2カ月空いたせいで筆が鈍ってますが、今年度も着々と投稿していきたいと思ってます。
本年もよろしくお願いします。
「傑ッ!! 夏油傑はどこに行ったッ!?」
教室のドアを叩きつけるように、力任せに開くと、まるでヤクザのカチコミにしか見えない表情の夜蛾正道が怒鳴り込んでくる。
「今さっき、にっこにこした顔で任務に向かいました」
教室の机で一人頬杖を突きながら硝子は窓の外を指さす。
指先には、風に流されてカーテンが空しく揺れている。
その光景に、夜蛾正道は遅かったかと深いため息を漏らした。
そして頭痛を抑えるようにして、教壇に登り改めて教室内を見渡すが、
「悟はどこに行った? それともまた遅刻か?」
「なんか、頭が痛いから休むって……、今連絡が来ました。飲み慣れもしない変な物でも飲んだんじゃないですか」
手にしていた携帯電話のメールを夜蛾正道に見せつけると、夜蛾は再度深いため息をついた。
「たく……、どいつもこいつも―――」
「何かあったんですか?」
何時も以上に疲れ切った夜蛾正道に対して、硝子が興味なく尋ねた。
「あいつが出した報告書だ……。こんなもの、馬鹿正直に報告できるわけないだろう―――」
無駄に分厚い紙束を机の上に放り出し、夜蛾は窓枠に手を付きながら、夏油傑が去った方向を覗き込むように眺める。
硝子はその隙ついて、放り出された夏油の報告書をぱらぱらとめくり見る。
そこには、諏訪子様を過剰に賛美する語録が何重にも、無駄に丁重な字づらで書き綴られていた。
「わぁ、本当だ。あいつマジでロリコンだわ」
「そこじゃない」
硝子から報告書を回収すると、夜蛾正道は再び外を眺めながら呟いた。
「傑、お前は……、呪術界そのものを敵に回す気か……」
夏油傑が持つ呪式【呪霊操術】は、文字通り呪霊を群体として操ることができる。
その力を悪用するのならば、何百何千の呪霊を自身の兵として運用し、一国との戦争すら可能とする。
渋谷や新宿など、人が多く在る場所でテロ行為を行うなどでもすれば被害は計り知れない……。
さらに、最近夏油傑の元に現れた神と名乗る存在の事を考えると、夜蛾正道の胃はキリキリと悲鳴を上げる。
「(神は居ないとされている……。なら、あれは一体何なのだろう?)」
答えの出せない事象に何の解決も見いだせないまま、無常に時間だけが過ぎていく。
◇2007年9月 ■■県■■市(旧■■村)
任務概要:村落内での神隠し、変死。その原因と思われる呪霊の祓除。
木造平屋の一軒家へ通された夏油傑の表情から一切の感情が抜け落ちる。昭和から取り残されたかのような時代錯誤の座敷牢の中で、幼い少女が互いに身を寄せ合いながら怯えている。
明確な暴行の後、まともな処置さえされているのかも怪しい姿が夏油の心に闇を堕とす。
「―――、これはなんですか?」
夏油傑の問いただした言葉に、村の顔役らしき者達が返す。
「■■■……? ■■■■!? (なにとは? この二人が一連の事件の原因でしょ?)」
夏油傑の問い、そのものが理解出来ないかのように、村人は怪訝な表情で返す。
その言葉は誰に取り繕うでもなく、目の前の無力な少女達を一方的な害悪と断ずるゆえに、歪んだ悪意を込めて吐き出される。
それは聞くに堪えない。罵詈雑言にも等しい言い訳を聞き入れながら、夏油傑は心の中で葛藤する。
この悪意は無知ゆえに引き起こされた事故であると……。
夏油傑の努めて冷静な心がそれを肯定しようと試みる……、だが、その結果の先に引き起こされた最悪の結末を許しても良いものだろうか?
葛藤の中で夏油傑は一つの結論に至るのであった。
夏油傑はこの光景、この結末に至ったいきさつを許したくはないのだと……。
もし、この時、夏油の心が諏訪子と出会う前のものであったのなら?
もしも、親しい後輩を亡くした直後であったなら?
あるいは、五条悟との引き離された実力差に劣等感を芽生えさせていたのなら?
幾つもの可能性の中で何か一つ、あるいはすべての歯車が不揃いに嚙み合ってしまっていたのならば、夏油傑はこの光景を見かねて、非術師に対する侮蔑と殺意を抑えることなく、暴走したであろう。
しかし夏油傑は、善悪と論理の葛藤の末に、その境界線を踏み越えることなくとどまった。
だが、その先で告げる言葉を見失う。
『事件の原因は私が取り除いた』そう、言ったところでこの村人たちが、夏油傑の言葉を肯定することが限りなく低いと理解したからだ。
だが、そうだとしても、この向けられるべきでない憎悪を、悪意を浴びされられる少女達の境遇は正さなくてはならない。
迷いながらも夏油は少女たちを牢から出すように告げようとした。
夏油の言葉は、彼以外の者の悲鳴によってかき消された。
年代を重ねながらもその形状と役割を保っていた牢を閉ざす錠前が、鈍い破壊音と共にはじけ飛んだッ!!
砕けた鉄くずが、村人の脇を高速で掠め、この異様な光景の中に赤黒い流血を描き出した。
『大丈夫』
その言葉は、夏油のみではなく、互いしか縋る者のない双子の脳内にすら優しく響いた。
『君達の祈りは
恐怖と痛みに後ずさる村人をよそに、神の声が夏油傑へ命じる。
夏油傑は、祈りを捧げるかのように両掌を重ね合わせて村人を向き直る。
「神は言っておられます。不快であると」
信仰を伴った祈りは夏油傑の生得領域を経由して奇跡を顕在させる。
「『領域接続、【諏訪神楽之舞】』」
夏油傑が纏う空気が転変した。
「『この結末、事故も変死も、この村落すべての民衆の咎である』」
とっさに逃げ出そうとする村人達だが、その足は地面に縫い留められたかのように動かない。
座敷牢の中、経緯を見守る双子の少女の瞳の中では、村人の足元にまとわりつく石造りの蛇の姿がはっきりと映しだされていた。
「『お前たちが成したことは事件の解決に一切関与せず。無害な少女に暴力を以て、恐怖を紛らわしただけのこと』」
吐き出された言の葉に重ねられた、正しき怒りとともに夏油傑の内から、それまでに感じられなかった程の重圧があふれだす。
石作りの蛇は、村人が叫び声を上げることすら許さず、一切の自由を封じるかのようにその身体にまとわりつく。
赤く灯された蛇の目に、村人達は一切の自由を縛られた。
成すがまま、抵抗することを許されず床に崩れ落ちる村人を一瞥し、夏油の身体は振り返る。
その目、その声は、慈愛の意思を持って救いの手を差し伸べた。
「『さあ、二人とも外に出よう』」
両親を失ってから数年が過ぎたこの日、差し伸ばされた救いの手は、少女達に失われていた希望という光を瞳に宿らせた。
「『そうだよ。私(この方)の名は■■■だよ』」
双子の片割れ、妹らしき黒髪の少女が僅かに速く伸ばされた
それは、長く忘れていた人の手の暖かさを思い出させるに十分な温もりであった。
「『今日は特別だ』」
目の前の現象に知らぬ者が名前を付けるのならば、それは”奇蹟”と呼ぶだろう。
呪力は負(怖)の力。他者への害を基本として、肉体の強化は出来ても再生させることはできない。
よって数少ないその呪力を行使できる術者は、言葉遊びのようにこう言い表す。
負と負を掛け合わることで掛け算のように、正の呪力を生み出す御業。
「反転術式ッ?!」
黒髪の少女に付けられて居た一切の傷が消失する。
その光景を隣で見ていた金色の髪の少女が目を大きく見開き、声を出すことも忘れて畏れ驚く。
自身達の境遇に心がついて行かない。
そんな二人の前に、双子と同じ年頃の少女が優しく微笑んでいる。
笑みを浮かべた少女の腕は、優しく双子を抱きしめる。
『良く頑張った。良く耐えた』
少女の姿をもって顕在した諏訪子は、二人をなだめるように何度も言葉を掛ける。
『――良く護った』
諏訪子は、その言葉だけは、金色の髪の少女だけに聞こえるように囁いた。
金色の髪の少女の傷が癒える。
黒髪の少女もその光景を目にすることで、少しずつ現状を認識し始める。
少しずつ氷が解けるように、双子の中で張りつめていた緊張の糸が緩み始める。
幼い少女達にはそれを再び張りつめることなど出来ない。
嗚咽は一瞬で涙となって世界にあふれ出す。
諏訪子も、夏油傑も、地に倒れ伏した人間達も……、その光景に声を出すことを忘れたかのように成り行きを見守った。
1時間か、2時間か、もしかすれば数十分だったかもしれない時間が過ぎ去り、少女達の泣き声が収まる始めると諏訪子が告げる。
「さて、じゃあ傑そろそろ行こっか」
諏訪子の声にうなずき、泣きつかれている少女二人を夏油が抱き上げると、この部屋から出て行こうとする諏訪子に続く。
外へ出て行こうとする二人と対象に、この場に取り残された人間が二人。
声を出すことも、身体を動かすことも許されずにその場に取り残され―――ッ?!
「あっ?!」
忘れものを取りに戻るように身体を翻し諏訪子は屋敷の中へ踵を返す。
「君達はもうちょっと反省しよっか」
夏油の角度からは諏訪子の表情を伺うことはできない。
しかし、その声から一切の感情が抜け落ちていることだけは確認できた。
掌を打ち鳴らした音と同時に、転がった人間たちの視界が黒く沈む。
ただし、その意識だけは鮮明で、失う事だけはなかった。
◇2007年9月 ■■県■■市(旧■■村)村外れの祠
泣きつかれて眠る二人の少女を抱き上げながら、諏訪子の後を歩く。
「それ、気になる?」
すでに外は日没を大きく過ぎていた。
視界の悪くなった世界を歩く諏訪子と夏油の周りには、赤く燃えるような球体が、ぐるり、ぐるりと廻りながら視界を照らす。
不思議な球体を視線で追う傑を振り返り、諏訪子が口を開く。
「昔は火とかの扱いが、今よりもおおざっぱでね。ちょっと力加減間違って山二つほど焼きかけた事があって、覚えたんだよ!」
「それは、覚えてよかったと思います」
褒めて、褒めてと言わんばかり、楽しそうに思い出話を語る諏訪子だが、”山二つ焼きかけた”の所で流石の夏油も冷や汗を流した。
「まあでも、その後も火の扱いって、結構神経使うんで、小うるさくガミガミ言う奴が居たからそいつに任せる事にしたんだけどね。人里が近場にあると火山の管理って結構面倒なんだよ」
「なかなか興味深い話ですね。ちなみにその管理を任せていたという方は?」
自由に諏訪子の話を聞かされていると、人間が知ってはいけないような事を、知ってしまいそうな気がして、話を逸らすように夏油が問いかける。
「―――いない。あれはもう―――、違う」
存在の否定とともに諏訪子は歩みを止める。
黙して無言。そして、見据える先には、もう何十年も手入れされていないであろう祠の存在があった。
「秋の実りを、ゆく年と変わらぬ安定を、くる年にさらなる豊穣を……、村落単位での生存が基準だった時代、人と神の距離がもっと近かった頃の話。それぞれの村単位で祀られ信仰されていた神の祠だよ」
「この村にも神様がいるという事ですか?!」
欠けた皿に哀れみの視線を落とす諏訪子に、夏油が問いかける。
「この村落で信仰を受けた神は、豊作を願われる姉妹神」
「まさかっ?! 居られるのですか?!」
珍しく目を大きく見開いた夏油傑が、祠を注視する……。
諏訪子はその問いには答えず、無言で祠へと踏み込むと閉じられた扉を開け放つ。
―――
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―――、何も起こりはしない。
扉をあけ放つ音が途絶え、再び世界は静寂が支配する。
「二人は、ここに祀られていた神の名前を覚えているかい?」
諏訪子の言葉に、夏油は抱えていた二人が目を覚ましたことに気づいて地面へ降ろす。
自らの足で立ち上がった双子は、諏訪子と祠、そして夏油の顔を一瞥した後、互いに顔を見合わせるが、そろって首を横に振る。
「そっか……」
短く返した諏訪子の声は、どこか寂しそうにも聞こえた……。
「あの姉妹神は、私のように直接的に呪霊を祓うような奇蹟をもっては居なかったけど、もし彼女らの信仰が健在であったなら、傑がさっき片手間に祓った程度の呪霊にいいようにされる事は無かったのにね―――」
諏訪子が淡々と告げたその言葉に、双子は気づかぬうちに夏油傑の両足に縋りつくように身を寄せる。
「流通の発展とともに、村落単位で祀られていた豊穣神が消えるのは……、仕方ない事なのかもしれないね……、」
今ここにあるのは、かつて神が宿っていたであろう殻でしかない。
何も居ない―――、誰も来ない―――。
その名前を告げる者は誰もない。
時代の流れてとともに消滅した信仰の亡骸だけが残されていた……。
神代の時代が終わりをつげ、人の時代が始まったと言われているが、夏油傑にはその選択こそが間違いだったのではないかと考えこむ。
「(もし、今諏訪子様が居なければ、果たして今の自分はこの場所に居たのだろうか?)」
ありえもしない疑問を前に、今はただ諏訪子様の信仰を広めることに注力すべきと決意を新たに闘志を燃やす。
そこには、このような寂しい終わりを諏訪子様には味わってほしくないという思いが在った。
さしあたり必要なことは何か?
母体となる教団のようなものは必要であると結論づけ、そのために必要な事柄に思考を巡らせる。
「じゃあ、ここの信仰は貰うとして帰ろっか」
「はいッ! 諏訪子様、これから頑張りますッ!!!」
村落の中は全員が寝静まったかのように沈黙を貫いていた。
但し、村で夜を超えた人間達は、翌朝より口をそろえて、ある神の名を崇めるだろう。
『
YOASOBIの「勇者」を聞きながら書いていたら、途中でちょっと泣きそうになりました。
後めっちゃ、2ch風小説が書きたい時この頃です。
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