弓とは自身の写し鏡であり、その人そのものだ。少しでも感情が昂ぶれば、それだけで狙いは定まらずあらぬ方向へと飛んでゆくだろう。
なら、百発百中を可能にしてしまう人とはどんな人?穏やかな人?冷静な人?真面目な人?
ノンノン。そのような人々では精々数回連続ド真ん中がいい所だ。であれば、誰?
感情の起伏がない。それ即ち、“心がない人”だ。または心を透明に出来る者。
それであれば、百発百中どころか生涯外すことはないだろう。と言っても、それはあくまでも土台がある場合のみだ。心の土台、技術の土台、そして―――
―――足を支える土台だ。
「っ·······!」
「うぉぉ·····!?」
正しくこのような場合だな。
天候は嵐吹き荒れ、四人で固まってなんとか立てるような状況だ。当然、このような環境ではいつものように矢を握ることも出来ない。
「このままじゃ····、ふっ!」
「あっ、わっしー?!」
なにか名案を思いつたのか意を決して、園子の腰を掴んでいた手を離し暴風の中へと身を投げる。
身を取られる前に体勢を整え、矢を番える。以前放ったものと同じようにゲージである花弁を溜めていく。
「届いて······ッ!」
放たれる一射。現状を打破するがために放たれた一射は暴風に苛まわれ届くことはなかった。
当然だ。このような苦し紛れに放った矢など何者にも届きはしない。地に刺さるのが関の山だ。
放ち終えた一瞬、気を抜いてしまい暴風によって場外へと飛ばされる。だが、安心して欲しい。落下程度では死なない。勇者という称号は伊達ではない。
「銀ちゃん、銀ちゃん」
「なっ、なにぃ!?」
踏ん張りながら、応じているため何だか叫んでいるようになっているがそこはご愛嬌。特に気にした様子はなく、そのままの状態で口を開く。
「私の体、固定してくれる?」
「りょ、りょうかいっ!」
双斧を根にぶっ刺し、背とする。全体重を斧へと預け、空いた両手で心春の腰をがっつり掴む。それに合わせ、園子も心春の正面から押す。所謂、サンドイッチ状態だ。もちろん、上半身は自由に動かせるような形でだ。
固定された状態で弓を握り締め、矢を番える。標準はバーテックスがいる逆方向。まず間違いなく、この方角に打てば当たらないだろう。だが、その瞳に一点の曇りはない。
「―――」
手を離すと同情に左目を閉じ、矢を放った状態で石像の如く固まる。どうやら、心春を固定している二人は矢に集中していて異変に気づいていないようだ。
「っ、心春でも駄目なのか!?」
「! ミノさん、あれ!」
「?······、はぁ゛!?」
一度は軌道が大きく逸れ、遥か彼方へ飛んでいきそうな矢だったが、意思を持ってるかのように上へと曲がる。
「いや、それでもあの回転じゃあ―――」
そんな銀の心配とは裏腹に矢は一切ブレることなく、天秤の上空へと向かう。
この暴風を表すならば、台風。であれば、あの中心に位置する棒は台風で言う所の台風の目だろう。
台風の目とは不思議なことに雨も風もなく、空だって見ることが出来る。言うなれば、ぽっかり空いた穴だ。
ならば、射れる。一点集中とは正にこのこと。
「――、〜〜ッ!!」
爆撃と共に暴風の勢いが落ちる。あの一矢によって分銅が大きく揺さぶられ、回転どころではないのだろう。言うまでもなく大チャンスだ。
「いくよっ、ミノさん!」
「風がないなら、こっちのもんだっ!」
何故か仰け反っている心春から離れ、武器を携えてバーテックスへと走り出す。
この一瞬を逃せば、次がいつになるのかわからない。なら、これで終わらせる。それが一番わかりやすい。
「やっぱり、実践向きじゃない、――なぁ!!」
体勢を整え、再度矢を番える。穿つは分銅を繋ぐ、天秤で言う所のうでという部位。そこさえ落としてしまえば、何分か隙が出来る。
―――放たれる絶技。
彼の大英雄には数で劣るものの、威力、速度、正確性では引けを取らない。一撃必殺級の一矢が計5発。もちろん、全て命中だとも。
「怖いものなしっ!」
防御など一切せず、ただ武器を振るうのみ。まぁ、そんなことになってしまえば後はバーテックスが倒れるのを待つだけだ。
―――夜空が輝きだす。
「勝ったどー!」
「耐久戦、きっつ·······」
「良かったよ〜、ちーちゃん!」
ありえん程の集中力を発揮したためか、頭痛と疲労感に見舞われる。が、園子の称賛によって全回復する。
褒められるだけで全回復········最強か?
「心春、さっきのってどうやったんだ?急にギュイーンと曲がったけど」
「あれは········簡単に言うなら、一射入魂。矢と一体化する?感じ?」
「お〜。だから、ちーちゃん固まってたんだ〜」
心春の特殊技能その2。
矢と右目を繋げ、五感を移す。その間、矢を自由自在に動かせるが、物体に当てる前に接続を切らなければ、本体へと衝撃がくる。先程は爆風のことを考えていなかったため、焼ける痛みがきた。
「それでは称賛を。今回も私、大活躍ですので」
「はいはい」
「ちーちゃん、強い!最強!」
「うへ。うへへへへ」
そんな称賛の声が樹海に木霊する。当然、ここにはいないもう一人の勇者へと。
「··········」