セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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2025/5/1 一部微修正済み


第四の試練 グリフィンドール寮5(修正済み)

 

 

 

 

 一方その頃、セブルスは寝室で脱出のアイデアを練っていた。

 

 幸いなことに、ベッドの天蓋を下ろすのに反対する者はいなかった。(ふところ)に入っているものを取り上げられることもなかった。そのため、ベッドの上でオミニス・ゴーントの肖像画から4人の動きを聞いていたのである。

「……大階段はめちゃくちゃ、()()()()()()()()()()()()。だったら急いで合流しないと」

 

 それなりに()()な状況だが、ひそひそとしかやり取りできないのが歯がゆい。

 というのも、5人用部屋にいるのはセブルスだけではないからだ。

 

 寝室の中は、部屋の中心を向くように天蓋つきのベッドが5台置かれている。ヘッドボード側、頭上は本棚になっていて、本はもちろん色々な小物が置けるようになっていた。持ち物が少ないのでセブルスのベッドのそこは大抵(から)だった。

 足元にはそれぞれ、個人ごとのトランクが積まれていることが多い。

 その他にも机やクローゼットなどの木製家具が置かれていて、緑をメインカラーにした布製品が全体にあしらわれている。

 

 そんな中で、入り口ドアを内側から塞ぐように座りこんだトーマスが、つまらなそうに杖をもてあそんでいるようだった。

 監視、あるいは看守役である。

 とはいえ彼がセブルスを捕まえたというわけではない。

 

 その日、セブルスは"計画"のため静まれ(シレンシオ)を地下道にかけていた。とにかくスリザリン寮にクラリスの歌が届かないようにする必要があった。生徒が集まってきたら面倒なことになるのは確実だからだ(現に今そうなっている)。

 ささっと呪文を使って3人に合流するつもりだったのだが、そこに上級生が立ちふさがったのである。

 彼らの顔ぶれからして、マルフォイの差し金なのは明らかだった。

 

 何故呪文をかけていたかを(とが)められ、セブルスは「うるさくなるのでかけた」と言い訳をした。これ自体は事実である。

 答えるべきことには答えたのだし、ぐずぐずとしている暇はない。だから「それじゃあ」と断りをいれてさっさと横を抜けて行こうとしたのだ。

 しかし、相手は通せんぼするようにさっと立ちふさがってしまった。

 

 そうこうしているうちに、クラリスの歌が始まったのが地下にまで届いてきた。

 彼らは『なるほどこれは確かにうるさくなる』と納得して道をあけたのだが、セブルスが解放される前に今度はボス(マルフォイ)が()()()()になってしまったのだ。

 

「突然始まったイベントにお前が関わっているとなると……。重要な意味があるのではないかな、(あれ)に」

 その唇はうすく笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。

 彼は"試練"を知っているのだから、セブルスたちのチームが条件を満たせるのではと推理していてもおかしくはない。

 

「……ふむ。ならば少し様子を見ようではないか。我々にだって歌声を楽しむ自由はあるだろう?」

「"半人間"の声はお好きじゃないでしょう」

「みなが聴きたくないという自由もある。耳障りなら……そうだな、邪魔もするかもしれない。生徒の問題は生徒同士で解決すべきだ。──それで何か不都合があるのかな?」

 

 こういう時『シリウスが絡んでいるから邪魔をするな』と『平和的に』主張するのが定石(じょうせき)だったが、セブルスは口を閉ざした。

 大階段にシリウスがいないのはすぐにわかってしまう。そこから『グリフィンドール寮にいるのか』『グリフィンドール寮に何かあるのか』まで注意がいくとまずいのだ。

 

 セブルスはそれからも適当なことを言って粘ってみたが、抗いきることはできなかった。結局、『ほかのスリザリン生の楽しむ自由を奪った』とか何とか理屈をつけられて、談話室に連行されてしまったのだ。

「みなが十分楽しんだら解放してやろう」と。

 その顔にはありありと『お前たちの邪魔をしてやる』と書いてあった。

 

 結果、セブルスは寝室に閉じ込められることとなった。

 見張りは同室のトーマス。部屋の残りの住人は不在だ。

 

 セブルスは毛布の上に置いてある自分の杖をにらんだ。

「……どこか抜け出せる秘密の通路とか、ないのか?」

『あまりお勧めはしない。寮で過ごしにくくなるぞ。それに、君の友だちの立場も悪くなるぞ』

 見張りを命じられたトーマスに罰とかが与えられるかもしれない。

 それは(わか)るが、そうさせてはいけないのだろうか?

 セブルスはいまいち、トーマスにどう接するかを決めかねていた。

 

 たとえばセブルスの杖は取り上げられていないが、それはトーマスが適当なことを言って止めさせたからだ。

「寝室で魔法を使ったらすぐにわかってしまうし、談話室の生徒だって黙っていないでしょう」とか何とか。

 敵対しようという気はないのだろうが、マルフォイの命令に逆らえない彼を信じ切ることも難しい。

 

『──そして肝心なことだけど、寝室には抜け道はない』

 がっかりだ。

 そうすると、やはり居座っているトーマスを何とかしないといけないわけだ。

 単純に敵をしりぞけるのだと考えるのならば、向こうはドアの前から動けないのだから武装解除呪文でもいい。以前やったように蛇を出してもいいだろう。

 しかしここを出られても談話室には他の生徒だっている。彼ら全員を制圧できるような呪文は手持ちになかった。

 

『あの子を味方につけることを考えるのはどうだ?』

 オミニスに何かいい案はないかと尋ねてみると、そんな答えがかえってきた。

『いまの時代のことはよく知らないけど、あの子もいろいろ厄介な状態なのはわかるさ。僕も……、ゴーント家が合わなかったから。

 説得してみるのがいいんじゃないか?』

「説得か……」

 セブルスはあいまいに返事をした。

 

 それなりに明るく人懐っこいトーマスを嫌いだとは思わない。それに、彼ははじめから『争いごとや過激派には関わりたくない』『できれば穏健派にいきたい』と一貫しているし、無難で済ませるふるまい方を選んでいるように見える。そもそも『スリザリン寮に入りたくなかった』ように言っていたし。

 マルフォイの下っ端みたいに頼まれごとをこなしているのは、穏健派に伝手がないからなのだろう。穏健派だって『過激派(マルフォイ)の下っ端を引き抜いた』なんてことにしたくないはずだ。報復や取引で何をふっかけられるかわからないのだから。

 

(……でも、どう言えば味方になるんだろう)

 トーマスは敵ではないが味方かというとそうも言い切れない。そういう相手を説得して味方につけるなんて、セブルスにはやってみた経験がなかった。

『とにかく急ぐんだ。ほかの4人とも長くはもたないぞ』

「わかってる」

 どの道、今とれる手段は限られている。説得できなければ無理やりにでも脱出するしかない。

 談話室から逃げられなさそうなら、他の生徒の寝室で使えるものでも探してみよう。

 セブルスは杖をふってベッドの天蓋を上げた。

 

「……あー。どうするか決めた?」

 トーマスは、セブルスの杖に目をとめてからそう尋ねた。

 応戦するつもりはないのか、彼の方の杖は床に転がったままだ。呪文をかけられるかもと危惧するような顔もしていない。

 

「どうするかって?出たいって言ったら出してくれるのか」

「さすがに素通りさせるわけにはいかないよ。止めるよう頼まれちゃったからね。

 ほらー、たとえば……失神呪文とか使えないの?いきなりぶっ放されたー、とかじゃないとこっちも言い訳がきかないんだよ」

 まるで失神呪文を使うよう(そそのか)されているみたいだ。

 

「それでここからは出られても、すぐに談話室の生徒につかまるだろう」

「うん?……うーん、それもそうか」

 ドアに背を預けたまま、トーマスは少し思案するように首をかしげた。「ねえ、消音呪文を使ってよ」

 あまり外に聞かれたくないようだ。つまりセブルスの"脱出"に関して話し合うつもりがあるらしい。もしも相手がマルフォイなら『なにか外に漏れたらまずい呪文でも使う気なのか』と疑っているところだ。

 セブルスが"静まれ(シレンシオ)"を唱えると、トーマスはしばし迷うように眉間にしわを寄せてから、話しはじめた。

 

「……ぼくは余計なことは聞かないよ。報告しなきゃいけない事柄を聞いちゃっても黙ってるつもりだけど、君は疑うでしょ」

「疑うって?」まるで疑いをもつセブルスが悪いみたいな言い方だ。自然ととげとげしくなった声が口をついて出た。

「マルフォイに頼まれてぼくを見張ってるじゃないか。何を報告されているんだかわかったものじゃない」

 

 不信を正直にぶつけられたトーマスは不満そうだ。

 アヒルのように唇をとがらせて「Beep(ミッ)!Beep(ミッ)!」と鳴きまねをした。それはマグルの子どもが観るアニメ(カートゥーン)のキャラクターじゃなかっただろうか。鳥の。

「それ……」

 セブルスが目をみはったのと同時に、彼はやっぱりねと言わんばかりに鼻から息を吐いた。

 

「あのねえ。ぼくはかなり沢山のことを黙ってるんだよ。監督生に。もちろんほかの生徒にも。

 たとえばクリスマス前の騒動の時。きみが談話室にしばらく居たのは知ってたけど、『すぐに寝室に帰ってきました』って嘘をついたりとか。

 この間の絵のことだってそうだよ。周りに誰もいなかったから聞かなかったことにした。

 もしほかの生徒の目があったら出来ないよ。『知ってたのに何で黙ってた』って言われるからね。

 君もお察しの通り、監督生からは『何か普段とちがうことがあったら報告しろ』って頼まれ……命令されてるから」

 

「お前……マグルのことを知ってるんだな。"ロードランナー"」

「君もね。コヨーテから上手く逃げたいよ、ぼくは」

 声が小さいので、自然と2人ともドアの前に座りこんでの密談になった。外に誰かいても気づくまい。

 

「じゃあこの前の"ページワン(カードゲーム)"の時は、マルフォイに聞き出せって頼まれたのか?2回目の侵入の疑いがあるからって」

「気づいてたんだ。そういうことだよ。ぼくはマルフォイから離れたいのに、どうも逃がしてくれないみたいで色々言いつけられるんだ。形だけでもやった風にしとかないと」

 

 トーマスは結構あっさりと自分の置かれた状況を説明した。マルフォイから監視を頼まれたことも、どんなことなら報告するのか、黙っているのかも。

 それらの全てが大嘘ということはあるだろうか。すべてが演技で、本当は過激派の忠実な部下だなんて。

(ぼくがスリザリン以外を選べたと知って、あんなに怒っていたのに?)

 嘘には見えない。それでもセブルスは何か確証がほしかった。信じていいと決断できる何かを。

 だったら一番心配なことをぶつけてみるべきだ。

 

「でもお前はADA(エイダ)とも関わりがあったんだろう」

 トーマスはその茶色の目を何度かまたたかせた。

「なにと関わりがあるって?"エイダ"?それって誰?」

 

「まえに抜けたって言ってたじゃないか」

 とぼける気なのだろうか。セブルスはほとんど彼を信じるつもりで尋ねたのに、早まったかもしれない。

 胸がいやな感じにどくどくしてきた。

 まずかっただろうか。"エイダ"についてセブルスが知っていると明かしてしまったようなものだ。

 

 その間にもトーマスは小声で「"エイダ"……?」と何度も復唱していた。まるで授業ではじめて聞いた魔法薬の材料を忘れないように(そら)んじながら、頭のなかから探し出そうとしているみたいだ。本当に知らないようにしか見えない。

 仮に本当に知らなかったとしたら、彼らについてトーマスに明かさなければいけなくなる。それも避けたい。

(……どう誤魔化す?)

 セブルスは内実の焦りを悟られないよう、顔の筋肉が動かないようにと堪えるのでやっとだった。

 

 首をひねり続けていたトーマスが、不意に「……ああー」と声をあげた。照れ笑いのような笑みを浮かべて。記憶の中につながるものがあったらしい。

「何のことかはわかったよ。でもきみには教えられない」

「マルフォイが関わってるから?」

 危険な集団に関わっているという後ろめたさはないように見える。それなのに打ち明けないのはどうしてなのだろうか。

 

 トーマスは不思議そうに目をまるくしていた。

「"エイダ"とかいう人と監督生とに関係があるの?ああ、いや。ぼく今のは聞いてない。聞かなかったことにする。

 教えないのは監督生とは関係ないよ。

 きみ言ってたじゃない。ブラックと隠れてこそこそやってることを『いつか話す』って。まだ聞いてないよ」

 

 隠れてこそこそやっていること。

 それこそ真っ最中の"試練"のことだ。その試練のためにこうして大掛かりなことをやってまで、抜け出さなくてはいけなくなっている。

 全てが終わっていたなら伝えても良かった。"試練のはじまり"を封印してしまえば、たとえトーマスが裏切っても誰も手出しできないからだ。

 セブルスが腹を割って話すのはまだ難しい。

 

「そっちが先に打ち明けてくれれば……」

 そうすればきっと信頼できたのに。

 そんな気も知らず、トーマスはむっとしたように目を細めていた。

「あのねえ。ぼくだって君に先に自白してほしいんだよ。きみはシリウス・ブラックとも過ごしてるけど、他のブラック家とも関わってるじゃないか。

 ブラックにもマルフォイにも知られたくないんだから、ぼく自身の話は」

 

 つまりセブルスはトーマスから秘密が漏れるのを防ぎたくて、トーマスもセブルスから秘密が漏れるのを防ぎたい。お互いに「君から話せよ」と押しつけ合っている状態だ。

 セブルスから"試練"のことを話せば、トーマスも話し出すのかもしれない。

(でも……)

 セブルスにとっては途轍(とてつ)もなく嫌なのだ、襟をひらく(心を開いて打ち明ける)なんて。オミニスは違う意見を持っていそうだが、彼に諾諾(だくだく)と従うつもりなんてない。

 しかし、このままではトーマスの協力を得られそうにないのも事実だった。

(やっぱりやるしかないのか。気絶させるとか、動けなくするとか……)

 

『──僕から提案がある』

 協力案を丸めて投げ捨てようとするセブルスを制するように、オミニスが発言した。にらみ合うだけの両者に少しばかり呆れたようで、ため息まじりだ。

『時間がないんだ。トーマス・ヤックスリー。ゲームをしよう。彼が勝ったら脱出に協力して欲しい』

 トーマスは『この人、おかしなことを言い出したな』と言いたそうな顔をした。

 

「もしもゲームに僕が勝ったら?」

『こっちには協力できないものと考える。何とか1人と1枚の絵だけで脱出してみよう。

 ……どうかな?』

 

 トーマスは気乗りしなさそうに眉をはねあげた。

「そんなの、ぼくはゲームに乗らなければいいだけだ。ぼくには得がない。

 ……そうだなあ。じゃあぼくが勝ったら、ぼくもあなたに何か協力してもらうっていうのはどう?まだどんな協力かは考えてないけど、絵を移動して調べものをしてもらうとか」

『ン……。いいだろう。わかった。でもあまり危険な命令はするなよ』

 トーマスならば大丈夫だろう。オミニスもそう考えたのか、あっさりと提案に乗った。

 

 

 

『ルールは簡単だ。2人は交互に質問をする。相手に<Yes>と言わせたら自分が一歩進む。<No>だったら一歩戻る。それで先にドアノブに手を掛けた方が勝ち。

 こっちが勝ったらヤックスリーはこっちに協力する。ヤックスリーが勝ったら僕がヤックスリーに協力する。

 もちろん嘘はなしだ。味方に引き入れたい相手との取引だからね。

 ……そうだな、じゃあ<嘘を吐いたら負け>にしよう。あと、当たり前だけどすでに知っていることを質問するのは無し。ズルはだめだ。友だちを失くしたくないなら』

 

 オミニスは2人をドアの真反対にある壁に並ばせて、そう説明した。

 歩数としてはおおよそ10歩程度だ。

 つまりセブルスが最速でゴールするには、<Yes>を10回トーマスに言わせるよう上手に質問をしないといけない。

 

「先攻は」

「君からでいいよ。急いで脱出しなきゃいけないのはそっちでしょ」

 トーマスは察しのいいやつだった。

 

(……何を訊こう)

 トーマスが嘘を吐かないことを信じられるような質問がいい。オミニスはああ言ったが、彼自身は絵なので嘘を見抜くような呪文は使えないのだ。だから、このゲームが安全で、彼の回答が嘘でないことを信じたかった。

 

 セブルスはあれこれと頭のなかで検討した後、最初の質問をした。

「『お前は純血主義者じゃないだろう』?」

「Yes(そうだよ)」

 セブルスは一歩進んだ。トーマスはというと、平静な顔のままだった。なにを訊かれるか予想出来ていたのかもしれない。

 

「ぼくも同じ質問だよ。『君は純血主義者じゃないよね』?」

 

 片方の秘密だけを握るのは危険だが、お互いに同じ秘密をもっていれば少し安全になる。『自分の秘密をバラしたら、お前のもバラしてやるからな!』と睨みをきかせられるからだ。逆をかえせば相手を道ずれにして自爆することもできてしまうわけだが、トーマスはそういう性格じゃない。この1年で判断する限りは、だが。

 

 セブルスは少し迷ったが、少なくとも完璧な純血主義ではない。一般マグル男性は嫌いなので『一部Yes』とでも言うべきだろう。どうにかしてトーマスの協力にこぎつけなければ4人が危ないのだから尚更だ。ここで『No』と答えて信頼を減らすような真似はできない。

「Yes(そうだ)」

 

 2人とも1歩ずつゴールに近づいて、次はセブルスの手番だ。嘘はつけないルールなのだから『重要なのにまだはっきりとは知らないこと』を訊きたい。その上で『Yes』と言わせられるような質問なのがベストだろう。

 セブルスはいったん、トーマスや生徒たちの過去の発言を思い返してみた。

 父親が手紙でしょっちゅう連絡してくること、ヤックスリー家に間違いなく所属していること、シリウスが「あの家にトーマスなんて子供は知らない」と言っていたこと。トーマス自身が「海外にいた」と言っていたこと。

 

「お前は……、『お前の母親が海外の人だろう』」

「そうだよ。どこの国かは?」

「わかるわけないだろう。ふつうに英語をしゃべってるのに」

 セブルスが一歩進んだ。

 

 トーマスの手番だ。

「そうだなあ。君は……『君たちはあの垂れ幕の謎を解いた。……レイブンクロー生がチームにいなくてもいい』。どう?」

 彼はまえのカードゲームでも際どい話題をあげていた。やはりあの時には"試練"の予測をしていたのだろう。

 嘘は吐けないルールだ。そして、そのルールを決めたオミニスは当然、"試練"の内容を知っている。セブルスが「No」と答えたら失格になる。

 まさか()()()()に協力してくるつもりはあるのだろうか。

 セブルスがじっと視線を送ると、オミニスは『ルールは守れ』と注意した。その白っぽい瞳には苦笑がにじんでいる。

 

 彼だって"試練"について質問がとんでくることは予想できていたはずだ。その上でルールを決めた。

 ならばここでセブルスが正直に明かして、そのせいで何かあったらオミニスの責任になる。

(その時は存分に(ののし)ってやるからな)

 セブルスは「Yes」と答え、トーマスも一歩前に進んだ。

 

 それからも交互の質問はつづいた。

「『マグルの世界を知っているのは母親の影響なんだな』?」

「そうだけど、これ判定的にはどうなの?ヤックスリー家は純血主義だって有名で、母親が海外の人なんだから当たり前じゃない?」

「べつに知ってたわけじゃない。お前は母親の話はしないじゃないか」

「そうだけどさ。……いいよ、『Yes』」

 

「じゃあぼくの番。『君たちチームは今日もどこかの寮に入る予定なのに、君は閉じ込められた』。どう?」

「……その通り、『Yes』」

 YesかNoだけでいいのは、自分から秘密を打ち明けるよりも楽だった。

 

「じゃあ次。『お前はマルフォイの手下から抜けたがってる』」

「それってとっくに知ってることでしょ」

「知ってるのはお前が穏健派に入りたいってことだけだ」

「それは同じだよ。Yesだけど」

 勝敗はオミニスの判定となった。

『知っていることだね。失格にはしないけど……そうだな、"お手つき"にしよう』

 そうなる気はしていたが、セブルスとしては確定させておきたかったのだ。今まで一度も彼がマルフォイを否定したところを聞いたことがなかったから。

 その支払いは一歩後退となった。

 

 そのように前に進むこともあれば、間違えることもある。

「君たちって4人チーム?」「No(カウントに入ってないのはリリーか?リリーはマルフォイに目撃されていない)」

「海外に戻りたいか?」「No(いや)。いずれ変わるかもしれないけど、今はちがうかな」「戦争中のイギリスの方がましなのか」

 そうやってお互いに何回か足踏みをしながら、交互の質問は続いた。

 

「『お前はいいところの子どもだろう。海外でも』」

「<Yes>だね。ヤックスリー家と釣り合うところだから?」

「いや。寮の雰囲気に慣れてる感じがする」

「それは……たぶん君よりはね」

 

 次はトーマスの手番だ。

「次ね。あの垂れ幕には4つの"住み処"が示されていた。あれは4つの寮だろうから、『今日君たちが挑みたいのは4つ目の寮だ』。……どう?」

 かなり核心に迫るような問いだ。額縁のなかのオミニスの表情は、やはり変わらない。

「……そうだ」

「最後だったのか……。3つ目か4つ目か、迷ったんだよ」

 

 トーマスは"試練関係"のことを知りたかったようで、攻め手をそこにしぼっている。セブルスを含めたチームで攻略しているところを見張っていたのだから、いくらでも質問できるだろう。たとえセブルスが口を割らなくても。

 おかげで、試練についての(ほとん)どを知られてしまった。

 

「ぼくの番だ」

 セブルスはそう宣言したが、肝心の質問内容がなかなか思いつかなかった。

 

 なにせトーマスが普通から外れた行動をとったところなんて見たことがない。何やら事情ありげだが明かしはしないのだ。だから勉強の話やカードゲームくらいはやっても、どんな暮らしをしているかすら知らない。

 知らされていないのはセブルスだけじゃない。ほかのスリザリン生だって同じだ。例外があるとすれば同室の残り2人だけだろう。それとも、彼ら経由で穏健派には伝わっているのか。

 

 セブルスにはなかなか芯をうがつような質問は思い浮かばない。ほかに聞き出したいような事情なんてあっただろうか。

『穏健派に伝わることを期待して2人に打ち明けたのか』とか?Yesもとれるか微妙だし、聞き出したいとも思わない。あまりいいアイデアではなさそうだ。

 あまり時間をかけて悩んでもいられない。セブルスは苦し紛れで質問をだした。

 

「お前は……母親もイギリスにいる?」

「Noだよ。逃げられなかったから。捕まってるか、それとも……。

 何もわからない」

 成果には結びつかなかった。おまけにトーマスの表情も曇っている。

 

(くそ……)

 この勝負はセブルスの方が圧倒的に不利だ。

 オミニスに鋭い目を向けても、彼はどこ吹く風という顔のままだった。

(あんな勝負を持ち掛けておいて、負けたらどうするつもりなんだ?)

 

 やがて特に番狂わせもないまま、トーマスが先に入り口ドアにたどり着いた。

 勝ったのは彼だ。

「ダメだったじゃないか……!」

 オミニスはいったい何がしたかったんだ。

 絵に食ってかかったセブルスに対して、「いや」と首を横に振ったのはトーマスの方だった。

 杖をたずさえ、そのままドアのすき間から外をうかがっている。

 

「なんとかしてこの寮を出よう。どこの寮に行くのさ?」

 なぜか急に協力的になっている。その割には仏頂面だったが。

(ゲームをやっただけなのに?)

 トーマスはオミニスの絵の方に「こうなるってわかってたんでしょう」と文句を言っていた。

 一体どういうことなんだろう。

 

『ゲーム自体は勝っても負けてもいいんだ。"試練"のことを知ったら協力してくれるだろうから』

 セブルスが飲み込めないままでいたせいか、ずっと平静だったオミニスが解説を始めた。

 

 彼が言うには、つまりゲームのていで"試練"についてトーマスに知らせたかったのだという。知れば協力させられる。セブルスが勝負に負けたとしてもはじめから関係ないと。

 トーマスは報酬に釣られてまんまと知らされてしまったのだ。

 振り回されたと知って、セブルスはすっかり体の力が抜けてしまった。

『君が素直に打ち明ければ話は早かったんだぞ』とまで追撃されてしまっては、もう口をつぐむしかない。

 

「──過激なやつらに悪だくみのアジトを与えるなんて、ぼくだって嫌なんだよ。今よりもっと巻き込まれそうでしょ」

 トーマスは2人(1人と1枚)に「はやく行くよ」とうながしてきた。

「勝ったんだからこの人に頼み事は聞いてもらう。

 それに危ない橋をわたるんだから、シリウス・ブラックによく言っといてよね、ぼくのこと!」

 彼はどうにも打算的なところが見え隠れするが、セブルスにとっては協力してくれるならそれでもいい。

 

 こっそり廊下に出ると普段よりも静かだった。そのぶん通路の奥、談話室の方からのざわめきが目立つ。どこか戸惑っているような雰囲気だった。

 2人と1枚の絵は顔を見合わせた。

 

 いつもと様子がちがう。寮の外で問題でも起こったのだろうか。マルフォイはクラリスが邪魔されるかもしれない、といったことを言っていたが。

(何が起こってもいいようにしよう)

 杖を構えながら談話室の方へ向かう。

 

「……そういえば」セブルスはふと気になって尋ねた。

「"ADA(エイダ)"の心当たりって何だったんだ?」

「ああ、それね」

 トーマスもまた、茶色の瞳で注意深く道の向こうを観察しながら肩をすくめた。

 

 

 

「ぼくはギリシャ出身なんだよ。ギリシャ語ではギリシャのことを"エラダ"って呼ぶんだ」

 

 

 

 

 

 

 




※ギリシア(Ελλάδα エラダ)補足

・1967年(この話の5年前)に陸軍将校による軍事クーデターが発生
 (この時点では王制だった)

・その後戒厳令が出たので国外脱出が難しくなった

・トーマス君の母親が王制側だった
 父子は脱出できイギリスに渡った(父親の実家に戻った)

・なので母親の安否は不明

低学年編書き始めた時にまとめた設定がどっかいったのですが、
ギリシャ人の平均的な特徴が、茶髪・茶色の瞳らしい

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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