異聞、嘆きの騎士   作:R1zA

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【テーマ】世界の破壊者さんに世界の破壊者さん(ガチ)になって貰おう!

※注意
・主人公の最終的な強さはマロリー版アーサー王伝説のトリスタン準拠。 つまりは主人公≧ランスロット程度。
・アーサー王伝説についての知識はにわかなので、時系列などの矛盾にはある程度目を瞑っていただけると助かります。



円卓時代編
Ⅰ|祝福無き生誕


 

 

 時は六世紀。

 未だに魑魅魍魎が闊歩する、神代最後の土地であるブリテン島の南端コーンウォール、ティンタジェル城において、悩める一人の男……マルク王が居た。

 コーンウォールの主たる彼が眉を顰めて険しい表情をしているのは、不意打ちのように告げられた、ある隣国の王の訃報故である。

 

「事実か。リヴァランが死んだというのは」

「……間違いありません。此度の戦の最中、リヴァラン卿は何者かの手によって謀殺されたと」

 

 リヴァランは隣国リオネスの王である。

 彼が妻として自身の最愛の妹ことブランシュフルールを迎えていたこともあり、マルク王は以前より彼と実質的な同盟関係にあった。

 

 だが彼は、何者かの権謀によって殺された。

 近いうちに最初の子供が生まれるのだと嬉しそうに語るのを聞いていたが為に、その悲しみもひとしおだ。 

 自分がこうなのだから、配偶者たる妹の胸中はこれ以上だろう。

 

 故にその騎士に、問うた。

 

「私の妹は……ブランシュフルールは、何処(いずこ)に?」

「……っ! 王妃は、卿を失った悲しみのあまり、後を―――」

 

 悲しみや罪悪感を押し殺して、腹の底から引き絞るように、なんとか言葉を紡ごうとしている騎士を見て、マルク王は掛ける言葉が見つからなかった。

 

 きっと、妹の付き人だったのだろう。

 なのに夫の後を追うのを止められなかった事を、彼女の縁者を前にして悔やんでいるのか、それとも別の事で葛藤しているのかは、マルク王には分からぬことである。

 

 だがこれは前提……事実の羅列に過ぎず、本題が別であるということだけは理解出来た。

 血を分けた妹の訃報に嘆く間もなく、マルク王は冷静に、為政者としての思考を働かせる。

 騎士の横に立つ侍女が抱えている赤子こそが、この地を訪ねた本当の理由なのだと。

 

 

「―――待て。ならばその赤子はもしや……リヴァランと、ブランシュフルールの子か?」

「はい。その通りでございます、マルク王」

 

 

 布で包まれた赤子の小さな体躯を見るに、生まれてから一月も経っていないのだろう。

 眠っているのか、その瞳は閉じられており、寝息は疎か身動きも、物音の一つさえ立てていない。

 

 ふと赤子を抱える侍女が、マルク王に問うた。

 

「マルク王。この子は王妃――ブランシュフルール様の子……貴方の甥ですが、一度お抱えになられますか?」

「……私がか?」

 

 ブリテンに数多く存在する小国の一つであるコーンウォールの王、ティンタジェル城主たる彼は、三十にも満たぬ身で王の責務を果たす傑物である。

 それ故、未だ跡継ぎたる嫡子は居らず、赤子を抱えた経験など無かった。

 

 

「こ、こうだろうか?」

「お見事でございます。王は子を抱えるのも得手なようで」

 

 

 見様見真似ではあるが、侍女曰く、ちゃんと出来ているらしい。

 ソレに安堵するも束の間―――

 

 

「む……?」

 

 

 赤子が、目を開いた。

 まるで星の光を閉じ込めたような、黄金の瞳。

 人ならざるモノ、ある種の異能とも取れるような美しさ……芸術を感じさせる。

 

 視線の先には何も無く、まるで現在(いま)ではない何処か遠くを視ているようで。

 でもその瞳の奥底には、将来この島の行く末を定めるような確固たる『何か』……信念、自我に近いものを赤子から感じた。

 

 

「―――名は」

「え?」

「この赤子の名は、何かと聞いている」

 

 

 侍女の表情に、曇りが映る。

 何か思うところがあるのか複雑そうに、言い淀む。

 

 

「……ロアール様」

 

 

 侍女は僅かに回視して、騎士の名を呼んだ。

 騎士……ロアールは感傷を抑えた抑揚のない声で、されど歯切れ悪く、赤子に与えられた名を口にする。

 

 

「―――()()()()()。王妃は最期、トリスタンの名を与えました」

「トリスタン……。哀しみの子とは、随分と――」

 

 

 リヴァランはピクト人であった。

 そして哀しみの子(トリスタン)の名もまた、ピクト語である。

 

 ブリテン人とピクト人の混血。

 父王リヴァランは息子の顔を見ることもできずに戦死し、母ブランシュフルールはリヴァランの忠実な配下であったロアールに子を託し、名を与えて間もなく帰らぬ人へ。

 

 

 祝福されぬ生誕とでも言うべきなのか。

 マルク王は生まれて間もなく肉親を失ったその境遇に同情し、考えた。

 

 

「―――決めた。決めたぞ」

 

 

 この子は元より、妹最後の忘れ形見。

 悩む必要など、初めから無かったのだ。

 

 

「トリスタンは私が預かろう。表向きには私の付き人としてだが」

「――っ!! 感謝します、マルク王!」

 

 

 万感の思いが籠った感謝と共に、ロアールは感涙に咽ぶ。

 自身の主の妻、その遺産は確かに系譜の者へと託された。

 自決を止められなかった時点で自身は騎士失格だが、唯一残った最期の願いを果たし、確かに忠義を果たせたのだ。

 

 

 

 

 ―――こうしてマルク王の下へ身を寄せたトリスタンは以後、騎士として成長し、様々な偉業を成すこととなる。

 それは原典においても、この時空においても変わらない。

 

 

 

 

 しかし只一つ、本来の歴史と異なる点が存在した。

 

 

 

『―――いや何処だよここ』

 

 

 

 哀しみの子と名付けられた赤子の身体に、何故かとある男の魂が宿った。

 ここから将来の嘆きの騎士は、本来辿る道から大きく逸脱して行くのだが―――それはまだ、誰も知りえない未来の話。

 

 

 

 

 

 

 ……(いや)、一つ訂正しよう。

 この時嘆きの騎士は、本来あるべき姿からは逸脱している。

 

 西暦2010年代の現代日本に生きた、名もなき男の記憶。

 その所々が転生の影響で欠けていても、その記憶から肉体が未来の普遍的思考論理と、この島の……ブリテンに刻まれた運命を、朧気ながらに認識し、追体験した。

 

 

 それ故に肉体の一部分が変質し、一つ、とある異能を手にすることとなる。

 

 

 その異能の名は―――未来視の魔眼。

 その中でも純粋な想像力、直感の延長上である「予測」ではなく、自分の行動から時間軸を固定する異能である「測定」の力を持つ、黄金色の魔眼である。

 

 ある意味でそれは、あらゆる物を視る『千里眼』の亜種とも言える能力だろう。

 最高位のソレには及ばないものの、望んだ未来へという答えを導びく為の式を逆算出来る電卓のようなものだ。

 

 だが『現在』を見通すモノは、自身にとっての最重要事項に取り組んでいる為に、極めて限定的とはいえ『未来』を視る異能の誕生には気付かなかった。

 

 

 ……今は、まだ。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 ―――目が覚めたら中世ファンタジー世界だった件について。

 などと現実逃避気味に考えてみたは良いが、特に何かが変わるわけでもない。

 むしろこんな安直なタイトルしか浮かんでこないという事実に、若干ではあるが悲しくなってくる。

 

『最近になって、漸く記憶が定着した気がするけども……なーんも思い出せない。もうほんとびっくりするほど思い出せない』

 

 

 前世で現代日本に住んでいたことと、申し訳程度のサブカル知識だけならば覚えている。

 でも名前や家族、友人などの、自分自身に迫るような類の知識がすっぽりと抜け落ちていたので、年々自分が前世への執着を失いつつあるのもまた事実。

 

 最近はもういっその事、このままの方がしがらみ無く生きやすいのではないか?という悟りさえ得そうになってきた。

 だって自分は……『私』は私のままなのだから。否、正確には最初から私だった、というべきなのかもしれない。

 この地に生まれて早十年が経過したが、前世の影響を受けて今の己が変わったのではなく、前世の記憶を少しずつ定着させた果てが、今の私だ。

 

 

 まあ飯がゲロ不味いだの、何故か一人称が『私』に固定された挙句話し方も丁寧語になっただの、生まれたのがブリテンという妙に聞き覚えしかない場所だのと、色々と言いたいことはあったが、それもぐっと堪えて過ごしてきた。

 

 自身に与えられた名前を思い出し、その置かれた境遇に気付くまでは。

 

 

『トリスタン……。どう考えても厄ネタホイホイです本当にありがとうございました』

 

 

 哀しみの子、トリスタン。

 ティンタジェルのマルク王を養父とする、近い未来で円卓の騎士に名を連ねる者。 何の因果か自分は、「王は人の心が分からない」で円卓崩壊の切っ掛けを生んだことでお馴染みの、嘆きの騎士として生まれてしまったらしい。

 

 自分は【アーサー王伝説】も、トリスタンが主役となる物語の【トリスタンとイゾルデ】も、にわかと言えるかすら怪しい程度の知識しかない。 強いて言えばトリスタンは、媒体次第ではランスロットさえも凌駕する、まごうこと無き円卓最強候補ということくらいだ。

 

 

 弓使いとして円卓随一の技量を誇り、されどその真価は腰に掛けられた慈悲の剣を抜いた時―――原典において嘆きの騎士は、日中の太陽の騎士を正面から下したという。

 

 自分なんかでは、こうは成れないと思った。

 でも、ならなくては――いいや、それ以上を目指さなくてはならない。

 

 

 その理由がコレだ。

 

 

「―――写せ」

 

 

 本来ならば掛け声など必要ないが、より鮮明に視るためだ。

 合図とともに左目には、右目に映した『望む結果』を実現する術……どうすればそこに至れるかという過程が、段階的に表れていく。

 いま自分は『冷えた水が飲みたい』と思い描いたが、左目は『次に通りかかる人物に頼めば、ついでに注いで来てくれる』という答えを提示してくる。

 このくそったれた力……通称『未來視の魔眼』が、()を変えた。

 

 

 ……最初にこの力を認識したときは、それはもうウハウハだった。

 改めて思い返すと、目も当てられないほどには酷かっただろう。なんせ転生という経験をしたという認識の上で、本当にチートを発現するは思うまい。

 まさかリアルで『くっ、この右目が疼いている……』なんてセリフを吐く日が来るとは思わなかった。

 

 

 そうしてある日、何気なく『ブリテンの存続』という未来を考えてみた。

 この世界とは関係ないだろうが、とある騎士王が女体化している作品では、地獄みたいな雰囲気の円卓時代を経て、ブリテンは滅んだ。

 仮にもトリスタンの立場を持つ自分ならば、あり得ざるif(もしも)は存在するのかと、軽い気持ちで()は、深淵を覗いた。

 

 

 覗いて―――絶望した。

 

 

 本来ならば、思い描いた目的を果たすための最短ルートが、左目へと移される。

 しかしこの時移されたのは、無数の自分。あり得るかもしれない、那由他の可能性。

 

 

 その全てで、ブリテンは滅んでいた。

 

 

『―――は』 

 

 

 あらゆる手段を試していた。

 騎士王に諫言を吐かず、最後まで残り続けた。

 ヒールとなり、円卓全ての罪を担った可能性などもあった。

 

 

 

 でも、行く末は変わらなかった。

 

 

 

 失敗。失敗。また失敗。

 例え自分がどうしようと、湯水の如く湧き出る災厄が、この土地を滅ぼしていく。

 

 

『―――は、はは』

 

 

 変えられぬ運命。逃れられぬ破滅。

 アーサー王伝説の幕切れは、世界にとっては既定路線なのだろう。世界の神秘が集う神代最期の土地なぞ、確かに発展しないのは正論でもある。理屈だけは一丁前だ。

 その真実を知り、ただ嘆いた。……そんなの、世界に殺される為に生きているようなものじゃないかと。

 

 

 人々が何をしようと、あと数十年でブリテンは滅ぶ。

 初めからバッドエンドの確定している世界なんて、ハードモードどころか史上稀に見るクソゲー、駄作以下の地獄だ。

 

 

 

 

 折れた。絶望した。そして嘆いた。

 

 

 失意に支配され、自身の役割さえも放棄して、いっそこの瞳を潰した末に、運命からも、責務からも、その何もかもから逃げてしまおうかと考えて―――立ち止まった。

 

 

『――馬鹿か』

 

 

 何で全て分かったような気になって、勝手に折れている。

 まだ視ただけだろう、やってもないのに決めつけるなと、愚かな魂に喝を入れる。

――諦めるのは早い。どうしてもというのなら、せめて全てやり切ってから言えと、自分に言い聞かせた。

 

 

 それは、陳腐な対抗心だったのかもしれない。

 或いは、醜い生存本能だったのかもしれない。

 

 

 死にたくは無いが、別に泥水啜ってでも生きたいとは思えない。 でもこのまま勝手に折れて、挫折するのは癪だ。

 

 

 もうこの際、理由なんて何でもいい。

 一つだけ言えるのは、確かにあの時、本当の意味でのトリスタンは生まれたのだということ。それだけだ。

 

 一つの結論へといたった。

 この絶望しか感じられない世界で、運命に抗う一つの手段。

 

 

『―――英雄に、成らなくては』

 

 

 そう念じて、己へ強烈な暗示(呪い)を掛ける。

 

 

 定められし運命の中で足掻く、最高にして最強に。

 これは哀しみの子にして、未来で騎士王が最も信を置いた騎士にして奏者。

 

 

 正史から大いに逸脱した嘆きの騎士の、運命への抗いを綴る物語である。

 

 

 






未来視の魔眼:A−

『空の境界 未来福音』の瓶倉光溜の持つものと同質の魔眼。

その能力は有り体に言うと、「望む未来を引き寄せる能力」、あるいは「起きる未来を限定する能力」。
自分の思い描いた望む未来を右目に映せば、どうすればそこに至れるかという過程を左目が段階的に映していく、言うなれば「未来を作る」能力である。

ただし、この能力には「未来は自分の視界に映るもの」……則ち、自身を主観としたものでなくてはならないという制限がある。黙っていれば何もせずやってくる未来なのではなく、当事者としてそれを「構築」しなければならない。

ただ、不確定を予測するだけの未来視では、「確定された未来」は既にカタチあるものに成り下がってしまうため、ブリテン島の末路のように、個人の力の範疇では覆せない運命といったものには無力である。



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