バーテックスを撃退した日の放課後。今日も今日とて帰ろうと席を立つが、安芸先生によって勇者四人は引き留められてしまった。
引き留められた四人と安芸先生一同は移動し、何処のクラスも利用していない空き教室へと。もちろん話す内容は御役目についてだ。
「所々気になる点はあるけど········連携としては及第点ね。だけど、それも千歳さんの援護ありきよ。このままじゃあ、千歳さんの負担が大きいわ」
「むふっ」
「··········」
どんな称賛の声でも反応するな、この子。そんな心春とは対照的に須美は俯く。今日の戦闘で思うところがあったのだろう。
「一先ず、指揮を取る人を決めます。乃木さん、お願いできる?」
「えっ、私?」
唐突な指名。それも指揮担当、つまりリーダーに任命されたとなれば、聞き返してしまうだろう。
「園子ちゃんは目が良いから、文句なーし」
「アタシはそういうの向いてないから、文句なーし」
目が良い、とは周りをよく見えているという意味とシンプルに動体視力が良いという意味を含んでいる。須美ですら、一射しか目視出来なかった心春の絶技を三射まで目視することが出来るのは世界広しと言えど園子だけ·······まぁ、五射全て視える者もいるにはいるが。
ちなみに一番突破力がある心春がリーダーではない理由としては、ただたんに周りと合わせるのが苦手という点が挙げられる。
「私も、それでいいと思います」
そして、最後に須美の了承が加わり全会一致となる。本当に納得しているのかは本人のみが知る。
「それじゃあ決定ね。では、次の話に移るわよ」
その言葉と共に一枚の台紙がドンと机に置かれる。
「さらに連携を取れるようにするため、貴方達には強化合宿をしてもらいます」
「「「「強化合宿??」」」」
ということで強化合宿当日········ではなく、その数日前。場所は千歳家内にある弓道場。日々心春が明によって扱かれている場所だ。
強化合宿があると言えど、心春の特訓は変わらずある。それでも今回は少し違うようだ。
「それでは、鷲尾さん始めますよ」
「はい。今日は宜しくお願いします」
どうやら、今日は鷲尾さんちの須美さんが来ているようだ。心春の弓術指南者である弓波 明と対面して正座する。そんな彼女らの横で津城 葉久と心春が殴り合っている。
「―――っ!」
「せんぱーい、様はつけないでいいんですかー?」
「私は頼まれている側なので」
息すら忘れ、葉久へと打ち込むが未だ無駄話する余裕を作られてしまう。心春が体術をサボっていた訳ではなく、ただ葉久が人間離れしているだけだ。
「それではまず、射って見せてください」
「わかりました」
正座から立ち上がり、隣に置いておいた弓を持つ。もちろん矢もだ。
深呼吸で意識を切り替える。そして、いつものように弓へと矢を番える。
「ッ!」
放たれた矢は減速、高度変更しながら、的の中心へと突き刺さる。これには、明も一切表情を変えず拍手を送る。
「わぁ、素晴らしいです」
「ありがとうございます」
どんなに気の抜けた称賛であってもしっかりと感謝を述べる。できた子や。
「それではお世辞はここまでに」
「おせ······え?」
「単刀直入に言いますと、鷲尾さんの射る姿は見ていてつまりません。なにも感じません」
「·········」
ほんとにズバッと言ったよ、と心春の指導を見たことがなかった葉久は心春の猛攻を弾きながらそう思う。
「鷲尾さんは何処で、誰に教わりましたか?」
「家で、大赦から派遣された人に教わりました」
「射る時は心を殺して、とか言われました?」
「はい、言われました」
「そうですか、そうですか。なら、その人は三流です。すぐさま解雇して私を雇ってください。高給料で」
明の性格を一言で表すならば、天上天下唯我独尊。葉久の方が、と思われるがちだが、あっちはただ楽しい方をしているだけだ。つまり、我が儘ちゃんだ。
「うわぁー、先輩が浮気してるー。聞きましたか、心春様」
「―――」
「うわっ、とと。また加速しましたね」
そんな御託を並べる口を閉じさせるため、更にギアを上げ顔面へと拳を飛ばすが危なげなく躱される。
「百発百中は前提条件、とは言いません。私でも無理です。まぁ、心春様なら可能ですが········あれは例外だと思ってください。無と有が同居するなど、普通ではありえません」
「無と有······」
「心を無にすると同時にただならぬ殺気が心春様からは感じれます。初めて見た時の、あの激情は忘れませんね。脳内麻薬ドバドバです」
オタクが好きなキャラを語るが如く、早口であのときの激情を語っていく。最早、聞き手である須美はげんなりとしている。
「―――ふぅ、心春様語りはここまでに。本題に入りましょう」
「は、はい·······」
再度、対面して正座する。先程まで輝いているかのような瞳が須美の瞳を貫く。ここからは本当に真面目な話のようだ。
「射る時は感情を込めましょう。相手が怖気づくようなものなら、尚良しです。」
「わかりました」
「慣れる前は何度も外すと思います。ですが、何万射程すれば自然と身につきます。ということで、射続けましょうか」
ドンと地響きでもしたかのような音と共に数え切れない矢の束が置かれる。それを置いた当の本人は新しいおもちゃでも見つけたかのようにニッコニッコだ。実際そうなんだろう。
「一万射らなければ帰れませんよ?」
「ひゅっ······」
そんな変な声と共に地獄の特訓が始まった。その後、須美がどうなっかは誰にもわからない。ただ、翌日筋肉痛で寝込んだとかなんとか。