GT後の悟空が逆行して超ルートに入る話   作:亜希羅

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 今読み返すと、1話分がかなり長いですな。

 まあ、いいか。苦情が出たらまた考えます。


4.孫悟空、魔神城の眠り姫を目指す

 

 「じっちゃーん!」

 

 庭で薪割をしていた悟飯老は、はてと顔を上げる。

 

 本来は聞こえないはずの声だ。孫が旅立って、寂しくなってしまったから幻聴でも聞こえ始めたのだろうか?

 

 否、幻聴ではなかった。

 

 庭先に滑り込んできた黄色の雲の上に、旅だったはずの孫がいる。

 

 ほんの数週間前のはずなのに、孫が一回り大きくなったように見えるのは、ひいき目かもしれない。

 

 「おおっ、お帰り、悟空」

 

 にこりと笑って、悟飯老は言った。

 

 直後、恐竜のうなりのような轟音が轟いた。もう慣れた。孫の腹音だ。

 

 「じっちゃん、オラ腹減った~・・・」

 

 肩と尻尾を落として、元気をなくしていった孫に、悟飯老はにっこり笑う。

 

 さあ、久々に腕を振るって、この孫を満足させねば。

 

 

 

 

 

 飯の支度をしながら、悟飯老は悟空の冒険についての話を聞いた。武天老師とも会い、弟子入りすることになった、明日にはここを発つということも。

 

 悟空が知っているだろう未来について、興味がないといえば嘘になる。だが、それはきっと、必要以上知る必要はないだろう。

 

 そして。

 

 悟飯老は確信していた。

 

 あの邪神とやらが、自分に悟空の事情を知らせたのは、きっと。

 

 考えかけたことを心の隅に押しやり、悟飯老は食事をほおばる悟空を見やった。

 

 聞いた話、結婚もして子供も儲けたことがあるらしい孫は、あまり行儀がいいとは言えない様子で、がっついている。

 

 ・・・それが見れないのは、とても残念だな、と悟飯老は思った。

 

 もう日の沈みが近い。この後は、川で水浴びをしてから、朝飯の支度を軽くやって、もう寝なければ。

 

 「オラも手伝うぞ!じっちゃん!」

 

 にっこり笑って食器を持った悟空に、悟飯老は笑みを向けた。

 

 さて、明日にはこの孫は師たる武天老師のところに弟子入りするという。

 

 ならば、“紹介状”も持たせなければな。

 

 元々、万が一のことを考えて用意していたものだが、こういうところで役立つとは。

 

 「じゃあ、じっちゃん、行ってくる!」

 

 「気を付けてな」

 

 朝を迎え、布団と着替えに加えて、“紹介状”を持たせた悟空が武天老師からもらったという筋斗雲に乗って、青空に旅立っていく。

 

 それを見送った悟飯老は、悟空の姿が見えなくなったところで、ゴホゴホとせき込んだ。

 

 薬はどこだっただろうか?見つからないように隠していたから、悟空には悟られていないはずだ。

 

 悟空は、来年ある天下一武道会に出場するはずだから見に来てくれ、と無邪気に言ってくれた。

 

 どうか、それまでこのポンコツな体が持ってくれますように。

 

 庵に引っ込む悟飯老の背は、一段と小さく見えた。

 

 

 

 

 

 筋斗雲を飛ばし、悟空は無事、カメハウスにたどり着いた。

 

 「じっちゃーん!来たぞー!」

 

 声を張り上げるが、返事は帰ってこない。

 

 そして、こういう場合老人がどうしているか、悟空は把握している。

 

 ①寝てる。

 

 ②エロ本かスケベ映像に夢中。

 

 中から聞こえてくる、テレビの音と、「ええのう!ええのう!」という声から察するに、②が正解と思われる。

 

 覗き込んでみると、リビングのテレビの前を陣取る亀仙人が、鼻の下を伸ばしていた。

 

 モニターの中ではレオタードをまとった美女たちが、大股を広げて体操をしている。

 

 「あっほれ、ワンツー!ワンツー!」

 

 じっちゃん、元気だなー。のほほんと、悟空は思う。ぶっちゃけ、悟空は嫁以外の女性のそういうものを見ても、どうとも思わないのだが。

 

 テレビの音声に合わせて歓声を上げる亀仙人に、悟空は耳元で叫んでやろうかとも思ったが、以前それをやったことを上の息子に言ったら「耳を悪くしますからやめてあげましょうね」と注意されたことを思い出した。

 

 そのうち終わるだろう、と思った悟空は「じっちゃん、オラ飯とってくるぞ」と言い残して、筋斗雲にのせていた荷物を運びこんでから、改めて外に出た。

 

 冷蔵庫の中身は勝手に食べてはいけない。以前結婚生活中に、嫁に「今日の夕食にするつもりだったのに台無しだべ!」と怒られたので、それ以降はできるだけ自重しているし、食べるなら断りを入れるようにしている。

 

 如意棒を外して道着(祖父手縫いの、薄紫のもの)も脱いで、海中に身を躍らせる。

 

 パオズ山の怪魚に勝るとも劣らない大きな鮫を捕まえ、悟空はカメハウスの庭先に引き上げた。

 

 道着を着なおし、気をまとった手刀で解体、気弾で焚火をして焼き上げると、がつがつとほおばりだした。海水で塩味が付いていて、そこそこ行ける。

 

 「おおっ?!なんじゃ、来ておったのか・・・」

 

 「オッス!じっちゃん!」

 

 どうやらテレビは終わったらしく、外に出て伸びをする亀仙人は、悟空の存在に気が付いてぎょっとした。まさか庭先で鮫のバーベキュー(野生児風)をされてるとは思わなかった。

 

 当の悟空は、サメ肉をほおばりながら片手を上げた。

 

 「あ、そうだ!オラのじっちゃんから、渡してくれって頼まれてたんだ!」

 

 サメ肉で汚れた手を道着の裾で拭い、悟空はそのままカメハウスの中、たたんだ布団の上に置いていたものを持ってきた。

 

 「ショーカイジョー、って言ってた。渡してくれって」

 

 「ほほう?」

 

 と、悟空が渡してきたものを見て、亀仙人はサングラスをきらりと光らせた。

 

 豊満な胸の美女が、挑発的なポーズで表紙を飾るそれは・・・いわゆるスケベ本である。

 

 早速亀仙人は目を通す。

 

 「ムムム・・・これはなかなか・・・あ奴め、わかっておる・・・!」

 

 うれしげな声を出す亀仙人に、悟空はサメ肉の消化に戻りながら言った。

 

 「はあ!ふひょーふへへふれるっへふうのは?へひいりひゃへへふれるんはほ?」

 

 「うん?ちゃんと食べてからしゃべらんか」

 

 そうだった。嫁にもよく注意されてたことだ。息子たちと孫の教育に悪い!とたびたび言われてたが、こればかりはなかなか治らなかったのだ。

 

 ゴクンッと口の中を空にしてから、悟空は改めて口を開く。

 

 「なあ!修行付けてくれるんだろ?弟子入りさせてくれるんだろ?何すりゃいいんだ?」

 

 「ほっほっほっ!そうじゃったの。ワシの修行は厳しいぞ」

 

 「わかってらぁ!」

 

 エロ本片手にひょうひょうと笑う亀仙人に、悟空もニカッと笑う。

 

 「さて、それなんじゃが」

 

 亀仙人がエロ本をたたんで、悟空に向きなおろうとした時だった。

 

 食べ終えたサメの残骸(骨はさすがに食べれない)を海に投げ捨てた悟空が、彼方を見やった。額に二本指をあてながら、ぽつりと言った。

 

 「誰か来るなあ」

 

 「ほう?わかるのか?」

 

 「んー・・・あっちの方から」

 

 と、悟空は指さした。

 

 気の大きさは海中生物に紛れそうだが、感触は多分人間と同じだ。位置と移動速度から手漕ぎの船を使っている。

 

 悟空はその持ち主を知っていた。

 

 別れ際に、最後にカメハウスの庭先で組み手をした。ここで出会い、競い合い、無二の親友となり、その死が新たな扉を開かせてくれた。彼こそが、孫悟空の親友だ。

 

 一瞬、悟空が感慨深い眼差しをしたのを、亀仙人はサングラス越しの視線で見逃さなかった。

 

 やがて、姿を現した小船は、ほどよい沖合で止まると、その上にいた人物は風呂敷を片手に、そこから跳躍した。

 

 空中でトンボを切った人物は、着地を誤ったか、カメハウスの庭先の砂浜に頭から突っ込んで、じたばたしている。

 

 「何じゃ、こいつは。悟空、抜いてやれ」

 

 「うん」

 

 うなずいて、悟空は引っこ抜いた。

 

 それは、悟空と同い年ほどの少年だった。坊主頭に、額には6つの灸の痕。黄色の服は、寺院の下働き服だ。

 

 少年はパッと姿勢を正し、体についた砂をパンパンと払いのけてから姿勢を正す。

 

 「初めまして!武天老師様!わたくし、クリリンと申すものです!」

 

 自己紹介をしながら、弟子入り志願をして手土産というエロ本を渡すクリリンに、早速亀仙人はそれに目を通しだした。

 

 「ほっほーう!これはこれは!」

 

 「オッス!オラ孫悟空だ!よろしくな!クリリン」

 

 「何だ君は?君も弟子入り志願か?」

 

 片手をあげて挨拶する悟空に、クリリンは怪訝そうな目を向けてくる。

 

 悟空はと言えば、気を悪くした様子も見せず、へらっと笑う。

 

 齢50過ぎの孫持ちの男からしてみると、多少の生意気な口をきかれてもどうということはない。ついでに言えば、そういえば出会ったばかりのクリリンは、こんな感じだったなー、と懐かしくも思った。

 

 さらには、クリリンの坊主頭もまたひどく懐かしく思った。ブウとの戦いの直前で再会した第25回天下一武道会の時にはクリリンは髪を生やしていたからだ。(以降、剃ることもなかった)

 

 連鎖的に、悟空は思い出す。この出会ったばかりのクリリンの頭を見て、パチンコの玉みたいだなーと思ってしまったことを。(のちに、亀仙人が満月の代用品にしたほど、丸っこかったし)

 

 「何だ?じろじろ見て」

 

 「いやあ、やっぱパチンコ玉みてえに丸い頭だなあと思ってよ」

 

 「いきなり失礼な奴だな!武道をするものは、頭を丸めて気を引き締めるものだ!武天老師様を見てみろ!」

 

 「ワシゃただのハゲじゃ」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 

 ともあれ。改めてエロ本を閉じた亀仙人が、ゴキゴキ肩を鳴らしながら、改めて二人を見やった。

 

 「あー、弟子入りしたいということじゃったな?

 ワシの下で修業を付けてほしいなら、条件はただ一つじゃ。ピチピチギャルを連れてきてもらおう!」

 

 そういえば、そんな条件があったなあ、と悟空は思い出す。前の時、どうしただろうか?いまいちそこはあいまいだ。

 

 「ええっと・・・ビチビチギャグ?」

 

 「ピチピチギャルじゃ!かわいくてはつらつとした女の子じゃ!

 前おぬしが連れておったあの子とかな!あの子はどうしたんじゃ」

 

 「ブルマか?

 西の都に帰っちまったぞ」

 

 「何と・・・惜しいことをしたのう。もう一度でいいから・・・」

 

 肩を落とす亀仙人に、悟空はベジータに殺されるからやめとけという忠告をしたかった。だが、邪神にかけられた言動制限のせいで言えずじまいだった。

 

 「うおっほん!とにかくじゃ!おぬしたちにはピチピチギャルを、それも特別な女の子を連れてきてもらおう!」

 

 「「特別?」」

 

 聞き返す悟空とクリリンにうなずいて、亀仙人は説明しだした。

 

 曰く、はるか西にある魔神城に、その昔スケベな悪魔にさらわれた絶世の美姫がいる。その美しさときたら、目がつぶれるほどであったとか。城に囚われたお姫様は、それからずっと眠り続けているのだと。

 

 それって逆に危ねえんじゃねえかな?と思う悟空をよそに、クリリンは分かりました!と元気よく声を上げている。

 

 はて、と悟空は首をかしげた。こんなこと前はなかったような?

 

 ま、いっか。弟子入りに必要だというなら、やるまでだ。

 

 いつものごとく、あっさりと自己完結した悟空は、亀仙人が杖先で指した西の果て、悪魔の指という5つの山にあるという魔神城に向かうべく筋斗雲を呼び寄せようとしたが、自分の足で行けと禁止された。

 

 城にたどり着くまでは筋斗雲なしだ。

 

 これも修行か。クリリンは案の定、自分をライバル視しているらしく、とげとげしい視線を向けてきているが、悟空には気にならなかった。

 

 亀仙人の合図とともに走り出そうとした。クリリンに足払いをかけられそうになったが、ひょいと飛び上がってよけ、そのまま海に飛び込む。

 

 そのまま猛スピードで泳ぐ。

 

 しかし、まもなく猛スピードのクリリンが追いかけてきた。後ろに鮫をくっつけて。ギャーギャー悲鳴を上げながら。

 

 やるなあ、あいつ。悟空は目を丸くしたが、すぐに気を取り直す。負けないぞ!

 

 そのまま悟空も泳いで海を渡った。陸にわたっても、猛スピードで走り抜ける。

 

 「あっ!」

 

 断崖にかかっているつり橋を渡っているところで、突然クリリンが声を上げた。

 

 「何だ?!どうした?!」

 

 「あれは何だ?!」

 

 あらぬ方向を指さすクリリンに、悟空はそちらに目を向けた。気も何も感じないが、何かあったか?

 

 悟空が気を取られている隙に、さっさとつり橋を渡り終えたクリリンが、手刀でつり橋を落としてしまった。

 

 ああ。

 

 悟空は落下しながら、思い出す。

 

 そういえば、このころのクリリンは、こういう奴だったなあ。亀って書かれた石、横取りされて、晩飯抜きにされたんだった。なつかしいなあ。

 

 断崖の下、激しい急流にたたきつけられる直前、悟空の体がピタッと空中で静止する。

 

 舞空術だ。そのまますすすっと悟空の体は空中を移動して、崖に張り付いた。今はこれが精いっぱいだ。体力のペース配分を考えれば、この方がいい。

 

 改めて、悟空は崖を上り、再び走り出した。

 

 

 

 

 

 悟空とクリリン、二人の弟子入り志願の少年たちが姿を消したところで、亀仙人は改めて少年たちの手土産を堪能しようと踵を返した。

 

 リビングのテーブルの前に座り、悟空の持ってきた方を広げたところで、亀仙人は気が付いた。

 

 エロ本の中に、封筒が挟まっている。達筆な文字は、孫悟飯からのものだ。

 

 なんだろうか。孫をよろしくという手紙だろうか。面倒そうで難しいことは先に済ませてしまおう。

 

 そう思い、手紙を開いた亀仙人は、ややあって眉を寄せた。

 

 読み終えた手紙をたたんで封筒にしまい、老人は嘆息した。

 

 どうも、あの少年は思っていた以上にいろいろあるのかもしれない。

 

 クリリン相手に見せた、どこか老成した悟空のまなざしを思い返しながら、亀仙人は独り言ちた。

 

 もっとも、その手はすぐさまエロ本に延ばされたのだが。

 

 

 

 

 

 走って、走って、走り抜けて。

 

 途中、腹ごしらえのために獲物をしとめることはあっても、悟空は走り続けた。

 

 そうして、たどり着いたのは、ウェストエリアの最果て。

 

 鋭い爪の掌を天に向けたような、5つの山が、赤々とした夕日に照らされている。あれが、亀仙人の言っていた悪魔の指だ。周囲を、なんだかよくわからない怪鳥がギャアギャア鳴きながら飛び回っているのも、不気味さに拍車をかけている。

 

 あの先に、眠り姫がいる。

 

 目を閉じて、二本指を額に当てて気を探ってみる。

 

 なんだか、とげとげしい気配――かつてのピッコロと似たような感じの気配が、ゴロゴロしている。ピッコロは年月を経て、とげとげしさは鳴りを潜めて穏やかなものになったが、あの山々から感じる気は、そうなる前の――大魔王を自称していた、昔のピッコロによく似ていた。一回り大きな気も感じる。ピッコロには及ばなくても、現在の自分からしてみるとかなりの大きさの気だ。

 

 残念ながら、眠り姫らしき気は感じなかった。微弱すぎて、ほかの気に埋もれてしまっているのかもしれない。

 

 となれば、やはり直接行ってしらみつぶしに探すしかないか。

 

 と、ここで悟空はいつの間にか追い抜かしていたクリリンが追い付いてきたことに気が付いた。よたよたと崖を上ってきたクリリンが、腕を滑らせて落ちそうになったのを捕まえて、「よっ!やっと着いたな!」と笑いかける。

 

 「あ、ああぁ・・・」

 

 絶景に言葉を無くすクリリンをよそに、悟空は「それじゃ、行くぞっ!」と声をかけて、改めて魔神城に向かって崖を駆け下りた。そのあとに、あわてたようにクリリンが続いた。

 

 

 

 

 

 ところで、悟空の知らないところで、ブルマとヤムチャ、ウーロンとプーアルの4人組がカメハウスを訪れていた。

 

 どうでもいい余談だが、ヤムチャは盗賊仕様の格好をやめて、髪を短く切りそろえ、白い中華服をまとっていた。

 

 都会暮らしも少し落ち着いたし、修行で忙しいかもしれないけど、悟空の顔を見に行こう、と会いに来てくれたのだ。

 

 ところが、肝心の悟空は不在。

 

 どういうことかと亀仙人を問い詰めると、亀仙人は魔神城へ行かせたとぽろっと言ってしまった。

 

 が、魔神城の伝説を知らない一同は、魔神城って何?新しいテーマパークか何か?と明後日の方向に捻じ曲げて解釈。

 

 亀仙人も、まさかスケベ全開事情を白状もできず(ウミガメが「だから筋斗雲に乗れなくなったんですよ」とツッコミを入れた)、テーマパークの勘違いを正すこともできずに、西に向かう一行を止められなかった。

 

 かくして、役者は魔神城に集う。

 

 

 

 

 

 悟空とクリリンは、暗い通路を走っていた。

 

 とげとげしい不気味な装飾は、髑髏や悪魔を模した悪趣味なもので、クリリンは気味悪そうにしていた。

 

 悟空はと言えば、あの世もこの世も東西南北の銀河すらまたにかけたハチャメチャ摩訶不思議アドベンチャー人生のおかげで、シレッと流していた。

 

 バビディの宇宙船とか地獄とか、宇宙の旅で訪れた異星の方が、よほど訳が分からなくて不気味だった。

 

 通路を抜けた先は、広い空間だった。

 

 正確には、悪魔の指の山のはざまで、不気味な霧に覆われ、足元は緑色の沼が広がっている。

 

 悟空とクリリンは、沼に落ちないように壁伝いに移動する。

 

 「うわあぁぁぁ・・・お前、よく平気だなあ・・・」

 

 「そっか?こんなの大したことねえよ」

 

 真っ青な顔で震えながら歩くクリリンに、悟空は首をかしげる。

 

 もっと危険なシチュエーションで戦ったことなんて山ほどある。崩壊寸前のナメック星とか、ブウの体内とか、恒星の引力に引かれる遭難船とか。

 

 うん。全然大したことじゃねえなあ。悟空は改めてそう思った。(比較対象がおかしいというツッコミを入れる人間はいない)

 

 そうして、別の建物――悪魔の指は山ではなく、実は塔のような建築物らしい――に入り込む。

 

 だが、ここで二人はこの地を支配する魔族たちの列に出くわしてしまった。

 

 侵入者に色めき立つ魔族たちに、悟空は素早く身構える。あわあわしながらも、クリリンも身構えた。亀仙流を志すだけあって、基礎はできているらしい。

 

 「小僧ども!どこから入り込みやがった!!」

 

 「オラたち、眠り姫を探しに来た!どこにいるんだ?!」

 

 「「「眠り姫だと?!」」」

 

 悟空の言葉に、魔族たちが一層色めき立つ。

 

 「ばかっ!真っ正直に言ってどうするんだ?!」

 

 クリリンがわきからツッコミを入れるときには、「捕まえろっ!」と魔族たちが槍やら青龍刀やらを片手に襲い掛かってきた。

 

 悟空は如意棒を鞘から引き抜くと、それらをいなし、叩き落し、魔族をなぎ倒す。

 

 クリリンも負けじと、こぶしをふるって応戦した。

 

 だが、ここで一等大柄な体の魔族が進み出た。赤い皮膚に、羽衣のような羽を身につけた、不気味な魔族だ。

 

 「おめえ、誰だ?」

 

 如意棒を構えながら尋ねる悟空に、魔族は朗々と叫んだ。

 

 「オレはガステルだ!おめえこそ誰だ?!」

 

 「オラ、孫悟空だ!眠り姫はどこだ?!」

 

 「知らねえ!ルシフェルに訊け!」

 

 「るしふぇるぅ?」

 

 怪訝そうにする悟空だが、気は抜かない。目の前のガステルと名乗った魔族は、周囲の魔族よりも、一回りほど大きな気を持っている。

 

 つまりそれは。

 

 こいつ、強い。

 

 悟空は如意棒を持ったまま、ガステルをにらみつける。

 

 次の瞬間、ガステルが動いた。羽衣のような羽を翻したと思うと、その先端が槍のように悟空目がけて伸びた。

 

 悟空がとっさに避けると、美しい羽衣は石畳に、深々と突き立つ。

 

 「おっかねえな!」

 

 思わず悟空はそうごちた。今の自分では、あの一撃は深刻なダメージになる。

 

 ガステルが躍るように身を動かすと、その度に羽衣のような羽が悟空を射抜かんと襲い掛かってくる。対し、悟空も軽やかにステップを踏んで、その連撃をよける。

 

 ここで、ギャーっという悲鳴に、悟空はハタと振り向いた。

 

 クリリンが、一つ目のプテラノドンのような怪鳥にさらわれている。

 

 「クリリンっ!」

 

 急ぎ、悟空は踵を返し、駆け出した。

 

 怪鳥はクリリンをつかんだまま、緑色の沼地の上に向かって飛び去る。

 

 「筋斗雲よーい!」

 

 叫んで悟空は、切り立った断崖じみたバルコニーから飛び降りる。

 

 そのあとを追う魔族たちは、そこで否応なく足を止めざるを得ない。

 

 呼ばれて飛び出た黄色の雲は、少年を軽く抱き留める。悟空はその上に立ち上がると、如意棒を持ったまま、クリリンを捕まえる怪鳥を追った。

 

 一方、ガステルはバルコニーから身を乗り出し、筋斗雲に乗る悟空をにらみつけた。ややあって、その足を交互に指さした。

 

 すると、その足下に青い火の玉が出現する。そのまま、ガステルは青い火の玉に乗って、空中に飛び出した。

 

 さて、囚われたクリリンではあるが、彼は消して無力ではなかった。怪鳥につかまった時はビビッてギャーギャー叫んでしまったが、落ち着いてしまえば脱出手段は簡単に思いつけた。

 

 怪鳥はクリリンの襟首につま先を引っかけて飛行している。だから、クリリンに足を噛みつかれれば、痛みにびっくりして彼を離すのは自明の理だった。

 

 計画通り、とクリリンがニヤッとしたのもつかの間、彼は真っ逆さまに落ちる。緑色の沼地目がけて。

 

 しかも、落ちてきた獲物を察知したか、口しかないワニのような巨大な怪物が沼地の水を割って浮上してきたのだ。

 

 食べられる!

 

 クリリンが悲鳴を上げた直後、彼は救われた。

 

 筋斗雲を乗りこなす悟空に、襟首をひっつかまれたのだ。

 

 「クリリン!大丈夫か?!」

 

 「お、お前!」

 

 悟空を見上げて目を丸くするクリリンに、悟空はほっと笑みを浮かべる。

 

 「よかったー!とりあえず、オラの背中に乗れよ!」

 

 「え?いいよ、オレもこの雲・・・雲?とにかく、こっちに乗る。お前、便利なもの持ってるんだなー・・・」

 

 「あ、筋斗雲は」

 

 悟空が言い切るより早く、クリリンが筋斗雲に乗ろうとした。途端に、その体躯は黄色の雲をすり抜けて再び落下した。

 

 またしても緑色の沼地から顔を出す巨大な口の怪物から間一髪で逃れ――どうにか再び悟空がキャッチしてくれたのだ、クリリンはぜえぜえと息を切らした。

 

 今ので寿命が2~3年縮んだ気がする。

 

 「筋斗雲は清い心の持ち主じゃねえと乗れねえんだぞ。悪いこと考えてたらダメなんだ」

 

 「な、何だよ、それ!」

 

 「とりあえず、オラの背中に乗ってろよ」

 

 「わ、悪い・・・」

 

 今度は悟空の背中に乗せられ、クリリンはほっとした表情になった。

 

 「おい・・・これは借りなんて、思ってないからな」

 

 「んー?」

 

 ぼそぼそというクリリンに、悟空は笑ってとぼけた。

 

 だが、すぐにその表情を引き締める。

 

 「クリリン、しっかりつかまってろ」

 

 「へ?」

 

 「ガステルが来る」

 

 悟空の言葉通り、筋斗雲の隣に赤い影が並ぶ。青い炎を履いたガステルだ。

 

 羽衣のような羽を再び悟空たち目がけて飛ばしてくる。悟空は筋斗雲を操り、如意棒を振り回して、それらをあしらう。

 

 だが、このままではまずい。決定打に欠けているのだ。

 

 クリリンがいるので、悟空は自然と機動力や行動に制限がかけられてしまう。悟空本人は苦には思っていなくとも、そうなってしまうのだ。

 

 当然、かめはめ波などの大技も使えないわけで。

 

 となれば。

 

 悟空は筋斗雲を操り、一度上空付近まで浮上すると、そのまま緑色の沼地に急降下した。逃がすかと、ガステルがそのあとを追ってくる。

 

 ギャーギャーとクリリンが悲鳴を上げるのもなんのその。

 

 沼地の水中から浮上した、巨大な口を、筋斗雲は直角に曲がることで軽々とよけた。だが、ガステルは間に合わなかった。

 

 絶叫とともに、口に挟まれたガステルは、名残りの羽衣のような羽を怪物の口端からはみ出させたまま、水中に没した。

 

 力でかなわないなら、頭を使う。なつかしい。

 

 あの宇宙をまたにかけた長大な旅路でも、たびたびこういうことがあったなあ。

 

 単純な力押しではだめなことが多々あったのだ。自分が小さくなった弊害もあったかもしれないけれど。

 

 ともあれ、悟空はそのまま筋斗雲を飛ばした。

 

 「ど、どこ行くんだ?!」

 

 「奥の方だ!あっちに気が密集してる!なんかあるぞ!眠り姫がいるかもな!」

 

 「キって何のことだよぉぉ?!」

 

 背中のクリリンが叫ぶをのしり目に、悟空は筋斗雲を加速させた。

 

 

 

 

 

 一方のブルマたちである。

 

 悪魔の指に到着したはいいが、機関砲を持った魔物たちにジェットフライヤーを撃墜させられ、這う這うの体で脱出した。

 

 だが、そこでブルマがはぐれてしまったのだ。

 

 他のメンバーが魔神城の不気味な装飾の中をさまよう中、ブルマは美しい調度品の中で目を覚ました。

 

 ブルマを歓迎するのは、見目麗しい青年である。青年はルシフェルと名乗り、ポーっとするブルマをもてなしだした。

 

 やたら大きな注射器を手放さない不気味な執事を従える青年は、今夜は5千年に一度の大事な夜だから、皆で乾杯したい、君はその大事なゲストになる!と言って、ブルマを大広間に誘った。

 

 一方、ヤムチャとプーアル、ウーロンは二匹の変身能力を用いて魔族たちの中に潜伏。魔族たちのうわさ話で、16歳の生贄の生き血云々と聞いた彼らは、ブルマが危ない!と顔を青ざめさせた。

 

 やがて、大広間に登場するルシフェル。

 

 彼は大々的に宣言する。もうすぐ眠り姫が目覚める。その時こそ、憎き太陽が終わりを迎えるのだ、と。

 

 ここまで来て、ようやくブルマは自分が生贄で生き血を奪われると気が付いた。逃げようとするブルマだが、椅子に縛り付けられ、身動きが取れなくされてしまう。

 

 ヤムチャたちは、歯噛みしてみているしかできない。距離がありすぎたのだ。

 

 

 

 

 

 一方、悟空とクリリンは、天井を突き破って大広間に侵入。

 

 そのまま大広間の中央にある眠り姫がいるというテント目がけて落っこちた。

 

 「侵入者だー!!」

 

 「ガステルはどうした?!外縁は奴が警備してたはず?!」

 

 「眠り姫をまもれぇぇ!」

 

 テントの外が騒がしくなる中、悟空とクリリンはその中の祭壇に祭られていたものを目の当たりにしていた。それは、青白い宝石だった。この拳大の巨大な宝石こそが、“眠り姫”である。

 

 「まさか、これが、眠り姫?」

 

 「これ、ビチビチギャグじゃねえよなあ、どう見ても」

 

 「まだ言ってんのか、お前・・・」

 

 宝石を見やって首をかしげる悟空に、クリリンは呆れる。

 

 だが、悟空は宝石に手をかざすや、難しい顔をした。

 

 「おい?どうしたんだ?」

 

 「・・・なんだこれ」

 

 クリリンの問いに答えることなく、悟空はぽつりとうめいた。

 

 この宝石の中に、巨大な気が渦巻いている。今はまだ活性化していないようだが、それでもかなりのものだ。もしこれが活性化したら、とんでもないことになるだろう。

 

 なんだかよくわからないが、悟空は長年の経験から、これは放置はよくないだろうと宝石を持って出ようとしたが、それより早く、外がさらに騒がしくなる。

 

 バイクのエンジン音が聞こえたと思ったら、長い金髪をなびかせたバイクライダーがテントの入り口を突き破り、悟空たちの目の前から宝石を奪い取っていったのだ。

 

 「何者だ?!」

 

 ルシフェルの怒声に、彼女は不敵に笑う。

 

 「人呼んでいただきランチ!伝説のお宝、眠り姫!いただいていくぜえ!」

 

 青白い宝石を掲げる彼女は、素早くそれをバイクのポーチに押し込み、続けてバイクを発進させる。

 

 魔族たちの怒声もなんのその、マシンガンを乱射して道を切り開く。

 

 だが、快進撃は長くは続かなかった。

 

 「ま、まずい・・・ふあっ、ファックション!」

 

 風になびいた髪が鼻をくすぐり、金髪のランチはくしゃみをした。途端に、その髪は青い髪に変じ、悲鳴を上げながらバイクを横転させる。

 

 「いたたたっ・・・ええっと、ここはどこですか?」

 

 バイクから放り出されながらも、大きなけがはない様子で周囲を見回す青い髪のランチ。

 

 そのバイクのポーチから零れ落ちた宝石を、難しい顔をしたままの悟空が拾い上げた。

 

 「おい。こいつは何だ?」

 

 言って、悟空は振り向いた。

 

 「“眠り姫”だよ、小僧。今夜昇る5千年に一度の特別な満月で目覚め、そのエネルギーをもって忌々しい太陽を破壊する。我ら魔族の悲願だ」

 

 すっかり紳士面の皮をかなぐり捨てたルシフェルが、冷酷な表情でそこにたたずんでいた。

 

 その右手には、クリリンの首がつかまれていた。必死に逃げようともがくクリリンだが、地力が違うのだろう、全く効果がないらしい。

 

 「小僧。このガキの命が惜しければ、“眠り姫”を渡してもらおうか」

 

 「わかったよ!」

 

 ルシフェルの脅しに、悟空は屈した。宝石を無造作に投げ、それをルシフェルが受け取った。

 

 直後、魔族たちが一斉に悟空に襲い掛かった。悟空は必死に戦った。ケリを、こぶしを、如意棒を、必死に振るった。

 

 ひときわ小柄な奴が、足やら尻尾やらにかみついてきたが、どうということはなかった。

 

 だが、最悪のタイミングで、サイヤ人の燃費の悪さが悟空に牙をむいた。

 

 「は、腹減った・・・」

 

 ふらついたが最後、悟空は魔族たちにタコ殴りにされて、気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 次に悟空が気が付いた時、彼は動けなくなっていた。かろうじて、首から上と手首から先だけが自由になる。たぶん、そこから下は壁の中に埋め込まれているのだろう。

 

 どうなったのだろうか?とりあえず腹が減って仕方ない。

 

 目を開けそうになったが、ふと思い出した。先ほどルシフェルが言っていた。今夜昇る5千年に一度の特別な満月。

 

 そう、今夜は、満月。

 

 まずい!城に突入した時点で夕刻になっていた。既に月が昇っていると思った方がいい。ここがどこかわからないが、屋外の可能性も視野に入れた方がいいだろう。万が一目を開けた先に満月があったらことだ。

 

 目は開けない代わりに、耳をすませて気の感知に集中する。

 

 どうやら、周囲には、悟空の他にクリリン、ヤムチャ、プーアル、ウーロン、ランチがいるらしい。

 

 「ヤムチャ、プーアル、ウーロン!お前ぇら、どうしたんだ?」

 

 「悟空!気が付いたんだな?!」

 

 悟空の問いかけに、ヤムチャがほっとした様子で口を開いた。

 

 ヤムチャたちは、悟空たちが騒ぎを起こした直後、変化のタイムリミットが訪れて、正体がばれてしまい、同様につかまってしまったのだ。

 

 そして、ブルマがルシフェルにつかまり、生贄として生き血を捧げられるのだ、と。

 

 「オレたちは、ここで生きながら鳥のえさにされちまうんだってよ!目ん玉とか顔の肉をつついて抉り出されちまうって!」

 

 悲嘆と絶望に満ちた悲鳴を上げるウーロンをよそに、「月がきれいだねー」とプーアルが言う。・・・たぶん、あきらめから言っているのだろう。

 

 クリリンは何事か考えこんでいるのか、先ほどから黙り込んだままだ。

 

 「悟空、何とかならないか?」

 

 「悪い、オラ、腹減っちまって・・・力入らねえんだ・・・」

 

 ヤムチャのすがるような声に、悟空は力なく応えた。

 

 痛めつけられはしたが、打撲程度で済んでいる。多少ひりひりするが、どうということはない。だが、空腹は死活問題だった。

 

 いくら悟空でも、空腹では何もできないのだ。もう少し体が大きければまだ我慢が聞いたのだが、子供の体は本当に燃費が悪すぎるのだ。

 

 これが、もっと膨大な気を蓄えられる以前の仕様であればまた違ったのだろうが。

 

 とはいえ、ぐずぐずしていられないのも確かだ。

 

 ブルマが危ない。ルシフェルが太陽を破壊すると言っていたのも、どうにかしなければならない。

 

 だが、現状では・・・否、一つだけ、手段があった。

 

 「何とかできるかもしれねえ」

 

 「本当か?!」

 

 「おう。あのさ」

 

 ここで、悟空は一度言葉を切ると、続けた。

 

 「オラ、満月を見ると大猿に変身するんだ」

 

 『・・・え?』

 

 悟空の唐突な告白に、一拍の沈黙を置いて、全員がそう問い返した。

 

 「ご、悟空?!なに言ってるんだ?!」

 

 素っ頓狂な悲鳴を上げるウーロンに頓着することなく、悟空は続けた。

 

 「だからさ、オラ、満月を見ると大猿に変身すんだよ。でっかくて、強い、大猿の化け物にさ。

 そしたら、こんなのなんてわけねえさ。

 けど・・・」

 

 「けど、何だ?」

 

 「ひょっとしたら理性がなくて大暴れするかもしれねえから、動けるようになったら、すぐに離れてくれ。

 あと、変身したらしゃべれなくなっちまうから」

 

 「理性がなくなるぅ?!おい、本当に大丈夫なのか?!」

 

 「ひょっとしたら、だ。たぶん、大丈夫だろ。

 じゃあ、行くぞ」

 

 ギャーギャーわめくウーロンをよそに、悟空は目を開けた。煌々と光る満月を目にしたと同時に、ドクリと体中の血が沸騰した。

 

 そこから、悟空の意識はきれいに飛んでいた。

 

 次に気が付いた時、悟空は仲間たちを見下ろしていた。

 

 どうやら、巨大化に伴い、体を拘束していた壁も壊れて、無事脱出できたらしい。

 

 口々に悟空の名を呼ぶ仲間たちに、大丈夫、の意を込めて悟空はコクリとうなずいて見せた。

 

 大猿に変身するのはこれが二度目だが、やはり偶然ではなく、理性を保つことができるようになっている。

 

 のちに思い返すと、また大猿に変身したことがあったような気がしたので(記憶にないが、思い当たる節がある)、理性を保てるのは非常に助かる。

 

 ともあれ。

 

 悟空の様子に、仲間たちが一斉にほっとしたような顔をした。「何だよ~。理性がなくなるとか、脅かしやがって!」と、ウーロンが憎まれ口をたたいている。

 

 だが、悟空はすぐに振り向くと、巨大な体を仲間たちの盾になるように動かした。

 

 その背中に、小型ミサイルが叩き込まれる。

 

 いってえ!何すんだ!

 

 悟空は怒って、振り向いた。この状態の防御力はかなりのものだが、それでも痛いものは痛いのだ。

 

 見れば、怪鳥に乗って武装した魔族たちが、機関砲やロケットランチャーを手に、こちらを見やってきている。

 

 大猿の化け物だ?!とわめいている彼らに、悟空はふんッと鼻息荒く応戦した。

 

 理性を保てているとはいえ、大猿になっていると初期の超サイヤ人の時のように、荒っぽくなってしまうのだ。

 

 数匹の怪鳥を羽虫をそうするように腕の一振りで叩き落し、あわてて逃げる魔族たちに、口から気弾を放つ超魔口砲で背後から追い打ちをかける。

 

 「あわわわわ・・・!」

 

 「こりゃすごいな・・・!」

 

 あらかた撃破した悟空に、仲間たちがほっとしたような恐れおののいているような、複雑な顔をしている。

 

 そうして、悟空は彼らの無事を確認しようと再び見下ろしたが、ここで気が付く。ランチがいない。

 

 否、地面に降り立っていなかっただけだ。瓦礫に背中のサスペンダーが引っかかって宙づり状態になり、そのまま呆然と悟空を見やってきている。

 

 悟空は慎重に、指先でランチを持ち上げ、そっと地面に降ろした。

 

 「あ、ありがとう、ございます・・・」

 

 「悟空!ありがとうな!」

 

 ほっとした様子で座り込みながら礼を言うランチに、ここで我に返った様子でクリリンが言った。

 

 大ぇしたことじゃねえよ。

 

 そう言う代わりに、悟空はぐるりと喉を鳴らしながらうなずいて見せた。

 

 さて、脱出はできた。後はブルマを助けて、太陽の破壊を阻止するだけだ。

 

 だが、ここで難問が立ちはだかった。

 

 「いくらなんでもその大きな体じゃあ、魔神城の中には入れないよな?」

 

 「悟空ー!何とか元の体に戻れないのか?!」

 

 ウーロンとヤムチャの言葉に、悟空は肩を落として首を左右に振った。

 

 大猿への変身は、半ば生理現象に近いところがあり、自分の意志で変身の成立解除ができないのだ。こういうところは超サイヤ人と違って非常に不便だ。

 

 だが、このままグズグズしていられないのは確かだ。

 

 仕方がない。気は進まないが、強制解除するしかない。

 

 悟空は自分のしっぽを左手でつかんで前に持ってきて、右手で作ったVサインをハサミのようにチョキチョキと動かした。

 

 「え?なんだ?尻尾と、ピース?」

 

 首をかしげるウーロンに、違う違うと悟空は首を左右に振ってから、今度は右手で手刀を振り下ろす動作をする。

 

 「もしかして、尻尾を切ってくれって言ってるんじゃないです?」

 

 青髪のランチの言葉に、悟空はコクコクと頷いた。

 

 大猿への変身を解除するには、尻尾を切るか、満月の破壊が必要だ。

 

 満月の破壊なんて、気功波の使い手でないとできないのだから、あとはもう尻尾を切るしかない。

 

 できれば、尻尾は残しておきたかった。超サイヤ人4への変身の可能性を考えれば、尻尾は絶対必要だ。

 

 だが、ブルマの命には代えられない。

 

 幸い、尻尾は切っても何度か生えてきた。以前ベジータに確認したところ、成人する(サイヤ人の場合、急成長して戦闘に適した体型になることを指す)までは生えなおすことがあるそうだ。

 

 ドラゴンボールで小さくなった貴様に該当するかは怪しいもんだ、と付け加えられていたが、邪神はその影響を解除したと言っていたので、また体も成長するし、尻尾も生えなおすに違いない。

 

 とにかく、そういう計算もあり、悟空は尻尾を切って変身の強制解除を行うことにしたのだ。

 

 「いいのか?!悟空!」

 

 クリリンの叫び声に、悟空はコクリと頷いた。むしろ早くやってくれ、と自分で尻尾をつかんだままにしておく。

 

 「よし!わかった!そのままじっとしていろ!

 プーアル!ハサミに変身して悟空のしっぽを切るんだ!」

 

 「はい!変化っ!」

 

 ヤムチャの号令に、プーアルは威勢よく答えると、煙を放って等身大のハサミとなる。

 

 そのままそれはスーッと空中を移動して、悟空のしっぽを根元から切断した。

 

 いってぇぇぇぇ!

 

 悟空は絶叫した。ただでさえも敏感な尻尾だ。ベジータが性器のようなものと称するだけあって、激痛だった。以前、養祖父に引きちぎられた時もめちゃくちゃ痛かった。

 

 「いちちちちっ!!おー、いてえ!」

 

 尻を抑えて転げまわった悟空は、ややあって普通にしゃべれることに気が付いた。

 

 手足を見ると、ちゃんと元の人間のそれに戻っている。もっとも、祖父手縫いの薄藤色の胴着は破けてしまい、今の悟空はすっぽんぽんである。

 

 「元に戻った・・・!」

 

 「悟空!大丈夫か?」

 

 「おう。どうってことねえよ」

 

 ほっとした様子で駆け寄ってくる仲間たちに、悟空はうなずいて立ち上がった。

 

 少しよろけそうになったのは、尻尾がなくなったのでバランス感覚が変わったからだ。もっとも、尻尾がない状態で過ごした年月は人生の半分以上を占めるので、すぐに慣れる。

 

 さすがにフルチンで戦うわけにはいかないので、ウーロンがズボンを貸してくれた。

 

 そうして、悟空が気を探ることでルシフェルとブルマのいる場所を探り出し、そのままそこに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 続く




※逆行悟空の特徴 その4

 見た目はショタだけど、中身は齢50過ぎの孫までいるおじいちゃんです。

 人生経験が豊富すぎるのと、生来の楽天家気質が合わさった結果、大体のことには動じないし、笑って流せます。

 嫁一筋なので、エロ本やスケベ映像に徹頭徹尾興味が持てません。嫁しか勝たん。

 嫁に調教教育された結果、多少は(本当に多少)行儀がいい行いができます。でもやっぱり(というより根本的に)マナー全般が苦手。野生児をよくここまでしつけられました。嫁は偉大なのです。





※捏造サイヤ人の尻尾事情

【尻尾をゆだねる=異性への求愛】
 まあ、鍛えないとつかまれたら力が抜ける弱点部位ですしね。弱点を他人にゆだねられる→それだけ信用してるってことで、異性への求愛習慣という捏造をぶち上げました。
 この設定があると、悟空さん、求愛習慣を聞いた時点でやっぱ自分の嫁はチチしかいねえな(筋斗雲に乗るときにつかまれましたから)って思ったでしょうねえ。

【尻尾の生え変わり】
 原作悟空は何度か切られたしっぽが生え変わっています。
 ①ピラフ一味とのいざこざで大猿化し、解除のため切断。第21回天下一武道会中に再生。
 ②占いババの館で悟飯老と対決中につかまれ、そのまま振り回されるが、ちぎれる。再生時期は不明だが、第22回天下一武道会の時点では再生済み。
 悟空はその後、神様に生え変わらないようにされていますが、地球で尻尾を切られたベジータは、その後生え変わっていません。
 彼はそのうち生える、と言ってましたが、シチュエーションが潜在的敵地のフリーザの基地内で、プライドの高い彼が素直に弱点となる情報をばらまくかは怪しいところですし。
 なので、成人したら尻尾は生え変わらない、それまでだったら生え変わるという捏造設定を付加。



Q.じゃあ、成人後も悟空さには尻尾がある?

A.神様がそれを許してくれますかねー?不便でしょ?明らかに。
 まあ、何とかしますよ。ドラゴンボールもありますしね。



Q.魔神城とかルシフェルって?

A.ルシフェルは劇場版ドラゴンボール第2弾『魔神城の眠り姫』のボスキャラです。CV野沢那智の美青年風魔族。
ガステルもです。
本シリーズの悟空は、無印→Z→GTの順で経験を積んでいますが、ガーリックJr.を除く劇場版ボスとの戦闘は未経験という設定です。
だから、劇場版ボスも可能なら放り込んでいこうという算段だったりします。
でも、摩訶不思議アドベンチャー(劇場版ドラゴンボール第3弾)はできないですかね。あれをやると、天津飯とチャオズのZ戦士入りができなくされてしまうので。(いなくても問題ないといった人は正座して反省しましょうね)
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