警戒体勢が敷かれ数日が経ったある日。前々から知らせにあった郊外のアスレチック施設への遠足日なのだが········心春はベットで寝ていた。
寝坊ではない。なんなら、登校する時間まで二時間もある。早寝早起きは常日頃から心がけている為問題ない。
「········ずびっ」
「あー、風邪だね」
そう無情に告げられる死刑宣告。告げた本人である礼儀ゼロの葉久ですらも気まずそうに視線を天井へと上げる。
普段は物凄く運が良いが、たまにドーンっと悪くなる。どうやら、今日がその“たまに”だったようだ。
「熱が出てしまった以上は絶対安静です。ご両親には私から言っておきます。ですから、心春様はお休みを」
「それじゃ、おやすみー。後でお粥持ってくるねー」
「んー」
その言葉を最後に心春の部屋から退出する。返事を、と思い呂律が回らない口を開く。
「········」
ぼーっと天井を見上げる。
好都合だった。あまり目立ちたくない心春にとって体操服は忌避するものだ。露出が多いし、体のラインが出る。それだけでもう········
「······もういいや、寝よ」
腐りきった思考を捨て、休養を第一にする。早く寝て、お土産を届けに来るであろう皆に会えるまで回復しなければ。まぁ、今日来るとは限らないが。
「――――――――」
意識を水底へ·······落とす、落とす―――どこまでも落ちていく。
夢を見ている。
ただ一人、道も周りも見えないような真っ暗闇を歩き続けている。ゴールがあればそれで良い。なければ死のう。そう考えながら歩き続ける。
「ねぇ」
「ん······ああ、そういう·······」
突如として声がかけられる。反射的に後ろへと振り返るとそこに一人の少女が立っていた。
ずっと付いてきていたのか、それとも今出現したのか。そんなことはどうでもいい。どうせコレは夢なのだから。
「あなたはどうして歩いてるの?」
「さぁ?」
責めるような声質で問いかけてきた少女に短く返答し、再度歩み始める。
少女は一瞬面食らったような表情をしたものの気を取り直して再度口を開く。
「意味あるの?」
「あるんじゃない?」
またもや曖昧な返答をし、歩き続ける。流石に二度目となれば少し頭にくる。
「言い方変えるね。なんであなたは生きてるの?」
「··········生きてるから」
先程とは打って変わって責めるような口調ではなく、ただ怒りや憎しみを載せたような声質で心春へと問いかける。
内容が内容だからか歩くのを止め、少しの間余白を作る。
「騙し騙し楽しむなんてサイテーだよね〜。生きてて恥ずかしいよね〜。顔真っ赤っ赤にしてさぁ」
「··········」
最早問いかけですらない言葉に返答はない。1ミリも表情を動かさず、少女を微笑ましいものを見るように眺める。
「あ、図星だった?」
「ふふっ········あ、いや。今のは違いますよ。それじゃ、私はここで」
「―――あ゛゛゛?」
堪えきれず、笑い声が漏れ出る。そんな声を隠すためか少女から視線を外し、前へと歩き始める。
「ねぇねぇねぇねぇ、今のなに?笑った、笑ったよね?なにが面白かったの?ねぇ?答えてよ。逃げずに答えてよ。ねぇ?」
顔真っ赤っ赤とは正にこの事。言った本人は気づいてない様子だが、心春にとってはそれすらも微笑ましく写った。
「理不尽に自分の感情をぶつけるの楽しいよね。それが自分より弱者なら尚更―――」
「なに言ってんの?私になんか説こうとしてんの?止めなよ、恥の上塗りだよ」
心春の言葉に被せるようにして捲し立てる。いや、正確には遮ろうとしているのか。
「私を囲んだ人達もそうだったもんね。ねぇ、そうでしょ?」
聞きたくないもんな。思い出したくないもんな。自身の体に異物が無理矢理入るなんて耐え難いもんね。わかるわかる。
「貴方は楽しかった?
自分の体が違うものになるような感覚に興奮した?
ずっとやっていたいとか思った?
もちろん貴方は楽しめたよね。だから、私に対して強者でいれるもんね。
自分が聖者で私が罪人。うんうん、私もそう思う。でも違うよね。
私が
自身を悪と定めようが、決して悪い子ではない。だって勇者なんだから。世界を守る機構なんだから。そうじゃないといけない。価値がない。
「貴方はどう思う?」
「あぇ、私は――わたしは、――ワタシ、――は」
「········そうだよね。私のままでいたかったよね」
一人、夢から覚め、天井を見上げる。
なにも変わりたくなかった。
「ごめんね」
そう自身へとナイフを刺すかのように呟く。きっとこれはいつか本番を実行するときの練習なのだろう。2年後か3年後·········そのあたりだろうか。
「········はぁ」
溜め息を零しながら机の上に置かれているお粥へと手を伸ばす。
気だるさはない。多分熱もないだろう。完治、までとはいかないが充分に体を動かせる。
「弓引きにでも·········ん?」
既視感。長い間来なかったようなものが来たときの感覚だ。そう、まるで―――
「樹海化········運悪いな、今日は」
そう判断した後にすぐさまベットから立ち上がり、机に置いておいたスマホを手にし起動する。
―――花弁が舞う