GT後の悟空が逆行して超ルートに入る話   作:亜希羅

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 すごいな、まだ5話で全然成人後のZ編に行ける気配が皆無だぞ?

 というわけで続きです。


5.孫悟空、第21回天下一武道会へ出場する

 

 如意棒を持っていた魔族を殴り倒し、取り戻す。

 

 これは養祖父からもらった大事なものであり、カリン塔のてっぺんと神殿をつなげる神具である。なくすなんてとんでもない。

 

 そのまま悟空たちは、不気味な装飾の暗い城内を駆け抜ける。

 

 「何だこれ・・・?」

 

 駆け抜けながら、悟空は怪訝そうに眉を寄せた。

 

 魔族たちのとげとげしい気に囲まれる、一回り小さな気。これがブルマだ。魔族の中で一段と大きな気。こちらがルシフェル。

 

 大猿になったりしてバタバタしてたから気が付かなかったが、いつの間にか異常な気が生まれている。

 

 かなり大きい。その大きさとくれば、おそらく神やピッコロ大魔王にもかなわないほどではないだろうか?下手をすれば、もっと後年の時代にまみえる敵たちのそれに匹敵する。

 

 その感触には覚えがある。通常、生き物の持つ気というのは温かい。とげとげしい、穏やか、大きい、小さいの感触の差異はあれど、悟空はそれを熱として認識しているのだ。

 

 だが、この気は。まるで氷のように冷たいのだ。生き物が持つ気ではない。

 

 否、悟空はその気を知っている。つい先ほど、目の当たりにしたばかりだ。まるで眠っているようなそれが、今は無造作に冷気をふりまいているような感触だ。

 

 あの宝石――“眠り姫”から感じたのだ。

 

 ルシフェルは言っていた。今夜は5千年に一度の特別な満月で、ついに眠り姫が目覚めると。そういうことなのか?

 

 いずれにせよ、このまま放っておくわけにはいかない。

 

 やってくる魔族たちに、悟空たちは応戦した。

 

 元盗賊のヤムチャは、我流拳法の狼牙風風拳で対抗しているし、クリリンも以前いた寺院で拳法の基礎はできていたので、銃火器頼りの魔族にも十分対抗していた。

 

 青髪のランチ、プーアルとウーロンは邪魔にならないように、後ろについてくるだけにとどめていた。

 

 もちろん、悟空は先頭を突っ切る。如意棒を振り回し、手足で魔族たちをちぎっては投げの奮戦をしている。

 

 正直、空腹感はあるにはあるのだが、大猿になったせいだろう、我慢が利かないほどではなくなっている。

 

 以前の世界で、大猿と化したベビーが大量の増幅ブルーツ波を浴びて復活していたし、ベジータの初戦時も大猿に変身していたが、大猿になると負傷や気の消費も回復するらしい。悟空自身も、事前にベビーにさんざん痛めつけられたのに、黄金の大猿を経て超サイヤ人4に変身した時には、負傷も体力もきれいに回復していた。満月の光は、サイヤ人にとってはエネルギーの源なのだ。

 

 ここまで計算していたわけではなかった。うれしい副産物だ。

 

 悟空たちが飛び込んだ広場は、なんだか不気味な巨大な大砲が天に向かってそびえていた。

 

 例の不穏な冷たい気は、大砲の中から感じる。“眠り姫”はこの中に組み込まれてしまっているのだろう。

 

 「小僧ども!どうやって逃げ出した!!」

 

 悟空たちの姿を認めたルシフェルは、忌々しいという様子で右腕を振り上げ、練り上げた気を光弾として放ってくる。

 

 悟空はそれを軽々とかわす。残念だが、ルシフェルは気の大きさの割に、気功波の扱いが甘い。

 

 「たぁぁぁぁっ!」

 

 「はああああっ!」

 

 悟空とクリリンは、二人がかりでルシフェルに立ち向かう。ルシフェルの方が手足が長いためリーチもパワーも上だが、小柄な分悟空とクリリンの方が小回りが利いてスピードがある。

 

 素早い動きでルシフェルをほんろうし、確実に攻撃をたたき込む。

 

 クリリンがルシフェルの膝を蹴って、頭にケリをたたき込んだ。

 

 ふらつくルシフェルの隙を見逃さず、悟空はその懐に飛び込んで如意棒を片手に叫ぶ。

 

 「のびろぉぉ!如意棒ぉぉぉ!」

 

 とたんに如意棒は赤く光り、長く伸びる。持ち主の意のままにその長さを自在にする神具は、ルシフェルの腹を突き上げ、そのまま天井付近にたたきつけた。

 

 「孫君!」

 

 ここで、声がかかる。

 

 執事を倒したヤムチャに解放されたブルマが、逃げながら声を上げる。

 

 「あの大砲を何とかして!でないと海水浴、じゃない!太陽が!」

 

 ブルマの悲鳴は一部よくわからないところもあったが、とにかく悟空は動いた。

 

 「戻れ!如意棒!」の言葉とともに如意棒を縮めて鞘に納め、使い慣れた構えを取りながら気を練り上げる。時間がないので、フルパワーチャージはできないが、これで十分なはずだ。

 

 「かぁぁぁ、めぇぇぇ、はぁぁぁ、めぇぇぇ」

 

 手の中に生まれる独特の手ごたえと青白い光に、悟空は気を解き放つ。

 

 「波ぁぁぁぁぁっ!!」

 

 青白い極光は、大砲の根元を破壊して傾かせた。

 

 だが、どうも大砲はこの部屋と一体で設計されていたのか、あるいは固定がおざなりだったのか、はたまた老朽化があったのか。いずれにせよ、城自体が大きく揺れだしたのだ。

 

 「やっべえ!逃げるぞ!」

 

 「悟空!こっちだ!」

 

 クリリンの声に従い、悟空は踵を返して駆け出した。揺れる城内は、やがて瓦礫の山を振らせ始める。

 

 天井に埋め込まれるも同然だったルシフェルが、頭を振って気が付いた時にはすべてが遅かった。

 

 傾いた大砲の砲口が彼の埋まる天井に向けられていた。日の出とともに太陽を破壊する予定だったが、当然太陽にあたるはずもない角度だ。

 

 エネルギーを引き出された“眠り姫”が一層強く輝くと同時に、赤い極光が放たれた。その軌道上にいたルシフェルは、消し炭すら残らずにこの世から姿を消した。

 

 そして、それが本当のとどめとなってしまったのだろう、城は崩れ、瓦礫に埋もれていく。赤く輝く“眠り姫”をも飲み込んで。

 

 

 

 

 

 脱出した時には、東の空から登り切った太陽が、明るい光を降り注がせていた。

 

 助かったブルマが、ヤムチャに抱き着いて喜びの声を上げる中、悟空はそっと太陽を見上げた。

 

 太陽あってこその地球だ。これがあるからこそ、悟空の大好きな地球があり続けられるのだ。

 

 そうして、悟空は魔神城のあった方角を見やった。悪魔の指は、一つ欠けて4本指に見える。感覚を研ぎ澄ませると、“眠り姫”は健在だ。

 

 だが、瓦礫に埋もれてしまっている。魔族たちもほとんど壊滅状態で、意図的に掘り出すにしてもかなり労力がいることだろう。放っておいて問題はないだろう。

 

 そう考えた悟空は、とりあえず仲間たちと無事を喜ぶことにした。

 

 

 

 

 

 さて、ブルマたちは再び西の都へ帰っていき、悟空とクリリンはカメハウスへと戻ることになった。

 

 結局“眠り姫”は亀仙人待望のピチピチギャルではなく宝石だったわけだが、弟子入り条件は“ピチピチギャルを連れてくること”である。

 

 どうしようか、とクリリンは頭を悩ませたわけだが、悟空はあっけらかんと「こいつ連れてきゃいいだろ」とランチの腕を引っ張って提案した。

 

 きょとん顔の青髪ランチに、いいのかなあ、と不安な顔をするクリリンはそれでもほかの代替案は思いつけず、それに乗ることにしたらしい。

 

 帰りは、筋斗雲に乗った。クリリンは悟空の背中、青髪ランチは普通に乗れたので、悟空の後ろに乗った。

 

 カメハウスについた一同を、亀仙人は鼻の下を伸ばしながら出迎えた。

 

 クリリンが事情を説明しようとするが、ピチピチギャルの前には些末事らしく、どうぞ中へ!と歓迎しようとした。

 

 そこでランチがくしゃみをした。

 

 あ、やばい。とっさに悟空はクリリンの腕を引いて岩陰に飛び込んだ。

 

 「何だてめえら?!」

 

 金髪となったランチがドスのきいた怒声とともに、カプセルから取り出したマシンガンをぶっ放す。

 

 ひょえええっ?!と亀仙人は悲鳴を上げる。悲鳴を上げつつも避けて見せたのは、さすがというところだろうか。

 

 と、ここで飛んできたアブに鼻がくすぐられ、ランチは再びくしゃみをした。

 

 「きゃっ?!」と彼女は小さく悲鳴を上げてパッとマシンガンを手放すと、こわごわと岩陰から頭を出す悟空とクリリン、ドン引きしている亀仙人をキョトンとした様子で見やった。

 

 「あの・・・私、何かやっちゃいました?」

 

 「いえ・・・別に・・・」

 

 言いながら亀仙人は数歩さらに後ずさる。

 

 でも、出て行けとは言わないんだよなあ。結局家に居つかせちゃうんだよなあ。

 

 声にも出さずに、悟空は思う。

 

 何はともあれ、つれてきたのがだれであれ、ピチピチギャルを連れてくるという条件は満たしたのだ。

 

 お待ちかね、修行の開始、である。

 

 

 

 

 

 やり直すからには、基礎から徹底的に鍛えなおしたい。

 

 この世界に来てからの悟空が常々思っていたことである。悟空の現在のスタイルは、逆行前とほぼ同じ――亀仙流を基礎として、そこからいろいろ改良した我流と言っていい。

 

 自慢ではないが、悟空は様々な師に恵まれた。養祖父の孫悟飯を始め、亀仙人、仙猫カリン、地球の神、北の界王。死んでいる7年も一応大界王に師事したことになる。(超サイヤ人4になるために老界王神にも修行を付けてもらったが、あれはコーヒー豆を挽かされただけなので、除外する)

 

 それでも、基礎中の基礎を築いてくれたのは亀仙人なのだ。この人がいなければ、悟空の武道家としての生はあり得ない。

 

 だから、基礎から鍛えなおすなら、やはり亀仙流に立ち返るべきなのだ。

 

 魔神城絡みのあれこれが以前と比べるとかなりの長丁場になってしまったからか、亀と書かれた石探しの取り合いからの夕食抜きはなかったが、ランチを連れてきた翌日から早速修行となった。

 

 なお、修行するにあたって、カメハウスは南海の離れ小島から、人口300人ほどの島にカプセルで移設した。

 

 武道とは、ギャルにモテモテになるためのものではない。それを学ぶことで心身ともに健康になり、それによって生まれた余裕で人生を面白おかしく生きること。ただし、悪人は遠慮なく叩きのめせ。

 

 要するに、一生懸命修行して、人生を楽しく暮らしちゃおうということだ。

 

 嗚呼。そうだったなあ。

 

 早朝早くからの亀仙人の言葉に、悟空は深くうなずいた。以前は分からないことだったが、今なら理解できそうな気がする。

 

 もっとも、悟空はそのありようから、だいぶ遠いところに身を置いてしまった。戦いこそ、自分の本懐に位置付けて、上の息子にまでそれを強要しようとしてしまった(自覚こそなかったが)。だから、セルゲームでは罰が当たってしまったのだ。

 

 相次ぐ戦いで、感覚がマヒしていた。状況を打開できたのは上の息子しかいなかった。いろいろ言い訳はできるだろう。それでも、亀仙流の根幹を忘れたことが、大きいように思えた。

 

 今、それを思い出した。

 

 今更生き方を変えるのは難しいだろう。自分は戦闘民族サイヤ人だ。戦いが大好きで、強くなりたいという欲求を抑えるなんて無理だ。

 

 けれど、息子たちには。あの子たちには、今度こそ、それを強要せずにいさせたいものだ。

 

 今度は、間違えないようにしなければ。

 

 早朝早くからのランニングを兼ねた牛乳配達。スキップしながら2件目に行き、並木道をジグザグ走行しながら3件目、とんでもなく高い石段のある寺院へと向かい、高い崖にかけられた丸太橋を渡り、足がとられそうな砂漠を抜けて、激流を命綱もなしにわたり、恐竜に追われるという、ハードすぎるメニューが一本目。

 

 その次は畑仕事。とんでもなく広い領域を、農具は使わず素手で掘り起こす。手だけでなく、全身を使って耕すのだ。手がメインとなるが、疲労感軽減のために足腰・腕も鍛えられるのだ。

 

 朝食が済んだら、勉強である。

 

 実は悟空は勉強が苦手である。以前の世界のこの年齢の頃は、数もまともに数えられなかったし、成人後も嫁に家計は任せっきりだった。エロ本が国語の教本なのはともかく、最低限の読み書き計算はここでできるようになったのでよしとする。

 

 自分には向いてないが、やはり学は大事である。幼少の夢をかなえて学者になった上の息子は、やはりすごい。あの潜在能力の化け物の上、頭までよいとか。すさまじすぎる。

 

 昼食後は昼寝。よく動き、よく学び、よく遊び、よく食べて、よく休む。これぞ、亀仙流の基本だ。

 

 悟空はそれだけは覚えていた。だから、ブウとの戦いの後、働きながらも、自分のペースで修業したのだ。やりすぎはよくない。程よく緩急をつけていくことが大事だ。

 

 さて、午後の修行だが、工事現場でアルバイトである。ふと、悟空は思った。これ、将来もできるのでは?修行にもなるし。どうやって働かせてほしいといえばいいかはわからない・・・亀仙人か、ブルマにでも聞こう。

 

 お金を少しでも稼げたら、多少修行で長期留守にしてもよくなるだろう。

 

 などと、算段を立てながら、修行を続ける。

 

 クリリンは拳法を教えてくれないことを疑問視していたが、亀仙人に大岩を動かせるようになったら、と言われてあきらめていた。

 

 ちなみに、その大岩は悟空は思いっきりやって動かしてしまったし、何ならそのあとに実はこっちの岩でした!と示された岩も動かせそうだった。とはいえ、それをやったら、この後の修行に使う体力がなくなりそうだったので、無理だなあ、と言って終わらせた。

 

 お次はだだっ広い湖(なぜか腹をすかせた鮫が生息)を水泳で十往復。

 

 それが終わったら、木に縄で縛りつけられて移動範囲を限定されたうえで、刺激されて怒り狂った蜂をかわすという反射神経の修行を行う。

 

 ・・・以上が、一日の修行メニューである。

 

 そして、初日でもうくたくたというのに、翌日からは亀仙人が担いでいるのと同じ紫の甲羅(重量20キロ)を担いで行う。

 

 できるの?これ・・・と、悲壮感あふれる表情をしたクリリンはさておいて、悟空はやる気満々だった。

 

 すでにこの修行をこなした結果を知る身からすると、うずうずしてたまらない。

 

 頑張れば、天下一武道会にも出られるのだ。決勝はおそらく、ジャッキー・チュン。以前は分からなかったが、あれはおそらく亀仙人の変装だ。

 

 亀仙人の本気と戦えるのだ。ワクワクする。

 

 そして、この修行にプラスアルファで、悟空は気のコントロールの修行も並行して行っていた。と言っても、現状は瞑想くらいだ。気功波の実地演習をするには、昼間の修行で体力を消耗して難しいだろうし、人里近いので迷惑になるだろうと自重したのだ。

 

 以前の世界であれば、人里離れた荒野や、無人島などで思う存分ぶっ放せたのだが。

 

 ちなみに、悟空は基本的に気功波はかめはめ波と単発の気弾を撃つくらいだ。ベジータほどバリエーションに富んだ技は持っていない。

 

 それでも、気のコントロールは最重要課題だ。界王拳や元気玉も、気のコントロールが万全であって初めて可能となるのだから。

 

 今は、それらの技でさえ、夢のまた夢状態だ。

 

 とにかく、今は地力を底上げする時期だ。前述したが、基礎から徹底して鍛えなおす。

 

 悟空は強くそれを決めていた。

 

 

 

 

 

 20キロの甲羅を背負っての修行で7か月。仕上げの1か月は倍の40キロ。

 

 そして、天下一武道会開催の前日。重い甲羅を脱いだ時、二人の体は羽のように軽くなっていた。ジャンプしようものなら、軽く10~20メートルの大ジャンプとなってしまったほどだ。

 

 すごいすごいとはしゃぎまくるクリリンに、悟空もまた興奮が隠せなかった。

 

 やっぱり、亀仙人のじいちゃんはすごいな、と。

 

 8か月で効率よく、ここまでパワーアップさせてくれた。感謝しかない。

 

 自分で修行となると、メニューも自分で考えなければならないが、先人の鍛え方に倣うなら、その試行錯誤をある程度はスキップできる。

 

 もちろん、自分で考えるのも大事だ。けれど、弟子入りというのは、そういう利点もあるものだ。

 

 さあ、ここからだ。

 

 亀仙人が用意してくれた余所行きの青いスーツに身を包み、飛行機に乗る。行先は、サウスエリア、パパイヤ島の武道寺だ。

 

 「お前、飛行機乗るの初めてなのか?」

 

 「ずいぶん昔に一回きりだなあ」

 

 舞空術による自力飛行や筋斗雲から見る景色とも異なる窓からの景色に夢中になる悟空に、クリリンが尋ねてきたので、答えた。

 

 嘘は言ってない。前の世界の第21回天下一武道会に参加するためという事実すべてではない。

 

 クリリンが田舎もんとでも言いたげにあきれた視線を向けてくるが、悟空は「オラには筋斗雲があるから」と笑うと、「そうだったな。あれがあるならいらないか」と納得した様子だった。

 

 ・・・なお、亀仙人は手が滑ったなどと言いながら客室乗務員の女性の尻を撫でていた。

 

 空港からはタクシーで、武道寺へ。

 

 サウスエリアのパパイヤ島は熱帯気候で、強烈なスコールにしょっちゅう見舞われる。

 

 特に、天下一武道会が行われる5月初頭は降水量が多い時期だ。

 

 タクシーは雨の中を突っ切るが、武道寺前についた時には雨はやんでいた。

 

 明日の天下一武道会に向けて、武道寺の前は大賑わいだった。係り員たちに「え?この子たちが?」と驚かれながらも、受付を済ませる。

 

 肝心の天下一武道会は明日から行われ、午前中が予選、午後から本戦となる。

 

 懐かしいなあ。最後に出た時は、サタンの策略で少年の部に出されてしまったのだった。

 

 今はまだ、エンターテイメント色も薄く、少年の部など存在しない、純粋に武術の腕を競う質実剛健な大会だ。

 

 亀仙人がとってくれた宿で体を休ませながら、悟空は思い返す。

 

 明日からいよいよ、天下一武道会だ。今の実力が、どれほど通じるか楽しみで仕方ない。

 

 ふと、悟空は宿にかけられたカレンダーを見やった。明日は、満月だ。

 

 うーん、と悟空は内心でうめく。

 

 記憶通りに起こるなら、そろそろしっぽが生えてくるころだ。できれば、月が昇る前に決着を付けなければ。でなければ、大変なことになる。

 

 というか、記憶にないが、たぶん、前の時は実際大猿に変身してしまったのだろう。まあ、あの時は大猿に変身しなかったら、そのまま普通に負けてた。あの萬國驚天掌(ばんこくびっくりしょう)に撃たれた状態は、あの頃の自分にはどうあっても脱出できないものだった。

 

 月を壊してもらって、変身解除してもらったうえで、そのうえで勝って見せるとは。やはり、亀仙人はすごい。

 

 でも、今回も、手を抜くつもりはない。たとえ2度目でも・・・否、2度目だからこそ、勝ちたいのだ。

 

 さて、今の自分がどこまで通用するだろうか。

 

 ワクワクしながら、悟空は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 亀仙人があつらえてくれたのは、山吹色に亀マークの道着だった。

 

 競武館で着替えたそれに、クリリンは緊張で顔をこわばらせていたが、悟空は懐かしさに顔を緩めた。

 

 これから長く、苦楽を共にするユニフォームだ。といっても、孫が生まれたあたりで、心機一転とばかりに山吹色を浅葱色に変更したのだが。

 

 ともあれ、そろそろ予選開始だ。

 

 武道寺の責任者の開会あいさつのあと、くじを引く。その番号沿いに、予選ブロックに割り振られるのだ。そして、ブロックを勝ち抜いた8人の猛者だけが、栄誉ある本戦に出場できる。悟空もクリリンも同じ3ブロックだが、番号はかなり離れているので、予選中でぶつかることはないだろう。

 

 競武館内に設けられた競技台で、予選は行われる。予選は場外・気絶・降参・泣くの4つで勝ち負けが決まる。本戦と異なり、制限時間は1分。時間内につかなかったら、判定で決まる。もちろん、殺しと武器の使用は禁止だ。

 

 悟空は3ブロックの前半のトップバッターだ。

 

 競技台に飛び乗った悟空の前に、小山ほどの巨漢が立ちはだかる。

 

 「何じゃこいつは?こんなアリンコに勝っても嬉しくもなんともないじゃないか!」

 

 早くも勝利を確信している様子の巨漢をよそに、審判が「制限時間は一分!」と言い渡す。

 

 悟空は両手を合わせてぺこりと挨拶をした。手合わせ前の挨拶は大事。前の世界の悟飯老の教えは、しかと彼の中に根付いている。

 

 「はじめっ!!」

 

 審判の合図とともに悟空はさっと身構えた。

 

 「こんなの一ひねりだぜ!」

 

 巨漢がつかみかかろうとしたが、次の瞬間悟空は動いていた。

 

 その股下を潜り抜け、「どこ行った?消えやがったぞ?」ときょろきょろ見回す巨漢をしり目に、その足を軽く小突いた。

 

 途端に、「ぎえええ?!」と悲鳴を上げながら巨漢が競技台から転げ落ちた。涙目で悟空に小突かれた足を執拗にさすっている。

 

 「な、70番の勝ちです・・・」

 

 半ば呆然とつぶやく審判をよそに、悟空はぺこりと巨漢に頭を下げてから、競技台を飛び降りた。

 

 周囲はまぐれ勝ち、対戦相手の自爆、バランスを崩して倒れた、などと勝手なことを言っているが、そんなことはない。

 

 あれでも悟空は手加減したのだ。本気でやってたら、巨漢が死んでた。

 

 同様にまぐれ勝ちと思っているクリリンにも、手加減を忠告しようとしたが、気が変わった。

 

 クリリンが以前いたという大林寺から来た男たちが、委縮するクリリンに絡んできたのだ。

 

 クリリンの次の対戦相手だと言いながら。

 

 あんな奴、思いっきりやっちゃえ!

 

 悟空のアドバイスに、それでもおびえながらも出番が来たクリリンは、恐る恐る競技台に上った。

 

 「はじめっ!」

 

 審判の合図とともに、相手の男が殴り掛かってくる。だが、クリリンはその攻撃を飛び上がって軽々とよけると、着地ざまに身をひるがえしてそのまま飛び蹴りを放った。

 

 吸い込まれるように、その一撃は男の腹に当たった。悲鳴を上げながら男は吹き飛び、競技台隣二つ分を飛び越して、競武館の壁に激突した。

 

 亀仙人の修行成果のすさまじさに、戸惑いを隠せないクリリンに、悟空は笑みを浮かべた。

 

 対戦相手には悪いが、慣らし運転に付き合ってもらおう。

 

 

 

 

 

 そのまま、悟空もクリリンも順調に予選を勝ち進んだ。

 

 途中、参加していたヤムチャとも再会し、そのまま予選突破を決めた。できるとわかっていたとはいえ、やはり予選突破は嬉しいもので、悟空とクリリンは抱き合って勝利を喜んだ。

 

 さて、午前中の予選は終わり、昼休憩をはさんで本戦開始となる。

 

 本戦出場決定を亀仙人に報告するために競武館を出た一同は、ここで亀仙人のみならず、ブルマとウーロン、プーアルの三人とも再会することになった。

 

 無事出場決定を報告する悟空たちに、ブルマたちはわがことのように喜んでくれた。

 

 そうして、本戦出場者の呼び出しの放送がかかったため、武道寺本館へ向かった。

 

 すでに選手たちが集っていた。このころの大会は少し色物が混じっており、お色気むんむんグラマラス美女のランファン、どう見ても二足歩行のプテラノドンのギラン、生まれてから一度も風呂に入ったことがないという不潔と悪臭の権化バクテリアン、と言ったメンツがいる。

 

 なお、悟空はその犬並みの鼻の良さからバクテリアンに悶絶していた。そういえばこんな奴がいた。完全に忘れていた。

 

 これから顔なじみになるサングラスのアナウンサー兼審判がトーナメントのくじ引きを仕切る。

 

 なお、この男、悟空の名前になじみがなかったせいか、“まごごそら”などと呼び間違えており、孫悟空だと悟空が自分で訂正する羽目になった。

 

 試合順は、ほぼほぼ悟空の記憶通りだ。悟空の出番は第4試合、怪獣ギランとの対戦となる。

 

 そして、本戦におけるルール説明をしてくれた。

 

 それが終わったところで、悟空は昼飯を要求した。アナウンサーの男はびっくりしたようだったが、手配してくれた。

 

 案内された武道寺の食堂で、悟空は食べかすのついた食器で山脈を築く作業に入った。戦うためにたくさん食べる。サイヤ人の性だ。

 

 そのあまりの食欲と、異常な圧縮率を誇る胃袋に、食堂スタッフたちは戦慄した。

 

 ・・・なお、彼らはこののち、天下一武道会のたびにこの異常な食欲の持ち主に振り回されることになるのを知らない。(そして、約20年後には増える)

 

 悟空が腹を満たしたところで、満を持して第21回天下一武道会は開会した。

 

 

 

 

 

 第1試合。クリリンVSバクテリアン。

 

 バクテリアンの異臭に苦しむクリリンだが、悟空の、お前には鼻がないじゃないか、という指摘を受けて復活。バクテリアンの痰吐き攻撃をものともせず、蹴倒してからすかしっ屁でとどめを刺した。

 

 匂いというのは確かに強烈だと悟空は思ったが、ある程度以上のレベルになったら、気功波で吹き飛ばされて終わりだな、と思う。

 

 第2試合。ヤムチャVSジャッキー・チュン。

 

 実戦慣れしているはずのヤムチャの狼牙風風拳をものともせず、そのすべてをひらひらとかわしたジャッキーは、平手で発生させた衝撃波でヤムチャを場外に吹き飛ばしてしまった。

 

 やはりそうだ。悟空はうずうずする。

 

 あのジャッキーという老人は、亀仙人の変装だ。気が同じだからわかる。効率いい動き方の熟知といい、間違いない。戦うのが楽しみだ。

 

 第3試合。ナムVSランファン。

 

 水不足に苦しむ村の期待を一身に背負うナムに対し、色仕掛けからの不意打ちを仕掛けようとするランファン。トドメとばかりに下着姿で迫るランファンだが、ナムは目をつむってそれを振り払い、ランファンを気絶させた。

 

 やはり豊満な女性の下着姿というのはいいものなのか?悟空にはいまだによくわからない。嫁がしたら・・・いや、やってくれるだろうか、彼女は。真っ赤になって怒って平手打ちされそうだ。

 

 そして、第4試合。怪獣ギランVS孫悟空である。(なお、今回の悟空はさすがに昼寝はしなかった。)

 

 いつも通り、手合わせ前の挨拶をした悟空に対し、ギランは胸をそらしたままだ。こんな小僧へでもない、と言わんばかりだ。

 

 ギランは「これを見ろ!」と手を差し出してくる。以前、それで不意打ちを食らってしまったのだが、細かいことを覚えてなかった悟空はのこのこと近寄ってしまった。

 

 結果、そこから尻尾の一撃をお見舞いされたが、悟空はそれを飛び上がってひらりとかわす。

 

 ギランはぎょっとする間もなく、着地ざまの悟空の拳をどてっぱらにもろに食らった。

 

 よろめくギランを歯牙にもかけず、悟空は反動で飛び下がってからさらに飛び上がった。トンボを切りながら怪獣の背後に立った悟空は、そのまま尻尾をつかみ取り、そのまま投げ飛ばした。

 

 だが、ギランの背中の羽は飾りではない。羽ばたかせて空に踏みとどまった彼は、そのまま悠々と武舞台に戻ってきた。

 

 「げっへっへ!オレ様に場外負けはないんだぜ!」

 

 勝ち誇って笑うギランに、悟空は「やっぱダメか」と苦笑いした。そういえば、前も同じようなことになっていた。なつかしい話だ。

 

 こうなれば、気絶か降参してもらうしかない。

 

 悟空が狙いを切り替えた時、ギランはにやっと笑って口を開いた。

 

 いやな予感がした悟空は、とっさに動いた。

 

 吐き出されたピンク色のねばねばしたものが、武舞台にべちゃりと当たる。

 

 思い出した。グルグルガムだ。あれに当たったらやばい。

 

 だが、まだねばねばしたそれはギランの口の中とつながっていた。先端が武舞台に当たっただけだ。初撃をよけて油断してしまった悟空に、ギランは目だけで笑うと首を一振りした。

 

 途端にグルグルガムが鞭のようにしなり、悟空の体躯をからめとってしまったのだ。

 

 「わわわっ?!」

 

 さすがに慌てる悟空をよそに、ギランはお返しだと一発拳を入れてから、彼を持ち上げる。

 

 場外に放り出す気だ!

 

 「あばよ!小僧!」

 

 そのまま悟空は振りかぶって投げ飛ばされた。

 

 空中で悟空は刹那にも満たぬ時間で考える。筋斗雲はダメ。あれは道具のようなものだ。

 

 もう少し手足が長ければ、コマのように回転して戻れるのだが、今の子供の体躯の短い手足では無理。

 

 となれば、あれしかない。

 

 できれば、もう少し練度を高めたかったのだが、しょうがない。

 

 ふわりっと悟空の体躯は空中で静止した。

 

 『おおっと?!孫悟空選手、なんと!浮いております!空中に静止を、いや、そのまま武舞台に飛んで戻っていきます!』

 

 アナウンサーの男の実況の通り、悟空はスーッと空中を飛んで武舞台の真ん中に降り立った。

 

 ざわざわと騒ぐ観衆をよそに、ギランも目を点にしていた。

 

 「と、飛んだ?!悟空、何したんだ?!」

 

 「舞空術じゃ・・・」

 

 衝立越しに仰天して見やるクリリンと、難しい顔をするジャッキーをよそに、グルグルガムに巻き付かれたまま武舞台の上にたたずむ悟空は目を閉じている。

 

 我に返ったギランが、「もう一回叩き落してやる!」とつかみかかろうとした時だった。

 

 かッと目を見開いた悟空が「はあっ!」と気合とともに、グルグルガムを引きちぎったのだ。

 

 ぎょっとギランが目を見開いたが、彼はすでに悟空目がけて腕を振り下ろそうとして、まさにつかみかからんとしていた。

 

 十分間に合う。飛ぶ暇もない猛スピードで、場外に叩き落してやる。ギランはそう思っていた。

 

 だが、ギランの指先は、悟空が一歩よけたことで空振りに終わり、多々羅を踏む。

 

 次の瞬間、ギランの鼻先で飛び上がった悟空が両手をパァンと勢いよく合わせた。猫だましだ。

 

 ただの猫だましではない。気を上乗せした、気合砲猫だましだ。

 

 そんなものが目と鼻の先で炸裂したのだ。グランッとギランは体勢を崩し、そのまま武舞台に目を回して突っ伏した。

 

 「審判のおっちゃん!カウントー」

 

 『ああ、ハイ!ワン!ツー!スリー!』

 

 促されてカウントを取るアナウンサーの男に、悟空は起きないだろうなあ、と半ば確信していた。

 

 ギランの気の大きさでは、あの気合砲猫だましに耐えられるはずがない。しばらくあのままだろう。

 

 もっとも、はた目にはただの猫だましにしか見えないわけで、なんで急に気を失ったんだ?と観客も怪訝そうにしている。

 

 そうして、ギランが気絶判定となり、晴れて悟空の勝利となった。

 

 気絶したままのギランは数人がかりで亜人用の担架に乗せられて運ばれていった。

 

 さて、こうして第4試合までが無事終了となった。次が準決勝となる。

 

 と、ここで悟空は尻のあたりがもぞもぞしだしたのを感じた。

 

 亀仙流ユニフォームを着た悟空とクリリンを武舞台に呼び出してインタビューをしようとするアナウンサーの男に断りを入れて、悟空は一度中に引っ込んだ。

 

 そうして、道着に穴をあけて、案の定生えていた尻尾を出してから再び戻る。

 

 「お待たせー」

 

 「悟空!尻尾、また生えたのか!」

 

 「ああ。さっきな」

 

 ひらりと尻尾を振って見せる悟空に、改めてアナウンサーがマイクを向けてくる。

 

 同じユニフォームということで、道場はどこか?武天老師に師事を?!はい、素晴らしい方です!そうですか、あの方まだ生きてたんですね!という話から、クリリンは13だけど悟空は12、その尻尾は本物?という質問まで。この辺りは前の世界でされたこととあまり大差ない。

 

 なお、観客の中でウーロンとプーアルが、嘘だろおい・・・と言いたげな顔をしていた。いくら理性があるとはいえ、また悟空が満月を目の当たりにしたら大猿に変身するだろうからだ。ブルマがきょとんとしていたのは、今回の彼女は悟空の大猿姿をまだ目の当たりにしていないためだ。

 

 『えー、孫君、先ほどの試合で空を飛んでましたが、あれは?』

 

 「そうそう!お前、筋斗雲持ってるのに、自分で空まで飛べるとか!どうやったんだよ?!」

 

 「ああ、舞空術のことか?」

 

 アナウンサーの男の質問に、クリリンが同調すると、悟空はこともなげに言った。

 

 『舞空術、ですか』

 

 「気のコントロールで自在に宙を舞うんだよ。基本さえできれば、誰でもできるさ。オラはまだ修業中だけどさ」

 

 『あの・・・キとは?』

 

 「え?ええっと・・・」

 

 戸惑っている様子のアナウンサーに、悟空は言葉を詰まらせた。何度も記すようだが、彼はしゃべるのが苦手であり、説明は不得意である。

 

 「気ってのは、目に見えねえエネルギーの流れで、力の海、っちゅうのか?

 うーん・・・うまく言えねえ・・・」

 

 気功波を撃ったりする、と言っても現時点では亀仙人以外わかってもらえないだろうから、それについての説明を省くと、途端に説明が貧弱になる。

 

 「お前、よくわからんものを使っているのか?」

 

 「オラは理屈こねたり説明したりするのは苦手なんだよ。

 そんなもんなくても、気のコントロールはできるしよ」

 

 腕を組んで視線をさまよわせ、うんうん唸りながらどうにかそう説明した悟空に、クリリンが呆れたようにツッコミを入れてくる。

 

 悟空はそんなこと言われても、という代わりに不本意そうに言った。何度も記すようだが、その手のことは悟空の専門外なのだ。期待されても困る。

 

 「生きとし生けるものすべてに流れる見えざる力。それが気じゃ。一部の武術では、それを己の手足のごとく扱うことが求められる」

 

 衝立を抜けて、ジャッキー・チュンが現れた。

 

 「舞空術は本来、鶴仙流武術であるはずじゃ。おぬし、どこでそれを会得した?」

 

 「え?ええっと・・・」

 

 険しい表情で尋ねてくるジャッキーに、悟空は言葉を詰まらせた。

 

 天界の神殿で、神様とMr.ポポに教わりました、とは言えない。(いっても信じてもらえるか怪しいうえ、邪神による言動制限があるので)

 

 なぜこんなに警戒した様子になってるんだ?と悟空は怪訝に思ったが、すぐさま思い直した。

 

 そうか、鶴仙流。亀仙人と同じく、武泰斗の弟子であり、たもとを分かってしまった鶴仙人の起こした流派。暗殺拳の鶴仙流に、舞空術は組み込まれているのだ。一応。

 

 で、亀仙流と鶴仙流は不倶戴天の天敵なのだ。それでか。

 

 「鶴仙流とかってのよりも、ずっと昔から舞空術はあるぞ?

 オラは・・・うーん・・・悪い、ちょっと言えねえ」

 

 困った顔をして言った悟空に、ジャッキーは「言えぬ、か。言わぬ、ではなく」とぽつりと言ってから、ジっと悟空を見つめた。

 

 ややあって、ジャッキーは「まあ、よい」とすっと視線をそらした。

 

 『あの~・・・確かに次の第5試合は、ジャッキー選手の出番ですが、まだお待ちいただいた方が・・・』

 

 「硬いこと言うな。それに、こ奴らにばかりインタビューしとらんでワシにもマイクを貸さんか」

 

 『え?ああ、はあ、どうぞ』

 

 存外押しに弱いアナウンサーの男は、ジャッキーの要請にマイクを貸し出した。すると、それを手にジャッキーは即興で歌と踊りを披露した。

 

 戸惑って呆気にとられる周囲をよそに、悟空は苦笑した。うん。亀仙人のじっちゃんは、昔からこういうところあったよな、と。上の息子をして、ひょうきんと評されていた。

 

 皆が集まるパーティーとかでは、必ずと言っていいほど宴会芸を披露していた。武道家としての無駄にある身体能力で皿回しや裸踊りなどの小器用なことを披露していたのだ。

 

 厳しいだけでなく、こういうところがあるから皆に慕われるのだろうな。

 

 歌い終わって満足げにポーズを決める亀仙人に、今回は悟空は踊らなかったが、ぱちぱちと手をたたいた。悟空一人が。観衆始め、周囲は呆気にとられたままだ。

 

 わかっておるな!と言わんばかりに、ジャッキーは悟空を振り返り、ぐっと親指を立ててみせる。ニカッと笑って悟空も親指を立てて見せた。

 

 ともあれ、マイクを取り戻したアナウンサーの男は、悟空を武舞台から出すと、どうにか気を取り直した様子で『で、では、第5試合始めぇぇ!』と叫んだ。

 

 さて、第5試合クリリンVSジャッキー・チュンである。

 

 早速パンチとキックの応酬が始まった。最初こそ、動きが見えなくて動揺して塀にたたきつけられたクリリンだったが、悟空の言葉に落ち着きを取り戻し、すぐにジャッキーとまともに打ち合い始める。

 

 途中、何が起こったか常人の目には見えず、試合を中断して動きを説明したりもしていた。(おおむね悟空の記憶にある通りに試合は進行していた)

 

 もっとも、このくらいでついて行けないではいけない。この先はもっとハイスピードの攻防が待ち受けている。まだまだ序の口だ。

 

 だが、やはり亀仙人というべきか、クリリンが取り出したギャルのパンティーに気を取られ、場外にたたき出されてしまった。

 

 もっとも、かめはめ波ですぐに復帰されたのだが。

 

 この世でただ一人、武天老師しかいないかめはめ波の使い手がもう一人いた。

 

 わっと沸き立つ観衆に、完全にクリリンが及び腰になる。

 

 悟空はクリリンに「落ち着け!かめはめ波が撃てるからなんだ!」と声援を送ったが、これはクリリンはやはり勝てないな、と確信した。

 

 武道の手合わせにおいて、精神状態というのは重要だ。勝てない、と思ってしまったら、勝てる見込みも一気に望み薄になる。(フリーザ?あれは文字通りの桁違いだ)

 

 案の定、クリリンはやけを起こして突貫。残像拳に引っかかってしまい、そこを後ろに回り込まれ、首筋を打たれて昏倒。テンカウントを過ぎて、気絶判定が出てしまった。

 

 強い。悟空は改めて思う。

 

 しかも、クリリンとの攻防でジャッキーはせいぜい場外負け回避のためのかめはめ波を撃った程度で、それ以外は大きな気の浪費はない。

 

 やはり、亀仙人のじっちゃんはすごい。

 

 クリリンの健闘をたたえて、ジャッキーの強さに感心していると、小休憩がとられることとなり、一度武道寺内に引っ込むことになった。

 

 クリリンが打たれた首をさすっていると、ヤムチャがジャッキーの正体を問い詰めている。

 

 まあ、怪しいもんな。と悟空も内心で同意した。

 

 当のジャッキーはのらくらとかわしている。灰色髪を引っ張られて痛がっていたあたり、接着剤でくっつけているのだろうか?

 

 ここで、悟空に話が振られた。

 

 「そういえば、声も似てるような・・・そうだ、悟空!お前、鼻がよかっただろ?匂いはどうだ?」

 

 「・・・じっちゃん、香水付けてるだろ?オラ、そういうの苦手なんだ」

 

 「ほっほっほ。紳士のたしなみじゃよ。さっきも汗かいたからつけなおしちゃおーっと」

 

 ここ数か月の修行の日々で、悟空の鼻の良さを知っていたクリリンが言ってきたが、悟空は困った顔をしてジャッキーを見やった。当のジャッキーは、小荷物から取り出した香水のボトルを無造作に振りまいた。

 

 ああいう人工の匂いは嫌いな悟空は、少し離れた。嫁の化粧の匂いは嫌いじゃなかったのになあ。いや、嫁はあんなもの付けなくても十分きれいなのに、人前に出るときはなぜか着飾ろうとしたのだ。

 

 「いや、悟空ならわかるはずだ」

 

 ここでヤムチャが力強く言ってきた。

 

 「悟空、気を読んでくれないか?武天老師様の気だろう?」

 

 「え?キを読む?」

 

 キョトンとするクリリンに、ジャッキーの顔がわずかにこわばった。それの意味を、分かっているように。

 

 「ああ。悟空は、個人の気を識別して、居場所を特定できるんだ。以前、俺たちも隠れてたのをそれで見抜かれている。魔神城でも、ブルマの居所を悟空がすぐに探り当てただろう?

 できるだろ?」

 

 「あ、なるほど。どうなんだ?悟空」

 

 ヤムチャの言葉にクリリンは納得して促してきた。対する悟空はじっとジャッキーを眺めたが、ややあって首を振った。

 

 「んー・・・よく似てるけど、別人じゃねえかな、たぶん」

 

 「そうか・・・悟空が言うならそうなのか・・・おかしいな、確かに武天老師様だと思ったんだけどな・・・」

 

 怪訝そうに首をひねるヤムチャに、ジャッキーは思わず悟空を見た。

 

 当の悟空は、ヤムチャたちに見えないように、いたずらっぽく片目を閉じてウインクして見せた。

 

 ここで、アナウンサーの男からそろそろ次の試合を行う、というアナウンスが入り、クリリンの声援を背に、悟空はナムとともに武舞台へ向かう。

 

 その背を見ながら、ジャッキーは思い返す。

 

 いつか、悟空が見せた年に見合わぬ老成したまなざし。気の扱いといい、孫悟空という少年は、どこか得体の知れない部分がある。

 

 だが、同時に、一心不乱に修行に励み、クリリンと無邪気に話す、少年らしい一面もあるのは確かだ。

 

 どこか、つかみどころがない。

 

 先ほどのだって、悟空はおそらくジャッキーのことを見抜いていた。そのうえで、ジャッキーの正体をごまかすことにしてくれたのだ。

 

 どういうつもりだ?

 

 このまま順調に悟空が勝ち上がれば、こぶしを交えることになる。

 

 武道家にとって、手合わせは最も己をさらけ出す行為と言っていい。口で嘘はつけても、こぶしで嘘をつくのは難しい。

 

 ならば、その時、悟空の本心を聞くことにしよう。この、こぶしで。

 

 ここまで考えて、ジャッキー――亀仙人は苦笑した。老武道家は確信しているのだ。きっと、悟空は決勝まで勝ち上がってくる。

 

 弟子たちの慢心を防ぐために、正体を隠して参加したが、いつの間にか目的がずれそうになっている。孫悟空のことが、知りたい。そう思いつつある。

 

 これはいけない。ちゃんと集中しなければ。雑念交じりに勝てるほど、悟空は甘い相手ではないはずだ。

 

 そんな思考を巡らせるジャッキーをよそに、険しい表情のナムと悟空は武舞台上で対峙していた。

 

 手を合わせて、手合わせ前の挨拶をする悟空に、ナムもまた同様の挨拶を返す。根はまじめな青年らしい。

 

 加えて、悟空はナムが何か後には引けない使命感を背負い込んでいることも、薄々察していた。今の悟空は読心が使えないので、表情からそうかな?と見ただけだ。

 

 もっと肩の力を抜け、というのはああいうタイプには酷だろう。

 

 それに、悟空とて譲れない。亀仙人のじっちゃんと、決勝で戦いたいのだ。だから、悪いが勝たせてもらう。

 

 『はじめ!』

 

 アナウンサーの男の合図とともに、双方さっと身構えた。

 

 仕掛けたのは悟空が先。小手調べとばかりに殴りかかったが、あっさり迎撃され、お返しとばかりに蹴りの応酬を受ける。

 

 それをあしらって、双方距離を取る。

 

 ちなみに、悟空は自身でも忘れているが、この試合のときに新しくコマのように回る即興技を使い、目を回してダウンしかけるという自滅ぶりを披露したが、今回はやるつもりがなかった。

 

 小手調べはほぼ互角、いな。体格差から、ナムの方が若干有利か。幼い体はリーチが短いのが不便なのだ。以前はそれを膨大な気でカバーできていたが、現在は肝心な気の総合量も貧弱なので、あまり無理はできない。

 

 それでも、悟空はワクワクと弾む心地を止められなかった。知らず、口元に笑みが浮かぶ。不敵で無邪気な笑みが。

 

 ああ、楽しい。これだからやめられないのだ。

 

 じりじりと動きながら、お互いにスキを窺う。

 

 使命感に圧されてか、ナムは悟空をひたとにらみつける。

 

 あまりちんたらするのもよくない。決勝が長引けば、満月が訪れすべてが台無しになる。流れを変えるためにも、こちらから仕掛けるのも一興か。

 

 悟空は踏み込んだ。ナムの上体を狙ったパンチはフェイント。迎え撃つナムの足を払い、体勢を崩したところで、掌底をたたき込んでナムを弾き飛ばす。

 

 だが、ダメージにうめきながらもナムは受け身を取って塀の一部に足を付け、そのまま勢いをつけて悟空目がけてとびかかる。

 

 そのまま手刀をたたき込もうとするが、視界に割って入った茶色のものに体勢を崩した。そのまま悟空はナムを馬跳びにしてよける。ナムは頭から武舞台の石畳に突っ伏した。

 

 「・・・っ、尻尾か・・・!」

 

 うめいて身を起こすナムに、悟空は笑みを浮かべて、背中でひらひらと尻尾を振らせる。

 

 新しく生えた尻尾が、以前鍛えて身に着けた頑強性をそのまま引き継いだかはよくわからないが、とっさに相手の視界を遮ったりするのには使える。つかまれたりするのはよくないので、過信は禁物だが。

 

 アナウンサーの男の実況に、観衆たちが盛り上がるのをよそに、悟空は次の一手を考える。

 

 だが、ここでナムが仕掛けてきた。唐突な踏み込みとともに手刀を振り下ろそうとする。

 

 だが、悟空は避けなかった。なぜなら、ナムは悟空の前で残像と化してしまったからだ。

 

 「あれ!あんたがさっき出した?!」

 

 「う、むう・・・!」

 

 壊れた塀の方から聞こえるヤムチャとジャッキーの声をよそに、悟空は動かない。

 

 高く飛びあがったナムが、交差した両手を突き出して一直線に飛び降りてきているのに、振り向きもしない。

 

 ここでアナウンサーが気が付いて『ああっと!ナム選手!天高くに飛び上がって、必殺の一撃をお見舞いしようとしています!』と叫んだ。

 

 「よけろ!悟空ー!」

 

 クリリンの悲鳴が上がった。

 

 ナムの必殺、天空×字拳は、悟空に直撃――しなかった。

 

 なぜなら、悟空の姿が残像と化してしまったからだ。

 

 「しまった?!」

 

 空振りしてしまったナムは、それでもどうにか着地する。

 

 はっとしたナムが振り返った時には、そこに悟空がいた。

 

 その両手が、ナムの目と鼻の先で勢いよくパァンッと打ち鳴らされる。先の試合でも使った、気合砲猫だましだ。

 

 「かっ・・・?!」

 

 グルんッとナムの目が白目をむいて、石畳に突っ伏す。

 

 慌ててアナウンサーの男がカウントを取り出したが、悟空はすぐに距離を取って身構えた。

 

 入りが、浅い!

 

 果たして、ナムは立ち上がった。よろよろしているが、首を振ってどうにか姿勢を正す。

 

 『おおっと!ナム選手立ち上がりましたー!先の試合でギラン選手を倒した孫悟空選手の必殺、猫だましならぬ怪獣だましに!耐えきりましたぁぁ!』

 

 「くっ・・・ここで倒れるわけには、いかんのだ!」

 

 「おい、悟空もあんたのやつ、あっさり真似したぞ・・・」

 

 「じ、自信なくなりそうじゃのう・・・。

 ナムに至っては、見切っておるようじゃったし・・・」

 

 アナウンサーの実況と観衆の歓声をよそに、冷や汗するヤムチャとジャッキー。一方で、悟空は内心舌を巻いた。

 

 あの気合砲猫だましに耐えるとは。ナム自身の気合もあるだろうが、おそらくは。

 

 「おめえ、いい奴らに想ってもらえてんだな」

 

 「? 何のことだ?」

 

 穏やかな笑みを浮かべてポツリと言った悟空に、ナムは一瞬怪訝そうな顔をした。

 

 「わかんなくていいよ。オラの独り言だ」

 

 と、悟空はシレッといった。

 

 気を感じられる悟空にはわかる。ナムの周囲には、他人の気がまるで元気玉のように集まっている。ごくごくかすかなものだ。それが、ナムをほんのわずかに守ってくれているのだ。気合砲猫だましの入りが浅かったのは、きっとそのせいもあるのだ。

 

 呼びかけがなくても、気が集められている。それは、誰かに強く想ってもらえている証拠だ。

 

 けれど、それでも悟空は勝ちたいのだ。だから。

 

 「悪いけど、マジだぜ!」

 

 一気に表情を引き締めた悟空は、「はぁぁぁぁっ!」と気を練り上げる。

 

 白いオーラが一瞬、彼の周囲を取り巻いた。ぎょっとナムを含めた周囲のすべてが目を見張る。直後、悟空は動いた。

 

 文字通り、目にもとまらぬスピードでナムの懐に飛び込むと、懐にフックをたたき込み、ナムが息を詰まらせたところでその腕をつかみ取ると、勢いよく投げ飛ばした。

 

 それでも、ナムはどうにか反撃を試みた。

 

 どうにか武舞台に足を付け、必殺の天空×字拳をお見舞いするべく、天高くに飛び上がる。

 

 悟空はと言えば、武舞台に足を付けたまま、黙ってナムの方を見上げた。

 

 やがて、目を閉じて両手を交差させたナムが猛スピードで降ってくる。

 

 当たれば気絶どころか、大けが間違いなしだろう。だが、残念だが、その技をすでに悟空は見切ってしまっている。

 

 一歩下がってその攻撃をよけ、空振りの攻撃が武舞台に当たるより早く、悟空は渾身の拳をお見舞いして、ナムを武舞台からたたき出していた。

 

 一拍の沈黙。ややあって割れんばかりの喝さいと、アナウンサーの実況が、悟空の勝利を高らかに歌い上げた。

 

 

 

 

 

 続く




※逆行悟空の特徴 その5

 野生児じゃないので、労働概念がちゃんとある。超の方の話になるが、さぼりながらも労働はしているらしい(悟空の復活に伴い、とうとう牛魔王の財産が尽きたため)ので、そういう概念はある。こちらの悟空はGTルートを通っているが、一応超同様働いていたという設定。

 でもやっぱり、基本的には労働<修行という感じ。

 畑仕事もいいけど、工事現場も向いてるかもしれん。というか、経験あるんだから、そっちでもやればいいのにと思うが、スケジュール通り働ける人でもないから、やはりさぼりつつぼちぼちできる畑仕事が一番なのか。

 気の総合量は全盛期と比べると相当貧弱。というか、たぶん第23回天下一武道会時点の自分にも劣る。

 ただ、経験値は相当あるので、貧弱な総合量でも気功波や舞空術、ほかいろいろ小技などは使える(威力は別として)。今後は、どうやりくりするかを模索しなければならないことは、たぶん本人もわかっている。





Q.舞空術使ってるから、亀仙人のおじいちゃんの反応がおかしなことになってるんですが?

A.多分、リアルタイム読者勢とかは舞空術の初出時は、普通に舞空術=鶴仙流=悪い印象が定着してたと思います。それはもちろん、その場にいた悟空たち自身もそうだったでしょうけどね。
 その後、第23回天下一武道会以降は、普通に悟空たちも使いますがね。サイヤ人編以降は飛べて当たり前、むしろ何で飛べないの?感がありましたし。
 で、まだそういうハードな時代は到来していないので、亀仙人は、舞空術=鶴仙流=悪い印象を持ってしまっていたわけです。
 ただ、それで悟空の印象すべてが覆るというわけでもないですしね。
 劇中で描いている通り、本シリーズの悟空は亀仙人からしてみると、よくわからん部分があるのですよ。





Q.気合砲猫だましって・・・

A.本シリーズオリジナルの技です。猫だましは暗殺教室で渚君が必殺技にしていましたが、元ネタはそれです。
 前記しましたが、この時点の悟空は気の総合量が相当貧弱なので、それを補ってなんとかできるテクニカルな戦いを模索しており、その一環で繰り出しました。
 映画でもジャネンバをおびき寄せるために使っていますので、たぶん猫だまし自体は知っていると思います。
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