セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
グリフィンドール生3人組──ジェームズ、シリウス、リリーはその日、クィディッチ狂になることにした。
具体的には、休日の朝っぱらから寮生をたたき起こし、「試合の応援に行こう」と駆り出した。インドア派でも構わず「これが学期末最後の試合なんだから」と無理やりに。
生徒たちの大半が目を白黒させていたが、なんとか全員を競技場に追い出すことができた。
活発でクィディッチ好きな生徒が大半だったからだろう。これがレイブンクロー生だったらこう簡単にはいくまい。
もしも意地でも起きない生徒がいるならば、糞爆弾で談話室じゅうに悪臭をまき散らす予定であった。外が魅力的でないのなら、内を居づらくすればいい。そうならなかったのは誰にとっても幸運だった。
試合がはじまったら3人は競技場からこっそりと抜け出し、寮に戻って無人であることを点検した。
そうやって生身の生徒がゼロになったら、次の段階だ。
すぐにクラリスにライブをさせる。狙いはグリフィンドール寮入り口の絵"太った貴婦人"をライブにつり出すことだ。
生徒たちは彼女に正しい合言葉を言えば入り口を開けてもらえる。しかし彼女を不在にしてしまえば、誰にも出入りを出来なくさせられる。
つまり、3人以外の人間の出入りを一時的にできなくするのだ。
とはいえ、この段階ではまだ入り口は開けておかなくてはならない。談話室の肖像画はまだ残っているからだ。
「ソノーラス──響け!」
大階段から教員塔、それからグリフィンドール塔へ、3人はせっせと拡声呪文をかけて回った。ライブに目や絵が集まるのは重要だが、あくまで目的はその間にグリフィンドール寮で集まることだ。ごく短時間でいい。
3人は貴婦人に頼んで開けたままのドアから、談話室の中まで音を届けた。談話室の中の肖像画たちが軒並みライブに参加するように。
目論見はうまく運んだ。予定通り、グリフィンドール寮のなかから生徒も肖像画も追い出すことに成功した。
ここまでは順調だった。
──しかし。
問題が起きたのはその時だ。
談話室に戻った3人は入り口をふさぎ、5人以外には誰にも出入りできなくするつもりだった。
それなのにだ。
役割をになうはずのセブルスが合流してこない。
計画では、入り口の貴婦人を追い出したら、セブルスがその額縁を縮小呪文で小さくすることになっていた。貴婦人が絵に戻れなくするために。そうすれば談話室の中に入って来られる生徒はいなくなる。
とはいえ、これは戻ってきた上級生が拡大呪文を使うまでの一時しのぎだ。
もしも上級生や先生が戻ったら、リリーがオミニスの絵を拡大して移動させ、一時的に番人をしてもらう予定だった。時間かせぎだけでもいい。クラリスだけが中に入れればいいのだから。
セブルスの役目はそれだけではない。ほかにも縮小呪文を使ってもらう予定があったのだ。
3人のうち誰かが縮小できれば簡単だったが、リリーはもちろん、ジェームズやシリウスにも呪文は使えない。計画にあたってオミニスの絵(7年生)の指導で猛特訓したが、なにせ一週間ほどしかなかった。
5人にはそれぞれ役割分担があり、自分の割りあて分の呪文しか習得できなかったのだ。
ひとつ幸いだったのは、期末テスト前だったので普段と違う呪文を練習していても「試験勉強です」で言い逃れできることだった。十分に特訓したので不発や失敗などはありえない。
5人のうち、拡大呪文を習得したリリーは次にどうすべきか迷ってしまった。
「どうしよう……。ほかの生徒が入って来られないように、拡大呪文を使う?」
一度オミニスを門番にしてしまうと、セブルスがいないと縮小ができない。つまり5人が持っている小さな絵には入れなくなる。連絡役をできなくなってしまうのだ。
しかし門番がいなければ、いつ生徒が戻ってきてしまうかわからない。なにせグリフィンドール寮の入り口は、大きな肖像画でふさがれただけの丸い大穴だ。それが談話室の壁の横穴につながっている。
リリーが"DADA先生が襲ってきたとき対策"をやっている2人にそう尋ねると、床になにか書き写していたジェームズが立ち上がった。
予想外のはずなのに何てことないような顔をしている。リリーはその様子になんとなくほっとしたものを感じた。必要なら一人で決断もするが、ジェームズが賛成してくれたならとても心強い。
「入り口は閉められないけど、せめてぼくらの準備を見えなくしちゃおう」
当の彼は談話室の外の様子をのぞき込んでから杖を振った。
ふわりと浮かせた机やいすを、横穴をふさぐように積み重ねていく。
これに何かが起こったらきっと侵入者のしわざだ。あとは決めた通りに動くしかない。
1年生にはそんなすごい呪文も設備も使えない。だから一撃で決めなくては2度目は通用しないだろう。
(──セブルスが来ない?)
オミニスからそう連絡があったのは、そろそろ予定の30分に近づきつつある中だった。
クラリスの方は順調で、少しずつ黄色のローブの人波が大階段の踊り場まで集まってきていた。各フロアにいる人数を合計したら50人~100人くらいといったところだろうか。肖像画も今のところはひきつけられている。しかし、呪いの効果が薄れてきたらどうなるかはまだわからない。
計画では、肖像画がライブに集まり、セブルスが合流した段階でクラリスにゴーサインが来る手はずだった。クラリスは『一時休憩』とでも言って脱出にかかる。呪いのアクセサリーをギターと一緒に置いておく、あるいは音楽家の肖像画に幕間を頼み、その絵にアクセサリーをかけておいてもいい。そうやって生徒たちの注意をうつして、グリフィンドール寮に移動する。
……そのはずだったのだが。
『彼は寝室に閉じ込められてたよ。外出禁止らしい。この
オミニスの話では、グリフィンドール寮の3人はひとまず、計画のうち出来るところだけでも先に片づけることにしたらしい。その上で、必要ならセブルスの救出に行くと。
クラリスはこのままでは動けない。歌をやめてしまって"太った貴婦人"が入り口に戻ってしまっては、計画が水の泡と消える。
出来るのは歌い続けることのみ。
幸いにも(友だちができなかった半年ほど)練習を積み重ねていたのでレパートリーには困らない。呪いや魔術での補助なしでもあの手この手で引き留めるつもりだった。
しかし時間がかかるとまた別の問題が起こってしまう。それは計画を立てた時から予想できていたことだった。
もうそろそろ発生してもおかしくない。
すでに観衆は各フロアの踊り場に集まり始めている。ほかの建物のどこかの階から入ってきた人は、柵の
ほとんどが黄色のローブだが、赤や青の生徒もいるようだ。
彼らは階段を使いたい人のために、1人だけが通れる通路だけを確保していた。さすがハッフルパフ生だ。クラリスは自寮の誠実さに、誇らしい気持ちで胸がいっぱいになった。
そんな生徒たちが誰も近寄らない唯一の階が、大階段の一番下だ。そのそばのドアからはスリザリンの地下通路につながっている。
(ライブが終わるまでそのまま出てこない、なんて……。ならないわよね、やっぱり)
クラリスは内心で
セブルスがかけていたはずの消音呪文や、ドアを接着した呪文の効果は切れてしまったのだろう。あるいは、そうやって普通に移動する生徒の邪魔をしたせいで捕まってしまったのだろうか。
柵のすき間からのぞき込んでみると、集団の戦闘には生徒のものとは違う茶色っぽい色が見えた。──スラグホーン先生だ。そばには上級生らしき姿があるが、クラリスは怪訝に思って目を凝らした。
(マルフォイじゃない……?)
糸を引くなら彼のはずだ。いるとすれば戦闘か最後尾だろうか。しかし、やはりその一団の中にそれらしきプラチナブロンドはいないようだった。
(もしかしてマルフォイはグリフィンドール寮に向かった……?)
クラリスの背中がぞくりと粟立った。
その可能性は5人とも考えてはいた。考えてはいたが引きたくないカードでもあった。セブルスがいるならともかく、1年生の3人で大人1人と上級生1人を相手どるなんて。
(こんなところで
役割をこなしながら、それでも合流できるような手段なんて思いつかない。
スラグホーン先生は
「
名前を憶えられているのだから、どうやら良印象を持たれているようだ。
(なんとかこのまま続けられるよう、話を持っていけたらいいんだけど)
クラリスは立ち上がり、大人しく先生の方を向いた。上階からなので先生の顔をはっきりとは捉えられないが、動けないので仕方ない。
手も歌も止めてはいない。なにせまだ曲の途中だ。
「君ならきっと分かっていると思うが、君のしていることは校則違反だ。すぐに……あー、いや。その曲が終わってからでいい。終わったら解散しなさい。いいね?」
叱っているというよりも、『注意しろと生徒に要請されたから型通りに注意をした』ような白々しい言い方だ。本当はさして悪い事だとも思っていないのではないだろうか。
それでも先生の言う通りだった。校則違反をしているのはクラリスの方なのだ。
(でも……これで終わるわけには)
一生懸命歌いながら複雑な言い訳を用意するなんて無理だ。曲が終わったら先生を説得してみるしかない。
周りだってハッフルパフ生なのだから、クラリスに規律を守らせたいだろう。誠実で従順な生徒は、まず他者の迷惑にならないよう努めるのだ。
頭を痛めるクラリスに、そばにいた上級生の一人がぱちりとウインクを投げてきた。
「
それでざわめいたのは、先生ではなくその周りのスリザリン生だった。
「許可もなく勝手に占拠してるじゃないか!」
「ここはライブ会場じゃないわ!通行の邪魔よ!」
こういう時こと一丸になるのが彼らの特徴だ。ハッフルパフ生は穏便に済まそうとするので、まっすぐ突き進んで来られるとゆずる羽目になることも多い。
それでも、その人はきっぱりと断ってみせた。
「占拠にはあたりません!通り道は空けているから通れない生徒も先生もいない。みんな自分たちの意志でここにいるだけだから。通りたければさっさと通ればいい!誰も邪魔なんかしていない!」
「占拠じゃなくても騒音は迷惑行為よ!今すぐやめなさい!音痴で耳障りな
クラリスが侮辱されたせいか、べつのハッフルパフ生もつぎつぎと反撃に転じはじめた。
「音楽家の絵が演奏したり、BGMが流れている建物だってあるじゃないか!お前たちの大好きな"闇の魔術に対する防衛術の塔"とかな!」
だとか、
「耳の穴にごみを詰め込んでるんだろうね、かわいそうに。一生まともな音楽が聞こえないなんて!」
だとか。
クラリスはハッフルパフ生のまあまあな口汚さにびっくりしていた。みんな嫌いなものを見たら衝突するより避けるような、わざわざ争いに行かないような子ばかりなのに。
よっぽどスリザリンへの鬱憤がたまっていたのかもしれない。歌の影響だとはあまり思いたくなかった。
(もしかしてジェームズ達がちょっかいを出していた方が、みんなすっきりしていたのかしら……)
行方不明になっているのは、なにもグリフィンドール生の家族だけじゃない。
「──全員やめなさい!」あいだに入ったのはスラグホーン先生だった。
「クラリスの歌は特別な才能だ。違反していないのなら否定するものではないよ。……ああ、じつに興味深い」
先生はマイペースが過ぎる。人材コレクションが好きだというのを隠しもしないようだった。
ハッフルパフ生はこの機に乗じることにしたらしい。
「あら、だったら先生が正式に許可を出してくださいな。そうすれば解散しなくて済むでしょう?」
「ううむ、それは……」
スラグホーン先生は周りの生徒を見渡していた。生徒たちは不服そうだったが、先生本人はもう少し押せば許可を出してくれそうな感触だ。
「──得体のしれない鳥の歌声なんか、醜くて聞く価値なんてあるもんか!」
当てにならない先生を押しのけるように、スリザリン生の一人が声をあげた。そばの連中も同調するようにうなずき合っている。
「お前がいるべきなのはこの学校じゃなくて鳥かごの方だ!」
「そうだ、お前の騒音が許されるならこっちだってやってやるよ!ソノーラス──響け!」
生徒の一人が、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべて出鱈目な音を発し始めた。
それを『歌っている』となんて言い表したくない。ただ音階も何もない鳴き声に、ほかのスリザリン生たちも便乗してゆく。
とんでもなく
まるでラバーチキン(お腹を押すと大声で鳴くおもちゃ)をバラバラに鳴かせているみたいだった。
クラリスはこれまでにないほどお腹がカッと熱くなった。
(これをわたしの歌だっていうの……!?)
大切なものを壊されたような気分だった。
これまで一人ぼっちの時間を忘れさせてくれた、そして友だちと楽しい時間を過ごさせてくれたものだ。
それが馬鹿馬鹿しい連中の好きなようにされるなんて我慢がならない。
(……それでも、今だけは歌い続けないとリリーたちが危ない!)
クラリスがぎゅうっと額に力をこめてなんとか怒りをお腹にとどめていると、同じくハッフルパフ生たちが反発をあらわにした。
「──先生、そいつらを放っておく気ですか!?
「正式な演奏の許可を出して、そいつらを黙らせてくださいよ!」
また別のハッフルパフ生は、クラリスの歌に何重もの
そうすると面白くないのはスリザリン生だ。対抗してさらに
大階段はどこもかしこも騒然としてしまった。その上、どんどんその音量が大きくなっていく。
あまりよくない状況だ。
注意を惹いておけるのはいい事だが、歌そのものが他の音に紛れてしまっては効果が発揮されなくなる。
「──さっさと黙れ!」
下から呪文の光がまたたいて、そこからは呪文の撃ちあいだ。呪文の閃光が上下で交錯し、何本も階段の上を通り過ぎていく。廊下もそうだが、大階段での呪文の使用は校則違反なのに。
(ひとに違反だとか言っておいて、自分たちは良いっていうの!?)
どうせ『歌うのを止めさせたい』のが本音であって、校則違反かどうかなんて気にしちゃいないのだろう。彼ららしいやり口だ。とっても頭にくる。
やがて強風が吹いたり凍ったり、もしくは変身した動物が襲ってきたり、どったんばったんと呪文の嵐が吹き荒れはじめた。
手を離せないクラリスを、近くにいた上級生が盾の呪文で守りながら移動をうながした。危険だからだろう。
呪文を撃つだけでは飽き足らず、スリザリン生が階段を上りはじめたからだ。
スラグホーン先生が終了呪文などで収めようとしてはいるが、効果はいまひとつだった。
階下からも言い争う声が聞こえる。
(まだ、ここを離れるわけには……)
なにか……何か手段はないだろうか。計画通りにレールを戻せるようなことを。
しかし、事態は悪い方に転がっていってしまうらしい。
「──何事ですか!」
大騒ぎになったせいで、マクゴナガル先生までやってきてしまったのだ。
(グリフィンドールの試合中なのに……!?)
クィディッチ狂として有名な先生が試合を観ていないなんて滅多にない。もしかしたらDADAの先生を見張っていてくれたのだろうか。
だとするなら、DADAの先生は監視の目を外れてしまったことになる。
(……まずいわ)
先生が2人になったとはいえ、火がついてしまった
(そうやって邪魔するなら……)
クラリスは今いる階からつながったドアに目をやり──そこへ促す上級生に断りをいれた。
天井の方から陽が差し込んできたようで、大階段の吹き抜けが妙に明るい。
(近づいていって無理やりにでも聴かせてやるわ!)
ドラゴンにだって効いたのだ。耳に届きさえすればスリザリン生なんて
クラリスはそのまま一段ずつ階段をくだった。
まるでステージでショーをやってる最中の歌手みたいだ。
近くで閃光がはじけても、小さな雷光が走っても、足を運ぶだけで道が拓けていく。
杖で呪文をとなえるのは出来る気がしないが、歌だけはちがった。
足を踏み外さないようにだけ注意して(ここで転んだら間抜けすぎる)、指先でとあるナンバーを奏でる。
その曲は、世界的音楽グループのメンバーの一人が、昨年10月にアメリカで発表したものだった。イギリスではまだ発売されていないが、(リリーの家の)テレビで聴いて練習した。
マグルでヒット中の曲が、魔法族にだけは通じないなんてことはきっとない。
魔法界が戦争中だと知って、きっと必要になると思ったのだ。それを覚えてさえいれば、歌っていれば役に立つと。
クラリスは気合を入れて歌い始めた。この素晴らしい曲があらゆる人の心を震わせるように。
「──『想像してごらん』」
それは、平和を願った歌だった。
ジョン・レノンならきっと何とかしてくれる!
※ラバーチキンはアーチー・マクフィー社というところの製造商品らしい
で、この会社は1970年代に生まれて発展、その後ラバーチキン製造ラインができてるっぽいので、たぶん1972年にはまだない
ただ、鶏を使った小道具自体は1900年代初頭のスウェーデンにはあったらしい
(ウィキペディア調べ)
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
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【活動報告】にあげて欲しい
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【本編】にあげて欲しい