民の理想の王を目指し、各地を遍歴する最中。
今までも
肉体年齢が止まった今、王として即位した時に、各地の諸王を黙らせるほどの大きな、そして多くの武勲が必要だ。
でないと、ブリテンの平定は疎か、先王ウーサーの子としての立場を使って、一王として即位することさえ叶わないだろう。
少女の掲げる理想の到達点である、『全ての民が満ち足りた、争いの無い理想郷』を本気で実現するのなら、こんな所で止まってはいられない。止まることなんて許されない。
ある日、花の魔術師は言った。
……己を高めることも大切だけど、君に付き従う騎士を集める必要があることを忘れてないかい? と。
そういえば昔彼から帝王学を教わった際、そのような事を言われた気がしなくもない。
そう言うとマーリンはにこやかに微笑み、突然次の行き先を定めた。場所は態々語るほどでもない、辺境の村の一つ。
何かしらの意図があるのは分かるが、具体的にソレが何なのかまでは思い浮かばなかった。
曰く、今最も必要な物であると。
故にそれを是とし、夢魔に言われるがままにその地へと少女は赴いて───運命と出会う。
───初めの出会いは、最悪だった。
風の噂に聞く、竪琴の騎士。
曰く、遍歴の身であると名乗りながら、その実力は数多の騎士を凌駕し、強大な力に驕ることもない。
背中に携える竪琴の奏でる音を聴いた者は、たちまち傷が癒えて、いつも以上に力が漲るという。
弱者には常に優しく、強者には常に勇ましくという姿勢を地で行く姿は、正に理想の騎士として讃えられるべき物。
───そんな人物がまさかあんな、何と言うか……強い個性の持ち主だとは思わなかった。
大体、何が『……森の中で潜むには、自然と一体化する必要があります。 つまり木になるのです』だ。
粉末化した木片を頭から被って、身体に付いた匂いまでも消すという徹底ぶりには、一周回って尊敬の念さえ覚える。 狩人の方が向いているのでは?
……いや、やはり意味が分からない。
自分の感覚がおかしいのかと思い、一応
まあ返答は予想通りと言うべきか、やはり要領を得ないものであったが。
故に彼女は憂慮する。
決してその実力を疑っている訳では無かったが、どうしても初対面で、木の格好をした男を全面的に信頼することは出来なかった。
至極当然であり、妥当である。
アレを見て初対面で馴染める者など、同じ穴の狢か普通の感性を持たぬ人でなしくらいのものだろう。
直後、目標の巨人がやって来て。其処で見たのは唯一人。
まるで、嘗て聞いた物語に語られるような。
一人の騎士の、姿だった。
会合の後、トリスタンが皆を茂みに引き込んで。
一刻も経たぬ間に、その時は訪れた。
「───静かに。来ましたよ、御三方」
先程までの面影は既になく。
まるで抜き身の刃のような、冷徹な眼光を放つ黄金の瞳と、今までより数トーン落ち込んだ声で話すトリスタンの変化に、彼女らは息を呑む。
が、アルトリア達もこれまでに幾度の修羅場を乗り越えてきた、同年代最強格の騎士。
即座に余計な考えを削ぎ落とし、思考を研ぎ澄ませる。
どう考えても脳内でノイズになるであろう、鶏達に突付かれながらも木の姿を続けている男を視界から外しながら。
「私が背後に周り、周囲の仕掛けへ誘導します。 そこを狙って貴公等が、攻勢に入って下さい」
「承知した。健闘を祈る」
小さく頷き、トリスタンは駆け出す。
僅かに魔力放出を行うことで加速しながら、風も音も置き去りにして存在を気取らせることもなく、瞬く間に巨人の背後へと陣取った。
近くで見た単眼の巨人は、おおよそ10m弱という、この森の木と同程度の背丈を誇り、今も周囲に地響きを響かせながら雄大に歩いている。
足跡や周りの木には巨人の冷気によって霜が付き、氷掛けていた。
成る程、確かに強い。
だが───少々、警戒心は薄いようだ。
「では───行きましょうか」
静寂なる森の中、妖弦が奏でられる。
その弓から放たれる矢は、不可視にして必中。
時に地面や木に当てて跳弾させる事により、前後左右あらゆる方向から空気の刃が放たれて、氷の巨人は訳も分からず、突然尻尾を踏まれた猫のような、苦悶の声を上げた。
振り払うように身体を捻らせ、刃を向けた者を探して辺りを見回すも、人影は存在しない。
なのにまた、弦をつま弾く音が聞こえた瞬間、全身を不可視の刃が少しずつ、確実に傷つけて行く。
「■■■───」
「逃げましたか。ですが───!」
邪魔な木の装いを脱ぎ捨てて、トリスタンは木の上を跳んで逃げた巨人を追跡した。
謎の刃から逃れようと、巨人は走る。
ただ只管前へ、我武者羅に走った。そして。
足に何かが引っ掛かった瞬間、止まった。
違う、動けなかったのだ。
「■、■■■■───!!」
「藻掻いても無駄ですよ。動けば動くほど、その糸は全身を縛ります」
足に絡まった糸を千切ろうと巨人が藻掻くと同時に、一つ、また一つと、まるで蜘蛛の巣に捕まった獲物のように、次々と身体に別の糸が絡み付いて行き、拘束が増していく。
それは妖弦と同じ、翅の氏族の妖精の編んだ糸。
担い手の魔力を通せば無限に伸び、どんな膂力をもつ者でも決して糸を千切ることは出来ない。
普通の人間が触れれば容易く肉を裂かれる鋭さも兼ね備えているが、強靭な皮膚を持つ巨人には通じなかった。
「……今です、御三方!」
「───やあぁぁぁッッ!!」
出した合図と共に、アルトリア達が飛び出した。
それに続くように、ケイは剣を振るい、マーリンは魔力砲を放つことで巨人の力を削いで行く。
──騎士は、彼女の予想よりも遥かに強かった。
ただの竪琴かと思えば、その真髄は音と共に放たれる不可視にして必中である、無限の矢。
そしてソレを完全に使い熟す、圧倒的絶技。
間違いなく、この十数年見た中で最高の射手。
否、きっと自分はマーリンからの話でしか聞いたことのない、過去の傑物でさえ凌駕しうる。
その装いだけを見て、一欠片でも実力を疑った自分を恥じ入るばかりであった。
集中砲火を受けて満身創痍の巨人は、唸る。
何かの前触れのように唸り───最大の雄叫びを上げて、狂ったように暴れ出した。
当然、糸が切れることは無かったが……、糸を巻き付けていた周囲の木から、ミシリ、と不吉な音が聞こえてくる。
巨人に巻き付いた糸ではなく、糸を巻き付けていた木が先に悲鳴を上げたのだ。
七本の木では重しとして足りなかったかと、内心でトリスタンは舌打ちする。
先に木の方へ限界が来るのは想定内だったが、割とあっさりやられたのは反省ものだ。
火事場の馬鹿力で周囲の木々を薙ぎ倒し、巨人は唸り声を上げながら仁王立ち。
悠然と立ちながらトリスタン達を見据え、拳を振り下ろして来たが、マーリンによる魔力障壁と、アルトリアの魔力放出の込められた一撃で、その一撃はいとも容易く相殺される。
一瞬の隙を、トリスタンは見逃さなかった。
おおよそ二秒にも満たぬ間の刹那、フェイルノートを爪弾き、巨人の右足の腱に七の刃を放った。
皮膚を裂かれ、肉を抉られ、巨人は健を切られた激痛と共に、膝をつく。
「奮戦、お見事です。トドメは貴公が」
「はい。では、どうかご助力をッ!」
「──お任せを」
アルトリアはカリバーンに魔力を充填させ、その刀身からは眩い光が漏れる。
放たれるは希望を示す、極光の一撃。
並の宝具の真名開放を遥かに上回るが、これでも最大出力では無い故に後の星の聖剣の火力には及ばないが、それでも巨人程度を悶絶させるには、十分過ぎる火力であった。
突き出された選定の剣より放たれる光は、巨人の下腹部辺りを穿ち、広範囲に拡散する。それにより、身体中の皮膚は焼けて凄まじい痛みにのた打ち回る。
そこにトリスタンが駆け出し───この戦闘において初めて、腰に差した剣を抜いた。
「───痛みは不要。苦痛無く、眠りなさい」
聖剣カーテナは慈悲の剣。
氷の巨人としての面影が無くなる程に光に焼かれ、痛みに苦しむ巨人の首へと、トリスタンは横合いから真一文字に剣を振るった。
──太い首は一瞬で刎ねられ、巨人は首を切られたと認識する事も、斬首の痛みを感じることも無く、絶命した。
首元から噴き上がる鮮血を躱して着地したトリスタンは、剣を振るって血を払い、手元へと視線を落とす。
そしてこの今も手に残った肉を断つ感触を忘れぬよう、静かに剣を振るった手を握り締めた。
「……」
───この感覚を。
何物かの命を奪うこの感覚を、忘れてはならない。
初めて斬ったのは今回のような幻想種だった。
その時だけでなく、襲って来た匪賊を斬って、初めて人を殺した時も同様に、これといって感じる物は無かった。
慎む価値もない、邪悪だったからだろうか?
……違う。
たとえ魂が現代日本の物であろうと、この身体の生まれと育ちはブリテンだ。
きっと今の自分は人の命を尊び、死を嘆き悲しむ現代と、人の命が余りにも軽い、この地での価値感が成長と共に混ざりあった事により、独自の価値観が生まれているのだろう。
だから何かを斬ることに、殺すという行為自体に抵抗は無い。出来なければ死ぬのは自分自身なのだから。
でも、だからこそ魂が叫んでいるのだ。
この命を奪う感覚を完全に失った時こそが、己がただの外道へ墜ちた瞬間だと。
この殺伐とした世に、染まりきってしまうのだと。
でも、そんなのは御免被る。
故に忘れてはならない。
たとえソレがこの時代においてどれだけ歪だとしても、命を奪う事実から、目を背けてはならない。逃げてはいけない。
それこそが、『自分』である証なのだと。
そう内心で言い聞かせるトリスタンに、アルトリアが労いの言葉をかける。
「良い剣でした。最初に言ったように、この武勲は貴公のものです」
「……そうですか。ありがとうございます」
労いの言葉に対して笑みを浮かべ、
───そういえば名前、聞いてねぇわ。
巨人討伐を共にしたというのに、名も知らなかったという事実に一人愕然としていると、マーリンとケイ、そして後方に下げていた鶏達がよってくる。
何故かマーリンが異様な程に鶏達から突付かれていたが、まあそれは別に構わない。
「あはは、痛い痛いよ。 ちょっとこの鳥を何とかしてくれないかな、トリスタン」
「ははは……集合です。鶏たちよ」
「「「コッコケェー」」」
「何でそんなに従順なんだ……?」
ケイの疑問は尤もである。
肩に止まる鶏たちの重みを感じながら、トリスタンはマーリンの方へと向きかえった。
柔和な笑みを浮かべるマーリンであるが、その視線は冷淡なもの。
見定めているのだ。
彼が相応しい人材かどうかを。
「そういえば、僕たちはまだ君に名乗って居なかったね。トリスタン」
「はい。最初に「コケェー! 」尋ねなかったこ「ココッコー」とを恥じ入るばかり「ケェーコォ─! 」……喧しいですね、ちょっと静かにしててください」
「あはは……まあ、そんなに堅苦しい返事をしなくてもいいんだ。僕と君の仲じゃないか」
『(いや初対面なんだが?)』
マーリンがトリスタンに対して、同じ何かを見通す目を持っていることから親近感に近い何かを感じていることを、トリスタン自身は知る由もない。
だからまあ、場を和ませる冗談のようなものだと思って聞き流した。
「話をするのは僕の本分だからね。僕はマーリン。次代の王に付き従う、しがない花の魔術師さ」
「……マーリン?」
その名に当てはまる人物は一人しか居ない。
選定の剣を抜いた者が次の王だと予言し、その人物と行動を共にしている筈の人物。
ならば、横に居る彼女はもしや───
そう結論を出すのと、マーリンが話し出すのは、殆ど同時であった。
「おや、その様子だと察していたのかな? ……彼の名はアーサー、アーサー・ペンドラゴン。 選定の剣を抜いた、いずれブリテンの王となる人物だ」
「……oh」
───超大物じゃんどうしよ。
てかじゃあ此処型月世界じゃないですかヤダー。
言われてみれば見覚えしかない、どう見ても少女にしか見えない彼女の姿。それを見て、トリスタンはただ僅かに声を漏らすことしか出来なかった。
内心でほんの少し混乱しながら、色々と考えるトリスタンに対し、アルトリアは仕官の誘いをすることにした。
それ自体はマーリンの入れ知恵ではあるが、彼女から見ても、その実力の一端でしかない弓の絶技だけで、実力は充分だと思った。
性格についてはノーコメントだが、少なくとも精神の在り方は十分に高潔であり、騎士としても相応しい。
───そしてそれ以上に、彼女から見て彼は、信頼に足る人物だと感じた。
巨人を斬って残心したトリスタン。
その、まるで何かの使命に突き動かされているような、凄烈な意思が宿る瞳を目にしたアルトリアは、己の直感で無意識に、どこか自分と通ずるものを感じていた。
「改めて、名乗りましょう。先王ウーサーの子、アーサー。ブリテンの王となる者です。 それから……トリスタン、貴公を私の騎士として取り立てたい。どうだろうか?」
ケイは近くの木に腕を組んでもたれかかり、マーリンは相変わらずニコニコと笑みを浮かべていた。
両者共に、彼女と騎士の応答に口を挟むことなく、その行く末を見守っていた。
「私を……? 我が身は未だ未熟、他に有望な者は居るでしょう。それでもですか?」
「それでもだ」
翠緑と黄金の瞳が、交差する。
彼女は自分を、騎士として招きたいと言った。 想定外はあったものの当初の目的の一つでもあったアーサー王に出会え、近いうちに士官しようと思った矢先に、コレだ。
普通に考えれば、願ったり叶ったりではある。
だがその返答は最初から、決まっている。
「申し訳ないが、今その手を握る訳にはいきません」
「……そう、ですか」
「───あ、誤解なさらぬよう言っておきますが、その理由は私にあります」
「……?」
あ、やっぱり分かってなかった。
しっかり口に出す事って大切だよね、という教訓を思い出しながら、トリスタンは本心からの思いを、吐露した。
「……私は未だ遍歴の身であり、未熟。 そんな私が今貴公の騎士になるのは、私自身が認められない。──故に、後一年」
「一年?」
首を傾げるアルトリアに、首肯する。
今の自分は騎士ではない。今の実力で驕ればいつか、足手まといになる日が来てしまうかもしれない。
だから残りの一年で、己の納得行く限界まで自分を高めた末に、騎士として士官するつもりだったのだ。
それが最善の道だと信じているから。
「一年後、私が私に納得出来るようになった暁に、私から貴方の城へ伺います。……その時に覚えていれば、改めて私を、貴方の騎士として叙任して頂きたい」
「───はい。はい……!」
下を向く彼女の表情は、自分からは見えない。
でもその声色は、まるで……初めて同じ仲間を見つけたような、それでいて激しい安堵に包まれたような、そんな印象を胸中に抱かせた。
そして、彼女は真っ直ぐ自分を見据え。
その表情は、この偶然自分達が出会った短い間の中で、紛れもなく、一番の笑顔だった。
「いつか、貴公とブリテンの為に戦える日を、楽しみにしています」
「──ええ、約束です」
これできっと大丈夫。
憂いは晴れた。もうこの地に用はない。
次に会うのは、お互いが一人前になってからだ。
「……ジョン、タロウ、ピエール。もし付いてくるのなら、早く来なさい」
「コケー! 」
「コッコー」
「ケコッコッコー」
ジョンが左肩に、タロウが右肩に、ピエールが頭の上に飛び乗ってきた。脚が食い込んで頭が痛い。
……きっと此処までの縁かと思っていたが、どうやらこの鶏たちは自分なんかに付いてきてくれるらしい。
彼らとの縁を紡いでくれた天命に、今だけは感謝しよう。
「……では、また何時か。アーサー」
「ええ、また何時か。トリスタン」
次会った時には、ケイとももっと話してみたいな……と、僅かばかりの未練を残し、トリスタンはフェイルノートを構えた。
そして、トリスタンは魔力放出で空高く飛び上がると同時にフェイルノートを奏でて、音の衝撃により加速した。
「I can fly───」
最後の最後まで爪痕を残しながら、後の嘆きの騎士は、騎士王の前から姿を消した。
そしてその様子を見ていたケイは、口にはしなかったが内心で、静かに思った。
───鳥の名前、酷えな。
人知れず、皆の代弁者となったケイであった。
キャラのエミュ難しい……難しくない?
トリスタン
型月世界じゃないですかヤダー。
彼女の誘いは有り難かったが、まだ成長途中の自分では不味いと思い、先延ばしに。
代わりに荷物を持ってくれるNIWATORI×3が仲間になった。やったね。
アルトリア
あと一年が待ち遠しい。
トリスタンが何か自分とは違うベクトルの物を背負っていることを察し(直感A)、少しだけ親近感を覚えた。
自分の意思で配下に誘った最初の相手。ソレに向ける感情は純粋なる親愛か、それとも別の何かか。
この後、本格的にブリテンの平定に乗り出したアーサー王は、加速度的にその勢力を広げていく。
マーリン
トリスタンがナチュラルにヤバい物を連れている事実に、少しだけ戦々恐々。何なんだお前。
まあ多分良い方に働いてるかなぁ、とトリスタン関連の事には、割と楽観的に考えている。
NIWATORI
神代最後の土地に普通の鶏が居るわけもなく、当然バリバリの幻想種。偶に身体が燃えてたりもする。
肝心の主は、ちょっと変わった鶏としか思っていないが。