信仰は儚き人間のために   作:空箱一揆

2 / 8
書きたい展開などが、ふつふつ思いついて来たので、連載に切り替えようと思います。


第2話 心の在り方

 「なあ灰原、呪術師としてやっていけそうか? つらくないか?」 

 

 呪霊討伐の任務に忙殺されていた夏油傑であったが、一生何度もない学生夏休みの中で、この日は幸運にも後輩と時間をつぶす程度の時間的余裕があった。

 夏油の隣に座る青年の名前を灰原雄。黒髪短髪で、元気と前向きさに性質を極振りしたような好青年だ。彼は、自分が物事を深く考えないたちだと前置きをして答えた。

 

 「自分にできる精一杯のことを頑張るのは気持ちいいです!!」

 

 少なくとも今の灰原は、呪術師としてやっていくことに憂いを覚えていることはないようであった。

 奢ってもらったコーラを横に置き、満面の笑みを浮かべる灰原を前にして、夏油は、今の自身には決して持てそうにない純粋なひたむきさに羨望を抱く。

 

 「そうか―――」

 

 ただ一言、吐き出した言葉を境に、夏油は次にその問いを自身の内面へ問いかけてみた。

 力持つ者として非術者を護ろうと思った過去の自分と、無知を振りかざして悪意を正当化する民衆に怒りを覚え始めた今の自分。

 正しい道を歩きたいと、その道を踏み外したくはないと揺れる夏油は、ある種の五里霧中で縋るモノを探していた。

 黙りこみ考えに耽る夏油に対して、灰原は何かを感じたのか話題を変えるように明日の予定を話し出した。

 

 「そういえば、明日の任務結構遠出なんですよ。■■県なんですけど、夏油さんは行ったことあります?」

 

 灰原の言葉に、自身の思考を一時中断して夏油は答えた。

 

 「任務で何度か行ったことあるけど、すぐに戻って来たから、本当に行っただけだな」

 

 その言葉を皮切りに、灰原はいろいろなことを尋ねてみた。夏油が行ったことある県や、各地の名産など、そのやり取りの中で、夏油の顔に若干の生気が戻るの感じることができた。

 取り留めない談笑。何気ない日常会話。

 なんの意味もないような会話であったが、それがしばし夏油の顔に残っていた刃物のような危うさを少しずつ和らがせていくようであった。

 

 「じゃあお土産買ってきます。甘いのとしょっぱいのどっちがいいですか?」

 「そうだな、悟も食べるかもしれないから甘いのかな」

 「了解ですッ! じゃあ俺明日の準備がありますので、これで失礼しますッ!」

 

 大げさに敬礼をして、灰原の姿が消える。

 その姿を見送る夏油から、声が漏れた―――。

 

 『好ましい人間だね』

 

 誰に告げたわけでもない言葉を尻目に、コツコツと響く靴音が遠ざかり、代わりに別の足音が近づいてくる。

 

 「それで、なんの用です? さっきから覗いていたようですが」

 

 灰原と行き違いに姿を現した金髪の長い髪を持った背の高い女性。その姿に警戒心を強めて夏油が問う。

 

 「君が夏油くん? なに、二度と帰らない学生時代の青春に水を差すのは野暮かと思っただけさ。この業界、昨日話していた相手が、今日死んでいたなんてことはよくあることだろ―――。そんな暗い話より、君はどんな女性がタイプかな?」

 

 あまりにも突拍子もない返しに、夏油は警戒と呆れが混ざったような視線で返す、

 

 「まずはあなたが答えてくださいよ。どちらさま?」 

 「特級術師、九十九由基」

 

 はぐらかすのか、さらに頓珍漢なことでも言い返すのかと考えていたが、意外にも金髪の女性は簡単に身分を明かす。

 特級術師。それは、この呪術界で片手で数えるほどしかいない強者の称号。

 騙りで告げるには大きすぎる名前に、夏油は目を大きく見開いて驚きを返す。

 

 「あなたがあの、特級の癖に任務を全く受けずに、海外でプラプラしてるロクデナシっ?!」

 

 その最低過ぎる評判を聞き、金髪の女性はふてくされた様子で、言葉の毒を吐きながら、沈み込むように椅子へと体重を預ける。

 特級らしからぬ、あまりにもその子供っぽい態度に、夏油は同じく特級である五条悟の姿を重ねてた。そして、根拠はないがおそらく本物なのだろうと認識をあらためた。

 横目で九十九由基を流し見る。

 一体何をするために来たのかと夏油は思ったが、実際あまり興味がなかったので自分から聞くことはなかった。

 代わりに、呪術高専と方針が合わないというボヤキに、オウム返しのように問い返してしまった。

 会話はそこから始まった。

 九十九由基は自身の信念に確信を持ったように持論を展開していく。

 つまりは、呪術師が呪霊を祓うのは対処療法であり、もっと根本的に呪霊が発生しない世界を目指すべきだと主張する。

 

 「方法は二つ、全人類から呪力をなくすか、全人類に呪力のコントロールを可能にさせるかだ」

 

 夏油は人類から呪力をなくす方法が頓挫になったということを聞き流しながら、次に全人類が呪術師になるという突飛もない提案に、ふと頭浮かんだ残虐な方法を口にした。

 

 「なら、非術師を皆殺しにすればいいじゃないですか?」

 

 本心からそれが正しいと信じて発したわけではなかった。

 この答えは、猿の手が叶えるような願いだ。

 考えたこともなかったのだろうか。九十九由基は驚いたように目を見開いて夏油の顔を見る。一息の間、感情の抜け落ちた能面な表情を見せたのち、

 

 「夏油君、それは有りだ」

 

 興味深く夏油の言葉を肯定した。

 その答えに鼓動が大きく跳ねる。

 九十九由基は、さらにその方法が最も簡単であると確信を込めて言葉をつなぐ。

 

 「非術師を間引き続けることで、強制的な進化を促す。鳥達が羽を得たように、非術師を強制的に環境に適用させる。恐怖や危機感を使ってね」

 

 これは肯定されて良いものだったのか? 

 そして、これが最も呪霊をなくすことができる簡単な方法なのか?

 夏油の頭の中では、非術師の皆殺しという手段、その方法、利点と欠点が、思いつく限りに反芻していく。

 九十九由基がさらに言葉を続けるが、夏油の中には半分も入ってこない。

 だが、明らかに九十九由基の声とは違う、童女のような声が突如思考に割り込んでくる。

 

 『人類鏖殺。人間がずいぶん物騒な話をしているね』

 

 九十九由基が口を閉じた。

 夏油は、声を主を探すように顔を上げる。

 

 『おかげで若い子が本気にしちゃってるじゃないか』

 

 本気ではなかったのか? という驚きに夏油は九十九の顔を見る。

 

 『考えてごらん。呪霊の成り立ち。人間から漏出した呪力が澱のように積み重なり形を成したもの。命を間引く瞬間、間引かれる人間は何を思う、命の危機に呪術は強力な瞬きをみせる。そのときの恐怖は、怒りは、憎しみは、呪いとなって誰かに向かわないのかい? 命の危機に瀕して呪力に目覚める人間はいるさ、だけど目覚めない人間の方が圧倒的に多い。そんな人間が残した呪力が積み重なったらどうなるのか? 間引きの過程で死ぬ何千何万の屍は、死ぬ瞬間に何を残す? 憎むだろう、殺した人間を』

 

 まるで見てきたかのように、幼い声は確信を込めて続ける。

 

 『間引き、捨てられ、殺され、蔑ろにされた命は、不条理に奪われた尊厳は、最後に願うだろうよ。術師という化け物を殺すことを。そして呪いは形を成すのさ。間引きによる死は、続ける度に、恨みを折り重ねる。殺し、殺され、呪いは廻り続けていくよ―――。その先にあるのは、勝者なんていない荒廃した文明の残骸だ』

 

 鼓動が早鳴り、息苦しさを感じる。

 その声から耳をふさぐことができない。

 

 『そして、争いを始めた誰かは言うだろう……、』

 

 『「こんなはずじゃなかった」ってね』

 

 安易な方向に流された結末を見せるかのように、その言葉は夏油の心に冷や水を掛ける。

 九十九由基もまた、安易に肯定した自身の定説の危うさを自覚した。

 

 「そうだな……、確かにこの方法はなしだ―――」

 

 試すように見下ろした童女の姿が溶ける。

 二人の間は沈黙に分け隔てられ、先ほどまで降り注いでいた雨が止み始めていた。

 




九十九さんって個人的にはB型じゃないかと思ってます。
社会のルールを踏まえたうえで、自分の独自の価値観を構築しているあたりがいかにもそれっぽく思えてます。
B型は、たまに相手の興味を引くために突拍子もないことをいうと私は思っている。
ちなみに私はB型です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。