怒涛の強化合宿を乗り越え二週間が経過したある日の土曜日。特に遊ぶ予定も訓練の予定もなかった心春はただただ惰眠を謳歌··········したかったなぁ。
「ん〜〜っ!やっぱ、イネスは最高だな!」
「そだねー」
「いつにも増して元気ね」
「ミノさんはほんとにイネスが好きなんだね〜」
ハイテンションでドンドン前へ前へと進んでいく銀。その後ろをネックレスを握り締めながら歩く心春。更にその後ろに須美と園子が歩いている。そして以前と同じようにカップル二人組が遥か後ろを歩いている。
何故こうなったのか。事の発端のみを語ろう。
午前9時頃だろうか。千歳邸に園子がアポ無し訪問。心春を誘拐し、銀をストーキングし、今に至る。
妙だな·········一日の出来事だというのに2個程法に触れるような事が見えた。まぁ、気の所為だろう。
「昼時だし、飯食いに行こうぜっ」
「だったらこの近場に美味しいうどん屋さんが―――」
「なに言ってんだよ、心春!ここはイネスだぞ!?」
「あー、はいはい」
心底ダルそうにしながら相槌を打つ。どうやら、心春はハイテンションの人が苦手なようだ。
銀に案内され、イネスのフードコードへ。以前祝勝会を行った場所でもある。
注文をし、品を受け取り、空いている席へと座る。
「やっぱ、心春といるとゴタゴタに巻き込まれずに済むなぁ」
「心春ちゃんは運が良いのね」
「るーちゃんはたまにドーンと運が下がる時があるんだよね〜」
「ドーンっとね」
銀の不幸を掻き消す程の幸運。そんなものが続けば、心春は外嫌いにも男性恐怖症にも陥っていない。
談話も程々にし、各々自身が頼んだ物を口へと運んでいく。
「じー·······」
心春が一つのみの海老フライを口に運ぼうとするも園子の視線によって中断される。
「はい、お肉と交換ね」
「ありがと〜♪」
海老フライを園子の空になった容器へ置き、食べやすく切られているお肉を箸で攫う。そのまま喉を通す。
人の食べてる姿を見ていると食べたくなる。よくあるよね。
「須美さんや。お宅の大根、一口貰うぜい」
「はいはい。それじゃあ私は銀の油揚げ貰うわね」
「ぐ、ぐぬぬ······いいぞ〜」
あ、いいんだ。と思いながら、腹を満たしていく。数十分後、空にした容器を返却し、帰る支度を始める。
「この後どうする〜?」
「帰る」
「おいおい、ここはイネスだぞ?遊ばなきゃ損だろ」
「遊ぶ、って言っても何処で········んっ、これ」
丁度荷物を担いだ時だった。周りの異変に気づいたのは。
自分達以外の物体全てが静止している。まるで時を止められているように。それ即ち、合図だ。
「食後の運動は控えたいよなぁ·······」
「横腹が痛くなるよね」
「食事中に来なかっただけ良かったと考えましょ」
「だね〜」
もしも食事中に来ていれば、腹を空かせたまま戦うことになっていたであろう。それなら横腹を痛める方が··········いや、どちらも嫌だな。
―――花弁が舞う
勇者服へと換装し終え、ゆっくり浮遊しながらこちらに近づくバーテックスを視認する。
足のような·········なんだあれ。やはりバーテックスは形容出来ない。
「ビジュアル系なルックスしてんな〜」
ビジュアル系········あのバーテックスは何を視覚に訴えているのだろうか。各自なにをしてくるか推測するや否やバーテックスが突如として爆発する。
「小手調べです」
犯人はもちろん心春。顔を隠すように垂れている長布を靡かせながら、必殺級の一射を繰り出す。
爆発が堪えたのかバーテックスは浮遊を止め、樹海の根へと降りる。追撃を、と狙いを定めようとするも謎の振動によって妨害される。
「うおっ!?」
「っ、この振動は·······!?」
「十中八九アレの仕業でしょうね」
あのバーテックスが根に降り立ち、妙な動作をしたことで発生した。それを考慮するとバーテックスの仕業の可能性が高い。なんなら決定だ。
「るーちゃん、当てれる?」
「余裕です」
「それじゃあ、わっしーはチャージして·········わぁ、また飛ぶんだぁ」
「制空権が取られた!」
振動妨害を止め、再度浮遊を開始する。それも心春と須美の射程外。
「降りてこい、コラァー!」
バーテックスへと斧を掲げ、いくら叫ぼうが虚しく空へと消える。それどころか4本の足を束ね、ドリルのようにし銀目掛けて落下を開始する。
「やべっ!」
「現世への影響は?」
「気にせず行こー!」
「了解」
最優先は名前も顔も知らない者達ではない。自分達の人生こそ守らなければ意味がない。それを至上命題とし、バーテックスを穿つ。
バーテックス本体への妨害は不可能。なら、攻撃部位へと直接する他ない。勢いを弱めれば須美のチャージ満タンで壊せると仮定。それに賭ける。
「ッ―――、須美ちゃん!」
逆回転の力を加えるための5射。目論見通り些か回転力が落ちる。そこへ須美の一射が―――
「南無八幡、―――大菩薩ッ!!」
見事命中。ドリルの横っ腹に風穴がぽっかりと空く。ほんの一瞬ではあるが、完全に回転力が消失する。そこをつかさず銀が一刀両断。
「助かった!」
更にドリルを踏み台に飛翔。だが、それでも射程外にバーテックスは浮遊している。
「ミノさん、足場ぁぁ!!」
「サンキュー!」
園子の槍の穂先が変形。足場のようにバーテックスまでの道を作る。それをタンッタンッと駆け上り、烈火の如く斧から炎を上げる。
「うぉぉぉぉ········!」
チャンスは一度切り。この一撃で仕留めなければ同じことを繰り返さなければいけなくなる。それをしてしまえば現世への侵食がかなり進むだろう。出来れば避けたい。故に斬り伏せる。
「―――ッ、りゃあ゛!!」
奥歯が砕ける程噛み締めて振るわれる斧。バーテックスの体を砕きながら進み、完全に分離させる。それに落下を始める。
「―――」
そこへさらなる追撃を加える。体は分離しているが鎮花の儀が未だ始まらないことを鑑みた行動だ。
穿つ。穿つ。穿つ。1ミリ降下する度、バーテックスの体の大半が消し飛んでいく。
―――空が色彩に満ちる
「見せ場が足りなーーーいっ!」
「?········?·····」
特に見せ場がなかったことへの叫びが樹海を木霊する。突然の出来事&先程まで真面目に、しかもキリッとしていたというのに終わればコレである。須美でなくとも理解出来ない。
「よしよし」
「銀ちゃんだけズルい―――ッ!」
「えっ·······アタシ?」
園子が宥め、心春が叫ぶ。急にとばっちりを受けた銀はきょとんとしながらその光景を眺める。須美はフリーズしている。正に意味不明。