樹海化8分後。出た座標が遠く離れていたものの勇者の身体能力を用いれば余裕で合流可能。
「やっほー」
「やっほー!」
「あ、るーちゃん。お久しぶり〜」
「もう風邪は大丈夫なの?」
「うん、元気満タン。動きに支障はないよ」
心春へとすぐさま駆け寄った二人に続き、須美が近づき様態を問う。その返答として手をブンブン振り、元気さをアピールする。
「そんじゃ、さくっと倒して帰ろうぜ」
「るーちゃんにたっくさんお土産買ったんよ。終わったら届けに行くね」
「楽しみにしとく」
「こら、三人共、気を抜いちゃ駄目よ。今回はいつもと違って二体なんだから」
「わかってるって」
須美の言葉通り、今回のバーテックスは二体。海老?蛇?のようなバーテックスとこれまで見てきた中で一番小さいバーテックス。見た目から判断するに攻撃は針とハサミによる一撃必殺だろう。
「それでは、始めましょう」
思考を切り替える。左手には弓、右手には番える矢を握り締める。
心春の言葉を合図とし、前衛である銀と園子がバーテックスへと走り出す。
「アタシは気持ち悪い方をやるっ!」
「どっも気持ち悪いと思うんよ······」
銀は小さい方へ。園子は海老へと突っ込もうとするが、針による攻撃を防ぐのに手一杯になってしまい中々攻撃に転じれない。
「―――ッ!」
正確無比な二射が針を砕く。少しの間ではあるが、これによって即死ではなくなる。
「そこっ!」
当然、園子がそんな大チャンスを見逃す訳がなく、ここぞとばかりに槍を振るう。しかし、火力特化な銀とは違いバランス特化な園子の攻撃では数秒で治る程度の傷しかつけれない。
「―――、それ······盾だったんだ」
ならば、と絶技をお見舞いしようとするももう片方のバーテックスの盾により全て防がれる。精々罅が入る程度だろうか。
「二体で一体―――」
どう攻めるべきかの作戦を組み立てていく。
盾は5枚。1枚1枚が五射全てを防げる程の硬度。海老の方はそこまで硬くない。なんなら柔らかいまである。五射当てれれば殺せる。
よし、殺せ―――る······っ!?
「マジ!?」
「みんな、この下に!」
「っ―――、心春ちゃん!」
ここら一帯に降り注ぐであろう光の塊。間違いなく、未だ視認出来ていないもう一体の攻撃だ。
であれば、ここですべきなのは防御だけでは駄目だ。攻撃と防御、それ即ち攻撃は最大の防御をそのままにしなければいけない。
「楽勝ですね」
その一言と共に矢を真上へと飛ばす。ただの一射、そう思えば自身の死に際となる。この一射にはそれ程までの重みがある。
爆音が鳴り響いた。
降り注ぐ光の塊はほとんどが消えた。ただの物量にものを言わせただけの攻撃だったのだろう。だが、何度も繰り返しされればいつか崩れる。なら、崩される前に―――
「―――は?」
眼前に迫る海老の胴体。
矢は番え途中。放つことも中断することも出来ない。出来たとしても手遅れだ。故に甘んじて受ける他ない。
「〜っ゛!」
防御手段を持ち合わせていなかった銀以外は上空へと弾き飛ばされる。
空中、それは生身ではなにも抵抗出来ない空間だ。であれば今打ち上げられている私達は格好の餌。相手からしたら追撃を加える絶好のチャンスだ。
第二撃が園子、須美、心春へと振り下ろされる。
「―――――」
すぐさま矢を再生。軽く投げ起爆する。
爆風による影響で心春は攻撃範囲から逃れ、なんとか地に足をつけることに成功する。もちろん爆風による火傷は避けれないが·······直撃するよりはマシだ。
「須美っ!園子っ!」
根へと叩きつけられた須美と園子の元へ駆け寄る。だが、その行為は敵へと背中を向けることに同義。見逃される訳がない。
「甘いですよ」
遠方から放たれる先程の塊の5倍程の投擲を絶技で相殺する。厳密には4発で相殺出来たが、抜けた一射は途中で力尽き根へと刺さった。
「っ········心春」
「了解」
「ありがと····」
瀕死状態な須美と園子を脇に抱えひた走る。後ろは全て銀に託す。
二人を庇いながら銀と心春で敵を撃退する。そんな策など通じない。先程の雨が再度放たれで全滅·······世界終了の確率の方が断然高い。
2分後、神樹周辺まで辿り着いた心春は脇に抱えていた須美と園子をそっと地面に降ろす。
打撲痕や擦り傷などの損傷は見られるが呼吸は安定している。長時間措置せずいれば命に関わるだろうが、その心配は必要ない。
「――···心春、ちゃん·····っ!」
意識朦朧とする中、走り出そうとする心春へ待ったをかける。
意識してか、無意識かはわからない。何故か止めなければいけないと思った。
「良い子、だから·······っ゛!」
発生し辛い口を力づくで回す。そんな拙い言葉を一語一句聞き逃さないように耳を傾ける。
「そうだよ。私は
「まっ゛、待って―――!」
無視するかのようにその場を飛翔する。荷物がない状態での全速力であれば数分もしないうちに辿り着く。だが、それでも―――
赤い水溜まりに雫を落とし、波紋を立てる。何滴も何滴も·······自身の灯火が弱くなっていくの自覚しながら呼吸する。
「ハァ·······ぐぅ゛―――ァァァア゛!」
雄叫びを。自身を奮い立たせる為に。相手を絶対倒すとの誓いを己へとかける。
相対するのは自身を遥かに超える巨体の化け物。なのに、であると言うのに一歩も引かない。そればかりか、死に体同然の体で前々への突き進む。
「あ」
だが、それもここまで。
眼前には何もかもを貫通しうる絶対の針。回避、などはこの体では最早不可能。しかし、直撃すれば死は免れない。
―――終わった········。
そう確信した瞬間、眼の前で針が砕け散る。
「それでは、第二グラウンドです」
顔を隠す長布を靡かせながら、意気揚々と戦いの火蓋を切って落とす。
「―――」
最初に仕掛けたのは心春。3体それぞれへ一射ずつ放ち、爆発させる。煙で様子は見えないが、未だ健在だろう。
この爆発は倒すのが目的ではない。ただの時間稼ぎだ。
「銀ちゃん、5分です。5分で戻ってきてください」
「! わかった!」
簡素に告げられた心春の言葉をすぐさま意図を理解し、遠く離れる。
要約するなら『5分の間に回復して。その後二人で叩くよ。』そんな感じだろう。
「···········爆発は駄目ですね」
未だ晴れない煙を矢を番えながら睨む。だが、先程放った爆発矢のせいで現在敵がなにをしているか不明である。
行動予測。それが出来ないとなれば戦況の把握が難しい。一手しくじれば死に直結する。
「―――ッ!」
煙の中から迫る海老の胴体を絶技で応戦する。その結果、胴体は半ばから千切れ空中を舞いながら根へと落ちる。
そんな光景を眺めながら後ろへと跳ぶ。
「矢の雨········一番最初は貴方にしましょう」
局所的に降り注いだ矢を避け、二体のバーテックスの後ろにいる矢の発生源を観察する。
射出方法はそこらの銃と同じだろう。幾ばくかの装填時間があり、口内で破裂。速さは遅くて時速80km、現時点で判明している最高速度は時速150程度だろうか。だが、その程度ならば対処は可能。もう二体のバーテックスにさえ気をつければ問題はない。
作戦会議終了、―――実行
「―――、フッ!」
裏手へと回るように全速力で走り、そのままの状態で射る。しかし、全て盾に阻まれ、目標へとは届きえない。
「――――」
更に加速する。
背後から海老の胴体が迫ろうとお構いなし。樹海を風のように翔ける。
どのように射っているかは目視出来ないが、1秒も間を作らず数多の矢がバーテックスへと降り注ぐ。
「ハハッ――、·······?」
無意識に溢れてしまった笑みに自身ですら疑問に思う。けれど、そんなものは関係ない。今すべきことは殺すだけ。
思考も記憶も、全てを過去のものとし今を全力で謳歌する。単純構造のロボットに成り果てようが、更に意識を切り落としていく。
ああ、ようやく私は――――
「 ―――ッッ!!」
子供が初めて玩具を買ってもらったかのように。大切な物を壊した際の優越感に打ちひしがれるかのように。
一点。ただ一点。この一瞬を全身で受け入れ、何もかもを嗤う。
千歳 心春ではない。最早人間ですらない。例えるならば、殺戮を楽しむことを覚えた猛獣。
悲鳴に。肉を裂く快感に。そして、後数秒もない時間への感謝を。
「 」
そんな生物に言葉など不要。
樹海を駆け回り、全身を以てして誕生したことへの証明を。ここに初めて誕生し、根を下ろす。
顔を隠していた長布が風に乗り、彼方へと飛んでいったとしても止まらない。
己の恥辱に包まれた記憶もとうに消え、優しく包んでくれたものすらも枯れ果てた。
ああ、―――ああ!―――ああ!!
自身を縛る鎖からの脱却。なにもかもを放り投げ、好きなことをする。
単純であるが故に実現不可能。だが、実現さえしてしまえば後は嗤うのみ。
いや、この先は·······もう―――
――――――――――――――――――
――――――――――――
――――――――
―――――
――
樹海は未だ健在。一行に鎮花の儀が始まる様子はない。それ即ち、バーテックスは倒しきれていない。なら、倒れている暇などない。早く立ってトドメを―――
「―――ッ゛、ん······!」
自身が数秒の間、眠っていた訳を思い出す。
最後に放った爆発の一射。盾の発生源であるバーテックスを殺したというのに最後の一射となり得なかった。そして、煙の中から迫る針·········あぁ、だから右腹に穴が空いているのか。
「ッ゛、いたい··········」
首に下がっているネックレス、もとい黒曜石の小型ナイフ。
握り締め、肋骨の間を刺す。それだけでこの痛みと別れることが出来る。それなら―――
「それじゃあ、駄目だなぁ······」
ここで私が諦めれば世界が滅びる。だが、私にとってそんなことはどうでもいい。だけど·········銀ちゃん、園子ちゃん、須美ちゃんは絶対に死なせない。
滝のように流れ出す自身の命である血液。血溜まりを作り、川のように流れ始めようが関係ない。
一射、最期の最後に一射打てればそれでいい。
「ぐぅ―――ッ、ガァァァァァア゛゛!!!」
雄叫びと共にネックレスを引き千切り、黒曜石のナイフを矢てして番える。
この素材となる黒曜石は元々神樹様の一部。であれば、他と比べ物にならない程の神力がある筈。それを爆発すればバーテックスの一体程度は軽々吹き飛ばせるだろう。
「ふぅ······゛、はぁ·····゛···!」
呼吸すらままならない。血が足りない為か視界が揺れ動く。右腹が空洞ということもあり、体が右に傾く。
いくら究極の一に迫る者であろうともこのような状態で射るのは不可能に近い。
―――それがどうした?
確かに射れる状態ではない。だが、そんな程度の理由で友を見捨てるのか。
否、断じて否だ。彼女は
「――――、ハッ!」
放たれる正真正銘最後の一射。音速を超え神速をも超え、穿つべき敵へと喰らいつく。
「お互い、もう休もう」
その一言と共に刺さった矢が炸裂する。これまでのとは比べ物にならない威力。これが神樹元来の神力であることの証明だ。
―――空が輝きに満ちる
一人でこの光景を眺めるのは初めてだろうか。いや、最後でもあるのか。そんなことを思いながら根へと倒れる。
「みんな、お疲れ····様····―――」
賞賛はないけれど、大いに満足な一瞬であった。
私の夢は間違っているのだろう。そう自覚しながらも最高に気分が良かった。なんでも出来る、そんな全能感すらあった。
夢を叶えた余韻と共に瞼を降ろす。
どうせ死ぬ予定だったのだ。であれば、それが今日になったところで問題ない········筈だったのになぁ。
―――もう少し、皆といたかったな········。