信仰は儚き人間のために   作:空箱一揆

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めっちゃ難産だった。
本当は高羽でも出しながら、頭空っぽにして読める話を書く予定だったのですが、いろいろ情報出てきそうなので止めました。
なるべくライトな話を目指しました。


第7話 神様の縁結び

 「いらっしゃいませ。ご予約様でしょうか?」

 「はい、予約してた夏油です」

 

 堂々と友人の苗字を名乗りながら暖簾をくぐる家入硝子の後ろに三名が続く。

 

 「3名様でよろしいでしょうか?」

 「いえ、4名でお願いします」

 

 軽快な店員の問いかけに、夏油が困った様子で返す。

 

 「奥の部屋へどうぞ。4名様ご予約様ですッ!!」

 

 座敷に通された夏油が、さりげなく諏訪子を上座に座らせると、硝子はその横に当然の用に座った。

 

 「さって、せっかくこっちまで来たんだし、黒毛和牛よね」

 「待てッ! 硝子、私が奢るのはいい。だが、なに単品で頼もうとしているッ、普通にこっちの食い放題のコースでいいだろッ。あと悟、飯を食べる前からデザートを頼もうとするなッ! あっ、諏訪子様、こちらの新・黒毛和牛DXコースでよろしいですか?」

 

 硝子と悟への当たりの強さに反して、見た目幼女の諏訪子に敬語で話しかける夏油に、五条悟と家入硝子の心が不覚にも重なった。

 

 

 「「((キッショ、ロリコンかよこいつ))」」

 

 

 諏訪子へ、せっせと世話を焼いている夏油を横目で見ていると、硝子が頼んでいた飲み物が届く。

 

 「じゃあまあ、はるばる北信越まで来たということと、七海と灰原も無事だったことを祝して乾杯ッ」

 「「「乾杯ッ!!」」」

 

 手にしたグラスを飲み干し、追加を注文すると、硝子はそこで初めて真剣な様子で、夏油に問いかける。

 

 「で、夏油。結局なんだったの? いきなり朝から呼び出してくるし、この子? が神様だとか。ぱっと見その辺の呪霊とは違うみたいだけど」

 「そうとも。今では、これまでの苦悩もすべては、諏訪子様に出会うためのものだったと理解できる。これぞまさしく天啓というのだろう」

 

 数日前までは死んだ魚の目だった男が、サンタクロースを前にした小学生のような目で、見た目幼女をほめちぎるのだから、家入硝子も流石に夏油傑の頭を心配する。

 

 「まあ、二人にはここで正式にご紹介させていただきましょう。こちらに居られるのは、日本が日本と呼ばれるよりも遥かな昔、大和王朝より遡った時代の王国にて、国王であり、神であらせられる洩矢諏訪子様であるッ!!」

 「いえーいッ!! そう、私が神だッ!!」

 

 存外、この神は乗りが良いようであり、五条と家入の二人がその光景に呆気にとられる。

 

 「そう、消滅しかけていた私を、傑が無理やりボコして、羽交い絞めにして、押し固めて、ごっくんちょされたのだッ!!」

 

 「「傑(夏油)ッ、犯罪者かよッ!!」」

 

 今度は、はっきりと耳に残る声で二人の声が重なった。

 

 「てか、要は傑の呪霊操術で捕まったんなら神じゃなくて、呪霊じゃねえの?」

 

 「悟、諏訪子様を呪霊扱いするとはいただけない。次言ったら■ス―――、」

 「おっ、おうすまん―――」

 

 それまでのふざけた様子から一転して、底冷えするような低い声に、本気の殺意を込めて忠告する傑に、悟はとっさにまじめに返してしまった。

 

 「それに、今日灰原と七海を救えたことは、全部諏訪子様のおかげなんだ」

 「それこそ一体どういうことなんだよ。そいつは未来予知でもできるのか?」

 

 怪訝そうな顔で、箸で指すように諏訪子を示す五条悟。

 それに対して行儀が悪いと窘める夏油傑。

 

 「そこまで大層なものじゃないよ。まあでも、今回は特別かな」

 

 届いた野菜を鍋に放り込みながら諏訪子が言う。

 

 「あの場所は私にも少なからず縁があったから、分かっただけだよ」

 「まあ、何はともあれ。諏訪子様のおかげで二人が助かったことには間違いない。本当にありがとうございます」

 

 気にしなくて良いと笑い飛ばす諏訪子に対して、夏油は空になった諏訪子のジョッキを下げて追加の注文を依頼する。

 

 

 「で、その諏訪子、様は、夏油に何を求めてるの? まさか本当に無償の救済だったとか?」

 

 根野菜が煮えてきたのを確認して、家入は肉を鍋に居れながら疑問を口にする。

 

 『信仰』

 

 「私が私で在る為と、私が奇跡を起こす為には信仰がいる。だから傑にはこれから私の巫覡(ふげき)として働いてもらう」

 

 鍋の中のキノコ類を夏油に取り分けてもらいながら、諏訪子が得意そうに言った。

 

 「ほう……、”ふげき”ってなに」

 「祝子、いま風に言うと巫女かな」

 

 ご満悦でキノコ類を頬張りながら諏訪子が答えた。

 

 「巫女っ、マジで!? 傑、歌姫みたいな服着るの?」

 「えっそうなの? マジ、ウケるッ!!」

 

 同じ高専の一つ上の先輩である庵歌姫が仕事で着ている巫女服を夏油が着ている姿を思い描いて、大いに笑い声を上げるが、夏油傑は至極真剣に考えた後にこう口にした。

 

 「確かに、諏訪子様に仕えるにもまずは形から入るべきか? 歌姫先輩に言って入手してもらうべきでしょうか?」

 

 家入硝子と、五条悟の椀に野菜と肉を盛りながら、夏油は諏訪子に問いかけるが、好きにすればいいという返事が返ってくる。

 空になった諏訪子の椀に、残しておいた大きい肉を取り分け、最後に自分の椀に鍋の肉と野菜を盛ると、やっと夏油も鍋を口にする。

 

 「で、そのカミサマの言うことは分かったけどよ。傑はそいつに仕えてどうするつもりなんだ?」

 

 五条悟、自身の空になった椀を傑に差し出しながら、真剣な口調で問う。

 

 「悟、硝子、私は気づいたんだ。人には真に神が必要なのだと」

 

 五条悟の空になった椀に肉を追加し、椀を返して、迷いない言葉で答えた。

 

 「恐怖を乗り越えるための拠り所となること、人としての在るべく道を説く事こそが宗教の在るべき存在だと私は考える。盤星教の始まりですら、嘗て奈良時代に術者に対する道徳基盤を説いたことが始まりだ」

 

 そして、一息をおいて傑が鋭い言葉を口にした。

 

 「だが今の信仰に、かつての創始者が残した意思はない」

 

 夏油は空になった諏訪子の椀に鍋の肉を追加し、白米を人数分追加注文した。

 

 「高専各校の呪術界拠点となる結界、多くの補助監督の結界術は、天元様によって強度を底上げされており、天元様の力添えがなければ防衛や任務の消化もままならない。そして、星漿体との適合がかなわない結果となれば人間社会が立ち行かなくなるかもしれないというのに……、最悪の場合は天元様が人類の敵となる可能性すらあったというのに……、奴らは、星漿体を単なる穢れと断じて理子ちゃんを殺した」

 

 このときはじめて、五条悟はこの夏に自分たちが失敗した任務で、殺害されてしまった少女、天内理子の事を、夏油傑がいまも引きずっていたことに気が付いた。

 そして、箸をおいた夏油は吐き出すように言葉を繋ぐ。

 

 「自身の行いで天元様が”敵”となったとき、この平穏が崩壊したときに、『天元様と共に堕ちるなら已む無しと』と、殉じることができる者が現在の非術師の中にいるだろうか?」

 

 ジョッキを両手で抱えて中身を飲み干す諏訪子を横目に夏油が語る。

 

 「ただ身勝手に、惰性的に欲望の続きを得るためだけの指導者が、術師や星漿体の貢献をあって当然、とすら思うこともできない信者が、自分の行いによる結果を当然の事と受け止めることができるだろうか? もし居たとしたら、そこまで高潔な信仰者が、安易に星漿体を穢れと断じて殺すという道を選ぶだろうか?」

 

 脇に置いたグラスの中身を一息に飲み干して夏油は話を続ける。

 

 「これは、非術師を呪霊という脅威から遠ざけてきた弊害と言えるかもしれない。非術師の中では、天元様は実在の存在ではなく、すでに単なる象徴的な存在になり下がり、その思考に術師が介入することは禁止されている」

 

 五条悟と家入硝子も箸を置いて夏油の話に耳を傾ける。

 

 「象徴になり下がった天元様は、信者に何も告げることがない。ゆえにその言葉は、信者に都合よく曲解されていく。その結果こそが現在の呪術界と宗教法人との相性を最悪にしているのではないだろうか」

 

 この言葉は、二人への問いではなく、夏油自身の結論として口に出された。

 

 「だからこそ、術師と非術師の共通の認識として、人が在るべき道を示す指針として―――」

 

 夏油傑は自ら決意を表明するかのように、改めて自身の考えを口にし、

 

 「私は諏訪子様という神の名を人理に刻む」

 

 迷いなく宣言した。

 

 「呪霊ではなく、神という名のもとに超常的な現象を受け入れる下地を作る。それと同時に不可視の恐れに対するよりどころを確立する。これにより、非術師と術師の共通認識と相互理解を進める場を設けることが狙いだ」

 

 この時の夏油の考えの中で、すでに大衆に認知されている天元様を表舞台に出す事ではなく、マイナーな地方の土着神である諏訪子を新たな神として押し出すことを決めた事に、疑問を持つ人はいなかった。

 身近な者を救われたという恩恵は大きく、そこに疑問を持つことは、たとえ最強と名高い呪術者達であっても、人間関係の経験値が底を割っている学生達には荷が重かった。

 結論が変わらずとも、もしこの場所に、恩師である夜蛾正道がいれば、そのことに何かしらの指摘が入ったかもしれない。

 だが、この場に夜蛾正道はいない。

 この結論に到った夏油の思考の最奥には、『500年周期の度に捧げられた星漿体の貢献が、無駄だったのではないか』という一欠けらの疑問が存在していたことを、本人を含めて、この場で把握できた人間は居なかった。

 星漿体との同化がなかったとしても、天元様の健在が証明されてしまったという事実が、幸運であったのか、それとも違ったのか、この結末を知るものは、まだ誰もいない。

 

 「真面目な事だな」

 

 半ば呆れたようにも取れる口調で五条悟は告げ、自身のグラスに残った中身を一息に飲み干す。

 

 「生き方は決めた。後は、私の生涯を使い切ってでもやり遂げて見せる」

 

 誇大妄想とも取られかねない夏油の発言ではあったが、その表情に一切の迷いはなかった。

 

 「所で二人は協力してくれないのかい?」

 

 再び空になった諏訪子と自分の椀に肉とキノコを取り分けながら、夏油は二人に問いかける。

 

 「協力すれば、何かご利益在るの。縁結びとか?」

 

 楽しそうに、しかし少しふざけた口調で、ジョッキを手にしながら返す家入硝子の言葉に、椀を受け取った諏訪子が答える。

 

 「縁結び? いいよ! で、どっちとが良いの?」

 

 諏訪子は楽しそうに、五条悟と夏油傑を指さしながら答えるが、突発に空気がひび割れるような幻聴が聞こえ、三人の身体が石のように硬直する。

 

 「はぁ、このクズ共とか絶対ありえないからッ!!」

 

 いち早く硬直から、抜け出した家入が笑い飛ばすように否定した。

 

 「そうなの? 結構相性いいと思うけどなぁ」

 「ないない。よく考えたら私ノンポリだしいいや」

 

 大きく手振りで否定を表わしながらジョッキの残りを飲み干して追加を注文する。

 

 「そっ、そうか、まあ気が向いたらいつでも言ってくれ」

 

 言葉を濁しながら、残念そうな様子の夏油だが、それ以上は下手に家入へ突っ込んだ話ができずに、五条悟へ向かって問いかける。

 

 「悟はどうだ、協力してくれないか?!」

 

 五条悟の本心で言えば、神様と呼ばれる諏訪子のことを信用してはいなかった。

 しかし、どうしてもここへ来るまでに溢れ出た、存在しない記憶が引っかかる。

 無言で傑と諏訪子の二人を見比べ、大きく迷いを見せながら、

 

 「―――分かった。暇なときに気が向いたら手伝ってやるよ!」

 

 渋々といった様子で肯定を吐き出した。

 

 「ありがとうッ! それでこそ悟だッ!!」 

 「結んでほしい縁が在ったらいつでも言ってね!」

 「そういうの本当にいらねぇからッ!!」

 

 縁結びという言葉に、五条悟が心底嫌そうに否定すると、追加注文されたジョッキが届いた。

 

 「それじゃあ信者第2号を祝って乾杯だッ!」

 

 夏油は、届いたジョッキを配って、テンションを爆上げにした様子で音頭を取り、それを飲み干す。

 それに続いて五条もグラスの中身を喉に流し込み……、

  

 「あっ、それ私の?!」

 

 一拍をおいて家入硝子が五条のグラスを指さすと同時に、五条の身体は、力なくテーブルに突っ伏した。

 その表情は、まるで熟したリンゴのように真っ赤であった。




書いている途中で、FGOと本作のコラボネタをという存在しない記憶があふれてきて大変でした。

次回は、みんな大好きJKか、エ■ァのパイロットを出したいと構想中。
JKはほぼ内容決まってるけど、パイロットはどうしようか悩み中。

月末に試験があるので、11月中に次話投稿できるか微妙です。

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