ということで、だいぶ間は空いてしまいましたが、続きです。
ちょっとずつ書き溜めてはいました。
今読みなおすと、やっぱり1話ごとの長さが長いかも・・・。区切り変更した方がいいですかね?どうしたもんでしょう?
「ゴクウッ!」
ギネは急ぎ、悟空が落ちて行った方に身をひるがえした。
天津飯は、悟空が立っていた足場にかじりついて、どうにか落下を防いでいた。ほぼ真下から殴られたため、あまり吹き飛ばなかったのだ。
一方の悟空は衝撃で吹き飛ばされ、武道寺よりも遠く、道路目がけて落下した。途中でトラックにひかれる不運もおまけされて。
『そ、孫選手がどうなったか、確かめに行ってまいります!』
急ぎアナウンサーの男はホイポイカプセルでジェットバイクを出すと、乗り込んで飛び上がった。向かうはもちろん、悟空の落下地点だ。
『孫選手は、かなり離れた位置に落下したようです!これは、確実に場外ですが、今、私はそれを確認に向かっています!』
ジェットバイクにまたがったアナウンサーの男は、マイクを片手に実況を続ける。さすがのプロである。
何しろ、3年後にはパニック状態でほぼ無人となった武道寺において、それでも逃げずにマイクを握って実況と審判を続けたのだから。
・・・もっとも、悟空たちに悪影響を受けまくった結果、第25回の時には刺激に飢えているような節を見せていたのだが。
道路の真ん中で、止まった車をしり目に、ぐったりと悟空が転がっていた。何事か、とドライバーや通行人たちが周囲に集まってきている。
一足先に来たギネが、急ぎ悟空を抱き起していた。
『いました!孫選手です!気絶しておりますが、命に別状はありません!
場外!天津飯選手の勝ちぃぃぃ!第22回天下一武道会、優勝は、天津飯選手です!』
アナウンサーの声に、ここで悟空がうめきながら目を開けた。
「ゴクウッ!気が付いたかい?!」
「へへっ・・・悪い、母ちゃん」
覗き込んできたギネに、悟空は上体を起こしたまま力なく微笑んだ。
最後の最後で油断してしまった。情けない。
武道寺が夕日に包まれる。
『それでは、ただいまをもって第22回天下一武道会を閉幕させていただきます!
また3年後、第23回の時にお会いしましょう!さようならー!お帰りは気を付けてくださーい!』
アナウンサーの男のそんな締めの言葉に、観客たちがぞろぞろと出ていく。
武道寺の敷地の片隅で、いつもの仲間に天津飯と
最後の最後に師匠の悪あがきで台無しになってしまったと、きまり悪そうな天津飯に、悟空は気にした様子も見せずに微笑んだ。
勝負は時の運ともいう。運も実力のうちだ。
これから先の闘いでも、紙一重の運の差で大きく変動することがあるのだ。いい復習にして予習になった。
なおも引け目を感じているらしい天津飯が賞金の山分けを提案してくるが、悟空はそれを断った。どうせ自分では持て余してしまうだろう。
必要になれば、自分で稼げばいい。
なら、いい機会だし、みんなで食事に行かないか、いいねえ!という話が持ち上がる。
悟空は嬉しく思う。そうそう、大きな出来事の後は、こんな感じでよくみんなで集まって、飲み食いしたっけ。
天津飯が自分がおごろうと言い出したが、ギネがやめた方がいい、自分たち親子はよく食べるから賞金がパアになるどころか借金漬けになる、と冗談めかして言った。
ここで、悟空はちょっと荷物を持ってくると武道寺の控室に向かうべく、踵を返した。
「くたくただろ?オレが荷物を持ってきて」
「駄目だ!」
申し出かけたクリリンの言葉をさえぎって、悟空は強く言った。
ぎょっと驚くクリリンに、思わず悟空も息を詰まらせた。いくらなんでも不自然だったかもしれない。だが、それでも悟空は譲れなかった。できるだけ語気を緩めて、悟空は続けた。
「くたくたなのはクリリンも同じだろ。オラなら大丈夫だから」
そうして、悟空は一同の脇をすり抜けて、控室へ向かう。クリリンから譲ってもらった山吹色の道着姿(悟空自身のものはボロボロだったので)を夕日に溶け込ませながら、彼は一度だけ振り向いてから「じゃ、またなー!」と軽く言って、そのまま駆け出した。
「何だよ、変な奴ー」
変な顔をするクリリンに、ギネはこっそり視線を床に落とした。
武道会の会場に悟空が出発する前に、彼女は言い残されていたのだ。武道会が終わったら3年は家に戻れない、でも心配しないでくれ、と。
それを言った表情と同じだったのだ。あの、一度だけ振り向いた時の眼差しが。
どういうことだろうか?
彼女が黙考している間に、天津飯は足を折ってしまったヤムチャに謝り、天津飯のワイルドさに惚れた金髪のランチが、どうにかお近づきになりたいと、彼にあれこれ話しかけていた。
その時だった。武道寺の方から「ぎゃあああっ!」という悲鳴が聞こえる。アナウンサーの男の悲鳴だ。
「何じゃ?!」
「どうしたんだ?!」
「悟空が行った方じゃないか?!」
これに慌てた一同が、急ぎ武道寺の控室に駆け付けた時には、すべてが遅かったといっていい。
リュックは置き去りにして如意棒だけを手に、問答無用で窓から飛び出す悟空の後ろ姿。筋斗雲を呼びだし、そのまま黄色の雲に飛び乗ると、彼は猛スピードで飛び去って行く。
控室の中はひどいありさまだった。荷物置きにされていたテーブルやいすはひっくり返され、叩き壊され、破片と化して散乱している。
倒れ伏したアナウンサーの男。したたかに殴られているらしいが、息はある。
介抱すると、うめきながら彼は語る。
控室にいた化け物が、悟空の荷物をあさって、革袋の中からオレンジ色のボールを奪い、ここ武道寺からは天下一武道会参加者の名簿を奪った、と。
悟空はそれを目撃。阻止しようとしたが逆に撃退された。かなり打ちどころが悪そうで這いずるように自分の荷物をあさったあと、急に元気を取り戻し、そのまま飛び出してしまったのだ、と。
ここで、ウーロンが控室の片隅――悟空の荷物のそばに落ちていた紙切れを拾ってきた。円の中に魔と書かれた、独特の紋章。それを見た亀仙人はわなわなと震えだした。
一方のギネは、確信した。
仙豆がない。武道会の前にわざわざカリン塔によって補充した豆の入った袋がどこにもないのだ。
悟空が、持っていったのだ。
そもそも、おかしかった。わざわざ武道会の前にカリン塔に立ち寄ってまで、仙豆を補充した。別に終わってからでもいいではないか。なぜ武道会の直前に?
こうなることが分かっていたのか?否、確かあの悟空は別の世界ですでに人生を終えていたのだったか。これから起こることは呪いのせいで言えなかったとしても、わかっていたに違いない。
だから準備をしていた。そういうことだろう。
そう思考を巡らせるギネをよそに、亀仙人が語る。
これは、ピッコロ大魔王の紋章だ。はるか昔、世を荒らし、手下の怪物を生み出し、人々を苦しめた大魔王で、自分と鶴仙人の師である武泰斗が、魔封波という技で電子ジャーの中に封印したのだ、と。
その電子ジャーは亀仙人が手ずから海の底深くに沈めた、鶴仙人もその恐ろしさを知っているのだから、手を出すはずがない、と。
わからないのは、なぜ名簿をもっていったのか、ということだ。
一拍考えた亀仙人は、答えにたどり着く。
ピッコロ大魔王は魔封波を恐れている。それが使える達人が現れるのを、恐れている。
武道会の参加名簿を見れば、優れた武道の達人が目白押しだ。名簿に載っている達人たちを片っ端から殺して回るつもりであるに違いない。
そんな恐ろしい相手に、悟空はどうするつもりだろうか?
顔を見合わせる一同に、天津飯はやみくもに飛び出しても追えるはずがない、じきに戻ってくる、というが、一同はそれに首を振ってこたえた。
悟空は気を読めるから、ピッコロ大魔王の手下の気を読んで、追いかけているに違いない、と。
「気を、読む?」
「生き物にはあるらしいんだ、そういう見えない力が。舞空術もその応用だって言ってたぞ。悟空はそれを感じ取って、誰がどこにいるとかわかるみたいなんだ」
「オレの太陽拳が効かなかったのもそれでか・・・」
「・・・ねえ」
思い返した天津飯に、ここで口をはさんだのはブルマだった。
「今思ったんだけど、その、気を読む力があったから、孫君、クリリンを行かせなかったんじゃない?」
「え?」
「前、気の大きさで相手の強さもわかるって孫君が言ってたわ。もしかして、孫君、怪物がここにいるっていうのも気が付いてて、だからクリリンを止めたのかも。だとしたら、あの変な態度も説明がつくな、って思って」
「あ・・・」
ブルマの指摘に、クリリンはさっと顔色を変えた。もし、悟空が止めてなかったら、クリリンが荷物を取りに来てた。悟空でさえやられた怪物に、天下一武道会で彼に負けたクリリンがかなうはずがない。下手をしたら、殺されていた可能性だってあったのだ。
「無茶してなきゃいいけど・・・やりかねないんだよねえ・・・」
ポツリと心配そうにつぶやいて、ギネは夕空を見上げた。
何しろ、フリーザ軍にたった一人で喧嘩を売った男の息子なのだから。
一方、筋斗雲に飛び乗った悟空は、懸命にとげとげしい気を追いかけていた。纏うのは、クリリンから譲ってもらった山吹色の道着。背負うのは如意棒。仙豆の入った革袋は腰の帯に引っ掛けている。
わかってはいたが、不覚を取ってしまった。
鶴仙人にやられた傷と、武道会で消耗しきってしまった気のせいで、ベストコンディションからは程遠い状態でタンバリンと遭遇。
どうにか、スキを見て仙豆を食べて回復しようと試みたが、そんな甘い相手ではなく、手痛い一撃をもらい、昏倒。ドラゴンボールと天下一武道会の名簿を奪われてしまった。
意識を回復させたとき、自分がサイヤ人で頑強であったことを感謝したことは、これほどなかった。仙豆を食べて回復した悟空は、即行でタンバリンの追跡に打って出た。
奴をこのまま生かしておくわけにはいかない。奴だけは。
奴が持っている武道会の名簿には、クリリンを始め、大勢の武道家の氏名と住所が記載されている。ドラゴンボールはまだしも(悟空の知るピッコロが生まれるには、若返ってもらう必要がある)、武道会の名簿だけはだめだ!
武道会の名簿があれば、クリリンだけでなく、ヤムチャや天津飯、他にも参加した武道家たちが危うくなる。ジャッキー・チュンのように正体を隠している武道家もいるかもしれないが、大部分のものが危うくなる。そんなこと許せない!
まだ、クリリンは完全に大丈夫になったわけではないのだ。
いた!
緑色の鱗まみれの体躯。蝙蝠のような翼をもつ、不気味な男だ。あれが、タンバリンだ。
片手にはドラゴンボール。もう片方の手には武道会の名簿を持つ男は、悟空の追跡に気が付いたらしい。翼を翻し、こちらに向き直る。
「ほお。小僧、生きていたのか」
「へん!あのくらいで死ぬか!」
「せっかく生き残れたっていうのに、残念だな。今度こそとどめを刺してやる!」
筋斗雲の上で身構える悟空に、タンバリンは余裕を崩さない。
一度惨めに地面を這いつくばらせてやったごみのような小僧だ、今度こそごみにしてやると言わんばかりだ。
次の瞬間、悟空が筋斗雲を蹴って飛び掛かる。タンバリンはそれを軽々とよけ、逆に足技をお見舞いしようとする。
タンバリンの両手はドラゴンボールと名簿でふさがっている。だが、こんな小僧、両手を使うまでもない。
タンバリンは、疲弊しきった悟空を下したことから、彼のことを完全に嘗め腐っていた。そして、それが彼の敗因となった。
攻撃が外れた悟空は、そのまま落下すると思いきや、そのまま「かめはめ波ぁ!」とかめはめ波の反動でタンバリン目がけて体当たりをした。
「があっ?!」
よろけるタンバリンにそのまま組み付き、翼の皮膜に拳を突き入れる。
大きな穴が開いてへし折れた翼は、もはや翼として機能しない。そのまま二人は錐もみ状態で眼下の密林に落下した。
苦痛にうめくタンバリンをよそに、悟空は彼を踏み台にしてトンボを切り、体勢を立て直すと無事着地した。
対するタンバリンは、踏み台にされた反動もあって地面にたたきつけられる。その拍子に、手に持っていたドラゴンボールと名簿を手放してしまった。
「こ、小僧!こちらが下出に出れば、付け上がりやがって!」
「オラ、小僧じゃねえ!孫悟空だ!」
額に青筋を浮かべ、立ち上がってがなるタンバリンに、悟空は身構えながら怒鳴り返す。
「お前ぇには誰も殺させねえ!ここでぶっ潰してやる!」
そう。ここでタンバリンを見逃せば、こいつはクリリンを始め、大勢の武道家たちを殺すのだろう。そんなことはさせない!
「なめるな!小僧!」
叫んだタンバリンが飛び掛かってきたが、遅い。
タンバリンがとらえたのは、残像だった。残像拳だ。気の扱いも心得ていない、さらには残像拳すらわからないタンバリンには、見抜けるはずもない。
攻撃が当たらずに隙だらけになってしまったタンバリンに、悟空は容赦なく飛び掛かった。殴り倒して馬乗りにすると、そのままその顔面にマシンガンのように拳の連打をお見舞いし、そのまま蹴飛ばす。
力なくへたり込むタンバリンは息を切らしながら猛烈な勢いで思考を巡らせる。
駄目だ!この小僧、とんでもなく強い!さっき、いたぶってやった時とは、まるで別人だ!あの方にはお叱りを受けるかもしれないが、命じられたことを優先するべきだ!
屈辱だった。我らが魔族の戦士が、たった一人の小僧相手に逃げに徹するなど。だが、あの方の命令を果たせぬ方が、何倍も問題だ!
一瞬、タンバリンは視線を動かした。夕闇に包まれて暗くなっている密林の中でも、タンバリンの目にはよく見えた。
ドラゴンボールと、天下一武道会参加者の名簿の落ちている位置が。
次の瞬間、タンバリンは動いた。
口を開いて、放った光弾が悟空のいたところを薙ぎ払う。
命中も確認せずに、タンバリンは動く。
急ぎ、名簿を回収し、続いてドラゴンボールを拾い上げようとして。
「逃がすわけないだろ」
死神の声が、すぐ耳元でした。小僧のなりをしている、恐るべき死神の声が。
急ぎ振り向こうとした時には、タンバリンは空中高くに投げ飛ばされていた。
しめた!ドラゴンボールがまだ回収できていないが、今は一時退却をするべきだ!名簿はこの手にある!これで良しとするべきだ!
急ぎ、残り少ない力で翼を再生させると、タンバリンはそのまま身をひるがえした。
「覚えてやがれ!小僧!」
「逃がさねえって言っただろ!」
捨て台詞とともに逃げようとしたタンバリンだが、悟空は逃がさなかった。そのまま地を蹴って大きく跳びあがり、タンバリンのすぐそばにせまる。
「かぁ、めぇ、はぁ、めぇ、波ぁぁぁぁ!」
「な、ぎゃ」
振り向いたタンバリンは悲鳴もろとも、かめはめ波に飲まれて消失した。・・・もちろん、その手に持った名簿ともども。
奪還が無理なら、かめはめ波で焼き払うまでだ!
悟空はひそかに、それをも計算に入れていたりする。
武道会の名簿が手に入らないとなれば、クリリンをはじめとした参加武道家たちの安全はぐっと引きあがるはず。
落下しながらほっとする悟空を、黄色の雲がお疲れさまという代わりに抱き留めた。
「筋斗雲!」
ほっと、悟空は表情を緩めた。
そうだ、今回は筋斗雲も無事で済んだのだ。前の世界は、タンバリンに破壊されてしまったが、今回は無事で済んだ。
とりあえず、第1段階は突破、というところだろう。
一息ついてから、悟空は筋斗雲を降下させる。戦闘でタンバリンが放り出した
加えて記憶が確かなら、この密林のどこかにヤジロベーがいるはずだ。ドラゴンボールの一つをもって。
ピッコロ大魔王がドラゴンボールを集めているなら、記憶と同じくいずれヤジロベーの持つドラゴンボールも狙ってくるだろう。
ピッコロ大魔王は倒さなければならない。それはわかっている。
だが、奴を単純に倒すだけではだめだ。そうするとピッコロが生まれなくなってしまう。(悟空は考え切れてなかったが、ピッコロが生まれなくなるどころか、神も死ぬので連鎖的にドラゴンボールも消失する)
だが、あのピッコロの誕生もかなり条件が厳しいのではないだろうか?
あのピッコロは、ドラゴンボールの力によって若返ったピッコロ大魔王が悟空によって倒され、今わの際に生み出された分身だ。元は。
つまり、ピッコロ大魔王を若返らせ、そのうえで倒す必要がある(即死させずに卵を残す程度の余裕を持たせて)ということだ。
ということは、ヤジロベーの持つドラゴンボールを狙ってきたピッコロ大魔王は見逃す、あるいは見ないふりをする必要があるということだ。
ヤジロベー本人は大丈夫だろう。あいつは土壇場では臆病風に吹かれやすく、以前はピッコロ大魔王に痛めつけられる悟空を見て見ぬふり、ベジータ相手に命乞いと保身に走っていたのだ。ピッコロ大魔王のことに気が付いて、その狙いを察したらドラゴンボールなんて放り出して――ヤジロベーはドラゴンボールのことを知らないのでは?
はたとそのことを思いついた悟空は、硬直した。
なお、
犬並みの鼻を持つ悟空であるから何とか見つかった。でなかったら、あきらめて朝を待っていたことだろう。
ともあれ、そこが悟空の限界だった。
「明日にすっか・・・」
ポツリと言って、悟空はその場に倒れ込むように眠りについた。
仙豆を食べて傷は癒えて空腹も満たされようと、精神はそうはいかない。特にこの日は天下一武道会でほぼ一日暴れまわった後に、タンバリンとの戦闘もこなしている。
睡眠による休養は大事だ。
眠りに落ちた悟空は知らない。
悟空が帰ってこず、一人家に帰るわけにもいかないギネはそのまま亀仙人たちと行動を共にする。足を折られたヤムチャとブルマたち非戦闘員の護衛にもなるから、と。
帰ってこない悟空に、亀仙人が最悪の事態を予期した。
とにかく、グズグズしてはいられない。協力を申し出た天津飯と
続けて、
ブルマの持っていたドラゴンレーダーを借り受けた亀仙人は、天津飯とチャオズ、クリリンを連れてそのままドラゴンボールを探しに出立した。
一方、タンバリンを殺されたことを察知したピッコロ大魔王は、彼を復活させたピラフ一味の所有する飛行船の中で激怒していた。
どこのどいつだ?復活してすぐに生み出した精鋭を殺したのは。
このピッコロ大魔王の手下を殺すということは、ピッコロ大魔王そのものに逆らうと同義というのに!
怒り狂うピッコロ大魔王はしかし、参謀魔族のピアノのなだめで冷静さを取り戻す。(飛行船の乗組員をするピラフたちが怯え切っていたが、どうでもいいことだった)
だが、煮えたぎる怒りは健在だった。どこのどいつか知らないが、必ず目にものを見せてやる、と。
とりあえずピッコロ大魔王は、老いた体に負担がかかるのを承知で怪しげな呪文を詠唱しつつ卵を吐き出し、新たに手下を生み出した。シンバルと名付けたそれには、ドラゴンボールの回収を優先させるよう命令した。
かなうならば武道家の粛清を並行して行いたかったが、タンバリンが敗れた以上、天下一武道会の名簿の強奪は失敗したも同然。名簿の予備を奪おうにも、これ以上の時間の遅延と手下を生むのは、老体のわが身にとっては悪手でしかない。
仕方がない。それは、後回しだ。
そして――悟空の知らぬところで、それでも歴史は多少ずれてはいても同じ道行きをたどり始める。
目を覚ました悟空は、すぐさま四星球を予備の革袋の中に入れて帯に引っ掛けた。
そうして、近くの水場に駆け寄ると、野生動物がそうするように口を付けてごくごくを水を飲み干した。
腹の方は仙豆で満たされている(仙豆は一粒で10日は腹が満ちるのだ!)が、喉が渇いたのだ。
そうして顔を上げた悟空は改めて行動方針を考える。
まずはドラゴンボールを持っているヤジロベーと合流しなければ。
ふんふんと鼻を動かせば、香ばしい焼き魚の臭い。それをたどるように、悟空はそちらに足を向けた。
密林を抜けた先の少し開けた場所に、それはあった。
大きな丸太に刺さった、巨大な魚――パオズ山の怪魚に匹敵するような大きさのそれが見事な丸焼きにされている。
空気に漂う香ばしい香りに、我知らず悟空は喉を鳴らした。
腹は満ちているが、つまみ食いできなくもないのだ。
欲望に負けて伸ばしそうになる手を必死に我慢した。これはヤジロベーがとってきたやつだからダメだ。つまみ食いはダメだ。嫁にもよく怒られたのだ。(悟空さのつまみ食いはつまみ食いってレベルじゃねえだ!)
急ぎ悟空は目をそらした。小腹が空いたなら、別のものを食べればいい。仙豆は万が一のことを考えて取っておくとして、他のもの・・・。
考えながら悟空が視線を焼き魚から無理やり引きはがすと、パオズ山の大猪に匹敵するほどの大きさのサーベルタイガーが茂みを揺らしながら出てきた。
焼き魚の臭いにつられたのだろうか?
よだれを垂らすサーベルタイガーは、おいしそうな焼き魚と合わせてぼんやり突っ立ってる猿のような小僧に向かってよだれをほとばしらせながら飛び掛かった。
さて、結果についてはみなまで記す必要はないだろう。
哀れなサーベルタイガーは、解体されて悟空の小腹を満たす野生児風バーベキューに転生させられた。それだけの話だ。
「・・・何してんだ、お前?」
呆れたように言ったのは、果物を山と抱えてやってきた少年である。
やや横に広い体躯に、橙に縦じまの入った着物をまとい、刀を差している。ぼさぼさの黒髪の仏頂面の少年だ。その首には、赤い一つ星の入った珠がさげられている。
「オッス!オラ悟空!孫悟空だ!」
「お前の名前なんて訊いてねえわ。オレの焼き魚のそばで何してんだって訊いてんだ」
骨付き肉にかぶりつきつつ片手を上げた悟空に、少年が言った。
その声は、悟空の親友と同じだ。前の世界では、親友を失ったばかりの悟空はひそかに救われたのだ。
「腹ごしらえだ。腹減っちまって」
「フーン・・・まあ、オレの焼き魚に勝手に手を出さなかったんならいいけどな」
言いながら、少年はのそのそと焚火にかざされていた焼き魚を取り上げ、無造作にかぶりついた。いい食べっぷりだ。
悟空もまたサーベルタイガーを食べるのを再開した。この後、間違いなくピッコロ大魔王の手下が来る。そして、大魔王本人も。腹ごしらえして、軽く体を動かして、ベストコンディションにしておきたい。
食べながら悟空は考えた。
悟空の仲間になるピッコロのためだ。大魔王の方は一度目は・・・痛めつけるだけ痛めつけて見逃すしかない。(ここで負けるという発想が出ないあたり、悟空らしい)
そして、ピッコロをドラゴンボールで若返らせてから、改めて倒す。卵を産めるだけの余力を残して。できるか?できなければピッコロが生まれないのだ。やるしかない。
食べ終えたところで、悟空は少年の方を振り返った。焼き魚の後はデザートとばかりにとってきた果物を無造作にかじっている。
「なあ」
「何だ、果物はやらねえぞ」
食い意地張ってるなあ、と悟空はひそかに思う。なお、他の仲間たちが聞こうものなら、おまいう、と口をそろえていったことだろう。
「そうじゃねえよ。その首にさげてるやつ、どうしたんだ?」
「これか?3年前に山ん中で拾ったんだ」
3年前。つまり、時期的にも一致する。やはり、あれは
「これがどうかしたのか?」
球を指先で持ち上げて見せる少年に、悟空はドラゴンボールのことを告げようとした。だが、それよりも早く、悟空はピクリとまゆを動かして彼方を見上げた。大きな気の持ち主がこちらに近づいてきている。かなりのスピードだ。
「来たっ!」
「はあ?」
突如険しい顔になった悟空につられて、少年が振り返った。
そこには、緑色の鱗に蝙蝠じみた翼を生やした、小山ほどの怪物がいた。シンバルだ。
そろそろかとは思っていたが、案の定だ。
シンバルはドスンッと、二人の前に着地すると高圧的な口調で言い放ってきた。
「いいか?正直に言わないと死ぬことになるぞ・・・?
この辺りで星が入っている小さな玉を見たことがないか?」
「何だ貴様?えらそうなこと言いやがって」
それが気に入らなかった少年が不機嫌そうに吐き捨てた。
シンバルはすぐに気が付いた。少年が首から下げているものが、お目当てのドラゴンボールだということに。
それだ、よこせ、と言ってきたシンバルに、もちろん少年はノーを突き付けた。
ならば力づくだ!とシンバルが襲い掛かってきた。
悟空は必要なら助太刀しようかとも思ったが、その必要はなかった。悟空の見立てでは、気の大きさは、少年の方が若干大きいのだから。
少年は、前の世界と同じく異常に打たれ強かった。シンバルに幾度か殴られ、地面にたたきつけられたというのに、多少痛がるだけですっくと立ちあがったのだから。
業を煮やしたシンバルが手から怪光線を放つが、少年はひょいひょいとそれをよける。
「手ぇ貸そうか?」
「いらねえよ。食後の運動だ。よぉし!運動終わり!」
声をかけた悟空に不愛想な返事を返し、少年は腰の刀に手をかけた。
再びシンバルが怪光線を放つが、少年はそれを潜り抜けあっと言う間に間合いを詰める。そして――。
引き抜かれた刀が、電光石火の速度でシンバルを袈裟懸けに真っ二つにしていた。
そのまま倒れ伏すシンバルを見やって、少年はにやっと不敵な笑みを浮かべる。
「お前ぇ、強えな!」
「ふん。あったりまえだ!」
悟空の賞賛の言葉に、嬉しいのだろうが、素直になり切れずにつんけんした言葉を放つ。
「なあ!そういや、お前ぇの名前は?」
「あ?そういや、名乗ってなかったな。オレはヤジロベー様だ」
刀を鞘に納めながら、少年――ヤジロベーは言った。長い付き合いになる、仲間の一人である。
一方。雲海を飛行中のピラフの飛行艇では、またしてもピッコロ大魔王が激怒していた。
タンバリンに続き、シンバルまで。
頭を抱え、青筋を浮かべながら、ピッコロ大魔王は固く決意した。
こうなれば、このピッコロ大魔王様自らがぶちのめしてくれる!!
そんな大魔王にピラフ一味は震えあがっていた。
ピッコロ大魔王の封印を解いたという恩の下、大魔王の世界征服成功の暁には、世界の半分をもらおうという魂胆であった彼らだが、いまさらになって彼らはとんでもない間違いを犯したような気がしてきたのだ。
今更過ぎる。悟空以外誰も知らないだろうが、別の世界線では、彼は別のとんでもない間違いで地球爆発のトリガーを引いてしまうわけで。ツフル星に避難となった時、彼らが何を思ったかは不明である。
と、ここでピラフは飛行艇内部に設置していたドラゴンレーダー(ブルマが開発したものよりも精度は劣るし、大きい)を見て気が付く。
ドラゴンボールが集まっている。その数4つ。しかも、移動している。自分たち以外の何者かが、ドラゴンボールを集めているのだ。
慌てふためいて報告するピラフに、ピッコロ大魔王はその細くしわがれた体躯から怒気を立ち昇らせる。
何故だ?何故こうもうまくいかない?
せっかく生み出した精鋭たる魔族の戦士は二人してやられ、忌々しい武道家どもの抹殺にも着手できず、若返りの鍵たるドラゴンボールも手にできない。
かんしゃくを起こしかねない大魔王を、懸命にピアノとピラフがおべっか交じりになだめる。
どうにか落ち着いた大魔王は考え直す。
何者かは知らないが、わざわざボールを集めてくれているのだ。奴らが集めたところで、こちらが奪えばいい。
しかも、その連中が持っているのはまだ4つ。まだまだ集めきるのに時間はかかるはず。
こちらの方が早いはずだ。
タンバリンが死んだ場所と、シンバルが死んだ場所は近く、さらにそこにはドラゴンボールが二つある。
このピッコロ大魔王様に逆らうものに制裁を加え、ドラゴンボールを今度こそわが手に。
その一方で、亀仙人たちは大きなトラブルなくドラゴンボールを集めていた。
順調にボールの数は集まっていたが、不安はぬぐえない。
天津飯は、ドラゴンボールによるピッコロ大魔王討伐が微妙に気に入らないらしく、魔封波の使い方を知りたがっていたが、亀仙人は険しい口調でそれを止めた。
それを聞いて、ジェットフライヤーを運転する天津飯は思う。
亀仙人は、魔封波という技について何か知っているのでは?と。
さて、前の世界と同じく、ヤジロベーは仕留めたシンバルを解体して、バーベキューにしてしまった。
今回は悟空が焼き魚泥棒をしていないせいか、食うか?ちょっとなら分けてやってもいいぞ?と言ってきたが、悟空は丁重に断った。
大飯喰らいの悟空でも、あれを食べようという気にはなれない。
あっという間に平らげたヤジロベーは、美味かった、もっと食べてもいい、などと末恐ろしいことを口走っている。ゲテモノ食いが過ぎる。
あれの親玉のことを知れば、きっと顔色を変えるに違いない。
実際、悟空がドラゴンボールのこととタンバリンとシンバルの親玉――つまりピッコロ大魔王のこと、連中がドラゴンボールを狙っていることについて告げれば、ヤジロベーは顔を青くした。
「ピ、ピッコロ大魔王・・・?
バ、バカタレ!そいつは大昔に、えらい武道家に封印されたって昔話で聞いたことがあんだ!適当なホラ話をすんな!」
「ホラじゃねえよ!」
引きつった顔で喚くヤジロベーに、悟空が言い返した時だった。
はっと彼は上空を見上げた。気を探るのがおろそかになっていた。
つられてヤジロベーも上を見上げ、「げげっ!!なんだありゃ?!」と声を上げる。
ピラフの飛行艇だった。
同時に、間違えて外部スピーカーのスイッチを入れてしまったマイによって『ピッコロ大魔王様、目的地上空につきました!』というアナウンスが流れる。
それを聞いた途端ヤジロベーは今度こそ表情をこわばらせた。
「ほ、ほんとだったのか・・・! あわわわっ・・・!」などと慌てふためきながら、首にかけていた一星球を外すと、悟空に「お前にやるよ!」などと押し付けてきた。
「わかった。サンキュー、ヤジロベー」
「いいからいいから!ばぁーい!」
だと思っていたので、驚きはない。
改めて、悟空は飛行艇を見上げながら身構えた。
飛行艇の甲板に出たピラフは、双眼鏡で見降ろして仰天した。
あの化け物小僧だ!
忘れもしない、4年前はグルメス公国軍にせっかく作ったドラゴンレーダーを接収され(代わりに命は取られずに済んだ)、ようやくドラゴンボール集めに乗り出そうとした3年前。
世界最悪の私設軍であるレッドリボン軍がドラゴンボール集めしているというのを耳にし、断腸の思いでドラゴンボール集めを中断するか迷っていた時だった。
念のため見張っていたレッドリボン軍が原因不明の壊滅を遂げ、レッドリボン軍が集めていたボールが突然移動を開始。急ぎスパイカメラを向けてみれば、その持ち主はチンチクリンの小僧。占いババの宮殿で格闘戦を繰り広げていたが、このピラフ様が作り上げた戦闘ロボにはかなうまい!
そう確信していたというのに、ふたを開けてみればほんの数分で自慢の戦闘ロボは破壊され、大事に電波遮断装置に入れていたドラゴンボールを奪われてしまったのだ。
何というでたらめな小僧なのだ!あのでたらめぶりはピラフの中では完全にトラウマになってしまっている。
急ぎピラフは、そのことをピッコロ大魔王に報告した。
しかし、ピッコロ大魔王は余裕を崩さない。
そのまま飛行艇の甲板を飛び出し、舞空術でゆるりと地面に着地した。
「来たな、ピッコロ大魔王・・・!」
「ほう?アリのフンのようなクソガキの分際で、このピッコロ様のことを知っているとはな?
いかにも。わしがピッコロ大魔王様だ」
唸るような悟空の問いかけに、ピッコロ大魔王は不敵に笑いながら言った。
木陰に隠れてこっそり様子見していたヤジロベーは、それを聞いて震え上がりそうになった。本当に、おとぎ話の魔王がよみがえったのだ!
「結構武術がいけるらしいな・・・?
わしが送り込んだ戦士を二人も倒してくれたようだし・・・」
好々爺のごとく細められていた目と、唇の端を引き上げてピッコロ大魔王は悪意に満ちた笑みを浮かべた。
「ドラゴンボールを渡せば生かしてやろうかとも思ったが、身の程知らずには制裁を加えねばならん。わかるか?
特に、お前のような武道家は、つい殺したくなっていかんのでな・・・」
「やれるもんならやってみろ!」
ピッコロ大魔王は殺すわけにはいかないが、かといって放置してもいいわけにもいかない。
ほどほどに痛めつけて、逃げ出すように仕向けるのがいいだろう。
だが、なめてかかりはしない。ピッコロ大魔王は、たとえ老いた姿であろうとも、現在の自分からは十分な脅威なのだから。実際、前の世界では一度は完敗を喫した相手なのだから。
先手を打ったのは悟空だ。地を蹴って飛び掛かる。
その予想以上の速度に、大魔王がぎょっとする暇こそあれば、悟空からパンチとキックの連撃を浴びせられ、体勢を崩されたところを、再び着地からの攻撃を受けそうになる。
やられっぱなしではいられないと、大魔王は悟空をつかみ取ろうと腕を伸ばしたが、悟空は舞空術で軌道に制動をかけ、尻尾でピッコロ大魔王の腕をつかみ取り、そのまま殴り掛かろうとする。
負けじとピッコロ大魔王は反対の手で悟空に掌打を食らわせたが、悟空は吹き飛んでも素早く受け身を取ってそのまま地面を蹴って、反動で飛び蹴りを食らわせた。
これにはピッコロ大魔王はたまらずに、背中から地面に倒れ込む。
飛行艇の甲板で見ているピラフ一味は慌てふためいた。やっぱりあの小僧はとんでもない化け物だ!逃げた方が・・・!
それをピアノがうろたえるな!と一括した。まだだ。まだ、大魔王様は本気を出してもいない。
木陰でこっそり様子見するヤジロベーは息をのんだ。悟空が想像以上に強かったからだ。
のろのろとピッコロ大魔王が立ち上がる。
「わ、わしの背中を地につけさせる奴がこの世におるとはな・・・。
なるほど、あの程度の手下どもでは手に負えんかったわけだ・・・」
悟空は無言で身構えたまま、ピッコロ大魔王をにらみつける。
「お前のようなやつは当然・・・消し去るしかあるまい!」
言い放つと同時に、ピッコロ大魔王は身にまとっていたマントとローブを脱ぎ去り、身軽な道着姿になる。
「とくと見せてやろう。このピッコロ大魔王様のすさまじさを」
無造作に立っているようなピッコロ大魔王だが、次の瞬間、彼は動いた。
目にもとまらぬスピードで悟空に迫り、彼を蹴り上げようとしたのだ。
悟空はかろうじて後ろにさがることで深く当たることは避けたが、反動は大きく、小柄な体躯のせいで浮き上がりそうになるのをかろうじてバック転をするようにさらに跳び下がる。
だが、大魔王は容赦しない。生意気なアリのフンのような小僧を叩き潰すべく、追いすがる。その短く細い足をつかみ取ると、地面に勢いよくたたきつけた。
否。
振り上げられた瞬間、悟空は体をねじって大魔王の腕を外すと、そのまま大魔王の腕に手刀をたたき込む。
「ギッ?!生意気な小僧め!!」
僅かなれど痛みに顔をしかめる大魔王に、悟空は反動で大きく飛び下がりながら息を整える。
いける。落ち着け。このままいけば何とかなる。
よく動け。効率よく。空のように静かに。雷より早く。
前の世界の時のように、手も足も出ずに一方的にやられているわけではない。攻撃が見える。ちゃんとダメージになっている。
大魔王がつかみかかってくる。紙一重でよけ、悟空はカウンターで大魔王の腕を踏み台に、その頭に蹴りを入れる。
相手は体躯の大きさ、手足の長さという利点がある。ならば悟空は小柄な体躯を生かし、とにかくスピードと手数で攻めろ。
「ちょこまかと・・・!」
苛立たし気に顔をゆがめるピッコロ大魔王に、悟空は笑みを浮かべる。余裕の笑みではなく、戦いが楽しくなってきたが故の笑みだ。
その時だった。
急にピッコロ大魔王を不穏な紫色の光が包み込む。同時に、彼の気が急激に膨れ上がった。
「何?!」
悟空がぎょっとした直後、まるで見えなくなった――急激にパワーアップしたピッコロ大魔王の膝が悟空のみぞおちに突き刺さっていた。
「ごああっ?!」
吐しゃ物を吐き散らしながら、空中に吹き飛ばされた悟空は、それでもあきらめなかった。
とっさに舞空術で制動をかけて空中静止し、悟空は急ぎ腰の革袋から仙豆を取り出そうとした。
だが、そんな悟空にピッコロ大魔王は容赦しない。
拳に黄色の光をまとわせたピッコロ大魔王は、振りかぶると同時に腕を縄のように数メートル伸ばし、斜め下から悟空に追い打ちをかけた。
殴り飛ばして高々と跳ね上げ、続けて足をつかんで腕を縮めることで悟空を手元に引き戻す。
そのままピッコロ大魔王は悟空を地面にたたきつけると、その背を踏みつける。否、それどころか潰す勢いで地面にめり込ませた。
「ワシの服が汚れたわ。アリのクソのゲロムシめ!」
突如沸き起こった力に、ピッコロ大魔王は破壊と嗜虐の快感に酔いしれながら、叫んだ。
一度足をどかすと、ピッコロ大魔王は悟空の頭をつかみ上げる。
悟空はまともに身動きできない。先ほどまでの攻撃で内臓が破裂してしまうほどのダメージを受けてしまったからだ。これでもとっさに気で衝撃を和らげたのだ。でなければ、即死していた。
かろうじてけいれんしながらピッコロ大魔王をにらみつけるしかできない。
「そろそろ死ぬか?」
左手のひらを悟空の胸にあてがいながら、ピッコロ大魔王がささやくように言った。
次の瞬間、ピッコロ大魔王は悟空を高々と放り投げ、その手のひらから発した金色の気功波で撃ち抜いた。
悟空はそのまま地面に墜落し――ピクリともしなかった。目から光は失われ、呼吸も脈も完全に止まっていた。その帯から外れた革袋から、四星球が零れ落ちる。
「クックック・・・フハハハハーッ!」
勝ち誇って哄笑するピッコロ大魔王は、容赦しない。
「念には念を入れておくとしよう」
言いながらピッコロ大魔王は悟空目がけて足を振り上げる。首の骨をへし折っておけば、完璧だ。
その時だった。
「おじいちゃんに何すんのよ!この枝豆のミイラ!」
そんな罵声とともに、ピッコロ大魔王は唐突に側頭部をいやというほど蹴飛ばされた。彼に膝蹴りをたたき込んだのは、オレンジのバンダナを付けた黒髪の少女だ。
同時に、ピッコロ大魔王を包み込んでいた紫色の光が消えうせる。
「ぬあ?!な、何だ・・・?!」
それまで感じていた万能感が消えうせ、冷水を浴びせられたような現実感が戻ってきたピッコロ大魔王は体をふらつかせる。
「な、何だ?!どっから来た?!あいつ・・・!」
木陰に隠れるヤジロベーさえ、少女がどこから来たかわからず目を白黒させる。
「よくもやってくれたわね!あたしが許さないんだから!」
「パンちゃんパンちゃん!ストップストップ!」
眉尻を吊り上げて拳を振り上げようとする少女を、あとからやってきたうす紫の髪の青年が羽交い絞めにする。
「放してトランクス!」
「それ以上はダメだって!オレたちの方が時間犯罪者になるから!
悟空さんなら大丈夫だから!」
「うー・・・!」
不承不承少女がおとなしくなったのを見計らって、青年は少女を開放する。ここで青年は腕にしている時計だか腕輪だかに向かって「わかりました!」と声をかけてから、少女に向き直った。
「どうやら逃げられたらしい。オレたちもいったん出直そう」
「りょーかーい・・・」
青年の言葉に少女がうなずいたところで、二人の体は音もなく消えてしまった。
何が何やら状態で、半ば呆然とする一同――ふらつくピッコロ大魔王、飛行艇甲板上のピラフ一味にピアノ、木陰のヤジロベー、そのすべてを置き去りにして。
真っ先に我に返ったのはピッコロ大魔王だった。
「ふん・・・まあ、いい」
少女に蹴られた側頭部をさすりながら気を取り直し、改めて倒れたままの悟空に向き直った。
彼自身に自覚は薄かったが、紫色の光が消えたせいか、若干殺気が収まっていた。若干だが。
「死んでおるのだ。わざわざ死体に鞭打つ必要もあるまい」
悟空の呼吸と脈を今一度確認したピッコロ大魔王は、そのまま悟空の胸から一星球の通された紐を引きちぎると、そばに転がっていた四星球も拾い上げた。
「はっはっはっは・・・!」
高笑いしながらピッコロ大魔王は舞空術で空を飛んで再び飛行艇の甲板に着地し、中へと戻っていく。
目障りなものを消え去り、目当てのドラゴンボールが手に入った。
ようやく、物事がピッコロ大魔王様の思い通りに進みだしたらしい。
若返りは目の前だ。
声が聞こえた気がする。なつかしい声が。
あの声はいつも、暗い場所に堕ちそうになる悟空を捕まえてくれる。なつかしい、声。
「・・・っ・・・」
孫娘の名前を無意識に呼びそうになったが、邪神にかけられた言動制限のせいか、はたまた体に受けたダメージのせいか、その声は音にもならずに唇の動作と吐息だけに終わった。
うっすらと悟空は目を開ける。
止まったはずの心臓は、どうにか鼓動を再開してくれた。体中が痛い。指を動かすのもおっくうだ。しかも息が異常にしにくい。もしかしたら、肺にもダメージがいっているのかもしれない。
意識を保っているのも厳しい。このままでは、今度こそ完全に死ぬ。
「孫?!気が付いたか?!」
いつの間にか木陰を抜け出したらしいヤジロベーがこちらを覗き込んできている。
「せ、仙豆を・・・」
「センズ?」
「オラの、腰につけている、袋の、中の、豆を・・・」
必死に声を出して要求を口にする悟空に、ヤジロベーは動いた。
悟空が腰につけていた四星球が入っていたのとは別の袋から仙豆を取り出す。
「なんだ?センズって、豆粒じゃねえか!
これをどうすんだ?!」
「食わせてくれ・・・頼む・・・」
「わかった」
悟空の言葉に、ヤジロベーはその太い指で仙豆を悟空の口に入れた。
かみ砕く力もない悟空は、そのまま豆を丸呑みした。
直後。
「はあぁぁ・・・!
死ぬかと思ったぞ・・・!」
「いいっ?!」
すっくと立ちあがってポンポンと体のほこりを払い、ついでに割れてしまったブルーツ波遮断ゴーグルを外して捨てる悟空に、ヤジロベーは度肝を抜かされた。
「お、お前、どうしたってんだ?!あんだけ痛めつけられてたってのに!」
「すげえだろ。仙豆って言ってな。一粒で10日腹が膨れるし、どんな傷もあっという間に治してくれるんだ」
仰天するヤジロベーに、悟空はニッと笑って見せた。
「ハー・・・お前、便利なもん持ってんだな・・・」
感心したようにこちらを見てくるヤジロベーをよそに、悟空は周囲を見回した。
案の定、ドラゴンボールは二つともなくなっている。気を探ってみれば、ピッコロ大魔王と思しき気の塊が移動している。複数の大きな気の塊――亀仙人と
やはり、避けられないのか。
これから起こることを予期して、悟空は拳を握りしめて歯を食いしばった。
おそらく、亀仙人たちは殺される。ピッコロ大魔王に、前の世界でされたのと同じように。
悟空は首を振った。
このまま真正面から戦ったところで、ピッコロ大魔王に勝てるかどうか。
弱気になっているのかもしれない。ここまで、悟空は基本的に自分にとって最良の結果を常に出せてこれた。武道会の結果はともかく、倒すべき相手はちゃんと倒してこれたし、助けるべき相手はちゃんと助けてこれた。
どこかで油断していたのかもしれない。
まだピッコロ大魔王があの異様な状態になったら、勝てる気が全くしないのだ。
前の世界では、あんなこと――あの、紫色の光に包まれてからの急激なパワーアップなんて一度もなかったはずなのに。
少なくとも、若返った後のピッコロ大魔王は一度も使ってこなかったのだから。
加えてもう一つ。ピッコロ大魔王が老いた状態だからまともに打ち合えたが、あれが若返った状態であれば、おそらく勝てない。
つまり、悟空の戦闘力不足。みっちり3年修行を積んだが、やはり届かないらしい。
となれば。
「孫、お前これからどうすんだ?
ま、せっかく助かったんだ。二度とあのピッコロ大魔王ってのには手を出さねえことだな。相手が悪すぎるぜ」
「ああ、カリン塔に行ってみるさ。世話になったな、ヤジロベー」
「カリントー?」
「ウェストエリアの聖地カリンにある、長い塔さ!この仙豆はそこのてっぺんにいるカリン様にもらったんだ!」
「ふーん・・・ま、気ぃ付けてな」
不愛想に言い放ったヤジロベーは、やはりついてくるつもりはないらしい。
それはそうか。死ぬのは嫌だ、と昔から常々言っていたのだから。前の世界で行動を共にしてくれたのは、悟空が重傷を負って満足に動けない上、筋斗雲もない、カリン塔のてっぺんにごちそうがあるという状況だったからだ。
「筋斗雲よーい!」
悟空の呼び声にこたえて、黄色の雲が滑り込むように駆けつけてくれた。今回は壊されずに済んだ。何よりだ。
「ゲッ?!なんだそりゃ?!」
「筋斗雲だよ。亀仙人のじっちゃんがカリン様からもらったのを、オラがもらったんだ!」
また驚いているヤジロベーに行って、悟空は筋斗雲に飛び乗ると、「じゃあな!バイバーイ!」と飛び立った。
それを半ば呆然と見ていたヤジロベーは、あわててホイポイカプセルでエアカーを出すとそれに飛び乗ってハンドルを握った。
あんな便利な豆と雲、自分も欲しい!(実は悟空が置き去りにした袋の中に仙豆がまだいくつか入っているが、もらえるもんはもらいたいのだ)
悟空が飛び去った方は把握している。急ぎ、ヤジロベーはエアカーを発進させた。
こうして、多少異なれど、歴史は進んでいく。正史をなぞるように。
続く
※逆行悟空の特徴その11
人生で初めてぶっ殺す宣言して、実行した相手であるタンバリンは絶対逃がさない。タンバリン絶対殺すマン。
今回は仙豆も食べてベストコンディションなので、わざわざ2ラウンドもつれ込むことなく、ラウンド1で勝利してしまった。
人のものを勝手に食べるのはドロボー。あの当時は焼き魚の持ち主なんて知らなかったし、悟空自身が限界だったので食べてしまったけれど、今回は仙豆のおかげで我慢がきいたので焼き魚は食べなかった。自動的にヤジロベーとのけんかフラグが折れた。
老人モードピッコロ大魔王とのラウンド1についても、以前の世界ほど手も足も出ないということはなかったが、諸事情で瀕死になってしまった。
ちなみに、悟空は自覚してなかったが、実はろっ骨が折れて肺に刺さってた。本人も感じてた通り、あのままだとそのうち死んでた。
筋斗雲壊されてなかったので、そのままカリン塔へ。おそらく、亀仙人たちのところには急いでも間に合わないので、自分のパワーアップを優先することにした。(合理主義的に!)
でもヤジロベーはちゃっかりカリン塔行きを決めた様子。そりゃ便利グッズ二つもそこで手に入ったっていうなら、自分も欲しいってなるよね!
Q.途中乱入してきたのとか、ピッコロ大魔王の謎パワーアップって・・・?
A.お察しの通りです。ピッコロ大魔王は悟空が生きてることに気が付いた時間犯罪者たちが今度こそ殺したる!とキリでパワーアップさせられました。
で、それを止めに来たタイムパトローラーのトランクス君(絶望の未来出身)と、パンちゃん(GT終了直後)が乱入してきたって感じです。
時間犯罪者たちが逃げたので、タイムパトローラーも退散したって感じです。
Q.じゃあ、ミラとトワも出番があるんですね?
A.さあ?(行き当たりばったりで書いてるので)
それに、あの二人って決まったわけでもないでしょう?GT後にそれでも懲りなかったピラフ一味がタイムマシン作って、時間犯罪者に転職したのかもしれませんし。(超で平行世界理論理解してる描写あったし、ガチでやってもおかしくないんですよねえ。技術力と行動力だけはあるんですよ、彼ら)