「私の、夢······?」
「そっ。心春は将来、何になりたいとかないのか?」
自分達だけ言うのは不公平じゃないのか。或いは好奇心から来るものだったろうか。まぁ、そんな些細な違いはいまになってはどうでもいい。心春へと将来を問いかけた、それが一番重要だ。
「気になる、気になる〜」
「··········」
「心春ちゃん?」
ずいっと迫ってきた園子を気にもとめず黙りこくっている心春に妙な違和感を感じる。それ程までに普段の心春の雰囲気から逸脱していた。
「そうだね·········私の夢は、一瞬でも全てを忘れさせるような時が欲しい。かな」
「全て、って·······」
「悪かった事も。良かった事も。自分の事も·······みーんな、忘れて笑いたいんだ」
無邪気で無慈悲。まるで幼子のように笑うその姿に戦慄を抱く。なにか·······沼にハマったような感覚があった。
死の恐怖でも尊厳を奪われる恐怖でもない。延べ12年生きた人生で味わったことのない恐怖が感じられる。自分達は勇者だと言うのに。
時刻は同じく、千歳家内に位置する弓道場。心春がいない今使う者などはいない筈だが、とある二人組が座っていた。片方は正座、もう片方は足を伸ばしだら〜っとしている。
「先輩は心春様のこと、どう思ってるんですか?」
「そんな回りくどく聞かれても勇者については私も知りませんよ」
「いやいや、そっちじゃないです。そのまんまの意味ですよ」
少し小馬鹿にしながら、食い違いを訂正し再度問う。千歳 心春という勇者について。
「このまま平行線に成長すれば1、2年。良くて3年で砕けます」
「あ、やっぱり?」
「精神が熟していれば復帰も考えれたんですがね·······あれは早すぎた。あの境地は子供にとっては地獄でしょうね」
10年間辿り着こうとしている自分ですら辿り着けてないのに、と嫉妬交じりの苦言を吐きながら溜め息を零す。
「心春様が廃人になった場合、私達は御役御免ですかねー」
「いえ、心春様は廃人になりません」
「信頼ですかー?先輩らしくないですねー」
「信頼?違いますよ。ただ、その前に心春様は自死すると確信しているだけです」
その為だけに渡した黒曜石のナイフ。神樹様が用意したが故にあれは勇者をも殺す。言うなれば御役目終了を言い渡すための一刀。と言っても、この内容を知ってるのは直接神託を受け取った巫女だけなのだが
渡す手前敵を倒すためとは言ったが今の心春にそんな覚悟も意志もない。迷わず自死を選択するだろう。
「·········生きるを選択してくれたらいいんですがね」
「そうですねー。私達が路頭に迷わないためにも頑張って貰いたいです」
「そうですね」
心春の異質性に恐怖し、距離を置き始めた翌日··‥··というのは冗談で普段通りな翌日。今日も今日とて仲良しな四人。勇者など関係なしに仲良しになっていたのは明白だ。
「国防仮面?」
「心地良い響きだわ。どんな人なの?」
「ん〜」
園子が夢で見たという仮面戦士、国防仮面を思い出しながら空白のページに描いていく。
描かれたのは軍服のような服にマント、そしてアイマスクのようなものをつけた須美の姿。
「絵うまっ」
「えへへ〜♪」
「これが国防仮面·······素晴らしいわ」
祖国万歳な須美にとっては最高だが、心春にとっては顔隠せて良さそうという全く違う用途を見出していた。
「ねぇねぇ、一年生のレクリエーション。これ着てなにかしない?」
「この服で〜?」
「そう。この服を着て一年生に護国思想を植え付け·····コホン。護国思想を理解してもらうのっ!」
「若干アウト」
言い直そうが時すでに遅し。完全にアウトだ。いくら祖国が一番とは言っても洗脳は良くない。
「それじゃあ、特撮みたく怪獣ぶっ倒すか!」
「え〜、目立ちそうだから私はパース」
「じゃあ、るーちゃんはナレーターね」
「·······まぁ、それなら」
この後、衣装作りや台本。そして謎の国防体操を作るのに準備期間全てを費やし、一年生のレクリエーションに挑んだ。
無事、一年生に護国思想を植え付け·······洗脳した。勿論やりすぎとの事で安芸先生に大目玉を食らったのは語るまでもない。
そして遂に訪れた休養日最後の日曜日。休養日、与えられた意味を果たすため今日はこれまで遊んだ分寝て回復を、と思ったが·······
「次何処行く〜?」
「帰る」
乃木 園子によって誘拐(事前連絡あり)され、心春は園子と二人っきりでイネスへと買い物に来ていた。だが、開始早々心春は帰りたくなっている。
「あ、そうだ!次はあっち〜♪」
「あい」
ダルそうにしながら元気一杯の園子の後を歩いていく。勿論、今回もカップル二人組が周辺を彷徨いている。正体は知らん。
「はぁ·····はぁ······っ!」
「結局、全員揃ったな·······」
「るーちゃん、大丈夫〜?」
「お疲れ様、心春ちゃん」
あの後散々園子に連れ回された心春は過呼吸になりながら、なんとかやり遂げた。終いには園子がいなくなり、イネス中を駆け回ったのはいい思い出。結果としては銀の所にいて、心春は須美によって回収された。これにはカップル二人組も大きな溜め息をつく。
「そんじゃ、遊び行こう!」
「もう無理、帰る······っ!」
「まぁまぁ折角だしイネスだな」
なにが折角なのか·······今までにない怖い顔で銀を睨む。その数秒後にまぁ銀だし、で蓋を閉じる。
「んじゃ、レッツゴー!」
「あい········」
そう啖呵を切った銀の後ろをトボトボとついていく心春の姿を見て園子と須美はくすっと笑ってしまった。
楽しい時間はあっという間に。切なくはあるが寂しさはない。愛おしくはあるが捨てなければいけない。記憶とはそういうものだ。
「明日から警戒体勢かー······」
名残り惜しそうにそう呟く。
休養日はこれにと終わり、明日からは前のように訓練へと励む。勇者なんだから。
「次は海行きたいね〜」
「おっ、海良いね!」
「もう次の話?」
次があるかはわからないが、予定を作るのは大事なことだ。休養日最後の日に作るのは流石に早すぎだとは思うが。
「それじゃあ、私はここで」
「またね〜」
「うん、また明日」
「寝坊しちゃ駄目よ?」
「はいはい」
皆と別れ、帰路を歩く。夕暮れではあるがお馴染みのカップル二人組がいるため心配はない。それにお守りのようなネックレスもある。もし―――――
「········いや、海行くんだから」