信仰は儚き人間のために   作:空箱一揆

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文章に起こすと七海の戦闘シーン、呪術廻戦じゃなくて、断章のグリム世界なのではと思ってしまった。


第4話 神霊再臨

 ■■県。首都圏より外れたとある小学校の裏門前。

 学生服の少年と、スーツを着こなした男性が話をしていた。

 

 「最初の被害はプールに浮かんだ獣の死体です。全身に数か所の噛み跡がみられ、全身の血が流れだし、発見時プールは真っ赤に染まっていました」

 

 スーツの男は、今回の任務で灰原と七海を連れてきた補助監督だ。

 夏油がこの場所にたどり着いたとき、男は学校に”帳”を下して、門の前で待機していた。

 

「獣にしては食べようとした形跡が一切在りませんでしたが、例外として片耳だけが食いちぎられていたようです。その光景は偶然発見した窓がその日のうちに連絡、その後感染症等の被害を抑えるためとして、学校への立ち入りは禁止されていました」

 

 灰原達を追いかけこの場所へ駆け付けた夏油は、今回の任務の内容を整理するため補助監督から改めて詳細を確認していた。

 焦りはあるが、後輩の二人が本当に危険だと確証を得るほどの情報もない……。

 

 「呪術師のお二人は30分ほど前にここから中へ入りましたが、その瞬間にこちらからは姿がみえなくなりました」

 

 今回呪霊の討伐に赴いた灰原と七海は、2級の呪術師である。

 

 

 「(同等級の呪霊相手になら二人で挑めばまず負けることはないと思うが……)」

 

 来る途中で少し冷静になった夏油は、昨日の悪夢は質の悪い偶然で、夢見が悪かったのか? という考えもわずかに出てきていた。

 しかし、このまま二人が戻ってくるのを待つ気にもならず、補助監督からの話を頭に叩き込むと、夏油は門を潜ろうと歩き出す。

 そして門を潜ろうとしたとき、

 

 「しかし、早々に対処して頂いてありがとうございます」

 

 違和感を覚える言い回しに夏油が振り返る。

 

 「一体何のことです?」

 「えっ、本部からの情報を聞いてこちらに来ていただいたのではないのですか?

 

 逆に驚いたように補助監督の男が言う。

 

 「本件の呪霊ですが、先ほど追加情報があり準1級任務に繰り上がりました。産土神信仰、土地神の可能性があると――」

 

 その瞬間、夏油の頭の中に昨日の悪夢が鎌首を上げたッ!

 

 「灰原ッ!! 七海ッ!!」

 

 夏油は、探査と速力に重きを置いた呪霊を呼び出し、躊躇なく門を潜る。

 その先には、学校などではなかった。

 深々とした樹木の群れ。

 僅かに跡を残す獣道が一本。

 その道は薄暗い山の奥へと続いているようであった。

 

 「(生得領域ッ?! しかもこの規模をだとッ!)」

 

 2級呪霊にはありえないほどの脅威を感じて頬を汗が流れる

 

 『この先に居るね。急いだほうがいいよ』

 

 追加の呪霊を呼び出した夏油は、一本しかない道を駆け出した。

 

 

 

 

 

 夏油が現場へとたどり着いた頃、同じく■■県へと向かう新幹線の中で、珍しい二人が顔を合わせていた。

 

 「まさか先生まで来てるなんて。というか、指定席も隣だし、恐ろしいくらい。一体何があったんです?」

 

何者かに諮られたかのような状況に、家入硝子は何時もより少しだけ真面目に問いかけた。

 

 「それはこっちの台詞だ。だが、確かにちょうどよかったかもしれん」

 

 夜蛾正道は、今朝夏油から電話を受け取った後すぐに今回の任務の内容について確認していた。

 

 「今日の1年の任務だが、今朝がた夏油から連絡があった。そのうえで上に確認を取った―――」

 

 自身の拳を押さえつけ、何かをこらえるように夜蛾正道が言う。

 

 「今回の任務。俺が連絡を取った直後に、準1級に上がったとぬかしやがった」

 「それって?!」

 「下手すれば死人が出るぞ」

 

 以後口数少なく、二人もまた夏油の後を追う。

 

 

 

 

 

 2級呪霊の討伐。

 当初の予定であれば、灰原と二人でかかれば、さほど手こずるとは思っていなかったが、

一歩学校の裏門を潜った瞬間にその甘い考えは七海の頭から吹き飛んだ。

 天上すら覆い隠すほどに生い茂った木々の群れ。

 そして振り返ってみるが、入ってきた門はいつの間にか姿を消しており、眼前に残る一本の獣道だけが、自身達に残された進路であった。

 

 「じゃあ行こうか七海」

 「ちょっと不用心では、これ生得領域でしょ」 

 

 努めて明るく話す灰原に対して、七海は注意を促すように言う。

 周囲の確認もそこそこに、灰原はおそらく罠と思われる道へ足を踏み出す。

 

 「そうかな。どの道逃げられないなら、早めに進んだ方がいいよ。ここがどの程度の広さか分からないし。下手に時間かけても逃げられる保証なんてないんだし」

 「……、確かに。なら私が先行しますよ。灰原は、背後からの警戒を頼みます」

 

 任務用に貸し出された鉈のような呪具を手にして七海が言う。

 

 「おっ、思ったよりやる気だねッ!」

 「灰原より、私の術式の方が直接戦闘に向きでしょう。応用性なら灰原の方が断然有用ですけど」

 

 道は一本だけ。

 視界が悪く、どこから襲われてもおかしくはない状況であった。

 耳を澄まし、目を凝らし、気を張って周囲を警戒する。

 互いの無事を何度も確認しながら道を登る。

 しかし、いつまでたっても襲撃はない。

 そのことに自分たちはもう少し気を付けるべきであったかもしれない。

 この時、帰ろうと思えば帰れたのかもしれない。

 なぜなら、この道を自分の意思で進むことが、ある種の縛りになっていたのだから。

 

 森の境を抜けると、そこにはハンゲショウやカキツバタ等が繁殖している溜池のような場所が存在していた。

 池を挟んで自分たちの反対側には、石を積んだような祠が在る。

 異様なる畏怖の念を覚えて、それぞれの手に呪力がこもる……。

 ここへ来るまでと同じように、周囲を警戒しながら、池沿いに祠のそばへ近づこうと話し合っていると、

 

 「ッ!? 蛇ッ!?」

 

 灰原が叫んだッ!

 

 足元から、池の中から、無尽蔵にも思えるほどの量の黒い紐のようなものが、湧きあがり、飛び掛かってくる。

 蛇のような、蛆のような呪霊の群れを七海は鉈で、灰原は素手で弾き落す。が、それだけでいつまでもしのげるはずもない。

 終わりのない耐久レースのような状況に、一度この場から逃げ出そうと来た道を戻ろうとするが……、

 

 「七海ッ、道がないッ?!」

 

 獣道は植物に覆われ、もはやどこから来たのか分からなくなっていた。

 そして、池の反対には、この出来事の主格と思わしき呪霊が音もなくこちらを監視していた。

 黒い靄がちらつく、不定形な身体。体表には、蛆が這いまわるがごとくうごめく呪霊の群れ。本能的な嫌悪感を感じて二人の身体がこわばったッ!

 体表を波打つ呪霊の合間から、赤く鋭い眼光がこちらを見定めている。

 直接こちらを狙ってきていないということに、直接戦闘が弱いタイプかもしれないという、淡い希望を抱き、元凶を叩こうと二人が走り出す。

 

 「いッ!?」

 

 体中には無数の傷が増えていく。

 何とか耐えられる痛みではあったが、ついに灰原の口から苦悶が漏れ始めた。

 そして、灰原の左耳が深く裂かれ、赤い血がこぼれ落ちた……、

 

 『■、■、えッ! 決まったッ』

 

 音程を外した、悲鳴にも似た甲高い声が頭に響くッ!!

 

 「なっ、なにッ!? 灰原危ないッ?!」

 

 これまで沈黙を通していた呪霊が池の水を弾き飛ばしながら、その巨大な口を開けて迫るッ!!

 

 『にぇは、決まったッ!!』

 

 灰原はとっさに呪術を使用し、直撃を逃れたが、左腕の肉が大きく削げ落ちる。

 悲鳴にならない叫びを上げて、必死に抵抗を続けるが、力、速度、呪力全てにおいて相手が圧倒的な格上であった。

 主格の呪霊に猛攻を受ける灰原と対照的に、七海への攻撃が少しずつ緩んでいく。

 

 「灰原ッ!!」

 

 自身の術式であれば、たとえ格上であろうとも、ダメージを通すことができる。

 あたりさえすれば、致命傷と言える線をとらえることができれば、この場を脱することができると七海は必死に灰原へ近づこうと試みる。

 しかし、近づこうとするたびに黒い蛆のような、蛇のような呪霊の攻撃は増えていく。

 七海の決死の健闘も空しく、間を置かずに灰原の体が地に崩れ落ちる。

 地に伏せた灰原、そして七海の視線が一瞬にして交わる。

 灰原は、七海の顔を見て……、そして冷や汗を流し、痛みにこらえながら必死に笑って見せた……、

 

 「七海、後は―――」

 

 七海は、必死に鉈を振るう。

 後も、先も関係なく、技も、防衛も考えずがむしゃらに鉈を振るう。

 3級にも満たない呪霊がはじけ飛ぶ。

 それでも数は減らない。

 後2メートルもない距離が、一向に縮まらない。

 

 「灰原ッ!! 早くそこから逃げッ!!」

 

 鉈を振るう

 自身の傷など考えなく、一直線にまっすぐと進む。

 両断した呪霊の呪詛が弾け七海の目を焼くが、そんなことで止まるわけには行かないッ!

 叩き潰し、蹴り飛ばし、鉈を振るい、呪霊を祓う。

 まだ、距離が縮まらない。

 手を伸ばせば届きそうな距離でありながら、この距離は縮まらない。

 自身の無力に涙が出てくる。

 いや、涙はすでにこぼれていた。

 覆せない暴力の格差、恐怖の未来に頭が真っ白になりそうになりながら、必死に呪霊に抵抗する。

 間に合わないという思いがちらつく。

 だが、死への恐怖から逃げることすら考えられず、癇癪を起こした子供のようにひたすら暴れ続けるッ!

 それでも足りない、届かない。

 どうしようもなくなった時、人は本性をさらけ出すというが……、

 

 「頼んだ―――」 

 

 灰原の言葉を待っていたかように、赤い咥内を見せびらかすようにして、白い牙が灰原の腹へと振り下ろされる。

 

 「(誰か、助けてくれ。■よ、居るならば神様ッ―――)」

 

 灰原の体に牙が食い込み、

 

 鮮血が零れ落ち、

 

 下半身が飲み込まれる姿を―――、幻視した………、

 

 『「了解した」』

 

 七海の身体の横を黒い輪のようなものが飛来するッ!!

 

 その黒い輪は、周囲に群がる3級未満の呪霊ごと、主格の呪霊の体を弾き飛ばした。

 

 自分たちに起こったことが理解できず、その輪を放った者へと視線をむける。

 

 「「夏油さんっ」」

 

 片手に黒い輪のようなものを手にして、大きく頬を釣り上げて不敵に笑う夏油の身体があった。

 

 「『安心して、二人は”私達”が護るから』」




前話投稿翌日、寝坊して駅までダッシュする羽目になり、危うく今話で灰原君をブチ■そうかと思ってしまいました。
ちなみに、間に合いました。

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