己の脚で、大地を踏みしめて歩き続ける。
持てるだけの携帯食や、主武装たる妖弦フェイルノートと無縫の聖剣を携えて、トリスタンは遍歴の旅を満喫していた。
道中ではやはり、様々なことがあった。
時に魔獣、幻想種の類に襲われて戦ったり、その魔獣をなんか良い感じに調理して食したり、時に村を襲う匪賊の類を退治した後、歓待を受けず名乗ることなく去ったりという、旅の中での命のやり取りもあれば、立ち寄った農村で泊めて貰う代わりに、自身の記憶に残っている曲を妖弦の力で再現して演奏したりということもあった。
手持ちの食料が心許ない時は、村人達の好意に甘えてお布施を貰うこともあったので、偶に旅をしている吟遊詩人と間違われたのはご愛嬌という奴だ。
尤も、自分も鎧を纏った騎士の装いをしているというのに、出会った正義感の強そうな騎士に一切の悪意なく詩人と思われたのは流石に遺憾ではあったが。
この日はもう日も落ちて来たので、見つけた泉の畔で焚火を起こし、今夜のキャンプ地としていた。
荷物を置く前に周辺を探索して、半径二百メートル圏内にいた危険な魔物は殲滅した。なので安心して食事を取れる。
「んー、これは中々……いやでももう少し何か欲しい気も……」
ゲイザーの足を頬張りながら、一人感想を零す。
先程草むらから出てきたかと思えば襲ってきたのを切り刻んで返り討ちにしたので、これ幸いとばかりに焚火に突っ込んで、タコっぽい見た目の足を食べていたのだ。
食感は言わずもがな、味は僅かに苦みの増した牡蠣のような味。 要はかなり微妙。醤油が欲しい。
『(……いや違う、そうじゃない。態々ここに来た目的を忘れる所だった)』
別に自分はゲテモノ料理を食べにここに来たわけじゃない。 いやまあ食事の問題は自身にとって割と重要なものではあるが、少なくとも今ではない。
木の切り株へと腰を降ろして、思考を本来あるべき所へと戻し、目的を再確認する。
……昨日滞在した村で食事の礼に、豊作祈願として何曲か演奏をしていた時に、村人の話を耳にした。
なんでも村の近くに住み着いた巨人の所為で、安心して農作業が出来ないのだとか。
そんなことを聞いてしまえば、遍歴中とはいえ騎士見習いの自身の立場としては、当然その巨人を狩りに行かねばならぬ。
今思えば彼らが自身に話をしたのも、きっとそれを願っての事だったのだろう。
故に今日自分はその巨人が出るという森へ押入り、見つけた巨人を遠巻きに観察し、確実に仕留めるための情報集めを行っていたのだ。
その巨人は単眼で、全長は大凡10メートル前後。
全身に氷を帯びており、どことなく北欧の巨人味を感じさせる。……いや、もしかすると本当に海を渡ってきたのかもしれないが。
とにかく、後は奇襲の為に
問題はどうやってその位置を割り出すのかだが……
『(張り込み調査……は効率悪いな。終わりが見えん。かといって虱潰しに痕跡を辿るのも面倒だしなぁ)』
暇を持て余した手でフェイルノートの弦を鳴らしながら、どうするべきかを考える。
幾分かの時が過ぎる中、何処からともなく名も知らぬ小鳥が三匹、鳴きながら飛んできた。
そして自分の座っているのとは反対の切り株に、ちょこんという擬音が聞こえてきそうな感じで降り立ち、なんとも綺麗に並んでいた。
「これは……珍しい客が来ましたね。 さしずめ、フェイルノートの音色に惹き寄せられたのでしょうか」
この弦の元は妖精の糸であり、神秘の生みし産物。
ならば自然の生き物が惹き寄せられるのは道理であり、そうおかしな物でも無いのかもしれない。
欲を言えばお布施の一つでも欲しかったが、流石に鳥にそんなことを望むわけにはいかない。
そう思った時───天啓が下った。
未だ分からぬ巨人の通り道。
……それを小鳥に教えて貰えば良いのでは? と。
『(───これだ)』
行ける。これならば間違いない。
この鳥がこの森を住処とするならば、可能だろう。
そもそも小鳥とコミュが取れるのかという最大の壁があるが、ソレは無視して早合点。
演奏も丁度終わり、今も切り株の上に並んでいる三匹の小鳥に対して、トリスタンは地面に膝を突いて目線を合わせた。
「そこの鳥さんたち、
「コケー? 」
「コッコー」
「ケコッコッココッコ」
『(あ、無理だわこれ)』
駄目だ、全然分からん。
てかよく見たら小鳥の割にはデカいし……いや鶏じゃねーか何で居るんだよふざけんなよマジで。
頭を抱える。
何故ブリテンにこんなのがいるのかは大いに疑問であるが、家畜の鶏ではなく幻想種の類だと思い込むことにした。でないと色々とおかしくなる。
「鳥は鳥でも鶏でしたか……」
「ケッコー? 」
正直開幕から折れそうになったが、ここで引いたら負けな気がしたので意地でも引かぬ。
言語による意思疎通が敵わないというならば、この鶏モドキの動きと鳴き声の音階からのフィーリングで感じ取れば良いのだ。
完全に馬鹿の結論であったが、トリスタンは諦めない。
「ああもう、本当に……! ──やってやりますよ、何とでもなる筈です!」
「コッコー」
「ケコー」
「コッコッコッコ」
『(クソがっ!!)』
そうして、
──いやまあそんな訳は無いのだが。
◆
「……良いですか? この辺りに住み着いている巨人の通り道に案内してくださいね?」
「コケッコー」
パタパタと低空飛行する鶏モドキの後を付いていきながら、この三時間にも及ぶ苦難の記憶を思い起こす。
───辛かった。今まででも一二を争う程。
やかましい鳴き声を響かせる三匹の鶏の音階を聞き分けて個体を分別し、そこから何度も聞き直すことで伝えたい大まかな意図を考察するという実質的な鶏語レッスン。
鳴き声を完璧に聞き分けられるようになった辺りで、正直何をしているのかと思い、猛烈な虚しさを感じた。
所謂、無駄に洗練された無駄のない
……自分が何をしに此処へ来たのか、いよいよ分からなくなってきた気がする。
「コッコー! 」
「……成る程、此処ですか」
腰を下ろして地面を見下ろしてみると、夜もふけてきた影響で暗かったとはいえ、広範囲に草が踏み潰された足跡が広がっていた。
足跡の行く先からうっすらと光が反射してきたので目を凝らすと、自分が拠点にしているところとは別の水場があったので、この道は巨人が水飲み場へと向かう道なのだろう。
踏まれた草が完全に折れて起き上がっておらず、他にも狭い範囲に何度も踏まれた後があるので、例の巨人の通り道と見て間違いない。
「さて、この周囲に糸を張り巡らせて───駄目ですよ鶏達、ソレに触れてはいけません」
「コケェーッコッコッコ」
『(うわちゃんと退けてくれた…………なんか逆に気色悪いなこいつら。 ……アレか? 型月風に言うならTSUBAMEの仲間のNIWATORIなのか?)』
そんな考えをしていたのを読まれたのか、鶏達に突付かれる。割と痛い。
一先ず焚火を起こしている寝床へと戻り、木の切り株を枕として、夜を明かすことにした。
「───コケコッコ──ッッ!! 」
「ぐふぉっ!? ……ああ、朝ですか。というかまだ居たのですね」
「コッコケェッ!」
早朝。
陽光が差す泉の畔で寝ていたトリスタンは、朝一番に鳴き声を上げた鶏が腹に飛び乗ってきたことで目を覚ました。
相変わらず何と言っているのかは分からないが、どうやら巨人を狩るまでは行動を共にすることとなるらしい。
「今日からはあの場所で潜伏ですが……どのようにして潜みましょうか」
これから先は忍耐との戦い。
糸を張った場所の近くで潜み、目標の巨人が
いつ終わるか分からないから先が見えないという問題もあるが、何より先に潜んでいることを察知された場合、この数日間の苦労が全て無駄となる。
故に確実性をとり、トリスタンは未来視の魔眼を通じて、隠れ潜むのに最適な位置と姿を割り出すことにした───のだが。
「は?」
フィードバックされた情報に面食らう。
え……、コレで隠れるの? 大丈夫? とも思ったが、魔眼で視れなかった事はあれど見間違えることは無かったので、仕方なく実行することに。
魔眼の使用の影響で左目が熱くなり、気を紛らわそうと何度か強く瞬きをしてみる。
「……また暫くコレは使えませんね。やむなしです」
そもそも、常時未来視の魔眼が使えていたら疑似的なTAS、直感スキルの上位互換のようなことが出来るのだが、それは不可能だ。
トリスタンの魔眼は不完全である。
肉体と脳が魔眼の稼働に追い付いていない為、一度魔眼を起動させると左目から燃えているかのような黄金の光が漏れて、熱を帯びるのだ。
こうなると暫くは魔眼を稼働させることが出来ないクールタイムのようなものになるだけでなく、魔眼自体が現時点では割と大雑把な物しか見据える先の起点に出来ない。
魔術の師が居なかった弊害という奴か。
「……折角なので、貴方たちの呼び方を決めますか」
「コッケー? 」
「ココー」
「ケコッコー」
「そうです、呼び名ですよ。つけないと間違えるので。──まあここは無難に、チキン三兄弟の一郎、次郎、三郎ということで……ちょ、突付くのを止めなさい、痛い痛い。 そんなに駄目でしたか、コレ」
ここまで猛反対を食らうとは思わなかった。
十秒かけて考えた渾身の名前が却下されたので、この鶏たちの呼び名は追々考えるとしよう。
今はそれ以上にやることがある。
「まあ取り敢えず、用意をしま「コッコー」……静かにしてください」
トリスタンはフェイルノートを鳴らし、近くの木を切り倒した。
何に使うのかは、本人しか与り知らぬことである。
◆◇◆
トリスタンが作業を始めた二日後。
その森の中へと押し入る三つの人影が存在した。
未来の騎士王にして、今は遍歴の旅を行う騎士、アーサーことアルトリア・ペンドラゴン。
そして彼女と行動を共にする、魔術師マーリンと将来円卓の一員となるアルトリアの義兄にして騎士エクターの子ケイ。
マーリン主導の元、三人はこの地を訪れていた。
「この道で本当に合ってるのですか、マーリン?」
「勿論だとも、アーサー。このまま行けば、五日前に巨人退治に向かったという騎士にも合流できるはずさ」
訪れて聞いた、村を脅かす巨人の存在。
数日前に此処を訪れてその巨人を討伐しに向かったという、竪琴を背に携えている騎士が、五日経っても音沙汰無しで、少しばかり不安をおぼえているらしい。
出来すぎている、とケイは感じた。
今はまだ発展途上なれど、その頭脳は本物だ。
「五日経っても音沙汰無しか……まさかくたばったか? その辺りはどうなんだ、マーリン」
「心配しなくてもいい。その騎士は生きているよ。……少し僕の事を疑いすぎではないかな? ケイ」
「当たり前だ。何の脈路もなく此処に行くのを提案したのはお前。そしてこの状況、キナ臭さを感じるのは自然だろうが」
「はは、確かにそれは事実だ。何も言い返せないね」
そう言って笑うような仕草をするマーリンを尻目に、一行は巨人のものと思わしき足跡を発見する。
道中に何かないか気を配りながらも、アルトリアを先頭にしてどんどんと森の奥へ押し入っていく。
「足跡は続いていますが、人の痕跡はありませんね……」
「ああ。つまり俺たちは、それだけ奥に来ちまったって訳だ」
その時だった。
どこからともなく、男の物らしき声が聞こえてくる。
『───止まりなさい、そこの人達』
「……っ!? 何者だ!」
謎の声によって、アルトリアとケイの警戒心は極限にまで引きあがり、互いを背にするようにして戦闘態勢に入った。
妙にマーリンだけが飄々としているが、二人はソレに気付かない。
『……名乗るほどではありません。この地に潜む巨人討伐の役割を背負った、騎士見習いというやつです』
「何……? ならば貴方が、村の人々が言っていた竪琴を背負った騎士……?」
『如何にも。……ああ、それ以上進まないで下さい、金髪の方。足元に巨人用の罠を仕掛けているので』
「足元……」
言われるがままに足元の少し先を見てみると、そこには何十にも張り巡らされた、白の糸があり、それを認識すると同時に、いま声の主が自分たちを制止した理由を理解した。
確かにこのまま気付かずに進んでいれば、危なかっただろう。
「成る程、事情は理解しました。私達は貴公の捜索と、貴公と同じ巨人を追う任を受けてこの場を訪れた次第。不必要かもしれないが、どうか貴公の巨人討伐に参加させてはくれませんか?」
『……そういえば、もう五日も経っていたのですか。これは私の落ち度、ぜひ貴公らのご助力を頂きたい』
「感謝します。……それで、貴公は何処に?」
『ああ、潜んだままでしたね』
そう声が聞こえた瞬間、すぐ近くの茂みからガサガサと音が聞こえてきた。
アルトリアとケイがぎょっとしながら身構えたと同時に、茂みから何かが飛び出てきて───
―――木を、認識した。
正確に言おう。
茂みから、木になりきった男が出てきた。
「───やはりここは名乗るべきでしょう。私の名はトリスタン。今は遍歴の身でありますが、どうかよろしくお願いします」
「「「コケーッ! 」」」
「「(絶句)」」
両腕に木の枝を持ち、現代の演劇で言う所の「木の役」の姿をした男と、その後ろから現れた三羽の鳥の姿を視認した辺りで、二人は脳の処理が追い付かなくなった。
アルトリアは混乱の余り言葉が浮かばず、口をぱくぱくと動かした。
ケイはもはや理解することを放棄し、天を仰いだ。
マーリンは後ろの方で爆笑していた。
木の姿をしたトリスタン、略して
……ごめんなさい。
トリスタン
思ったよりもウケが悪かった。やはりこの目不良品では?
型月関連の知識は、SNのFate√とUBWのみ。FGOは存在自体知らない。
アルトリア
なにこの人……(ガチ困惑)。
SANチェック被害者その一。
選定の剣を抜いたとはいえ、まだ完璧な騎士王には程遠い。
故に各地を遍歴する中、マーリンの手引きによって運命と出会った。なお出会い。
ケイ
SANチェック被害者その二。
少し冷静になって、口調と姿の差凄いな……って思った。
マーリン
最初からトリスタンの存在に気付いていたが、面白そうなので黙っておいた。
やっぱ人間って最高だわ。
NIWATORI
見た目はルルハワの鶏の鶏たちと同じ。
あの後アルトリア達が来る前に、一郎、次郎、三郎改め、ジョン、タロウ、ピエールと名付けられた。
名付け親はNIWATORIによるジェットストリームアタックを食らった。
動物会話(偽):D
本来は、言葉を持たない動物との意思疎通が可能なことを示すスキル。動物側の頭が良くなる訳ではないので、あまり複雑なニュアンスは伝わらない。
トリスタンの場合、持ち前の音感と汗と涙と根性で、意思疎通ができるまでに迫ったが、正直ニュアンスは分かるが、具体的に何を言っているかは全く分かっていない。