セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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今回ちょっとジェームズがかわいそうなのですが、今後の展開のために必要だからね仕方ないね。

2024/12/28短かったので前話と合体
2025/4/29 一部微修正済み


第三の試練 レイブンクロー寮2(修正済み)

 

 

 

 

 

 

 うす暗い談話室のなかは"勉強"の音で満ちていた。

 金属のペン先が分厚い紙を引っかいたり、目当ての文章をさぐるためかページをめくり続ける音なんかが一番目立つ。その合間にこそこそと小声で相談しあっている生徒の姿があった。その雰囲気は図書館に少し似ていた。

 セブルスもまた、彼らにまじるようにして机に向かっていた。

 

 マルフォイが主催する"勉強会"はずっと続いたままで、ブラック派閥に入った後も変化はあまりなかった。マルフォイ派閥もブラック派閥も大して変わらない。違いがあるとすれば、直接の頼みごとをしてくる相手がルシウスかナルシッサかという違いくらいしかない。そして、ナルシッサが何か言ってくることは少なかった。

 

 生徒たちが勤勉にも机に向かっているのは、ひと月ほど後に学期末の試験を控えているためだ。図書館は将来を決めるような大切な試験を受ける上級生が使っていることが多く、低学年は上級生の引率のもとに談話室の一角にかたまっていた。

 とはいえ、良くも悪くもスリザリン生であるためか、『点数さえとれれば後は忘れてもいい』と短期間で詰め込んでいる子もいるようだった。

 

 結局、レイブンクロー寮での試練は宙ぶらりんになっていた。誰をリーダーにするかがついぞ決まらなかったからだ。

 

「じゃあ、わかった。リーダーを順番にまわそう。それならいいでしょ?」とジェームズは提案したが、「何度も挑める試練なのかわからないだろ」とシリウスが異を唱えた。

「一度きりだったら、やっぱり信頼できる人に任せたいわ」とクラリスが言うと、リリーも「"友愛"の試練みたく、本当に任せたいって人を選ばないとダメなのかも」と答えた。

 

 そのあたりを決めるヒントが欲しかったが、どうにも質問は受け付けてくれないようだ。というより、そもそも受け付けてくれそうなものが部屋にいない。肖像画も銅像も何もないのだ。

 結局は意見が2つに割れたままで、どちらかの組が譲らないと話は続かないのに、お互いにお互いを説得する材料もないのである。どうにもならなかった。

 

 その上、『みんなを避難させたい』というジェームズの言に、セブルスはあまり心を動かされなかった。『自分たち3人のうち、リリーにだけ避難できる場所がないのは嫌だな』と考えたのがせいぜいである。

 どうしても先に進めたければ、ジェームズとシリウスもリリーをリーダーとすることに同意するかもしれない。そうなれば話は早いはずだ。

 

(もう少し待った方がいい)

 羽根ペンを横に滑らせると、インクが切れた先端が紙にひっかかった感触がした。

 

「やあ、やっているね。この分なら今年も枕を高くして眠っていて良さそうだ」

「これは先生。先日は……そう、有意義な方をご紹介頂いてありがとうございました」

 いつの間にやって来たのか、スラグホーン先生がルシウス・マルフォイに話しかける声が聞こえて、セブルスはちらっとそちらに目をやった。

 

 珍しいことではない。それどころかたまに見かける光景である。これまでもスラグホーン先生はちょくちょく寮にまで足を運んで様子を見に来ていた。特にテスト勉強をしているときに多い気がする。あとはマルフォイが寮のなかにいる時だろうか。

 

 スラグホーン先生は、どことなく皮肉っぽい笑みのマルフォイに鷹揚にうなずいて見せた。

「君も未来を考えるならば人脈を広げておくべきだろう?」

「ええ、まあ。ですがあまり通じておくのにふさわしくない思想の持主というのはいるでしょう。先生がそうせよとおっしゃるなら出来うる限りの善処はいたしますが」

 

「それでいいとも。考えの合わない者でも偉大になることはあり、それを認め『育てる』度量も君ならば持ち合わせていることだろう」

「見込んでいただくのはありがたいのですが、我が家の方針をお忘れなく」

「学生のうちは寮監と仲良くしておいて損することはないよ、と助言しておこう」

 

 世間話をするような調子だった。ほかの生徒の前でできるような話ということなら、どうやら隠しごとではないようだ。

 

 どうやら先生は誰か、マルフォイと『考えの合わない』人を紹介したらしい。わざわざ誰か紹介するくらいに親しいのなら、やっぱり死喰い人(デスイーター)とも親しいのだろうか。

 だったらDADAの先生(闇の魔術研究グループの引率)とはどうだろう。最初にジェームズ達が"エイダ"を見たのは魔法薬学教室の近くだし、夜間の活動に協力しているかもしれなかった。夕食の席でDADAの先生と話しているのも見たことくらいはあるが、学校で先生同士が話しているのは普通だ。

 

 スラグホーン先生を信用していいかわからなかった。

 マルフォイの方は当然に死喰い人(デスイーター)関係者だろうから信用できないが、かといって"エイダ"に関係があるかどうかまでははっきりしていない。

 

 そもそも、夜間の"クラブ活動"についてセブルスが何か目撃したことはない。

 ジェームズたちが見たというのを疑ったりはしないが、所属しない生徒の目につかないようにしているのだろう。当然だ。ジェームズたちだって尻尾をつかめば校長先生に訴え出るし、そうなれば連中も活動ができなくなる。

 

(活動してる現場をおさえられれば試練を進めなくてもいいのに)

 それができる透明マントでの夜間外出は、寮ゴーストが談話室を見張っているせいでできなくなっているのだ。

 

「ああ、ところで先生」

 会話が途切れたところでマルフォイが尋ねた。

「あの"垂れ幕"はやはり、それぞれの寮で何かが起こると考えてよろしいのでしょうか?」

 セブルスはどきりとして"e"と"i"を書きまちがえた。

 

 落ち着け。それがわかったからってなんだ。マルフォイにグリフィンドール寮の友だちなんているわけない。ほかの生徒だってそうだろう。

 つづりを修正しながらもう一度ちらっとマルフォイの方をうかがうと、今度は目が合った。

 

(……まずい)

 見られている。

 すぐに目をそらしたものの、冷や汗がぶわっと吹き出す感じがして、手元が震えて文字が少し乱れた。

 目立つようなことをしてしまっただろうか。たとえばすごい顔をしてしまったとか。必死に記憶をさぐってみたが、聞いたときに自分がどんな風だったかを思い出すことはできなかった。

 

(絶対にマークされてる)

 ロボットにでもなったつもりで気持ちを隠すしかない。

 そんなセブルスとマルフォイの攻防(?)に気づいているのかどうか、先生はあまり乗り気でない様子で答えた。

「あの垂れ幕はただの飾りかもしれないよ。この学校にはもう使われていない設備がたくさん残っているからね」

 

 

 

「──ああ、それはスラグ・クラブだよ」

 セブルスが"過激派"の上級生にマルフォイの会話のことを聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 

「あの先生、いわゆるパトロンってやつでね。将来大物になりそうな生徒をコレクションするのが好きなんだ。そういう生徒を応援するのもね。

 見る目は確かなんだけど"穢れた血"まで成功させちゃうからね。多分そういう人を監督生に紹介したんだろうな。

 寮監のくせにわかってないよなあ」

 呆れたようにそう話した上級生にセブルスは「どうも」と頭を軽くさげた。

 

「夜更かししすぎだぞ。明日も授業だろ」

「あー……。ぼくは夜の方が元気なので」

「吸血鬼じゃあるまいし」

 適当に返事をしたセブルスに上級生は軽く笑って、そのまま寝室へつづく廊下への階段をのぼっていった。

 

 セブルスは可能な限り周りからわかりにくい、部屋の角のソファに深く座りなおして、脇に置いてあった本を手に取った。

 周りには生徒のグループがまだちらほらと残っているが、だいぶ減ってきた頃合いだった。

 

 夜間の外出が禁じられてから、つまりジェームズやシリウスが"エイダ"について調べられなくなってから、セブルスは念のため談話室でギリギリの時間まで粘ることにしていた。

 万が一にでも"エイダ"らしき生徒を見つけられたら何かわかるかもしれないからだ。

 

 ジェームズやシリウスに聞いた特徴のある生徒のうち、セブルスは怪しいのをようやく何人かまでに絞りこんでいた。しかし、現在まで特に怪しげなことは見かけていない。さすがに談話室で危険なことはしないのだろう。

 

 ならば例の"クラブ活動"の日がつかめればいいのだが、あいにく活動日の告知みたいなものを見かけることはなかった。談話室にいれば、夜間外出で出ていくようなことがあればすぐにわかる。

 

 スリザリンの中に彼らがいるのは確定しているのだから、セブルスにはどの生徒が"エイダ"だと突き止めても意味がない気がしてきていた。怪しげなやつがいればそいつが"エイダ"だろう、多分。

 

 だからこの日、"隠し部屋のドア"をじいっと見つめるような生徒がいて、しかもそれが"エイダ"容疑者だったものだから、セブルスはぎくりと体をこわばらせた。

「ねえ」

 彼女の目だけがぎょろりと動いて、セブルスをとらえた。

「シリウス・ブラックがこの寮に入るのを手助けしたんだって?」

 

 何かバレてしまったのだろうか。それともマルフォイが話したのか。確か彼女はマルフォイと関係がふかいグループにいたはずだった。

「手助けなんてしてない。いつの間にかそれっぽいやつが入ってただけだ」

 セブルスは事実を答えた。セブルスが入る手助けをしたのはリリーとクラリスだし、シリウス(とジェームズ)はいつの間にか入ってきていた。

 

「ふうん。それで、彼はここの辺りで消えた?」

「……マルフォイ監督生が何か調べていたけど、何もわからなかったみたいだ」

 

"エイダ"らしき女子はつまらなそうな顔をした。

「ずいぶん正直だね、そんな顔には見えないけど」

 嘘かどうかがわかる魔法でも使っているのだろうか。あと顔のことは余計だ。

 

 危険かもしれない相手だが、セブルスはとっくにマルフォイとだって舌戦をやり合ったのだ。それよりも身分が下の相手に引っ込んでいるつもりはなかった。

 できる限り気圧されないようにとにらみ合っていると、彼女は冷静に言った。

「そういえば、君もDADAの研究室に通っていたんだったね。闇の魔術に興味が?」

「……死喰い人に誘われないなら」

 これも本心だ。そもそも第一の試練にいたるきっかけは『死喰い人と関係ないなら加入したい』とうっすら考えていたからだった。結局うやむやになってしまったが、もしもマルフォイと関係が深いなら関わらない方がいい。リリーにこれ以上嫌われたくないというのもあるし。

 

「ブラック家と仲はいいようだけど?」

「ブラック家と付き合うのも『半純血にはふさわしくない』って言われた。死喰い人なんてもっとだろう」

 こんなのは秘密の話でもなんでもなく、みんなが知っていることだ。それに、セブルスは別にブラック家にふさわしくなりたいわけじゃない。理想はシリウス共々ブラック家から蹴りだされることである。

 

「あんまり恐れ多いから辞退する?」

「身分をよくわかってると言って頂きたいね」

 彼女はふっと笑った。

「そう。でももしも闇の魔術を極めたいなら、DADAの先生に"エイダ"のことを聞いてみて」

 まさか『試験勉強にはこの本がいいよ』とすすめているようなしゃべり方で、簡単に明かすとは思わなかった。

 彼女は、セブルスが"エイダ"について調べていたことには気づいていなかったのだろうか。

 

 セブルスはてっきり勘づかれているものと思っていた。ジェームズとシリウスが彼らの集会を見つけたことには気づかれていて、そのせいで"夜間外出"の対策(寮ゴーストの見張り)がとられたのだろうと。

 

 バレていないなら都合がいい。

 顔のパーツを動かさないよう気を付けながら、彫刻にでもなりきった気分でセブルスは尋ねた。

「"エイダ"って何なんだ?」

 

「A.D.A。なんの略称かは知らないけど、我々のグループの名前よ」

 実にあっさりと彼女は情報を吐いたのだった。

 

 

 

"エイダ"容疑者、いや"A.D.A(エイダ)"構成員の一人はそう言って女子寮の方に戻って行った。

 

 グループ名だと判明したのはいいが、それでなにか状況が良くなったわけでもない。むしろ『やっぱりマルフォイがボスなんじゃないか』と疑惑が深まったので、より一層注意すべきだ。そういう意味では状況は悪くなったのかもしれない。

"試練"についても何かやっているようだし。

 

 ひとまずは残り4人にこのことを伝えるとして、今後はすぐに試練を進めた方がいいのかもしれない。

 

 どうすべきかと迷いながら寝室の方に戻ると、話し声が漏れ聞こえてきた。とぎれとぎれにしか聞こえないが、トーマスが何か2人に話しているらしい。

「エ……ダからは抜け……だ。物騒に……」

 

 ドアをさっさと開けて入るべきだろうか。

(盗み聞きできるならその方がいいかも)

 

 トーマスが正直にいろいろ打ち明けてくれるような気はしなかった。

 もともと彼はマルフォイのグループから抜けたいのだ。そのせいか、過激派筆頭ことブラックのグループに入ってしまったセブルスには何かと言えないことも多そうだった。いくらシリウスといっしょにいることが多いといっても、スリザリンで同じグループのほかの人と話さないわけじゃない。

 

 それに何を話しているのかも気になる。

 トーマスは"A.D.A(エイダ)"には絶対に興味がない。それでもマルフォイのグループにいるのなら加入させられることだってありうるんじゃないだろうか。

 

「……ら、ヤック……家に戻っ……1年前なんだ。お父さ……再婚させら……」

 どうやら身の上話でもしているようだった。セブルスは『海外にいた』とは聞いていたが詳しいことは知らない。ただ、シリウスは『ヤックスリー家にあんなやつは知らない』『注意しろ』と言ってきていた。

 

『たぶん死喰…………しれない。どうにか逃げ……けど』

 気になる内容が多いのにうまく聞きとれない。

 

 透明マントが手元にあれば、中に堂々と入って聞き出すことだってできるのに。家宝というそれは望みすぎだとしても、シリウスやジェームズなら何か有用な道具を持っているんじゃないだろうか。こっそり盗み聞きできるようなものを。

 

(だからってあいつらに頼ってばっかりなんて嫌だ)

 

 それでもセブルスが"持って"いない現実には変わりはない。お小遣いだって持っていやしないのだ。

 ここにあいつらがいるなら、いともあっさりと解決できるんだろう。それがくやしくて仕方がなくて、セブルスは歯ぎしりをした。

 

 できることは呪文や魔法を磨くことだけだ。だったらいずれ、道具なんかに頼らなくてもいいようになってやる。

 

(今は、出来う限りのことをするしかない)

 セブルスは顔を上げてから寝室のドアをくぐった。

 

「……いま、トーマスの話を聞いてたんだ。ヤックスリーの家にトーマスなんて名前の子はいないってみんな知ってるからな」

 セブルスはこっそりと盗み聞きしていたことをおくびにも出さずに「そうなのか」とうなずいた。

 

「それで、どうだったんだ?」

「ン……いろいろ複雑っぽいけど、間違いなくヤックスリーのうちの子みたい」

「ヤックスリー家に問い合わせてもらってもいいよ。マルフォイ監督生だって調べてそうだし、そういうの」

 トーマスは肩をすくめてそう言った。本人は大して気にしているようには見えないが、あまり話したそうではなかった。

 

 同室の2人は当初、あまりトーマスやセブルスと交流をもたなかったが、それなりに話すようになったのだ。セブルスがブラックのグループに入ってからはまた危うい感じだったが、穏健派と交流をもちたいトーマスに乗っかる形でひとまずは話すことくらいならできる。

 

「ぼくにだけ話さないことないじゃないか」

 セブルスがそう言うと、トーマスは何とも言えない不満そうな目元をした。

「だったら君だって何をやっているのか話せるのか、ぼくらに?」

「ン……」

 正論である。相手から詳しく聞きたいなら自分も詳しく話せというのは。

 

 だがセブルスにはこの寮のなかで話せないことが多すぎる。

 ブラックのグループにいるのなら『マグル生まれと半人間の幼馴染がいる』というところからもう口に出せない。『入学前に死喰い人と敵対したことがあります』も無理だ。"試練"の話なんかどう漏れ伝わるかわかったものじゃない。絶対にダメだ。

 

「……安全になったら、いつか話す」

 そう絞り出すのがやっとだった。

 

 

 

 

 

 

(試練をすすめた方がいいのかもしれない)

 エイダらもそうだが、試練に関して何かしら探りを入れてきているような気がする。彼らにそれが“試練“だとバレているかはともかく。

 手段を選ばない集団、特に死喰い人に関係する連中に『ほかの誰にも入れない拠点』を独占されてはまずいだろう。

 

 そう思ってリリーやクラリスに相談しようとしていたセブルスは、『やっぱりポッターにリーダーを任せるのはいやだな』と考えを確かにした。

 

「エヴァーテ・スタティム!──宙を舞え!」

 目の前にはげらげらと感じの悪い笑い声をあげた一団がいた。みな赤いワッペンの目立つ制服を身につけている。集団になって囲いをつくるみたく人垣をつくっている連中と、その奥で杖を振るのが入り混じっているようだった。

 また何か、スリザリン生を標的にちょっかいを出しているのだろう。見たところ、一団はみんな自分達と同級生か、1つ2つくらいしか差がないようだった。

 

「ダメなことをしてるってわかってるくせに!あなたたち最低だわ!」

 壁になっている生徒に立ち塞がられながらも、リリーはその奥にいるシリウスとジェームズに向けて声をあげているようだった。

 

 彼らは今のところリリーに対しては何かちょっかいをかけられるような気配はない。もしもそいつらが「うるさい」とでも言ってリリーに何かしようものなら、セブルスは人に掛けてはまずそうな呪いをふんだんに味わわせてやるつもりだった。

 

 リリーのそばにいた彼女の友だちは呆れたような顔をしていて、リリーが声をあげるのをたしなめた。

「放っておきなさいよ、ブラックなんか。どうせ意地の悪いスリザリンもどきなんだから」

 

 以前のいたずらからこっち、特にシリウスは『自分が死喰い人(デスイーター)側のスパイ扱いされている』と不満をもっているせいか、積極的にジェームズに加担しがちであった。

 死喰い人(デスイーター)らしき存在に呪いをかけられた被害者(グリフィンドール生)を知ってしまったせいで、もともと気に食わなかっただろうスリザリン生への態度が最悪なものになってしまったのだ。

 

 シリウスなどにいたっては、ジェームズが使わないようなえげつない悪戯グッズまで平気で使うところも見かける。たとえば踏んだら巨大な花火を打ち上げるようなものを見えないように敷き詰めて、そこから逃げ出そうと必死になっているのを眺めるようなことをする(まるでどこかのデスゲーム主催者のようだ。ちなみにデスゲームものという概念は1970年代にはあまりない)。

 

 それでも、セブルスは死喰い人(デスイーター)関係者ならまあいいかと放置していた。マルシベールなどの好きじゃない生徒にはむしろどんどんやればいいとすら思っていた。

 しかし。

 

(さすがにやりすぎだ)

 ここひと月ほど、彼らに何かされている相手は表立ってほかを見下すような生徒ではなかった。"過激派"ではあるので、確かに『もしかしたら何か死喰い人関係者とつながりがあるのだろうか』くらいの薄い怪しさみたいなものはある。しかしそんなものは、大抵のスリザリン生には当てはまってしまうものだ。"過激派"の親に生まれついてしまったら、そのグループから抜け出すのは簡単じゃない。

 

 次の試練を進めるためにリーダーを決めなくてはいけないのならば、弱いものに手を出すやつより、それを止める方がよっぽどふさわしいじゃないか。

 シリウスやジェームズよりもリリーの方が合ってるに決まっている。

 

 セブルスはその集団から少し離れたところにいた。グリフィンドール生の近くで動向をじろじろ観察しようものなら面倒なことになるからだ。それでも緑のローブでは対立しがちな相手であるため目立ってしまう。だから極力ひとの陰に隠れるような位置を選んだ。これから起こることを見張っているためだ。

 

(リリーやぼくの言うことを聞き入れない、あいつらが悪いんだ)

 セブルスは袖のなかに杖を隠しながら、目を離さぬようにそちらを見やった。

 

 グリフィンドール生が何をやっているかは人垣でよく見えない。おそらくは以前の"ねずみ花火"的ないたずらグッズを使っていた時のように、なにか焦らせるようなものを仕掛けているのだろう。呪文からして、なにか投げつけてでもいるようだった。

 

 シリウスが杖をたずさえて前に出ると、標的にされている生徒は表情を変えずに静かに言った。

「よした方がいい。スリザリン生には君の家の関係者もたくさんいる。ブラック家がもっている店で働いている人だって沢山いるんだぞ。仲が悪くなっていいことなんて」

「いいことしかないね!デパルソ──しりぞけ!」

 

 その生徒は間髪いれずに手慣れた様子で杖を振った。

「ディセンド──落ちよ」

 シリウスの杖が、それを握っている腕ごと思い切り下に押し付けられて、シリウスはつんのめるようにして床に転んだ。

 本来は浮いているものに使うような呪文のはずだ。しかも低学年ではまだ教わっていない。

「こんな風にも使える。覚えておきたまえ」

 そう気取ったように言って、そいつは良質な靴音をさせながらシリウスの杖を踏みつけた。

 

「先に手を出したのは君だぞ、ブラック。こちらは身を守っただけだ」

 真っ先に身分を気にする"ザ・スリザリン生"である彼は、"王族"の跡取り候補No.1に自分から仕掛けてはまずいと考えていたようだ。

「──動くな」

 ジェームズらほかのグリフィンドール生を睨み、その生徒はシリウスへ杖先を向けた。人質にしているようだった。ジェームズは上げかけていた杖腕を硬直させて睨み返すことしかできないようだった。

 

「お前1年生じゃないな!」

 セブルスは『その通り、ポリジュース薬だ』と内心でジェームズの解答にチェック(正解)をつけていた。

 

 この後"彼"が何をするつもりなのかも大まかに知ってはいる。さすがに生徒に大けがをさせたり死なせるようなことはしないそうだ。そこまでしてしまえば先生だって魔法で調べるだろうし、そうなれば彼のしわざだとバレてしまうからだ。もともと父親が死喰い人(デスイーター)と目されているのだから先生たちだってマークしている。

 そこまでのうっかりをしてくれないから、セブルスにとって厄介な人物なわけだが。

 

「エヴァーテ・スタティム──宙を舞え!」

 シリウスは思い切り後ろに吹っ飛ばされ、2階の通路の柵にぶつかった。そのままでは落ちてしまうので慌てて柵に手をかけてぶら下がるような格好となった。 

「さあ、助けねばならないだろう?」

 急いでそちらに向かおうというグリフィンドール生の背中に向けて、そいつは呪文をとなえた。

 

「ヴィンガーディアム・レヴィオーサ──自由浮遊!」

 かけられたのはジェームズただ一人だった。

 ふつうに使えばふわりと浮かせるくらいの呪文のはずが、空中をぶんぶんと振り回すように上下左右に移動させられている。

「1年生の魔法でもこの程度はできる」

「ポッター!」

 

「おや、こちらに構っていていいのかな?ブラックが落ちてしまうぞ」

 彼は愉快そうに高笑いをしてから、空中でもがきながらどうにか杖を振ろうとしているジェームズごと、大扉をくぐって行った。

 鐘楼塔の方だ。

 ドアの向こうには2名、まるで従者のように控えていたスリザリン生がいて、そのまま重たい大扉をばたりと閉じた。

 

 

 

 ポリジュース薬で1年生に成りすましていたのはルシウス・マルフォイである。

 彼が1年生に扮することになったのは、セブルスが予想していなかった方に話が転がってしまったからだった。

 

 彼らの標的が死喰い人との関係の薄いスリザリン生におよんですぐ、セブルスはすぐにジェームズとシリウスにそのことを告げた。

 シリウスは特に不服そうで、吐き捨てるような反応だった。

 

「スリザリンの連中で死喰い人に無関係なやつなんていない。魔法界出身じゃなくて純血主義でもないお前の方がおかしいんだよ。

 それともなんだ、純血主義者とお友だちになりたくなってきたのか?」

「そんなのじゃない。

 お前の方こそ、本当はマルフォイとお友だちになりたいんじゃないか?」

「なんだと……!」

 

 シリウスがセブルスに詰め寄るのと、「やめなよ」とジェームズの声が割って入ったのは同時だった。

「きみのわかりにくいジョークって、最悪。こういう時だと」

「ジョークじゃないからな」

 ひと言断ってから、セブルスは2人をじろっと見た。

 

「だっておかしいじゃないか。

 お前たちが嫌いなのは死喰い人(デスイーター)だろう。それなのに一番怪しいマルフォイ()()には手を出してない。

 勇敢な騎士だったら真っ先にやっつけようとしたっておかしくないのに。

 だったらどっちかだ。お前たちは強いやつには挑まない腰抜けか、ほんとうはマルフォイと仲良くしたいかだ」

「お前……!」

 

 ついに我慢し切れなくなったシリウスがセブルスの胸ぐらをつかんだ。

「こっちは箒に乗ってあいつとやりあっただろ!後ろからこっそり呪文をかけてたお前の方が腰抜けだ!」

「あの時はあいつをやっつけたわけじゃない。どうにか逃げただけじゃないか!あれからマルフォイは放っといてるくせに、もっと弱いやつを狙うなんてグリフィンドールの騎士道っていうのはずいぶんと素晴らしいね!」

 

「君だってマルフォイの仲間とずいぶんと仲良しじゃないか、食事のテーブルなんかでさ!本当は女子2人(リリーとクラリス)と手を切りたくてうずうずしてるんだろ?」

「そういえばリーダーになりたいとか言ってたやつがいたな?ぼくはお断りだね、お前なんか!」

 

 こうやって3人ともが頭にきたそばからお互いに言い返すものだから、あわや杖を取り出す寸前だったのだが、途中でやって来たリリーとクラリスが止めに入ったのでうやむやに終わったのだった。

 

 説得に失敗したセブルスは「あいつらなんて知るものか」と放置するつもりだったのだが、シリウスと喧嘩をしたというのがナルシッサ・ブラックの耳に入ってしまったのだ。険悪なのをべつに隠していなかったのだからそうもなる。

 

 何があったのかを尋ねられたので、はじめは「何もなかった」と答えたが、彼女もそれでは引き下がってくれなかった。

 だから仕方なく最小限『最近やりすぎだって言っただけです』とだけ伝えたのである。

 

 そうすると、ナルシッサはうなずいた。

「これ以上シリウスがスリザリン生をいじめると、ブラック家とその家が不仲になってしまうかもしれないわね」

 

 シリウスの敵は純血主義と死喰い人なのだ。だからいじめる標的としがちな生徒は純血主義が強いことが多い。純血主義が強いのは旧くからの良家だ。

 つまり、いじめられるのはブラック家関係者が多いのである。

 

 セブルスにとっては、そんなことはどうでもいい。ブラック家とそれ以外の仲が悪くなったり、シリウスがブラック家と喧嘩をしていてもだ。

 被害がそこでおさまっていればセブルスだってわざわざあんなことを言いに行ったりしなかった。エスカレートしてきたシリウスとジェームズをどうにか止めたかっただけだったのに。

(それでも悪いのはあいつらだ)

 

 しかし、話はそこで終わってくれなかった。この話が(おそらくはナルシッサ経由で)マルフォイの耳にも入り、「協力して事に当たろう」ということになったらしい。

 セブルスにとっては予想外だった。

 

 あまりマルフォイと関わりたくはない。

 彼にマークされている今、借りをつくってしまったら『代わりにシリウス・ブラックがスリザリン寮で何をしていたのか調べてこい』などと命令されかねない。

 だから気が進まなかったのだが、その借りはどうやらルシウス・マルフォイとナルシッサのあいだでどうにかすることになったらしい。

 そこまでは良かったのだが、セブルスは当事者でもあったのでこの計画を知らされたのである。

 

 計画……つまり、マルフォイが魔法薬でいじめられる生徒になりすます。

 

 変身できる魔法薬……ポリジュース薬は校則をいくつも破らなければつくれない。だからマルフォイたちが校則違反するのを告発することなら、セブルスにもできるはずだ。

 なら先生に報告するか?

 しかし、セブルスは具体的にどこで密造するつもりなのか知らされていなかった。スリザリン寮のどこかであれば見つけ出せるかもしれないが、見つけたところで寮監はスラグホーン先生なのだ。

 先生がセブルスの味方をしてくれるかどうかわからなかった。

 何より、『誰が先生に告発したのか』と犯人探しをされたらすぐにバレてしまう。

 だから何も言えなかった。

 

 そして現在につながる。

 今回マルフォイがやることはシンプルだ。

 ポリジュース薬で1年生になりすましたマルフォイに、シリウスとジェームズを突っ込ませる。2人がいたずらを仕掛けなければそれで良し、仕掛けるなら反撃を受けると、そういうことだ。マルフォイなら部下任せにしそうだという予測に反して、彼はみずから率先して引き受けていた。

 そして2人は今その罠にかかってしまい、セブルスは状況を見守っている。

 

「お前たちは向こうの扉をふさいでいろ」

 1年生に扮したマルフォイが冷たい表情で命じるのを受けて、部下らしいスリザリン生はそのまま入ってきたのとは反対方向の扉に向かって行った。

 鐘楼塔は普段から人の出入りが少ない。魔法史の(眠たくなる)授業で1階の展示品使うくらいだ。鐘なんかに用がある生徒だってそうそういない。つまり先生に何か発覚しにくい場所だった。

 

 それでも別の建物に通り抜けたい生徒はいるだろうから、そうそう長く締め切ってはおけないはずだ。

 

 セブルスは状況が見えるよう、入ってきた大扉のすぐ近くにこっそりと立っていた。

 

 大人の世界が戦争中であり、学校でもその力関係が生きているとはいえ、さすがに学校の中で生徒による殺しあいは起こっていない。ジェームズ・ポッターは子どもなので敵(不死鳥の騎士団)に入っていないし、ナルシッサ・ブラックの遠い親戚でもあるのだから、そこまではしないと聞いている。

 今回の目的はあくまで、彼らのいじめ(やりすぎ)をたしなめることなのだから。

 

 

 

 

 床に放り投げられたジェームズを、小柄な1年生に変身したマルフォイは冷徹な目で見下ろした。口元のうっすらとした笑みは、まるで皿に乗った料理にどう取り掛かってやろうかと計画しているかのようだった。

 

 マルフォイのお付きは誰もこの塔に入ってこないように見張りに行ってしまったし、セブルスは遠目からこっそりと様子をうかがっている状態である。

 

「決闘だ、ポッター。杖を構えたまえ。それとも戦う前から降参するか?もっとも、降参したいと言っても聞き入れるつもりはないがね」

 あざけるようなしゃべり方だった。

 

「大勢で囲むことはできても、自分より強いものに挑むことはできないのか?グリフィンドール……」

 ジェームズは痛いところを突かれたかのように口を引き結びながらも、杖を構えた。

 いくら彼でも勝ち目の薄いことはわかったはずだ。だから背を向けて逃げ出すよりも時間切れを待った方がいい。そうそう長いこと一つの建物を閉め切ってはいられないはずだ。ほかの生徒たちが先生を呼ぶだろうし。

 

 決闘の作法にしたがい、2人が向かい合ってお辞儀をしたのがセブルスからもみえた。

 ジェームズは一切ためらわずに杖を振った。

「エクスペリアームス──武器よ去れ!」

「フリペンド──回転せよ」

 武装解除呪文の赤い光は、となえたジェームズの体がコマのようにぐるっと回ったために明後日の方向へとんでいった。

 ジェームズよりも呪文が短いマルフォイの方が、唱える時間がかからない分早かったのだろう。

 勢いのよい回転に巻き込まれるようにして転がったジェームズに、さらに追い撃ちがかけられた。

「エヴァーテ・スタティム──宙を舞え!」

 ジェームズの身体がふっとばされ、硬い床に背中をしたたかに打ちつけたのが見えた。かなり痛そうだ。

 

 そこで武装解除呪文を使っていれば、ジェームズの杖がマルフォイの方に飛んでいって勝負はついたはずだ。

 それを使わないということは、痛みを与える効果のある呪文をわざと使ったのだろうか。

 彼が愉しむような笑みを口元に浮かべるのを見ていたセブルスは、嫌な気配を感じとって杖をいつでも振れるように手元に引き寄せた。

 

 痛みをこらえているのか、ゆっくりとした動きで起き上がったジェームズは、それでも正面から決闘の相手をにらむように向かい合った。

「インカーセラス──縛れ!」

「ルーモス──光よ」

 普通の光よりもはるかに鋭いものがジェームズの顔に、というより目に当たって、狙いがそれたのかロープは上手く巻きつかなかった。その後は先ほどと同じようにマルフォイが追撃する。

「フラクト・ストレイタ──突き崩せ」

 ジェームズの片方のひざ辺りが突き飛ばされたようになって、つんのめるようになった彼はそのまま前方の床に投げ出された。

 

 同じような流れが、その後も何度もくり返された。

 ジェームズが挑んだ呪文はいなされ、或いはかわされる。涼しげに対応してみせたマルフォイはジェームズに呪文をあて、いちいち床に転がしたり壁に打ちつけたりしている。

 正体を隠すためなのか、ご丁寧にも1年生が使えてもおかしくない呪文しか使っていない。

 それでも6年生と1年生とではあまりに実力が違いすぎて勝負にならないのだ。

 

 さほど時間が経っていないというのに、ジェームズはなんとか立ち上がるのでやっとという有り様になっていた。

「ミスター・ポッター?私はまだ一歩も動いていないぞ」

 

(もうこれ以上は必要ないじゃないか)

 ジェームズがやり過ぎだったのは確かだが、彼は痛みを与えるというよりも驚かしたり(少し悪質な)悪戯をしかけただけだ。

 それに、マルフォイは「今後同じことをしないように指導する」とか何とか言っていたのだが、どう見ても痛めつけるのを愉しんでいるようだった。

 いたずらをやめさせて終わりにするとはとうてい思えない。

 

 先生を呼びに行くべきだろうか。しかしグリフィンドール生だってあれほど沢山目撃していたのだから、呼びに行ったはずだ。スリザリン生がそれをやってしまうと『犯人探し』がはじまってしまうだろう。

 何より、呼びに行っているあいだに何か取り返しのつかないことが起こってしまうかもしれない。

 何か別の方法を考えた方がいいんじゃないだろうか。

 

 セブルスは建物内をぐるりと見渡した。

 鐘楼塔のなかには大したものは置いていない。いくつかの展示品やベンチだけだ。

 できることがあるとすれば、先生を呼ぶことくらいだろうか。塔のてっぺんの方には鐘がある。無理やりにでも鳴らすことができれば、異常を知った先生がとんでくるはず。

 

 セブルスは2人の視界に入らないよう、こっそりと移動しながら階段に足をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




・"エイダ"は最後まで引っ張るつもりだったんですが、これ以上伸ばしても微妙なので明かしてしまうことにしました。
原作をお読みの方はお察しかもしれませんが、A.D.Aは「スネイプが加入していた闇の魔術のグループ」みたいなものをイメージして書いてます。


・校舎裏に連れていかれてボコボコにされている感
原作だとスネイプの後ろ盾がマルフォイ(拙作の表現でいうとマルフォイ閥)なわけですが、ジェームズの悪質な悪戯にはどうしてたんでしょうね。
報復しなかったのか、してたけどハリーが見れなかった部分だったのか、マルフォイ卒業後の話だったのか、スネイプが当時まだぼっちだったのかで解釈が分かれそう。


・ところで、原作でのジェームズ→スネイプへの悪質な悪戯描写って本当に完璧だったんだなー、と書きながら思ってました。
『暴力や窃盗などではなく、あくまで子どもの悪戯の範疇にとどまってる、でも最悪だって誰しも納得できる』いう意味で。
今話で同じくらい最悪な悪戯を描写したかったんですが、具体的に思いつかなかったです。

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

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  • 【本編】にあげて欲しい
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