セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
2025/4/29 一部微修正済み
≪ああーっと、ゴトゥベッド選手、ブラッジャーを密集した先頭集団の方へ打っ、おっと離脱が間に合わなかった!先頭集団に直撃です!≫
歓声や声援にみちた競技場内では、ひときわ大きな生徒の声が試合を実況していた。
上空で高速のほうきを乗りまわしながらやるスポーツであるためか、全員の視線は上空に向かっている。時おり座席すれすれのところを選手たちが飛んでいくと歓声があがった。
いち学校に敷設するには広大な競技場のなかだ。観戦席は生徒たちでひしめきあっていて、大まかに色で分かれていた。今日の試合はハッフルパフ対スリザリンというカードだったため、自然と黄色か緑色のローブの子が目立っているようだ。
とはいえ、それ以外の色だってかなりの数が見渡せる。魔法スポーツとしてほとんど唯一にしていっとう人気の競技とあって、"クィディッチ"は特に活発な子どもたちの貴重な娯楽になっていた。たとえ自分の寮の出番でなくとも応援はできる。
そのため人ごみでごったがえしていた観客席は通路までもがふさがっていて、遠くに知り合いを見つけても近寄ることはできそうにない。
「ああいう妨害ってアリなの?」
スポーツ全般にうといクラリスがそう尋ねると、リリーをはさんで奥にいる
「とてもオーソドックスね。ひたすらシーカーを狙う戦法もよく見るわよ。だからチームの誰かが"護衛"につくパターンもあるけれど、どちらにしても一人手がとられてしまうのが悩みどころ」
クラリスと話してくれるということは、もちろんその制服の色は黄色ではなく赤だった。リリーの友だちでもある彼女は、クラリスを受け容れてくれる数少ない同級生の一人だ。クラリスの隣にはリリーが座っていて、その隣に座っているのが彼女だった。
「シーカーってすごいのね。一人でチームの勝利が決まっちゃうなんてベースボールのピッチャーみたい」
そう応じたのはリリーだった。彼女はスポーツの観戦が好きだったので、目を輝かせて試合のゆくえを追っているようだった。
「ベースボールも空中でやったら面白いかも」
「そうね。もっとスポーツが増えたら楽しそう!マグルのスポーツを魔法アレンジしたらとっかかりになりそうよね。フットサルとかも」
「ラクロスみたいに箒に乗りながらボールをまわしていくなんてどう?」
「うーん、それはクィディッチに近いところがある気もするわね。ラグビーっぽくするのはどうかしら」
クラリスのアイデアに今度はべつのグリフィンドール生が答えた。彼女はクラリスの隣、リリーとは反対側に座っていた。
グリフィンドール生らが観戦しているのはもちろんスポーツが好きというのも理由だが、今回はクラリスにつき合ってくれている部分が大きかった。
クラリスが寮にとけこむためにはハッフルパフ生と一緒に応援した方がいいのだろうが、みんなで応援しているところに輪に入れず一人になってしまうのは寂しすぎる。
「見ろよ、スリザリンのシーカーは相手シーカーの妨害と、相手のスペースの邪魔をやってるよな、あれ」
「たぶん……そこまで目が良くないんだろうね。才能が飛びぬけてるシーカーがいないとそうやるしかないよ。ハッフルパフの方は自分に有利なスペースをつくってて、スリザリンの方が見つけたら動き出そうっていう戦法だね。シーカーが味方の補助にまわっちゃいけない、パスをまわしちゃいけないなんてルールはないし、確か」
ざわめきのなかで聞こえにくいが、彼女らのほとんど目の前の席にはシリウスとジェームズの姿もあった。
(2人は参加できるようになったらすぐにチームの選抜に立候補するって言ってたわね)
彼らもリリーと同じくクラリスのことを多少は気にしているようだが、もともと
試合は拮抗していて、点差はほとんど開いていない。どちらかに得点が入るともう一方もすぐに巻き返すので、一進一退を繰り返している状態だった。今のところはスリザリンが一歩先に行っているが、追いすがっているハッフルパフを突き放すことをできないでいる。
スリザリン寮の生徒の一団は彼女らとはかなり離れていて、クラリスの目にはどんな風に応援しているのかも判然としなかった。参加人数がかなり多い、セブルスの話ではほとんどの寮生が動員されているそうだ。一方でハッフルパフ生も同じくらいいるように見える。こちらは友だちを応援したいという心根の子が多いようだ。特に呼びかけなどがなくても、それぞれが自分から出向いているみたいだった。
ハッフルパフ生がゴール前までにたどり着いたもののシュートが阻まれてしまい、スリザリン寮以外の生徒たちはみんな落胆の声をあげた。だからだろうか、近くの一団が愉快そうに声をたてて笑ったのがひどく目立って聞こえてきた。
「いい勝負をしてる『ふり』か?大した"お行儀のよさ"だな、マナー大会にでも出たら?『正々堂々頑張ったから後悔しない』とか何とか一生遠吠えしていろよ負け犬ども!」
選手への野次というだけでなく、周囲の観客にまで聞かせるような大きな声で、その生徒は大げさに手を広げてみせた。スリザリン寮はラフプレー上等なところがあり、対するハッフルパフ生は正々堂々とした実力で打ち破ることを目指しがちだ。後者で勝つには圧倒的な実力を持っていなければ難しく、拮抗した状態では負けることも多々ある。そのことを当てこすった言い方だった。
「その辺にしてやれよ、ミスター・リーコック?」
その緑色の生徒のすぐ後ろにいる上級生がたしなめるように言ったが、彼もにやにやと馬鹿にしたような薄ら笑いだった。
「こいつらは自分たちの実力のなさを『公正にやったせいだ』ってことにしたいだけでしょう?」
「言い分の余地くらい残してやりたまえ」
静まったタイミングでわざわざ大声を張り上げている以上、彼らがわざとやっているのは明白だ。"試合に勝つための工作"でも仕掛けているのかもしれない。試合に勝てても『みんなに嫌われたら負け』とは考えないのだろうか。
ほかのハッフルパフ生たち、特に上級生は下らないもの、たとえば地面に落ちている洗濯ばさみとかを見つけた時のような顔をしてから、彼らを無視して選手への応援の声をあげた。あるいはメガホンのようなものをたたいたり音を立てたり、はたまた呪文で応援メッセージをえがいたりして、中傷の声を埋もれさせる作戦らしい。
わざわざ誰かが「みんなで応援しよう」と言い出さなくても当然のように参加してゆくのだ。観客席で魔法を使うのは禁止だった気もするが、特に先生たちの『おとがめ』はない。
クラリスもハッフルパフ生への声援に参加するべく、思いつく限りの応援の言葉をあげた。
その後もその一団は選手を嘲笑したり遠回しに嫌味を言い続けていた。あらん限りの大声で注目を集めようとしていて、言葉づかいもどんどん荒っぽくなっている。
「──ボールを持たせていいのか、"穢れた血"なんかに!」
「いい加減にしろよ!試合に関係ないことをペラペラとうるさいぞ!」
近くにいたハッフルパフ生の一人がとうとう彼に注意した。周りの生徒たちも「よく言った」と賛同する表情をして、リーコックの方をみんなで睨みつけている。
いくら"お人よし"と言われがちな寮であっても、侮辱されて嫌な気持ちにならないわけじゃない。特に彼らは、公平であることや不平等でないことを重視するためか差別主義者を嫌っていた。
ピッチのなかの選手たちは罵声から守れたはずだったが、近くの観客席にいた生徒にはその差別発言まで丸聞こえだったのだ。まだ下級生なら頭にきて当然だった。
「その"弱い"ハッフルパフにすぐ追いつかれてるじゃあないか!くだらない言いがかりは止めろ、みっともないやつ!」
今にもつかみかかりそうな勢いだったが、混雑しているせいでお互いがそんなに近くにまでは寄れていなかった。
クラリスがいるのはその騒動とは少し離れた、グリフィンドール生が多いエリアだった。
(こういう時ってどうすべきかしら……)
リーコックはどうやらあまりいい性格ではないし、クラリスだってカチンとくることも多い。でもスリザリン生だって、マルフォイ監督生や良家の誰かに命じられてやっているかもしれないのだ。
ほかのハッフルパフ生に加勢した方がいいのかもしれないのに、心のどこかでブレーキがかかってしまったクラリスは動けなかった。
そのあいだにも嫌味や冷笑でくるスリザリン生に対し、ハッフルパフ生はあくまで正論で応じていた。ほかの生徒たちへの印象は決まったようなものだ。騒動が聞こえる範囲にいたグリフィンドール生はみな、『加勢してあいつをやっつけてやりたい』とでも言いたげに口論を見守っているようだった。
迷いながら周りを見渡していたためか、クラリスは『あら?』と別のことが目に留まった。
(そういえば、どうしてスリザリン生がこんなところにいるのかしら)
大半の生徒は彼らとは座席がかなり遠い。そして、よく試合が見える席はどうやら上流階級の生徒が座っているようだ。爪の先ほどのサイズにしか見えないが、ナルシッサ・ブラックだと
それなのに、口やかましい子たちはハッフルパフ生の座席近くにいる。まるで離れ小島のようだ。
クラリスがその"島"の面々を確認するため顔をじっくり眺めていると、生徒の一人がにやりと笑ったのが見えた。「しめた」とでも思っているような顔つきだ。
(これが狙いだったってこと?)
観客席で騒ぎを起こすことがいったい何につながるんだろう。これも試合に勝つためだとでも言うのだろうか。
クラリスはピッチの方をうかがってみた。選手たちも先生も試合に集中しているようだ。しかし時おり、騒ぎの方を気にかけているのか顔をそちらに向けている。
(まさか先生の目を盗むため?)
こっそり選手が不正をするのを手助けするのが目的、なんていうのは考えすぎだろうか。
こういう時に一番怪しいであろうルシウス・マルフォイはチームの司令塔のような役割をしているらしい。何が目当てなのか、審判の先生にタイムを申し出ていた。「何か騒動が起こっているようだから」という理由をつけているが、クラリスにはなにか狙いがあるような気がした。
その後彼らはフィールドに降り立って何やら選手と話し合っているようだった。重要なポジションを
審判の先生や観戦している先生もその騒動にかけつけて注意すると、実にあっさりとスリザリン生たちは矛をおさめた。
間もなく空が曇ってきて風が出てきた頃に試合は再開された。
得点は100対110でいまだにスリザリン有利だったが、スニッチを取って150点を得た方が勝つ状況に変わりはなかった。
「ん?」
「ハッフルパフのシーカーが動きだしたわね」
リリーがいち早く何かに気づき、解説してくれた子がそれに合わせた。
戦術にもよるが、シーカーが一目散に何かを追いかけ始めるのは金のスニッチを見つけたタイミングとなる。
「でもスリザリンのシーカーは全然別のところに飛んで行ってるわよ」
「スニッチに気づいてないのかな?」
しばらく観察してみても、シーカーはてんで別の方向に何かを追いかけているように見える。箒の柄をぎゅっと抱くようにしてスピードを上げているようだった。チームの支援や妨害を頭に入れていないような動きは、やはりスニッチを見つけた時みたいだった。
一刻も早く捕まえた方が勝つ状況なのに、どちらかがわざわざ遠回りでもしているとは思えなかった。
「どうなってるの?」
困惑しているのはクラリスたちだけではなかった。ほかの生徒も口々になにかを発していて、すぐにざわめきが波のように広がっていった。
「なあ、あいつ何かあやしい動きをしてないか?」
シリウスが(おそらく隣のジェームズに)こっそり耳打ちしたのがクラリスの鋭敏な耳には聞こえてきた。
クラリスもためしにシリウスと同じ方角をうかがってみると、先ほどうるさかったリーコックは腕をローブの下に引っ込めて何かをやっているようだった。両袖が空っぽなのがその証拠だ。
しかしそれが、何かフィールドのなかに影響をおよぼすような行動なのかまでは察せられない。
「ねえ、何か試合でおかしなところはある?」
クラリスが2人の肩をたたいて尋ねてみると、シリウスは「ちょっと待ってろ」と答えた。
「……さっきからハッフルパフ生がボールをもつと、ハッフルパフのシーカーが邪魔になるところに移動してる気がしない?」
「でもシーカーはスニッチを追いかけてるだけだろ、自分のチームの邪魔をしに行くわけない」
クラリスはひらめくものがあって2人のやり取りに参加した。
「つまり、邪魔するようにさせられてるってこと?」
「どうやってだよ」
「スニッチに何かをしてだよ、シリウス」
「まさか」
シリウスは一笑にふすかのような言い方をした。
「試合で使う"金のスニッチ"に妨害魔法が効くわけないだろ」
「アイツをどうにかすれば分かるよ、きっと」
ジェームズは推理を投げ捨てるつもりらしい。腕づくで解決する気満々という顔で杖を取り出した。
「どうにかってどうするつもりだよ。近寄ったりはできないぞ」
堂々とグリフィンドール生が歩き寄ったりしたら、スリザリン生が守りをかためるに決まっている。かといってこっそり移動することもできなかった。観客席が埋まっているためだ。
ジェームズは悪戯っぽい顔で「こんなのはどう?」とシリウスに耳打ちした。
*
クラリスは成りゆきを見守っていた。
周囲のスリザリン生に姿を隠されるようにしながら、リーコックは安全な観客席に座ったまま、時おりローブのなかでこっそりと何かを動かしているようだ。
その彼の足元から、なにかレンガ1個くらいの大きさの板がふわりと忍び寄った。そのまま膝の上まで浮かんだ後、ぽろりと力を失ったように転がる。
悲鳴がいくつもあがった。リーコックだけではなく、周りにいた生徒たちも一斉に自分の席から飛びのくようにした。立ち上がってできるだけ遠くに逃れようという子もいる。
板の上には何匹ものゴキブリがひしめいていた。それだけではなく、その上の何匹かが板を離れて辺りを走りまわりはじめたのである。
遠目で眺めていたクラリスの背中にも
本物にしか見えない動きだ。それが悪戯グッズであると教えてもらっていても気色が悪すぎる。
ジェームズの話によると、それには改造が施されているらしい。また危険な連中と戦わなければいけなくなった時のために、自宅でいろいろ見つくろったのだと言っていた。
慌てて立ち上がった何人ものスリザリン生は、軒並み石床に足をすべらせてすっ転んだ。シリウスが"
上級生こそ「なんだ、偽物か」と見抜いたようですぐに落ち着いたものの、低学年の子は底をひっくり返したかのような大騒ぎになっていた。
誰かが不用意に"
観客席はパニック状態で、はた目にはフーリガンが暴れているのと違いはない。
「ははっ、ざまあみろだ!」
シリウスかジェームズか、どちらかが大混乱の生徒たちを見て愉快そうに笑ったのがクラリスの耳にも聞こえた。喧噪のなか、2人はほとんど誇らしそうな顔でハイタッチをしていた。いけ好かないスリザリン生たちに一泡ふかせたのが愉快なのだろう。他の生徒にも飛び火していて被害を受けているようだが、そっちは気にはしていないようだ。よくよく見ると自分たちの近くにいたハッフルパフ生もグリフィンドール生も同じように爆笑していた。
しかし、目的は彼らに恥をかかせるようなことではなく、あくまで試合の方にあるはずだった。だからクラリスはスリザリン生の狂乱ぶりからピッチの中へと視線をうつした。
まだ試合は続いている。ちょうど黄色の目立つシーカーが、ビーターの間を縫うようにして一直線に飛び上がったところだった。ほうきにほとんど抱き着くようにした身体から、右腕だけを横に広げるようにしている。
間もなく直線上にいたスニッチらしきものをつかみ、その選手はそのまま減速することなく太陽の方へ向かった。
「わかった、あれは偽物のスニッチだ!」
ジェームズが確信をもったようにそう声をあげた。
どうやらスリザリンのシーカーも動きに気づいたらしい。急いでそちらに行こうと方向転換したはいいものの、ボールをもった先頭集団に阻まれて迂回せざるを得ないようだった。
つるっとした金色の光がまたたいたのがクラリスにも見えた。ほんの小さな砂粒みたいな大きさだ。
その光はまるで自分の意志をもっているかのように、ハッフルパフのシーカーの手のひらのなかに飛び込んでいった。
ゲームセットのホイッスルが鳴って、次々と高度を下げた選手たちが地面に降りたっていった。
ハッフルパフのシーカーは勝利をアピールするようにぐるりと観客席の近くを飛びまわり、まるで最後を飾るようにゆったりとピッチの中央に近づいていった。
ゴーグルを押し上げたその顔には赤みがさしていて、勝利を心から誇るような満面の笑みが浮かんでいた。対戦相手が忌々しそうな顔をしているのとは正反対に。
先に降りていた選手たちは喜びを分かち合おうと、両手を広げて迎えるような仕草をしていた。
両チームが審判をはさんで向かい合うように整列すると、シーカーが一歩進みでた。堂々とした足取りだ。
「先生」
彼は両手を広げてなにかを審判に申し出たらしかった。
観客席からは遠すぎて、その手の中にあるものは見えない。
クラリスはジェームズに尋ねてみた。
「あれってなあに?」
「たぶん……別のスニッチだと思う。練習用のものがあるんだよ。事前に練習しておかないと本番で身体が動かないからね。『ダミーを追いかけさせておいて自分たちは本物をさがす』なんてやりそうじゃない?たしか手元でダミーの動きを操作できるやつもあったはずだ。遠くから方向転換させたりとか。
なんて言ったっけ、あー……、ジラコン?みたいに」
「……"ラジコン"のこと?」
「そう、それ」
彼の隣にいたシリウスが「"らじこん"って何だ?」と尋ねると、「今度ウチに来たら触らせてあげるよ」とジェームズは答えた。
どうやらジェームズは持っているらしい。クラリスにとっては全く縁のないおもちゃだ。リリーの住んでいる地域で見かけたことが何度かあったが、子どもがみんな持っているようなものではない。
欲しいと思ったことはないのでうらやましいわけではなかったが、自分がなんにも持っていないんだと思い出してしまって、クラリスの胸がちくりと痛んだ。
そんな彼らの近くで、やかましかったスリザリン生たちの小島はまた口々に野次をとばし始めた。
「自分たちの力で戦えないのか!」だとか「先生に密告するなんて卑怯だぞ!」だとか。
調べられたら困るから悪あがきしているようにしか見えない。目の前で告発しているので"密告"ではないし。違反した相手を告発するのはむしろ道理に則(のっと)ったおこないだろう。
その場にいたほかの生徒は全員、心の中で『卑怯なのはお前だよ』と思ったことだろう。
「卑怯なのはそっちだろ」
シリウスは思うだけじゃなくて言った。ほとんどせせら笑うような調子だった。
顔をゆがませた生徒たちが杖を抜こうとローブに手を突っ込んだところで、シーカーの声がした。
「──"
ピッチ全体にしっかりと聞こえるような、きっぱりとした口調だった。しかも、シーカーはその一団を真っ向から見すえていた。
審判の先生は口元を引きしめた厳しい表情になっていた。
「没収試合にすべきでしょう。もちろんハッフルパフの無条件勝利として」
「その必要はないじゃろう」
観客席にいつの間にやら現れていた校長先生が立ち上がってそう答えた。ほかの生徒たちもぎょっとした顔をしていて、先生がそこにいることに気づいていなかったようだ。
それはともかく、先生は不正についてどうこうと追及するつもりはないらしい。
(本当にそれでいいのかしら?)
クラリスは胸のなかに納得のいかないもやもやが広がるような心地になった。どっちにしろハッフルパフチームの勝利ではあるけど、悪質な妨害をなかったことにするみたいじゃないの。
校長先生は悪戯っぽい顔で手をひろげ「みんな、点数表をご覧」と呼びかけた。
400対110。
それが試合の結果だった。
「スニッチが紛れ込んでしまったが問題はないじゃろう。ハッフルパフのシーカーは2つスニッチを取ったのだから、点数も2つ分となった」
どうやら校長先生は犯人さがしをするつもりはないらしい。それどころか、不正があったのだということを知らしめることすらしないようだった。たくらみが失敗に終わったからだろうか?
何人もの生徒が「えー」と不満をもらし、ジェームズもむくれていた。
「放っとくっていうのか。不正したやつがいるのに」
「先生がやらないなら、こっちでやるしかないな?」
シリウスがそう応ずると、ジェームズもニヤっと笑った。『2人でこらしめてやろう』と言っているかのようだ。
「僕も参加させろよ」
シリウスを遠巻きにしていたはずのグリフィンドール生が、2人と同じようにニヤっと笑って言った。
「あの2人ってあんなに愉快な子だったのね。知らなかったわ」
競技場からの帰り道、黄色のローブの生徒が話しかけてきた。クラリスには見たことのある顔の気もしたし、違う気もする。
クラリスはできるだけ感じが良くなるように笑顔を浮かべた。
「やりたい事をすぐにできるのっていいわよね」
クラリスではそうはいかない。なにかグッズを用意するのも、自分がやりたい事だからと押し落とすのも。
きっとそれは、ほかの生徒にしても同じなのだろう。真っ向から挑んでいける2人が羨ましかった。
「ブラックだからあまり近寄りたくないと思ってたんだけど、大丈夫みたい」
シリウス・ブラックが大丈夫そうだからたまに一緒にいるクラリスも大丈夫だろうと判断した、ということらしい。
周りのハッフルパフ生も、下級生たちは「スリザリンのやつらの顔、見た?」と胸がすいたのだろう表情をしていた。
“公平”のハッフルパフ、つまり守るべきルールを重視するため卑怯なやり口が嫌いなのだろう。お人よしで争いを好まないとはいえ、人間なのだから好き嫌いがないわけではない。
スリザリン寮に反感をいだいているのはグリフィンドール生だけではない。その証拠に、同じように学校に戻るほかの生徒たちも何やら噂をしていた。
「能力が高いやつだって多いのに、なんでわざわざ卑怯な手を使うんだろうな。生徒同士の試合だぞ?」
「良家はいろいろ大変なのよ。どうしても結果を出さなくちゃいけない時というのがあったりとか」
「それってどんな時?親のチェックが厳しい、とか?」
「そういうのももちろんある。両家の子はそれ以外の子と違って優秀じゃないといけないから。会社を引き継いだり買ってもつぶしちゃったら意味がないでしょう。卑劣な社員を見逃さないようにしなくちゃいけないし」
良家の子が全員スリザリン寮に入るわけではない。だからきっと、訊かれた生徒もそういう人なのだろう。秩序を守るような会社だったら、社長がハッフルパフ的な公平さを持ち合わせていたら頼りになりそうだなあとクラリスは思った。たとえば警備会社とか。
寮に戻るまでのあいだにこれまでクラリスを遠巻きにしていた同級生たちも会話に加わってきた。めいめいに『スリザリン生のせいでこれまでにこんなに嫌な思いをした』というエピソードを紹介していて、まるで品評会みたいだった。
「すっごく馬鹿にしてくるわよね、あいつらって」
「そうよね。私も『自分もえらくなったつもりか』とか言われたわ、たしか」
クラリスもそう答えた。今までなんとなく噛み合わなかった同級生とのやりとりから、今はようやく一体感みたいなものを覚えるようになった。3ヶ月過ごしていてやっとだ。
(悪口だけど)
ほかの生徒も同じように感じたのではないだろうか。やっと仲間に入れてもらえるのかもしれなかった。背中から緊張が少しゆるんで、クラリスはふうと胸のなかにわだかまったものを吐き出した。
「全員ろくでもない連中ばっかりだ。ブラックに付きまとってるヤツだってそうだろ。どうせ見張ってるんだよ。友だちでいてあげる必要なんてないさ」
それは明確に、クラリスに投げかけられた言葉だった。
(それは……)
どう答えたらいいんだろう。何人もの同級生の双眸がクラリスの方を観察するように見つめているのがわかって、クラリスの背中がまた板でも張ったかのようにピンと伸びた。
きっと「そうよね。誰も彼もがろくでもないわ」とでも答えたらきっと、仲間になれるのだろう。明日から寮のなかで友だちになれる子だって出てくるかもしれない。
そうやってみんなには答えておいて、何くわぬ顔で今まで通りシリウスやセブルスとも友だちでいればいい。こんな話をしたなんて伝わらないだろうし、もし伝わったって悲しんだりはしないはずだ。
スリザリン寮のなかがどれほど息苦しいところなのかなんて、みんな知らないのだるう。むしろ色々聞けているクラリスの方がめずらしいのだ。
「──みんなじゃないわ、きっと。一部には入りたくなかった子だっている」
クラリスの返答に、同級生たちの並んだ顔が一気に険しくなった。きっとクラリスなら同意すると考えていたのだろう。
怒るどころか、無表情だったり冷たい目を向ける子すらいた。
「なんだよ、味方するつもりか」
「そういうのじゃないわ、ただ……」
「結局、あいつらにもいい顔をしたいんだ?死喰い人になるようなやつだって沢山いるのに」
クラリスは何度も「そうじゃない」と言った。
「嫌いな生徒だっているわ!」
クラリスだって大多数のスリザリン生は好きじゃない。全てを悪いと言えなかっただけだ。それでも彼らは裏切り者を見るような目をやめてはくれなかった。
──間違えてしまった?
クラリスは顔から血の気が引いていくような感覚がして、どうすればいいかわからなかった。
彼らの聞きたかった答えではなかったことだけは確かだ。自分の本音を伝えただけだったのに。
「ふーん、なんだそういう子なんだね」
期待はずれだと冷淡さを隠さない声をした同級生の一人が、クラリス以外の同級生に呼びかけるように言った。
「みんな、僕らもみんなで卑劣な真似をゆるさないようにしよう。やっつけるかはともかく、連中に負けないようにするんだ」
そうよびかけてから、彼はクラリスを鋭い目で一瞥してきた。
「君はなにもしなくていいよ。僕らの応援もね」
その目はありありとこう語っていた。
「お前は
●ハッフルパフについての解釈
性根の悪い子は入れないので、苦しめたくて積極的にいじめたりはしないでしょう。でも好きじゃない相手を避けることはあると考えます。
人間だし同級生もまだ12歳なので仕方ない。
逆に、上級生はわかってくれる人もいます。
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
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【活動報告】にあげて欲しい
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【本編】にあげて欲しい