セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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2024/12/30
ジェームズが冷静すぎたので一部改訂(流れは変わりません)

2024/11/7
入れておくべき描写があったのでちょっぴり改訂しました
マクゴナガル先生を演じられていたマギー・スミスさんが亡くなってしまった…R.I.P

2025/4/29 一部微修正済み


第三の試練 レイブンクロー寮3(修正済み)

 

 

 

 

 

 同じように何合か打ちあった後のことだ。

 ジェームズはそれでも真っ向から相手をみすえていて、あきらめるような仕草は見せなかった。

 

「ウィンガーディアム──」

 言いさしたところで、ジェームズはとんできた呪文の光に吹っ飛ばされ、背中を床に打ちつけた。

 長い呪文では速度で負けてしまうなんて、これまで散々繰り返してわかったはずだ。それなのにわざわざ唱えたのには何か狙いでもあるのだろうか。

 

 ジェームズは倒れ込みながらも、その杖先を1年生に化けているマルフォイへ向けたままだった。

「──レヴィオーサ!」

 マルフォイはひょいと横に避け、『何かしたか?』と言いたげな笑みをうっすらと浮かべすらした。

 

 ジェームズはそれでも、相手の顔ににっこりと笑いかけた。

「この回はぼくの勝ちだ」

 

 目をみはったマルフォイがそこで初めてジェームズから視線をはずした。

 辺りを探るように目線でひと薙ぎしているがもう遅い。セブルスの位置からは遥か眼下だったが、なんとかそこで何が起こっているか判った。

 彼らの背丈くらいはある巨大な鐘が、マルフォイの頭上に浮いていたのだ。

 

 ジェームズは何度も床に薙ぎ倒されながらも、壁に掲示されていた展示用の鐘が、マルフォイの背後に来るように狙っていたようだ。

 やがてジェームズの杖から呪文の光が途切れる。

 鐘が、金属の重みに従って落下しはじめるのを見届ける間もなく、ジェームズはよろよろと立ち上がり、近くの大扉へ向かって駆け出した。

 さすがに他の塔に戻ればそれ以上追って行ったりはしないはずだ。そもそも、そう長く塔の出入りを封じてはいられない。

 

 しかし、セブルスは息をのんだ。

(まずい、きっと予想されてたんだ!)

 咄嗟に杖を構えても、2人の姿は小さすぎて狙いがつけられない。

 セブルスがうかうかしているうちに、ジェームズの背中を鐘が打ちすえたのが見えた。

 急いで誰か先生を呼ばないと、ジェームズが何をされるかわかったものじゃない。

 

 もんどり打って転んだジェームズは鐘に押しつぶされて「ぐ……!」と声をもらした。ただでさえ硬い石の床なのだから、きっと骨にひびくほどに痛んでいるだろう。どこか折れたかもしれない。

 

「なかなかに面白かった」

 そう言ってジェームズを追い詰めるようにマルフォイが化けた生徒が歩みを進めた。その口元は『お前の抵抗をつぶしてやるのが心底愉しい』とでも言いたげに弧をえがいている。

 

 彼はそのまま鐘の下の方、少し膨らんだところに足をかけてぐっと体重をかけた。

 じわじわと体に食いこんでいくように薄い金属のフチが押し込まれて、ジェームズは途中で耐え切れなくなったのか悲鳴をあげた。

 その様子を眺めながら、マルフォイは実に愉快そうな声をだした。

「なに、不幸な事故で骨が折れたくらいなら薬ですぐに治る」

 

 ジェームズは痛みを堪えながらも負けないように大声を発した。

「そんな怪我をさせた生徒が学校に残れるもんか!」

「1年生なら呪文をうまく使えなくても仕方がない。それに、追い出されるとしてもそれはこの顔の生徒だ」

 どうやらマルフォイは、この出来事が明るみに出たら下級生を犯人に仕立てあげるつもりらしい。

 

「ひきょうなやつ……!」

 ぐんと鐘にのせた足に圧がかけられた。抵抗しようにもジェームズの杖腕は、その杖ごと鐘の下に入ってしまっている。

「許しを()えばやめてやるかもしれないぞ。気にいる態度ならばな」

「倒れたままで……気に入ってもらえるとは思えないね……」

「そこは保証しよう。さあ、はっきりと口にしろ!」

 ジェームズ痛みをこらえるように歯を見せて笑った。

 

「イヤだね。インカーセラス──縛れ!」

 別の生徒になりすましたマルフォイの足元からロープがぐるぐると巻き付いた。そこまでは予想していなかったのだろう。彼は咄嗟に身をよじってしまったのか、そのまま床に倒れた。

「鐘の下に隠していたか……!」

 手持ちのものをロープに変身させでもしたのだろう。

 

 いまいましそうな声色からして、マルフォイにひと泡吹かせることはできたようだ。

「エクスペリ──」

「イモビラス──動くな!」

 それでもマルフォイの方が呪文に長けているのは明白だった。両腕ごと胴体に縛り付けられたままなのに、ジェームズの体が縫い留められたように固まった。

 杖なし呪文だ。

 

「ディフィンド──裂けよ」

 マルフォイはいともたやすくロープを裂いて、あっという間に形勢は元に戻った。そのまま朱を顔にのぼらせながら、少しイラだったようにつかつかと靴音をさせてジェームズの頭の横に立つ。

「どうやらもっと痛めつけられたいらしい。ではとびきりのをくれてやろう……!姿を見ただけで恐ろしくて逃げ出すくらいのをだ!」

 マルフォイは冷たい目でジェームズを見下ろした。

 

「──ポッター。君は許されざる呪文を知っているか?」

 

 

 

 セブルスはようやく鐘につながる木の足場まで辿り着いた。階段を何段分駆け上ったかもわからない。

 ぜえぜえという音が喉の奥からするが、立ち止まるわけにはいかない。

 ほとんど粗末な板が渡してあるだけのそこから、まだ何段も木の階段がのびているのだ。

 セブルスは吹き抜けになっている階下から、頭上へと杖を構えた。

 

 校内に時間を告げる大きな鐘はいくつも吊られていて、根もとの木の軸を回転させて鳴らすような仕組みになっている。

「フリペンド──回転せよ!」

 軸部分を狙ったはずの呪文は、鐘に当たってしまい擦れたような音を立てた。

 

 誰かを呼ぶにはあまりに小さすぎる。かといって、他に今すぐ使えそうな呪文も思いつかなかった。

 その後も何度かためしたが、ここからでは小さすぎてうまく狙いをつけられない。

(はやくしないと……!)

 かなり時間が経ったはずだが、まだ先生が来るような気配はしない。

 足が震えるのを何とかなだめて、ひたすら階段を駆け上がるしかなかった。

 

「許されざる呪文を人に撃ったら闇祓いが来るぞ!そうなったらお前が変身してることくらいすぐにわかる!震えあがるのはそっちの方だ!」

 ジェームズが決して引かずにそう言い返すと、マルフォイは「やれやれ」と肩をすくめて杖を構えた。

「何秒()()かな?」

 呪文が撃たれるまであと何秒か。

 それでもセブルスはまだ鐘にまでたどり着けていなかった。

 呪文を使おうと振りあおいでみたが、全速で駆けたせいで頭がくらくらする。

 どうすればいい?

 ジェームズがそんな風にされることを望んだわけじゃない。

「やめろ!」

 

 鐘がけたたましい音を立てて鳴った。それも、備え付けられていたすべての鐘が激しく揺れていた。

 セブルスは何もできていないのに。

(ぼく以外の、誰が?)

 じっと鐘の方に目を凝らしてみても、鐘がめちゃくちゃな順番で音を立てていることだけが異常だった。それ以外におかしなところは見つからない。

 

 階下は静かだった。かけられるとすれば苦痛を与える呪文だろうが、悲鳴や叫び声はなかった。どうやらジェームズはそれを使われずに済んだらしい。

 マルフォイは鐘の方を見やってから杖をローブにしまった。

「運が良かったな。──行くぞ」

 彼の判断は素早い。

 さっさと大扉をふさいでいた部下を引き連れて鐘楼塔を出て行ってしまった。

 

 何か証拠になるようなものはない。あるとすればジェームズの上に置かれた鐘くらいのものだが、勝手に顔を使われた生徒が犯人にされるだけだ。

 鐘がどうして鳴ったかは気になるが、まずは鐘の下敷きになったままのジェームズをどうにかしなければいけない。

 セブルスは懸命にのぼってきた階段を、今度は急いで降りなくてはいけなくなった。

 

 

 

 たどり着いた時にはジェームズはまだ鐘から抜け出せていなかったが、幸いにも大きなケガはないようだった。鐘に杖腕が押しつぶされていたせいで、上手く脱出する呪文を使えなかっただけのようだ。

 

「無事か、ポッター」

「なんだお前か」

「『なんだ』はないだろう」

 セブルスが鐘を浮かせるとジェームズはすんなり抜け出すことに成功していた。痛めつけられてすぐでは立ち上がる気にはならないらしく、つるつるの石床に座りこんだままだ。

 まだほかの生徒たちの出入りはない。

 

「折れたのか?」

「──いや」

 言葉少なに答えて、ジェームズはむっつりと黙り込んでしまった。真っ赤な顔で眉根をぎゅっと寄せている。

 折れていないということは、マルフォイの言葉はただの脅しだったのだろう。許されざる呪文だって本気で使うつもりだったかどうか。

 

 セブルスが手持ちのハナハッカ液を使っていると、ジェームズがようやく口を開いた。

「お前……見てたのか?」

 目線を寄こさないままでそう尋ねてきたのを、セブルスは肯定した。

「見てた」

「くそっ……!」

 ジェームズは杖を力いっぱい握った自分の手を見つめた。それから、ふるふると震えているそれを鐘に向ける。

 

「──エクスペリアームス(武器よ去れ)!フリペンド(回れ)!レヴィオーソ(浮かべ)!タレント・アレグラ(踊れ)!」

 彼は呪文を手当たり次第にぶつけ、何度も呪文の閃光が走った。そのいずれもがきちんと働いている。ようやく呪文に慣れてきたような新入生がたくさんいる中、満足に使えるジェームズでもマルフォイには勝てなかった。

 

「フラクト・ストレイタ(突き崩せ)!インカーセラス(縛れ)!」

 ジェームズはそれらの全てを駆使しても手も足も出ていなかった。

 

「──ボンバーダ(爆発せよ)!レダクト(粉々)!ディフィンド(裂けよ)!メテオロジンクス(天候操作)!」

 呪文の閃光が()んだ。

 

 すべて上級生で習うような強力な、そして危険性の高い呪文だ。使えていれば鐘に傷がついたかもしれない。それら全ての詠唱に反応を示すものは何もなかった。杖も、周りも。

 ジェームズにはまだ使えないのだろう。セブルスだって使えない。魔法界エリート育ちのシリウスもだ。

 

 マルフォイは使えるだろう呪文、自分たちには使えない呪文。

 ジェームズは歯ぎしりをしてその杖を床にたたきつけた。

 セブルスの方を見ることはついぞなく、彼はそのまま(ひざ)を抱くように身体を縮めてしまった。

 

(ざまあみろ……って気分じゃないな)

 ジェームズは調子に乗っていたし、このあいだは口喧嘩だってした。セブルスだって『少しくらい痛い目を見ればいい』とは思っていたし、それは間違っていないはずだ。

 間違っていたとすれば、マルフォイがあそこまでやると予想できなかったことだけだ。

 セブルスも何か声をかける気が起きず、周りは『しん』と静まっていた。

 

「……大丈夫?」

 背後から女の子の声がかけられた。

 セブルスが振り向くと、宙にかわいらしい赤毛の女の子の顔だけが浮いている。

 

 とっさにのけ反りそうになったセブルスの隣で、ジェームズが「エバンズ?……君までいたのか」と声をかけた。

「ええ」と頷いたリリーの顔は左右を確かめるように見て、それから間もなくローブ姿の全身が現れた。どうやら透明マントを脱いだらしい。

 

 透明になったリリーは、セブルスよりも先に鐘にたどり着いていたようだ。透明だから彼女がいたことに全く気づかなかった。

「鐘を鳴らしたのはきみだったのか。それはポッターの透明マントだろう?」

「そうよ。それでこっそり入ってきたの」

 おそらくはジェームズが連れ去られるのを目撃してから、急いでポッターの寝室まで行って、持ってきたのだろう。女子なら男子寮に入れるからだ。

 

「でも、セブはどうやってここにきたの?透明マントもないのに」

「……先回りして入ってきたんだ」

 ある程度マルフォイに計画を聞いていたとはいえ、セブルスだってどこの塔を使うなどの詳細は知らされていない。だからマルフォイたちの動きを見て、急いで滑り込んだのだった。

 セブルスだって透明マントみたいな便利なものが欲しかった。持っていさえすれば、こんなに苦労せずに済んだのだ。

 

 ジェームズは「はあ」ともうひと息ついてから、さっきまで背中に乗っかっていた鐘を見やった。とてつもなく苦い、忌々しいものでも飲み込んだような表情をしている。

「あいつ……。1年生があそこまで強いわけない。ぜったいに誰か上級生が変身してたんだ。──お前は誰だと思う?」

「あいつはマルフォイのはずだ。……ただ、ポリジュース薬を飲んだところまでを見たわけじゃない」

 セブルスはすべてを打ち明けてもらえるほどマルフォイに信用されてはいないのだ。むしろジェームズやシリウスの側だとみなされているはずだ。密告されてまずい情報は何も聞かされていなかった。たとえばポリジュース薬を調合する場所や、材料をどう集めたのかなどだ。

 

 セブルスの返答にリリーは引っかかりを覚えたようで、少し眉根を寄せてセブルスに問いかけた。

「ちょっと、どういうこと?セブは知ってたの?」

「次にポッターが何か仕掛けてきたら上級生として指導するとかなんとか言ってたんだ」

 セブルスがそう応じるとすぐ、ジェームズは顔色をさっと変えて怒鳴った。

「──お前、知ってたなら何でぼくらにそれを伝えないんだ!」

「何が悪いんだ。お前たちは弱い1年生にちょっかいを出してた。だからお前たちがもっと強いやつにちょっかいを出されたって仕方ないじゃないか」

 セブルスは本心からそう答えた。

 事前にジェームズとシリウスに知らせてしまったら、彼らは上手く逃げてしまうかもしれない。それでは何も変わらないじゃないか。

 

 顔を真っ赤にしたジェームズがどこか裏切られたような表情で口を開いたが、それは別の怒りの声でかき消された。

「信じられないわ!友だちがひどい目に遭わされるっていうのに放っておくなんて……!」

「リリー……」

 彼女は怒っている時もきれいだった。

「化けてたのを知ってただけじゃない、先回りしてたってことはここに連れてこられることも知っていたんでしょ。どうして何も知らせてあげなかったのよ!」

「こいつらは君が止めてもぼくが言ってもやめなかったじゃないか……!やめておけばマルフォイにやり返されることだってなかった」

「それでもあなたのやり方は卑怯だわ!」

 リリーの剣幕に圧されたのか、ジェームズは口を開こうとしたままで、リリーとセブルスの2人を交互に見るだけだった。

 

 彼女の目はまっすぐにセブルスを責めるように見据えていて、胸の奥まで冷たい刃物で刺されたみたいに痛む。

 ジェームズやシリウスに同じことを言われたって、きっとこうまでショックは受けないだろう。

 あいつらの手出しをやめさせたかったのはリリーだって同じだったはずだ。でも彼女のやり方──手出しされている生徒をかばい、ジェームズやシリウスに注意するという方法では、2人は止まらなかった。

 だからセブルスはいわば彼女に協力したようなものなのに、少しはわかってくれたっていいじゃないか。

 

「こいつらだって卑怯じゃないか。弱い生徒を狙ってたんだぞ。強そうだから、一番トップに立ってるマルフォイには手を出さなかったんじゃないか。ほとんど死喰い人で決まってるやつなのに」

「それは……、ポッターもシリウスもやりすぎだったけど、だからってあなたがしたことが許されるわけじゃないわ」

 リリーもどこか悲しそうだった。

「私たち、仲間だったんじゃなかったの?」

 

 いつだってリリーは人として正しいことをしようとしている。だから彼女にリーダーになってもらいたかったし、そんな彼女に自分のしたことを否定されるのはつらかった。正しくないと責められている気がして。

 それでも。

 

「ぼくは……、それでもぼくが間違ったことをしたとは思わない」

 悪いのはここまでやらなくては止まってくれなかった方じゃないか。やめろと注意しても聞き入れなかったんだから。

 思いやりのないやり口だったかもしれないが、自分にできうることはしているつもりだ。

 リリーにはわかって欲しい。でも、だったら彼女に『そうね。2人はひどいことをしているんだから、卑怯なやり方をされても仕方ないわね』なんて言って欲しいのだろうか。

 そんなのは嫌だった。

 彼女はいつだってきれいだったし、ずっとそのままでいて欲しかった。

 

 セブルスが顔をゆがめて訴えかけると、リリーはショックを受けたように目を見開いた。

「誰かを自分の思うとおりにさせて、友だちがこんな風にされてもいいっていうの……?」

「──エバンズ。エバンズ、1回待って。ストップだ」

 あまりにセブルスが傷ついた顔をしていたのがわかったのだろうか、ジェームズは横から口をはさんだ。

 

「その……。確かにこいつは大事なことを黙ってたけど、悪気は……アー、悪気もあったんだろうけど。

 それでも何かあったら助けるつもりだからここに来たんじゃないか。そこまで言わなくても」

「でも、セブはマルフォイに『やめろ』って止めに入らなかったわ。助けてないじゃない」

「君だってそうだよ」

 

 ジェームズは肩をすくめるようなそぶりを見せて、ぎくりと腕をこわばらせた。

「いてて。──それに、お前が言ってたのも間違いじゃないって気はしてたんだ。マルフォイも言ってたけど『強い者には挑めないのか』ってやつ」

「あれは……たぶん先生たちへの言い訳だ。本音は君を痛めつけたかっただけだと思う」

「そうだとしてもだよ」とジェームズは続けた。

「強いやつには敵わないから尻尾をまいて逃げるなんてかっこう悪いなって。それでこうやってつけ入られるなんて、もっとかっこう悪い」

 

 ジェームズは先ほどとは打って変わって力強く言い切った。

「ぼくはもっともっと強くなって、次はマルフォイに勝つ。だからもういい」

 自分が必ず強くなれると信じているのだろう。その丸眼鏡がきらりと光を反射したのが見えた。

 

 どう答えていいか思いつかない。だからセブルスはそのまま口をとじた。

「セブ……」

 リリーが何か言いたそうに目を向けてきたが、セブルスは胸が痛くてその目を見返すことはできなかった。嫌われてしまったかもしれないが、そうだと知りたくもなかった。

 

「りりー。君は……死んでもいい人間はいると思う?」

「どういうこと……ジェームズが死んでもいいっていうの?それともマルフォイのこと?」

「ちがう、こいつらの話じゃない。その……この世界にそういう人はいると思う?」

 答えはわかっている。そしてその答えはきっとセブルスとはかみ合わないだろう。そうであって欲しいのに、『わかって欲しい』とも思う。リリーに何と言ってもらいたいのかわからないのに、訊かないではいられなかった。

 

 リリーは『どうしてそんなことを尋ねるのか』わからないらしく、困惑したように「ええと」と考えるような声をだした。

「……死んでいい人なんて、絶対にいないわ」

死喰い人(デスイーター)が……たとえばだけど、きみの家族に何かしても?」

「それは……。どうしてそんな意地悪なことを訊くの?」

「きみがどう考えるのか、知りたいだけだ」

 

 リリーは少し迷ったようだったが、決然と答えた。

死喰い人(デスイーター)が何かしてくるんだったら、わたしは家族を守るわ。誰も死なせたりしない」

 

 

「死んでいい人なんていないはずよ」

 

 

「……そっか」

 セブルスはひとつうなずいた。

 リリーがそういう子だとわかっていたはずなのに、胸のすき間から冷たい風が吹いているような心地がした。刺されたところにおおきな穴が空いてしまったみたいだった。

 リリーの目にうつっている自分があまりに間違っているような気がして、彼女のそばにいたくなかった。

 

「あいつがここまでするとは思ってなかった。……ごめん」

 ジェームズにそれだけを伝えて、セブルスは足早に2人から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 セブルスは校内を一人でうろついていた。

 リリーに嫌われる原因になったマルフォイの顔を見たくないから、寮に戻る気にならなかったのだ。かといってシリウスにだって会いたくない。ほかのスリザリン生にもだ。

 だから当てもなく、ただ()()()()として落ち着かない気持ちを抱えて足を前に出していた。

 

 クラリスなら今回の顛末を聞いたらなんて言うだろうか。

(……どこにいるんだろう)

 彼女は友だちがいなかったから図書館に行けば大抵見つけられたのだが、今日はいないみたいだった。友だちができたのはいいことのはずなのに、なんだか素直に祝ってやる気にはならなかった。

 人の少ないだろう大広間にまで行ってみたが落ち着いて座っている気分でもなかったので、そのまま中庭に出た。

 イースターを過ぎて少しきつくなってきた日差しの中で過ごせる程には、セブルスに元気はない。

 

 その時、3~4人くらいが入れる丸屋根つきのベンチに、クラリスが座っているのが見えた。ギターを抱えて何か歌っている。ほかにハッフルパフ生がそばに何人か集まっていて、時折いっしょに声をそろえているようだ。

(気分が良くなる歌だったらいいな)

 わざわざ彼らを悲観させるような曲は選ばないだろう。彼らがクラリスの歌の効能を知っているかまではわからないが、見たところ生徒たちはみんな笑みを浮かべているし、肩を組んでいる子もいた。

 

 他寮の生徒にはあまり近寄るわけにもいかないのが、スリザリン生の面倒なところだ。

 遠巻きにしているしかない。

 どこかに声は届くが目立たずに過ごせるベンチはないだろうか。

(……生徒が多い?)

 路をゆきかう人影は少ないのに、ベンチは埋まってしまっている。彼らはクラリスたちの方をうかがっているようだ。

 考えることはセブルスと同じなのだろう。

 だからそこいらに設置されている植こみの辺りに腰をおろした。

 

(なんだか、ぼくは何をやってもリリーに嫌われる気がする)

 

 落ち着いてしまうと、とたんに今回のことがいろいろと思い起こされてしまう。

 

 セブルスだって自分なりに必要なことを考えたつもりだ。でもそれは、リリーには正しくないものだったのだ。

 今回だけのことじゃない。思えば、セブルスのありのままの考えはいつだってリリーの気に入るものではなかった。

 そして"人として正しい"ことを貫けない自分は、とんでもない悪人でいつも何もかもを間違えているような気さえした。

 

(それでもこれがぼくなんだよ、リリー)

 

 ほかにどんな手段があったというんだろう。リリーが懸命に訴えても止めさせられないのに。

 正しさにこだわってすべきことをできないくらいなら、卑怯でもやり遂げた方がいいはずだろう。

 それをリリーにもわかって欲しいとも思うし、わからないでいて欲しいとも思う。

 

 リリーのことを考えずに済むまで、セブルスは旋律に耳をすませてじっとしていた。

 

 

 

「──セブ?どうしたの?」

 いつの間に解散していたのか、クラリスがそばに立っていた。彼女は片手にギターを持ったままだったが、友だちはどうしたのだろうか。

「ほかの子?先に談話室にもどったわよ。セブやシリウスと仲がいいのはみんな知ってるから……。

 何かわたしに用事があったんじゃないの?」

「ちょっと……この間のことで」

 クラリスは周りを確認するように見まわしてから、声を低めて尋ねた。

「この間って、マルフォイが2人に何かするかもって話?」

 

 セブルスがうなずいて簡単にことの経緯を説明すると、クラリスは「そう」と相づちをうった。

「2人があの"悪戯"をやめてくれそうなら良かったわ。まえに私に絡んできた連中みたいになっちゃったら嫌だもの。

 でもそれで危ないことになってリリーに嫌われちゃうなんて……。わたしもジェームズたちを見張っていれば良かった」

 隣に座りこんだクラリスはしょんぼりとした声でうつむいていた。

 

「きみは決闘みたいなことはできないじゃないか」

「そうだけど。……だったらせめてジェームズたちに伝えるよう言えばよかった」

 確かにクラリスが反対してくれていたなら、それで思いとどまっていたかもしれない。

 だから『どうしてもっと反対してくれなかったんだ』とセブルスも言いたい気分になった。そうすれば嫌われはしなかったかもしれない。何より、そう文句をつければ少しは胸につっかえていたものが吐き出せそうな気がした。

 

 セブルスはじいっとクラリスに鋭い目を向けてから、首を横に振った。

「伝えたら意味がない。あいつらはうまく逃げるし、あの"悪戯"をやめたりしないじゃないか」

 クラリスは納得してはいないらしく「そうかしら」と小さな声でつぶやいた。彼女はセブルスがリリーのことを好きなのをずっと知っていて、だからリリーに嫌われるような結果になったのを気にしているのは明らかだった。

 

「元はといえばあいつらが悪いんだ。きみが悪いんじゃない。

 反対しなかったきみは悪くないし、だから黙ってたぼくだって悪くない。悪いのはあいつらだ。それでいいじゃないか」

 セブルスが完璧に開きなおってみせると、クラリスはあいまいな笑顔を見せた。納得し切ってはなさそうだ。かといって自分を悪くないと断言してもらったのを、思い切り否定するつもりもないのだろう。

 

 セブルスは説得するように続けて言った。

「強い2人が弱い生徒をあんな風にしたっていいってことは、もっと強いやつが2人を同じようにしたっていいじゃないか。あいつらだってたまには自分より強いやつに狙われてみればいい」

 

 クラリスは少しあきれたようだった。

「あのねえ。自分より弱い相手ならいじめていいってわけじゃないのよ。その人が強くなったらやり返されちゃうでしょ。いじめていじめられて。一生つづけたいの、そんなこと?」

「ぼくはそんなことやってない」

「そうかしらね。あなたがグリフィンドール生だったら2人と一緒にいじめてそう」

「……なるもんか」

 セブルスは鼻をならして否定したが、なんとなく力いっぱい言い切れなかった。

 

「──じゃあ、わたしの『ごめん』はなしね。わたしも悪くないんだから」

 気を取り直したようにクラリスが明るい調子で言った。

「いいや、それはとっておく」

「えー?」

 ずるい、とぶうぶう文句を言ってくるクラリスに少しは気が楽になって、セブルスは意地悪い笑みを向けた。

「きみが勝手にくれたんじゃないか」

「間違えてあげちゃったものでしょ」

 

 そのままふざけたり、とりとめのないことをしゃべっていると、遠くから鐘のきちんとした時報が聞こえてきた。

 周りの生徒たちも城内に戻ったのか、かなり減ってきている。

 なんとなく会話が途切れてしまって、セブルスは不意に尋ねた。

 

「──きみはどう思う?この世界に死んでいい人はいるのか、どうか」

 聞くまでもなくわかっているが、それでも彼女に訊いてみたかったからだ。

 

 クラリスは「ううん」とうなってから、困ったように首を横に振った。「そんなのわからないわよう」

「べつに、世界がそういう風にできてるかとか、そういうのを訊いてるんじゃないからな」

「それはわかってるけど」

 彼女の星空みたいな瞳はどこか遠くに向けられていた。まるで青空の向こうを透かし見ようとしているみたいだ。そこに死んでしまった人でもいるのだろうか。

 

「……死ぬことで楽になる人がいる、ってことはあるわよね」

 

 ぽつりとこぼすような言葉だった。

 

「父親が死んで楽になったぼくみたいに?」

「ええ。父親が死んで楽になったわたしみたいに」

 

 じいっとお互いの目をのぞき込んでから、2人はゆるやかに手をつないだ。まるで同盟相手との握手か、戦友との和解みたいだった。

 

 

 

 

 

 









アンナチュラルを一気見したところ、ミコト(石原さとみ)が自分の想定してるリリー像にかなり近かったです。つまりリリーは石原さとみです(?)
そりゃあみんな好きになるよなあ?

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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