信仰は儚き人間のために   作:空箱一揆

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 この度は本作品にて日間ランキング1位を取らせていただきまして誠にありがとうございました。
 そこそこ長くやっていますが初の1位は何とも感慨深いものでした。
 ミシャグジ様のご利益なのか、いろいろ考えこむこともありましたが、これからも作品を上げていきたいと思っていますのでよろしくお願いいたします。


第5話 現人神

 獣道を駆け上る度に夏油の脳内には、昨晩見た夢の内容が克明に思い出されていく。

 虫の報せと、思い過ごしの可能性。

 半々に揺らめいていた確信が、補助監督から最後に告げられた言葉を境に、片方の結論を決定づけた。

 何者かに導かれるがごとく、夏油は山を駆け上る。

 

 「君は、あなたは……ッ?!」

 

 夢と思っていた記憶の中で、朧げな輪郭が小さな人型を取る。

 

 (『わたしは、■■■、■だよっ!』)

 

 轍魚のごとく、澱んだ思考の泉に囚われたような苦しみを吐露した。

 今思えば、夢の中であったからこそ、吐露することができたのであろうと夏油は思う。

 誰かを頼るという発想が、なかったわけではない。

 ただ、最強に至った友と同じ場所に立てなくなった頃から、そんな簡単なことを出来なくなっていた。

 精神的に未熟と取れる稚拙な面を持つ友人に対して、唯一誇ることができると勘違いしていた事があった。

 人としての正しき在り方を、倫理を、道徳を、友人に正しく示せるのは自分だけだと驕っていたのだ。

 

(『人は元来、一人で全てが成せるようには出来ていない』)

 

 視野が狭く、ただただ少ない答えしか見えなくなっていた。

 最強の片割れだと勝手に増長し、使命と思い勝手に責任を背負い、そして全てに絶望していた。

 親友以外にだって、心労を吐き出せる相手は居たはずであったのに。

 

 (『一人で超えられない壁にぶつかったときは、友を、父を、母を、あるいは子を、もしくは師を頼りなさい』)

 

 朧げであった無色の偶像に、少しずつ色味が帯びていく。

 最強であるという事と、誰かを頼らないという事は同一などではなかった。

 最強という言葉に惑わされ、救われ方を忘れていた。

 

 (『それでも、ダメだったなら、私(■)に祈りなさい』)

 

 あの日の出会いはまさに奇跡のごとく。

 たとえ、あなたという存在が無に還す間際であったとしても、あなたは最後に私を救おうとしてくれた。

 ただあなたを呪霊の一つとしか見ていなかった、私すらを救おうとしてくれていた。

 

 「あなたが救ってくれた私のこれからに意味があるのなら、後一度だけでいい、二人を助ける奇跡をください―――、神様ッ」

 

 それは呪術ではない。

 これは縛りではない。

 ただ、純粋な祈りに対する、信仰が起こす奇跡の具現。

 あるいは神話の再誕である―――。

 

 『じゃあ、もうわたしの名前は分かるね?』

 

 夕暮れに照らされる稲穂のように美しい髪が揺れる。

 童女のような無邪気さと、無条件な安らぎを与える母の気高さ、相反する矛盾が両立される。

 そして幾つかの神秘を内包した、青と白を基調とした壺衣装を身に纏った少女の姿の形が具象化された。

 

 「諏■子様ッ」

 『そうだねッ! あと少しだッ! まだ二人を救うには少し力(信仰)が足りないかな』

 

 頂きまで後数十歩の距離に近づく。

 

 『いまのわたしと、傑の魂は、微妙なさじ加減で混ざっている』

 

 あと十歩踏み込んで木々の間を抜ければ頂上へと到達する。

 

 『だから、今はわたしが、君達の力の使い方に合わせてあげる』

 

 そして数歩の距離へと近づく。

 合掌。両手を祈りの為に重ね合わせる。

 

 「『領域接続、【諏訪神楽之舞】』」

 

 特別な修練の先に限られた者だけが降ろすことができる御業。

 この日、ただの人間であった少年の身の内より、畏怖にて人を統べた神が顕在する。

 

 

 

 神の愛は平等である。

 

 だがそれは、全ての人類に対する救済と同一ではない。

 

 神は人に、畏怖と敬意を求める。

 

 真摯な祈りと貢献の果てに、目に留まった僅かな人間だけが、神に救いを賜るのだ。

 

 ゆえにその救いは、”奇跡”と呼ばれる。

 

 

 

 

 「(誰か、助けてくれ。神よ、居るならば神様ッ―――)」

 

 音にならない言の葉が、傑の身体へと響き伝わる。

 決死の抗いの果てに、祈りは届く。

 今まさに、命を食いちぎられそうな灰原の姿を前にして、夏油傑の身体が惨状へと到達した。

 

 

 

 それは、普段の夏油傑を知るものですら見たことのないほど巨大な力の奔流であった。

 夏油傑の身体を取り纏う、無限とも見間違えるほどの力うねり。

 その力は、神の御業を具現化する。

 かつて、洩矢神が神話の時代に携えた鉄の輪(てつのかぎ)

 黒く禍々しい真円を描くそれは、灰原の身体を抑える巨体な呪霊へと投擲される。

 周囲に群がる眷属を巻き込みながら、呪霊の身体は池の反対側まで大きく吹き飛ばされた。

 

 「「夏油さんッ!?」」

 

 解放された灰原の身体を夏油が使役する呪霊が安全圏まで回収する。

 その光景に安堵し、七海もまた走って夏油のそばへと退避した。

 

 「『安心して、二人は”私達”が護るから』」

 

 どこか違和感の感じる言葉を発し、夏油傑の身体は、改めて目の前の呪霊を観察する。

 黒くうごめく、うねうねと脈動する身体。

 それは、まっとうな精神を持つものならば、例外なく嫌悪するであろうという確信があった。

 しかし、そんな歪な呪霊からも一切目を逸らすことなく、夏油傑の瞳はまっすぐに呪霊を見据えている―――。

 ……が。一瞬、ほんの僅かであるが表情が困惑を浮かべた。

 

 「『違う。ミシャグジさまじゃない……』」

 

 刹那の熟考の末に夏油傑の身体が口を開く。

 対峙する呪霊は、そんな夏油傑の身体に向かって、蛇と蛆を混ぜたような姿をした呪霊を吐き出すッ!!

 針が飛来するそれを見据えて、夏油傑の身体は臆することもなく告げる。

 

 「『”手長足長さま”』」

 

 直後、夏油傑の身体を護るようにして、手と足が長い一対の巨人が顕在する。

 

 右側にそびえる手長さまが長腕を振るうと、まるで空間を削いだかのように、近づく呪霊が祓われる。

 

 「「ザ・ハンドッ!?」」

 

 背後で、灰原と七海が騒いでいるが、特に気にした様子もなく、夏油の身体が駆け出す。

 泉の反対側にまで弾き飛ばされた呪霊を追いかけ、風を纏った夏油の身体は、水面を踏みしめて駆ける。

 両手に握りしめた鉄の輪を振るい、進行を妨げる全ての呪霊を祓い、祓うッ!

 そんな水面を走る夏油の身体の横を、手長さまを背負った足長さまが一足飛びに呪霊へ向かうッ!

 一対の巨人を迎え撃つかのように、うごめく呪霊の体表からは、突き出すように二対の両腕が伸びる―――が、手長足長さまの方が長いッ!

 突き出た両腕の根本が、長い手足に押さえつけられる。

 呪霊の身体は大地に縫い留められたかのように、動けない。

 だた、苦悶の鳴き音を上げて必死に赤い口で威嚇する。

 

 「『産土神信仰の土地神か……、今は”祟り神”と呼んだ方がいいか?』」

 

 鉄の輪を突きつけられてなお、呪霊は反抗の意思を消さない。

 

 「『ここにミシャグジさまが居たはずだけど、どこへ行ったのかな?』」

 

 全身を揺さぶり敵意を隠そうとしない呪霊であったが、唯一その言葉だけには、確かな反応を示した。

 赤銅色に陰る視線が夏油の身体を見据えると、一瞬小馬鹿にしたように口元をゆがめ、

次の瞬間、赤い口から大量の蛆蛇を空へ向かって吐き出したッ!!

 

 手長足長さまが押さえつけていた呪霊の身体から力が抜けていく。

 残った呪力の全てを吐き出していく。

 それらは蝙蝠のような翼を生やした蛆蛇となって天高く空を舞う。

 存在の全てを投げうつ行動に、夏油達の反応が一瞬遅れたッ! 

 

 「『手長足長さまッ』」

 

 追いすがるように、足長さまが手長さまを背負って空へと跳躍するッ!

 そのまま遮二無二両腕を振るい、無数の呪霊を祓おうとするが、全ては祓い切れずに半数以上の呪霊が帳の境へと到達していく。

 叫ぶと同時に夏油の身体もまた、風を纏って空へと跳び上がるり、同時に、黒い鉄の輪を投げ放つッ!!

 

 帳の境へと殺到していた蛆蛇の群れに鉄の輪がめり込み、無数の呪霊が祓われて逝く。

 しかし、うごめく何百もの蛆蛇を祓うことはできなかった。

 蛆蛇はさらに一部の呪霊を囮に、さらに群れを小さくしながら、縦横無尽に逃げ惑う。

 鉄の輪は、呪霊を祓いながらもその速度を落とさずに飛来し、帳の境へと接触したッ!!

 

 「『あッ!』」

 

 帳の境に接触した鉄の輪が、黒い閃光を放つ。

 次の瞬間、この場所を覆い隠していた帳が消滅するッ!?

 

 「『この結界っ、■■のものだったのかッ? 傑ッ!!』」

 

 

 夏油傑の身体が、自身の名前を叫ぶと同時に、夏油傑の身体に纏っていた力の一部が離脱する。

 同時に、浮遊する夏油傑の足元に、座布団と魚を配合したような呪霊が現れて、夏油の身体をその場へ留めることに成功した。

 夏油傑は、さらに自立飛行を可能とする無数の呪霊を呼び出すと、破壊された帳のそとへ、我先にと逃げ出す呪霊へ向かって追撃を指示する。

 その頭上で、夏油傑の身体から分かれた力の奔流は、中空で質量を増し、少女の姿へと転変する。

 

 「(可能な限り広範囲に、覆う)」

 

 両手を打ち合わせた音が響く。

 四隅を起点に大地が脈動し、柱がそびえ立つかのように影が伸びていく。

 影の柱は互いの支柱を補うかのように姿を薄く広げ続けて接触する。

 それぞれが一つに溶け合いながら、先ほど破壊された帳よりも広範囲な結界を生成していく。

 そのまま周囲を見渡すと、少女の姿は再び影のように溶け、夏油傑の内へ戻っていく―――。

 

 

 その後。結界内の呪霊の大半が祓われた頃、驚きに顔をゆがめた補助監督を伴い、夜蛾正道と硝子の3人が夏油達と合流を果たした。

 補助監督の顔は、某少年漫画のギャグシーンのごとく破顔していたが、誰も突っ込んでこなかった。

 硝子は、重傷を負った灰原と、目元を焼かれた七海に、急いで反転術式を掛けて治癒していく。

 そんな横で、夜蛾正道が、本心から涙を流して二人の無事を喜んでいた。

 「二人とも無事で良かった」

 

 そして、次に夏油へと視線を移して、

 

 「それにしても夏油、そのち「あれ? 硝子じゃん、それに先生もなんで居るの?」五条ッ?!」

 

 土産物の紙袋を抱えながら、黒いサングラスをかけた白髪の男が姿を現す。

 軽くあたりを見渡し、何かを探すそぶりを見せた五条悟だが、特に何に反応するでもなく、次に夏油傑の方へ向き直る。

 

 「傑、ちょっと見ない間にずいぶん変わったな」

 

 サングラスを下げて、普段のちゃらんぽらんな態度からは思いつかないほど真面目な表情で語りかける。

 六眼という、術式・呪力を詳細に見通す眼をもって五条悟は夏油傑の身体を睨むように口を開いた。

 

 「で、傑の身体に居るお前誰?」

 

 夏油傑の身体が、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべながら、五条悟へ答えを返す。

 




オリジナルの技とか難しい事この上ない。
せめて違和感ないようにと思いながら資料片手に3時間くらい考え込みました。

友人に相談した時間含めたらきっともっといっている。

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