GT後の悟空が逆行して超ルートに入る話   作:亜希羅

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 先に言い訳しておきます。ワシは悟チチ派です。


3.孫悟空、嫁を射止めようと試みる

 

 ともあれ、ブルマは改めて、ドラゴンボールについての用件を切り出し、服と一緒に首にかけなおされた珠を譲ってほしいと亀仙人との交渉に出た。

 

 亀仙人は、きれいだなーと首にかけていただけで、特段こだわりのあるものではないし、と譲ってくれることになったが、そこはエロ仙人の異称もある亀仙人である。

 

 案の定、スケベな報酬(パイパイ摘まましてくれ!)を要求され、一瞬ものすごくいやそうな顔をしたブルマは、ややあってニタッと笑う。あれは絶対ろくでもない解決案だな、と思った悟空はしかし、黙って眺めていた。

 

 ブルマは着替えたいからという言い訳をもとに、ようやく気が付いたウーロンを物陰に引きずり込むとひそひそごにょごにょと交渉を始める。やがて聞こえたピーピーの声と、悲鳴を上げてカメハウスのトイレに駆け込むウーロンに、悟空は憐れみを禁じ得ない。

 

 そうして、しばらくして、物陰からブルマが出てきた。否、気が読める悟空はすぐに分かった。あれはブルマそっくりに化けたウーロンだ。ウーロンが化けた相手は豚っ鼻で本物より身長が低いと低クォリティなのだが、このブルマは実に上手に化けられていた。

 

 ・・・なぜかバニーガール姿であるのを除けば。

 

 そうして早速、うひょぉぉぉっ着替えるとは聞いとったがこれはええのぉぉっ!と鼻の下を伸ばす亀仙人に歩み寄ると、とんでもない提案をしてきた。

 

 “パフパフ”、である。

 

 未来のベジータが、ウーロンをチャーシューかトンカツにしたがる罪状がまた増えたなあ、と悟空が遠い目をするのをよそに、満足ゆくほど“パフパフ”を味わった亀仙人が、鼻の穴に真っ赤になったティッシュを詰め込んで、もう死んでもいいと昇天直前のような心地でつぶやいていた。

 

 バニーガール姿のブルマが物陰に引っ込んだ直後、ボカッという殴られた音がした。たぶん、やりすぎだと本物のブルマが文句をつけたのだろう。

 

 ともあれ、改めて三星球は手に入り、ブルマはご満悦だ。

 

 だが、亀仙人は“パフパフ”をいたく気に入ったらしく、これだけでは釣り合わないから、とほかにも渡そうとしてくれた。

 

 ただ、そこからは大体悟空の記憶にある通りで、不死鳥は食中毒で亡くなっており(不死鳥なのに!)、芭蕉扇はワンタンの汁をこぼしたから捨てた、じゃあこれだな、と筋斗雲が呼び出された。

 

 そして、筋斗雲は案の定悟空しか乗れず、悟空の持ち物となった。

 

 そうして、今度こそパンジィが自分の要件――グルメス公国を圧政から救ってほしいと切り出した時だった。

 

 だが、亀仙人は今一つ気乗りしなさそうだった。そうだろうな、と悟空は思う。

 

 食い下がるパンジィに、ここで悟空が声を張り上げた。

 

 「隠れろっ!」

 

 バリバリというプロペラ音とともに現れたのは、機関銃とミサイルを備え付けた戦闘ヘリだった。例にもれず、カトラリーを携えた蝙蝠の紋章を張り付けて、ドラゴンボールをよこせと要求してくる。

 

 「もしかして、あいつらもドラゴンレーダーを持ってるの?」

 

 真っ青な顔で震えてつぶやくブルマは、急ぎ亀仙人を振り返った。

 

 「か、亀ちゃん、さっきのやって!」

 

 「そうしたいのはやまやまなんじゃが・・・すまんのう、ガス欠じゃ」

 

 「ガス欠ですってぇぇ?!」

 

 ひょうひょうという亀仙人だが、その言葉を嘘ではないと悟空は見抜いていた。先ほどのかめはめ波を撃ち出したせいで、かなり気を浪費してしまったのだろう。平気そうに見えるが、常人であれば疲労で動けなくなっていることだろう。

 

 ならば、と悟空は動いた。

 

 狭い山の中で、気功波の練習を控えていたので、こちらに来てからの使用はこれがぶっつけ本番となるが、仕方ない。

 

 右足を引いて、両手首を合わせて腰元に置く、独特のタメ動作。

 

 「かぁぁぁぁ、めぇぇぇぇ、はぁぁぁぁ、めぇぇぇぇ」

 

 練り上げた気を、両手に集中・凝縮させる。青白い光が両手の中からあふれ出し、独特の手ごたえが生まれる。

 

 「波ぁぁぁぁぁっ!!」

 

 突き出された両掌から青白い極光が放たれ、戦闘ヘリを吹き飛ばした。

 

 かろうじてパイロットは脱出したらしく、紫のパラシュートが見えた。

 

 全盛期と比べれば、やはり微々たる威力でしかない。もっと修業を積まなければ。内心でそう反省する。

 

 「うそぉ・・・」

 

 「・・・今の、爺さんと同じくらいじゃなかったか?」

 

 「んなあほな・・・」

 

 目を点にして、パクパクと口を開け閉めするほかのメンバーをよそに、亀仙人もまた、サングラスの奥の目を点にしていた。

 

 まさか、亀仙流の奥義を、出会ったばかりの子供(話を聞けば、弟子にあたる孫悟飯の養い子という)が、使いこなして見せるとは。

 

 いったい何者なのだろうか?

 

 子供本人はどこか不服そうな様子で、手を下ろしている。

 

 ともあれ。どうにか気を取り直した亀仙人は、告げた。

 

 それだけの力があれば、皆で力を合わせれば何とかなるだろう、と。

 

 悟空に後日、修行を付けてやる約束をしながら。

 

 

 

 

 

 グルメス公国についたのは、2日後のことだった。

 

 カメハウスを後にした一行は、悟空とパンジィは筋斗雲に乗り、他メンバーはブルマの出したジェット機に乗っている。

 

 高速で飛行する乗り物に乗っているとはいえ、カメハウスを発ったのは夕刻で、悟空の胃袋事情もあり、到着に時間がかかったのだ。

 

 荒れ果てた荒野、廃墟と変わらない街並みの先に、立派な石造りの城がそびえている。グルメス城だ。

 

 念のため、一同は突入前に作戦を立てていた。

 

 ドラゴンボールの強奪(どうせろくなことに使わないだろう。その前にこっちが奪ってしまえばいい)。かなうなら、公王の暴虐の証拠を集めて、中の都の国王に直訴。

 

 これが妥当だろう、と。

 

 ブルマの持つドラゴンボールの反応を認めてか、城の周りには戦闘ヘリ部隊や戦車が陣取っていた。

 

 カメハウスへの襲撃を考えると、グルメス公国の臣下たちも、精度こそ劣れどドラゴンレーダーを持っていると考えるべきだろう。

 

 すでに、こちらの持つ二星球と三星球を除いた5つのボールは、グルメス城に集められているらしい。となれば、残りを持つこちらに向かってこない理由はない。

 

 ブルマの巧みな操縦テクニックでジェット機は戦闘ヘリ部隊を軽々とかわす。

 

 悟空もまた、背中にパンジィを捕まらせたまま、城の城壁内部に飛び込んだ。

 

 どこか窓から侵入できないかと、筋斗雲を飛ばしていると、大きな影が隣に並ぶ。

 

 棍棒を持った巨漢の兵士が、フライングホイールに乗って悟空目がけて襲い掛かってきた。

 

 とっさに悟空は如意棒を引き抜いて応戦した。

 

 パワーとリーチは相手の方があるかもしれないが、スピードと旋回能力はこちらの方が上だ。

 

 とはいえ、こちらには非戦闘員のパンジィがいる。悟空はパンジィをかばいながら、如意棒を操って巨漢の振るう棍棒を裁く。

 

 そして、一瞬のスキをついて、悟空は巨漢の足の隙間に如意棒を差し込み、そのまま降り薙いだ。足払いだ。

 

 フライングホイールの上で、巨漢がバランスを崩す。そのまま彼は城の頑丈な石造りの壁目がけて墜落した。

 

 そして、そのすきに悟空はパンジィの腕を引いて適当なバルコニーから城に入り込んだ。

 

 ジェット機から降りたブルマとヤムチャ、ウーロンとプーアルも無事城にもぐりこんだらしい。気が順調に移動している。

 

 悟空は如意棒を背中の鞘に納め、パンジィを背にかばいながら駆け出した。

 

 レッドリボン軍の本部を襲撃したことを思い出す。歴史をたどるならば、あれもいずれやらねばならない。

 

 もっとも、今は目の前の問題解決が先だ。ドラゴンボールを奪う。四星球を取り返す。

 

 まずはレーダーを持つブルマと合流しなければならない。だが、階段を駆け下りた悟空は舌打ちして、パンジィを突き飛ばして拳を構えた。

 

 石壁を突き破って、巨漢の男が出てきた。ボロボロだが、こん棒は健在だ。しつこい。

 

 だが、かなりダメージが入っていたのだろう、よく見れば体はふらついている。

 

 如意棒は長物であるため、こんな狭い場所で振り回すのは不向きだ。こういうところでは小柄な体躯のスピードこそ、何よりの武器になる。

 

 棍棒を振り上げる男に、悟空はその攻撃を軽々とよけ、飛び上がる。そのまま強烈な一撃を顔面にお見舞いし、今度こそノックアウトさせた。

 

 そうして、着地した悟空は改めてブルマの位置を探ろうとした時だった。

 

 「何?!」

 

 急激な気のふくらみを感知して、彼は振り向いた。廊下の奥から、何か獣のような咆哮がこだまする。

 

 元々、この城の一角には不安定に揺らめく気の塊があったが、それが突然爆発的なふくらみを見せた。

 

 猛烈な胸騒ぎを覚える。あの気の大きさからして、今の自分が全力を出してどうにかなるだろうか?

 

 首を振って、悟空は拳を握りしめる。

 

 どうにかなる?どうにかするのだ。いつだってそうしてきた。これからもそうするのだ。

 

 「行くぞ!パンジィ!」

 

 「う、うん!」

 

 悟空の言葉に、パンジィがうなずいた。そのまま二人は、奥に向かって駆け出した。

 

 最奥の扉を悟空がけ破りたどり着いたのは、長テーブルに占拠された広間だった。

 

 その奥に、何やらぶよぶよした体躯の奇怪な怪物が座っている。大広間の天井につかえんほどの、小山のような大きさだ。

 

 兵士の一人が、公王様!と叫んでいる。

 

 悟空は、これが?!と内心驚愕した。この世は摩訶不思議なことが多いと知っていたが、美食の限りを尽くした王様がこんな怪物になり果てるとは。

 

 「そんな・・・!

 どうなってるの・・・?!」

 

 後ずさるパンジィをよそに、悟空はとりあえず身構えた。

 

 太い舌で口の周りをなめまわしながら、公王は太い腕を振り回し、巨大な体躯で轢きつぶさんと向かってくる。

 

 とりあえず受け止めようとしたが、悟空は小石か何かのように弾き飛ばされた。

 

 「くっ!」

 

 だが、悟空はとっさに受け身を取って天井に足を付けると、そのまま公王目がけて飛び出した。

 

 拳を、ケリを、肘を、連続で仕掛ける。

 

 だが。

 

 効いてねえ!

 

 悟空は内心で舌打ちした。公王の体は、まるでゴム風船でできているように衝撃を吸収してしまうのだ。

 

 悟空がもう少し強ければ、あるいはその吸収できる衝撃以上の攻撃を繰り出せただろうが、今の未熟さでは無理だ。

 

 かめはめ波は?多分弾かれる上、それを出したら自分はガス欠に陥って動けなくなる。

 

 そう、またしてもサイヤ人の燃費の悪さが、悟空をじわじわと窮地に追いやりつつあった。

 

 一応、ここに乗り込むまでに腹ごしらえはしてきたはずなのに。

 

 ここで、外が騒がしくなる。

 

 大広間まで乗り込んできたブルマが、またしてもギャーっという色気ない悲鳴を上げている。

 

 ウーロンは腰を抜かしていた。

 

 ヤムチャとプーアルは・・・なぜか少し離れたところにいるようだ。何をやっているのだろうか?確かあの辺りは、やたらピカピカ光る赤い石が大量にあった部屋だったはずだが?一応、こちらに向かってきているようではあるが。

 

 「ブルマ!ドラゴンボールは?!」

 

 こうなれば、神龍に頼るしかない。

 

 悟空はそう当たりを付けて、公王をにらみつけたまま叫んだ。

 

 いくらなんでも、あの怪物が神の力を超えるなんてことはあるまい。神龍に頼んで、公王を元の人間に戻してもらえば、まだ勝ち目はある。

 

 「え?ええっと・・・ま、まさか」

 

 急ぎレーダーを取り出して確認するブルマは、すぐさまひきつった顔を公王に向けた。

 

 トクンッと脈動するように、鮮やかなオレンジの光が公王の腹から放たれる。

 

 「腹の中・・・!?

 あいつ、ドラゴンボールを飲み込んじゃってるんだわ!」

 

 「ええぇぇっ?!」

 

 ウーロンが絶望に満ちた声を上げるのをしり目に、悟空は公王の繰り出す攻撃をどうにかよけながら叫んだ。

 

 「ブルマ!ボールだ!神龍を喚ぶんだ!」

 

 「わかったわよ!イチかバチか!」

 

 悟空の怒声にこたえるように、ブルマはドラゴンボール二つが収まったポーチを外すと、勢い良く振りかぶって怪物公王目がけて投げつける。

 

 それはだらしなく開かれた口の中に放り込まれ、そのまま喉奥まで滑り込んだらしい。ゴクリっという嚥下音が聞こえた。

 

 そのままブルマは叫んだ。

 

 「出でよドラゴン!そして願いをかなえたまえ!!」

 

 直後。公王の腹が黄金に輝く。

 

 この世のものとは思えない恐ろしい悲鳴とともに、公王の口腔から放たれた黄金の光が城の天井を突き破り、空に広がった。

 

 蒼天が不思議な黒雲に覆われ、黄金の光がとぐろを巻きながら、ペリドットから削り出されたような鱗と鬣を持った龍へと変幻した。

 

 悟空はそれを知っている。ずっと見てきた。そして、己の片割れにすらなった。もっとも、今は引き裂かれ、また別々の存在となってしまったけれど。

 

 また、末永く、この存在に頼ることになるのだ。

 

 「さあ、願いを言え。どんな願いでも一つだけかなえよう

 

 紅玉のような双眸で一同を見下ろしながら、厳かな声で神龍は言い渡す。

 懐かしく思いながら見上げる悟空に対し、呼び出したはいいものの、その存在に圧倒されてか、誰もパクパクと口を開け閉めするか、あうあうと言葉にならないうめきをこぼすだけだ。

 

 否。部屋の片隅にいたパンジィが転がり出るように進み出て、叫んだ。

 

 「リッチストンなんかいらない!私の故郷を、元通りにして!!」

 

 「たやすいことだ

 

 長いひげを揺らめかせながら、神龍はその赤い双眸を光らせた。

 

 すると、地中に埋まっていたと思しきリッチストンが、次々と地表に浮き上がってくると、きらきらした光の粒になって消える。そして、光の粒が降りかかった地面が光り、草木が芽吹き、家々が修復されていく。泥水で澱んでいた池や湖が、瞬時に澄み渡り、魚が泳ぎ始める。

 

 住民たちが奇跡だ、とつぶやくのをよそに、神龍は厳かに告げる。

 

 「願いはかなえてやった。さらばだ

 

 同時にその姿が金の光と化して消え、ドラゴンボールが高く天に舞い上がると、そのまま7つの流星となって飛び散ってしまった。

 

 「あ」

 

 悟空は思わずうめいていた。

 

 四星球。そうだ、ドラゴンボールは願いをかなえたら飛び散って、世界中にランダムに散らばってしまうのだ。しかも、1年間の失効期間ということで石になって。

 

 こちらでは形見ということではないのだが、やはり悟空と悟飯老を結び付けてくれた宝物ということで、四星球には思い入れがある。

 

 うっかりしていた。四星球はもう、はるか彼方に飛び去ってしまった。

 

 失効期間が明けたら、またブルマにドラゴンレーダーを借りてボール探しの旅に出なければ。

 

 ふと、悟空が視線を動かすと、公王がいたところに、一人の男が倒れていた。素っ裸の男は、かろうじて公王の面影がある。パンジィの願いのためか、はたまたドラゴンボールの光を直接浴びたためか、いずれにせよ元の人間に戻ったらしい。

 

 「ああー・・・かっこいい恋人が・・・!」

 

 「女が・・・!」

 

 「「ん?」」

 

 口々にうめいていたブルマとヤムチャは、パチンっという音がしそうな勢いでお互いを見やる。

 

 ウーロンもどこか口惜しそうだった。・・・まあ、ギャルのパンティより先ほどの願い事の方が、確実に六星龍は報われることだろう。

 

 そうして、奇跡に騒ぐ民衆たちと、茫然とする公国軍をしり目に、悟空たちは退散することにした。

 

 悟空は筋斗雲で一度パオズ山の庵に戻り、そのまま亀仙人へ弟子入りするつもりだ。

 

 歴史をたどるというのもあるが、封印された力を取り戻すためには修業が必要だ。いい機会だ。基礎から徹底して鍛えなおそうと考えたのだ。

 

 他のメンバーはジェット機に乗って、西の都に向かうらしい。

 

 一応、失効期間と四星球の行方についてブルマに聞き出し、(願いをかなえた後のことを隠していた彼女はきまり悪そうにしていた)1年経ったら探すから、その時にドラゴンレーダーを貸してほしいという約束を取り付けた。これで、天下一武道会の後、レッドリボン軍の壊滅がてらのボール探しの旅ができるようになる。

 

 パンジィ、元気でな。

 

 こちらを見上げて大きく手を振る少女に手を振ってから、悟空は改めて筋斗雲を飛ばした。

 

 

 

 

 

 「あっ!」

 

 筋斗雲の上で、今度こそ悟空は声を上げていた。

 

 チチ!出会ってない!

 

 猛烈な勢いで、悟空は考えだした。うんうん唸りながら、筋斗雲の上で腕組みして考える。

 

 そもそも、本来であれば、己の嫁となるチチとは最初のドラゴンボール探しの旅で出会うはずだった。炎に覆われたフライパン山の火を消すために、芭蕉扇を求めてカメハウスに向かおうとしていたところを出会うことになるのだ。

 

 当時、男女の見分けのつかなかった自分が“パンパン”したことがきっかけだったのだろうか、その別れ際に「大きくなったら嫁にもらいに来てくれ」と言われ、嫁の何たるかがわかってない自分が「もらえるもんならもらいに行く」と答えたのだ。

 

 その後、根無し草のごとく修行旅でフラフラする悟空は、たまにチチと顔を合わせた。リンゴの木の下で、デートという名の組み手をした。

 

 そして、第23回天下一武道会で再会するまで、悟空は彼女の存在を忘れていた。(何しろ、ピッコロ大魔王との戦いやら神殿での修行やらでそれどころではなかった)

 

 再会したらしたで、約束だからとそのまま電撃結婚してしまったのだ。

 

 武道会が終わった後、悟空はチチとともに牛魔王の住むフライパン山に向かい、式を挙げ、パオズ山に居を移すことになった。もっとも、そこに行きつくまでにまた紆余曲折の道行きがあったのだが(そのおかげで、悟空とチチは距離を詰められたのも確かだ)。

 

 それからウン十年。自分で言うのもなんだが、こんなろくでもない(そしてハチャメチャすぎる)夫に、よく尽くしてくれたものだ。彼女には感謝しかない。

 

 今となっては、彼女が嫁にならない人生などありえないと断言できるほどだ。

 

 だが、今、そのきっかけとなるはずのドラゴンボール探しの旅が終わってしまった。まだ、出会ってすらいないのに。

 

 どうしよう。このまま、チチが別の男の嫁になる?そんなのだめだ!

 

 ぶんぶんと悟空は首を左右に振って、考えたくもない想像(飛躍しすぎかもしれないが、普通の恋愛ステップを知らない悟空は至極まじめだった)を振り払う。

 

 まだ間に合うかもしれない。フライパン山に行ってみよう。

 

 そう考えた悟空は、筋斗雲を方向転換させる。向かうは、ウェストエリア、フライパン山だ。

 

 

 

 

 

 はあはあと彼女は息を切らして走っていた。

 

 背後からは、荒野に生息する恐竜が、よだれを垂らしながら追いかけてきている。

 

 「あんれぇぇぇ!助けてけろぉぉぉ!」

 

 必死に叫ぶが、この荒野にまともな人間がいるはずがないのを、彼女はよく知っていた。

 

 転んだ時に護身用のヘルメット(額の宝石から怪光線が放て、頭部のモヒカン状のパーツがカッターブーメランとなる凶悪な代物)が脱げてしまい、そのまま逃げ回っていた。

 

 だが、いくら少女が父親から武術の手ほどきを受けて体力があったとしても、限界はあった。

 

 とうとう転んでしまった少女に、よだれを垂らす恐竜が、哀れな獲物目がけて牙を振り下ろそうとした時だった。

 

 突然轟音が轟いた。

 

 少女がうずくまったまま振り返ると、自分のすぐ前に少年が立っているのに気が付いた。いつやってきたのだろう?

 

 武術をやっているのだろうか?浅葱色の合わせを白い帯でまとめ、腕には薄桃のリストガード。芥子色の脚衣に、白い脚絆と黒い靴。背中に鮮やかな丹塗りの棒を背負っている。その尻からサルのような土色のしっぽが生えていた。

 

 少女と同い年か、あるいは少し幼いくらいの少年だろう。ツンツンと左右にはねた独特の黒髪をしている。

 

 右に拳を握り、左手で距離を測るための指構えを取るのは、確かに拳法家特有のポーズだ。

 

 何かに吹き飛ばされた――実際は、少年に蹴飛ばされたのだが、少女はそこまで見ていない――恐竜は、怒り狂った様子で少年目がけて襲い掛かった。

 

 「危ねえ!」

 

 少女が叫んだ時には、少年の突き上げるような飛び上がりざまの拳が、恐竜の顎を砕いていた。

 

 泡を吹いて、そのままひっくり返る恐竜をよそに、スタッと少年が軽々と着地する。黒髪と道着の裾が翻るのを、少女は呆けた様子で見つめていた。

 

 直後。恐竜の咆哮のような巨大な音がこだました。

 

 「な、何だべ?!」

 

 急ぎ立ち上がって周囲を見回す少女に、少年が振り向いて苦笑しながら言った。幼さの残るかわいらしい顔立ちだが、よく見れば整っている。

 

 「オラの腹の音だ・・・」

 

 「へ?」

 

 間の抜けた声を出す少女。

 

 これが、この世界における孫悟空と、牛魔王の娘チチの、ファーストコンタクトとなった。

 

 

 

 

 

 香ばしく焼ける肉の匂いに、悟空は喉を鳴らした。みっともないので、こぼれそうになるよだれを我慢してのことだ。子供(&孫)の教育に悪い!と嫁に長年にわたって調教・・・基、教育された結果である。

 

 ぶちのめした恐竜を、気をまとわせた手刀で解体し、集めた薪に気弾で火をつけて、焼き上げているのだ。

 

 解体模様にチチは悲鳴を上げて顔を背けていた。今は、解体された死骸から、目を背け、悟空と一緒に焼けあがる肉をのぞき込んでいる。

 

 そんなに怯えることもないだろうに。動きもしないものを、なぜ怖がるのだろうか?悟空にはそこがよくわからない。未来の嫁は、悟空がとってきた怪魚どころか、大猪に恐竜まで、せっせと解体&調理をやってのけるというのに。

 

 まだそこまでの度胸が付いていないのかもしれない。

 

 そんなことを思いながら、悟空は焼きあがった肉にかぶりついた。塩コショウ?そんなものはない。(無慈悲)素材の味、と言えばそうだが。

 

 うめえうめえと、がつがつと肉をほおばる悟空は、「おめえも食うか?」とチチに肉を進めてみたが、微妙な顔をされて「おらはいいだ・・・」と断られてしまった。

 

 腹が減ってないのかもしれない。無理に食べさせることもないだろうと判断した悟空は、「そっか」と一言で流し、再び頬袋に肉を詰め込む作業を再開した。

 

 グルメスでも動き回って、いい加減腹が減っていた。この後のことを思うと、腹は満たしておくに越したことはない。

 

 戦闘民族サイヤ人は、戦うために大量のエネルギーを必要とする。そろいもそろって食欲魔人なのだ。たとえ半人前にも満たない子供であろうとも。

 

 巨大な恐竜の死骸の半分近くの肉(処理が面倒な内臓を除く)を食らいつくし、悟空は満腹になった腹をさすった。

 

 「ひゃー、食った食った!」

 

 「おめえさん、よく食うだなあ」

 

 「まあな」

 

 目を丸くするチチに、悟空はニカッと笑って見せた。食べかすで汚れた顔に、チチはややあってクスッと笑う。

 

 「そこ、汚れついているだよ。ちょっとじっとするだ。とってやるだよ」

 

 「お?サンキュー!」

 

 昔の悟空であれば、おそらく嫌がるか、自分で拭いたことだろうが、そこは人生一周済みの悟空である。実年齢50過ぎで、孫までいる男は、素直に嫁(未来の)の世話になることにした。

 

 「オラ、孫悟空だ。おめえは?」

 

 「おらはチチ。この先のフライパン山に住んでる牛魔王の娘だ。

 いうのが遅くなっただな。さっきは助けてくれてありがとうな」

 

 そうして、一段落ついたところで、岩の上に座った二人は改めて話し出した。

 

 チチは、案の定カメハウスに芭蕉扇を借りに行く旅に出たところだったらしい。

 

 親子でピクニックに出て、帰ってきたところで城のある山が火事になっており、何をやっても火が消えないので、仕方なくそのふもとで暮らしていること。

 

 消えない火事に囲まれた城という噂に不届き者が後を絶たず、牛魔王がそれらを追い払っている(チチはそう説明していた)こと。

 

 城には牛魔王の宝物以外にも、亡きチチの母の形見があり、何とか火事を止めたいこと。

 

 それを聞いて、悟空は思い出した。

 

 嫁と挙げた結婚式で、彼女がまとったドレスも、母親の形見だったという。当時の自分はその大切さが今ひとつわからなかったが、きっと己にとっての四星球のようなものだったのだ。

 

 形見は大事だ。かつて、牛魔王はそのドレスを守るために逃げ遅れて、火事の中城に取り残されてしまったほどだ。

 

 「よぉし!」

 

 悟空は決めた。きっと、今の自分なら!

 

 「オラが火を消してやる!」

 

 「え?!だども、武天老師様の芭蕉扇でねえとダメだっておっ父が・・・」

 

 立ち上がった悟空に、チチは不安と不審がないまぜになったような視線を悟空に向けてくる。

 

 「亀仙人のじっちゃん、芭蕉扇無くしたって言ってたぞ。ワンタンの汁こぼして捨てちまったからって」

 

 「おめえさん、武天老師様のこと、知ってるのけ?」

 

 「ああ!修行付けてもらう約束もしてんだ!」

 

 悟空は大きくうなずいて続けた。しかし、それでも不安そうなチチに、悟空はならばと切り出した。

 

 「じゃあ、こうしようぜ!

 一回でいいから、オラに火を消させてくれ。それでだめだったら、亀仙人のじっちゃん所に相談しに行く。どうだ?」

 

 「・・・んだら、おっ父に訊いてみるだ」

 

 根負けしたか、チチがこっくりとうなずいた。十分だ。

 

 「よぉし!それじゃ、牛魔王のおっちゃんのところに行くぞ!筋斗雲よーい!」

 

 悟空の呼び声にこたえて、彼方から黄色い雲が尾を描きながら飛び込んできた。ふわふわの綿あめのようなそれに、悟空はぴょんと飛び乗り、チチに向かって手を差し出した。

 

 ・・・別に単純にレディーファーストの精神が悟空にあるわけではなく、以前嫁と一緒に筋斗雲に乗っていたときに、そういう風にしていたら癖になってしまっただけだ。(あとは、また尻尾を手すり代わりにされてはたまらない。鍛えていても敏感なのだから)

 

 「さ!乗れよ!」

 

 「お、お邪魔するだ・・・」

 

 目を白黒させながらも、チチはその手を取って、おずおずと雲に足を乗せた。

 

 ふわふわの雲はしかとチチの体躯を支えてくれた。この雲は、清い心の持ち主でないと乗れないのだ。

 

 「しっかりつかまってろよ!飛ばすぞ!行くぞぉっ!筋斗雲!」

 

 「ひゃあっ!」

 

 悟空の号令とともに、黄色の雲が軌跡を描きながら勢いよく青空に飛び出した。

 

 とっさにチチは悟空の肩につかまった。

 

 すると、何かくすぐったいものが自分と悟空の間にあることに気が付いた。それは柔らかな毛に包まれた土色のしっぽだ。

 

 チチの格好は、父親が用意した一張羅ということで、いわゆるビキニアーマーである。

 

 肌の露出面が多く、そのため尻尾が当たってくすぐったいと思ってしまったのだ。

 

 そのままチチは好奇心のままに尻尾に手を伸ばそうとした。

 

 「悪いけど、尻尾には触らないでくれ」

 

 「え?!」

 

 振り向きもせずに言った悟空に、チチは目を丸くした。どうしてわかったんだろう!

 

 「なしてわかっただ?」

 

 「修行詰んでるからな。

 オラの尻尾は、チンとかタマみてえに大事なとこなんだ。ええーっと・・・大事な奴にしか触らせねえらしいんだ」

 

 しれっと言いながら、悟空は説明する。

 

 正確には、サイヤ人は求愛の際にパートナーとなる異性に尻尾をゆだねる風習がある、とベジータが言っていたのだ。ベビーとの戦いを経て、復活した悟空の尻尾を珍しがる周囲(主に息子以降の若い世代)にそういう風習があるから、気軽に触らせるなとたしなめていたのだ。

 

 気軽に尻尾を触らせるのは、軽薄で下品な行為だと眉をひそめて付け加えていた。

 

 あれでもかなり丸くなった物言いだった。彼がもう少し若ければ怒声や罵倒文句を添えていたことだろう。

 

 悟空はサイヤ人の風習に特にこだわりのある方ではない(むしろどうでもいい)が、性器と似たようなものだと顔を真っ赤にしながら付け加えられたベジータの一言に、ああ、なるほどと納得した。それは、確かになあ。ベジータが嫌がるわけだ。

 

 鍛えて握られても脱力しないようにしたとはいえ、性器のような場所を不用意に触ってほしくはない。いくら未来の嫁であろうとも。

 

 「そうなのけ?すまなかっただ・・・」

 

 「いいよ。たいしたことじゃねえさ」

 

 「都会の男には、みんなしっぽが生えてるだか?」

 

 「いやあ、オラだけだ。ほかのやつには尻尾なんて生えてねえし、珍しかったんだろ?ブルマも珍しがってたしな!」

 

 何気にチチも世間知らずを炸裂させていたが、悟空は特に気にしなかった。何しろ、悟空の方が数倍もの知らずなうえ、だいたいのことを「ま、いっか」で流してしまう・・・よく言えば度量が広い、悪く言えば大雑把な性格なのだから。

 

 ゆえに、悟空は気にしなかった。チチは頬を赤くして、悟空にしがみついたままうつむいたことを。

 

 自分とくれば、好奇心だけで人様の大事なところを触ろうとしたのだ!なんとはしたない!これは責任を取らねばならない。

 

 いささか飛躍しすぎの思考だが、天然で乙女回路搭載のチチを止められるものはいない。

 

 そうして二人が話していると、筋斗雲は炎に囲まれたフライパン山のふもとに到着した。

 

 牛魔王はすぐに見つかった。常人よりもはるかに大きな体躯は、亜人の血が入っているのだろうか。

 

 悟空としては、嫁と結婚する少し前からの穏やかな印象が強かった(何しろ、その後数十年そのままだった)が、今は財産目当ての強盗を返り討ちにしまくる悪行三昧真っ最中らしく、斧を片手にしたパンクな格好をしていた。

 

 悟飯が生まれるまでには何とかしてもらいたいな、とひそかに悟空は思った。幼少、泣き虫だった長男が、今の牛魔王を目の当たりにしたら大泣きして、そのままパワーを爆発させかねない。あの子は、ピッコロに修行を受けなかったら、そのうち癇癪でとんでもない事故を発生させていた可能性もあったのだから。

 

 「ん?!あれは・・・?!」

 

 降下してきた筋斗雲に牛魔王が驚く中、悟空は先に雲から降りて、続けてチチに手を伸ばして、降りるのを手伝ってやる。

 

 「チチ?!芭蕉扇は?!武天老師様には会えなかっただか?!」

 

 「おっ父!まずは話を聞いてけれ!」

 

 目の当たりにした愛娘に矢継ぎ早に尋ねる牛魔王をさえぎって、チチは説明しだした。

 

 途中で悟空に会い、助けてもらったこと。(ここで牛魔王は悟空に大げさなほど礼を言った。やはり根はいい人らしい)

 

 悟空は亀仙人の知り合いで、芭蕉扇が捨てられたことを知っており、それを教えてくれ、自分が火を消すと言い出したこと。

 

 「火を消す?!おめえさんが?!んだども、あの火はちょっとやそっとじゃ消えねえんだぞ?!」

 

 仰天して、牛魔王は悟空と異常な火に囲まれたフライパン山を見比べた。

 

 もとは涼景山と謳われた美しい山であったが、今や地獄の炎にかけられた鍋底同然と、いつの間にかフライパン山と呼ばれるようになってしまった。

 

 ふもとにあった村も、危険だからと牛魔王が村民たちを避難させ、城の宝を守るために牛魔王とチチの親子だけがここにいるのだ。

 

 何をやっても火は消えない。牛魔王の知る限り、その火をどうにかできるのは、武術の師たる武天老師の芭蕉扇しかない。

 

 「だからさ、一回だけでいいからオラにやらせてくれ。それでダメだったら、亀仙人のじっちゃん所に行けばいいだろ。筋斗雲なら一っ飛びさ!」

 

 悟空は改めて言う。

 

 悟空と亀仙人のつながりは、筋斗雲が証明してくれる。芭蕉扇のことを知る牛魔王は、当然筋斗雲のことも知っているはずだ。

 

 「だどもなぁ・・・」

 

 牛魔王は、今一つ信じがたい様子で、悟空を見下ろした。

 

 自分の娘とほぼ変わらないか、あるいは幼いぐらいの少年があの火を消すなんて、何の冗談だ?とでも言いたげだ。

 

 しばらく考えたが、ややあって牛魔王は結論を出した。

 

 「まあ、ええだ。やるだけやってみてけれ」

 

 「おっ父!」

 

 牛魔王の言葉に、チチはぱあっと表情を輝かせた。

 

 それを見て、牛魔王は苦笑した。目に入れても痛くないほど可愛い娘は、この短い間に、すっかりあの少年に気を許したらしい。

 

 「サンキュー!牛魔王のおっちゃん!そんじゃ、チチも一緒に離れててくれ」

 

 「お、おお」

 

 二っと笑った悟空にうなずいて、牛魔王とチチは少し離れたところにある瓦礫の山の陰に行こうとした。

 

 「そこじゃなくて、もうちょっと向こうに行っててくれ。うん、そんくらいかな」

 

 悟空の指示に従って、さらに離れた場所に親子が移動したのを確認してから、改めて悟空は炎の渦巻く山に向き直った。

 

 できるはずだ。今の自分なら。集中しろ。気を練り上げて、フルパワーでぶちかませ。

 

 一つ息をついて、悟空は姿勢を正す。両足を軽く広げ、両の拳を腰元に置き、目を閉じて気を高める。

 

 「はぁぁぁぁぁ・・・!」

 

 白いオーラが悟空の周囲で渦を巻く。風もないはずなのに、悟空の黒髪と浅黄色の道着の裾をなびかせた。

 

 「な、何だべ・・・?!」

 

 「悟空さ・・・?」

 

 物陰の牛魔王とチチが息を飲むのをしり目に、目を開けた悟空は次の動作に入る。

 

 「かぁぁぁぁ」

 

 右足を引きながら、両手首を合わせ、腰元へ。

 

 「めぇぇぇぇ」

 

 ヴンッと、その両掌の中で青白い光の塊が生まれる。

 

 「はぁぁぁぁ」

 

 悟空の両掌の中で、青白い光がさらに輝きを増していく。

 

 「めぇぇぇぇ」

 

 悟空の幼い双眸は、鋭さを帯びて炎に覆われた山を見据えた。

 

 「波ぁぁぁぁっ!!」

 

 突き出された両掌から、青白い極光が放たれる。グルメスの戦闘ヘリを吹き飛ばしたものよりも、さらに太く長く、エネルギーに満ちたものだ。

 

 気を高めて、めいいっぱいのタメ動作からの一撃だ。これが、今の悟空にできる全力だ。

 

 衝撃波に吹き飛ばされそうなチチは、かばい守ろうとする牛魔王にしがみついた。

 

 極光が止むと同時に、悟空は大の字にひっくり返ってぜえぜえと息を切らしていた。

 

 気をほとんど使いきってすっからかんになってしまった。まだまだ修行が必要だ。

 

 青空を見ながらどうにか息を整えた悟空は、のろのろと身を起こした。

 

 「どうだっ・・・火、消えただろ・・・?」

 

 がれきから呆然と身を現した牛魔王とチチを振り返って、悟空は何とか笑みを浮かべて見せた。

 

 「ああ・・・」

 

 のろのろと牛魔王はうなずいた。

 

 「火どころか、山も城も、何もかんも消し飛んじまった・・・」

 

 「いいっ?!」

 

 呆然自失で紡がれた牛魔王の言葉に、悟空は急ぎ山の方を振り返った。

 

 確かに、火は消え去っていた。かめはめ波に薙がれた後で、煙をくすぶらせているだけで。

 

 そして、山も城もきれいに吹き飛んでいた。辛うじて、山の裾がその名残を残しているだけだ。

 

 「や、やりすぎた・・・!」

 

 顔を引きつらせて悟空はうめいた。

 

 自分のパワーを図り間違えた。

 

 今の自分は祖父に修行を付けてもらっていたし、気のコントロールの修行もやって、以前のこの時期の自分よりも強い。さらに、戦えば戦うほど強くなるというサイヤ人の特性もあり、グルメスで経験を積んだのでさらに強くなってしまった。このため、パワーを図り間違えたのだ。

 

 恐る恐る、悟空は牛魔王の隣にいるチチに視線を移した。

 

 チチはうつむいて、わなわなと肩を震わせている。

 

 「あ、その・・・」

 

 「何ってことしてくれただ?!」

 

 悟空が気まずげに何か言うより早く、チチが顔を上げて叫んだ。吊り上がった眉に、黒い瞳の奥で燃える炎。結婚生活中によく見た表情だ。すなわち、怒り。

 

 嫁は好きだが、怒り狂った彼女は苦手だ。かつて、どこぞの異空間で苦手なものとして注射とセットでけしかけられたのは、十分なトラウマだ。

 

 「よくも、とんでもねえことしてくれたな!おっ父が必死に守ってきた城も、おっ母の形見も、全部台無しでねえか!!」

 

 「その・・・悪い・・・」

 

 「悪いで済んだら、警察はいらねえべ!

 お前ぇさ、本当に悪いと思ってんのけ?!」

 

 たじたじになる悟空に、チチは食って掛かる。

 

 その黒い目が潤んだと思うと、ボロリと滴をこぼす。泣いている。

 

 言葉を無くす悟空に、チチはそのまま彼方を指さして叫んだ。

 

 「あっち行ってけろ!お前ぇなんか、大っ嫌いだべ!」

 

 そのまま彼女はわっと泣き出し、牛魔王に抱き着いた。

 

 「・・・すまねえだな。お前ぇさは一生懸命やってくれた。おらの方から感謝するべ。んだども・・・」

 

 泣きじゃくる娘の背をマント越しに撫でながら、気の毒なものを見る牛魔王に、悟空は肩を落とした。

 

 できるはずなのに、やりすぎた。力になりたくてやったことが、かえって傷つけてしまった。

 

 いつもなら、悪い悪いで軽く流せそうなことだったが、どうにもそうできそうになかった。

 

 嫁の涙には、今も昔も弱いのだ。

 

 「んじゃあ、オラ、そろそろ行くな・・・筋斗雲よーい」

 

 怒り狂った嫁は、ある程度は時間を置くしかない。逆効果になることもあったりする(その場合は大体長期戦化する)が、時間をおけば多少は怒りが収まるものだ。

 

 時間をおいて、また来よう。何か・・・嫁が好きなものは、花とか、あとは・・・果物?とにかく、そういったものをもって、謝りに行こう。

 

 チチと結婚する約束を取り付けるつもりが、とんでもないことになってしまった。こんなことで、この先うまくやっていけるだろうか。

 

 呼び出した筋斗雲の上に飛び乗って、ちらっと振り向いた。チチは牛魔王にしがみついたまま、こちらに見向きもしない。

 

 「じゃあ・・・またな」

 

 さよなら(バイバイ)だけは言えなくて、悟空はそう言うと筋斗雲を飛び立たせた。

 

 この件だけは、いつものように「ま、いっか」で流せそうにない。

 

 筋斗雲の上で、重いため息をつく悟空は首を振って気分を切り替える。

 

 チチのことはひとまず、後回しだ。

 

 亀仙人に修行を付けてもらうために、カメハウスに行かねば。

 

 そうと決まれば、一度パオズ山に戻ろう。悟飯老の顔も見たいし、布団も取りに行かねば。

 

 フルパワーかめはめ波のせいで腹が減ったが、パオズ山で獲物を取ればいい。

 

 「よぉし!行くぞ、筋斗雲!」

 

 叫んだ悟空に、任せて!というように筋斗雲は黄色の軌跡を描きながら動く。

 

 一路、パオズ山へ。

 

 

 

 

 

 続く




 ※逆行悟空の特徴 その3

 正史(この場合はアニメとか原作)、同時期の悟空よりもちょっと強いという設定です。
 本来のこの時期の悟空は、かめはめ波は撃てても鉄板に少し穴をあける程度です。(だからピラフ一味にもあっさりつかまって、どうにもできなかった)
 かめはめ波ため打ちフルパワーで、MAXパワー亀仙人のかめはめ波と同程度、ほかの能力値も、正史よりも高めです。
 悟飯じいちゃんに修行付けてもらったし、本人も効率よい修行のやり方をわかっているので、正史よりも強いのです。

Q.じゃあ、セルに勝てる?

A.さあ、どうしましょうね?
 悟空が手を下すか別人が倒すか、いずれにせよセルは倒さないと、ブウの前に詰みますので。

Q.これ、チチさんとくっつけるの?

A.わしは悟チチ派です。どうにかしてくっつけます。原作でも、しちゃめちゃであったけど、長続きしたので、そういうことなんだと思います。(今思うと、離婚されても文句言えないですぞ、悟空・・・)

Q.グルメス公国って・・・

A.劇場版ドラゴンボール第1弾の『神龍の伝説』、敵勢力です。本来はグルメス王国なのですが、正史ドラゴンボールにおいては地球は一国家として統一されているので、自治権持ってる一部地域という感じで、公国設定にしました。
 ちなみに、悟空はどうでもいいので知らないままですが、この後グルメス公国のあれこれは中の都にも伝わって、公国は解体、地球国家に接収・統治されることになります。
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