セブルス・スネイプを救う話(第3章高学年編・開始)   作:桜井ぬい X→@Inui20230918

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2026年3月20日(金・祝)の春コミに参加します。
「魔法使いの備忘録」南3ホール ぬ37b


これまで書いた2章を本にしたので持っていきます。
特典なし、内容もハーメルンに載っているものとほとんど変更ないです。

本で持っておきたい奇特な人はどうぞ。


ホグワーツ高学年編~恋愛編
オープニング 1


1976年 夏休み(5年生末)

 

 

 

 観光客の団体が、先頭をゆくガイドにぞろぞろとついて歩いている。まるで子連れの(かも)だ。それも一つではない。

 ひとつの施設に押し込まれている“群れ”がそこかしこに固まっているのである。

 ほとんどが大人だが、子連れの姿もちらほらとあった。

 

 それがマグルなのか魔法族なのか、見た目では判別できなかった。ほとんどはマグルなのだろうが、集団のうちの1人に紛れこむのは容易いだろうし、もちろん観光地にやって来る者だっている。

 

 自分たちみたいに。

 

 しかし、これほど沢山の人ごみはセブルスにとって心地のよい場所ではなかった。

 ホリデーシーズンだから、何処もこんなものなのだろうけど。

 

 セブルスは“群れ”のなかにまじって、周りと同じくガイドと展示物の方を眺めていた。

 

「胸像はファラオの力強さと神格化された威厳をよく表しています。ファラオの頭部に載っているのは『ネメス』と呼ばれる王の頭巾です。さらに少し下、額のところのコブラをご覧ください。これはウラエウスと呼ばれるものです。この像が王であるという印となります。当時の輸送は大変な冒険でした。有名なのはベルツォーニの輸送劇です。彼はこの像をテーベからナイル川まで転がし、さらにアレクサンドリア経由でロンドンへ運びました。その壮大な輸送記録……、当時の技術水準や帝国時代の文化観なども読み取れるものです。移動作業は1816年 ……、石像は、第二中庭またはその近辺に横たわっていました。上体が砂に半ば埋まった状態だったと記録されています。作業はこのように行われました……。まず『てこ』を用いて像を砂地から起こします。……や木枠を置いて牽引を行ったと記録されています──」

 

 長い。

 

 解説を聞くのはもう幾つ目だろう。はじめの展示物は集中して聞いていたものの、だんだん頭に入ってこなくなってきた。あちこちを聞き飛ばしたせいで、知識は虫食い状態である。

 

 セブルスは『ふうん』とだけ胸中でうなずいて、手元のパンフレットの館内地図をひらいた。これだってもう何回目だろう。魔法史の授業の次くらいには()んできている。

 それでも何とか気をもたせないといけない。

 

 セブルスはパンフレットに目を落とすふりをしながら、ちらりと隣へ目をやった。

 磨かれた室内のせいか、赤毛が一層つやつやして見える。

 

 セブルスの視線に気づいたのか、リリーがこっそり話しかけてきた。

「……ファラオにも魔法使いがいたんだって。全部はわかっていないんだけど、有名な人もそうみたい。たとえば……」

 

 聞き取ろうと身を寄せると、いつもは学校で遠くから眺めていることしかできないのに、今はまつ毛すらも赤茶なのがわかるくらいだ。

 

 どきどきしているのも彼女に伝わってしまいそうで気が気じゃない。おかげで教えてもらった内容も耳を素通りしていってしまった。

 

 

 

 

 セブルスはこの日、リリーといっしょに博物館に来ていた。

 首都にある、とても大きな施設である。

 

 2人きりで地方から足をのばすとなると普通は恋人以上になってからの旅行だが、魔法族にとってはそうではない。

 煙突飛行粉を使えば一足飛びでロンドンまでたどり着けるのだから、バス一本で移動したのと大して変わらない感覚だった。

 

 2人はしばらくガイドの解説を聞きながら2階のエジプトエリアをまわり、目ぼしい展示物がなくなってからは観光客から離れることにした。べつに団体客の一員というわけじゃない。ただ、見て回っていたらガイドがいたから、近くで聞いていただけだ。リリーは「ラッキーだったわね」とはしゃいでいたが。

 

 そんな風に一巡りしてから、2人は1階の観光にとりかかることにした(1階から始めなかったのは、到着した時はごった返していたからだ)。

 

 同じようにガイドの説明を(こっそりと)聞きながらまわっていると、やがてリリーが「あっ、あれ」と進路の先にあゆみを進めた。磨かれた床にこすれて、スニーカーの底が鳴る。

 彼女のジーンズを履いたうしろ姿についていくと、その先にあるのは、セブルスでも覚えているほど有名な展示物だった。

 

「これ魔法史の教科書で見たわ!それに、最近読んだ小説にも出てきたのよ。

 ……この国にあっていいものなのかは、ちょっと考えてしまうけどね」

 

 リリーが指し示したのは、複数の言語がほりこまれた石板だった。ふるい言語の解読に役立ったとマグル側でも有名なものだそうだ。

 

 展示物を背にほほえむ彼女を前にすると、どうしても胸がはずむのはおさえられない。

 セブルスはおかしな喋り方にならないかを気にしながらも答えた。

 

「価値のあるものは返せないだろう」

「価値があるから返すべきなのよ。まだ植民地のつもりじゃない限りは」

 へえ、と相槌をつきながら、近くに寄って観察してみる。

 3種類の言語はおなじ内容なのだと授業(魔法史)で聞いた。

 

「……この石に魔法のちからは宿っていないみたいだ。冒険の話なのか?」

 本や劇、あるいは映画のような物語は嫌いじゃないが、流行りをおさえているとは言い難い。でも、それを好きなリリーが楽しげにきらきらさせた緑の瞳がきれいだった。もっと眺めていたくて、ついリリーに色々なことを尋ねてしまう。

 

「そうよ。昔は魔法がかかってて、その魔法の痕跡から謎を解いて、古代の遺跡にたどり着いた……ってストーリー。いま流行ってるのよ」

 

 そんな風に雑談をまじえながら展示物のあいだを縫うように歩いていると、リリーが少し残念そうに息をついた。

 

「とっても楽しいけど、折角ならリズも来られたら良かったのにね」

「ハッフルパフ生はいつでも君に会えるからって、リズが」

 

 学年が上がれば上がるほど、スリザリン生が他寮生と……それもグリフィンドール生と会うのは、どんどん許されなくなっていった。それが強い魔法使いに成長してゆくからなのか、戦争が長引いているせいなのかまでは判別できない。

 

 とはいえ、リリーやクラリス、そしてセブルスは割と例外的な立場だった。3人とも特殊だからだ。たとえばリリーは首席である、だとか。

 交流が許されるのは助かるが、注目をあびることにはなる。だからあまり親そうな態度はとれなかった。

 

 母親の目もあるから、こうやって一緒に行動できるのは長期の休み……要するに夏期休暇くらいである。毎年なんとか都合をつけてきたし、今年もそうだった。

 大人になれば制限はなくなるはずだ。あっても無視すればいいだけになる。あと1年ちょっとの辛抱だ。

 

 今くらいはこの一時に浸っていたかった。

 

「……でも、たしかリズは君とはこのあいだも買い物に行ったんだろう?」

「ええ。やっぱり可愛い服を選ぶんだったら、信頼できる子に相談したいもの。ペチュニアの好きそうなものなんかじゃなくて」

 

 その時は、気に入ったワンピースや『かかと』がすこし高い靴なんかを選んだとリリーは続けた。

 

(……いつもと違う服装か)

 

 女の子らしい服装のリリーがどんな風になるのか想像がつかなかった。なにせ制服のスカートか、普段着のジーンズ姿しか見たことがない。

 着たところを見てみたい、なんて言ってみても大丈夫なんだろうか。いつもの服装に文句をつけたいわけじゃないけど。

 

 しかしセブルスがそれを試すよりも先に、リリーが思いついたように言った。

「そういえば、この辺りじゃなかった?”特殊展示”エリアって」

「……かもしれない」

 

 展示スペースを奥へ奥へと進んだ先らしい。特殊な展示、つまり魔法アイテムの展示エリアがあるのは。

 聞いた話だと、マグルに悪影響がない程度の魔法や呪いの品はふつうに展示されているのだが、魔法史に関わりが深いものは特別なエリアがあるらしい。

 

 今いるのがエジプト・エリアの入り口、ここから西に進むとアッシリア・エリアがあるのだが、北には図書館エリアがあるのだ。その図書館エリアから魔法エリアに入れるのだとか。

 

 なお図書館自体は役目が終わっており貸出や閲覧はできないのだが、蔵書はまだ残っている状態らしい。蔵書がなくなった後に展示エリアになるのか、魔法展示がどうなるのかなんかは、まだ発表されていなかった。まだ入れるのかどうかも。

 

「……行ってみる?」

 ただのマグルの歴史よりもそちらの方がよっぽど興味がある。面白い魔法や呪いが見物できるかもしれないじゃないか。

 

「行こう」とセブルスは即答した。

 

 入り方は単純だ。図書館エリアの一番北と一番南にある書架、その一番下段の本を並べかえるだけ。

 左端から4冊を英国魔法史で有名な年号にするのである。どの本でもいいのだとか。

 

「順番がめちゃくちゃになってしまうけど……」

「探す人なんていると思うか?分厚くて(ふる)くさいのに」

「居たらどうするの?」

「我慢させればいい」

 どうせ困るのはマグルだけだ。

 

 それでもリリーは腑に落ちないような表情だったので、セブルスは言い添えた。

「元からそういう風に作られてるんじゃないか。今までそのままで使われていただけで、僕がそうしろと決めたわけじゃない」

「……それは、そうね」

 

「で、肝心の年号だ。

『イギリス魔法省が創立された年号は?』」

「それなら知らない人はいないわね」

 魔法史の試験にかならず載るような基本中の基本だ。それすら分からない子どもが展示に興味をもつとは思えない。歴史に興味のないセブルスですら暗記しているのに。

 

 左側から分厚い本の1巻目、7巻目、0巻目(索引(さくいん)だけが載っているやつだ)、それから小ぶりな冊子の7巻目。

 

 その瞬間には動きはなかった。

「……あれ?」

 リリーが困惑したように声を漏らしたタイミングで、何かがおかしい気がする。

 

「揺れてる……?」

 ガタガタと本棚が細かく震えている。

(いや、違う)

 本棚の輪郭がぐにゃぐにゃになっている。──かと思えば瞬きのうちに暗闇に放り込まれていた。

 カエルが飛んできた虫を舌で飲み込んだ時みたいだ。

 

 2人は書棚の一部にぺろりと平らげられるようにして、奥の展示室へ進んで行った。

 

 

 

 その部屋は、見た目では他と大きな違いはなかった。広くとられた空間に展示物が点在していて、それぞれに灯りがついている。

 恐らく、ここも博物館が出来た1750年代に建造されたのだろう。

 

 ほかとの違いがあるとすれば、ガラスケースがないことくらいだ。

 展示物は台座の上に浮いていて、底も眺められるようになっている。

 

 セブルスが試しに指を伸ばしてみると、台に差しかかった辺りで『ばちん』と跳ね返された。

「何やってるのよ、もう!」

 ちょっと試してみたかったと説明すると、リリーは呆れたような顔をしていた。

 

 魔法の展示物もさまざまだ。どうやら魔法エリアの中で各地エリアに分かれているらしく、たとえばエジプト関係だと呪いのかかったパピルスだとか、古代の魔法について記された石板だとかが展示されていた。

 一部にはまだ魔法のちからをどう引き出すか解明されていない物もあった。“選ばれた者だけが使える杖(白くつるっとしている)”は今も研究が進められているらしい。危険なのかどうかすら不明だそうだ。

 

(へえ……)

 その他にも、"千人の血を吸った剣"、"亡者をあやつったとされる腕輪"、"他者の思考をにぶらせる魔法のろうそく"、"毒が湧きだす水盆"など、見学できるものは多岐にわたる。

 

 セブルスは先ほどよりもじっくりと展示品を観察していた。

 やっと本番を迎えたような気分だ。さっきまでは準備運動みたいなもので。

(この意匠はなんの意味を持っているんだろう)

 読み解ければもっと強い呪文や呪いを使えるようになるかもしれない。そう思うとますますじっくりと観察したくなる。

 

 強力な魔法について調べるのはとても楽しい。"一地方が消し飛ぶくらい強力な魔法を封じた本"なんかは興味しんしんだ。

 展示にあたって封じてはあるのだろう。もう少し中身を確認したいが、核心にせまりそうな文面は見当たらなかった。

 

 セブルスが下からその本をのぞき込んでいるのを、リリーは「そういうの好きよね、男の子って」と一声かけて通り過ぎていった。彼女自身はあまり興味がないのかもしれない。

 リリーの方はそういった『強力な魔術品』コーナーをほとんど飛ばすようにして、うつくしい魔法の織り物のまえで足をとめていた。

 

 それぞれは興味があるものを、自然と自分のペースで観るようになっていた。お互いに自分が進みすぎたら戻る、それの繰り返しで進んでいった。

 

「──ほら、これ!ホグワーツの地下から回収されたんだって」

 リリーはそうセブルスに呼びかけてから、その展示品を解説した。

 

 それはぱっと見ゴーカートに似ている、金属製の乗り物らしきものだった。普通の車両と違うのは、先端に巨大なドリルのようなものが付いているということ。

 ひしゃげたり部品が飛散したりしてきたのを復元したらしい。

 土で埋まったところから発見されたらしく、部品の数からすると、同じものが何台もあったようだ。

 

「ゴブリンが地下までやって来たのを先生がたが撃退したんですって。当時はゴブリンと友好的だった魔法族は多くなかったから。

 それでも当時、友好的だった職人の名前が何人か残っているの。“プラグボール”という銘がのこっていたんですって」

 

 リリーは歴史のなかでどんな物語が紡がれたのかが好きなのだろう。その物品の逸話、どんな人の想いがこもっているのか、それはどんな魔法に託されたのか。そういうのだ。

 

「それも魔法史の授業で?」

「そうよ。……ねえ、受けるタイミングは違うけど同じ授業に出ているはずじゃないの」

 大抵が眠気にあらがわずに過ごす授業だ。セブルスだって例外じゃない。

 

「なんだって魔法史の授業なんて真面目に聞いているんだ?」

「それは……、いえ、あなたが言いたいことはわかってるわよ。大体の子が……、いえ白状するとわたしだってそう。

 でもほら、たとえば遺跡の発掘とか、そういう仕事だってあるじゃない。魔法の遺跡の調査だなんて楽しそう。そういう大冒険の話も聞いたことがあるの。それで興味があって」

 

「将来はそういう仕事をしたいのか?」

「うん?……うーん。そういうのも素敵だとは思うけれどね」

 リリーが口ごもるようにしていたのでそのまま待ってみたが、しばらくして彼女は断るように首を横に振った。

 

 仕事のことで迷っていることでもあるのかもしれない。

 しかし、彼女は「いいから。行こう」と展示品の続きに向かった。

 

 先ほどと同じようにそれぞれのペースで進んでゆく。

 セブルスが昔のパレードの様子や暮らしぶり、年表などを軽く眺めて先へ進んでいても、追いついてくるような気配がしなかった。

 リリーを探すと、彼女は昔の"魔法使いの決闘"の展示の前で引っかかっていた。

 

「……リリー?」

 呼びかけてみても、彼女の緑の目は決闘を模した人形が争っている場面から動かなかった。口元を結んでいて、どこか暗いような顔つきだ。

「あ……、ごめんね。ぼうっとしてた」

 

 そう言った彼女は羊皮紙のようなものを握っていたのだ。とても見覚えがある。

「リズから連絡が来ていたのよ」

 

 1年生の時にシリウスから渡された、魔法の羊皮紙だ。同じ文面が5人全員に現れる機能がある。

 ジェームズ、シリウス、そしてセブルスの男子3人はやり取りがだいぶ減ったが、無くなったわけではなかった。

 

 クラリスからの連絡は取り留めもないことだ。「インターンの休憩時間になったの。そっちはどう?」だとか。そろそろ昼休憩なのだろう。

 別段リリーの顔を曇らせるようなものではない。

 

 今日クラリスが不在なのは、この夏休み期間中でインターンに参加しているためだ。

 将来つく仕事は、5年生で生徒全員が受ける“ふくろう試験”の結果にかなり左右される。それによると彼女は「得意な教科は高得点だが、苦手な教科はほとんど取れない」という極端な結果だった。

 とはいえ、その傾向は今に始まったわけじゃない。

 試験で決まるよりはるか前から、どんな仕事が向いているのかをあらかじめ考えていたそうだ。

 

 もっといえば、“自分のお金”を手に入れるためアルバイト先を探していたから、というのもあるらしい。インターンに行けば賃金はもらえるし、職場を見学できて『本当にそこに行って大丈夫そうか』を考えることもできるからと。

 

 リリーもその辺りの事情は知っているらしい。

「……ふくろう試験の結果が出たのは、ついこの間なのに。

 きっとリズは大人になったらどんな仕事がいいのか、はっきり決めていたのね」

「それは……。リズは戦えないからだ」

 

 彼女が壊滅的な成績をとったのは呪文学や変身術だ。いまだに相対した相手に呪文をかけるのを苦手としていた。試験では的に当てられず、ほかの生徒を巻きこむ程だったらしい。

 

 クラリスがそれを克服する手段を求めていたのはセブルスも知っていたが、結局成果にはつながらなかったのだろう。

 リリーは「……そうね」とクラリスに思いを馳せるようにうなずいた。

 

「セブは聞いてたの?どんな仕事がいいとか」

「いや。色々な職業を調べていたのは知っていたけど、それは君もだろう」

 

 セブルスだって『夏休みにインターンに行く』と聞いて初めて知ったくらいだ。その時のクラリスは「せっかくの休みなんだから、リリーと2人で出かけたら?」というお節介まで焼いていった。

 

 そう出来るならそうしたいんでしょう、と訳知り顔をされるのは何となく(しゃく)だ。当たっていたとしてもだ。

 そんなに必死だと思われるのは無様な気がして。

 

 そんなことを思い返しながら“歴史上最古とされるゴブリン銀”を眺めていると、リリーが話題を継いだ。

「セブはどうするの?」

 

「どうって」「魔法薬の研究を仕事にするの?」

「……そのつもりだけど」

 将来どんな仕事に就きたいのか。学校ではリリーとそんな話をする気にはならなかった。特にセブルスの周囲の人は危険な思想の持ち主ばかりなのだ。彼らに誰がどこで仕事をしているかを握られるなんて、ぞっとしない。

 

 それでもリリーが正解を言い当てられたのは、アルバイトでの『あれこれ』を知っているからだろう。魔法薬の特許をとらせてもらった事もある。

 とはいえ、あくまで『今のところの第一希望』だ。

 

ブラック家(アルバイト先)からおかしな命令が来なければね」

 死喰い人になれ、だとか。

 

「……命令されたら?」

「従うわけない」

「そう……。そうよね」

 リリーはほっとしたような息を吐いた。

 

 わざわざセブルスから説明はしなかったが、恐らくそんな命令はくだらない。

 あの家は狂信的な純血主義だから、死喰い人を名誉の地位だと思っているのだ。"半純血ごとき"には迎えられる資格がないと主張するだろう。

 他家は「協力させろ」だとか口をだすかもしれないが、セブルスが戦争に直接ひっぱり出されることはないはずだ。ブラック家関連で魔法薬の研究をしていれば問題ない。研究の資金だって潤沢(じゅんたく)だろうし。

 

「じゃあ……戦争がなかったら、呪文の研究もしたかった?開発するとか」

「戦争はあったじゃないか。1年生のときから」

 

 セブルスは呪文……というより呪いの開発などや勉強も好きだが、そっちで生きてゆく考えはなかった。そちらに進んだら、間違いなく戦いに駆り出されるからだ。

 それがどっちの陣営かなんて、決まりきっている。

 

 周りの生徒たちの様子やら人間関係、戦争へ不参加、セブルスが得意なこと・好きなこと。この辺りを加味すると仕事の選択肢は多いようで少ないので、あまり悩むことはなかった。

 その点では、リリーの方が選択肢を沢山もっているかもしれない。

 

「『もしも』の話よ。周りを気にせずに選べたらどうしたかった?」

「……想像もつかない。きっと、成績で向いていて好きなことから選ぶんじゃないか」

「それは、そうでしょうけど。そこから一つに絞る時のイメージの話」

「そう言われても……」

 セブルスにはリリーほど選択肢はなかったのだ。

 

 彼女の期待する答えを返せないまま話題が途切れてしまったので、セブルスは会話のボールを投げ返した。

「──君は?どんな仕事にするんだ?」

「それは……(リリーは目を伏せて困ったような顔をした)どうかしら」

 答えにくそうにしている。

 

 そのままリリーの返事を待ったが、スニーカーのゴム底が床にこすれる音しかしなかった。

「……将来のことを決めるためには、ほかの家族とどうなるか考えなくちゃいけないじゃない?つまり……マグルの家族のこと。マグル育ちだから」

「……うん」

 

 それは家族が魔法族でなければ必ず考えねばいけなくなる。セブルスだって同じだ。母親はマグルではないけれども、魔女として生きるつもりでもないらしいからだ。

 

 リリーのように、家族に……特にきょうだいにマグルがいる場合は、関係が悪くなることも往々(おうおう)にしてあると聞く。

 ましてや相手は()()ペチュニア(魔法を馬鹿にするマグル)だ。

 

 子どもの頃からわざわざ関わってきては馬鹿にしてきたので、その度に追い払っていたのを思い出す。

「つまり……アイツのことで何かあったのか?」

 

 尋ねてみると、リリーは「そう……ね、多分」と歯切れの悪い返事をした。それから、点々と続いている展示品を眺めながらも、あまり足を止めずに進みはじめた。ホグワーツ城の城郭(じょうかく)あたりを散歩している時みたいだ。実際にいっしょに歩いたことはないけれど。

 

 ほかに来館者の姿はない。

 だからだろうか、リリーはどこかまとまりのないままで話し始めた。

 

 

 

 




説明だけで8,500文字いってる……だと……。

RTAパートは本編と活動報告、どっちが好き?

  • 【活動報告】にあげて欲しい
  • 【本編】にあげて欲しい
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