セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
202/4/29 一部微修正済み
1971年12月25日(土)
クリスマスの夜は、クラリスにとってひどく静かな感じがした。
その日は家族と過ごす日とされているので、家族のいないクラリスはひとりで過ごすしかない。面倒をみてくれる"おばあちゃん"は保護者ではないし、彼女も自分の家族と過ごしているのだ。
クラリスは教会でのお手伝いはしたものの、マグルの前では帽子をかぶっていなくてはいけないので、できるだけ目立たないようなことしかできなかった。
周辺の、壁のうすい家々からなにか話し声が聞こえているのに、自分の家だけは自分が立ち上がった音ですら響いたし、声なんてしない。
友だちのいないホグワーツに残るよりはと故郷に戻ってきたが、もしかしたら残っていた方がましだったんじゃないだろうか。
他の誰もが家族か、学校に残っている友だちと過ごしているところを想像してしまい、クラリスは胸の奥の方がきゅうっと縮まったような感じがした。
「──休みの日って退屈すぎる」
その2日後の月曜日、ノックなしでセブルスが入ってきたのを見て、ようやく
「セブルスのママは出かけてもいいって言ったの?」
彼女はクリスマスから1月2日(日)まで休暇にしているはずだったが、どうやらどこか旅行に出られるような貯えはまだないのだという。つまり、年明けまで自宅にいる予定だった。
セブルスからはそのように"連絡"がきていたはずなので、クラリスはてっきり『セブルスは出かけられないのだろう』と思っていた。セブルスは
まさかこうして大手を振ってやって来られるとは。
「"連絡"を見てないのか?『シリウスにプレゼントのお返しをしないと』って母親に言われたんだ。かんたんな魔法薬くらいでも何もしないよりましだろうって」
「"お返し"?プレゼントをしていなかったの?」
「お前はしてたのか」
セブルスもそうだが、クラリスも上流階級に贈り物をする余裕はない。それでもクラリスはうんとうなずいた。
とたんに不機嫌そうに眉間のしわを深くした彼に、クラリスはツリーの下に置いてあった包みをひとつ差し出した。
「はい。これはセブルスの分」
彼の母親に贈り物が発覚してはいけないだろうと、クラリスはクリスマスの朝に届くようにはしていなかったのだ。シリウスはもちろん、リリーにもあげたのにセブルスだけを『のけ者』にしたわけではない。
「ポッターにも?」
「もちろん、あげたわよ。お金がない分は出来るだけのことをするしかないわ」
それは太めの糸で編まれた、子どもサイズの靴下だった。編み物のなかでも靴下は難しいものだし、手編みはどうしても時間を喰う。クラリスは3カ月間でそれなりに時間をかけて4人分8足を準備したのだと説明した。
「靴のなかに
ダンブルドア校長が欲しいとよく言う"手編みのとてつもない長さの靴下"は、おそらくは3か月も4カ月も毎日編んでようやくできるようなものだろう。それだけ誰かに大切におもって欲しいのかもしれない。
(私も、誰かがそういうのをくれたらきっと嬉しくなっちゃうわね)
セブルスの顔から不機嫌はすぐに消え去ったが、今度は重いため息が出た。
「これは……、でも
「仕方ないわね。また特急でわたすわ」
クラリスは元々そのつもりだったのである。解かれた包みをもう一度なおしてから、またツリーの下に戻した。
「リリーにはもう"連絡"がとれてる。だからリリーの
「そうだったの。気づかなかった」
クラリスは応接の部屋に置いたままの羽根ペンと、教科書よりも小さなサイズの紙を見た。ぱっと見は額縁のような外枠にはまった、メモが書かれた羊皮紙だ。そのあちらこちらに、別々の文体で走り書きがされている。マグルの世界で羊皮紙は目にしないので、まるで大昔のメモを保存してあるかのようだ。
シリウスとジェームズがお小遣いを出しあって用意したというそれは、それぞれが書いた内容を同期して読むことができる、掲示板みたいな道具だった。自分の書きこんだものは好きに消すことができる。ぱっと見はただのメモなので隠すのも簡単だった。
別々の寮にいる5人で連絡を取り合うのがまどろっこしかったと、プレゼントに添えられたカードに記されていた。
ジェームズは忙しいのかぽつぽつと何か書いてはすぐにいなくなっていて、シリウスは「学校に戻りたい」と
クラリスが近くに寄っていって紙面を確認すると、確かにセブルスの文字でそのことが書かれていた。「魔法薬の材料をいっしょに集めに行かないか」とも。それに対してリリーの「2人とも待ってるわ」という
2人がお金を出し合うような魔法界の道具がどのくらいの値段になるのか、まったく想像がつかない。そのためセブルスも労力でどうにかすることを選んだようだった。
「わかったわ。すぐに出よう」
道すがら、セブルスと肩をならべたクラリスは『あんまり知り合いに会いたくないなあ』と思っていた。というのも、冬場に着られる外着が学校のコートローブくらいしかなかったからだ。ほとんどマグルしかいない町内を、このローブ姿で歩きまわるのはかなり恥ずかしい。何かの仮装みたいだからだ。それなのに新たに買い足す余裕もない。
セブルスも同じく緑が目立つコートローブを着ているが、あんまり気にしていないみたいだった。
リリーならきっと、とんがったフードのついていないものを両親に買ってもらえるのだろう。
(マグルのアルバイトなら、仕事によっては
魔法界でもそんなには変わらないとは思うが、誰にも訊けてはいない。ジェームズやシリウスは戦争中というのもあって、そもそもアルバイトをするという発想はあまりないようだった。
クラリスはその辺りのことをセブルスに話した。
「……ベビーシッターとか新聞配達ならできるんだけど、働くなら魔法界にしたいわ」
「"日刊予言者新聞"はフクロウにやらせてるだろう。赤ちゃんの世話はわからないけど、横丁とかホグズミードで探すくらいしか思いつかない」
「学校でおすすめしてるところがないか、探してみようかしら」
「君は無理に働くことないんじゃないか。たぶん魔法を勉強した方が大人になってからいい仕事につける」
「ン……」
クラリスは少し言いよどんだ。学費や生活費は魔法省からの助成などでまかなっているため、食べていけないほどではない。ただ、見た目に気をかけるには少し足りないのである。
しかしそれを、助成を受けられないセブルスに言う気がしなかった。
クラリスが言葉を選んでいると水たまりを踏みそうになって、あわてて足の方向を変えたが、足の端から『ぱちゃん』という音がした。
それで何となく話題が途切れてしまったので、クラリスは別の話題を出した。
「──お返しするって言っても、この辺りの材料で作れそうなものなんてあるの?まえみたく子どもだけで魔法を使うのは避けた方がいいと思うんだけど」
「難しいのは母さんが集めるって。ぼくの杖を持って行った」
「ずいぶん張り切ってるのね」
セブルスはどことなく不満そうに口元をゆがめているように見える。
「ブラック家の子と友だちになれるなんて!とか言って大はしゃぎしてた」
「
「言わなければいい」
ちなみに、何故かマルフォイからもメッセージカードが届いていたそうだ。
「この間のことがあったのに。気に入られすぎじゃない?」
「たぶんシリウスへの
「……あー、なんだか納得しちゃった」
本来、階級社会での上流階級は下層民となんて交流しないものだ。それでも何か──人脈とか実力とかがあればひっくり返せるものなのかもしれない。そんなことを求めてシリウスと友だちになったわけじゃないのに。
クラリスはまだ午前中なのにぐずぐずと薄暗いままの曇天をなんとなく見上げた。雨が降りそうでやけに湿っぽい。なんだか霧でも出てきそうだった。
「──そういえば、まだ聞いてないな」
「なに?」
「きみが闇の魔術を調べてる理由」
より正確に言えば、『闇の魔術を調べているのにセブルスに相談しに行かない理由』だろう。先日「後で話す」ということにしたままだから。手紙ではリリーに知られる可能性もあるし、ほかの人がいるところで話したいことでもなかったからだ。
「大したことじゃ……ないんだけど」
「闇の魔術に頼ってるのに『大したことじゃない』?」
それを話せる相手がいるとすればセブルスだけだが、それでもなんだか自分が情けない気になってしまう。だからクラリスは
「あのね。……私が大きな生き物とか苦手なの、知ってるでしょ」
「杖を向けるのもできなかったな。今も?」
「うん。……魂とか心とか、何とかできるのって闇の魔術が多いじゃない。だから」
隣を進むセブルスは、あきれたような息を吐いた。
「ぼくに隠すようなことか」
「隠したんじゃないったら。ただ……」
同じようにひどい目に遭ってきた子ができることを、自分にはできないなんて言いたくなかったのだ。
「『ただ』?」
「……打ち明けにくかったの」
「それを"隠す"って言うんだ」
そう言ってから、セブルスは少し考えるように腕組みをした。
「心をあやつるようなものはあるけど、それって『まともな心をおかしくする』ものじゃないか。逆に『まともな心にする』っていうのは聞いたこともない」
「うん。せめてそういう魔術がどんな仕組みで心を変えるのかが知りたくて。それがわかれば、まともな方にもできるかもしれないでしょう」
わかった、とセブルスはうなずいた。
「ぼくの方でも何かわかったら知らせる」
「でも……。危ないこと、させたくないわ」
「そんなの君だって」
クラリスが『私はいいの。自分のことなんだから』と言いさした時だった。
「──聞きたくないったら!」
かん高い女の子の声が、立ちならんだ民家の一角からした。聞き覚えのあるような無いような曖昧な気がしたが、『もしかしたら』という心当たりがあった。
(ペチュニアの声かしら?)
2人とも言葉もなく駆けだして、急いでリリーの家の方に向かった。
その後のことはいつもと大して変わらなかった。
やはり声の主はペチュニアだったようで、魔法魔術学校のことをあれこれ聞きたがる両親に声をあらげたらしい。
彼女は駆けつけた2人のコートローブを目にすると、ますます顔を真っ赤にした。それから、親の目があるのも忘れたのか大きな声で「あんたたちみたいな"生まれぞこない"の行く学校なんて!」とヒステリックな調子であざけってきた。
セブルスが反感をあらわにするのは予測ができたので、その前にクラリスは「へえ」と一歩前に出た。
「じゃあ私はまともってことね。本当に大事な友だちしかいない(友だちが少ない)から」
半ば自虐である。ペチュニアがその意味を理解したのかどうかはわからなかった。とげとげしい言葉がクラリスの口をついて出たからだ。
「妹の友だちを悪く言うのって
いつもの
しかし、今回はちがった。
「そうよね。ひとの友だちを悪く言うなんて、性格のいい子がすることじゃないわ」
リリーがきっぱりとそう言ったのだ。
クラリスは意外に思って目をぱちぱちと瞬かせた。後になって気づいたのだが、おそらくは3人以外の友だちをも侮辱されたからだろう。ペチュニアはホグワーツに通う生徒たちを全員否定したようなものだ。
言い返されたリリーの姉は面食らった顔になった後、なぜか残り2人を
リリーの両親はどうするかというと、「あの子とは後で話してみる」とリリーに伝えてから「魔法の学校とはどんなところなのか」と詳しい学校生活を聞きたがった。
特筆することも特にないまま3人はいつも通りに過ごし、セブルスの母親が戻ってくるよりも早い時間に解散となった。
セブルスはそうそう家を抜け出せないし、リリーには他のマグルの友だちもいる(彼らには遠い学校に転校になったと説明しているらしい)。さらに、リリーは年末年始から学期はじめにかけての家族旅行に出かけてしまったので、3人が次に会ったのは学校にもどる特急でだった。
リリーの家でのことは割愛。おおよそ幼少期と同じです。
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
-
【活動報告】にあげて欲しい
-
【本編】にあげて欲しい