今年で12歳を迎えようとしている少女であっても、勇者である者達に暇はない。学業を疎かにしない範囲で日々鍛錬を熟している。と言っても、たまには休日もあるがほとんど体を休める時間となり、遊ぶ時間は極端に少ない。
「神樹様の神託によるとしばらくはバーテックスによる襲撃はありません。なので、警戒態勢を解き、休養期間に当てたいと思います。各自、体を休めてください」
「!」
「よ、·······よっしゃああ!!」
「どこ行く、どこ行く〜?」
「········」
そんな彼女達にとってその言葉は何よりも嬉しい、筈なのだが········ただ一人、皆が喜んでいる中で眉間に皺を寄せ沈んでいる者がいる。当然、心春だ。
そもそも外にあまり
となれば、取るべき選択肢は一つ。
「レッツエンジョイカギャワラーイ!」
「·········はい?」
そんなノリに全振りしたかのような園子と対面してしまえば思考放棄はやむなしだ。それが常人の反応だと思われる。
「それでは心春様、さらばです」
「いって、らっ!」
「あっ、ちょ!」
通達が言っていた使用人は笑顔で見送り&無理矢理心春を車へと蹴り出す。これには流石の園子も目を点にする。使用人あるまじき行動である。
「ばいばーい」
意味不明なまま乗せられ、行き先も解らぬままリムジンが出発する。これが俗に言う誘拐というものだろう。
「っ······、っ·······゛!」
服が破けるかと思う程の力でネックレスを右手で握り締め、荒い呼吸を繰り返す。
そんな心春の姿を見て、園子は久しぶりにやってしまったと思ってしまった。少し浮かれすぎただろうか。
「るーちゃん、大丈夫。大丈夫だよ〜」
ゆっくりと握り締めていた右手を解いていき、心春の意識を深層から引っ張り出す。
走っている車の中ということすらも忘れる程に静かな声で言い聞かせる。揺れなどなんのその。心春の意識を自身へと向けることに集中する。
「―――っ、·······ふぅ。それで、行き先は?」
何とか再起し、普段通りの声色で園子へと問いかける。と、言っても汗だくな状態なのは変わりない。
「それはね〜―――」
心春誘拐から数十分後。須美と銀を回収し、乃木家へと連れてこられたまでは良かったのだが·······
「じゃじゃ〜ん!」
「うぉぉぉ!!」
「素晴らしすぎるっ!」
「·······なにこれ」
最初着ていたラフな格好だった服装から水色、遠目から見れば白色に見えるようなワンピースに着替えただけだと言うのにこれである。触ろうとしたらすり抜けそうな透明感が醸し出されている。これには叫ぶしかない。
「次遊ぶときコレで!」
「無理」
「おねが〜い?」
「駄目」
「一生のお願い!」
「やだ」
このような服を着てしまえば人目の集中は避けられない。故に友達からのお願いであっても断るしかない。それな一生のお願いであっても。
「じゃあじゃあ次は〜······これ!」
「はいはい」
次に渡されたのは黒のテーパードパンツと水色のタフタブラウスを受け取り、試着していく。園子より5cm高いがなんとか着れたようだ。
「きゃわわ〜♪」
「おぉ········これが大人の色気か」
「別嬪さん········心春ちゃん、明日は私の家に!」
「絶対に行かない」
ただ立っているだけだと言うのに視線を惹き寄せる。正しくアイドル、ではなく可憐·······この場合は美人の方が正しいだろう。
「はい、次は銀ちゃんね」
「·······うぇっ!アタシ!?」
「ミノさんは〜········これっ!」
そう言う園子の手には握られているのは銀が普段着ない黒と白のワンピースのような服。それを見た瞬間、高速で首を横に振るがもう遅い。
「い、いやっ!アタシは遠慮しとく!」
「ばんざーい」
「おう、ばんざーい」
「ほいっ」
「!?!??!??!」
流れでばんざーいしてしまい、そこを心春によって追い剥ぎにあう。そして続けざまに園子が服を着させる。ほんの数秒の出来事だった。
「いい!凄くいいわよ!」
「おぉ〜」
「キタコレ!」
「なにが来たんだ!?」
須美達は普段の性格とのギャップにより悶え苦しみながら、銀へと称賛を送る。園子はなにかのスイッチが入ったのか、クローゼットからドンドンと大量の服を持ってくる。
「次コレ!」
「着ないからな!」
「はい、ばんざーい」
「もう引っかからないぞ!」
「じゃあ下から·······」
「ああ!わかった!わかった!着るから!!」
流石に人に下を脱がされるのは恥ずか死余裕。ここは苦肉の策として着ることに。
そこから園子は留まることなく、銀へと可愛いい服を持っていき着せ替え人形かと思わせるかのように着替えさせていった。
「········」
「怒っちゃった」
「銀ちゃーん、お菓子あるよー?」
むっとした顔をし、部屋の隅へと移動した銀をお菓子で釣ろうとするも一切かかる様子はない。流石に何百の服を着せれば銀であっても怒る、それが今回の研究結果だった。
「········最高······」
「最悪だよ!」
一人、床に意気消沈したかのように仰向けで倒れている須美。その手にはどこから取り出したのかわからない大きなカメラが握られている。もちろんフィルムは5個使い果たしている。
「それじゃあ次はわっしーね」
「·········えっ?」
「はい、立った立った」
「そ、そのっち?」
「まずは〜·····‥これかな〜」
「覚悟してもらうぞ、須美さんや。大人しくしろぅ!」
因果応報、天罰覿面。いやまぁ、そんなだいそれたものではないが銀の腹いせだ。可愛いい服着ましょうね〜。
時刻は6時前。既に日が傾き始めている。とは言っても夏であるが故に完全に日が落ちるまでは後一時間要するだろう。とは言ってもそんな中を一人で帰らせる訳にはいかない。
誘拐された時同様、白いリムジンで家へと郵送される。銀から須美。そして········
「それじゃあね〜、るーちゃん」
「うん、またね」
「また来週っ!」
そんな聞き馴染みがあるフレーズと共にその場を後にする。心春も去っていくリムジンを視界から外し、家へと入る。
「お帰りなさいませ、心春様。お荷物持ちますよ」
「いや、いいよ。部屋まで持ってく」
「畏まりました。お風呂の支度は出来ていますのでご好きな時間に」
「うん」
使用人を躱し、自身の部屋へと入る。園子から貰った服はいつ着るかわからない為、袋に入れたまま押入れに仕舞う。本当にいつ着るだろうか·······。
お風呂に浸かろうと替えの服を用意し、部屋を後にする。