セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
2025/4/17一部修正
マルフォイがどこかから見張ってることもありうるため、セブルスがその部屋に足を踏みいれてすぐに、シリウスはドアを内側から閉じた。マルフォイが部下を引き連れて戻ってきてはたまらない。
談話室から入る時は空中を切り取ったように見えたドアだったが、部屋の中から触れたそれは普通の木製のようだ。表面が傷だらけで古びてはいるが、それはこの城のなかのものすべてに当てはまる。
しばらく……、もしかすると朝まで部屋の中に潜んでいた方が良さそうだ。
5人がそろうと、真っ先にジェームズがとげとげしくセブルスにそう言った。
「お前、あんなやつの提案に乗ろうとするなよ。何を企んでるかわからないんだぞ。バカじゃないの」
消音呪文をかけろとシリウスに合図を送ってきたのはジェームズなのに?
どう考えても心配していたくせに、その本心を隠すつもりなのだろうか。それとも一方的に疑っていたが、そんな自分が間違っていたと認めるのが恥ずかしい?
(……セブルスの見た目がうさん臭いのが悪いな)
いかにも闇の魔術で誰か傷つけたさそうな外見である。
そんな風に見られている当のセブルスは、いきなり文句を言われたことにムッとしたようだ。
「ぼくがいつ、あいつの提案に乗りたがったって?」
腕を組み、そっぽを向いた彼は皮肉っぽく言った。
「お前だったらなんとかできたって言うなら、その冴えたアイデアをぜひ教えてもらいたいね」
「う……」
あれは人質をとられているような状況だったし、マルフォイはその人質がジェームズとシリウスだと勘違いしていたのである。
いっぺんに問題を解決できるような素晴らしいアイデアは、ジェームズの頭のなかにもとっさに出てこなかったのだろう。言葉につまった彼は、苦しまぎれに「もっと準備して行くとか」と答えた。
お小遣いをじゅうぶん持っている側の意見に、セブルスだけでなくクラリスまでもが冷ややかな目をしていた。切手を都合するにも困っている2人にそんな資金はない。
シリウスは彼で、また別のことを考えていた。
「冴えたアイデアなんか一つだろ」
「それは?」
「"先手必勝"!"やられる前にやる"だ!」
「どっちがバカだ」
セブルスはあきれたように続けた。
「お前が6年生に決闘で勝てるくらい強かったなんて知らなかったな。お前の腕前はぼくと変わらなかったはずだけど」
「お前よりは上だろ。まえに横丁でやりあった時に逃げ切った」
「逃げ足はね。……そういえばお前と正面で打ちあったことはなかったな」
「いつでも受けて立つぞ」
何故か今にも杖をお互いに向けそうになってきたシリウスたちだったが、間にリリーが立ってセブルスを押しとどめた。
「ダメよ、こんなところで決闘なんて。それどころじゃないわ」
彼女はそのまま、仕切りなおすようにジェームズに向かい合った。
「心配だったから助けてくれたんでしょ。どうしてそんな言い方するのよ」
まっすぐに正面から見据えてくる彼女に、ジェームズはたじたじになって一歩下がった。
「別にこいつを心配したわけじゃ……」
「あら、じゃあ私たちの……、いえ、リリーの心配をしてこっそり追いかけてきたってわけ?」
クラリスが横あいから追いうちをかけて、「そんなのじゃないし」とジェームズは赤くなった顔をぷいとそらした。
*
数時間前
やると決めたら迷わないのがグリフィンドール生であり、問題児2人だった。
シリウスは例のグループについて調べることをあきらめるつもりは
「
「なんだよ、結局彼女も出歩くんじゃないか」
2人は当然ながら彼女にこっそりついて行くつもりだった。エイダの正体を追うのは自分たちが先に始めたことで、"横どり"されるなんてイヤだったからだ。それに、彼女の後をつければどこにスリザリン寮への入り口があるかも調べられる。
彼らが禁じられた森に入ったのはほんの数日前だ。さすがに数日では何の準備もできていない。
「この間みたいなことになった時のために、何か道具とか武器とか……そういうのが欲しいな。杖だけじゃ上級生には勝てない」
シリウスがそう持ちかけると、ジェームズも「そうだね」と同意した。
「すごく大きなものは難しいけど、できる限り探してみよう。注意を逸らしたり足止めしたり、そういうのだね」
「証拠をつかむのも欲しい。ホグズミード(近隣の村)にどうにかして行けないか?」
「1年生じゃ売ってくれないよ。背丈でばれちゃうと思う」
結局は温室から使えそうな植物を持ってくることくらいしかできなかったのである。値段はわからなかったのでガリオン金貨を何枚か置いてきた。
夜になってから、彼女を尾行するようにして同じタイミングで寮のなかに忍びこんだ。彼女らチームの3人がやること自体は地味だったし、女子寮にまでついていくべきだとは思わなかった。
どうやらジェームズはセブルスが何かおかしな行動をとらないかを見張っていたいという気持ちがあったらしい。だからそのまま、2人して談話室のすみでじっとしていたのだ。
しかしマルフォイとのやり取りが始まり、やがて彼が要求を突きつけてきた。
『このままだと女の子2人を助けるためにうなずいてしまいそうだ』と思ったシリウスは、とっさに消音呪文を撃ったのだ。ジェームズはそれに息を合わせるようにして、マルフォイに武装解除呪文をかけた。
あとは5人全員が知る流れになったのだった。
*
3人にこれまでの経緯を説明したシリウスは、不満そうに口をとがらせていた。
「何かするって決めたなら声をかけろよな」
「お前の
セブルスはふんと鼻を鳴らした。
最初にシリウスが話を持ちかけてきたのを蹴ったものの、結局は3人で調べる流れになってしまった。別にシリウスに隠そうと意図したわけじゃない。
それでもなんとなく声をかける気にならなかったのは、ジェームズの存在があるからだ。
張本人であるジェームズは、引き合いに出されて丸眼鏡の奥にある目を険しそうにゆがませた。
「うるさいな。お前だって"エイダ"とかが2人(友だち)に近づいてきたら『手を切れ』って言うくせに」
「いっしょにするな」
「あのグループに入りたかったならいっしょなんだよ。誰かを傷つけるわざばっかり磨いてたんだろ。今回は……助かったけど、もうあんな魔法は使うものじゃない」
ジェームズの表情は真剣なものだったが、セブルスの手持ちにはうまく返答できそうなものがなかった。受けいれるような言葉は自分の本音とはちがいすぎたし、否定してしまったらせっかく得た彼の信用がなくなってしまいそうだ。
セブルスが答えに困っているのを見て取ったのか、クラリスが尋ねた。
「ずっとセブルスを疑ってたのに、今になってどうして信じる気になったの?」
「あー……」
ジェームズは『それは訊かれたくなかった』という顔で目を泳がせた。
「こいつ、見張ってたのは今回だけじゃないんだと」
「シリウス……!」
あっさりとバラされてジェームズは恨みがましい目をしていたが、やがてあきらめたように話し始めた。
3人も知っている通り、シリウスはブラック家だからグリフィンドール生との関係があまり良くなかった。特に入学してすぐの時は。だから基本はジェームズとつるんでいたのだが、マグル育ちの3人との仲もそこまで悪くない。
だからジェームズがいっとき離れてもシリウスがひとりぼっちにならない時間ができたのだ。
しかしクラリスやリリーだけならともかく、スリザリン生で、しかも闇の魔術に詳しいセブルスは怪しげなヤツとしか思えない。だから『化けの皮をはいでやる』と完ぺきに疑いにかかった目で見ていた。
『あれだけスリザリンに馴染むんだから、もともとそういうやつなんだ』と考えたからだ。『シリウスはだまされている』とも。
そうやって、時にシリウスからの話を聞き、時にセブルスを透明マントのなかから見張って情報を集めた。
彼の言葉や行動を知って少しは疑いは晴れたものの、信じ切ることは難しい。スリザリンは目的を達成するためにはどんな手段でも使うタイプの連中だから、3人とも騙されている可能性は捨てきれなかった。
それでも信じることに決めたのは、
「マルフォイはどうもシリウスと
ジェームズはきまりまずそうに、頬をかきながら説明を終えた。
「──気色が悪い」
セブルスは思わずその場から一歩さがった。透明になったジェームズに色々見られていたなんて、当然気づいていなかったからだ。
「それ、遊び場でずうっと(リリーを)見てたあなたが言う?」
クラリスが容赦のない指摘をしたので"ぐうの音"も出なくなっていたが。
本人の中ではかなり以前の出来事だったので忘れていたが、セブルスはずっとリリーに話しかけたいと思ってエバンズ姉妹を見ていたのである。何日も。
よくよく思い返すとちょっと怖いかもしれない。
リリーはよくわからなさそうに首をかしげていた。
「そういうわけでさ」
少しゆるんだ雰囲気のなか、ジェームズはかじ取りをし直すことにしたようだ。
「あー……、手をだせ」
ぶっきらぼうにそう命令されても、セブルスは応じるつもりにならなかった。どうやら敵対するつもりはないようだが、何をしたいのかがわからないし、従う覚えもない。
「いやだ」
セブルスは
断られたジェームズがムッとしたように眉をひそめたので、残りの3人は目を見合わせてうなずいた。
最初に動いたのはシリウスだ。こっそりとセブルスの背後に忍び寄り、抵抗できないように羽交い絞めにした。
それから抵抗される前に、クラリスが彼の左手を動かせないようにおさえ、リリーがその右手を差し出させた。
「お前たち……!」
セブルスが何か文句をいう前に、ジェームズはすかさず(リリーによって)差し出された右手をにぎった。
つまり、握手である。
一度力をこめて握ってから、ジェームズはすぐにその手を離した。
「ぼくは闇の魔術がきらいだ」
彼はまっすぐにセブルスに目をむけて言った。
「闇の魔術は危ないものだし、ひとを傷つけるものばっかりだ。そんなの最低だってずっと思ってきたし、これからもそうだ」
たとえば喧嘩したり嫌いな相手だからって使っていいものじゃない。殴り合いのけんかをしている時に、ナイフを出してきて本当に相手の目をつぶしてしまうようなものだ。ひとには超えてはいけない一線というものがあるし、それを破るようなことだ。ジェームズはそんな風に話した。
「──だからさ、これからぼくらが友だちになるかはともかく、同盟相手(ally)になろう」
腹を割って話すくらいには、彼はセブルスを信用する気になったらしい。
「つまり……、同じ敵と戦うのに手を組もうってことだよ」
自分で言っていて恥ずかしくなってきたのか、なぜか彼は少し赤くなった顔のままで怒ったような話し方になってきた。
「お前がどんな気持ちでいたって、変な魔法でおかしくなることだってある。だからぼくはお前じゃなくてクラリスとエバンズを信用してるんだ。……クラリスもちょっと危なっかしいけど。
いいか、これからお前がだれかを闇の魔術で傷つけたら許さないからな!今回のマルフォイみたいのはいいけど!」
「マルフォイはいいのかよ。……いいか、別に。マルフォイだし」
かたわらのシリウスが同調した。
シリウスの顔を見てなにか思いついたのか、ジェームズは「そうだ」と切りだした。
「お前がそういう風になっちゃったら、無理やりにも寮をかえてやるからな。……シリウスが!」
「えっ」
シリウスは『そんなの聞いてないぞ』という顔をした。
「大丈夫大丈夫。ブラック家はむかし校長になった人が何人もいるし、何か裏道があるって」
「ウチのこと嫌いなのに便利に使いすぎだけどな……。ま、使えるものは何でも使えばいいか」
セブルスがなにか口をはさむ前に勝手に色々と決められていく。
なんとなく5人が口を閉じた頃、部屋の奥からなにか音がした。
『──もういいかな、話しても』
慌てて全員がそちらに杖を向けてみると、無人だった絵のなかに、いつの間にか誰かが現れていたのがわかった。
ぼそぼそとした声の主は、絵に描かれていた青年~大人らしき男だった。オールバックにした髪の下に
『いまは何年かな。出番があまりにないから、このまま試練は再開されないんじゃないかと思っていたよ』
「"再開"?つまり中断されていたの?」
ジェームズがそう尋ねると、彼はその猫背気味の姿勢のまま静かにうなずいた。
『君たちも知らなかったのか。今は……。(『1971年です』とクラリスが伝えると、彼はもう一つうなずいた)
再開を見送っているうちに、試練そのものが伝わらなくなってしまったんだろう。
中断するのは珍しいことじゃない。なにせ試練の内容が内容だから』
5人はお互いの顔を見た。きっと自分たちは偶然にも謎かけをクリアしてしまったのだろう。解答の可能性のひとつとして考えてはいたものの、皆そのつもりがあったわけじゃなかった。
『僕は……、ホグワーツの卒業生だ。
この試練は昔からあるものらしくて、僕らの時もたまたま羊皮紙を見つけたんだ。
君たちも知ってると思うけど、あれは"試練の始まり"が封印されていてね。第一の試練に合格できそうな子たちが触ることではじめて封蝋が外れるようになっている。
僕らの時は5年生の転校生が偶然見つけたんだよ。そいつには特別な課題があったらしくて、学校の外によく出ていたからね。
その時から試練について知っている生徒はいなかったし、僕らも積極的に宣伝して回ったりはしなかったな。ただ、むやみに始まらない方がいいってことになって、もう一度封印し直したんだ。ウィーズリー先生……あー、当時の副校長。彼女にだけ相談して』
彼の時代について興味がないでもなかったが、5人にとって重要なのはそこじゃない。焦れたようにシリウスが口をはさんだ。
「もったいぶってないで、その"試練"のことを教えろよ」
彼は額縁のなかで肩をすくめた。
『シンプルに言えば、この試練は生徒たちだけが参加できるもので、あの羊皮紙が開かなければ始まらない』
つまりあのまま燃やされていれば、試練じたいが未来永劫うしなわれていたのかもしれない。そんな出来事があったとはつゆ知らない絵画の男は、そのまま説明を続けていた。
『君らは謎かけを読んだし、意味を考えただろう?
第一の試練の答えは簡単だ。4人以上で仲間を組み、そのなかのグリフィンドール生が蛇寮に入る、ないしスリザリン生が獅子寮に入ることでクリアできる……みたいだ。
僕らのときは4寮全員で大規模なチームになってたから、『全寮から最低1人は参加しないといけない』と思い込んでいたよ』
「それだけじゃ簡単に合格できるじゃないか。良家のやつが他の寮の手ごまを連れてくるだけだ」
セブルスの疑問に、絵のなかの男はうなずいた。
『きっと、きちんとした友だちがチームを組んでいないとダメなんだろうね。信奉者を集めるとか目的が同じってだけでは合格にならないんだろう。そうじゃなきゃ、僕の出番はもっと早くにやってきたはずだ。
……他の寮に入ることは校則で禁止されていたから"こっそりと"だったけど、今は違うかもね』
時代によってルールが変わるというのは珍しいことではない。それでもリリーは疑問に思った。
「校則を破るような試練を用意するの?ホグワーツにかかってる魔法なんでしょ」
封蝋はホグワーツの紋章だったので、彼女はそう推理していたようだ。
『僕らもその辺りはわからない。学校にかかった魔法だとは僕も思うけど、校則が緩かった時期でもあったのか、校則をやぶるくらいのことを求めたのか。
グリフィンドールとスリザリンの仲たがいは、それこそ創始者時代に起こってることだ。『900年』も学校が続けば仲がいい時期も対立する時期もあるだろうさ。
僕らのときは仲がよかったけど、それでも何の言い伝えも残っていなかった。
そういう試練が必要なくらいは、対立しがちだったのかもしれないな』
少なくともこの5人の世代では、"簡単なのに異常に難しくもある試練"だったのに間違いない。『いっしょに何かの試練に立ち向かうだなんて無理だ』と誰もが思い知っているだろう。
「待って、"第一の"試練って言った?」
今度はクラリスがそう尋ねた。
その点はセブルスも気になってはいた。その言い方だと"第二の"試練までは必ずあるはずだ。
絵の中の彼は、懐かしむような表情を引っこめて真面目そうな顔になった。『──その通りだよ』
『このままじゃあまりに不親切だから、案内役をするために僕が
君たちには残り3つの試練を受ける権利が与えられた。次に進みたいなら今回の合格をヒントに探してみてくれ。
ただ、もしも寮の対立が大きいならやめることを勧めるよ。君たちが友だちだって表に出さない方がいいんだったらね』
この部屋のドアが開きっぱなしだったので、5人がやっていたことは彼にも見えていたのだろう。忠告するような言い方だった。
『ああ、一つ言い忘れた。この部屋は合格した子にしか入れないようになっているんだ。2つ以上合格チームがいたら、別のチームの子たちと会ったりもできる。……校則をやぶってでも参加しようって子はそんなにいないけどね。わざわざ他所(よそ)の談話室で話す必要もないし』
つまり、試練に合格すると誰にも入れない自分たちだけの拠点ができてしまうのだ。しかもスリザリン寮に。
戦争しているような時代では封印されるのも当たり前である。
5人は気になったことなんかを話し合いたかったが、そろそろ疲労のピークだった。夜おそくまで起きていて、しかも先ほどまで大騒ぎしていたのだ。体力にそこまで恵まれていないセブルスにも、そろそろ眠気がのしかかってきていた。
他のみんなもだんだんと精彩を欠いてきていて、疲れたような空気になっているようだ。だから急いで解決すべき問題は、残り1つだけだった。
同じことを考えたのか、リリーは蛇寮でない3人に元気のない声で問いかけた。
「──ねえ。私たち、どうやって寮に帰ろう?」
いったい何ニス・ゴーントなんだ……!
シリウスは「うちになんか頼らない!」というタイプなんだろうけど、まだ子どもで決別し切れてないから、ちょくちょくブラック家の権力もつかってる……という解釈をしています。
特に反抗期初期の子とかは『親を悪くいうけど親のすねはかじってる』となりがちなので、そういうイメージです。
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
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【活動報告】にあげて欲しい
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【本編】にあげて欲しい