セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
セブルス脱出の15分ほど前
グリフィンドール寮での下準備は、主に敵を迎え撃つためのものだ。
DADA(闇の魔術に対する防衛術)の先生、あるいはマルフォイなどの協力者がやって来た場合、彼らがどんな行動に出るかを予測するのは難しい。目的を読み切れないからだ。
5人が"試練"を受ける邪魔をしたいのか、"試練"の情報を吐かせたいのか。5人の"受験"を見てカンニングしたいだけなのか。あるいは、5人の"受験"に気づいていなくて何も仕掛けてこないかもしれない(ただしこの説はセブルスが捕まえられたことで否定されたようなものだった)。
おそらく一番危険なのは、彼らが情報を吐かせようとして5人のだれかが捕まることだろう。
つまり、そうならないよう動くのが一番安全だろうという結論になった。
もちろん、敵(先生)だってあまり過激な手段は使えないはずだ。『生徒たちを指導した』と言い訳のきく程度におさえるだろう。なにせマクゴナガル先生が見張っている。自分たちに異常が起これば"真実薬"で洗いざらい白状させるはずだ。そんなことくらい、先生だって見越しているだろう。
5人と1枚の絵が最初に思いついたのは、先生がこっそり忍び込んでくる可能性だった。
対策として、グリフィンドール3人組は寮に入ってすぐの床を接着呪文まみれにしておいた。敵がくっついて動けなくなったら、すぐに武装解除呪文で杖を取り上げればいい。
それで先生を捕まえられれば最上。
でも警戒されて逃げられたら?
先生は次にどんな手をうつだろうか。5人はどうすればその手に捕まらずに済む?
彼らが次に思いついたのは、それらの接着呪文が消されてしまう可能性だ。──
無言呪文で気づかないうちに消されるのが一番危険だろう。だから5人が察知できるようにしなくてはいけなかった。
こちらにもすでに対策を
具体的には、いわゆる
壊してしまうかもしれないが、こっちは危険な敵とやりあう羽目になるかもしれないのだ。リリーは罪悪感で胸がちくりと痛んだが、『それが必要なら』と腹をくくった。
3人が、セブルス抜きでも出来るだけの準備を終えられそうな時だった。
"
それと同時に、寮の入り口側──横道から人影らしきものが飛び出してきた。
「グレイシアス!──氷河よ!」
見張りをしていたシリウスの呪文に、人影は狙い
狙いをつけるのは難しくなかっただろう。敵はどうやっても壁に空いている穴から入って来るしかない。つまり着地できる地点というのはある範囲の中に収まってしまう。普通に入ってくれば。
ほうきなどで飛びながら入ればその限りではないが、その場合は呪文なんて何も当てられない。
シリウスは猛特訓で覚えたての
「インカーセラス──縛れ!」
ジェームズも氷づけになったそこに追いうちをかける。もしもシリウスが呪文を外していたり、氷が解かれてもいいようにするためだ。彼もまたシリウスとは離れた場所で、すぐに本棚を盾に身をひそめていた。
(まるで銃撃戦シーンみたい)
映画のなかで、撃ってすぐバリケードに隠れるのに似ている。合間にぱっと立ち上がって撃つのも。
今や談話室の中は、木製家具が遮蔽物(バリケード)にされてまっすぐ歩くのも難しい状態になっていた。談話室中の家具をかき集め、足りないものは寝室からも持ち出している(縮小できるセブルス抜きだったので、浮遊呪文で動かせる大きさのものだけだったが)。
3人はあらかじめ計画していた通り、ばらばらの位置に陣取っていた。まとめてロープで縛られなどしたら、せっかく人数で上回っている意味がないからだ。
とはいえ、相手の呪文は物陰に入ったからといってかわせるとも限らないので、あくまで自分がどこにいるかを補足されないためのものだ。
バリケードの隙間から凍り付いたものを確認していたシリウスが、血相を変えて声をあげた。
「──ローブだけだ!」
それを聞いたジェームズがとっさに「ルーモス・マキシマ(鮮烈な光)!」と
リリーは「危ない」と叫びそうになって、あわてて自分の口をふさいだ。2人とはちがい、彼女だけは基本的に前に出ないことになっている。
せっかく目の届かないところに隠れているのに、自分の存在がバレるような真似をしてはいけない。
先生の呪文は、よけきれなかったシリウスを周囲の家具ごと巻き込んでを氷のなかに閉じ込めていた。シリウスの放ったそれよりもはるかに広い範囲だ。シリウスのが子ども用の小さなプールなら、先生のは金持ちの家にある大きめのサイズだろうか。
一方のジェームズは飛びのいたので巻き込まれてはいなかった。もしも2人とも凍っていたら計画はあきらめるしかなかっただろう。危ないところだった。
先生は待ち伏せがあってもいいように、ローブだけを先に投げ込んで囮にしたのだろう。リリーにとってはそれも映画やドラマなどで見たことのあるやり口だった。大抵の場合、その囮は穴だらけにされる。
「──談話室を閉ざしてめちゃくちゃにするなんて、悪い子たちね?」
先生が忍び笑いをもらして悠然と横穴から床に降り立ったのが、リリーのいる位置から見えた。一人のようだが、だれか透明になっている人物を連れていないとも限らない。大階段にマルフォイの姿がないというのだから尚更だ。
「先生として、悪ガキを捕まえて目的を白状させるべきよね。ええ、悪いのはあなたたち。白状してあなたたちに不都合があっても仕方ないわよね……?」
「フィニート・インカンターテム!──すべての呪文よ終われ!」
ジェームズが先生の口上を無視して、そこいら一帯に終了呪文をかけた。シリウスの周りにも、先生の周りにも。
姿くらましを使っている人物は──先生のそばにも、横穴にも見当たらない。同行者はいないようだ。
「校則違反確定ね!アクシオ──来い!」
「フィニート──呪文よ終われ!」
氷から抜け出したシリウスが、すかさず先生の呪文を妨害した。そこにジェームズが追撃する。
「ディセンド──落ちよ!」
彼は先生の杖腕の上から圧を加えていた。見たことがあるやり方だ。マルフォイに決闘を仕掛けられた時の戦法を真似ているのだろうか。
しかし、先生は杖を取り落とすこともなく、身体をひねって簡単にかわしてみせた。真上からどけばいいだけなので難しくはない。呪文の威力がまだ足りないのかもしれなかった。
「グレイシアス──氷河よ!」
「レダクト──粉々!デパルソ──退け!」
先生を捕えようとしたシリウスの氷が砕かれ、その破片が散弾銃みたいにクローゼットの背中に突き刺さる。それなりに厚みのある板なのに
(こんな簡単な呪文でも2人に当たったら……)
首すじがひやりとした。
リリーがそうしている間にも戦況は動いていく。
次に仕掛けたのは、頭をひっこめて"弾丸"をよけたジェームズだった。
「エクスペリアームス──武器よ去れ!」
そのままいけば直撃するコースだ。
しかし先生はまるで前方を押しのけるように杖を振り、武装解除呪文の閃光を散らしてしまった。
闇の魔術に対する防衛術を任されるだけあって、なかなか捕まえさせてはくれないようだ。
(計画どおりに進めているのに……)
ジェームズはひたすら
ジェームズは基本的には
2人はその戦法を維持したまま、あちこちに並べられた机やソファの合間を縫うように撃っては隠れ、移動して別のところから撃つ。それを繰り返していた。
大人の魔女と1年生では実力差があるのはわかっていた。それでも先生にだって、2方向からばらばらに飛んでくる呪文に対処するのは骨のはずなのに。
(でも、決めきれてない……!)
先生をやっつけるのは無理でも、先生の動きを止める必要がある。そのために自分たちにできる最善の手は打っているはずなのに。
このままでは時間ぎれになってしまう。
2人のこれまでの猛攻は、最速で決めるつもりだからこそだった。余力はない。
このまま、どこかで先生が一手ミスをしてくれるのを待つべきなのだろうか。
それとも、先生が攻めあぐねているうちにリリーが後ろから武装解除すべきかもしれない。
(……いいえ)
検討してみてすぐ、リリーは首を横に振った。
(それは……。するとしても今じゃないわ)
リリーが今それをやっても、きっと先生はどこかの家具の陰に隠れてしまうだろう。
せっかくの切り札を、ここで浪費してしまうわけにはいかない。
──リリーがチームに入っていると確証をもたれてはいないだろう。
それは作戦会議をした時に予想されていた。
正確には「リリー以外はチームに入っていると予想されるかもしれない」というべきだろうか。
ジェームズとシリウスは隠すつもりもなく"試練"について調べまわっていたし、マルフォイにも目撃されている。必ず関係者だと判ってしまうはずだ。セブルスも2人と共謀していると思われている。
クラリスは目撃されていないが怪しまれる可能性が高い。元々シリウス、セブルスとつるんでいた時期があったからだ。しかもこうして大々的に
一方でリリーは、グリフィンドール寮の2人とは表立った付き合いをもっていない。
メンバーかと疑いは持たれているかもしれないが、ここにいなくても不思議ではないのだ。
先生が無警戒とは考えにくいが、リリーであれば隙をつけるかもしれない。
「インカーセラス──縛れ!」
ジェームズが本棚ごと先生を縛り付けようとするも、それすらも無言でいなされてしまっていた。そこにシリウスの
杖の操作に必要な、微妙な振りの調整が封じられたのだ。指先でなければできないようなそれを。
これはチャンスだ。
「インカーセラス!インカーセラス!インカーセラス!」
ジェームズが畳みかけ、先生の胴体、両腕、足へとロープが巻きついた。家具の脚やら出っぱりごと縛り上げるように。
武装解除呪文で杖を手放せさせることは叶わなかったが、これなら満足に呪文を使うことも……。
「フィニート・インカンターテム!──すべての呪文よ終われ!」
「ペトリフィカル・トタルス──石になれ!」
先生の杖なし呪文でロープがいっぺんに弾け、ジェームズの
(ダメだったわね)
正直なところ、先生がここまで多彩な戦術ができるとはリリーは知らなかった。彼女の授業はずっとゲーム形式だったし、決闘の腕前を見せたことなんてない。
(思っていたより、ずっと強い!)
これほど意表をついてもどうにもならないのだ。これ以上先生の動きを封じられるような方法なんて自分たちにあるだろうか。
失神呪文を覚えれば良かったのかもしれない。男子3人からは案が出たのだが、オミニスに教わるのを断られたのだ。1年生に持たせても
(覚えておいた方が良かったのかしら……)
それも今さらの話だ。後悔しても使えるようになるわけじゃない。どうにか手札を考えつくしか道はないのだ。
思うままとはいかず気弱になりそうなのを振り払うように、リリーは必死に頭をめぐらせた。
(たとえば……喉に『
それは無理だった。そんなに簡単に一点を狙えるようなものじゃない。
同じように手札に困ったのだろうジェームズとシリウスも四苦八苦していた。談話室じゅうの家具を踊らせたり、床をやわらかくして踏み抜かせたりと応戦している。それでも先生は、自分たちの罠にかけられる程には停止してくれない。
(どうしたらいいの……!)
リリーはここ一番の時に動かなくてはいけない。それなのに、いつ、どうやってやればいいのかもまだ思いついていなかった。
呪文での手助けもできずに、壁のすきまで身じろぎもほとんどできないまま、戦いの行方を見守るしかできない。
2人が間髪入れずに呪文を撃ちこみ続けているのは、もちろん先生を打ち取るのが一番の目的だ。しかし一方で、リリーの存在を隠すためでもある。2人がわざわざ引き付けているのを
今のところ、すべては打ち合わせ通りに進んでいる。
それでもどうしても埋められない部分がある。
(セブがまだ……!)
先生を捕まえるために彼の呪いが必要なのに。
リリーはハラハラと落ち着かなくて、心臓の裏側が冷たくなるような感じがしていた。
「ストゥーピファイ!──失神せよ!」
先生のはなった閃光の先には誰もいなかった。
2人も攻め切れていないが、一方の先生もまた手を焼いているようだった。
うてる対策をうった2人と、足かせのある先生。双方が一歩もゆずらずに膠着状態になってしまった。
ジェームズは何度目かの"銃撃"の後、リリーのそばに転がり込んできた。そのまま、リリーに目をやって両手を動かして見せる。
左手の人差し指を立て、右手のひらをそこにぶつけるようにしている。
意味を推測したリリーが『これ?』と目の前の
彼の指示の意味はわかる。
つまり『セブルスがいることを前提とした計画はあきらめ、別のことをしよう』ということだ。
本来の作戦では、まず猛攻で先生に
目のはげしい痛みを我慢しながら、的確な呪文を選ぶなんて大人の魔女にだってできない。妖精の呪文はともかく、呪いならば解けるまで時間がかかるものだ。そうすれば先生を縛り上げるのも杖を奪うのも難しいことではなくなる。
ジェームズがじゅうたんの下に紋章を準備していたのはその仕込みだった。彼では設置までは手伝えるのだが、呪いをかけるのはセブルスでなければできない。
その手段を捨てて代わりにリリーに動いて欲しい、とジェームズは頼んできたのである。
リリーは『請け負う』とはっきりうなずき返した。頼まれなくても協力したかったのだから。
ジェームズはそのまま握りこぶしに親指だけを立てて『Good』と応じ、部屋の真ん中の方のバリケードに移動して行った。
「──シリウス!やるぞ!」
「まかせろ!」
ジェームズの宣言を受けたシリウスは、バリケードを飛び出して先生の方に駆け出す。
「デパルソ──しりぞけ!デパルソ!デパルソ!デパルソ!たくさん飛んでけ!」
ジェームズが出の早い呪文を連発して、そこら中のバリケードを先生に向けて投げ始めた。彼が猛特訓で習得したのはデパルソだったのだ。
家具が降ってくるのをすり抜けるようにして、一方でシリウスが杖を振り続ける。
「石になれ(ペトリフィカル・トタルス)!石になれ!」
2人がどんな戦術を選んだのかを察して、先生は足を止めないように家具を破壊して逃げ道をつくっていた。石にされないためだろう。
それでも全てをとらえきれることはできないらしい。彼女はみるみる後退していき、入り口に面した壁ぎわにまで追い詰められていく。
ジェームズは手を緩めず、家具を投げて壁にぶつけ続ける。そこに乱射された"石になれ(ペトリフィカル・トタルス)"が加わり、先生の近くにぶつけた家具ごと近くのものを石に変えていった。
考え方は
さらに、バリケードにしていたのは大型の家具ばかりなのだ。簡単には壊れない。どける間もなく次から次へと降ってくるものだから、先生の動ける範囲はどんどんせばまって行った。
反対にジェームズたちの姿をかくすバリケードはどんどん減っていく。がらんとしたスペースができる頃には、先生は囲まれて杖を十全に振れなくなっていた。
やがて、体にぶつけられたソファの向こうに埋まるように、先生の姿は見えなくなった。
「ペトリフィカル・トタルス──石になれ!」
シリウスは油断なく杖を振り続けているが、先生が石になったかどうかまでは見えない。家具の山の下にいるからだ。
「エクスペリアームス──武器よ去れ!」
ジェームズも呪文を使ったが、やはり杖が飛んでくるような気配もないようだ。
リリーが耳を澄ましてみても、脱出にあがくような音はしなかった。
もしも先生が気絶してくれているなら、リリーの出る幕はもうなくなったはずだ。しかしそうでないのなら、杖を奪った上で縛っておかないと安心できない。なにせ相手は杖なし呪文も無言呪文も使えるのだから。
2人もしばらく耳をすませていた。
どこからも身じろぎするような音はしない。
やがて乱れた呼吸が整った頃、シリウスが杖を構えたままで口を開いた。
「……どうする?セブルスの救出に行くか?」
「その前にこの辺をぜんぶ凍らせておこう」
2人の目線が一瞬、横穴の方にそれた瞬間だった。
「ヴェンタス・マキシマ──暴風よ!」
積み上げた家具が談話室の奥の方に吹き飛んだ。
談話室に吹いた突風によって。
2人も横殴りの風にすっ転ばされ、思わず掴んだだろう
「インカーセラス──縛れ!」
ジェームズが壁についている燭台にロープを伸ばして捕まると、シリウスも同じようにロープの端をにぎった。
床に踏ん張っているのも難しいようだ。
2人は
暴風はまだ止む気配がない。
ついには室内にあったものをみんな巻き込んで、談話室の奥まですっ飛ばしていく。本棚も、机も、引き出しも、コンソールデスクも、じゅうたんでさえ。何もかもだ。
今もリリーのそばにあったソファが浮き上がり、先生の周りを一周したあとに家具の山へ合流していった。
リリー自身はというと、彼女のいる場所にはほとんど影響はない。一番大きくて重量のあるもののそばにいるからだろう。
ジェームズたちが
その状況に、リリーにはジェームズの狙いがすんなり理解できた。つまり彼はリリーの"仕事"の手伝いをしてくれたのだろう。
なんとかロープにしがみついている2人のもとに、前方から大きな片袖机が飛び込んでいった。
(ぶつかる!)
ジェームズがロープごと
全てのものが吹き飛ばされ、ちょっとした運動場くらいのスペースができた頃、ようやく風は止んだ。
ジェームズとシリウスがひとまとまりになった状態で。
疲れ切った2人には先生の呪文を避けるすべはない。
「ペトリフィカル・トタルス──石になれ!」
2人は『ごとり』と大きな音をたてて床にたおれた。
先ほどまでの災害がうそみたいに、室内で動くものはなくなってしまった。
しんと静まった談話室で、リリーの元に届くのはこつこつという先生の靴音だけだ。
リリーの存在に気づいた様子はない。
「アクシオ──来い!……あら。ロープごと石になったのね」
ジェームズはロープを体に巻き付けたままで床に転がっていた。ロープはまだ燭台につながっているものだから、石になった2人はその場から動かない。
先生は取り寄せ呪文をあきらめ、2人の方に向かい始めた。リリーのすぐそばを通って。
「先生というのは幾らでも悪ガキを罰する手段をもっているものなの。抵抗は無駄だとわかったでしょう?
……ああ、もしかして大きな音を立てたから誰か来るかもしれない、とか希望を持っているのかしら。
かわいそうに。
通路は氷結呪文で塞いでおいたの。消音呪文もね。音は外には届かない。
あなたたちがここで何をするつもりなのか、じっくりと聞かせてもらいましょうか?」
石は返事をできないので、その脅しの言葉はひとり言みたいだった。
リリーは小声で「
なおも先生の口上は続いている。
「やっぱりポッターに話を聞くべきかしらね。あなたの方が成績が良いから。
何かしら、その顔は──まさか!」
先生が勢いよく振り返った時には、談話室の壁が1枚、まるごと彼女を押しつぶすところだった。大量の肖像画がかかったままで。
今の先生にできるのは叫び声をあげることだけだ。
リリーはその重たすぎる壁が倒れこんでいくのを、痛そうな顔で見送っていた。
「大丈夫?」
リリーは不敵な笑みを浮かべたまま石になっているジェームズに終了呪文をかけた。
先生といっしょに壁の下敷きになった割には、どこも壊れていないようだった。生身だったら先生といっしょに気絶していたかもしれない。
先生はぴくりとも動かなかったが息はあるようだった。あの重みでは目を覚ましても動けないだろう。杖だけは回収しておいた。
リリーはずっと、グリフィンドール寮1階の肖像画がかかった壁──の前に置いたダミーの壁に隠れていたのだ。
計画では、セブルスに入り口の絵を縮小してもらった後、室内の肖像画も同じように縮小してもらう予定だった。中の住人が帰って来られなくなるように。
しかしそれをすると、先生にすぐばれてしまう。
すぐに拡大されては意味がないため、偽物の壁を用意することにしたのだった。倉庫から大量に手に入れた額縁をつりさげてある。中に絵は入っていないが、人物は不在なので気づかれにくい。
もちろん実寸大の壁を談話室まで持ち込むのは大変なので、あらかじめ準備したそれは縮小してあった。今日になってリリーが拡大呪文を唱え、設置したのだ。
先生がグリフィンドール寮出身ではなかったのが幸いした。それに、室内はバリケードだらけだったのだ。2人の呪文から目を離せないので気づかれずに済んだのだろう。
壁が2重になっていたことに。
リリーは本物の壁と偽物の壁のすき間に入っていたのである。
ジェームズが
先ほどのように投げつけて、先生を仕留められるなら仕留める。
できなかった場合は、散らばった家具を一方に寄せて広いスペースを作り出す。背の高い本棚などがあったら、壁がつっかえてしまって先生には当てられないからだ。
その後は壁につぶされる位置に先生を追い込むため、
石が解けたジェームズは、リリーがきっちり決めてくれたことに満足そうな笑みを浮かべていた。
「これで君も、はじめて名誉の罰則を食らうってわけだ」
ジェームズが握りこぶしを向けてきたので、リリーは思い切り小突くようにして応じた。
「おかげ様でね!パパやママに……いえ、チュニーにばれたらまた何て言われるか」
「そんなやつのことは気にするな」
同じく石が解けたシリウスは、敵を打ち倒して興奮したように言った。
「今度の罰則は競技場の掃除とかだといいな」
「どう考えても額縁の修理じゃないの?」
リリーが指さした方には普通の壁と、床に散らばった大量の額縁、大人の背よりもはるかに高い壁が1枚転がっている。
「どうかな。……あっちも」
ジェームズの指した方を振りかえると、談話室の奥側にだってめちゃくちゃにへし折れた家具の山が生えてしまっていた。
「ぼくは大掃除に一票」
「そうね」
「絶対にそうだ」
小さく笑った3人は、あらためてこぶしを打ちつけ合ってから、立ち上がった。
「インペリオ──服従せよ!」
3人を裂くように、閃光が廊下の奥からとんできた。
壁は"2枚"あった!(ブチャラティ風に)
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
-
【活動報告】にあげて欲しい
-
【本編】にあげて欲しい