1.孫悟空、二度目のスタート
温かいな。
孫悟空は思った。
ふわふわほわほわ。暖かな水の中に浮くような。目も開いているのか、閉じているのかも、あいまいだ。
うとうとと、悟空は胎児のごとくまどろむ。
だが。
突然走った激痛に、たまらず悟空は絶叫していた。
何かなくてはならないものが、ごっそりと奪い取られたような。四肢を引き裂かれるような。
あいまいな浮遊感にも似た温かさは消え失せ、痛みと冷たさにとって代わる。まるでぬるま湯から肌を刺すような極寒の雪山に引きずり出されたような。
『おはようございます。がんばってくださいね』
あざ笑うような、聞き覚えのない声がした直後、悟空は放り出されていた。
「ぐえっ」
脳天をしたたかに打ち付け、悟空は悲鳴を上げた。目の奥で火花が散ったような気がする。
「いちちち・・・おー、いてえ!」
ひりひりする頭部をさすった。こぶができたかもしれない。若いころから(見てくれは小さくとも、実は孫もいるおじいちゃんなのだ!)鍛えていようと、気が抜けていれば防御も間に合わない。
頑丈なサイヤ人の体躯であろうと、気を抜いていたらこぶの一つや二つはできる。嫁に怒られるときは、意図的に防御しないので、よけいに傷がつくのだが。
だって、嫁だから。嫁の言うことはもっともだし、最近は苛烈さはだいぶ鳴りを潜めはしたのだが。
そういえば、彼女はどうしただろうか。神龍とともに行くと決めた己を、しょうがないと見送ってくれた。彼女の魂に安寧があればいいのだが。
セルとの戦いの後7年死んでた期間、女手一つで二人の子供を育て上げた彼女も、さすがに参った時があったのではないのではないか。
自分も、大界王星で修行の日々で、たまに考えることがあったのだから。息子に対する扱いのこと。嫁のこと。本当に死んだままでよかったのか。
それでも、これでよかったのだ、と無理に自分を納得させた。二人目の息子が生まれていたことを知らなかったのは、一度でも現世の様子を知ってしまえば未練でたまらなくなるとわかっていたからだ。
神龍とともに行くと決めたのは自分だ。だが、未練がないといえば嘘になるのだ。
ようやく痛みが引いてきた。
頭をさすりながら、改めて悟空は周囲を見回した。さらさらという草葉が風に揺れる音。土の匂いと青臭い匂い。竹林の中だ。
神龍の中ではない。それは即座に分かった。
いや、ものすごく見覚えがある。何しろ、物心ついてしばらく、この景色を伴って過ごしたのだ。
「パオズ山・・・?」
悟空は小さくつぶやいた。
そうだ。幼いころから住み続け、ドラゴンボール探しの旅に出てからしばらくはいなかったが、結婚を機にまた住むことにした、あの山奥だ。
ゆるりと周囲を見回す。
そうだ、この竹林は悟空と祖父が住んでいた庵から、山のふもとへ向かうための山道の途中にある。
竹の成長は早い。ぼんやりしていると、均した道が筍によってあっさりと荒らされる。だから、春先は食べはしなくても、道をふさぐような筍はさっさと掘り出すのだ。
それは、悟空が旅に出てから結婚して妻を伴って戻ってくるまでの間を除いて、粛々と続いた決まりだった。
もっとも、戻ってきたときは大変だった。放置と言っていい庵はボロボロとなっていて、悟空が均していた山道は、草木が多い茂り、竹林のものに至っては竹に占拠されて完全に没していたのだから。
新しく切り開くときは、気功波で竹を薙ぎ払ったのだ。だから、山道の一部には竹の切り株が残っていたはず。(通れたらそれでいいので、切り株まで処分しようとまではしなかったのだ)
だというのに、それがない。
それどころか、微妙に竹林の竹の位置も最後に見た時と違う気がする。
途方に暮れたように座り込んだまま周囲を見回す悟空は、ややあって自身の体躯を見下ろした。
ふくふくした手足の短い体躯は、子供の時分のものだ。究極のドラゴンボールのせいで縮んでしまったが、小さくなっても己は己だと一部を除いて特段不便したことはない。(それも補填法が見つかったわけで)
ちょろりと揺れるのは、茶色の毛に覆われたしっぽ。大界王神となった元・老界王神が潜在能力を引き出した際に生えたものであり、サイヤ人の証だ。
とりあえずここにこうしていても仕方がない。
悟空は立ち上がって、ぺんぺんと尻のほこりを払う。
悩んでいても仕方がない。とりあえず家に戻ろう。
そうして歩き出そうとしたところで、ふと気を感じて悟空は動きを止めた。
ひどく、懐かしい気配だ。この気は、知らない気だ。当然だ、だってその持ち主がいたころ、悟空は気の扱いができなかったのだから。
だが、匂いは覚えている。悟空は幼いころから、犬並みに鼻が利くのだ。当の昔に記憶のかなたに消えたはずの匂いは、鋭く悟空の記憶を刺激した。
恐る恐る、悟空は振り向いた。
老人が、いた。白いひげを蓄え、中華服をまとう老人(背負ったかごの中に山菜や果実の類がたくさん入っている)は、信じられないものを見るように、目を見開いて悟空を凝視していた。
悟空もまた、信じられないものを見るように彼を見上げていただろう。
その老人は、とっくにもういないはずだ。
他の誰でもない悟空が幼少の時分に、満月の夜に大猿に変身して、理性のないまま踏みつぶしてしまったのだから。
パオズ山を出た後、彼とは二度ほどあったことがある。
一度目は、占いばばの館の格闘戦で。
二度目は、燃え盛るフライパン山の炎を止める旅路で。
だが、それ以降、悟空は老人に会ったことはない。悟空があの世にとどまる決意をした時には、老人は転生を受け入れてあの世を離れてしまっていたからだ。
悟空が真実を知ったころには、すべてが手遅れになってしまっていたのだ。
今、その老人が悟空の目の前にいる。何より、あのころとは決定的に異なるものがある。それは、頭上に浮かぶ光の輪――死人の証が存在しないことだ。つまり、生きているということだ。
悟空は、その老人の名を覚えている。
孫悟飯。悟空に名を与え、孫としてかわいがり、武術の基礎をたたき込み、生き方を教えてくれた、たった一人の祖父だ。
「じ、じっちゃん・・・」
「おぬし・・・まさか、悟空か?」
かすれた声で呼んだ悟空に、悟飯老もまた呼び掛けてきた。おずおずと悟空がうなずくと、悟飯老はつんのめるほどの勢いで悟空に飛びついた。
その皺だらけで節くれだち、拳法家特有の固い腕が呆然とする悟空をしかと抱きしめる。
「悟空・・・悟空や・・・またお前に会えるとは・・・!」
その声が涙声であることに、悟空は真っ先に気が付いた。
何がどうなっているのか。訳が分からないことばかりだったが、これだけは確かだった。
悟空もまた、悟飯老に会いたかった。
だから、彼はそのふくふくした短い腕を、老人の背に回した。
とりあえず、いつまでもそうしているわけにはいかないと、悟飯老は悟空を連れて歩き出した。行先は案の定、悟空の記憶にあるあの庵だった。
記憶にあるそれよりもかなり新しい様子のそれに、悟空は目をしばたかせた。
悟飯老が生きていることといい、何かがおかしい。
そしてそれは、悟飯老が笑いながらも涙目で差し出してきた餡饅を味わいつつ(嫁のものに負けず劣らず美味しく、懐かしい味がした)聞かされた話によって、確信へと変わった。
悟飯老によると、悟空は昔――10年ほど前に崖から落ちて死んだ悟空と名付けた子供にそっくりなのだという。しっぽが生えていたためか、パオズ山に捨てられていたその子供はたいそうな暴れん坊で、ある日目を離した時に崖から落ちて頭を強く打った。そして、そのまま死んでしまったのだという。
だから、悟空を見た時、死んだ子供が大きくなって戻ってきたと思ったのだ、と。今度こそ間違えない、やり直して見せると思ったのだ、と。
悟空はと言えば、自分の状況を素直に言おうと思った。元来、悟空はあまりしゃべるのが得意ではない。小難しい言葉は苦手だし、しゃべるより体を動かす方が得意であるからだ。(そういうことは、ピッコロやベジータ、ブルマなどの他の者の役目だ)
それでも、たどたどしくであろうと、彼なりに話そうと思ったのだ。
だが、できなかった。自分の名前を言って、直前まで何をしていたか、どこから来たか、そういうことを話そうと思うと、とたんに声が出なくなったのだ。無理やり抵抗して話そうとすると、最終的に舌を噛んで悶絶する。
悟飯老は、そんな悟空の状況を見かねたのか、無理に話さなくていい、行き場がないなら自分と暮らさないか、と言ってくれたのだ。
悟空は考えた。
おそらく、自分は平行世界の過去に来てしまったのではないか。
平行世界については、悟空も多少なりと知識がある。未来から来たトランクスとセルのいざこざの時、息子やブルマがわかりやすく説明してくれたためだ。
だが何故?タイムマシンが使われたという感覚もなかったし。
思考を巡らせる悟空は、一つの引っ掛かりにたどり着く。この世界に放り出される直前に聞いた、謎の声。あの声の主の仕業では?
そこまで考えたところで、悟空の腹の虫が高らかに空腹を告げた。
やはり己は生きているらしい。怪獣のいびきのような腹の音に仰天する悟飯老に、悟空は力なく笑って飯をねだりながら、この家にいたいことを告げた。
とりあえず、ほかに行き場も思いつかなかったのだ。どうすればいいかは、おいおい考えていけばいい。
満面の笑みを浮かべた老人が、すぐに食事の支度にとりかかってくれた。
悟空が、平行世界の過去に飛ばされたと判断してから、翌日。
手刀を振り下ろす。渾身の気をまとわせた一撃だ。
切り株の上にのせていた丸太の一部がスパンッと割れる。悟空は現在、薪割をしていた。
おかしい。悟空は息を切らしながら思う。
そう。息を切らしているのだ。たかが薪割で。
悟飯老と生活するようになり、かつて同様に家の手伝いをしようと申し出て、快諾された。
薪割ができるかと聞かれたので、簡単だと答え、実行しようとした。
本当に楽勝だったはずだ。丸太を空中に放り投げ、こぶしと蹴りで叩き割ってやればいい。ほんの数秒で終わるはず。
だが、そこからがおかしかった。まず丸太が持ち上がらない。(パオズ山の木々がいくら巨木と言えど、悟空なら軽々であるはずなのに)
仕方なく、こぶしをたたきつければ、きれいに真っ二つにならないので、やむなく手刀を用いているが、それもかなりきつい。丸太がこんなに硬いものと感じたのは、かなり久しいことだった。そもそも、そのころは薪割には斧や鉈を使っていたのだ。素手を用いるようになったのは、修行を積んで強くなってからだ。
これではまるで。
「弱くなってる・・・?」
モミジのような手のひらを見下ろして、息を切らしながら悟空は愕然と結論を口にした。
急ぎ薪割を終わらせ、そのまま体を動かして確かめた。
まず、超サイヤ人になれない。最強形態の4はもちろん、基礎形態の1にすら。(このため、瞬間移動は確実に使えないだろうと思われる)
界王拳も使えない。そもそも気を高めようにも、自分の中にある気がごっそりと失われたように、一定以上に(まるでろうそくの火のように!)高まらないのだ。
舞空術は使える。ただし、微々たるものだ。地面からほんの数センチ浮かぶ程度で、速度も歩く程度がやっとだ。これなら走った方が断然速い。
かめはめ波を含めた気功波全般も使えるが、こちらも威力が激減している。かつてはその気になれば地球を粉砕できたそれも、鉄板に拳大の穴をあけられるかどうかの威力しか出ない。
元気玉に関しては分からないが、おそらく使えないだろう。なぜわからないかと言えば、試していないからだ。かつて、この技を伝授した界王も忠告したとおり、元気玉は非常に制御が難しく、危険な技だ。使い方を誤れば簡単に星を破壊できる。(それも気功波よりも確実に!)失敗覚悟で使うには、リスクが大きすぎる。
身体の基礎能力についても低下している。力、スピード、気。日々の修行で鍛え上げたそのほとんどが失われている。
例え、肉体が子供に戻ってしまっても、そのすべてが失われたわけではなかったというのに。
これではまるで。
本当に、この肉体の年齢の頃の強さに引き戻されたようではないか!
愕然と悟空は自分の掌を見つめた。
どうなっているのか。
『状況はご理解いただけたようですね?』
突如耳朶に落とされた声。男とも女ともつかない、あざけるような声音だ。悟空はその声を知っている。この世界に飛ばされる直前に聞いた、あの声だ。
まったく気配を感じなかった。
はっと悟空は勢いよく振り向いた。
いつの間にか、悟空はパオズ山の庵の庭先から、まったく別の場所に立っていた。
新緑の草木に彩られた庭園、そこに立つ白亜の東屋の前に呆然と立っていた。
東屋の中にあるテーブルセットにいる者を見て、悟空は眉をひそめた。
なんだあれ?
悟空も、散々色々見てきたはずだ。妖魔の類、神仙、異星人、あの世もこの世もひっくるめ、奇怪なもの珍しいことは見聞きしてきた。
だが、目の前のそれは、悟空の中にある知識のいずれにも該当しなかった。
おそらく、神仙の類だろうと思うのだが。
瞬くするたびに、ころころと姿が変わる。目は当てにならないと、気を探ろうとしてみれば、全く感じられない。だが、そこにいる。それは確かだ。
「とりあえず、こちらに来てみてはいかがです?」
無数の触手と目玉を携えた、言いようのない化け物じみた姿になったそれが、触手の一つで手招きしてきた。
警戒を解かずに(今の弱くなった自分では何の足しになろうか!)、悟空はのろのろと階段を上がり、東屋のテーブルに近寄った。
「おめえ、何だ?」
「何、と来ましたか。誰、ではなく。
聞き及んでいた通り、面白い方ですね」
悟空の問いかけに、ウサギの獣人じみた姿になったそれが、小さく笑った。
「ああ、自己紹介が遅れました。私は狭間の邪神、ザハと申します。
“オッス”です、悟空君」
今度は褐色の肌に白い髪に、肌もあらわな踊り子のような格好になった女が妖艶に笑う。
悟空は、「・・・オッス」と硬い声であいさつを返した。
悟空の挨拶のやり方を知っている。ますます妙だ。
狭間の邪神、ザハ?
界王神や、老界王神ならば、何か知っているだろうか?
「とりあえずおかけになってください。紅茶は飲めますか?」
体中鱗まみれの蛙と魚を足して二足歩行にしたような奇怪な姿になったザハに、悟空は「おう」と短くうなずいた。
紅茶。ブルマの家とか、長男がもらってきたとかで、たまに飲んだことがある。もっとも、悟空はよすぎる嗅覚のせいで匂いがきつく感じられ、あまり得意ではない。
悟空の家では、もっぱらウーロン茶や麦茶、あとは妻が摘んできた野草をもとにした薬草茶だった。
もっとも、目の前のカップに注がれたそれは、悟空が嗅いだことがない匂いだった。癖があまりないように思った。
「ダージリンです。紅茶の中では飲みやすいですよ。ミルクとレモン、砂糖はお好みで」
今度は巨大な昆虫じみた姿になったザハの言葉に、悟空はスライスレモンを紅茶に落とした。長男がもらってきたやつに、レモンを淹れたらいいと妻が教えてくれ、実践したらだいぶ飲みやすかったことを思い出したのだ。
一口飲むと、すっきりした香りで、少し気分が落ち着いた。
同時に目の前に木皿に敷かれたデザインペーパーの上に、山と乗せられた焼き菓子が出された。確か長男の嫁(義娘というべきか)やブルマが何度か食べさせてくれた菓子だ。なんといったか。
「ラスクと言います。物足りないでしょうが、腹の足しにでもしてください」
そうそう。そんな名前だった。
猿のような小男になったザハの言葉に、悟空は「じゃ、もらうな!」とあっさりと言って手を伸ばした。
もし、この光景をベジータやピッコロ辺りが見れば、「危機感が足りない」「餌付けされるな馬鹿め」と吐き捨てたことだろう。
もちろん、悟空にも言い分はある。悟空の予想が正しいなら、目の前のこれは、その気になれば悟空など指先一つであっさり殺せるだろう。
そんな存在が、わざわざ食べ物に何か仕込むとは思えなかったのだ。
それに、悟空も慣れない状態での薪割と自分の体の調子の確認がてらいろいろ動かしたので、確かに腹が減っていた。
だが、祖父の作った夕食も楽しみだった。だから、このくらいでちょうど・・・いや、全然足りない。空腹の刺激にしかならない気もする。
木皿が空になったところで、大きな腹の太った貴婦人のような姿のザハが、口を開いた。
「では、本題に入りましょうか」
「本題?」
ラスクのかけらで汚れた指先をぺろぺろとなめながら(嫁が見たらはしたない!と怒るところだ)問い返した悟空に、真っ青なクマのぬいぐるみじみた格好になったザハがうなずいて口を開く。
「君をこちらの世界にお呼びしたのは私です」
しれっと落とされた爆弾に、悟空は息をのむと同時に、やはりそうかと声にも出さずに思う。
「その身に同化していた神龍を引っぺがし、その力に封印をかけ、こちらの世界に放り込みました」
「何でそんなことしたんだっ」
自然とまなざしと口調が険しくなる悟空に、漆黒の神父服に身を包んだ長身痩躯の神経質そうな男姿のザハが肩をすくめる。
「頼まれたんですよ。このままだとこの世界が終わってしまうから、と」
「世界が、終わる?」
「はい」
問い返した悟空に、ふわふわのレースとフリルをたっぷり付けた白い服の童女姿となったザハがうなずいて続けた。
「君もご存じの通り、この世界では“孫悟空”あるいは“戦闘民族サイヤ人の下級戦士カカロット”は亡くなっています。
ですが、このままだといくつか不都合が生じ、最終的に世界がなくなってしまう。その可能性が高いんですよ。それは困るから何とかしてほしい、とね」
「なんでオラが死んだら世界が滅びるっちゅう話になるんだ?」
そこが分からず、悟空は首をひねった。
鉤鼻でしわくちゃの老婆のような姿となったザハが、くつくつと笑いながら続けた。
「おや、簡単なお話ですよ。よく考えてごらんなさいな、悟空君」
骨と皮だけの枯れ枝のような指先で、ザハは悟空を指さしながら笑っていった。
「君がいないなら、誰が魔人ブウと戦うんです?」
「あ!」
「バタフライエフェクト、という言葉があります。
蝶の羽ばたきが世界の裏側で竜巻となる、という気象学者ローレンツの研究における提言からですが、まあ要するに些細な出来事がその後に大きな差異をもたらすということですね。
君にわかりやすい一例を挙げるなら、未来からやってきたトランクス君によって、絶望の未来を回避するきっかけが作り出された、というところでしょうか?
トランクス君がやったのは些細なことです。君を心臓病から助ける、その一点ですから。
ですが、そこから歴史は大きく変動しました。来るべき絶望の未来は訪れず、冷酷なる双子の人造人間はおとなしくなり、究極の生命体セルの来訪とその撃破、死ぬべき者たちはたったの一人を除いて生き永らえた。そのたったの一人すら、のちに生き返りました。
トランクス君の来訪とあなたの救命が、すべてのトリガーです」
つらつらと述べるザハは、今度は白衣に眼鏡をした緑色の髪の青年姿をしている。
その語る言葉は長ったらしく小難しいことではあったが、悟空はパラレルワールドのことだろうか、とどうにか当たりを付ける。
確かに、悟空がヤードラットから帰ってきた20年後は、絶望なんて言葉は程遠いのどかな世界が広がっていたのだから。
それにしても、トランクスのこと知っているとは。
「おめえ、トランクスのこと知ってんのか?」
「ええ。彼だけではありません。君のたどってきた道行は、一通り拝見させていただいたつもりですよ、孫悟空君」
・・・まさか、こいつはドクターゲロがそうしたように、ひそかに自分を見張っていたのだろうか。
悟空の視線が胡乱気なものになったのを察したか、青いシスター服になった女性姿のザハは、ネコ目を細めて笑う。
「ああ、ご不快にさせてしまったならば謝罪します。私はまあ、ほかの次元や時間をいろいろ見て回ることを生業にしていますのでね。その過程で君のことを見ることがあったんですよ」
もし、ザハのこの言葉を時の界王神が聞こうものなら、物は言いようね、と吐き捨てたことだろう。
「話を戻しましょう。
君のいない歴史は、かなりの物事が変動してしまい、本来の歴史からは完全に逸脱した分史――
ですが、先ほども言ったとおり、その場合どのような道をたどろうと、最終的に復活した魔人ブウに宇宙が荒らされ、界王神も殺されて宇宙の循環システムが停止、崩壊、宇宙世界そのものの消去へ至るでしょうね」
「いい?!そこまでか?!」
「界王神君は、君が思っている以上に重要なポストにいるんですよ。彼が死んだら、宇宙は停滞からの緩やかな壊死に至ります」
顔を引きつらせる悟空に、等身大のクラゲのような姿となったザハは、ゼリー状の体をプルンと揺らしながら言った。
「本来、魔人ブウのようなものが出現したらなんとかできる方もいらっしゃるのですが・・・彼は職務怠慢甚だしいのですよ。彼を待ってたら、先に界王神君が死んで宇宙が消えますのでね。
それは困るので」
「彼? そいつ、どんな奴なんだ?」
「それは、秘密です♪
もしかしたら、後々会う機会もあるかもしれませんからね。お楽しみは取っておくものです」
悟空の問いかけに、ザハは二足歩行しそうな等身大のカラスらしき姿で、くつくつと笑う。
「で、話を君のことに戻しまして。
先ほど、この世界における孫悟空は亡くなっているという話をしましたが、実はそれも手違いだったりするんですよ」
「へ?手違い?」
「時間犯罪者ってわかりますか?歴史を変えるというのは、本来世界を滅ぼしかねない非常に危険行為なんです。だから、一般的には禁止されているんですよ。
すっごくざっくり言いますと、歴史を変えると一種のエネルギーが生み出されるんですが、それをさらに悪用して悪いことをしようとする連中がいるんです。
で、彼らが目を付けたのが君です。君を殺してしまえば、その後の時間は大きく変動して、莫大なエネルギーが得られると踏んだんですね。
だから、孫悟飯氏の目を盗んで、けがで苦しむ赤ん坊の君にとどめを刺したってわけです。
彼らの見立ては正しいでしょうね。大小さまざまな事象が変動し、歴史は全く違う方に転がってしまうでしょう。
その結末が魔人ブウをきっかけにした宇宙世界そのものの消滅に収束していようとも」
「オラが?なんでだ?」
ぱちくりと目をしばたかせ、悟空は首をかしげた。
今も昔も、自分は思ったように思ったことをやっているだけだ。たいしたことなんてみじんもやっていないのに。
「うーん・・・まあ、自覚がないってのはいいことなんですかねえ?
とりあえず、一つ一つ説明していきましょうか」
眼鏡をかけた妖艶な美女になったザハは、くるりと手を一振りした。途端にテーブルの上に光る玉が出現する。
「時系列順に話していきましょうか。
まず、孫悟飯氏はもう少し長生きなさるでしょうね。踏みつぶされませんから」
「・・・おう!」
吾知らず、悟空は嬉しく声を出してしまう。
大好きな祖父を踏み殺した怪物の正体が、実は幼少の自分自身だった。これほどショックなことはない。知ったときは、ベジータとの戦いの真っ最中で、それどころではなかったが、その後入院した病院の病室で悟空はひそかに悔いたのだ。もし、あの世に行って祖父に会えたら謝らなければ、と。
自分がいなければ、祖父は死なずに済んだかもしれない。それを思えば、やはり自分は死んだほうがよかったのだ。
別の時間のこととはいえ、そういう未来もあるのだな、と少し悟空は嬉しく思ってしまった。
だが、次に聞かされた言葉に、悟空は頭の中が真っ白になった。
「ただし、ブルマ君は早死になさるでしょう。最初のドラゴンボール探しの旅で、頼りになるボディガードに出会いませんから、どこかで野垂れ死にされる可能性が極めて高いです」
「あ!」
そうだ、ブルマ!出会ったばかりのなよっちい彼女で、己がそばにいないのであれば、確かにどこかで死んでいてもおかしくない。あの旅もわくわくしたが、それなりに危険だったのだ。
声を上げる悟空に、同い年くらいの少年姿となったザハが、テーブルに頬杖をついて続ける。
「まあ、運良く生き延びられた可能性もありますがね。
その後、数年内の問題としては・・・そうですね、レッドリボン軍が壊滅しませんから、ジングル村で虐殺が発生する可能性があります。人造人間8号ことハッチャン君も、言うことを聞かない役立たずとして処分されるでしょう。
ドラゴンボールを渡さない反抗者として、聖地カリンのボラ君とウパ君の親子も殺されるでしょうね。もちろん、ドラゴンボールによる蘇生もされません。
殺し屋の桃白白君も野放しですので、彼に殺される人間も増え続けます」
ザハの言葉に合わせて、テーブルの上の光の玉がちらちらと名を挙げられた人物の映像や光景を映し出す。
「そ、そんなにか?!」
「何言ってるんですか、まだ序の口ですよ」
「へ?!」
「お忘れですか?レッドリボン軍壊滅のおおよそ3年後、ピッコロ大魔王君の復活があるんですよ?」
「ああ?!」
忘れもしない、人生で初めて殺意を覚えた相手の名前を挙げられ、悟空は声を出した。
そうだ。ピッコロ大魔王も悟空が倒したのだ。
「とりあえずクリリン君が亀仙人君の弟子入りは確実として、武道会会場でそのまま殺されるのはないでしょう。あれは悟空君が持っていた
もっとも、いずれ魔族の手にかかったとは思いますがね。
あの時、武道寺からは天下一武道会出場者の出場記録の名簿も盗まれ、それをもとにピッコロ大魔王君は武道家の虐殺も行っていました。よほど魔封波を使う可能性のある武道家が出てくるのを恐れていたのでしょう。
となれば、クリリン君もいずれ魔族の手にかかったことでしょう。
亀仙人君はご存じの通り、ピッコロ大魔王君復活を察すれば、その阻止のために魔封波を使用するでしょうが、失敗からの死亡はほぼ確実です。
いずれにせよ、ドラゴンボールによってピッコロ大魔王君は若返ってしまうでしょうから、打つ手なしですね」
「天津飯は?!あいつも魔封波を習得してたはずだ!」
「何言ってるんですか。彼がそんなことするわけないでしょう?
君がいないのに、彼が殺し屋志望の鶴仙流を抜けるわけないじゃないですか」
「へ?何でだ?
そりゃ、天津飯は最初あった時はヤな奴だったけど、天下一武道会の決勝戦が終わったときは、いい奴になってたぞ!」
「・・・君のそういうところは、尊敬に値するんでしょうねえ。
あ、いまさらですが、ヤムチャ君も多分、改心しませんね。砂漠でちんけな盗賊のまま終わる可能性が高いです。
ウーロン君も、スケベな小悪党のまま終わるでしょう」
「だからなんでだよ!みんないい奴じゃねえか!」
「だから君がいないからですってば。
君と会ったことで影響を受けて、彼らは変わられたんです。君はきっかけに過ぎないかもしれませんが、きっかけがなければ変化は訪れません」
ため息をついて鳥の羽じみた両腕のうち、右手で頭を押さえて見せるザハ。両腕が鳥の羽になっていること以外は、人間の女性のような姿だ。
「話を戻しまして、ピッコロ大魔王君が地上を荒らし続けるのはほぼ確定でしょう。
地球の神君がどうにかなさるかもしれませんが、うかつにちょっかいを出すのは悪手ですしねえ。神が死んだら地球上が無法地帯になるというのは、トランクス君が来た絶望の未来が証明なさっていますしねえ。
あれは、地球の神君が死んだのも荒廃の原因の一つなんですよ」
「そうなんか」
悟空は、己の恩人に思いをはせた。
未来から来たという礼儀正しい青年は、セルを倒したと律義に報告しに来てからは、二度とこちらには来ていないらしい。(らしいというのは、その期間悟空は死んでいて、のちに上の息子から聞いたのだ)
自分の知る現代のトランクスが、まさか彼のような礼儀正しい青年になってしまうとは思わなかったが。(若干さぼり癖があったようだが、許容範囲だろう。彼の生真面目さに甘えていろいろ振り回してしまったし)
あの未来も、少しはましな世界になっただろうか?死んでしまったという己の息子の分も、あの青年に幸せがあればいいのだが。
「ですので、君の知るピッコロ君は生まれません」
「ああ・・・そっか、そうだよな」
黒髪を二つ分けにして、前歯のない少女姿になったザハの言葉に、悟空はうなずいた。ここまでくれば、もういちいちショックは受けていられない。
「あのピッコロ君は、君がピッコロ大魔王君を倒した際に、今際の彼が残した分身です。元は。
彼が倒されなければ、その分身が生み出されるきっかけもなくなってしまいます。
ああ、当然ドラゴンボールもありません。地球の神君はピッコロ大魔王君が破壊したのを機に、ドラゴンボールを破壊されたままにしようとなさってましたからね。君の嘆願がなければ、当然それもそのままです」
つらつらと述べるザハは、ざらざらした砂の塊が人型を取ったような姿となっていた。彼女はなおも、続ける。
孫悟空がいないだろう場合の、絶望的ともいえる時代の変遷を。
「さて、次に来るのは」
「・・・ラディッツ、だよな?」
「はい。君の兄君ですね。彼は苦心する地上げ業に手を貸させるよう、君を探しに来られるわけですが、まあ、たぶん地球そのものに対してはあまり大きな被害が出ないと思いますよ?」
「・・・オラがいねえからか」
「はい。彼はスカウターで君を捜索なさっていましたから、戦闘力の大きさからピッコロ大魔王君を誤認して、彼を腹立ちまぎれに殺すか痛めつける可能性はありますが、たぶんそれだけで終わらせるでしょう。
ドラゴンボールがありませんから、それを狙ってお仲間のベジータ君とナッパ君が地球に襲来なさることもありません。
連鎖的にフリーザ君にドラゴンボールの情報が伝わることもありませんから、ナメック星における虐殺は起こらないでしょうがね」
「そっか・・・あり?そうすると・・・」
「フリーザ君は野放しで、宇宙の帝王続行ですね。ベジータ君も彼の下っ端の悪党続行です」
「ベジータが・・・そっか・・・あいつ元々はそういう奴だったもんなあ・・・」
白い肌のブリタニアンスタイルの青年姿となったザハが優雅に紅茶のカップを持ち上げて口づけるのをよそに、悟空は視線をさまよわせる。
あの最後の戦い。
そうでなくとも、息子と娘をかわいがり、妻を大事にして、すっかり穏やかさを身に着けていた彼も、元々は残忍な悪党だったのだ。すっかり忘れてた。
そこで悟空はハタと気が付いた。
「あ!ブルマとトランクス!ブラ!」
「はい。ブルマ君は、最初のドラゴンボール探しからどうにか生還できたとしても、ベジータ君が地球に来ませんから、そもそも知り合いません。
お二人の子供であるトランクス君とブラ君は自動的に存在が消滅します。そもそも生まれません」
「そ、そんなあ・・・」
生まれるはずの命がそもそも生まれない。ピッコロに引き続き、さらに増える。悟空の声が震える。
「で、トランクス君というと思いだしませんか?フリーザ君とのひと悶着の後起こる出来事があるんですよ?」
「人造人間とセルか!」
「はい。レッドリボン軍は健在でしょうから、ドクターゲロも当然健在です。君への復讐という目的は、レッドリボン軍の世界征服という目的にシフトしているでしょうが、その行いは変わらないでしょう。すなわち、人造人間シリーズの建造です。
ただ、その行く末は変わらないでしょう」
「・・・暴走か」
青白い肌に蝙蝠じみた翼を背に持った奇怪な青年姿となったザハに、どうにか気を取り直した悟空が答えた。
「おそらく。17号君と18号君辺りがゲロ君とレッドリボン軍の幹部を殺して、虐殺スタートです。
ピッコロ大魔王君がラディッツ君に殺され切ってなかったとしても、おそらくここで彼も死ぬでしょう。自動的に地球の神君も死んで地上は無法地帯化してめちゃくちゃになります。
ですが、絶望の未来とは決定的に異なる部分があります。わかりますね?」
「・・・トランクスと悟飯がいねえ」
「はい。対抗する存在がいませんから、ますます増長・暴走することでしょう。
ちなみに、おそらくセル君も制作されているでしょうが、君の知るあれよりもだいぶ弱いと思いますよ?」
「なんでだ?」
首をかしげて悟空は問いかけるが、一拍考えてすぐに結論にたどり着く。
「あ、そうか。オラやベジータとかのサイヤ人がいねえし、フリーザとその父ちゃんが地球に来ねえから、その細胞が手に入らねえ。それから作られてるっちゅうセルも、弱くなっちまうんか」
「はい。まあ、ピッコロ大魔王君由来の再生能力くらいは手に入るかもしれませんが、例によって暴走して制御なんてできないでしょうねえ。
手に負えないものを作るなんて、地球人はおバカさんですねえ」
「そりゃレッドリボンとかの連中だけだろ。ブルマは天才だぞ!」
なんだか自分の仲間まで馬鹿にされたような気がして、悟空はむっと口をへの字に曲げて抗議した。
とりあえず言ったのはブルマだが、ほかの仲間だって!全然馬鹿なんかじゃない!
「お気に障られたのでしたらすみませんね。
まあ、そうして地球上が荒らされまくっても、最終的にはバビディ君たちがやってきて、魔人ブウが復活、地球どころか東西南北の銀河、あの世もこの世も含めてすべてがめちゃくちゃにされ、宇宙のシステムそのものが停滞、再構築より消去の方が早いと判断されてしまうんですよ。
ですが、それをされるとよそに被害が波及してしまうので、何とかしてほしいと頼まれまして。
で、君に何とかしてもらおうとなったわけです」
「何とかって、具体的にどうすりゃいいんだ?」
このままではまずいのは悟空にもわかった。だが、肝心のどうすればいいのかがよくわからない。
「簡単ですよ。このままできるだけ君の記憶にある歴史をなぞって、魔人ブウを倒してください。
そのために力も封印させていただいたんですから」
「さっきも言ってたな。なんでだ?」
せっかく鍛え上げた力が台無しだ、とにらみつける悟空に、目に痛いピンク色のドレスの女性姿となったザハがにっこり微笑む。
「君、強すぎです。ワンパンとか舐めプとかでさらに歴史変えたら、時間犯罪者が調子に乗られて、私は文句を言われるので。それは面倒なんです。
まあ、修行したら封印は解けていきますのでね。がんばって鍛えなおしてください。
基本的な流れを守っていただけたら、多少は文句言いませんし、言わせませんから」
「ええっと・・・」
「具体的には、クリリン君とかボラ君とか君のおじいさんとか、死んでしまう人をそのまま死なせろとか言いません。君、絶対それ嫌がるでしょう?阻止するでしょう?だから、それについては文句を言いません。
ただし、倒す敵の順番を変えたり、修行にならないからといきなり宇宙に飛び出したりということはやめてください。
歴史が大幅に変わったら、フリーザ君がさらにパワーアップしたり、セル君がとんでもない化け物中の化け物になるかもしれません。苦労するのは君とその仲間です。
ドラゴンボールの蘇生回数も限度があるんですから、自重なさってください」
ここで、ザハは金髪に眼鏡をかけ、袈裟をまとった青年の僧侶姿となって一息つく。
「もちろん、報酬はご用意いたします。魔人ブウを倒したら、お好きなように人生をお過ごしなさってください。もっと強くなりたいと修行しようが、家族のために働いて奥様といちゃつこうが、お好きになさってください。
ぶっちゃけたことを申し上げますと、君が過ごしていた時間軸はかなりイレギュラーなものなんですよ。
時間犯罪者たちがばらまいたマイナスエネルギーが直撃した世界線でして、本来であれば究極のドラゴンボールの起動やツフル人の遺産である寄生生物兵器に、地獄の蓋開きはともかく、邪悪龍の覚醒はあり得なかったんですよ」
「オラたちがドラゴンボールを乱用したからじゃねえんか?」
「何言ってるんですか。何のためのドラゴンボールの1年の失効期間なんですか。
ドラゴンボールにたまるマイナスエネルギーは本来1年程度ですぐに発散されるものなんですよ。
あの当時タイミング悪く、時間犯罪者たちとタイムパトロールが超大決戦を繰り広げてまして、その余剰エネルギーがもろにあの世界線に直撃なさってたんですよ。
邪悪龍の覚醒はそのせいです」
「・・・要するに、なんか本来は起こらねえはずのことが起こっちまったってことか?」
「はい。おかげで君が今までいた世界は
仰天なさってましたねえ」
「誰がだ?」
「顔なじみの方が、ですよ。機会があったら顔を合わせることもあるかもしれませんので、この話はこの程度にさせてください」
そうして、ザハは黒髪に眼鏡に黒服の美女姿になり、悟空を見やって妖艶にほほ笑む。
「事後承諾にはなりますが、まあそういうわけですので、がんばってください。
拒否したければ死後に閻魔大王君の御前で私の名前を呼んでいただければ、元の世界にお戻ししますよ。この世界がどうなってもよければ、という但し書きが付きますがね」
「オラ、別に嫌なんて言ってねえよ?そりゃ、一から鍛えなおしってのはがっかりしたけどさ、また強え奴との戦いをやり直せるんだぜ!わくわくすっぞ!」
悟空は首を振って、ニカッと笑ってこたえた。
確かに弱くされたことはショックだったが、考えてみれば強敵たちを強敵と感じるままにやり直せるのだ。今度は単身で勝てるように修行だってやり直せる。悪くない話だ。
今の自分なら、より効率のいい鍛え方だって知っているのだ。同時期の自分よりも、苦戦してしまった強敵たちよりも、強くなれる可能性だってある。
ザハは眼鏡の奥で目を見開いてから、クスリッと柔らかな笑みをこぼした。
「まったく。それだから、君とかかわった人々が大きく変化していくんでしょうね。面白い方です。
あと、究極のドラゴンボールの影響は私の方で解除して、年齢を少しいじっておきましたので、今後は普通に成長していきます。現在の君は10歳です。ブルマ君がいらっしゃるまであと1年ほどですね。
それでは、がんばってください。孫悟空君」
そろそろ終わりかと察した悟空は、紅茶を飲み干してから、椅子から飛び降りた。
途端に白亜の東屋と新緑の庭園は掻き消え、パオズ山の庵の庭先に戻っていた。
『そうそう。言い忘れていました』
どこからともなく聞こえてきたザハの声に、悟空は耳を澄ませた。
『君があちら側の世界で経験したことと私に関することは基本的に言えなくしています。うっかり君が口を滑らせて、それがきっかけで歴史が変わってはいけませんからね。
あと、君が頑張らないと、奥様とも結婚できませんし、そうなるとお子さんたちも生まれませんから、そのあたりも頑張ってください』
「ああっ?!」
今度こそ、悟空は声を上げていた。
チチ!嫁とも結婚しなければならないのだ!自分としては異論はない。というか、チチじゃないとだめだ。だが、できるだろうか(自分はいわゆるダメ夫の類に入るのは重々承知だ)。息子二人始め、周囲が口をそろえて言うには、自分と嫁はいろいろハチャメチャすぎて、恋愛の仕方が参考にならないとかなんとか。
ま、いっか。なんとかなるだろ。生来楽天家の悟空は、一拍ののち、そう片づけた。
『あ、もう一つ』
まだ何かあるのだろうか?まだ聞こえるザハの声に、悟空は首をかしげた。
『先ほどまでの君との会話は、おじいさんにも聞こえるようにしてましたので、ちゃんと話し合ってください。サービスです。
おじいさんに対してのみ、会話制限を解除してあるので、好きなだけご相談なさってください。
ただし、おじいさんの方にも君以外の人間に対する会話制限を設けさせていただきますがね』
さあっと悟空は血の気が引くのを感じながら、庵の方を振り向いた。
戸口に立つ孫悟飯は静かな表情で悟空を見ている。
『それでは、よい人生を』
それっきり、ザハの声は聞こえなくなる。
パオズ山の春風が、二人の間を吹き抜ける。
空気の中に感じるわずかな湿り気に、悟空は思考の片隅で、雨が降るかもしれない、とぼんやりと思った。
ややあって、悟飯老がにこりとほほ笑んだ。
「薪割ご苦労じゃったな、悟空や。腹が減ったじゃろう。飯にしよう」
「・・・あ、ああ」
コクリとうなずいて、悟空は悟飯老の後に続いて庵の中に入った。
続く
※逆行悟空の特徴
ゲーム的に言うと、レベル・スキルがリセットされてニューゲームとなっている状態。
ただし、プレイヤースキルや効率いいレベルの上げ方、攻略法などの知識は健在。
気の扱い方なども、最初から心得ている。(総合量が減っているので、できることは微々たるもの)
界王拳、超サイヤ人なども、修行を重ねてそれにふさわしい力量が付けば、解禁していけるはず。
Q.孫悟空死んだなら、ドラゴンボールで復活させればいいのでは?
A.子供の死者は比較的転生までの期間が短いうえ、こちらの悟空に関しては時間犯罪者たちが念入りに魂レベルで消滅させているので、復活させようがないのです。
なので、すでに人生を終えた孫悟空(独立パラレルワールド出身で、魂ごといなくなっても正史に影響が出ないだろう存在)が呼ばれて、代役に据えられたというわけです。
弟君が言ってました。「超の悟空はなんか違う。原作とか、ZやGTの悟空はもっとクレバーなんだよ。超合理主義なんだ。戦闘馬鹿なのと言葉づかいとかで分かりにくいけど。あと、GTの悟空は訛りが強すぎ」と。
なるほどなあ、と思いました。
じゃあ、その超合理主義の悟空で(訛りは多少直して)、DB超をやらせようぜ!俺、超サイヤ人4のデザイン大好きだから、そっちも出番持たせようぜ!
行きつけるかなあ。