスリーには気をつけろ』と言っていた。やはり気を許すようになるとは思えない。

 

「なぜ?トーマスはぼくと大して変わらない」

 マルフォイは『きちんとした友人をシリウスにつくらせたい』と説明していたはずだ。セブルスでは不足だからと。

 ならばトーマスでもシリウスの友人たりえないのではないだろうか。

 

「ああ、もちろんそうだ。ヤックスリー自体に価値があるわけではない。だが私の部下が彼の面倒をみているのはご存じだな?ヤックスリーが友人足りえるように教育すれば、それで良い」

 つまりトーマスはマルフォイの手ごまの一人として扱われるということだ。『自分の手ごまをシリウスの友人にしたい』ということになる。

 

「それだって『シリウスの考えを変えろ』と言っているようなものです。あいつは嫌なことは絶対にしないし、誰かに従ったりもしない」

 一番の親友であるポッターでさえシリウスを説得できていない部分があるのに、自分ではもっと不可能だ。

 

 しかし断った一番の理由は『マルフォイの要求をのみたくない』である。

 マルフォイの考えはまるで読めないが、何らかの計算があるのだろう。彼はスリザリン的で手段をえらばない人物だ。うかつに従ったのが原因で、めぐりめぐってセブルスにとって悪い目が出るなんてことだってありうるのだ。

 

 セブルスの3度目の断りに対し、それでもマルフォイは余裕そうな雰囲気をのこしていた。

(これも計算どおり、なんてことがあるのか?)

 

 セブルスはいよいよ不気味さを覚えはじめていた。たとえば、貴族には『断られるために』わざと提案するような習慣でもあるのだろうか。それとも、単に演技がうまくて悪感情を読み取れないだけなのだろうか。

 

「自分の立場というのがわかっていないようだな。これほど譲っているこちらの利益につながらないというのなら、このまま見捨てても構わないのだぞ。……生徒が2人、学内で姿を消したとなったらまずいのではないかな」

「罰則を受けるだけなんじゃ……」

 マルフォイは答えず、残忍な笑みを浮かべたままだった。

 

「これが最後のチャンスだ。これですら断るというのなら決裂でかまわんよ」

「何をしろと言うんですか」

 みぞおちの辺りが冷たくなるのを覚えながら、セブルスはそれを隠すように鋭い目をして尋ねた。それすらも愉快そうに笑い捨てるような表情が視界に入ってきて、ますます頭にきても黙っているしかできなかった。

 

「シ……ナルシッサが会談のときに言っていた通り、君には上流階級の下につくには様々なものが足りていない。本来はシリウス・ブラックがどうにかすべき点だが、まだ12歳の子どもではその必要性は理解できないだろう。ナルシッサはその点を理解しているが、本家の人間というわけではない。それに半純血ごときを自身の部下にする気はないはずだ」

 いちいち癇にさわるしゃべり方だった。

 

「君には上級生としてレギュラス・ブラックの教育にも協力してもらおう。そもそも上級生として下級生に助力するのは当然の義務だろう。

 なに、ヤックスリーに教育をほどこす代わりに、君にほどこすものだと考えればいい。別にシリウス・ブラックと友人であることに制限を加えるつもりはないので、そちらを優先すればいい。

 これは君に『私の部下になれ』と言っているわけでもなく、彼の考えを変えさせるものでもない」

 

 つまり、先ほどまでの無理難題はいったん全て忘れて、『来年からレギュラス・ブラックと付き合いを持て』と命じられたようなものだ。そうすれば今"罠"にかかっている2人はセブルスに助けに行かせると。

 

(……それだけ?)

 あまりに簡単すぎる。いったいどんな狙いがあるのかが読み取れない。

 どう答えてよいか判断のつかないセブルスに、マルフォイはいっそゆったりした口調ですごんだ。

「これほど譲っても飲めないというのなら、仕方がないな……?」

 

 そう言われても、すぐに「はい」なんて言えるわけがない。なんとか時間を稼げないだろうか。

「少し、考えても?」

「では5分ほどやろう。朝まで待つわけにもいかないのでね」

 向こうにペースを握られているのはいい気持ちがしないが、優位なのはマルフォイの方なのである。

 

 提示された"見逃してもらう条件"は、彼のいう通りそこまで厳しいようには思えない。同じ寮のひとつ下だったら、"弟"とやらと関わりはできてしまいそうなものだ。わざわざ条件にするようなことじゃない。

 シリウスの意見を変えさせるよりは余程かんたんだった。

 

 だったらセブルスが気になった文言はひとつだけだ。

「『手伝う』っていうのは、何を?」

「様々なことを教える時に、ブラック弟と参加してもらいたいだけだ。まとめて教育する。授業を受けるときと同じように」

 

 ここから「ノー」と断ってさらに譲らせるような条件もセブルスには思いつかない。それに、上流階級の人たちによる高度な知的教育など本来は絶対に受けられないものだった。

死喰い人(デスイーター)になるような教育』かもしれないのが頭の痛いところではある。

 

 こんな事態でもなければ決して飲むことはないが、リリーとクラリスの2人を助けに行けるのなら、そのくらいは我慢すべきなのかもしれない(シリウスならば飲まずにこのまま呪文をぶっ放しそうなところである)。

 

「わかりました」

 セブルスがそう答えると、こちらに向けられていた灰色の瞳が、何かを踏みにじるような笑みを深める──かと思っていたのだが。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 セブルスが目を剥いたのをよそに、目の前の上級生は杖を携えたまま急いで辺りを見回した。

 赤い閃光が虚空からその手に向けて撃ち込まれる。

「エクスペリアームス!──武器よ去れ!」

 

 彼の手からもぎ取られた杖は、くるくると回って談話室内の中空に跳びあがった。そして直後にこつぜんと消えたようだった。談話室内はやけに天井が高く薄暗いので、杖がどこに消えたのかまではわからない。

 

(姿くらましか何かか?)

 

 おそらく透明になった生徒がいて武装解除呪文を唱え、杖を奪ったのだろう。懐にでもしまい込んだのでマルフォイの杖が見えなくなった、そこまではわかる。

 聞き覚えがある声の呪文だった気もするがそれも確かではない。それに、いつから談話室内に潜んでいたのだろう。

 

(もしも危険な連中に、3人でいた時から見られていたんだったら……)

 冷や汗が背中をつたう感覚がした。

 

 この状況では何をするのが最善だろう。2人を逃がしに行くのか、マルフォイの足止めをするのか。

 迷っているセブルスの視界のなかで、撫でつけられたプラチナブロンドの上に黒っぽいものが降ってきたのがわかった。

 床に落ちたその衝撃が足元につたってきて、その茶色の鉢がずいぶん重たいことがわかる。カーペットの上にこぼれ出た土から、植わっていたものがマルフォイの身体に巻き付いたのが見えた。

 

(悪魔の罠か?似てるけどずいぶん細いし少ないな……そもそも鉢に植えられるものなのか)

 魔法界の植物はまだまだ習いたてなので、セブルスがよく知らないものも多数ある。

 鉢の大きさは魔法薬学で使う大鍋くらいだった。大人の胴体かそれ以上のサイズだ。わざわざどこかから持ち込んできたものなのだろう。

 

 マルフォイがおかしな行動に出てもいいようにしなくてはいけない。

 あらためて杖を構えなおしたセブルスのすぐ横を、勢いのいい風が通りすぎて行った。

 

 

 

 

 透明マントの下で消音魔法をまくシリウスと、その前列でマルフォイの杖を回収したジェームズは、例によって2人乗りで(ほうき)にまたがっていた。

 

 あまりに窮屈な室内を先頭のジェームズが器用に飛びまわり、加速して女子寮の方まで突っ込んでいく。シリウスはその間にも消音呪文をかけ続け、ほかの生徒たちが起きてこないようにと目を光らせていた。

 室内で乗りまわすなんてもちろん校則違反だ。それでも罠につかまったという女の子たちを助けるのに躊躇するような2人ではない。

 

 彼女たちが捕まっていたのは廊下をふさぐ蜘蛛の巣のようなものだった。どうやら杖をもった腕ごとべっとりとした糸に絡めとられてしまい、抜け出せなかったらしい。1年生では杖なし魔法なんてまだ使えないから、杖を振れなくされたらゲームオーバーだ。

 蛇を出したのはおそらく身動きがとれなくなる直前だったのだろう。大声をあげたら助けが必要なことは伝わっただろうが、ほかのスリザリン生にバレてしまう。

 

 シリウスとジェームズが「インセンディオ──炎よ!」ですぐに罠を焼ききってから、4人とも女子寮の入り口まで全力で掛けた(さすがに(ほうき)に4人乗りするのは無理だ)。

 シリウスがダメ押しで消音魔法を唱えたので、床をふみ鳴らす音どころか全速力で息があがっても呼吸音すらしない。消音魔法をかけた時特有の、耳をうつような静けさに満ちていた。

 

 出入り口がすぐに見えてきたので、ジェームズは女子2人の頭から透明マントをかぶせた。どうやら彼女たちを隠すつもりらしい。それからシリウスに手招きをして、また箒に(またが)りなおした。

 

 なるほど、2人でおとり役を買って出ようというわけだ。シリウスはにやりと犬歯をみせて不敵な笑みを浮かべた。

(そういうのは大歓迎だ)

 

 シリウスたちが(ほうき)でスリザリン寮の談話室まで飛びだしていくと、まだ植物と格闘中だったマルフォイが忌々しいものを見る目で2人をとらえた。丸見えなのだからすぐに(わか)っただろう。それと同時にジェームズの()()()()からマルフォイの杖がすっぽ抜けて、本来の持ち主の手のなかに一直線に吸いこまれていった。

 

(杖なし呪文……!)

 

 怪しげな生徒たちの上に君臨するマルフォイは、たいへん面倒なことに優秀な魔法使いなのだ。

 彼は自らに襲いかかる植物を"しりぞけ(デパルソ)"で押しのけ、すぐに自分たち2人へと照準を合わせていた。

 

 ジェームズはそれを振り切るために加速しようとするが、せまい室内ではターンが難しくすぐに減速してしまう。振りまわされるようになっているシリウスは箒にしがみつくので精一杯だった。これではマルフォイに狙いをつけて呪文をうつことができない。

(まずい)

 シリウスが頬を引きつらせた時だった。

 

「………………!」

 消音魔法で聞こえなかったが、セブルスがマルフォイの背後から、なにか杖を振ったのが見えた。

 途端に、マルフォイの足元に落ちていた植物がにょきにょきと伸びて再び巻きつき始めた。まるでこの間"Ada(エイダ)"が襲われたときのようだ。

 闇の魔術に属するそれは、どうやらかけられた相手を襲わせるようなものなのだろう。

 

(こないだ知ったばかりのくせして、もう使えるようになったのか?)

 セブルスが例の"Ada(エイダ)"のいるグループに入っていなくて良かった。もしも敵になったらこの知識がわたってしまい、大変面倒なことになったに違いない。

 

 マルフォイは背後の裏切りには気づいていないようだったが、その代わりに5人にとって最悪な行動にでた。彼がなにか唱えるように口を動かすと、肥大した談話室の本棚がすべるよう動いたのだ。そのまま出入り口につながる階段をふさいでしまった。

 

 これでは自分たち2人だけでなく、隠れている女の子2人だって寮外に逃げられない。

 窓を割って逃げようにも、スリザリン寮は地下にある。そのまま湖に飲み込まれてしまうだけだ。

 

(どうする……!マルフォイをのしたら、いっそのこと全員たたき起こすか?)

 突破するためならそれもアリだろう。

 セブルスにはマルフォイを連れて行ってもらえば、巻き込まれただけというアリバイづくりができるはずだ。残り4人は透明マントをできるだけかぶって、隅でじっとしていれば逃げられるチャンスが来るかもしれない。

 

 迷っているシリウスの視界の隅で、談話室の一角から光が漏れでているのが見えた。たとえるなら、真っ暗な部屋のドアが開いて、外の光がほそく差しこんでいる時のようだった。

 

 暖炉の横だ。壁などどこにもない中空の一部が、四角く切り取られているみたいになっている。空中の色をしたドアが開いたみたいだった。

 先ほどまでそんなものはなかった。マルフォイが出入り口をふさいだのと何か関係があるのだろうか?だとすると、安全ではないかもしれない。

 

 シリウスはジェームズを小突いて、そちらに指をさした。

 ここに入らないのなら、さっきの案を実行にうつすだけだ。

 

 ジェームズは一気に上昇し、2人の乗った箒は天井のちかくから一直線に"謎の空間"へ飛びこんで行った。

 

 

 

 その"部屋"のなかはさして広くなかった。寝室(5人部屋)の半分くらいのサイズである。

 それほど奇抜な特徴はない。部屋の中央に円形の暖炉が鎮座しているくらいだ。天井は談話室にくらべて低く、スリザリン寮付近の地下通路くらいの圧迫感がある。

 

 ドアから見える最奥の壁に、床から天井までの高さがある肖像画が1枚掛けられているのがわかった。裏返されていて描かれているものはよくわからない。

 全体に古びた石づくりであって、一番目立つのは床にほこりが落ちていることだった。閉め切られていたようで、息をするたびに口のなかに細かなものが入ってきそうだった。

 

(妖精が掃除をしていない?)

 ホグワーツの校内では珍しいことだ。しかし、今はそんなことに構っている時間はない。この部屋にも外に出られるような扉は見当たらなかった。

 

 シリウスたちは念のため暖炉を盾にするみたいにして、マルフォイの様子をうかがった。

 彼は襲いかかる根を今度こそ切りきざんでから、高く靴音をたてて2人の方に近づいてきた。その表情は険しい。

 

 ジェームズは声を落として作戦会議をはじめた。

「2人で武装解除しよう。そうしたら確実に当たる」

「マルフォイだって武装解除をどっちかにかけてくるじゃないか。そうしたらずっと武装呪文のうちあいになるぞ」

「それでいいじゃないか」

 ジェームズはにっこりと笑った。

 

()()()に後ろから呪文を撃ってもらおう」

 とどめを譲るのは(しゃく)だけどね、というジェームズが肩をすくめて付け加えた。

 

「──あら、やっとその気になった?」

 そんな彼に対し、女子の声が皮肉っぽい言葉を投げかけてきた。

 クラリスだ。

 

 女子2人はいつの間にか同じ部屋に逃げ込んできたらしい。マルフォイから見えないよう、入り口の面した壁を背にして杖を構えている。ジェームズのマントは透明な部分を内側にかくすように、丁寧に部屋のすみに畳まれていた。

 

 冷や汗をかくすような態度で笑むクラリスに、隣にいるリリーは少し心配するような顔つきだった。

 

「君たちは武装解除呪文は使える?」

「いいえ。レヴィオーサとか、授業で習ったのならできるわ。……リズは無理しないで」

 クラリスは自分より大きな生き物や大人の男は苦手なままだった。呪文を当てることも難しいのだという。

 彼女がリリーに何か言いかけたところで高い靴音が止まったので、会議はそこまでだった。

 

 シリウスは自分の杖を握りなおした。

──5年という年齢差は大きい。一対一だったら真正面から戦って勝てることはないだろう。

 マルフォイの目をにらみ返してやろうと目元に力をこめたシリウスは、まったく彼と目が合わないことに気づいた。

 

 それどころか、マルフォイは何もない入り口の空間を、まるで何もないことを確かめるように、手のひらを上下に動かして確認していた。

 

(……こっちが見えていない?)

 4人で困惑するように目を見合わせていると、彼は舌うちをして踵をかえした。

 

「先ほどの話はまたいずれ。──さっさと休みたまえ」

 いかにも不機嫌そうな声色を隠さず、マルフォイはそう八つ当たりをしてから、セブルスの脇を通りすぎて行った。その後も振り返ることは一度もなかった。

 

 その背が完全に遠ざかるのを見張ってから、セブルスもまた、困惑したように眉根をよせた。

「……あいつには見えてなかったみたいだな」

 固唾をのんで見守ったままの4人に声をかけてきたセブルスは、自分もその"謎の部屋"に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 




セブルスが何とかしなくちゃいけない時って、リリーやクラリスに何かあった時くらいなんですよね~

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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