GT後の悟空が逆行して超ルートに入る話   作:亜希羅

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 チラ裏というのに、結構見てくださっている方がいらっしゃるようで。ありがとうございます。

 というわけで続きです。


8.孫悟空、占いババの館を訪れる

 

 筋斗雲に乗ってレッドリボン軍の本拠基地の敷地を出たところで、悟空は知ってる気が固まっている場所があるのに気が付いた。

 

 そういえば、前の世界でも悟空がレッドリボン軍の本拠基地に突撃したことを知った仲間たちが助けに来てくれたんだった。

 

 ひょっとしたら今回もそうかもしれない。

 

 固まっている気は、悟空がパッと判別できるものでは、亀仙人、クリリン、ヤムチャの3人だ。ほかにも何人かいるようだが、それはもっと集中しなければわからない。

 

 他のメンバーとしては、ブルマ、ウーロン、プーアルに、武装した金髪のランチがいた。

 

 とりあえず、悟空は筋斗雲を降下させて、彼らに声をかけた。

 

 「おっす!みんなどうしたんだ?こんなところで」

 

 知ってはいるけど、念のために声をかけてみれば、案の定悟空がレッドリボン軍の本拠基地に突撃をかけようとしているところに助けに来たらしい。

 

 もう終わった、壊滅させて、残った連中は逃げた、と悟空が言うと、全員に仰天された。(空を飛べるプーアルが確認してくれた)

 

 脇腹に穴が開いて血まみれになっている道着にも仰天され、何があった?!と言われたので、大砲みたいな銃で撃たれた、傷は治した、と告げる。

 

 全員、開いた口が塞がらないようだ。ややあって、無事でよかった!あんまり無理するな!と一斉に怒られた。怒られるのは、心配されている証拠。前の世界の嫁と同じ。だから、悟空は悪い悪い、と軽い調子の苦笑で受け止める。

 

 前の時に言いそびれていたが、カリン塔に上って、カリン様にあって、不思議な水も飲んだ、というと亀仙人も、驚きを隠せないようだった。

 

 何しろ、亀仙人は修行に3年もかかったのだ。(その間、大好きなピチピチギャルも我慢したのだ!)それを・・・どのくらいかかったかはわからないが、極めて短期に終わらせるとは!

 

 もうすでに、悟空は自分を超えてしまっているかもしれない。亀仙人はひそかにそう戦慄した。

 

 

 

 

 

 残り一つのドラゴンボールはやはりドラゴンレーダーに映らなかった。

 

 カメハウスにてブルマが念のため不具合を確認したが、やはり問題なしである。

 

 となれば、少し前にあったように生き物がドラゴンボールを飲み込んでしまっているかもしれない。

 

 さて、どう切り出そうか。

 

 悟空は逡巡した。

 

 すでに目当ての四星球は見つけたのだが、神龍に会ってみようと思ったし、レッドリボン軍の野望阻止(レッド総帥の身長伸ばしのためとは、悟空はついぞ知らないままだった)のために、集めたボールはそのまま持ち歩いていたのだ。

 

 ちなみに、悟空は穴が開いて血のしみ込んだ道着をそのまま着ていたので、カメハウスのバスルームを借りて固まった血を洗い流し、予備の道着(同じく浅葱色の合わせと芥子色の脚衣)をまといなおした。

 

 一応、行動の合間に川で水浴びして、道着も定期的に洗っていたのだが、やはりくたびれてきている。予備の道着も少なくなってきたし、そろそろどこかであつらえるべきか。

 

 結婚後は嫁が手縫いで用意してくれたものだ。(神様お手製の重量道着は、悟空が手ずから洗っていたのだが)

 

 「ねえ、神龍呼んで何願うのよ?」

 

 「え?んー・・・特に考えてなかったなあ」

 

 改めて尋ねてきたブルマに、悟空は頭の後ろで腕組みしながら言った。

 

 今回は、桃白白にボラが殺されていないので、その復活を願う必要もないわけで。

 

 ただ。

 

 「神龍と、少し話がしてみたくってさ」

 

 「話?」

 

 「うん。神龍って、願い事をかなえるだけでさ。何考えてるかとか、どういう気持ちなのかとかって思ってよ」

 

 しれっといった悟空に、ブルマをはじめ他のメンバーが呆気にとられたような顔をする。

 

 願い事もなく、万能願望器たるドラゴンボールを集め、内容が神龍と話してみたいだけ?なんてもったいない、と言わんばかりだ。

 

 一方の悟空は、至極まじめだった。

 

 かつて、彼はその7つの珠に頼りすぎた。いざとなったらドラゴンボールがあるから、という言い分のもとに。

 

 そうして、罰は下された。

 

 邪神は、あれは本来起こりえないことだったと言っていたが、それでも、あの戦いは悟空たちの中にあった甘えが最悪の形で顕現したものだった。

 

 すべてが終わり神龍と一体になって、引きはがされてからこの世界に放り出されて。悟空なりに考えたのだ。

 

 マイナスパワーに汚染され、悟空によって浄化された神龍。最後にその力で犠牲になった人々を復活させてくれた。

 

 それが役割とはいえ、単なる万能願望器として扱われる神龍は、どんな気持ちだったのだろう?

 

 今なら、かつてピッコロ大魔王に破壊された神龍をそのままにしておこうとした神の気持ちが理解できる気がした。

 

 ただ、神龍と話してみたい。そう、思ったのだ。

 

 「フーン・・・まあいいけどね」

 

 「なあ悟空、どうせならオレに願い事決めさせてくれよ」

 

 「え?ヤダよ。お前ぇ、どうせギャルのパンティーでもお願いすんだろ?そんなの神龍がかわいそうじゃねえか」

 

 あんたらしい、と肩をすくめるブルマと、うずうずと口をはさむウーロンに、悟空は首を振った。

 

 正確には、六星龍がかわいそうなのだ。ずっとコンプレックスに思っていたのだから。

 

 というか、女性の下着を願うなんて、悟空には心底理解できない。普通に店で買ってきたのではだめなのだろうか?

 

 「かわいそう・・・神龍が・・・」

 

 「まあ、オレもわかるような気がするよ・・・神様の龍なのに、ギャルのパンティー要求されたら、何か・・・こう、いやだなあ・・・」

 

 理解しがたいと言いたげな顔をするブルマに、クリリンがうなずいた。

 

 それでも、神龍は願いは願いだからとかなえてくれはしたのだが。

 

 ともあれ。

 

 最後の一つのありかについて、占いババに訊いてはどうか、という亀仙人の提案があり、地図で場所を教えてもらって、改めてそこに向かうことになった。

 

 修行にもなるし、レッドリボン軍は悟空がつぶしたからさほど危険なことはないだろう、と、ヤムチャとプーアル、クリリンが付いてくることになった。

 

 なお、前の世界ではヤムチャの提案で悟空は道着を新調してもらったのだが、今回はそれはない。悟空は予備の道着を持ち歩いていたし、先ほど着替えたところなので。

 

 なお、靴も防寒着と一緒に牛魔王が用意してくれた予備に交換した。レッドリボン軍との連戦で、こちらも随分と汚くぼろくなってしまったので。

 

 そうして、たどり着いた占いババの宮殿。

 

 やたらセレブそうな人種が満足げに出てきたと思ったら、徒党を組んだごつい人間たちがボコボコにされて出てくるなど、どういう状況だ?と悟空以外の3人が首をかしげている。

 

 当の悟空は顔を青ざめさせていた。

 

 気を感じられる悟空だからわかる。

 

 やばい。あの館の中にいる、おそらくは格闘試合の対戦相手。その中の一人が、とんでもなくやばい。(今の時点では)

 

 前の世界では、この勝ち抜き試合の最後の相手を孫悟飯老が務め、悟空と対戦。己に踏みつぶされたとは思えないほどの朗らかな笑みといたわりをもって、別れてくれた。

 

 だが、今回の相手は孫悟飯老ではない。気を感じないから、たぶん養祖父はいない。

 

 死んだタイミングが異なるから、それで歴史がずれた?

 

 何よりも、この気の感触。悟空はそれに、覚えがあった。まさか。

 

 逡巡する悟空をよそに、案内お化けが「どうぞどうぞ」と奥へと案内してくれた。

 

 水晶玉に乗った小さな老婆。占いババという通称を持つその老婆に、早速探し物を依頼するが、案の定一億ゼニーという法外な金を吹っ掛けられた。

 

 もちろん、一同そんな金はない。ならばと老婆は提案する。自分が用意する5人の選手相手に、勝ち抜きの格闘試合を行い、5人全員倒せばタダで占う、と。

 

 もちろん、悟空たちは挑戦することにした。

 

 先ほどは戦慄してしまった悟空だが、これは殺し合いではなく格闘試合なのだ。

 

 どんな相手かはわからないが、試合のルールにのっとって、必要以上の暴力はしてこないだろう。

 

 あくまで悟空の感覚になるが、例のやばい気の持ち主は、ラディッツ以上、ナッパ未満という感じになる。つまり、現時点では逆立ちしても絶対勝てない。相手が虐殺行為を働いてきたら、絶対どうにもならない。

 

 だが、占いババの配下というからには、ある程度話は通用するはずだ。最悪の最悪、日を改めて出直せばいい。(逃げるようでやりたくないけれど)

 

 とにかく、問題はないはずだ。

 

 そうして、宮殿の裏手にある、湖に張り出した円い武舞台の上で、試合は始まった。

 

 1戦目の相手はドラキュラマンで、こちらの先鋒はクリリンが務めることになった。

 

 だが、ドラキュラマンの鋭い牙と、蝙蝠に自在に変身するアクロバティックな戦闘の前に、クリリンは出血多量でリタイア。

 

 続き、こちらはプーアルがびくびくしつつも挑戦。前の世界では、ウパとタッグを組んでの挑戦だったが、今回はウパがいないのでプーアル単独で務めることになった。

 

 ヤムチャとクリリンからもらった策で対抗。噛みつき攻撃にハリネズミで対抗し、ニンニク臭い息でドラキュラマンをふらつかせ、蝙蝠姿で逃げ出したところを巨大な手に変身して、湖に叩き落した。

 

 占いババが繰り出してきた二人目の選手は、透明人間のスケさんだった。こちらはプーアルに代わってヤムチャが出る。

 

 悟空ならば気を読んで位置や動きの把握ができるし、実際、悟空はそれで外からアドバイスを飛ばしたのだが、占いババの歌声に邪魔されてしまった。

 

 らちが明かない、と判断したクリリンは悟空にカメハウスからブルマと亀仙人を呼んでくるように指示。

 

 一方的にやられるヤムチャをよそに、どうにか超特急の筋斗雲で舞い戻ってきた悟空の片手にそれぞれつかまれた亀仙人とブルマに、クリリンは位置調整をして、ここぞというところでブルマのおっぱいを直視させることで亀仙人に鼻血を噴出させた。

 

 鼻血を浴びたスケさんは位置がまるわかりになってしまい、あえなくヤムチャの狼牙風風拳の餌食になって敗退。

 

 勝つためとはいえ、クリリンはブルマと亀仙人それぞれから文句を言われた・・・が、こっそり亀仙人からは褒められていた。

 

 悟空は、これに関しては黙っておこうと思った。親友がベジータに殺されるところなんて、みたくない。何より、悟空の事情が大きいのだし。

 

 ここで、亀仙人と占いババは実は姉弟ということが判明。しかしながら、それで手心を加えてくれるわけもなく、試合は続行ということになる。

 

 亀仙人とブルマは、このまま帰るのも、と見学していくことにしたらしい。

 

 今度は場所を移して屋内、悪魔の便所という通称の部屋で戦うことになる。

 

 悪魔の便所は、便所に腰掛けた向かい合った悪魔の石像、突き出されたその舌先を足場にした場所だった。はるか下の足元には毒沼が広がっており、占いババが放り投げた肉塊が一瞬で溶け落ちたほどだ。

 

 亀仙人が死ぬなというアドバイスをするしかない、デンジャラスなフィールドにて出てきた3人目の対戦相手は、戦う干物、ミイラ君である。

 

 包帯まみれの大男は、見た目に反してスピードもかなりのもので、ヤムチャを終始圧倒した。どうにかヤムチャが足払いで突き落としても、伸ばした包帯ですぐさま復帰。やむなくヤムチャはギブアップした。

 

 さて、ここで満を持して悟空の出番となった。

 

 悪魔の舌の上に登場した悟空だが、一目でわかった。やはり、このミイラ君は相手にならない。

 

 念のため、わざと攻撃を食らってみたが、やはりダメージにすらならず、悟空はたったの一撃、ミイラ君のみぞおちに拳をめり込ませて気絶させた。

 

 気絶させたミイラ君を運ぶ悟空は、こっそり気の感知を行う。やはり、寒気がするほど巨大な気の持ち主が、対戦相手側にいるらしい。どうなっているのだろうか。

 

 とにかく、今は目の前の試合だ。

 

 悟空の戦闘力に驚愕するほかのメンバーをよそに、4人目が出された。

 

 案の定、アックマンだ。黒い体躯と蝙蝠のようなつばさ。地獄出身で、天下一武道会で二度も優勝経験があるという猛者だが、悟空には大したことがなさそうに見えた。

 

 アックマンは翼を広げて自在に宙を舞って悟空を翻弄しようとしたが、あっさりと攻撃を見切られ、逆にカウンターの拳で毒沼に突き落とされかけた。翼がなければ死んでいただろう。

 

 だらしない、と叱咤する占いババに、アックマンはついに切り札を切ることにした。

 

 必殺、アクマイト光線。どんな人間でも必ずわずかに持つ悪の心を膨らませ、爆殺するという恐るべき技だ。

 

 初見殺しとしてはこの上ない技だが、ご丁寧に効果を説明してくれたうえ、この光線は渦を描きながら標的に迫る。要するに、速度が遅い。

 

 悟空は光線を軽々とよけて、アックマンの懐にもぐりこむと、蹴飛ばした。光線技の制御で無防備同然のアックマンは、避けることもできずに石像上部の壁に頭からめり込んでしまった。どう見ても、戦闘続行不能である。

 

 かつての悟空であれば、この光線が直撃しても平気であっただろう。

 

 だが、今の悟空は違う。悟空はサイヤ人としての己を知覚し、受け入れてしまった。超サイヤ人となった後に芽生えた、残忍さと冷酷さ。それは基本的に敵にしか向けられないものだし、悟空本人も修行を重ねて制御できるようにしたものだ。

 

 今は変身できなくなっているが、それでも、超サイヤ人としての感覚を覚えてしまっているのだ。超サイヤ人となれば、元気玉が使えないように、ごくごくわずかながら悪の気を帯びてしまうのだ。

 

 アクマイト光線の効果の範疇に入るかは定かではないが、わずかでもリスクがあるならば、避けるに越したことはない。

 

 悪の心さえ持っていれば必ず殺せる(おそらく、フリーザであろうとも!)というのは、すごい技ではあるが、一定以上のレベルになったらよけられてしまうだろう。

 

 ちょうど今、悟空がやったように。

 

 「なんと!よけおった!何たる小僧じゃ!」

 

 驚愕する占いババと、喝さいを上げるほかの仲間たちに、悟空はVサインを送りながら、「あと一人だ!来い!」と気合を入れる。

 

 もっとも、内心では冷や汗していた。あの、恐るべき気の持ち主と、いよいよまみえることになるのだ。

 

 しかし、すぐに平常心を取り戻した占いババが、5人目は今までにないほどの達人だ、と言いながら、呼び出した。

 

 「はいよ。お待たせ」

 

 などと軽い調子で、悪魔の口を模した入り口を潜り抜けて登場したのは。

 

 「女?!」

 

 ヤムチャの驚愕の声が響く。

 

 そう。対戦相手は、女性だった。

 

 だが、悟空としてはそれどころではない。

 

 肩の出っ張りこそないが、見覚えのある黒い硬質ラバープロテクターとブーツに、ベルトのように腹部に巻き付けた尻尾。ぼさぼさの髪は肩で切りそろえられているが、その色は黒。

 

 顔はと言えば、アンバランスな取り合わせとなる狐面(前の世界で正体を隠していた悟飯老がかぶっていたものと同じ)で隠されている。

 

 何より、その気の感触。間違いない。

 

 サイヤ人だ!やはり、自分の勘違いじゃなかったのだ!

 

 顔が引きつってないか、悟空は不安に思ったが、すぐに気を取り直した。

 

 「・・・大きくなったねえ」

 

 どこか感慨深げにつぶやかれた言葉に、悟空は一瞬怪訝に思う。

 

 誰だろう。ラディッツのように、自分のことを知っているのだろうか?

 

 よく見れば、女の頭には死人の証たる光輪が鎮座している。

 

 たしか、サイヤ人の星である惑星ベジータはフリーザによって破壊され、生き残っているのは、悟空の他はラディッツ、ナッパ、ベジータしかいないはずだ。そのうち2名が死に、純血サイヤ人は悟空とベジータしかいなくなった。

 

 となれば、この女は惑星ベジータの滅びとともに死んだのか。

 

 「ねえ、ばあちゃん。頼みがあるんだ」

 

 くるりと女が占いババを見上げていった。

 

 「ん?何じゃ?言うてみよ」

 

 「この子とは思いっきり戦ってみたいんだ。こんな狭いところじゃなくて、外の競技場を使わせておくれよ」

 

 「ほう・・・なるほどな。

 いいじゃろ。思い切りやるがよい」

 

 占いババの許可が出たことで、一同は再び外の武舞台へ移動する。

 

 「おい、しめたな悟空。たいした事なさそうだぞ。軽くいただきだ」

 

 移動しながら話しかけてきたクリリンに、悟空は黙って首を振った。

 

 「へ?」

 

 「おい、悟空?」

 

 悟空の反応に、クリリンが目を丸くし、続けてヤムチャが信じられないものを見る目で見てきた。

 

 だが、事実だ。

 

 「あいつ、強えぞ。ここにいる誰よりもな」

 

 硬い声で告げた悟空に、全員が絶句する。

 

 しかし、と悟空は内心で首を傾げた。

 

 あの女は、妙だ。サイヤ人にしては、邪気がない。気からとげとげしさを感じないのだ。むしろ、あの感覚は。まるで、親しげなものを前にした感じに近い。

 

 こちらを見知っているような反応といい、何者なのだろうか?

 

 一足先に武舞台に上った女は、何やらひそひそと占いババに話しかけている。

 

 「ほう!なんと!そういうことか!」

 

 突然、占いババが大声を出した。

 

 「しかしおぬし、まさか手心を加えんじゃろうな?」

 

 「何言ってるんだい。そんなの、かえって失礼だよ。あたしらを馬鹿にするんじゃないよ」

 

 不安そうに尋ねてくる占いババに、女は両手を腰に当ててプンスカ怒ってみせる。

 

 「・・・でもまあ、やってしまうかもしれないねえ」

 

 ポツリと付け加えられた言葉は、幸か不幸か、占いババには届かなかった。

 

 悟空もまた武舞台に飛び乗った。

 

 「よーし。では、最後の試合を始めるぞよ。

 どちらかが参ったというまでじゃ。

 無理じゃと思うが、もしもこれで小僧が勝てたなら、ドラゴンボールとやらのありかを占ってやるわい」

 

 占いババの言葉に、それでも声援を送る仲間たち。

 

 悟空は手合わせ前の挨拶をしたが、女は「どっからでもかかってきな!」とさっと身構えた。

 

 それを見て、なんだか悟空はむっとした。別に、今までの天下一武道会でも、試合前の挨拶を無視されることは多々あったが、今回はなんだか許容できなかったのだ。

 

 「お前ぇ、試合前の一礼を忘れてんぞ!

 じっちゃんも、これはちゃんとやれって言ってたんだからな!」

 

 正確には、こちらの孫悟飯老ではなく、前の世界の孫悟飯老なのだが。

 

 とにかく、悟空が眉を吊り上げてそう注意すると、「そ、そうなのかい?!ごめんよ!」と言いながら、女はぎこちなく両手を合わせてから、ぺこりと一礼した。

 

 「これでいいかい?すまないね、慣れてなくて」

 

 「わかりゃ、いいよ」

 

 申し訳なさそうに言う女に、悟空は口ではそう言ったが、内心では調子が狂いそうになっていた。

 

 自分で言ったこととはいえ、やはり目の前のこの女はサイヤ人にしてはおかしい。悟空の知るサイヤ人たちであれば、先ほどの注意を受けても鼻で笑うか、真逆激高して襲い掛かってきただろう。

 

 こんなに素直に聞き入れるなどありえない。サイヤ人としてはおとなしすぎる。

 

 とにかく、今は目の前の試合だ。首を一振りして、悟空は気を取り直す。

 

 その様子を見て、仲間たちが「悟空のやつ、何だ?変な顔して」などと言っていたのは余談である。

 

 そうして、占いババが「試合、始めぃ!」と声をかける。直後、女と悟空はさっと身構えた。

 

 「こりゃあ、すごい試合になりそうじゃわい。何者か知らんが、できるぞ、あの娘・・・」

 

 と、亀仙人がつぶやいた。

 

 悟空と女は身構えたまま動かない。否、悟空は動けないのだ。どう打って出ても、女にあしらわれる予想図しか見えないのだ。

 

 レベルが違いすぎる。

 

 かつて襲来したラディッツを前にしたときも絶望感を覚えたが、今回はその比ではない。負ける。まず間違いなく。確実に。

 

 「さ!どうしたんだい?かかってきな!」

 

 女が催促してくる。

 

 大丈夫。悟空は内心で自分に言い聞かせる。この女は他のサイヤ人たちとは根本的に違う。きっと、凶悪なことはしてこない。これはあくまで、格闘試合なのだ。

 

 むしろ、今の自分のレベルがサイヤ人たちにどのくらい通じるか、いい試金石になる。

 

 「いくぞ!」

 

 吠えると同時に、悟空は踏み込んだ。

 

 パンチは軽く受け止められ、蹴りもガードされる。しかも、姿勢を崩すこともできない。

 

 「たりゃりゃりゃりゃっ!」

 

 「どうしたどうした?!そんなものかい?!もっと本気出しな!」

 

 悟空の体術の猛ラッシュを次々と受け止めいなしながら、女が笑う。狐面の下で、好戦的な笑みを浮かべていることだろう。サイヤ人らしく。

 

 やがて、悟空のパンチの一つを受け止めた女は、そのまま悟空の体を勢いよく殴り飛ばした。

 

 「ぎゃあっ?!このぉっ!」

 

 悟空は悲鳴を上げつつもとっさに受け身を取り、そのまま武舞台を蹴って方向転換し、再び女に飛び掛かる。

 

 「いいね!根性がある!その意気だ!」

 

 嬉しそうにしながらも、女は悟空を迎え撃とうとした。だが、女が殴りつけた悟空の姿が消える。

 

 「ええ?!」

 

 「残像拳だ!」

 

 仰天する女に、クリリンが声を上げる。

 

 サイヤ人たちはスカウター――戦闘力の感知計測を行う装置を身に着けており、気の感知はできない。ゆえに、戦闘においては視覚頼りなところがあり、残像拳などの視覚を惑わす技には弱いのだ。

 

 急ぎ周囲を見回した女は、次の瞬間悟空のアッパーをまともに食らって、のけぞった。

 

 だが、それだけだ。大して痛そうな様子も見せずにすぐに姿勢を正すと、間髪入れずに悟空に拳を突き入れる。

 

 悟空はまともに吹き飛ばされるが、どうにか受け身を取って立ち上がった。

 

 「やるねえ!」

 

 「そっちもな!」

 

 うれしそうな様子を隠さない女に、悟空も口元に好戦的な笑みを浮かべる。

 

 「嘘だろ・・・悟空の攻撃、全然見えないのに、あの女の人、全部受け止めてる・・・。

 しかも、攻撃が全然通用してない・・・」

 

 「むう・・・いったい、何者じゃ?」

 

 信じられないものを見るような目で武舞台を眺めるクリリンに、サングラス越しに視線を険しくする亀仙人。

 

 「ふむ・・・なるほど、紹介されるだけあるわい・・・」

 

 一方の占いババも、先ほどまで圧倒的だった悟空が、逆に圧倒されているのを見て納得したように一つうなずいた。

 

 一方の悟空は誰にも悟らせてはいなかったが、内心では完全に気おされていた。

 

 案の定だ。目の前の女はレベルが違いすぎる。どうあっても勝てない。自分は本気で戦っているのだが、彼女にはお遊びレベルでしかないらしい。

 

 さて、どうする?

 

 「まさかこれで終わりかい?」

 

 「まさか!これからだっての!」

 

 逡巡する悟空をよそに、女は不満そうに両手を腰にやる。とっさに悟空は言い返しはしたが、どこまで通用するか。

 

 「フーン・・・じゃあ、次だ!」

 

 言って、彼女はふわりと浮き上がる。

 

 「なんと?!」

 

 「舞空術だ!」

 

 「孫君以外にもいたの、飛べる人・・・」

 

 仲間たちが驚きの声を上げる中、武舞台の上空高くを陣取った女はちょいちょいと手招きをする。

 

 「ほら!こっちだ!かかっておいで!」

 

 「お前ぇなぁ・・・」

 

 悟空は、嘗められていると怒るよりも、呆れたくなった。というよりも、実際呆れている。

 

 先ほどのやり取りで、こちらのレベルの低さは十分わかったはず。あれでどうして空が飛べると思えるのやら。

 

 「どうしたんだい?ほら!こっちにかかって来なよ!」

 

 不思議そうな様子で続きを促してくる女に、悟空は気を取り直して身構える。

 

 別に、こちらも舞空術を使う必要はない。天下一武道会からドラゴンボール探しの旅の合間に研鑽は続けているが、まだまだへたくそな部類だ。

 

 だから、舞空術は使わない。

 

 悟空は地を蹴って弾丸のように飛び出し、殴り掛かる。そのまま連続攻撃を仕掛ける。

 

 「と、ととっ!威勢がいいねえ!」

 

 悟空の連続攻撃をいなす女は、ひらりと悟空をよけた。

 

 攻撃を仕掛ける相手がいなくなり、悟空は湖に落下しかけるが、とっさに舞空術でそれを回避する。

 

 「よしよし!飛べるね!できるじゃないか!」

 

 ・・・どうやら、飛べないかもしれないとは思われていたらしい。

 

 内心で、悟空はむっとした。まんまとひっかけられた気分だ。

 

 とはいえ、くどいようだが、悟空の舞空術はまだへたくそな部類だ。場外負け回避ならいざ知らず、長時間飛行や空中戦などは到底無理だ。

 

 初めて歩いた子供をほめるような調子の女に、悟空は見てろよ!と内心で負けん気たっぷりに気を練り上げる。

 

 「かぁめぇはぁめぇ波ぁぁぁっ!」

 

 下に向かってかめはめ波をぶっ放す。反動で悟空の体はロケットのように加速した。ある程度舞空術が上達すればめったに使わなくなるが、舞空術が使えなかった頃はよくやっていた、気功波の反動による加速方だ。

 

 「おっと!それもできるんだね?!すごいすごい!」

 

 子供のようにはしゃぐ女に向かって、悟空は拳を振り上げた。

 

 だが、次の瞬間悟空は女に軽く羽交い絞めにされる。否、抱き留められたとでもいうのか?

 

 「よしよし!最後の確認だ!」

 

 「へ?お、おい!何すんだよ!」

 

 言いながら、女は悟空の道着に手を入れてきたのだ。悟空は大慌てでもがこうとしたが、女の力が強すぎて振りほどけない。

 

 どうする?裸覚悟で道着を引きちぎるか?

 

 だが、女の手が悟空の尻の少し上を撫でたと思ったら、女が急に硬直した。

 

 「・・・お前、尻尾はどうしたんだい?」

 

 「尻尾?ああ、天下一武道会で邪魔になったから、切っちまった」

 

 ややあって、震える声で尋ねてくる女に、悟空はあっけらかんと答えた。

 

 「っちゅーか、くすぐってえよ!いい加減放せ!」

 

 「~~~っ! 何してるんだい!尻尾は大事なものなんだよ?!そんな簡単に切るんじゃないよ!」

 

 じたばたと暴れる悟空に、女が叫んだ。

 

 一瞬、悟空はあれ?と思った。尻尾のことを知られているのは、サイヤ人だからまあ、わかる。悟空のことを知っているなら、同じものがあるだろうと思われていてもおかしくはない。

 

 悟空が怪訝に思ったのは、女の声音だ。あれは、そう。息子を怒るときの、嫁の怒声にどこか似ていたのだ。

 

 だが、次の瞬間、そんなことは考えていられなくなった。

 

 芥子色の脚衣が下着ごと引きずり降ろされる。スースーする感触から、尻がむき出しにされたのだ。そのまま悟空は女の膝の上に置かれるような格好にされる。もちろん、悟空は暴れて抵抗したが、女の押さえつける力の方が断然上で、どうにもならない。

 

 「何すんだよ?!」

 

 「悪い子にはお仕置きが必要だね!尻尾を無くすなんて!反省しな!」

 

 バチンっという皮膚をたたく音がした。女の張り手が、悟空の尻を打ったのだ。俗にいう、お尻ペンペンである。

 

 ギャッと悟空は悲鳴を上げたが、それで女が止まってくれるわけがない。二撃三撃と尻をぶたれる。

 

 「孫君がお尻ペンペンされてる・・・」

 

 「というか、あの人、何で悟空に尻尾があるって知ってたんだ・・・?」

 

 あっけにとられる仲間たち。ここで、目ざといヤムチャが気が付く。

 

 「なあ、あの女が腹に巻いているの、ベルトかと思ってたんだが、悟空のと同じ尻尾のように見えないか?」

 

 「え?!そ、そういえば・・・」

 

 「い、言われてみると・・・」

 

 顔を見合わせる仲間たちをよそに、悟空をお尻ペンペンする手を止めた女が、スーッと武舞台に舞い降りる。

 

 そうして、ようやく悟空を放した。

 

 「いちちちちっ・・・おー、いてぇ!」

 

 下着と脚衣を引き上げ、まだヒリヒリする尻をさする悟空は、涙目だ。嫁にもこんなことされたことがないのに。とっさに気を集中させて痛みを軽減させたが、それでもめちゃくちゃ痛い。

 

 「・・・なんで尻尾を切ったんだい?」

 

 「だからさあ、天下一武道会の決勝で、オラ、大猿に変身しちまってさ。これじゃあ勝負にならねえから、尻尾を切って変身を解除したんだよ」

 

 幾分か低い声ながらも落ち着いたらしい女が問いかけてくるのに、悟空は尻をさすりながら答えた。

 

 「てんかいちぶどうかい・・・?」

 

 「地球上の武道家を集めて一番を決める大会だよ。オラ、それに出たんだ」

 

 「だからなんで尻尾を切る必要があるんだい。大猿に変身すれば、楽勝じゃないか。

 あんたは知らないかもしれないけど、大猿になったら通常時の10倍の強さになるんだよ?」

 

 「そんなのあれだ、公平じゃねえだろ?」

 

 「公平・・・面白い考え方をするねえ」

 

 悟空の言葉に、女は愉快そうに肩を揺らした。

 

 「なんで尻尾を触ろうとしたんだ?」

 

 「お前、ちゃんとあれを鍛えてるかい?確かめてやろうと思ってね」

 

 「ああ。鍛えてるぞ。生えてきたらまた鍛えなおさねえといけねえかな?」

 

 「前鍛えた分は頑丈なままだけど、強くなりたいならそうしないといけないねえ」

 

 悟空の言葉に、女は大きくうなずいた。

 

 「大猿のことも知ってるぞ・・・!」

 

 「いったい何者なんだよ・・・?!」

 

 「・・・あれほどの強さでありながら、天下一武道会のことを知らぬとは。ますますもって奇妙な奴じゃ」

 

 ひそひそと仲間たちが話し合う中、占いババがしびれを切らしたように叫んだ。

 

 「こりゃ!試合の続きをせんか!」

 

 「あー!ごめん!ばあちゃん!それなんだけどさあ!」

 

 占いババの方を振り向いた女が笑っているような様子でいった。

 

 「降参。あたしの負けってことにしていいかい?」

 

 全員が絶句した。悟空ですら、目を丸くして硬直した。この女は何を言っているのだろう?

 

 「な、何を言っておるのじゃ!

 こりゃ!手心は加えんと言っておったはずじゃろう!」

 

 「本当にごめん。あたしの給料タダでいいからさ、この子・・・ええっと、この子の探し物を占っておくれよ。この通りだ!」

 

 慌てる占いババだが、両手を合わせて頭を下げる女に、ややあってため息をついた。

 

 「図々しい奴じゃのう。まあ、よい。しょうがあるまい」

 

 「やった!じゃあ、そろそろ・・・」

 

 女は嬉しそうにしながら、狐面を取った。

 

 その下から現れたのは、整った顔立ちだ。サイヤ人らしい、黒い目と黒い眉。だが、悟空にはやはりこんな女の記憶はない。

 

 「久しぶりだねえ。悪かったねえ、正体を隠してて。

 誰かわかってると、本気を出せないかもしれないと思ってね」

 

 にこやかに笑いかけてくる女に、悟空はやはり戸惑うしかない。この言い草からして、やはりラディッツのように己の知り合いらしいということは分かるのだが。

 

 「? どうしたんだい? あたしのこと、わからないのかい?」

 

 「ええっと・・・悪い。オラにはわかんねえ」

 

 「え・・・!」

 

 不思議そうな女に、悟空が申し訳なく思いながら言うと、女はショックを受けたような顔をした。

 

 「ほ、本当に分からないのかい?あたしだ!ギネだ!お前の母親だよ!」

 

 『ええええ?!』

 

 ショックを受けた様子でおろおろと悟空を見やる女――ギネに、仲間たちが声を上げる。

 

 「ご、悟空の」

 

 「お母さん?!」

 

 「そうか!それで尻尾や大猿のことを知ってたのか!」

 

 「か、母ちゃん?!オラの?!」

 

 これには悟空も驚きの声を上げたが、一方でそういうことか、と納得もできた。だが、同じくらい怪訝な思いもあった。

 

 なぜ彼女は、自分の名前を呼ばないのだろうか?

 

 「オラ、ずいぶん昔に頭打っちまって死にかけたことがあるんだ。まだ痕が残ってる。もしかしたらそのせいかも」

 

 黒髪のせいで見えない傷跡を押さえて言った悟空に、亀仙人が口をはさむ。

 

 「うむ。孫悟飯からの紹介状に書かれておったな。

 昔、山で拾った子供は、拾った当初は手が付けられんほどの暴れん坊じゃったが、ある時目を離している間に崖から落ちて頭を打って、生死の境をさまよった。

 しかし、子供は信じられない生命力で回復し、それ以降は優しい子供になった、とな」

 

 「紹介状?あのエッチな本に?」

 

 「違う!あれに手紙が挟まっておったのじゃ!」

 

 悟空の問いかけに、亀仙人が訂正をする。

 

 悟空は、一瞬怪訝に思ったが、おそらくは悟空が弟子入り後もやっていけるように、という孫悟飯老の気づかいによって語られたカバーストーリーだろうと判断した。

 

 そうしていると、痛々しげな顔をしたギネの手が伸びてきた。傷跡を押さえる悟空の手の上に、そのほっそりした手が重ねられる。

 

 「そうだったんだね・・・もう痛くないかい?」

 

 「ああ!平気さ!」

 

 「忘れられたのはショックだったけど、生きててくれてよかったよ・・・」

 

 ニカッと笑った悟空に、ギネはほっとしたように顔を緩めた。

 

 こちらの世界の本来の悟空は死んでしまっているのだが、それは悟空には言えないうえ、言えたとしてもそれを告げるのは酷だろう。こっそり悟空はそう思った。

 

 かつての悟空ならぽろっと言いそうなものだが、それなりに年を重ねて多少の思慮深さは身に着けた彼は、言わなくていいことだと判断した。

 

 「ねえ、そんなに心配するなら、なんで孫君を捨てたりしたの?」

 

 むっとしている様子で、ブルマが尋ねてきた。

 

 「捨ててなんかない!」

 

 「じゃあ、なんで孫君はお爺さんに拾われることになってるのよ?!おかしいでしょ!

 今更出てきて母親です!なんて都合がよすぎるじゃない!」

 

 カッとした様子で怒鳴ったギネに、負けじとブルマが怒鳴り返した。

 

 「それは・・・」

 

 何やらもの言いたげに口元をもごつかせて、ギネはうつむくと、ややあって絞り出すように続けた。

 

 「その・・・あたしたちの、故郷で・・・その・・・事故が起こりそうで・・・このままだと危ないから、この子だけでもって逃がしたんだ。

 でもけして!捨てたわけじゃない!落ち着いたら迎えに行こうって!その・・・あいつとも決めてたんだ!

 けど、その前に・・・」

 

 どこか言葉を探すような調子のギネの頭には、死人の証である光輪が輝いている。

 

 「なんでそんなに歯切れ悪いのよ?」

 

 「・・・なあ」

 

 ブルマが胡散臭そうにツッコミを入れるが、ここで悟空が口をはさんだ。

 

 その様子に、悟空は心当たりがあったのだ。

 

 「お前ぇさ、もしかして変な奴に言いたいことを言えなくされてるんじゃねえか?

 オラもそうだからよ」

 

 「! そう!そうなんだ!」

 

 悟空の言葉に、ギネがパッと顔を上げて嬉しそうにうなずいた。

 

 「お前に会わせてやるけど、その代わりいくつか言えないことを設けさせてもらうって言われてね」

 

 どうも、この母も例の邪神による言動制限を受けているらしい、と悟空は察した。先ほどから自分の名前を呼ばないことや、惑星ベジータやサイヤ人といった言葉を出さないのも、そのせいだろう。

 

 「ふむ。悟飯からの紹介状にも書かれておったの。

 孫は妙な呪いにかかっていて、時々言いたいことを言えなくなる時があるかもしれない、しかしけして悪い子ではないから、とな。

 まさか母親まで同じ呪いにかけられているとはの」

 

 亀仙人がうなずいて付け加えてくれた。

 

 なるほど、と悟空は内心で思った。天下一武道会の時、舞空術が使えることへの言及が妙にあっさりしていると思ったら、それがあったからか。

 

 孫悟飯老には感謝しかない。

 

 「本当は、お前の名前だって呼びたいんだ。でも、できなくされてるんだ。ごめんよ・・・」

 

 しょんぼりした様子で、ギネは言う。そうして、思い切った様子で続けた。

 

 「・・・捨てられたって、あたしたちのことを恨んでるかい?」

 

 震える声で尋ねてくるギネは、泣きそうな顔をしている。

 

 「なあ、母ちゃん」

 

 思い切って悟空は呼び掛けた。

 

 母親の存在なんて、これまでの人生で一度も認識したことがなかった。この二度目の世界でも、きっと無関係なままで終わるのだろうと思っていたのだ。

 

 心のどこかで、どうせラディッツがそうだったように、彼らも自分を地上げと侵略の先兵程度にしか扱ってないのだ、と決めつけていた。

 

 けれど、今目の前のギネを見て、察した。

 

 きっと、ギネたちはフリーザの企みを見抜いたのだろう。そうして、せめて悟空だけでも、と逃がしてくれたのだ。侵略の先兵と偽装して。

 

 「オラをパオズ山に送ってくれてありがとな」

 

 だから、悟空は正直なところを言葉にすることにした。

 

 「おかげで、オラは悟飯のじっちゃんに会えたし、ブルマやクリリン、亀仙人のじっちゃん・・・たくさんの仲間たちに会えたんだ。

 母ちゃんから見たらまだまだだけど、強くなっていけた。

 母ちゃんが、オラを逃がしてくれたおかげだ。ありがとうな」

 

 ニカッと笑って悟空は言った。

 

 途端に、ギネは目を潤ませると、感極まった様子で悟空に抱き着いてそのままわんわん泣き出した。

 

 「ありがとうってぇ!なんていい子なんだい!それはこっちのセリフだよ!うわああんっ!」

 

 「ぐえっ!つぶれる!手加減してくれぇ!」

 

 サイヤ人の馬鹿力で手加減なしに抱きしめられたら、圧死しかねない。悟空はたまらず叫んでいた。

 

 「あっ、ごめんよ。つい、加減できなくて・・・」

 

 慌てて力を緩めるギネだが、悟空を抱きしめる手はそのままだ。

 

 「迎えに行けなくて、本当にごめんね。

 あたしたちは、かなり昔に死んじまってるんだよ。

 だから、できなかったんだ・・・」

 

 「うむ。そのようじゃな。ほれ、頭の上に天使の輪が浮かんでおるじゃろ?」

 

 申し訳なさそうなギネの言葉に、亀仙人がうなずいた。

 

 「そうだったんだ・・・じゃあ、生き返ったってこと?」

 

 ブルマの問いかけに、ギネは首を振った。

 

 「いいや、死人のままさ。

 そこにいるばあちゃんは、なんでも自在にあの世とこの世の行き来ができるそうでね。

 そして、あの世から死んだ武術の達人をスカウトしてきて、ここでこうやって高い給料で働かせてくれるそうなんだ。

 一日だけの限定でね」

 

 「一日だけ・・・」

 

 「じゃあ、孫君と会えたのはすごい偶然だったのね・・・」

 

 「そこは、ソンゴハンってじいさんとばあちゃん二人のおかげだね!」

 

 からりと笑って、ギネは立ち上がって説明しだした。

 

 なんでも、友人たちとともに地獄行きを選択したギネに、つい最近、天国からの面会申請があり、受理した。

 

 その面会を希望したのが、病死した孫悟飯老で、悟空の母親の話を聞きたいということだった。

 

 ここで、ギネは言葉を詰まらせ、歯切れ悪く説明したが、悟空はおそらく、事情を知る悟飯老がギネにどういうつもりで悟空を地球に送ってきたか問いただしたのだろうと察した。

 

 事情を説明して和解した、息子が元気にやっていると知ってほっとした、とギネは語る。

 

 そして、それからしばらくのち、再び悟飯老から面会の申し入れがあった。

 

 なんでも悟飯老は、尻尾がある黒髪の少年が来る日を、占いで未来がわかる占いババに教えてもらえるように頼んでいた、最初は自分が行こうと思っていたが、死んでまだ日が浅いため、本来は天国行きであったギネに声をかけてきたのだという。

 

 一応地獄の亡者となるギネの現世行きに、あの世をつかさどる閻魔は渋面をするかと思いきや、妙にひきつった顔で了承してくれたそうだ。(この辺りに、邪神の影響を感じる。おそらく、それがなかったら受理されなかっただろう)

 

 ここで、声をかけてきたのはクリリンだ。

 

 「・・・なあ、悟空。神龍への願い事、まだ決まってないならさ、お母さんを生き返らせてもらったらどうだ?」

 

 「そりゃあ、いい考えだな!」

 

 「しぇんろん・・・? 生き返るって、どういうことだい?」

 

 ぱちくりと目をしばたかせるギネに、悟空は胸の内に一抹の不安をよぎらせた(前の世界のサイヤ人たちはドラゴンボールを狙って地球に飛来したのだ)が、まあ、いっか、大丈夫だろ、と事情を明かすことにした。

 

 7つ集めれば、どんな願いでも一つだけかなえてくれるドラゴンボールの存在を聞いて、ギネは目を丸くしたが、すぐに首を振った。

 

 「・・・いいよ。あたしは遠慮しとく」

 

 「ええ?!」

 

 「生き返れるんですよ?!悟空とまた一緒に暮らせるのに!」

 

 「地獄にね、その・・・仲間がいるんだ」

 

 仲間たちの言葉に、ギネは苦笑した。

 

 「地獄って・・・」

 

 「うん・・・まあ、いいことしてたかって言われるとねえ・・・他に生き方も知らなかったし。

 それでも、あたしにとっては大事な連中なんだ。

 あたし一人が特別扱いされるわけにはいかないよ」

 

 困ったように笑うギネに、一同は言葉を飲み込んだ。

 

 悟空は一人、事情を理解していた。

 

 ギネの言う仲間というのは、間違いなく惑星ベジータに住んでいたサイヤ人たちだ。

 

 フリーザ軍配下の、惑星地上げ業に従事していた、残忍な戦闘民族。そんな連中が、天国行きになるなんてありえない。

 

 それでも、ギネの仲間であることに違いないのだ。

 

 息子一人のために仲間を見捨てるか、息子は大丈夫だからと夫と仲間の元に戻るか。極論すればそんなところだ。

 

 そこに地獄の責め苦というものが加われば、なるほど、生き返ることを選べば、仲間を見捨てるようにもなる。(一度あの世暮らしを決めたことがある悟空だからこそわかる)

 

 先の試合で、悟空が一人でも大丈夫なことを確かめたかったのだろう。

 

 「それにね。お前は一人じゃないんだよ。

 どこにいるかはわからないけど、兄がいるんだ!事故の時、故郷を離れてたはずだから、そのうち会えるよ!」

 

 嬉しそうにそのことを告げてくる母に、悟空は微妙な顔をせざるを得なかった。

 

 その兄は、おおよそ11年後にやってきて、侵略稼業の手伝いを要請してきて、断ったら子供を人質に取って地球人100名殺せとか無茶苦茶言ってきて、最終的に道連れにして死なざるを得無くしてきてるのだが。

 

 悟空に、サイヤ人=最悪な連中というファーストインプレッションを植え付けてきた上、その後、サイヤ人襲来とナメック星でのドラゴンボール争奪戦に参加せざるを得無くしてきた、ある意味では諸悪の根源である。

 

 「え?!悟空にお兄さんがいるんですか?!」

 

 「ああ、そうさ!えっと・・・とにかく、強くて優しい子なんだよ!」

 

 驚く周囲にギネは嬉しそうに告げる(おそらく名前を言おうとしたらしい)が、悟空は引き続き微妙な顔をしたままだ。

 

 母には悪いが、あれが優しいとはどうしても思えない。

 

 「なあ、父ちゃんもいるんだろ?どんな奴なんだ?」

 

 兄のことから話題をそらしたくて、悟空はツッコミを入れた。

 

 「ああ。不器用で口下手だけど、誰よりも強くて優しい、いい男さ。

 ・・・あんたをここに送ろうって言いだしたのは、あいつなんだ」

 

 「そっか・・・」

 

 「その・・・事故を、何とかしようって、最後まで頑張ってたんだ・・・。

 結局、どうにもできなかったんだけどね・・・」

 

 「そっか・・・」

 

 しんみりするギネに、悟空もまた頷いた。

 

 フリーザ相手に最後まで抵抗したのか。フリーザが並みの相手にどうこうできるわけがない。それでも、あきらめずに頑張ったのか。

 

 ここで、案内お化けが口をはさんできた。

 

 次の客が待っている、と。

 

 さすがに親子を引き離すほど、占いババは鬼ではない。

 

 ドラゴンボールのありかは明日、ギネをあの世に送り届けた後、占ってくれることとなった。

 

 そうして、貴重な残り時間(死人であるギネには感覚で分かるらしい。悟空もそうだった)を悟空とともに過ごすことになった。

 

 ここで、仲間たちとは別れることになった。次回の第22回天下一武道会が3年後にあることを告げ、ヤムチャは亀仙人に弟子入り、悟空はドラゴンボール探しを追えたら、そのまま筋斗雲なし、自分の足で世界中を旅することを決めた。

 

 そうして、ギネは舞空術、悟空は筋斗雲でパオズ山へ行く。

 

 庵はだいぶ埃っぽくなっていたが、井戸はまだ使えたし、山の恐竜や怪魚を仕留めたら食事は間に合う。

 

 ギネは、粗暴なサイヤ人とは思えないほど家庭的で、てきぱきと掃除をして、食事の支度もやってくれた。(故郷では、肉の配給がかりをしてたんだ!と彼女は語る)

 

 「なあ、母ちゃん。やっぱり地獄に帰っちまうんか?」

 

 「いったろ?地獄には仲間がいるんだ。

 あたし一人が勝手に生き返れないよ」

 

 真っ暗闇になった庵の中、少々埃っぽいベッドで二人並んで寝ながら、悟空が問いかけると、うつらうつらしながらギネが答えた。

 

 「さ、明日も早いんだ。子供は寝る時間だよ」

 

 「おう・・・」

 

 ギネの言葉に、悟空はそう答えたが、真っ暗な天井を見つめながら、猛然と思考を巡らせていた。

 

 悟空はわがままなのだ。身勝手で、どうしようもなくずるいのだ。自分の望みをかなえるためなら、多少の無茶は押し通そうとする。

 

 どうすればいいだろう?

 

 

 

 

 

 続く




 ※逆行悟空の特徴 その8

 GTルートをたどっているので、邪悪龍との戦いを経験済み。このため、ドラゴンボールを単なる万能願望器扱いするのには、思うところがある。

 自分の選択に悔いはないし、あれが最善だったとは思うが、もっとありようがあったのではないか、とも思っている。

 一応、この悟空はZを経験済みではあるのだが、父親であるバーダックとは一切接点がないという設定でもある。(あの世滞在中は、見事なまでにバーダックとはすれ違い続けていたらしい)

 そういうこともあって、自分の両親というものに対して興味は持っていなかった。

 唯一の肉親である兄のファーストインプレッションが最悪すぎたため、深層心理でどうせ両親も似たり寄ったりと思っていた。

 今回、孫悟飯老の死亡時期のずれと、彼が悟空の生い立ちを知ってしまったことによるバタフライエフェクトによって、実母のギネと対面。

 兄のみならず、他のサイヤ人(ナッパと初期ベジータ)の印象が最悪すぎたので、ギネの行動に調子が狂わされっぱなし。

 ギネがギブアップ申請してくれたが、逆行後に実質的な完敗を喫した。(ぶっちゃけ、勝負にすらなっていなかった)

 ギネがあの世に帰ると聞き、どうにかしたいと思い始めている。(動機は次回に)





Q.ギネさんの強さ、あんなもんですか?

A.多分、もっと強いです。悟空が瀕死パワーアップ込みとはいえ、まだ地球人レベルの強さですので、ギネさんはそれに合わせた感じです。生後の戦闘力が2の息子が、多少は強くなってるかな?という様子見ですね。
 原作(ジャコ収録のドラゴンボールマイナス)では、そこのところはっきり描かれてないので捏造しましたが、何か。



Q.アックマンのアクマイト光線、逆行悟空でもやっぱり避けた方がいいですか?

A.本文中で書いてある通りです。スパーキングシリーズ(格ゲー)のいずれかには、アックマンのアクマイト光線でフリーザ一味を撃破しろっていう何とも無茶なミッションがあったらしいので、当たりさえすればフリーザでも殺せるのでしょう。
 ただ、レベル差がとんでもないので、当たるわけがないんですよねえ。


 2023.12.30.追記
 来年1月3日に続きを1話だけ投稿しますので、それに伴い前書きと後書きを変えておきます。
 長い?くどい?知らん。私の書きたいようにやる。いやなら読むのやめたらいいんじゃないですか?無料サイトの二次創作ですよ?不愉快なら無理にお付き合いしてもらうことないと思います。
 ・・・そう言える心の強さが欲しいです。
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