千歳 心春は絶世の美人と言って差し支えない。未だ第2成長期中の体であっても、彼女が街中を歩けば百人中百人が振り返る。それも老若男女問わずだ。
空色の長髪。黄昏のような瞳。とても整った容姿。そのどれもが人々を魅了する。
急に何を。と思っただろうが、ここからが本題だ。
心春は四年生の時ある事件の加害者となり、メンタルケアのためと半年間休学していたことがある。それを知っているのは当時同じクラスだった者達。乃木家関係で事件の全てを知っている園子。あと関係者などなど。
これから先、読んでいて不快になるような話が書かれています。下の注意事項に書かれていることが大丈夫な人はお読み下さい。
※純愛しか読まねぇ!の人は覚悟を決めるか、横線の所までスキップするかしてください。
※ぼやかしていますが、『強姦』の描写があります。苦手意識。或いは嫌な記憶がある方は横線の所までスキップを推奨します。
時を遡り、千歳 心春四年生の一学期開始から数週間経ったある日曜日。今日も今日とて友達の家へと遊びに行こうとしていたのだろうか。鼻歌交じりで歩いていた。
「〜〜♪」
年相応な水色のワンピース。日差しよけの麦わら帽子。そんな可愛らしい服装を天使のような子が着ているのだ。当然人目が沢山ある。日中だから、という理由もあったのだろう。
まぁ、当時四年生だった心春は人目などあまり気にせず、そのまま鼻歌を歌いながら友達の家へと行き、夕暮れ時まで遊んだ。ちなみにマリオカートで遊んだようだ。
「〜〜♪」
行き同様鼻歌交じりで帰路を進む。ただ、行きとは違いあまり人通りが少なく、周りに誰もおらず自分だけという状態が作られる。
そして丁度公園の前を通り過ぎようとした時だった。
「〜〜、――んむっ!?」
左肩を何者かに掴まれ、次の瞬間には布状のものが口へと詰められる。その後、抵抗する暇なく強引に公園にある公衆トイレへと運ばれた。
「悪い子だよなぁ、こんな時間に一人で歩くなんて」
「だよな。悪い子にはお仕置きが必要だろ」
「にしても、こうも簡単に拉致れるとはな。拍子抜けだな」
高校生ぐらいの男が三人。よう意味が解らない会話をしており、心春はその光景をこの先なにをされるのか。恐怖に怯えながら待つしかない。
絶対の救世主も幻想の騎士もいない。少女を救う者など現れず、ただ欲望の捌け口として使われる。
怖い。嫌だ。気持ち悪い。吐き気がする。耐え難い。死にたい。
なんで私が?なにも悪いことなんてしてない。悪い子なんかじゃない筈なのに·········なんで?私、良い子だよね?ねぇ?
事の顛末のみを語ろう。
心春拉致から二時間後。時計の針が7を回ろうとした時だったろうか。流石に可笑しいと思った心春の母が友達宅へ電話をかけた事で事の重大性を理解。すぐさま警察に連絡。使用人総出で探索を開始する。
はい、現行犯逮捕。末永く死んでください。
約2時間もの間、三人に弄ばれ意識を失っていた心春は使用人により病院へ。感染症などの心配は消しておく。
余談ではあるが、高校生三人は少年院へ·······となる手筈だったが、道中で事故が発生。その際に三人は逃走。そして、その一ヶ月後。ある場所で荒い切断面の右手が発見される。当然三つ。更に一ヶ月後には左手が。そんな事がこの事件発生後ニ年間あった。最後は頭部だったという。
「·········‥」
真っ暗闇の部屋の中。ただ毛布に包まり惰眠を謳歌する。外なんて絶対に出ない。このまま一生を終えたい。だが、それを赦さない者がいる。
「千歳さん、お願いだから出てきてぇ!!」
生徒と教師。たったそんな上辺だけの関係者が出しゃばるな。どうせ、ここで出たとしても希望がなんだと語りやがる。
「千歳さん、聞いてたら返事を―――」
返事を、なんだ。貴方に私の存在証明をしたところで意味がない。さっさといなくなって欲しい。
「千歳 心春様」
「········?」
声質が変わった。とても静かで、なにかに怒ってるような声だ。明らかに先程までのただ叫んでいる声ではない。
「貴方は勇者に選ばれました」
「ゆう、······しゃ·····?」
あの日の宣告を告げらて以降、部屋を叩く音はなくなった。お陰様で朝寝すぎて夜眠れなくなってしまった。まぁ、自業自得だとは自分でもわかる。
月明かりによって照らされる廊下を歩く。誰もいない、この静かな時間は好きだ。それに寝たきりでは体が鈍る。
自身の下半身を見るたび、あの日の光景が這い出てくる。もう何もかもが気持ち悪い。
「·········?」
そんなことを考えながら歩いていると聞いたことがない音が聞こえる。確か、この先は弓道場だった筈だ。
身を柱に隠しながら、ひょこっと顔だけを出す。
「―――」
見たことない人だ。でも求人なんて········いや、そもそも最近は外に出てないんだった。
的の方に目を向けると全ての矢が中心を射っている。どうやら、プロの人のようだ。
「ふぅー·······貴方も射って行きますか?」
「!?」
えっ、なんで気づかれてるの。私の隠れ方は確実だった筈。
·········しょうがない。ここはささっと一射して帰ろう。これでも一応私は弓道経験がある。我流だけど。
「ふふっ。やはり······」
「?」
何故か、私の顔を見るなり小さく笑う。私への煽りだろうか。
そんな彼女を不思議に思いながら、私専用の弓矢を手にする。そして意識を溺らせ、前へ前へと進む。
「····―――」
無に、無に―――――――射殺す。
「ッ――!」
私が放った矢は一寸の狂いもなく、的の中心に突き刺さる。若干無になりきれなかったような気がするが、まぁ結果良ければ全て良し。
「お見事です、心春様」
「·········知ってたんだ」
薄笑いしてる使用人らしき人を睨む。
「それでは自己紹介を。私は弓波 明、今日から貴方の弓術指南。そして貴方の護衛を任された者です」
「いらない」
護衛は外に出ないから必要ない。弓引くのも趣味だし、指南者まで取ってガチでやろうとは思えない。よって、解雇。
「それは困りますね。ようやく職を掴んだと思ったんですが·········それではご機嫌取りにコレを」
「小さな、ナイフ·······物騒」
差し出されたネックレス型の小さなナイフを手で受け取り、観察する。
「神樹様が生み出した黒曜石を凄腕の鍛治師が研磨した物です。神樹様が貴方へと」
「神樹様········?」
神樹様。土地神だとは聞いているが、なんだか違うような気がして止まない。
一応ネックレスということだから、首から下げておく。
「敵を殺すならば首に。自死するならば自身の肋骨の間に突き刺してください。私の収入を0にしたくないなら、しっかり相手の首に刺してくださいね」
「守銭奴········」
「失礼ですね。守る銭なんて一銭もありませんよ」
駄目だ、この人。正に天上天下唯我独尊········それ即ち、面倒臭い。早めに聞きたいこと聞いて帰ろう。
「勇者ってなに?」
「唐突ですね。まぁ、いいですけど。
さて、勇者についてですね。勇者とは神樹様によって選ばれ、御役目を果たす者である。私が知り得るのはここまでです。後は安芸さんに聞いてください」
ざつぅー········こういう大人にはなりたくないな。反面教師にしよ。と、最後の質問を。
「それじゃあ、勇者をしたら良い子になれる?」
「·········ええ。きっと、なれますよ」