セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
2025/4/29 一部微修正済み
「……このきのこは根から切り離すとすぐに
先生が授業でつかう材料について説明するのが聞こえる。
クラリスはそちらに耳を傾けながらも、手元の黄色っぽい種をつぶすことに専念していた。オリーブの実のようなそれを乳鉢の中で割って、中からねっとりとした油っぽいものを取り出すのである。
今回の調合でつかうのは種の『から』と中身の
視線の先、となりにいる同級生はナメクジの粘液をヘラでこそげ落とす作業をしていた。つられるようにぱっと顔を上げてしまったその子は、目が合うと気まずそうにすぐに目線を下にもどしてしまった。その手は緊張したようにぎこちなくなってしまい、どうにも腰がひけているようだった。
(私のパートナーを押しつけられた子なのね、きっと)
この子もその友だちも、ずいぶんと失礼な連中である。大して話をしたことがあるわけでもないのに、そんなに避けなくてもいいじゃないの。
その子の友だちらしき子たちは、少し離れた実験台で仲のよい子と組んでいるようだった。
遠くのテーブルにはレイブンクロー生が先生に何か質問しているのが見える。仲が悪くない寮でも結局は同じ色で集まりがちになってしまうのだ。ふだん一緒に生活する方と何かと話しやすいし親しいからだろう。
こういった合同授業、しかも生徒同士で協力し合わねばならない時の方が、一人でいるよりも
(べつの寮には友だちがいるのに……)
その一人であるネイト(レイブンクロー生)は、クラリスが目をやったのには気づいていないようだった。
隣の子は材料を集め終わったのか、気まずそうな顔のまま「これ……」と話しかけてきた。
「ええ。……じゃあ鍋を火にかけるわよ」
黒板に書かれた手順にしたがって、上から材料を入れたり、かき混ぜたりを繰り返した。
手順のうち、注意が必要なのは最後の方だった。鈴蘭(スズラン)の花のうちに溜まった朝つゆを、すぐに鍋のなかに入れなくてはならないのだ。空気に触れるとすぐにダメになってしまうというのが先生の説明だった。
一度水分がすっかりなくなるまで混ぜていないといけない段に入り、となりの子が引き受けたのをクラリスはぼんやりと眺めることになった。
同じような段階に入ったほかの生徒たちは、何やらおしゃべりをして退屈しのぎをしているようだった。
「あー……、魔法薬学は得意?」
クラリスがほんの雑談にと話しかけてみると、その子は「ううん、別に……。普通です」
その一往復で会話はおわりだった。
それ以上その子が返事をすることもなく、何か話題をだすでもない。
クラリスがもっと気になったのは、彼女が助けを求めるように周りを見まわしたことだ。この調子では親しくなれるどころか、ただの同級生でいるのもなかなかに難しい。辺りはみんな火をかけていて暑くなってきたくらいなのに、クラリスは冷たくなってきた指先をこすり合わせた。
(これ以上、同じような往復をくり返さなくちゃいけないの?)
なにか冗談を言っても取りあってくれるとは思えなかった。バス停でとなりあっただけの人が笑うような事を言ってもだ。
そんなことを考えていると、その子が"根元でつながった細長いきのこ"を手にとったのが見えた。
「待って!」
そういう態度をとる子にまた話しかけるというのも気兼ねしてしまうが、失敗を放っておくこともできない。
「先に水を入れるのよ」
そう言ったクラリスが横合いから瓶にはいった水を追加した時、べつの机からポップコーンが弾けるような音がたて続けにした。
「うわあ!」
鍋から黒っぽい豆のようなものがいくつも弾けて、鍋の前にたっている生徒にぶつかっているようだった。いっしょに作業していたはずの生徒は、そそくさと机のかげに隠れるようにして難を逃れているのが見える。
間もなく音はやんで、生徒は小さな赤みがいくつも浮いている顔でべそをかいていた。火傷しているようだがすぐに治るだろう。
スラグホーン先生は事態を観察していただけで生徒を守ってやるでもなかった。おさまった後に大股で歩み寄り「エバネスコ──消えよ」と鍋の中身を消しただけだ。
「手順をしっかり読みなさい。それに、説明もきちんと聞いていなかったようだ」
突き放すような声色だ。
「もう一人は調合に戻りなさい。誰か……ああ、君でいい。その子を医務室に連れて行きなさい」
その辺りにいた適当な生徒に指示をだして、その子への先生の対応は終わりだった。
この先生は実力がある子や頭のいい子などには親切に接する。その一方で、それらの不足した生徒には冷たくて無関心なことがよくあった。クラリスにとってはあまり好きな先生ではない。漏れ聞こえてくる噂によると、他のハッフルパフ生も多くが、そのような公平でない態度に不満があるようだった。
先生はお気に入りの子の方を向いて、彼らに言い聞かせるように注意をつづけていた。
「このきのこは熱に弱いから、水をはらずに入れると傘の部分だけがはじけ飛んでしまう。こんな風にね」
先生はクラリスの方にもにっこりと笑いかけてきた。
きちんと評価してくれたと嬉しいような、自分は"親切にされる側"らしいという不公平に不満なような、複雑なものが胸にわだかまってしまう。だからクラリスは、特に反応は見せずにすぐに自分たちの調合に戻ることにした。
一番最後の材料を入れ終わると、鍋いっぱいの液体がほんのひと
先生の机に薬を提出すると、パートナーとなった子はほっとしたようにクラリスの方を見た。
「『ああ』ならなくて良かった。ありがとう」
「どういたしまして。こちらこそ、組んでくれてありがとう」
彼女は赤茶のおさげと眼鏡が特徴的で、トイレのゴースト"マートル"みたいな見た目だった。マートルをお人よしで気弱にしたらこんな感じだろう。
「あなたは魔法薬、上手なんだね」
「ええと……、お料理と似てるところがあるから。料理は適当でも食べられるけどね。おいしくないだけで」
彼女はふふっと笑った。少しは警戒がほぐれたようだ。
「お料理をしたことあるの?」
「かんたんなもので良ければね。……ホグワーツに入ってからは何もしてないから、下手くそになってるかもしれないわ」
黄色のローブを着た相手とこんな風にしゃべるのは久しぶりだった。ほっぺたがゆるんで少し痛い。
「──もう行こ」
マートル風の子のそばに同級生が寄ってきて、すぐに彼女の手を引いた。同級生はかたい表情を浮かべていて、クラリスの方を一顧(いっこ)だにしない。『まったく視界に入らないように振舞っている』と言いあらわした方が正しいかもしれなかった。
「どうもありがとう」
さようなら(去り際のあいさつ)として使われた『ありがとう』にはやんわりとした拒絶がこもっている気がする。まったく目を合わせてこない相手だとなおさらだった。
(次の授業は今日よりは『まし』よね、きっと)
ちょっとしたやり取りが無駄に終わっただなんて思いたくない。おさげの子はなんとなく後ろ髪をひかれているように見えたが、それはクラリスの願望かもしれなかった。
自分の分のノートやペンを片付けながら、クラリスは小さなため息をついた。
(またあの羊皮紙に何か書こうかな、シリウスならそれなりにレスポンスが返ってくるし)
「もう研究室には来ないの?」
いつの間にかネイト・ティプトフト(友だちのレイブンクロー生)が近くに来ていた。
「面白い本も見つけたところなんだ。君もきっと気に入るよ。特に紋章学や魔法陣との相性がいいんだって。ほら杖呪文は強力だけど細かな調整がむずかしいじゃないか。瞬発的で劇的な変化にはいいんだけど、効果を長持ちさせるのには向いてないって。まえに読んだ本に書いてあったの覚えてる?ひとの心みたいなものを扱うなら何か形づくるとか刻むとかも研究した方がいいんだと思う。一部の闇の魔術では──」
クラリスが何か返事をする前に、彼はぺらぺらとしゃべり出した。頭の回転がはやいせいか、彼がマシンガントーク気味なのはいつものことだ。
心なしか、まだ教室内に残っているハッフルパフ生のまとう空気が重くなった気がする。
「あのね」とクラリスは強めの口調で差しこんだ。
「ほかの子もいるのにそういう話はしないで。これ以上友だちがいなくなったらイヤなの。だから研究室に行くのもやめたのに」
目元にちからをこめて、クラリスはきっぱりと言いきった。
「いいからいいから。じゃあ僕の友だちと一緒にいればいいんだよ。ひとりでいることなんてないだろ」
「そっちにつき合ってると一人になっちゃうのよ」
「ひとの研究しているもので色眼鏡をかけるやつなんて放っておけばいいんだよ」
放っておいたらこんな状態がずっと続いてしまうのだ。それがイヤだからやめろと言っているのに、彼はまるで意に介さないつもりらしい。
(ひとの話を聞かないやつね)
親切で言っているつもりなのはわかる。でも彼らについていってしまうと状況がもっと悪くなるかもしれないのに。
ネイトは寮で浮いているのかというと、そうでもないらしい。彼は一人でいるわけではなかった。今も彼にくっついてきた他の男子たちがいて、まるでネイトの意見に賛成しているみたいだった。ちなみに女子はいない。
「その……レイブンクローは気にしないの、そういうの?友だちでいても平気?」
クラリスが尋ねても、青いローブの同級生はみんな「気にしない」と返答した。
彼らの意見をまとめるとこんな感じだった。
「ほら、闇の魔術ってかなり雑多なジャンルじゃないか。取り扱いが危険だったり、ひとを害する目的のものだったり、下準備や手順自体が誰かを死なせるようなものだったりさ。生贄やら物騒な道具とかがいるパターンもある。つまり、『触れない方がいい』ってものをごちゃっとひとまとめにしてるわけだ。呪文やジンクス、
とすると、自分の興味ある分野のなかでも危険なものは全部"闇の魔術"って括りになってたりするわけだ。危険なものを威力を落として安全にする研究なら昔からある。だから殊更に避けようって感じでもないな。もちろん、別に犯罪者になりたいわけじゃないから、そんな連中に協力しないけど」
成績が悪いとか天然すぎるとかでなければ、あんまり仲間外れにされたりしないと彼らは言った。
「過激なものであっても学問は学問だよ。さすがに危険な集団に共感してたら嫌がられるけど、そういうやつらの活動に加わるわけじゃなくて自分で研究するだけなら、むしろ勧められるくらいだ。『彼らの主義の是非はどうか』だとか『歴史上で同じような出来事があったから今後はこうなるだろう』とか、そういう研究だって好きな子はいるだろ」
もっともらしい筋道の立った主張である。
(そうは言うけど、本当に危ないものだと思ってるのかしら?)
クラリスの目には、彼らは大穴のすぐそばで
「君だってレイブンクローに入ればよかったんだよ。帽子は何か言ってなかった?」
「ええ、まあ。レイブンクローもすすめられたんだけど、優しい人が多いところがいいと思って。だからハッフルパフに入りたかったの」
ふうん、と返事をしたハッフルパフ生のひとりが相づちをうった。
「僕もハッフルパフは優しいって思ってたけど、けっこう冷たいじゃないか。
あれだろ、君に『死喰い人のスパイなのか』て訊くこともしないんだろ。喧嘩でもなんでもさ。訊いてくれれば『違う』って言えるのに、取り付く島もないじゃない。『関わりたくない』って顔をしてさ。女子って面倒くさいな」
「私も女子なんだけど、ごあいさつね?」
「そういうのも面倒くさいから止めてくれよ」
「もう昼休みだし、このまま僕らのテーブルに来ちゃいなよ。ほかの生徒の目なんて気にしなくていいじゃない」
彼らとの付き合いは控えたい。
しかし去られてばかりの時にやって来た生徒を拒絶することも、クラリスにはできなかった。
(……どうしたものかしら)
クラリスは例によって一人のまま、生徒たちの少ない談話室にいた。
ワイン樽の入り口をくぐってすぐの広間のような場所だ。丸テーブルとイス、あるいはソファなどがいくつも設置されていた。天井は低く、スリザリン寮のそれを比べるとまるで穴ぐらの中のようだった。
ハッフルパフ寮はもともと明るく、さらにランプもところどころで灯っていてぬくもりに満ちている。いまは日中だが夜になっても明るさはあまり変わらなかった。
壁には全体的に植物のツタや根がはり巡らされていて、年じゅう枯れることはないらしい。ほとんど寒さが厳しいハイランド地方であってもだ。ところどころに緑の葉が開いているし、きっとそういう魔法がかかっているのだろう。
たいていの生徒が誰か友だちと過ごしているので、クラリスのようにぽつねんと取り残されたような子はとても珍しかった。
目の前にあるのは、くだんの"透きとおったドア"だ。風景を切り取ってドアに張りつけたような見た目をしていて、クラリスが近くを通るとうすく開いた。談話室の壁にかけられた"魔法大臣エルドリッチ・ディゴリーの肖像画"からちょうど裏側にあたっている、寝室へつながる廊下に入ってすぐだ。
ハッフルパフ寮の寝室はほとんど談話室から
クラリスはこの日、自分の寝室とは反対側へとつづく廊下をすすんでいたのである。
授業のないコマに誰か会えるような友だちもいないから、ふっと『スリザリン寮にあったあの部屋みたいなものがハッフルパフ寮にあるのかもしれない』と思ったためだった。
(ここなら誰にも見られずに一人になれるかもしれないけど……)
誰かが近くにいるのに一人でいるよりは、誰もいないところで一人の方がまだましな気がした。
しかし、入ってすぐ次の試練が始まってしまうなんてことも考えられる。
試練を教えてくれた肖像画の人が言う通り、試練なんて続けない方がいいんじゃないだろうか。『誰かに見られずに済む部屋』ができてしまうなんて危険すぎる。たとえ5人が誰も口を割らなくても、危険な生徒たちにバレない保証なんてないのだし。
先日ジェームズとシリウスが「君の寮に変わったところはないか」と訊いてきたときも、クラリスはそのように意見を言った。
しかし2人は「そんなのつまらないじゃないか」「どんな試練かわかってれば、そいつらも試練を突破した時にどうにかできるじゃないか」と頑としてゆずらなかったのだ。
クラリスだって探さないつもりでいたのに、つい魔がさしてしまった。
(だって、2人が勝手に乗りこんできそうだったんだもの)
クラリスはなぜだか自分に言い訳したくなった。
ジェームズたちは相変わらず透明マントで身をかくして、ふらふらと夜間に外出しているらしい。グリフィンドール寮にはドアがないことはとっくに確認済みなのだと言う。
だからクラリスが「ハッフルパフ寮にもドアなんかなかった」とウソをついたとしたら、次はレイブンクロー寮に探しに行くだろう。
その後は?
しびれを切らした彼らがここまで探しに来そうな気がする。それでクラリスがウソをついていたことが2人にバレたら、友だちじゃなくなってしまうかもしれない。
(もっと友だちが減っちゃうなんて……)
2人の抑えがきかなくなってきたら、いっそのことドアのことを明かして5人全員で話しあった方がいいのかもしれない。3人で反対すれば諦めてくれるかもしれないからだ。
(きっと、ハッフルパフの寮生で
クラリスは廊下のすみからすみまでを点検するように、ぐるりと首をまわした。
通路に面した寝室のドアはどれもワインの大樽のように大きくて真ん丸だ。そのどこからも誰かが出てこないことを確認してから、クラリスは試練の部屋のなかに入ってみた。
室内はスリザリン寮のそれと同じつくりの部屋だった。ほこりが積もっているのも同じ。部屋の中央には暖炉が設置してあって、クラリスが戸をくぐるとにわかに火がともった。壁に備えつけられたランプにも同じように火が入れられたようだった。
スリザリン寮の部屋を思えば、きっと危険はないはずだ。入れるのも恐らく第一の試練を突破できた生徒だけ。
それでもクラリスはごくりと唾を飲みこんで、杖を構えた。"試練"と呼ぶのだから、いきなり何かが襲いかかってくることだってありうる。
あるいは、それでクラリスが脱落してしまえば全員不合格で終われるのかもしれない。そうなってしまうのが一番安全なのかもしれなかった。
心臓がどきどきとうるさかったし身体も震えていたが、それでも談話室に一人でいるよりはよっぽどましだ。
ほこりの積もった石づくりの床を慎重に進んだクラリスは、そのままあっけなく部屋の奥までたどりついた。
そこの壁には肖像画はかかっていない。木の腰壁があるだけののっぺりとした壁だった。その代わり、穴熊をかたどったのだろう四足の銅像らしきものが置かれていた。ふさふさな毛が再現されたお腹まわりはクラリスでも両手で抱き上げられそうなサイズだ。
(この穴熊がなにか案内してくれるとか?)
クラリスは小さな犬を前にしたときみたく屈んで、穴熊像にゆっくりと手を伸ばしてみた。
『──お一人なの?』
クラリスはぎょっとして肩をはねさせた。
その像は生きているものかのように動いて、クラリスをひたと見つめてきたのだ。いのちのないはずの目は、なんだかきらきらと瞬いているかのようにも見える。穴熊の口元はすべらかに女性の声をつむいでいた。
クラリスはまだどきどきした心臓が痛いのを我慢しながら、どうにか答えた。
「ええと……ひとりで様子を見に来たんです。他のみんなはどうかしら、まだ来ていません」
『そう。第二の試練は何人でも受けられるようになっているのよ。ひとりでも、全員でも、何人かでも。誰かが合格すれば他の子も第三の試練に進めるわ』
「そうですか……」
つまりクラリスたち3人が協力を拒否しても、シリウスやジェームズが合格してしまえば次の試練に進めてしまうのだ。2人を食い止めることはできそうにない。
がっかりしたように口をへの字にしたクラリスに対し、穴熊はつづけた。
『第二の試練は、これから言う一つだけの設問に正しく解答することよ。
"第三の試練は何の試練かを答えなさい"
これが、第二の試練です』
クラリスは目をまたたかせた。
「"何の"?それってどういう意味ですか?」
クラリスの問いに、穴熊は明確に無視をするように視線を虚空にもどした。まるで『もともと一つも動いていませんよ』という素知らぬ顔をしているように見える。
「"次はグリフィンドール寮の試練"……とか?」
穴熊は何の反応も見せなかった。不正解ということだろうか。
「じゃあ"次はレイブンクロー寮の試練"」
それでも像はぴくりとも動かなかった。
「──ということがあったのだけれど」
クラリスの説明を聞いたリリーとセブルスは目を見合わせた。ちなみにセブルスはすぐに顔を赤くして視線を外していたりする。
「"どんな試練"ってどういうことなのかしら……」
リリーは特になにか気づいた様子はなく、試練の正解に興味があるようだった。その緑のくりくりとした目を虚空に向けて、ヒントをどこからかひねり出そうとしているようだ。
「試練は受けない方がいいってすごく反対してたくせに。探さないんじゃなかったのか?」
セブルスは意地悪くそう言った。どうやら先ほどの自分の不審な動きをごまかすために、クラリスを突っつくことにしたようだ。照れるのはいいけど八つ当たりはしないで欲しい。
クラリスは反発するように「いーっ」と歯を見せた。
「私が何もしなくたって、シリウスもジェームズも試練を進みたがるに決まってるわ」
第一の試練の頃から、3人で集まるのはまた少しずつ難しくなってきていた。セブルスが抜け出せるのはあくまでシリウス関連のことであってリリー自身は関係がない。その上、ブラック家は半人間やマグル生まれを嫌っているのが本来の流儀である。シリウスが異端なだけだ。リリーは見た目ではマグル生まれなのか純血なのかまではわからないが、純血主義者でないことくらいはバレている。
だから、3人で集まるには「3人ともシリウスに関係がありますよ」という顔をしていなければならない。場合によってはシリウスにも協力してもらわなければならなかった。
セブルス自身は寮内で微妙な立場になってしまったらしい。
シリウスがもしもスリザリン入りしていたならばブラック閥はトップだが、現実ではグリフィンドールに入ってしまった。しかも来年入学のレギュラス・ブラック(シリウスの弟)はスリザリン寮に入りたがっているらしい。セブルスがレギュラスと友だちになるのか敵対するのかというところでも、セブルスがどんな扱いになるかが変わってくるのだろう。
セブルスはそのようにリリーとクラリスに説明してきた。
柵の向こうで大時計の振り子が左右に揺れているのを眺めながら、クラリスは「そういえば」と話を変えた。
「結局"エイダ"の正体はわからなかったわね……。あの後、セブルスは誰かに見つかったりとかしなかった?マルフォイはいなかったって聞いた気もするけれど」
「いや。ただ……トーマスが起きていたんだ。4人部屋に戻ったら」
「なにか調べてた?」
「……かもしれない。特に何も聞いてはこなかったけど」
シリウスに『怪しい』と疑われているトーマスは、試練の後でもいつもと変わらないのだとセブルスは言った。
「あいつが何を考えてるかはわからない。なにかマルフォイに命令されていそうな気もする」
セブルスは首を横に振った。
誰かに聞かれたらまずい話題を挙げているが、3人とも心配はしていなかった。辺りにはギリギリと歯車同士がかみ合っている音が満ちているからだ。もしも誰かが通りかかってもどんな話をしたかまではわからないはずだ。なんなら自分たちも相手の声を聞き取るため、そばに寄りあっていなくてはならなかった。
「"エイダ"が偽物の名前ってことはないかしら。"シンデレラ"役みたいな感じで"エイダ"役がいる、とか」
リリーがぱっと思いついたようにそう言った。
「あー、つまりコードネームってやつか?」
セブルスの相づちにリリーは満足そうにうなずいた。
「それよ!"007"みたいなものなんじゃない?」
ちなみに1971年に007映画シリーズの第7作目"ダイヤモンドは永遠に"が公開されている。
うーん、とクラリスは首をひねった。
「だったら"
「"007"は一番つよいんじゃなかったか?"001"から"009"のうちで」
「つまり……エイダが一番強いのかしら?それともグループのリーダーとか」
そのほかにも3人はいろいろな説を出しあった。たとえば"魔法薬で複数人がエイダという人物に成りすましている"説や、"すごい実力を持った人の称号のようなもの"説などだ。
そのほかにも"Ada"というつづりが"DADA"から先頭のDをとったもの、つまり"対・闇の魔術"というところに目をつけて、"闇の魔術で大変なことが起きた時にどうにかする係"なのではないかというアイデアもあった。
真面目だったのはその辺りまでで、やがて3人で『誰が一番おもしろい説を出せるか』を競いあうようになっていった。
2人がだす珍妙な説に、クラリスも声をたてて笑った。何も考えずに気を抜いていられる時間はとても貴重なのだ。だからずっとそうしていたかった。
"闇の魔術でつくられたロボット"説まで飛び出したところで3人は口をとじた。吹き抜けの下、一階部分から誰かの人影が通るのが見えたからだ。
(終わっちゃったな……)
先ほどまでの和気あいあいとした雰囲気が消え去ってしまった感じがして、クラリスはうつむいたまま顔を上げられなかった。
べつに何か面白いものを見つけたわけじゃない。だから何となく目線を階下から自分のつま先の方にうつして、次に粗末な木のゆかを眺めていた。グリフィンドール塔の、使い込まれていても磨き上げられたそれとは違ってなんだか色あせてひび割れている。
「ねえ
まあね、とクラリスはそれでも明るい声色で答えた。リリーはたくさんの助けてくれているのに、もっと心配させるなんて嫌だった。
「みんな爆弾でも見つけたって顔をするのよね、失礼しちゃうわ」
「
リリーがそう励ます、もしくは慰めるような声をかける一方、セブルスは何か考えこむように腕を組んだ。
「どうしたの?」
「なにか使えそうな魔術をかんがえてる」
「"闇の"でしょう。私が欲しいのは魔法がかかっていない、ふつうの友だちよ。2人みたいな」
クラリスが釘をさすと、セブルスはしぶしぶと「わかった」と腕をといた。
「ねえ
リリーが珍しくそんな提案をしたので、クラリスは驚いた。もちろんリリーと2人で遊ぶことだってあるが、セブルスと知り合ってからは3人でいる方が圧倒的に多い。ちなみに、もっと日数を重ねているのはセブルスと2人で何かしら"手伝い"に出ている時になる。
クラリスが目を丸くしたものだから、リリーは苦笑いを浮かべた。その赤毛がつややかに揺れたように見える。吹き抜けの上の方から陽光が差し込んできたようだった。
「なんで2人だけで?」
真っ先に反応したのはセブルスだった。仲間外れにされたくないからだろう。
「ちょっとね。
「ぼくに言えないようなことなのか」
「そういうのじゃないわ。でも2人の方がいいと思ったの」
不満そうな顔をしたままのセブルスに対して、リリーも
それがわかったのか、セブルスはくやしそうに『きっ』とクラリスを睨みつけてきた。先日のペチュニアの目に似ている気がする。リリーを取られたからってやきもちを焼くんじゃない。
「
クラリスのその一言であっさりと陥落したようだった。
その後、3人でジェームズとシリウスの説得に行った。
『これ以上試練を進めない方がいいんじゃないか』ということを3人で主張したが、やはり2人とも聞く耳をもつ気はないようだった。
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
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【活動報告】にあげて欲しい
-
【本編】にあげて欲しい