セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始) 作:桜井ぬい X→@Inui20230918
「インペリオ──服従せよ!」
3人を裂くように、閃光が廊下の奥からとんできた。
呪文が掛けられたのだと理解するより先に、リリーは驚きで固まってしまった。
(マルフォイじゃ、ない……!)
声が全然ちがう。
DADAの先生に協力する者がいるとすれば、てっきり彼だと予想していたのに。
そこまで考えてから、リリーは
「……ジェームズ!」
あの呪文はリリーを狙っていたが、当たってはいない。隣にいたジェームズに庇われたからだ。
彼は無事なんだろうか。うまく避けてくれたかもはっきりとはわからない。
リリーは急いで立ち上がり、すぐそばにいるジェームズに手をのばした。
「アクシオ──来い!」
目の前の黒いローブの
(どこに……!)
ジェームズが取り寄せされた先まで目で追うと、そこにはローブを着た背の高い人物が立っていた。フードを目深にかぶっているので顔は見えない。体格ががっしりしているので男性だろうとしか
彼は取り寄せたジェームズのフードを
「誰だ……!?」
リリーの隣で杖をかまえたシリウスが真っ向から問う。
「先生といっしょに入って来たのか!?」
「いいえ、いっしょに入ってきた人はいなかったわ!」
シリウスだって見ていたはずだ。連れはいなかった。
それでも誰かが寮内にいるとすれば、その誰かはつまり──。
うそだ、と悲鳴のまじったような声をシリウスはあげた。
「部屋は全部チェックしたはずだ!そんなわけない……、寮のなかに潜んでたなんて!
その顔からは血の気がひいていた。きっとよほど危険な呪文なのだろう。セブルスが強力な呪いの話をした時だって、そんな顔色になったことはない。
寝室の中もすべてチェックはしたが、さすがにどこかにじっと隠れていたものをあぶり出すようなすべはない。デミガイズ製の透明マントを持っている生徒なんかは、特にだ。
「この人はきっと、"危険チーム"の……」
「そんなわけない!」
シリウスは
相手が危険でも敵でもないなんて、それこそ
味方なら先生に襲われている時に助けてくれたはずだ。もしも先生が正しくて自分たち3人を叱るべきだと考えているのなら、逆に先生に加勢していたはず。
しかしこの人は、このタイミングで襲いかかってきた。危険な呪文をつかって。
たとえ"危険チーム"でなくても何らかの危険な目的をもっているのは間違いない。自分たち3人にとっては、逃げるか打ち倒すかしなければならない敵なのだ。
しかし、シリウスを説得する
リリーは彼を説きふせるよりも、敵から目を離さないことを優先した。まだ納得していないシリウスが
その人物はジェームズに頭に杖を突きつけ、2人に要求した。
「動くな。動けば今日からセストラルに会えるようになるぞ。……お前たちが無事ならな」
それから彼は大ぶりなナイフを鞘から抜いて、ジェームズに握らせた。切っ先がちょうど喉元にくるようにだ。
「この2人が呪文を使ったら、喉を突いて自害しろ」
ジェームズはそんなとんでもない要求にも「もちろん、そのつもりだよ」と
どこかぼうっとした目と、機嫌よく上がった両
心臓が嫌な感じにどくどくと脈打つ。(……まさか)
(『何でもいうことを聞かせられる呪文』……?)
だとしたら本当にジェームズは死んでしまうのかもしれない。自分たちが呪文を使ったなら。相手を倒すためではなく、逃げるためであってもだ。
これでは2人がどんな呪文を使えたって助けようがない。
呪文以外で助ける方法だって思いつかなかった。先生との戦いで用意した手札はすべて使い切ってしまったのだ。切り札までも。
今のリリーにできるのは、時間をかせぐことだけ。
相手にもそれが
「聖28ほどじゃないが貴重な純血家系を死なせるのは忍びない。そのマグル生まれを差し出せば2人は見逃してやるぞ。……話を聞きたいだけだからな」
「リリーから話を聞きだして殺すっていうのか!うそをつけ!学校のなかで逃げ切れるわけがない!」
シリウスが構えている杖は怒りでこまかに震えていた。
「お前たちはよーく知っているだろう。先生の誰も手がとどかない場所を。……目の前にある」
あごの先で指し示されたのは、よく知っている『空気をそのままくり抜いたような透明なドア』のあたり。
"試練"の隠し部屋だ。
隠し部屋を知っていて、しかも見えてすらいる。"危険チーム"に協力しているとみて間違いないようだった。
死んだらそこに隠す……、いや、たしか消失呪文というものがあったはずだ。上級生なら簡単に隠せてしまうだろう。
だとしたら、この男はあの部屋に逃げこむつもりだ。
もしフードをはがして顔を見ても、校内のどこにもいなければ捕まえることができない。リリーたち以外には。
「そんな場所に心当たりなんかないね!」
シリウスはつらっとした顔のまま嘘をついた。
「……それに、そろそろクラリスのライブは終わりだ。そうしたら肖像画だってみんな戻ってくる。誤魔化しきれるわけがないんだ。絵が裂かれたって先生も知ってるのに」
彼のしゃべり方は敵対する相手にするというより、知り合いの過ちをあきらめさせようとしているみたいだった。
(……だれなのか気づいてるの?)
実際のところ、リリーにも『あの人の声に似ているけど、まさか』という気持ちが強かった。確証が持てないというよりも、そうだと
「こんなことは止めろ。今なら何もなかったことにできる」
『なかったことに』?
こちらはそうでも、向こうがそうしたがるだろうか。すでにジェームズの命を握るような真似をしているのに。
返ってきたのは
「いくら
お前に従う者は、お前自身ではなくその血に頭をさげているに過ぎん。
ご両親はお前にもっと教育をしておくべきだったな。学校を取りあげてでも」
何かの間違いなんかじゃない。この男はグリフィンドール生なのに純血主義者でもあるのだ。
「お前にできるのは『やめろ』と命じるのでなく、『やめてくれ』と頼むことだけだ、
リリーもほかのメンバーも、何となく『危険チームはグリフィンドール生寄りの価値観をもった、スリザリン生のいるチームである』と考えていた。自分たちのように。
逆だ。『スリザリン生寄りの価値観をもった、グリフィンドール生のいるチーム』だった。
リリーも説得に加わることにした。ジェームズが人質にとられていて、こちらには2人しかいないのだ。正面から戦って上級生に勝つなんて無理だ。DADAの先生にだって3人がかりで、それも罠にかけてようやく気絶させられたのに。
「先生たちがあなたに真実薬を使えば、すぐに全部明らかになるわ!あなたたちの裂いた絵はわたしたちの味方だもの」
リリーの声を聞いた相手は舌打ちで返事をした。
「"穢れた血"と話す舌はもっていない」と悪態をついた後、シリウスをあごで指すようにして続けた。
「……で、その"頼もしい"絵は教えてくれたのか?『お前たちが最初から"試練"をやり直したこと』を」
リリーが思わずシリウスの方を見ると、彼も目を丸くしてリリーに視線をなげてきた。
(最初からやり直した……!?)
オミニスからはそんな説明は全くなかった。
「でたらめを言って混乱させるつもりか!」
「待って。根拠があるかもしれないわ」
リリーはセブルスから、『クリスマス前に試練をはじめたと疑われている』と聞いていた。マルフォイやこの男の証言の方が正しいのかもしれない。自分たちの記憶に残っていないだけで。1周目がクリスマス前から始まり、2周目が
彼の発言とリリーのもっている情報をまとめると、時系列としてはこうなる。
①クリスマス前
→1周目の第一の試練(記憶なし)
②クリスマス直後~イースター直前
→1周目の第二の試練~第四の試練(記憶なし)
→2周目の第一の試練
③イースター直前・イースター後
→2周目の第二~三の試練
④現在(学期末テスト前)
→2周目の第四の試練
リリーが食ってかかったシリウスをなだめると、相手はやれやれとかぶりを振った。
「上に立つべきものが判断力で負けているとはな。
その様子ではグリフィンドール寮の"試練"の内容を聞き出すのは無理そうだ。ポッターとブラックのどちらかは知っているはずだが」
知っているか、と問いかけられたジェームズは首を横に振った。
敵の発言から考えると、つまり1周目の第四の試練はシリウスとジェームズの2人だけで受けたのだろうか。その結果2周目がはじまったのならば、第四の試練に不合格になった場合は記憶が消えてしまう?
たとえば5人で受けなければいけなかった、とか。
ありうる話だった。
2人ならこんな遠回りな"5人侵入計画"を立てるよりも、自分たちだけで何とかしようとするはず。
リリーもそう思っていたからこそ、『全員で挑もう』という2人の方針が意外だったのだから。
「……さて、あまり時間をかけてもいられんようだな。その"穢れた血"を差し出せ。ポッターが死ぬよりはましだろう?」
「いいわ。──ジェームズを離して」
リリーは受けて立った。
誰かが戻ってくるまで時間を稼がせてくれる程、相手も甘くはない。それでもできる手を尽くすしかない。いまリリーにできるのは、どうにか人質交換でうてる手段を見つけることだけだった。
そうしなければジェームズが死んでしまうのだ。
しかし、それですんなり納得するシリウスではない。彼は「よせ!」とリリーの前に立ちはだかった。
そのまま両肩をつかんできて、突然、思いっきり体重をかけて横に引き倒した。床に伏せるように。
「エクスペリアームス──武器よ去れ!」
「ストゥーピファイ──失神せよ!」
2人の真上を呪文が交錯して、はじけた。
(ジェームズは……!?)
真っ先に気にすべきなのは彼だ。死んでしまうかもしれないのだから。
(……怪我はないみたい)
彼は敵が呪文を撃ちあっているのをぼうっと見ているだけだった。ナイフは喉元に置かれたままだが。
呪文をつかってもジェームズを無事なままにしておける人物は、本人と、敵と──DADA(闇の魔術に対する防衛術)の先生だけだ。彼女はよろよろと壁に取りすがるようにして立ち上がっていた。
(仲間割れ?)
いくら先生でも、そして敵が生徒だとしても、杖なしで勝つのは無理だ。リリーのふところに入っているそれを投げわたす
くそ、とシリウスは吐き捨てた。先生が起きていたことに気づいていたのだろう。しかも、敵を狙っているのだと確信していた。
「やっぱり、先生にも服従の呪文をかけていたのか!
──クライブ・ホールデン!」
呪文の余波で敵のフードが完全にめくれてしまっていた。
「何者か気づかなければ殺す必要はなかったが……。3人とも生かしてはおけなくなった。
もともと生かして返す気もなかったが。
2人とも声で予測できていたんだろう?おれが無言呪文を使えなくて残念だったな。あれは実際、かなり難しいんだ」
そこについていた顔は見知ったグリフィンドール上級生のもの。
筋肉のついた大柄な体格と、野太い声から予想できていたが、あまり考えなくなかった可能性だ。
抜かれたままの敵の杖は、リリーをまっすぐに狙っていた。
「あんたはブラックじゃなくなりたいおれを、理解してくれると思ったのに!」
グリフィンドール寮にはいったシリウスは
はじめから受け入れてくれた少数の一人が、この上級生だったのに。
「ふん、都合よく家名に甘えておいて何を言う。それほど家と関係がないと言い張るのならば、その威光で好き勝手に『お友だち』を連れまわすなど許されるか」
ホールデンの言葉は、ここだけを切り取れば正論ではある。しかしシリウスは怒り心頭といった様子で相手をきつく睨みつけた。
「お前たちなんかが言えたことか!純血以外を人扱いしない、お前らなんかに!」
シリウスだって帰らなくて済むのなら帰りたくないのだろう。リリーには受け入れてくれる両親がいるが、彼は両親ともなじめないのだから。
「お前なんかに言われなくたって、いつか"ただのシリウス"になってやる!"ブラック"なんか要るものか!」
シリウスの啖呵への返答は、杖先に灯された緑っぽい光だった。
「だったらお前から始末してやろう」
「やめて!」
シリウスを助ける手段は思いつかない。リリーは頭のてっぺんから血の気が一気に引いていく感じがした。
(このままじゃ……!)
相手の杖の振りがひどくゆっくりに感じるのに、肝心な方法はひらめかない。
自分じゃダメなら、誰かの力を借りてでも助けなくちゃいけないのに。
何も思いつかないのに、目の前の光景は止まってはくれない。
(だれか、助けて……!)
祈るしかできない。
バリバリという破壊音がして、リリーは咄嗟に目をつむった。
………………。
………………。
何秒経っても隣のシリウスが倒れ伏すような気配はない。
いや、それどころか呪文が放たれたわけでもなかった。
(……あれ?)
そういえば、
何かが割られたような、重たいものがいくつも床に散らばるような音は、寮の外みたいに
そういえば、先生が言ってなかっただろうか。
(寮の入り口は、ふさいだって……)
リリーがそう思った時だった。
かべの横穴から、黄色の制服の生徒がなだれ込んできたのは。
──
ぞろぞろと入ってきた彼らはみんな、杖を構えていた。
入り口が塞がれているのを目撃しているのだから、尋常ならざる事態なのはわかっているのだろう。
そんな集団の後からくっついて入ってきた少女がいた。その小柄な手元にギターを一本たずさえて。
「……リズ!」
*
大階段でのスリザリン寮とハッフルパフ寮の抗争(?)がひとまず落ち着いた頃のことだ。
平和を願う歌の威力はすさまじく、スリザリン生でさえ呪文も罵倒もやめるほどだった。
その時に急いで駆けつけてきたオミニスが、グリフィンドール生3人の危険をクラリスに知らせてきたのだ。
セブルスが寝室に閉じ込められているというのも既に聞いていた。
元々の計画からはすでに思いきり外れてしまっている。ここからもとの軌道に戻すのは不可能だろう。
オミニスはすぐにセブルスの脱出のため移動してしまったので、あとはクラリスだけでどうにかするしかなかった。
(……どうにかって、わたしに何ができるっていうの?)
クラリスが一人で抜け出すことはできる。しかしそれをしても意味はない。自分一人が増えた程度では、セブルスを助けるのもDADAの先生をやっつけるのも無理だ。
なにせ、クラリスでは杖の呪文を相手に当てるのが難しいのだ。自分と巻き添えにすれば何とか当たるが、そんな博打に頼るのは最後の手段にしたい。
それで頭をしぼって出てきた打開策が、生徒たちを引き連れていくというものだったのだ。
今までグリフィンドール寮から人を遠ざけることばかり考えていた。それができないなら逆に、人をどばっと大量に入れてしまえばいい。
スリザリン寮のなかだって
何もしないよりはましだ。
だからクラリスは声を張りあげた。
「ここから順番に、それぞれの寮をめぐっていくわ!」
選んだのは、10年前(1962年)の8月にビルボード第一位になった曲だった。今すぐ踊ろうとダンスに誘う歌詞である。
とある"平和の歌"の効果が切れても、生徒たちを(強制的に)踊らせることで呪文を使えなくさせるためだ。
巻き込まれたハッフルパフ生もスリザリン生をも引き連れて、まず向かったのはスリザリン寮だ。
幸いにもセブルスは談話室にまで脱出できていて、周りがダンスに引き込まれる混乱に乗じて寮を出た。寮にいたはずのスリザリン生まで加わったのは誤算だったが、やり始めたのなら3人を助けるまでやり切ってしまうしかない(ちなみにマルフォイの姿はどこにもなかった)。
そしてそのままグリフィンドール寮にまでやって来たのである。
あとはここからこっそり抜け出すだけだ。
クラリスは呪いのかかったネックレスを外して放りなげた。
その代わりに"
「──狙われよ!」
セブルスが呪いをかけた。
倒れているDADAの先生の方に。
全員の視線がそっちに向いた。
「そっちじゃない!」
シリウスが泡を食ったようにグリフィンドール上級生の方を指さした。チッと舌打ちをした彼と、彼に「来い」と命じられたジェームズが、隠し部屋の方に姿を消した。
(敵は先生なんじゃなかったの!?)
てっきり先生と戦っていたのを上級生が助けてくれたのかと判断したのに、上級生の方が敵だったらしい。
隠し部屋に逃げるつもりなのだろうか。
シリウスやリリーの背中を追って、クラリスとセブルスも人ごみに紛れて隠し部屋のドアをくぐった。
次回が第四の試練ですー
RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?
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【活動報告】にあげて欲しい
-
【本編】にあげて欲しい