セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
「──先生!」
マクゴナガル先生の研究室を訪ねたのは、そのすぐ後だった。
ジェームズ、シリウス、セブルスの3人は何事もなく無人になった部屋を後にし、見たものが間違っていないのを確認し合ったそうだ。
リリーは談話室で待っていて、ジェームズとシリウスが戻ってきたところに合流、3人で寮監である先生に会いに来たというわけだ。
「どうしたのです3人とも。……まさか、先日の件ですか」
先生はすぐにリリーたちを室内に招きいれた。
少し広くなった廊下を切り取ったような、あまり広くない空間だ。この1年間で幾度となく通ったそこは、いつもと何も変わりがない。
りりーにとっては何か訊きたいことがある時に訪ねるくらいで、残り2人には何かやらかした度に叱られる会場らしい。
すすめられた席に急いで座り、勢い込んで話し始めたのはジェームズだ。
「怪しい生徒が集まる日がわかったんです!期末テストの次の週で──」
つまり1か月ほど後だった。
学期末最後の活動日なので、それを逃すと夏休みに入ってしまう。そうなれば、
ジェームズの焦りをなだめるように、先生は少しゆっくりとした話し方で応じた。
「その生徒が、絵を裂いた生徒と関係があるという事なのですね?どうしてわかったのです」
「ええと……」
今回告発したいのは『DADAの先生がクラブ活動の内容を偽っている』という部分だ。
なぜそれを知っているかというと、ジェームズとシリウスが透明マントで現地にいたから。校則違反をして、禁じられた森に、それも夜間なのに居たからだ。
違反を隠したかったから、その時はマクゴナガル先生に告発しなかった。
「見たんです。ええと……先生が顧問をしているクラブが全然ちがう活動をしてたのを」
「どこで?」
「……禁じられた森です」
「あなたは……」先生の目つきが真剣なものとなった。
「1年生は昼間でも禁じられた森に入ってはいけないのですよ!危険な生物がたくさんいるのに、あなたたちではまだ身を守る呪文が使えない。安全なはずの近隣の村(ホグズミード)に行ってはいけないのも同じです。安全な昼間でも道中で何があるか……。
校則があるのは、あなたを自由でなくする為ではありません!みんなで守らねば危険だからです!」
思いきり叱られて首を縮めている2人に、リリーは少し呆れていた。2人が校則を破るのは今に始まったことではない。この1年、特に初めのうち、彼らは2人だけの大冒険を繰り返していたからだ。校内をうろついていたり、立ち入り禁止のところで痛い目を見たり。
"試練"が始まってからはむしろ減ったと言ってもいい。なぞ解きのため図書館に通ったりしていたからだ。
先生からの聞き取りはそれからも続き、ジェームズが答えた。怪しげな生徒たちは何人くらいのグループで、何年生くらいで、どんな風に活動していたのか。
「──それはいつ見たのですか?」
「ええと、クリスマスより前くらいです」
「時間帯は?」
「……昼間です」
ジェームズがそう嘘をついた途端、先生の眉が吊り上がった。それまで冷静に受け入れていたのとは正反対だ。リリーにだってその態度には覚えがある。
「失望しました、ポッター」
先生は、リリーの嘘がばれた時の両親の顔にそっくりだった。
「禁じられた森に森番がいるのはご存じですね?──ええ、ハグリッドのことです。
呪文でそれほど大きな出来事になったのであれば、彼が気づかないとは考えにくい。そして、気づいたのなら先生方に連絡を入れるはずです」
「そんなのわからないじゃないですか、気づかなかったのかも」
嘘をついた後ろめたさのせいか、バレそうだから焦っているのか。ジェームズはむきになって主張を続けていた。
そのたび先生の目に落胆が積もってゆくみたいだ。
「夜間のできごとであれば……ええ、森の様子がおかしいという報告はあったかもしれません」
彼女はついにため息まじりになっていた。
「いいですか、ポッター。あなたは自分の身を守るためにそうしたのでしょう。
しかし、嘘があるとあなたたちが蜘蛛に襲われたという話も信じがたくなってしまうのですよ」
このまま話の全部を嘘だと思われたらたまらない。彼女に信じてもらえず、
リリーは急いで口を出した。
「──夜間です、先生。2人が目撃したのは。でもそれ以外は本当のことなんです」
「リリー!」
「いいから黙ってて」
非難の声をあげたシリウスをぴしゃりと黙らせて、リリーは一歩前に出た。
「あなたはそれを知っていたのですか?知っていて、黙っていた」
「はい」
真剣な先生の目にのぞきこまれて胸がちくりと痛んだ。ドラゴンに睨まれたのも怖かったが、それよりも先生の信頼を裏切る方がずっと痛かった。
「真面目なあなたが言うのならそうなのでしょう。それでも夜間に管理人や先生の目を盗むことは簡単ではありませんよ」
リリーは小さく「ごめんね」とジェームズに謝ってから「透明マントを持っているんです」と打ち明けた。特別なものとまでは明かさない。
ひとの持ち物についてあれこれと勝手に吹きこむなんていい行いじゃない。それでも、先生に信じてもらわなくてはいけなかった。
「2人は先生に大がかりな嘘なんてついたりしません。全部本当にあったことなんです。危険な人をどうにかしたくて、それで……」
リリーはまっすぐに先生を見つめて訴えた。
先生は表情を変えなかったので何を思ったかはわからない。それでもひとみの中に温かみが少しもどった気がした。
「そう……。
ええ、あなたたちが誰かを傷つけたり、混乱させようとしているとは思っていません。ミス・エバンズがついているなら尚更です。ですから、必ずその日に捕まえると約束しましょう」
先生は3人を誇らしいもののように見つめた後、「……ですが」と付け加えた。どこか心苦しそうな顔だった。
「この件が片付くまで、透明マントは没収します」
シリウスは「そんな!」と声をあげたし、ジェームズはリリーの方をにらんだ。『よくも余計なことをバラしたな』とでも言っているみたいに。
「ポッター。いけません。守るべきことを守らなかったのはあなたの方なのですよ」
「でも、このまま放っておくなんて!」
「いいえ、放っておくわけではありません。あとは大人のなすべき事だと言っているのです。あなたたちをこれ以上危険に深入りさせるなど、あってはならないこと。絵の件についてもです」
さとすような静かな声だった。
「透明マントを持っている生徒は、もちろんあなただけではない。特に最近は保護者の方が持たせることも増えました。何故なのかわかりますか?」
こんな風に訊かれては答えにくい。きっとこの人には答えて欲しい"正解"があるのに、それを外してしまって落胆させたくないからだ。
(それでも、透明マントを没収して欲しくないし……)
没収されないよう、先生の希望通りに答える。そんな良い方法はリリーには思いつかない。
「それは……」
ジェームズもそれは同じようで、言葉に詰まっていた。
「わかっているでしょう。ご両親はあなたの身に危険がおよんだ時に身を守れるよう、そのマントを持たせたのです。
──けっして危険なことに首を突っ込ませるためではありません!」
耳が痛かった。
先生は正しい。それに思いやりのある人だ。危険から生徒を守ろうとしてくれている。
それでも3人には今没収されてはいけない理由がある。
「危険かもしれないなら没収しないで下さい!わたし、ちゃんとジェームズを見てますから!」
リリーがいくらそう申し出ても、
「お願いです!大切なものなんです!」
とジェームズが食い下がっても、先生は首を横に振った。
試練を急いで進めなくてはいけないのに、透明マントを失うわけにはいかなかった。
では試練のことを明かすべきだろうか?
『それは難しいだろう』とすでに結論が出ていた。オミニスによると『どうやら試練は在校生しか受けられないみたいだし、先生にだってあの部屋は見えないはず』らしい。
おそらく談話室に先生を連れてゆき、目の前で部屋に入って見せることはできる。しかしそれで試練に関して納得してはもらえても、クラリスとセブルスが入りこむ許可は出さないのではないか。いや、そもそも「この件が片付いてからにしなさい」と断られるだけだろう。
「──できる限り先生たちと行動をしなさい。難しい場合は同級生が多いところに。決して人気のない場所へ立ち入ってはいけませんよ」
マクゴナガル先生はそう言って、マントはすぐに取り上げられてしまった。
*
冒頭 1972年5月はじめ
話は冒頭にまで戻る。
透明マントを没収されてしまった5人は、どうにかして『誰にも見られずに』グリフィンドール寮の隠し部屋までたどり着かねばならなくなった。そのために談話室から生徒と肖像画を追い出したい。
だからグリフィンドール生の3人は、現地を調べながらうんうんと頭を痛めていた。
今は、とにかく何か作戦を考えるしかない。
(何か……中に居たくないようにするとかかしら?)
ジェームズは恨み節をリリーに向けていたが、一日経って少し落ち着いたらしい。
「マクゴナガル先生を味方につけられたのは大きかったよね」と無理やり飲みこんだみたいだった。先生はきっと、DADAの先生や危なそうな生徒を注意ぶかくマークしてくれるはずだと。
しかし、先生の動きを黙って待っているわけにもいかなかった。1か月後には悪事が暴かれるのだとしても、それまでに危険チームが"試練"を攻略しないとも限らない。先生がいなくてもあの試練は受けられるからだ。
談話室のソファに腰かけながらアイデアを練っていると、クィディッチチームが練習から戻ってきた。ああだこうだと議論する一団の顔ぶれに、いたはずの子はいない。いまだに学校に戻ってこられていないのだろう。
彼らは3人のいるソファのすぐ脇を通っていった。
その中で一人、最後尾にいたゴリラのような体格の生徒が、消沈した様子でついて歩いていた。
彼、クライブ・ホールデンはずいぶんと疲れたような顔をしていた。
「ああ、お前たちか……。
めずらしい組み合わせだな」
ジェームズとシリウスの2人だけならともかく、リリーは普段は女の子の友だちと過ごしている。3人でいるのは試練関係かADA(エイダ)関係、あとはたまにセブルスと会う時くらいだろうか。シリウスの関係者としてなら疑われないためだ。
こんな些細なことから注目されてはたまらない。ただでさえ、シリウスは寮の中でスパイを疑われがちなのに。
隣に座っているジェームズが答えた。
「あー、今日は、たまたまで。それより、妹(シドニー)の具合は?」
「……退学が決まってな。今は聖マンゴ病院にいる。イースター休暇からあまり良くないんだ」
野太い声には張りがなく、それまでの力強さがすっかり
「呪いをかけた犯人は見つかってないのか?」
「……さあな。闇払いは何も」
この1年で『呪いをかけられた』という話はあまり出ていない。行方不明者ならしょっちゅう新聞に載っているし、駅などに目撃情報を
「ほんとうに
リリーの疑問はホールデンは聞こえていなかったようで、彼はそのまま3人から離れていった。
その日、5人は羊皮紙で作戦会議を重ねた。例の"書かれたものが転写される羊皮紙"で。
まとめ直すと気を付けるべきことは沢山ある。
一、この学校には"闇の魔術研究会"が存在する。その名前が"
二、彼らは闇の魔術に対する防衛術(DADA)の先生が顧問するクラブで活動をしていた。活動内容は正直に申告できないので、"歩道の補修"ということになっている。
三、
四、先日、先生といっしょに"試練"に関わった生徒がいる。何者かは不明。しかしルシウスに話を通していたため"
五、"試練"について、そんな生徒たちに情報を与えたくない。
六、しかし可能なら自分たち5人で先に試練を踏破し、独占や封印をしたい。だから"試練"を誰の目からも隠す必要がある。誰が
七、肖像画にだって純血主義者はいる。
八、透明マントはない。危険なことに首を突っ込むからと、マクゴナガル先生に没収された。
九、だから何か作戦を練って、グリフィンドール寮から生徒と肖像画を追い出すしかない。
十、しかし目立つことを起こしたら、もしかしたら"試練"を知っている先生やマルフォイが調べに来るかもしれない。
考えれば考えるほど、困難な条件だった。やるべきことは沢山ある。期末テストが近いのにだ。
打ち合わせをして計画案をまとめたら、真っ先にみんなに呼びかけたのはオミニスの絵だった(正確には、セブルスが発言を代筆している)。
『──それじゃあまずは、大量の額縁が置いてある倉庫をさがしてくる。君たちは呪文の特訓だ』
*
一週間ほど後
クラリスの姿は大階段にあった。
さまざまな建物の、さまざまな階につながるそこは、少し遠いがグリフィンドール寮にだって声が届く。
試しに簡単にギターをなぞってみると、吹き抜けになった空間全体に音が広がってゆくようだった。
これなら予定通りにいけそうだ。
(……きっと、大丈夫)
計画でいくと5人全員に役割があるものの、クラリスの"仕事"次第ですぐに失敗してしまうのだ。気を抜くわけにはいかない。
床に座りこんでみると、気分はストリートミュージシャンだった。
(これから30分、注意を引きつけるのはそれだけでいい)
ギターと歌の旋律が交ざり合い、天井にまで大きく
なんだか恥ずかしくて胸が痛いくらいにどきどきする。なんて言われてるんだろうと気にすると、音を外してしまいそうだった。なにせ以前ハッフルパフ寮の談話室で歌った時よりも、大階段の方がはるかに沢山の生徒の目に留まるのだ。そんな風に考えると、指先までもが震えてくる。
クラリスは目を閉じた。
誰だって駆け出しの頃はこんなものだ。今はとにかく自分に出来ることをする。気が散るくらいなら目を閉じて、自分の音だけに注力した方がよっぽどいい。
クラリスの歌は、その歌詞の内容によって色々な感情をもたらすことができる。以前歌ったのは勇ましくする歌。それからクラリスに恐怖する歌。そして今歌っているのは『異星人が救いをもたらす』という歌。4月末に発売されて話題になったものだ。本来はロックだが、クラリスの手にはアコースティック・ギター一本しかない。歌詞との相性は最悪だが注意を引ければ何でもいいのだ。
そのために、セブルスが丹精込めて呪いをかけたペンダントをぶら下げてもいる。内容は当然"
1年生なので長期間に及ぶような呪いは無理だが、この日この30分間だけ使えればそれでいい。
なぜクラリス本人に呪いをかけず、呪われたものを身に着けるのか。それはクラリスがこっそりと抜け出すことができなくなるからだ。
大まかな作戦は単純なものだ。クラリスが注意をひきつけ、無人になったグリフィンドール寮に5人が集合する。それだけ。
グリフィンドール生たちは、そもそも外に出ている日程であり時間帯でもある。まさに今、競技場ではグリフィンドール対レイブンクローの試合が行われているからだ。グリフィンドールは学期末の最後の試合となる。
そのため、クラリスの役割はごく少数のグリフィンドール生と、肖像画を呼び寄せることにあった。
会場を大階段にしたのもそのためだ。様々な建物の様々なフロアにつながる大階段には、壁という壁に肖像画が掲げられている。肖像画が肖像画を呼ぶか、旋律を耳にした談話室の肖像画に観にきてもらう。それがこの単独ライブの目的だった。
ここでグリフィンドール寮の肖像画を空っぽにできなければ、全てが終わる。
(ドラゴンにだって効いたんだから、肖像画に効かないはずがないわ)
クラリスは自分にそう言い聞かせながら、緊張にこわばりそうな身体をたしなめていた。
彼女自身だって、闇の魔術と楽器にかかった紋章とで、歌の効果を最大限引き出している。これでダメなら他の4人にだって出来ないはずだ。──これまで乗り越えてきたことを思えば、自信はある。
もちろん、この計画にだって問題点はいくつもある。
たとえば、大階段はグリフィンドール塔との接続があまり良くないこと。これはリリーたちグリフィンドール組3人が"
問題その2は、一番下の階がスリザリン寮付近の地下通路につながっていること。これはセブルスが"
『クラリス』
小さな声がして、考え事が中断された。
ローブの
つまり今クラリスに呼びかけた彼は、他のメンバーの絵から移動してきたという事になる。
クラリスは歌を中断するわけにもいかないので、ただ『聞いている』とうなずいて見せた。
『──太った貴婦人も来たぞ』
まずは第一段階突破だ。クラリスは少しずつ増えつつある聴衆のなかで、小さくほほえんだ。
なんとか祭りに間に合ったぞー!
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
-
【活動報告】にあげて欲しい
-
【本編】にあげて欲しい