時は午後一時。天気は晴天。場所は海岸。もちろん一帯を貸し切りにしている。ここに来た理由は以前話がなされた強化合宿のためだ。
銀の遅刻というハプニングがあったものの無事到着した勇者四人。ちなみに、心春は何故かバスに乗らず明が運転する車で来た。その後、泊まる部屋に荷物を置き、昼ご飯を摂り、今に至る。
「それでは訓練の内容について説明するわね」
勇者システムを起動した園子、須美、銀は横一列に並び、安芸先生への話に耳を傾ける。そして、今ここにいない心春は既に説明を聞いており、自身の持ち場へと移動している。
「内容は至ってシンプル。三ノ輪さんがあのバスへと辿り着くように残りの二人が援護する、それだけです」
「援護·······それって、つまり」
「まさか、そんな·······ねぇ?」
「ごくり·······」
援護。その言葉が出てくるということは銀への何らかの妨害があるということ。そして心春がいないことを察するに·······
「三ノ輪さんへのボールでの投擲」
「「「ほっ」」」
「―――そして」
「「「っ―――!?」」」
「30秒に一回。勇者システムなしの千歳さんからの射撃が来るわ。よく見て、即座に判断しないと········わかるわね?」
その言葉に全員が一斉に首を縦に振るう。
「はいっ、位置についてー!」
共に戦った者だからこそ解る。千歳 心春という勇者の絶対性。どのような場面であっても、外すことはない正確さ。それだけでもう頼もしさが段違いだ。つまり、敵になれば·········恐怖しかない。
「3、2、1、―――」
カウントダウンが1減るたびに警戒度を増し、自身が扱う武器を強く握り締める。園子であれば、形態を傘状へと変化させた槍を。須美であれば、弓矢を。銀は走り出す用意を。
「始めっ!!」
「うおっしゃ、―――いでっ!」
意気揚々と叫びながら走り出そうとする銀のおでこに無慈悲な一撃が当たる。
発射地点はバスが位置する場所より上の山の中腹。そこから狩人は鋭い眼光を持ってして、海岸を睨む。
「―――初見殺し。それ即ち絶対」
そこから地獄が始まった。
いくら防御しようが糸のように小さい穴を通され、銀へと当たる。正しく百発百中。幸い、ゴムで作られた矢のため勇者の体に傷をつけることはない。
最高2分。最低数十秒。
直で。弾かれたボールの軌道をずらして。ボールが当たるように道を開いて。
あらゆる策で銀へと放たれる。
そんなこんなでクリア出来ず、夜になってしまった。もちろん訓練は終了し、身を休める時だ。
宿の一室に布団を4つ置き、就寝する支度をしていく。
「はふぅ、もう腕上がんない·······」
「お、てことは明日でクリア出来んじゃね?」
「試しに猪突猛進してみたら?」
「イヤ、結構です」
例え、腕が上がらなくとも。と、知らしめる程の圧で銀へと視線を移す。その圧を受け、先程の余裕が消え去る。
「でもでも〜、そろそろ残り少ないんじゃないのかな〜?80?それとも90?」
「·········その2倍ぐらい」
確かに今日の結果は散々だった。だが、ただボロ負けしているだけのが乃木 園子ではない。
時間、角度、速さ、当て方、場合、やり方。その全てを考慮し、これまで心春がした妨害の種類を把握している。
「ほら、明日もあるんだから早く寝なさい。起きれないわよ?」
「ちぇー·····」
「は〜い、お母さん」
「お母さんじゃありません」
「おやすみー」
立っていた須美が電気を消し、各々自身の布団へと潜っていく。それと同時に軽やかな音色が鳴り出す。
「な、なに?」
「子守唄」
「こも、子守唄·······え?」
どうやら、心春の横に置いてあるスマホから流れてるようだ。
ある程度小春達の奇想天外な動きに慣れてきたかと思っていていたが、やはり読めない。というよりは振れ幅が可笑しすぎる。次がわからない。
「ぁー、落ち着くぅ·····―――」
「それじゃ、おやすみ」
「お、おやすみなさい·······」
子守唄は消さず、流れたまま就寝。あまりの展開に脳が追いつかず、その後数十分はフリーズしていた。
翌日。朝ご飯をしっかり摂り、ないと思っていた勉強をして午前を過ごす。そして、訓練がある午後へ
「いーち、にー、さーん、しぃ――ッ!」
「ナイスっ、園子!」
秒数を数えながら、傘状の槍をもって矢を弾く。そして当然かのように片手間でボールを弾き飛ばす。
「いーち、にー、さーん、しー、ごー。いーち、にー、さーん―――」
心春の妨害は30秒に一回。だが、どのタイミングで来るかはわからない。それ故に前に進もうにも進めず、硬直状態に陥っている。
「――にー、さーん·······?」
残り3秒。だというのに心春からの妨害がないことに疑問を抱く。そして気づく。あの時、何故2倍と言ったのか。
「曲射、そしてもう一本。るーちゃん、さっすがぁ」
曲射はもちろん銀。もう一本も銀。僅かながら、曲射の方が速く到達する。つまり、傘上の槍で防げば下をもう一本の矢が潜っていく。完全に防御不可能だ。
ここは敢えての曲射スルーを選択。見向きもせず、ただもう一方の矢に備える。当然、そんなことをすれば曲射は銀へと直撃だ。
「ッ゛―――!」
「·········マジですか」
曲射は突如として飛来した矢によって彼方へと飛ばされる。そんな光景に初見殺し絶対とか言っていた心春は驚きを隠せない。
「っ――、ミノさん!飛んで!」
「よしキタっ!」
矢を防ぎ、すぐさま次へ。
30秒の最後に一射。次の30秒の最初に追撃の一射。その二射の間にいつもならない空白はあったが、それでも必殺の技だ。
ルール守ってるからセーフ、とは行かず、ある弱点がある。二射を防いだ後の29秒間。その間心春からの妨害はなく、ボールのみの妨害となる。
二射を視認した瞬間園子はその弱点を看破し、大大チャンスだと悟った。
傘状の槍を踏み台とし、銀をゴールであるバスへと飛ばす。その際、迫るボールは須美の援護によって全て落とされる。
「うぉ、りゃぁぁぁあ!!!」
園子の目論見通り銀はゴールへと到着し、バスを一閃。双斧によって滅多切りにした。
これにより、訓練終了。すぐ帰る予定だったものの銀がバスをぶっ壊したことで翌日となったとさ。