信仰は儚き人間のために   作:空箱一揆

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黒く深いどん底から浮かび上がるイメージ。
渋谷事変のOPを聞きながら久々に執筆してみました。


第1話 無味無臭

 ■■が死んだ……、弱まった信仰の先に在った希望は潰えた……

 ■■■は、消えた……、

 柱を在りと認識する楔の喪失により、我らの存在は無へと転じる。

 それを是とするわけではない。

 これを許容できるはずがない。

 されど、この身体を知るものはおらず、ただ、ただ堕ちるのみ……

 力が抜けていく―――。

 意識はドロドロと眠りの縁へと流れ散る。

 ■■■■■という名の格は削げ堕ち、最後に残るのは……、

 祟りを束し支配する在り方。

 人へむける■の愛。

 ■■が死んだ、私を在り方が闇へ失せる。

 ■■■■■という格が剥け堕ちる……、最後にあるのは、恐怖に支配。

 愛している……、

 愚かなる■■より生まれし民……、

 信仰が霧散する。

 神格がそげ落ちる……、私という在り方が消えて消える瞬間、最後に一つだけ残ったもの……

 

『恐怖を忘れた人間よ、私を思い出せ――――』

 

 人の姿に似た影が溶けた…………、、、、、、。。。。。。。。。。。。。

 

 

 

 

 その夏は忙しかった。

 人口の増加と共に増えるかのように、死肉に群がるがごとく呪霊が涌く。

 友である悟が最強へ至り、私は独り任務に明け暮れた。

 蛆のごとく涌く呪霊を祓い、取り込む。

 祓い、取り込み、嚥下する。

 汚物を煮詰めたような不快感が、喉を通り、全てをぶちまけたくなる衝動に駆られてる。

 それらの嫌悪を押し殺しながら、身体へ取り込む。

 祓い、取り込み、嚥下する。

 何度繰り返しても慣れることのないその行為を繰り返す。

 最強へと至った友に追いすがるために、届かないと半ばあきらめながらも、もう半分の自身はそちらへ渡ることを諦めきれないでいる。

 ただ力を求めるごとく、祓い、取り込み、嚥下する。

 友の力に及ばずとも、私の力は一般の術師よりは抜きんでていた。

 そのために途切れることなく任務を与えられ、そのたびに、祓い、取り込み、嚥下する。

 これからする事も何時もと同じこと。

 とある山岳の部落。その村は市へと吸収されて地図から名前が消えた村。

 強力な呪霊が迫る。

 黒い影は、蛇と蛙が混ざったような姿であった。

 

 「―――強いな……、」

 

 私はとっさに手持ちの中でも最大級の呪霊を呼び出し自身の身体に巻き付かせるようにして身体を守る。

 

 視界を埋めつくす黒い蛙と白い蛇が、螺旋を舞う長い胴体に弾かれて霧散する。

 呪霊と自身の間に虚空が広がりその姿を視認することに成功した。

 黒くて重いそんな存在がそこに在る。

 予想よりもはるかに強力な呪霊であった。

 これほどの呪霊を取り込むには、その力を削ぎ、調伏する必要がある。

 瞬時に互いの力関係を修正した私は、手持ちで最速の呪霊を呼び出した。

 数秒にも満たない刹那を縫って、最速の呪霊が、黒い存在に迫る。

 嘴にも似た鋭利な突起が、黒い呪霊に触れる瞬間、

 

 『■■■ッ!!』

 

 怨嗟にも似た雄たけびを上げて、私が放った呪霊が叩き落される。

 黒い輪のような何かによって、殴打され、呪霊が砕かれる。

 返す勢いで、黒い存在は私の方へと一足で迫る。

 長い尾の先がそれを弾く。

 黒い存在は黒い輪によって尾を弾く。

 手持ちの呪霊は、痛みを感じたように、尾を引き戻す。

 黒い存在は、弾かれる勢いのまま再び、私と距離をとる。

 

 「――強い…………」

 

 およそ1級相当とあたりをつけていたが、これまで出会った1級相当の呪霊とは一戦を画す存在である。

 だがそれでも、

 

 「悟よりは弱い」

 

 強力な呪霊であることは、疑うべくもない。

 これを下せば、悟のいる場所に至れるのか? 

 強力ではあるが、悟よりも弱いこの呪霊を下したところで、私は強く在れるのか?

 迷いは己を鈍らせる―――。

 

 迷いながら、身体は戦いを続けていく……、そして私は、負けなかった―――。

 

 黒い存在を球体を圧縮し、口へ運び、嚥下する。

 疲れ切っていた私に、普段との味の違いなど分からなかった。

 全身にめぐる倦怠感から逃れるように、早々とこの場から離れる。

 今はただ、全身にまとわりつく汗と穢れを洗い流したい気分だった―――。

 そして、その後は何も考えずに泥のように眠るのだ。

 出来れば夢さえ見たくなかった。

 思考することが億劫であった。

 何も考えたくなかった。

 それでも、人は夢を見る―――。

 

 争い、恐怖で縛り、ときには生贄を差し出させ人の歴史は紡がれていく。

 人は弱く、自然界で最弱に在ったそれは、群れをなし、弱者を切り捨て、食い物にして生き残り、繁栄することに成功していた。

 まさに、猿の群れと呼べる蛮族の徒である。

 

 人が弱いことは仕方がないと影が言う。

 

 そんな弱い人間のために、なぜ自分が、友が、命を掛ける必要があるのか? 

 ノブレスオブリージュを成すことが、力を持つ者の使命だと信じていた。

 

 それは正しいことだと影がうなずく。

 

 自分の価値観が揺らいでいるのだ。力を持つ者の使命を果たしたとして……、弱き人間の為にそれを成す価値はあるのか?

 

 是と影が答える。

 

 その返しに、行き場のない不満を抱えながら黙り込む。

 その価値を信じられないのだ。

 これまで見た光景が、人の悪意が、頭から離れないのだ。

 苦悩に歪む表情を前に、影が全てを見透かした表情で私を射貫く。

 

 「強きものが成すべき使命があるように、弱きものにも持つべき姿がある」

 

 と影が続ける。

 

 「弱き者、持たざる者は知るべきである。恐怖を、無力を」

 

その影が僅かに揺らめき、四肢を得た姿を形どる。

 

 「自身が無力であることを。弱者を切り捨てることで生き残るすべを。生贄を出さねば、生き残れない儚さを」

 

 影がわずかに光を帯びた。

 

 「守護すべき存在の信仰を、崇めるべき信仰を、恐怖すべき信仰を。人はその魂に刻まなくてはならない。儚き人間として生きるために。儚きものとしか生きられぬ者ゆえに」

 

 影が大きく口を開く。

 

「儚き人間の子供よ、私を信仰せよ。そして人に、再び信仰を取り戻せ」

 

 その姿がはっきりと人の姿をとる。

 真っ暗なこの場所に光が僅かに差し込んだ。

 

 「夏油傑、私を信仰せよ。■■■■■の名を再び人の中に刻め」

 

 影が、人型へと姿を転じる瞬間、私の意識は覚醒した。

 

 

 




友人と呪術廻戦の二次創作で盛り上がっていたら、バタフライエフィクトの救済が好みと言われました。
もし真衣が真希と同じガンギマリだったら、というネタを思いついたのですが、時期的に夏油救済が不可能なのと、上手く話がまとまらなかったので、リハビリを兼ねて何時ものクロス小説を書いてみました。

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