GT後の悟空が逆行して超ルートに入る話   作:亜希羅

3 / 14
 ドラゴンガールズ一人目ことブルマさん登場。

 無印の彼女は頭いいけど、ドジなところも多くてそこも魅力的だと思います。


2.孫悟空、二度目の旅立ち

 

 とりあえず、たっぷりの夕食を満足ゆくまでかっ込み、悟空は一息ついた。

 

 小さな体と、未熟な力のせいもあるだろうか、成人していたころよりも少ない量(それでも十分大喰の域に入る)で済んだ。まあ、その方が祖父にかける負担は軽く済むのだろうが。

 

 食器を置き、祖父と一緒に持っていく。井戸端で汚れているそれらを洗って拭いてから、戸棚にしまったのち、改めて向き合った。

 

 何から話せばいいだろうか。

 

 悟空は逡巡した。前記したが、悟空は話すことは得意ではない。あれこれ考えることもできなくもないが、結局行動に移す方が簡単だからだ。

 

 だからと言うわけではないが、嫁もよく怒らせたし、姉のような初めて会った女性もよくあきれさせた。

 

 周囲は、ああ、お前はそういう奴だよな、とわかってくれたのだが。(長男曰く、あれはどっちかというと諦められている、とのこと)

 

 口火を切ったのは、悟飯老の方だった。

 

 「悟空や、先ほどのザハというものとお前の話は聞かせてもらった。

 ワシにはわからんことも多いが、これだけは言わせておくれ」

 

 ひたと、老人の目と、悟空の目が合う。

 

 「ありがとう」

 

 ひゅくっと悟空の喉奥が鳴った。

 

 「お前にとっては見知らぬ世界だろうに、それでもそのために戦おうと決めてくれた。

 お前やザハの口ぶりから察するに、お前はすでにたくさんの敵と戦ってきたんじゃろう?

 すまんな、また苦労させてしまう」

 

 「別に、礼を言われることじゃねえよ」

 

 優しく言ってくれた悟飯老に、悟空は首を振った。

 

 世界のためなんて、ほとんど後付けだ。いつだって悟空は自分の欲求に従って戦っている。強い奴と戦いたい。戦って、勝ちたい。根底にあるのはそれだ。もちろん、復讐に来たフリーザや、セル、魔人ブウ、ベビーたちがそうしようとした、あるいはそうしたように、家族やほかの人々を彼らから守るためというのもあるにはあるのだが。

 

 だが、ありがとうなんて。悟空は悟飯老にだけは、その言葉を言われたくなかった。

 

 らしくもなく、悟空は怖かった。この先を言葉にするのが怖い。

 

 あの究極のドラゴンボール探しの旅を終え、実は孫娘のパンとサタンを除いた家族を含めた地球人類すべてがベビーに洗脳されていたと判明した時も絶望感を感じたが、祖父に嫌われるかもしれないという想像も、同じくらい悟空の胃の腑をずしりと重くさせた。

 

 「じっちゃん、オラは・・・こっちのオラが死んだって聞いた時、ほっとしたんだ」

 

 「・・・そういえば、ワシのことを話すとき、長生きをすると言われて妙にうれしそうにしておったの」

 

 ザハとの会話を思い出したのか、怪訝そうに眉をひそめた悟飯老に、悟空はうなずいた。

 

 「オラがいたところのじっちゃんは、早死にしちまうんだ。オラの、せいで」

 

 そこから悟空は、話し出した。

 

 自分はサイヤ人という戦闘民族の異星人で、地球侵略の先兵として送り込まれたこと。本来であれば、頭を打った時に何とか息を吹き返すが、その衝撃でサイヤ人としての使命を忘れて地球になじむこと。

 

 ・・・サイヤ人の特性で、満月の夜に大猿となって理性を無くし、そのまま祖父を踏み殺してしまったこと。

 

 自分の兄を名乗る異星人がやってきて正体を告げられ、さらに兄の仲間が大猿に変身するところを見せられ、ようやくそのことを察したこと。

 

 本来は、セルの自爆であの世にとどまると決めた時、祖父に会いに行って真っ先に告白したいことでもあった。

 

 目の前の祖父は祖父ではあるが、悟空が謝りたかった祖父ではない。これは、悟空の自己満足だ。あれだ、ダイショーコーイ、ってやつだ。何かの時にブルマが言ってた言葉だから、使い方は間違えてないはず、と悟空は思考の片隅で思う。

 

 「満月の夜に、大猿に・・・」

 

 「じっちゃん、知らなかったんか?」

 

 「お前が死ぬまでの間に大猿になったところは見たことがないんじゃ」

 

 今ひとつピンと来ていない様子の祖父を、悟空は嬉しさと苦さが入り混じった複雑な感情で見やる。

 

 それを知らないということは、祖父が危険な目に遭わずに済んでいたということであり、やはりこの祖父は、悟空が謝りたかった祖父ではないのだ。

 

 そんな悟空をひたと見据えて、悟飯老は続けた。

 

 「悟空や。ワシからいえることはただ一つじゃ。

 きっと、もう一人のワシは恨んでも憎んでもいない。しいて悔いがあるとすれば、おぬしを一人にしてしまったことじゃろう。

 ワシだからこそわかる。同じことになれば、ワシもきっとそう言うじゃろう。

 ・・・辛かったな」

 

 そういって、悟飯老は悟空の小さな体躯を抱きしめた。

 

 「ああぁ・・・」

 

 ジワリと悟空の目に涙が浮かぶ。

 

 齢50を過ぎ、孫までいるはずの男は、今ばかりはその見た目通りに心まで戻ったように、老人にしがみついて泣き崩れた。

 

 「ごめんよ、じっちゃん!ごめん!ごめんなあ!オラ、オラ・・・!」

 

 「よいよい。好きなだけ泣け。もう一人のワシは幸せもんじゃな。これだけ孫に好かれておったんじゃから。

 おぬしは何一つ悪くない。悟空や、よう話したのう」

 

 そんな悟空の頭をなでながら、悟飯老は優しい声で言ってくれた。

 

 できるだけ歴史をなぞりながら、魔人ブウを倒す。そのためには、そこに行きつくまでの強敵も倒さなければならないし、封印されてしまった力を取り戻すための修行もしなければならない。

 

 考えることもたくさんある。

 

 でも、今だけは。

 

 悟空はただの子供に戻って、最愛の祖父にしがみつき、長いことそうしていた。

 

 

 

 

 

 その夜がきっかけだったのだろう。

 

 その翌日から、孫と祖父の距離は急激に縮まった。

 

 悟空は、自分が以前いた世界の歴史を詳しく祖父には告げなかったが、ザハとの会話を聞いていた祖父は、悟空が戦わない場合(正確にはいない場合)の歴史のシミュレーションをはっきりと耳にしており、戦うつもり満々の悟空に自分でよければと改めて修行を付けてくれた。

 

 体力をつけるための基礎修業はもちろん、組手も時々してくれ、それは悟空を非常に満足させてくれた。

 

 悟飯老とは以前の歴史の時は、占いババの館の格闘家勝ち抜き戦で手合わせしたが、尻尾を鍛えるのをさぼっていたため、窮地に追いやられてしまった苦い思い出があった。

 

 祖父の手も借りて尻尾も鍛えながら、悟空は刻一刻と近づく旅立ちの時――ドラゴンボールを探すブルマの来訪を待っていた。

 

 だが、その前に別の事件が訪れたのだ。

 

 満月である。

 

 

 

 

 

 悟空が自身のことを告白しても、基本的に生活リズムは変わらなかった。

 

 何しろ、この庵は人里離れたパオズ山の山奥に位置している。電気ガス水道といった文明の恩恵は存在しない。明かりはせいぜいろうそく、水は井戸水、火は火打石での手おこしといった具合だ。(悟空の場合、修練の一環で明かりと火おこしは気で行っているが)

 

 大体は日が沈んだらさっさと寝て、日の出とともに行動開始、というのが暗黙の了解であった。

 

 つまり、夜中に月を見ることなど全くと言っていいほどなく、こちらの悟飯老は大猿と化した悟空を見たことがないため満月の注意をうっかり忘れ、悟空本人も月齢を意識することをすっかり忘れていた。

 

 そして、悟空が気が付いた時には、手遅れだった。

 

 いつぞやと同じく、夜中催した悟空は庵の外に出て、そのままつい空を見上げてしまった。

 

 まん丸の月を見たところで、ふつりと記憶が途切れていた。

 

 次に悟空が意識を取り戻した時には、彼は月明かりの下、庵を見下ろしていた。

 

 地震だ!と叫びながら、寝間着で飛び出した悟飯老が悟空の名を呼びながら周囲を見回し、次の瞬間こちらを見上げて凍り付く。

 

 悟空はおずおずと自身の両手を見やった。

 

 ごつごつして、手首から下の腕と、同、足首を除いた両足はこげ茶の毛皮に覆われている。今なら、祖父をおもちゃの人形のようにつかんでしまえそうだ。

 

 パオズ山の峰が、自分の目線よりやや高い程度に見える。自分が大きいせいだ。そりゃそうだ、今の自分は大猿なのだから。

 

 やっちまった。

 

 大猿姿の悟空はポリポリと頭をかいた。

 

 以前と異なり、理性があるのはなぜだろうか。初めて超サイヤ人4になる際にも、大猿(ただし、こちらは黄金だったが)に変身したが、あの時は理性がなくて敵味方の別なく暴れまくったと孫娘が言っていたが、その記憶はまるでない。

 

 孫娘の呼び声が聞こえたような気がして、口の中に広がったしょっぱさに、不思議と家族や友人仲間たちと海水浴に行った時のことを思い出した。

 

 そこから、連鎖的に自分のことを思い出したのだ。気が付けば、自分は超サイヤ人4の姿で、岩の上にたたずんでいた。孫娘が目を丸くして、「本当に、おじいちゃんなの・・・?」とつぶやくのがおかしくて、フッと笑ったものだ。

 

 今となっては、昔の話だ。

 

 何はともあれ、理性を無くさずに済んだのは助かる。たぶん、超サイヤ人4となって、大猿を克服したせいなのだろう。そのあたりまで封印されなくて助かった。・・・もう二度と、意識が戻った時に、誰かを踏みつぶしていたり殺していたりということがなくて済むのだ。

 

 とりあえず悟空は、茫然とこちらを見上げる悟飯老に向かって、「じっちゃん、オラはここだ!」と叫ぼうとした。

 

 だが、悟空の意に反して、その喉はガウウッという獣の吠え声しかたてられない。

 

 なんだこれ。ベジータは大猿姿でもしゃべってたのに。あれか、自分は下級戦士だからか。

 

 口と喉に手をやって、シュンと肩を落とす大猿姿の悟空に、ややあって我に返ったらしい悟飯老がおずおずと、「悟空、か?」と尋ねてきた。

 

 悟空はコクコクとうなずくと、空の満月を指さした。

 

 「し、しもうた。今夜は満月じゃったか!悟空や、ワシのことがわかるのか?!」

 

 さっと顔色を変える悟飯老に大猿姿の悟空はコクコクうなずいて、続けて喉を指さして首を横に振り、しゃべれないことをアピールする。

 

 「しゃべれんのか?」

 

 尋ねた悟飯老に、大猿姿の悟空はコクリとうなずいた。

 

 悟空はおしゃべりな方ではない。どちらかというとしゃべるのは苦手な方だ。だが、しゃべれないのは不便なことだと、今初めて思った。

 

 ついでに、昔からそうなのだが、満月の夜というのはどうも落ち着かない。しっぽがあろうがなかろうが、とにかく暴れたい気分になる。(妻がそばにいたら、間違いなくそっち方面に衝動をぶつけていた。寝たら気にならなかったのだが)

 

 自然とそわそわしてしまいそうになるが、このままでは祖父を誤って踏みつぶしそうで、それも怖い。

 

 どうしよう。

 

 困り果てた大猿姿の悟空に、ややあって、悟飯老が動いた。

 

 「すまんのう、ちょっと待っておれ。夜は冷えていかん」

 

 一度悟飯老は庵の中に取って返し、毛布を羽織って戻ってくると、そのまま軽々と庵の屋根の上に飛び乗った。

 

 「悟空や、寝れんならワシが昔ばなしでもしてやろうか。

 そうじゃのう・・・ワシが武術の腕を磨くために、旅をしておったころのことを話そうか!」

 

 月明かりの下で、にこにこと祖父が笑いながら言ってくれた。

 

 いいな、それ!話してくれよ、じっちゃん!

 

 大猿姿の悟空は、ゴワウッと吠えながら大きくうなずいた。知らず、尻尾が嬉しそうに揺れる。そのまま彼は、のそりと地面に座り込んだ。

 

 実のところ、悟空は満月が苦手だった。満月の夜に出るという、大猿の化け物は憎い仇で、その夜に祖父が死んでしまったからだ。

 

 けれど、今なら。今なら、満月が苦手じゃなくなる気がする。好きになる、というのは無理かもしれないけれど。

 

 

 

 

 

 とりあえず、その満月の夜を境に、祖父と孫は月齢を意識するようになったのは確かだ。

 

 満月の夜にもし、悟空が催してしまったら、必ず祖父を起こして、目隠ししてから厠に行くこと、という約束もした。

 

 ブルマが来るまでの期間限定ではあるけれど。

 

 

 

 

 

 その日、悟空は魚を取りに中腹にある滝つぼに向かっていた。

 

 パオズ山の生態系は、人外魔境のそれである。猿を餌にする獰猛な肉食の巨大魚が普通に生息している。

 

 道着を脱いで、滝つぼに身を躍らせる。このあたりの魚の動きはすでに分かり切っているが、油断は禁物だ。

 

 濡れた体の水気は気で弾き飛ばしてから(まだまだだが、この程度ならできる)胴着をまといなおした悟空は、見事仕留めた身の丈ほどの怪魚の尾を担いで、そのまま悠々と庵に向かって歩き出した。

 

 幼いころは丸焼きしかできなかったが、妻と結婚してからは、妻がふもとの猟師に習ったとかで解体をするようになり、自然と悟空も彼女からの手ほどきを受けて血抜きと解体程度はやるようになった。(少しでもエンゲル係数を軽減させるためだ。もっとも、そこまでだ。その先の調理は妻の仕事だった)

 

 庵の前の庭先で解体したら、あとは祖父に渡そう。夕食が楽しみだ。

 

 山道を歩いていたところで、悟空はピクリと顔を動かした。

 

 誰かがこちらに来る。能力の封印に伴い、気の感知能力も弱体化してしまったため、気を探るのも一苦労だが、かなり近いのでわかる。大きさは小さい。けれど、感触は今も昔も変わらない。

 

 そうか。今日なのか。

 

 今日から、すべてが始まるのか。

 

 うずうずと、心が弾む。そうと決まれば、さあ、急げ!

 

 悟空は怪魚を引きずりながら山道を駆け出した。舞空術や瞬間移動が使えないのがもどかしいが、じきになれるし、鍛えれば使えるようにもなるのもわかっているのだ。大丈夫。

 

 だが、若き日のブルマはなかなかに破天荒だった。猛スピードで飛び出した車は、確実に法定速度をぶっちぎっていた。こんな山奥の獣道と大差ない道など、法定速度もへったくれもないかもしれないが。(一応、悟空は免許を持っていた。舞空術や瞬間移動、筋斗雲のおかげでめったに乗らなかっただけで)

 

 車の中のブルマが悲鳴を上げて、急ぎ急ブレーキを踏んだのが分かった。だが、それでも本来ならば悟空は轢かれていただろう。昔々のように。

 

 しかし、現在の悟空は違う。ブルマの車が突っ込んでくると振り向きもせずに察知していたので、怪魚を担いだまま、大ジャンプしていた。

 

 そのままぐるりと宙返りする悟空は、空中でドリフトをかけながら急停車するブルマの車を見やる。

 

 「ええ?!ど、どこ行ったの?!轢いたと思ったんだけど?!」

 

 慌てた様子で運転席側のドアを開けて、周囲を見回すブルマは、水色の髪をみつあみにして、ミニスカートに拳銃の収まったホルスターを腰にさげている。出会ったころそのままの、活発な少女だ。

 

 すとんと悟空がそのそばに着地した。ベシリッと怪魚の頭が地面を打つ。

 

 「オッス!オラ悟空!孫悟空だ!」

 

 「ギャーッ?!」

 

 片手をあげて朗らかにあいさつしたというのに、ブルマは悲鳴を上げて飛びのいた。

 

 色気もへったくれもない悲鳴に、悟空は苦笑した。

 

 うん。これがよく、あのプライドと神経質の塊のような男のハートを射止めたものだ。最初トランクスの存在を聞いた時、かなり驚いたのだから。

 

 まあ、トランクスは.、母親似(戦闘能力はベジータ似ではあるが)であるため、初見ではわからなくて当然だが。

 

 「あ、あんたどこから?!」

 

 「おめえに轢かれそうになった時、跳び上がった。こんな感じで」

 

 もう一度、悟空は怪魚を担いだまま大きく飛びあがり、宙返りしながら着地して見せる。一蹴りでおおよそ4~5メートルは飛び上がったが、まだまだである。

 

 目を点にしてあんぐりと口を開けるブルマに、悟空は怪魚を担ぎなおしながら尋ねる。

 

 「おめえ、こんな所に何か用か?この辺りは恐竜とか大猪とかいるから危ねえぞ」

 

 知ってはいるが、知らぬふりをした方がいいだろうと悟空は尋ねた。

 

 はっとブルマは我に返ったように、首を振ってから尋ねてきた。

 

 「ねえ、あんたこの辺りに住んでるの?」

 

 「おう。じっちゃんと住んでる」

 

 「じゃあ、こういう珠、見なかった?」

 

 うなずいた悟空に、ブルマはポーチから取り出したオレンジ色の玉を見せてきた。中に輝くのは星二つ。二星球(アーシンチュウ)だ。

 

 「ああ。うちにあるぞ」

 

 四星球(スーシンチュウ)はある。この世界に初めて放り出された悟空のそばにいつの間にか落ちていたもので、今は祖父と孫二人の宝物として家の片隅の棚、紫の飾り座布団の上に飾られている。

 

 「本当に?!見せてもらえるかしら!」

 

 「いいぞ、こっちだ」

 

 うなずいて、悟空は怪魚を担いで先導しだした。

 

 ブルマは急ぎ車をカプセルに戻し、悟空の後に続く。

 

 「おめえ、名前は?」

 

 「・・・ブルマ」

 

 不承不承という様子で名乗るブルマに、悟空は「そっか!よろしくな!」とニカッと笑みを浮かべた。

 

 「何よ!おかしいなら笑いなさいよ!」

 

 「なんでだ?変な名前かもしれねえけど、おめえの名前じゃねえか。いいじゃねえか、おめえらしくて」

 

 キッとにらみつけてくるブルマに、悟空は笑いかけた。

 

 初めて知ったときは笑ってしまったが、今では彼女らしい名前でいいと思う。

 

 自分なんて、カカロットなんてへんてこりんな名前もある(ベジータがそう呼んでくるのは許容しているが)というのに、ぜいたくなものだ。

 

 なぜか呆気にとられたような顔をする少女をしり目に、悟空は「のんびりすんなよ。こっちだ」と少し歩調を速めた。

 

 さあ、いよいよだ。

 

 

 

 

 

 ところが、そこからが妙な話だった。

 

 悟空の記憶が正しいならば、悟飯老の生死という違いこそあれど、本来は悟空は四星球をもって、ブルマとともにパオズ山を出ることになったはずなのだ。

 

 庵に戻った悟空たちを待っていたのは、薪にする丸太を切り出しに行っていた悟飯老で、何か途方に暮れた様子でしきりに周囲を見回している。

 

 何事か、と尋ねた悟空に、悟飯老は留守中に泥棒が入ったらしく、四星球が持ち去られ、代わりにこれが置かれていたと、見覚えのない金貨を見せてきた。

 

 刻印されたカトラリーを持った蝙蝠の紋章に、ブルマがこれはグルメス公国のものだ、と告げてくる。

 

 続けて、自分の目的とドラゴンボールのこともまくしたててきたが、悟空としてはそれどころではない。

 

 グルメス公国?そんなところあっただろうか?

 

 首をかしげる悟空だが、あいにく彼は筋金入りの修行馬鹿にして戦闘狂であり、世俗など基本的に興味が持てなかったため、微塵も記憶になかった。

 

 前の記憶では、こんなことはなかったというのは確かだったはずだ。

 

 どういうことだろうか?首をかしげるが、すぐに声にも出さない「(ま、いっか)」の常とう句でさらっと流した。

 

 そんなことよりも、ドラゴンボール泥棒の足取りを追うことが先決だ。

 

 ドラゴンレーダー片手にまだ間に合うかも!とせっつくブルマをしり目に、悟空は焦んなと言って、額に立てた右の人差し指と中指を当てる。気を探るために集中する際のポーズだ。瞬間移動の時にやってたから、この方が慣れているのだ。

 

 追っても、たぶん間に合わない。方角と気の移動速度から、おそらく相手はジェットフライヤーなどの飛行できる乗り物に乗っているだろう。

 

 今のブルマがジェットフライヤーの免許を持っているかは定かではないが、今から追うのはよくない。それに。

 

 「あーあ。やめときゃよかったのになあ」

 

 「え?」

 

 「何かわかったのか?悟空や」

 

 気を探りながらぽつりと言った悟空に、ブルマが怪訝そうな顔をするが、悟飯老がわきから尋ねる。

 

 「たぶん、翼竜に襲われた。あの辺、あいつらの巣があったはずだから。気の大きさもあいつらとおんなじだから、間違いねえよ」

 

 「よくりゅう」

 

 目を点にしてつぶやくブルマ(パオズ山の人外魔境ぶりを知らなかったらしい)をしり目に、悟飯老は肩をすくめた。

 

 そのまま、老人は悟空の予備の道着や下着の類を風呂敷に詰める。このたくましい(たくましすぎて、一歩間違えれば野生児そのものの)孫ならば、荷造りなどこのくらいで十分だろう。そうだ、あとは如意棒も渡さねば。この間、背負い紐の長さを悟空にあうように調整したのだ、今の孫はまだ使うことだろう。

 

 「仕方ないのう。じゃが、それでは四星球を取り返すのも一苦労ではないかの?」

 

 「いや、何とか抜け出したみたいだ。あっちの方向に逃げてるな」

 

 言いながら、悟空は左手で彼方を指さした。

 

 その指先は、ブルマの持つドラゴンレーダーに映る移動する光点が向かう方角とも一致していた。

 

 

 

 

 

 やはりこの世界は、少しおかしいかもしれないなあ。

 

 ブルマとバイクで荒野を移動しながら、悟空は思った。

 

 世の中を見て見聞を広め、女の子には優しく、守ってあげなさいという祖父の言葉を皮切りに、ボディーガードを兼ねて四星球を取り戻すために同行することになったのだ。かつての記憶と同じく、歴史をなぞるべく。

 

 グルメス公国は、サウスエリアにあるらしい。途中で、ドラゴンボール探しもしなければならないので、長旅となる。

 

 前の旅はどうだっただろうか?パオズ山はイーストエリアにあり、そこから西へ西へと旅をした。

 

 おぼろげな記憶によると、ブルマは確かこの時学生(魔人ブウが出たころの悟飯と同い年だ!)で、夏休みを利用してドラゴンボール探しをしていたのだという。

 

 美人で金持ちで天才で何でも手に入るくせに、恋人一人のためにドラゴンボール探しとは。割に合わないのでは?とのちに思ったが、あの女傑は結局のところ退屈におぼれかけていたのかもしれない。実際、後年このころのことを思い返した彼女が(嫁が赤面する“パンパン”の逸話交じりに)、死にかけることもあったけど、楽しい旅だったと回想していたのだ。

 

 ・・・なお、悟空を除いた周囲は、あの女傑の度胸はその旅で確実に培われたものだろう、とみている。

 

 閑話休題。

 

 日が暮れたので、その日はブルマが出したカプセルハウスで一晩過ごす。

 

 ブルマは食料を分けてくれたが、案の定悟空には物足りなかった。戦闘民族サイヤ人は、頑丈で強くはあるが、燃費が悪い。

 

 ブルマに自分の分は自分でとってくると断りを入れてから、夜の荒野に飛び出した。いつぞやの時同様オオカミを仕留めて(さすがにムカデはまずいので)、解体して飯にする。

 

 戦闘民族サイヤ人は胃袋も頑丈だ。よほど大量に下剤でも盛られなければ、たいていの寄生虫や食中毒など平気へっちゃら、である。幼少の半生箇所ありの丸焼きオンリー適当食生活でも生き延びられていた野生児や、エイリアンモッシャモッシャしてた孤高の王子も、ひそかにそれに救われていたのである。

 

 もっとも、舌は別だ。嫁の料理が恋しい。

 

 食事を終えたら風呂だ。ブルマがシャワーから上がったところで、断りを入れて使わせてもらう。

 

 ・・・思えば、風呂の入り方も悟空は知らなかったと思いだす。入り方を教えてくれたのはブルマで、亀仙人の修行の時や神殿の日々でも風呂には入ったが、本格的な習慣化をしたのは多分、結婚してからだ。食事の前には手を洗え、修行から帰ってきたら風呂にはいれ、脱いだ服は洗濯籠、と嫁が口やかましく(そして根気よく)しつけてくれた。

 

 おかげで野生児も、社会不適合者(?)にランクアップした。それがいいか悪いかは別として。

 

 気を使って水滴を弾き飛ばし、風呂から上がって、新しい道着を着る。前着ていたものは、ブルマに聞けばランドリーボックスがあるので、そこに入れる。後は朝には乾燥までされているだろうとのことだ。

 

 この道着は、悟空がこの世界に来た時に来ていたもの――つまり、この世で一着しかない嫁の手縫いだ。できるだけ、大事に着まわさなければ。(いずれ悟空の背が伸びて、あわなくなるとしても)

 

 そうして、寝る前の日課である結跏を組んでの瞑想を行う。神殿に来たばかりのころは苦手であったし、成人してもあまり得意とは言えないが、今の自分にはこれが必要だから、毎日30分だけと決めて行っている。

 

 己を無にし、己の中の気に目を向け、そこに意識を沈める。気のコントロールの向上に必要不可欠なのだ。

 

 「ねえ!聞いてる?!」

 

 大声を出されて、何事かと悟空が目をあけてそちらを見やると、ベッドの上で寝間着姿のブルマが不機嫌そうにこちらを見下ろしている。

 

 どうやら、散々話しかけられたのを無視していたため、怒ったらしい。瞑想に集中していたのだから仕方ない。

 

 「何してるの?」

 

 「瞑想だよ。気のコントロールの修行だ」

 

 とりあえず結跏を解いて、自分の寝床として床に敷かれたシーツの上に足を延ばす悟空に、しかしブルマはいぶかしげだった。

 

 「キ?キって何?」

 

 「へ?」

 

 怪訝そうに尋ねられ、思わず悟空は言葉に詰まった。

 

 まさかブルマからこんな質問が出るとは・・・と考えかけ、ああ、このころの彼女はまだ気の概念も知らないのか、とようやく思い至る。悟空自身も、神殿での修行でその概念を知ったのだから、無理もない。

 

 「えーッと、気ってのは・・・」

 

 何度も記すようだが、悟空は口下手であり、こういう説明は不得意なのだ。(それは他のメンバーの役目だ。特に悟空の場合、上の息子が学者であるので優秀すぎた)

 

 それでも、悟空は神殿で教わったことを、どうにかこうにか思い出しながら言語に直して説明する。

 

 「生き物が持ってる、目に見えねえエネルギー?っていうのか?

 ええっと、力の海?エネルギーの流れ?そんな感じだな」

 

 「何よそれ、胡散臭。バッカみたい」

 

 胡散臭そうに言い放ったブルマに、さすがに悟空もカチンときた。

 

 「ばかじゃねえよ。見てろ」

 

 言って、悟空は胡坐を組みなおし、両手を軽く広げる。

 

 ふわり、とそのはざまに蛍のような青白い光が灯った。単純な気の放射だ。これをさらに凝縮すれば、かめはめ波に代表される気功波になるし、他の者とパスをつなげれば気の受け渡しもできる。

 

 やがて、悟空はその光を消す。

 

 「これが気だ。こいつを極めたら、もっとすげえことだってできんだからな!」

 

 「と、トリックかしら・・・」

 

 まだ言うか。

 

 いつぞやのサタンのようなことを目を点にして言うブルマに、悟空はトドメとばかりに実行に移した。

 

 「気のコントロールができたら、空だって飛べるんだぞ。見てろ!」

 

 まだ少し難しいが、浮くくらいなら。集中して、悟空は舞空術を使った。まだ修業が必要で実戦活用にはほど遠いが、できないことはないのだ。

 

 立ち上がった悟空の体がふわりと浮かび、50センチほど浮き上がる。本当は1メートルぐらいは浮けるが、天井があるのでここではこれが限界だ。1年の修行の成果だ。だが、まだまだだ。これでは使うにしろ、天下一武道会の場外負け回避くらいにしか使えないだろう。

 

 着地して、フウと息をつく悟空に、目を丸くしていたブルマが、「あんた、魔法使い・・・?」と呆然と言ってくる。

 

 そんなわけない。今も昔も悟空は武道家だ。魔人ブウを倒して悟空が生き返った後は、家計が破産したので農家もやっていたが、それでも本質・本職は武道家なのだ。

 

 戦闘民族サイヤ人の惑星単位地上げ屋稼業より、万倍マシなはずだ。

 

 むしろ魔法使いはピッコロとか神様の方だ。指先ピッで服とか道具とか自在に出せるのだから。あればかりは、悟空も真似できる気がしない。(見よう見まねでかめはめ波とか太陽拳とかいろいろ習得できたのに)

 

 ともあれ。

 

 「明日もドラゴンボール探すんだろ。オラそろそろ寝るからな。おやすみー」

 

 バフンッとシーツに横になり、悟空は目を閉じた。ブルマがどうしていたかは知らない。まあ、何のかんの言いつつ図太くなる彼女のことだ。すぐに慣れるだろう。

 

 睡魔はすぐに訪れた。

 

 

 

 

 

 やはりこの旅路は以前の記憶とは違う。

 

 ブルマの運転するバイク、タンデムシートで彼女の腰にしがみつきながら、悟空は思う。(飛べるならあんたは飛んだら?というブルマの発言に、悟空は長時間は無理、と答えたやり取りもあったが)

 

 キ●タマクラ(+α)は将来的な嫁とベジータの怒りを避けるためやらなかったが、朝の修行と食料調達のために日の出とともにいまだにブルマの眠るカプセルハウスを出た。

 

 ところがどっこい、記憶が正しいならその時、亀仙人の同居人(?)であるウリゴメ(正確にはウミガメなのだが、悟空は間違えて覚えている)に遭遇し、そのまま亀仙人にも遭遇、ドラゴンボールと併せて筋斗雲をもらえるはずなのだ。

 

 だが、ウリゴメとは遭遇しなかった。

 

 それらしい気も見つからず、仕方なく悟空はブルマのいるカプセルハウスに取って返した。

 

 まあ、いっか。順番が違うだけで、あとで会うのかもしれないし。とりあえず、悟空は自分をそう納得させた。

 

 とにかく、この旅路は以前とはどこか違うのだ。

 

 だって、ウーロンとはどこぞの村で会うはずだ。あいつはスケベな妖怪で、村中の女をさらいまくって、挙句幼女まで連れ去ろうとしてたわけで。

 

 こんな荒野のど真ん中で、巨大な牡牛姿に化けて幼女に襲い掛かろうとは。何をしているのだ、こいつは。

 

 まあ、見捨てられないし、悟空は大岩を持ち上げて、それをビビって逃げ出すウーロンに遠慮のえの字もなく投げてぶつけた。なお、ブルマはウーロンにビビッて気絶した。

 

 地面に叩き落されて、小柄な豚の亜人姿をあらわにするウーロンにあきれていると、今度は幼女が新手に襲われる。

 

 ヤムチャとプーアルだった。この二人がいたのは、別のどこか――砂漠だったはずでは?

 

 痩せて小汚い幼女相手にカプセル要求するのは、ちょっとみっともないなあ、と思いつつ、悟空は青龍刀を振りかざすヤムチャ相手に、如意棒をふるおうとした。

 

 だが、ここでサイヤ人特有の燃費の悪さが出た。

 

 大人になればもう少し腹持ちがいいのだが、子供の時分は一度の食事量は少ない(比較的)が、とにかくすぐに腹が減ってしまうのだ。

 

 空腹で悟空がふらついたところを、ヤムチャが隙を見逃さずに青龍刀を振り下ろす。

 

 だが、悟空はまだ負けていない。

 

 素早く回れ右して、飛び込んだ。今しがた気が付いた、ブルマの背中に。

 

 悟空はきっちり覚えていた。このころのヤムチャは、女に弱かったはず!

 

 案の定、身を起こして周囲を見回すブルマの姿を見たヤムチャは、赤面してガチンと石像のように硬直してしまった。

 

 「ああー?!ヤムチャ様ぁぁ?!」と大慌てのプーアルがジェットモモンガに彼を詰め込み、大慌てで退散していく。

 

 「ねえ?!誰なの今のイケメン?!」とウキウキ騒ぎ出すブルマと、助かったの・・・?!と座り込んでつぶやく幼女をしり目に、悟空は怪獣のように騒ぎ立てる腹を、道着の上からそっと抑えた。

 

 なお、大岩をぶつけられたウーロンはいまだに気絶中である。

 

 

 

 

 

 ブルマがカプセルから出したキャンプワゴン内のリビングスペースで、悟空は大量の食糧(ブルマが持っていた非常食だ。探しに行く気力がなかったので、今回はそれをもらうことにした)を詰め込んでいた。

 

 いっぱい動くと腹が減る。腹が減ったら食わねばならぬ。真理だ。

 

 何度言われようと治らない豪快な食いっぷりに、幼女はやや呆然としていたが、ブルマはすでに悟空のとんでもない食欲に慣れたらしく、気にしない方がいいわよ、とシレッと言ってくれた。

 

 縛り倒されたウーロンは、その変身能力に目を付けたブルマが何かの役に立つかも、と連れて行くことにしたらしい。

 

 乗り物の運転もできるということなので、明日からは彼が運転手をすることになるだろう。

 

 なお、例によって差し出された飴玉を、ウーロンは何の疑いもなく食べながら、ブルマの豊満な肢体をなめるように眺めていた。のちにベジータが知ったら、チャーシューかトンカツにでもされそうだ。

 

 飴玉に関しては悟空も勧められたが、拒否した。たぶん、例の飴玉だ。

 

 さて、そうして改めて小汚くやせ細った幼女の話を聞くこととなった。

 

 幼女はパンジィと名乗り、グルメス公国から出てきて、武天老師に会いに行くところだという。

 

 グルメス公国では、現在圧政が敷かれている。元は人徳高い公王が、新しく呼び寄せた臣下によって堕落し、贅を凝らした美食の限りを尽くしているらしい。

 

 元々、グルメス公国はリッチストンというダイヤ以上に価値ある宝石の産地であるが、公王の堕落によってその採掘が激化。採掘のために田畑が荒らされ、家も壊されるというありさまらしい。

 

 耐えかねた住民たち(採掘の人手に回されるため、思うように動けない)を代表して、パンジィが一人武天老師を探す険しい旅に出たのだという。

 

 で、ブルマがドラゴンボール探しの旅のことを告げれば、公王の臣下たちもまたドラゴンボールを集めている、という話を聞かせてくれた。

 

 何のために?とブルマが怪訝そうな顔をするが、パンジィは知らない、とつっけんどんに突っぱねた。

 

 念のため、ブルマがドラゴンレーダーを起動させてみれば、確かにグルメス公国のある方角に、ボールが集結しつつある。

 

 ブルマが持っているのが1つ、グルメスにあるのが4つ、かなり離れたところにあるのが1つずつ。

 

 ここで、悟空は額に二本指をあてて気を探ってみる。かなり記憶との出来事が食い違ってしまっているが、以前の通りであれば、武天老師こと亀仙人もドラゴンボールを持っていたはずだ。

 

 まあ、すでにある事実にも気が付いていたのだが、それとは別に、悟空は口を開いた。

 

 「ムテンローシって、亀仙人のじっちゃんのことだろ?行こうぜ。たぶん、ドラゴンボール持ってっから」

 

 「なんでわかるのよ?」

 

 「ドラゴンボールがある辺りにさ、そこそこでっかい気の塊があるんだよな。たぶん、じっちゃんの気だと思う」

 

 多分どころか気の感触的に間違いなく、亀仙人のいる南の離れ小島だろう。

 

 「キってそんなこともわかるの?・・・そういえば、最初あった時も、見てもないのに翼竜がどうとかって言ってたわね」

 

 「オラはまだ未熟だから、近くのことか、集中しねえとわかんねえよ」

 

 ブルマの問いかけに、悟空は不承不承を隠さずに言った。

 

 以前は呼吸同然にできたことが、かなりの集中を要する作業となってしまい、もどかしい限りだ。これももっと精度を高めなければなるまい。

 

 ともあれ、続けて悟空は窓の外に向かって呼び掛けた。

 

 「だからおめえらがいるのもバレバレだぞ?行くなら一緒に行かねえか?ヤムチャ、プーアル」

 

 ギクリッと、外の気配が身じろいだのが分かった。

 

 「え?!嘘?!ヤムチャって、昼間の方でしょ?!どこどこ?!」

 

 ぱあっとすぐに明るい顔になってウキウキとワゴンの出口にかけていくブルマに、窓の外がにわかに「ヤムチャ様?!」「な、なんでわかったんだ?!」などと騒がしくなる。

 

 「・・・なあ、ドラゴンボールって、7つ集まったら本当に何でも願い事が叶うのか?」

 

 「ああ。神様の力を超えない範囲になるけどな」

 

 徐に尋ねてきたウーロンに、悟空はうなずいた。

 

 例えば、サイヤ人追っ払えとか、そういうのは神様の力量を超えるので無理。後、同じ願い事はかなえられないから、蘇生回数は1回だけという制限付き(遺体の保存期間の問題もあるので、可能期間は1年に限定されるし)。

 

 それに、使いすぎるとマイナスパワーが・・・違う、あれはイレギュラーで本来起こりえないはずのことだとザハが言っていたのだった。

 

 ザハと言えば、たぶん悟空にかけられた力の封印も、神龍(シェンロン)ではどうにもできないだろう。あいつは明らかに、界王神よりもヤバそうだった。気が分からないので、悟空の勘頼りの感想になるが。

 

 そんなことを悟空が考えているのをしり目に、ウーロンは「ふーん・・・」と何事か考えている様子で視線をさまよわせる。

 

 大方またスケベなことでも考えているのだろう。ギャルのパンティはやめてやった方がいい。六星龍(リュウシンロン)がかわいそうだ。

 

 ともあれ。

 

 哀れ、赤面石化でコチンコチンになったヤムチャを、いい笑顔のブルマが引きずって戻ってきた。

 

 ああー?!ヤムチャ様ぁぁぁ?!とまたプーアルが悲鳴を上げるのをしり目に、悟空は小さな笑みを浮かべた。

 

 これで、勢ぞろいだ。

 

 

 

 

 

 翌日から、一同は亀仙人が住まうカメハウスへと進路を向けた。

 

 コチコチになるヤムチャに、肉食女子さながらの強引さでぐいぐい行くブルマに、プーアルがどうにか引きはがそうと頑張っているが、今のところ無駄骨に終わっている。

 

 ケッとやさぐれた目をするウーロンは、もちろんキャンプワゴンのハンドルを握らされていた。

 

 パンジィはそわそわと外を見ていた。故郷が気になるのだろうか。

 

 悟空は放置だ。どうせこの二人はくっつかないと知っているからだ。ヤムチャはそのうち浮気性がひどくなるし、ブルマはベジータとくっつく。・・・順調なら。

 

 ベジータとの戦いも、未来のことにはなるが控えているのだ。あの時ははっきり言って勝ったとは言えなかった。ベジータ自身は負けたと思っているようだったが、悟空としてはベジータの勝ちだと思っている。なぜなら悟空は身動きできない状態に追い込まれ、大猿と化した息子と元気玉を託した親友がいなければ、撤退させることもできなかったのだから。

 

 今度は、勝ちたい。ちゃんと、自分ひとりの力で。勝ってみたい。まあ、その前に、目の前のことだが。

 

 海辺についたところで、移動手段をキャンプワゴンからモーターボートに乗り換える。こちらは定員関係で、ブルマと悟空とパンジィ、運転手のウーロンしか乗れない。

 

 ヤムチャは自前のジェットモモンガに乗った。プーアルも一緒だ。

 

 そのまま、ドラゴンレーダーのナビゲートに従って、海を渡る。

 

 パンジィは海を見るのは初めてなのか、きらきら目を輝かせている。

 

 悟空も久しく胸が躍った。最初見た時はなんて大きな水たまりだろう!とひどく驚いたものだ。

 

 舞空術が使えなくなったので、パオズ山の山奥から出る手段がほとんどなく、約1年あの山奥にこもりきりだったのだ。初めてではなくとも、かなり久しくて感動するばかりだ。

 

 ああ。これが、冒険というものだ。いくつになっても胸がわくわくする。

 

 亀仙人のいるカメハウスは、もうすぐだ。

 

 

 

 

 

 「ヤムチャ様!ドラゴンボールが手に入ったら、どんなことをお願いするんですか?!」

 

 「オレはこの、あがり症を治してもらう!

 金は困ってない。強さも今以上はいらん。

 だが正直、オレは、結婚というものにあこがれている!」

 

 「そう、ですか・・・」

 

 それぞれの思惑を胸に、一行は海を行く。

 

 

 

 

 

 見覚えのある島が見えてきた。

 

 赤い屋根の一軒家が、何にもない小島の上にぽつねんと構えられている。壁には、KAMEHOUSEの赤い文字。

 

 間違いない。カメハウスだ。

 

 「ここが、武天老師様の・・・?」

 

 「おう。間違いねえな」

 

 砂浜に乗り付けたモーターボートを降りたパンジィのつぶやきに、悟空はうなずいた。

 

 「はいはい。おや、お客様ですか。何の御用でしょうか?」

 

 「オッス!ウリゴメ!亀仙人のじっちゃん、いるか?」

 

 のそのそと出てきたウミガメ(どうやらこちらの彼は山の中に出かけて迷子にはならなかったらしい)に、悟空は元気よく挨拶する。

 

 「おや?どちら様ですか?老師様のお知り合いで・・・?」

 

 「オラ、孫悟空だ!こっちが、パンジィで、ブルマと、ヤムチャと、ウーロンと、プーアルだ!」

 

 とりあえず自己紹介する悟空に、ウミガメはぽかんとしている。

 

 焦れたのか、パンジィが駆け寄っていった。

 

 「あの!武天老師様に、お願いがあるんです!会わせていただけないでしょうか!」

 

 「何じゃ、騒々しいの~」

 

 ここで、奥から亀仙人が出てきた。まだ幾分かしゃきっとしているし、昔懐かしの緑のサングラスをかけている。

 

 早速パンジィが要件を言おうとしたが、それを押しのけてブルマが叫ぶ。

 

 「あった!ドラゴンボール!」

 

 そう。亀仙人はいつぞやと同じく、首にオレンジの珠をさげていたのだ。星の数から、おそらくは三星球(サンシンチュウ)

 

 だが、ブルマが要件を切り出すより早く、悟空はぴくっと顔を海の方に向け、そうして険しい顔で叫んだ。

 

 「伏せろぉぉぉっ!」

 

 とっさに反応できたのは、悟空の他は武術の心得のあるヤムチャと亀仙人ぐらいだろう。

 

 海中から放たれたミサイルが、カメハウス目がけて殺到した。

 

 悟空はパンジィとウーロンをかばい、ヤムチャはブルマとプーアルをかばって、それぞれ伏せた。

 

 そして、そんな一行をよそに、踏み出した亀仙人は「そりゃぁっ!」と気合とともに、ミサイルを蹴り上げた。

 

 上空で爆発をとどろかすミサイルに、亀仙人は「危ないのぉ」とのほほんとつぶやいている。

 

 さすがはじっちゃん。

 

 悟空が内心で舌を巻くのをよそに、浮上した潜水艦から、スピーカーで声が届けられる。

 

 ドラゴンボールがあるのは分かっている。おとなしくよこせ。

 

 要約してそんなことを要求するその潜水艦には、例のコインに刻まれていたカトラリーを持った蝙蝠が張り付いていた。

 

 「知らんわい。そんなことは。礼儀知らずはさっさと帰らんか」

 

 ぴしゃりと言い放った亀仙人に、次の瞬間、船体から顔を出していたカーキ色の軍服をまとう兵士たちが、機関銃をぶっ放していた。

 

 悟空は躍り出た。亀仙人ならば問題ないかもしれないが、パンジィとウーロンは危険だ。

 

 如意棒を振り回し、銃弾を叩き落す。この摩訶不思議な棒は本来はカリン塔と神の神殿をつなげているだけあって、多少のことではびくともしないのだ。

 

 悲鳴を上げるブルマは、ヤムチャが大岩の陰に隠れさせてかばってくれている。

 

 そして、亀仙人は。

 

 「よい筋をしておるの、小僧。離れておれ」

 

 機関銃が止んだと同時にそう言った。

 

 気の膨張を感じた悟空は、振り向きもせずに「わかった!」と言って、その場を飛びのく。

 

 亀仙人は、背中の甲羅と服を脱ぎ棄てその体躯を筋肉で膨らませ、独特の構えを取る。両の手首を合わせ、腰元に置く、そのタメ動作を、悟空はよく知っている。

 

 「かぁぁぁぁ、めぇぇぇぇ、はぁぁぁぁ、めぇぇぇぇ」

 

 気が膨らむ。老人の手の中に青白い光の塊が生まれ、徐々に輝きを強くする。

 

 そして。

 

 「波ぁぁぁぁぁっ!!」

 

 突き出された両手から、青白い極光が放たれた。亀仙流の奥義にして悟空も得意とする技、かめはめ波だ。

 

 極光に薙ぎ払われた潜水艦は、爆発して姿を消した。上に乗っていた乗組員は海に飛び込んだらしく、バシャバシャと泳ぎもがいてパニックになっているらしい。

 

 「プイーっ。久々に張り切りすぎたわい」

 

 膨らんでいた体躯が、しおしおのほっそりした老人のそれとなり、亀仙人は独り言ちる。

 

 「すっげー!じっちゃんはやっぱすげえな!」

 

 思わず悟空は叫んだ。気の大きさこそ、全盛期の自分よりもたいしたことではないが、練り上げる速度はかなりのもので、それによって爆発的に身体能力を底上げするというのは、クリリンでもできなかったことだ。

 

 さすがは武術の神とうたわれるだけのことはある。

 

 落ち着いたら、改めて弟子入りをしなければ、とも思った。

 

 「ほっほっほ。そうでもないわい。んん?そちらのお嬢さんたちも大丈夫かね?」

 

 悟空の羨望の眼差しに軽く笑って、老人は服を着なおしながら、視線を岩陰のブルマたちに向けた。

 

 我に返ったヤムチャが鼻血を出して気絶している(プーアルが悲鳴を上げたが、いつものことだ)のをしり目に、ブルマがヤムチャを抱きしめている。

 

 今のヤムチャには、過酷な所業ではないだろうか?とひそかに悟空は思った。

 

 

 

 

 

続く




※逆行悟空の、本人は気が付いてなかった特徴

 劇中で既に気が付いているが、超サイヤ人4になれているので、大猿は克服している。このため、原作とは違い、変身しても理性はある。ただし、下級戦士なのでしゃべれない。

 あとは、制御系精神修行の類(超サイヤ人になった時の荒々しさのまま、セルゲーム直前の平常化など)もリセットされている。まだ超サイヤ人が解禁されていないので、気が付いていない。解禁されたら多分即気が付く。

 実は、フュージョンとポタラ関連の知識(それを使ったことは覚えているが、やり方とか、メリットデメリットなどに関すること)は消されている。自覚がないので、疑問視していない。覚えていたら、確実にラディッツ戦以降で乱用し、地力を上げる疎外となるうえ、歴史が変わる可能性が大幅にあるため、ザハが消した。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。