異聞、嘆きの騎士   作:R1zA

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テストが終わったので投稿再開です


Ⅴ|湖の乙女

 

 

 『痛哭の幻奏(フェイルノート)』の音色と共に、空を駆ける。

 左手で妖弦を構え、腰に『不毀の無縫』、肩と頭にはアレ以降連れている三匹の鶏モドキ。

 あれから一ヶ月、トリスタンは再びブリテン各地を転々としていたが、いつもの様に出会った魔獣を狩ったり、身ぐるみ剥がそうと襲って来た匪賊を返り討ちにした後、纏めて巡回中の騎士に突き出したりと、割と今まで通りの行動を続けていた。

 

 

 というよりも、他に目立ってやることが無かった。

 

 

 第一、目指せる強さの最大値を目指すとして、ソレを実践するのに丁度いい相手が居ない。 お互いに高め合えるような相手が居ない。

 それに、いくらブリテンが数多の聖剣魔剣に幻想種の犇めく地であるとしても、近場の地域に数日単位で連続して伝説級の化け物が現れる筈もない。

 というか本当にそのペースで現れるならブリテンはとうの昔に滅んでいる。

 

 

 空を飛んでいるといっても、常に魔力放出で加速でもしない限りは、自家用車程度の速度が限界だ。

 なので日が昇って落ちるまでに、島の横断をするほどの長距離移動は出来る筈もなく、こうして地道に魔獣を狩り続ける程度しかやることが無い。

 要は、ある種のスランプに陥っていた。

 

 

『……暇すぎる』

 

 

 (いや)、別に平和なのが悪い訳ではない。

 ただこの平和のベクトルがまるで歴史の中の空白期間のような、完全に嵐の前の静けさ的なアレなことが不安要素だが、本来なら魔獣も匪賊も出ないに越した事はない。

 ……そうして職を追われた者が次なる蛮族匪賊となるのは、現代から見た人類約3000年の歴史が証明しているのは言うまでもないが。

 

 無論、時代が時代なので人々が毎日安定した食生活が送れるかもその年の気候や収穫頼り。

 ……どのみち無造作に潰して食べるだけなら大差無いけどな、と内心で私情しかない愚痴のような注釈を付け加えると、ふと前方に小規模の村を見つけた。

 

 見た所人気は薄いが、一度休息を取るべきか。

 

 

「はあ……。一度、あの村に立ち寄りますか」

ココッコー

 

 

 森に籠って寝食を取る生活も悪くはないが、やはり偶には人の気配が恋しくなる。 あと、ここまで数時間飛び続けていたのだ。一息つきたい。

 そんな考えに同調してくれたのかは分からないが、普段気に入らないことがあれば容赦なく突いてくる鶏達も、今はやけに大人しい。……というか大人しすぎる。

 羽をバサバサとたなびかせる事もなければ、唐突に耳元で鳴きだしたりもしない。先程からしきりに頭を動かして、辺りを何度も見回している。

 

 

「……何か見つけましたか?」

コッコー!

コーッ!ココケー!

 

 

 五月蝿い、耳が痛い。

 村の近くの草原に降り立って歩き出すと、今まで肩に乗っていた鳥たちも離れて、周りをパタパタと飛び回っていた。

 まるで何かと出会う前触れのようだと、トリスタンは耳を塞ぎながら思った。

 

 鼻腔を擽る花の香りに、辺りを舞う花びら。

 ソレに気付いたと同時に、突然鳥たちが重く乾いた羽音を響かせて道端に広がる森に入っていったかと思えば、何故かそこにいるマーリンへと襲い掛かっていた。

 

 

「「「マ゛ーっ!マ゛ァァーッ!」」」

「いたた、だから髪を引っ張らないでくれないかなぁ。 忘れそうになるけど君たちだって一応不死鳥だろう!? 逆に何で彼には懐いているんだい!?」

「……マーリン? 何故貴方がここに?」

 

 

 やはり異常なまでに嫌われている。

 これは単に鳥たちとマーリンの相性が悪いのか、それとも彼の人ならざるもの、夢魔という在り方自体が問題なのか。

 居るはずのない人物を見て惚けるトリスタンの姿を見て、マーリンはあはは、と乾いた笑みを零した。

 

 

「いやあ、僕としたことが随分うっかりしていたよ。 すっかりもう一つの予定を忘れていた」

「ソレは構わないのですが、他の二人はどうしたのです。 勝手に動き回るのはどうかと思いますが」

「ああ、気にしなくていいよ。二人には言伝をしているし、今回は君の方から来てもらったからね」

「……?」

 

 

 勿論そんな覚えは無い。

 無いのだが……無意識にこちらの方角へ誘導されたとして、風の噂程度に聞いた魔術師マーリンの得意技を踏まえれば、納得はいった。

 要は自分は、まんまとこの男の魔術に引っ掛かっていたという訳で。

 

 

「成る程、幻術ですか」

「正解だ。じゃあ―――本題に入ろうか」

 

 

 声から、仮初めの感情という色が抜ける。

 その目に、トリスタンは覚えがあった。 まるで視界に映るもの全てを只の風景として見ているかのような、完全なる上位者、俯瞰者としての視線。

 先程までの笑っているように()()()表情もなく、無とも形容出来るのは、まさに人外としての形相。

 

 今の状態こそが、彼の通常運転とも言える。

 

 

「『瞳』の調子はどうかな?」

「何故……とは今更言いませんが、それを聞いてどうするのです」

「別に取って食おうとしている訳じゃない。 ほら、僕たち半分同類みたいなものだろう? 扱いに拱いているようだから、少しだけ手助けをと思ってね」

「――要件は理解しました。ですが同類扱いは心外ですね。喧嘩売ってますか?」

「まさか。――まあ、僕も手短に済ませたいから早速……失礼するよ」

 

 

 マーリンの手が翳され、視界が覆われる。

 それと同時に、瞳の奥から脳心にたぐり込まれるような痛みを感じて、トリスタンは思わず苦悶の声を漏らした。 

 まるで眼球を直接触られているかのような不快感があり、手の平に覆われているだけの筈の視界がぐらついて見える。

 

 身体も、金縛りにあったかのように動かない。

 

 

「ぐっ…いきなり、何を……」

「動かないでくれ。僕はこういう細かい作業は苦手なんだ」

 

 

 マーリンは、両手をトリスタンの目へと翳して、彼の魔眼に対して魔力による干渉を行っていた。

 

 以前少し観察していた時、彼の視る先は自分に比べるとかなり曖昧で精密性に欠けることは分かっていたのだ。

 己の千里眼と比べれば型落ちも良いところの性能とはいえ、今まで一度もこちら側の存在を観測できて居なかったから。

 肉体が魔眼として本来の機能を十全に発揮出来ていないのだろうと考えたマーリンは、こうして彼の認識中ではほぼ善意で、彼の瞳の調整を行うことにした。

 

 尤も、脳と回路の繋がっている魔眼に外部からパスを通して無理矢理干渉するのだから、当然やられる側は脳を直接掻き混ぜられるかのような苦痛に襲われる。

 麻酔無しで眼球への手術を行っているような物なので、当然痛い苦しいの一言で片付けられる程度ではない。

 まあ、彼にとっては知ったことではないが。

 

 

「―――よぅし、大体こんな所かな。終わったから、もう動いても構わないよ」

「……ッ! はぁ、はぁ……」

 

 

 じっとりとした脂汗が背を伝う。

 中々エグめの苦痛に軽く三十分は晒されていたからか、まだ目がチカチカしている。

 あと何の説明もなく唐突に行われたのもあって、そもそも何をされたのかも具体的に分かっていなかった。

 

 息を整える為に、深呼吸する。

 その間、やはりマーリンを嫌っているらしい鳥たちが執拗に足元の花や服を突いており、マーリンはソレを振り払った後、トリスタンに言った。

 

 

「見た感じだと、瞳を稼働させる為の回路に過剰な魔力が供給されていたのが原因みたいだ。 僕が少し弄ったから、完全とは行かなくても多少は改善されたと思うよ」

「正直、何をされたのか分かりませんが……一応、礼は言っておきます」

「これはサービスだし、礼には及ばないさ。 ……君には文字通り、王へ永遠(とわ)に付き従う騎士になって貰わないといけないからね」

 

 

 

 永遠(とわ)、永遠とマーリンは言ったか。 だが自分は選定の剣を抜いたアーサーとは違い、普通の人間である。

 単なる比喩かとも思ったが、目の前のこの男が言うと何と言うか、胡散臭い。

 絶対に何か知っているというマーリンへの嫌な信頼を、このたった二回の会合でトリスタンは得ていた。

 

 

「言われずとも。いつか来る、終わりまでは」

「いいや、君だけは例外だ。 ……この子たちがいる限り、途中で君の旅路は途切れない。その加護がある限り」

 

 

 そう言うマーリンが視線を下げると、自分の足元の花を片っ端から啄んでいる一羽の鳥の姿が。

 残りの二羽はトリスタンの両肩に乗っており、三羽とも羽先から僅かに炎が出ている。

 というか靴がちょっと燃やされていた。犯人はもはや言うまでもない。

 

 

「……」

「……? そろそろ戻りなさい、ピエール」

コー、……ケッ

「……………」

 

 

 鼻で笑ってたね今。

 間違いなく僕のことを笑ったよねこの鳥。 あとそろそろ只の鳥じゃないことに気づいてくれトリスタン。

 ……何となくだが、彼は()()とは別の意味で抜けているなとマーリンは思った。

 

 素の彼女をまるで魔猪のようだと称するのなら、彼はその名の通り鳥のようで、鳥頭……少し抜けている所がある。

 

 

「……こういうのを、人間の感情では『ムカつく』って言うのかな」

「は?」

『いきなり悟りの境地に達したみたいな顔するじゃんこの人。怖』

 

 

 ……取り敢えずこの鳥の名前だけは覚えておこうと人知れず決意するマーリンである。

 そんな事は知りもしないトリスタンは、虫の知らせというべきか、何となく早めにこの場を去ったほうが良いような気がしてきた。

 

 

「……では、私はこれで」

「ああ、待ってくれ。もう一つ……予言というよりは、啓示の類かな」

 

 

 杖の先端をトリスタンへと向け、マーリンは言う。

 ―――東に進み、その先にある湖へ行け。さすれば、貴殿の今最も求めている物が手に入るだろう、と。

 

 

 東?湖? 一体全体どういう事だとトリスタンが問おうとした時、風が吹いて辺り一面に花びらが舞い、思わず手をかざして視界を塞いだ。

 そうして風が止んだ後目を開けると、マーリンは疎か、近くの村さえも消えていて、周囲には見慣れた森の風景が広がるばかり。

 

 

「まさかアレ全てが幻術だったとは……」

 

 

 このトリスタンの目を持ってしても見抜けなかった。

 正直マーリンの出す啓示なぞ怪しさしかない気もするが、実力だけは確かなので、ここは一先ず言われた通りにしておこう。

 目的地のない旅よりかは、幾分か方向性が定まるだけマシだと考える。

 

 

 妖弦の音色と共に、今一度空を駆ける。

 進む内に日が落ちた。昇った。落ちた。昇った。

 日が暮れる度に水場の近くに寝床を構え、その辺で狩ってきた手頃な魔獣の肉を焼き、食べる。 大体不味い。

 

 

 当然身体も洗う。髪は特に丁寧に。

 道行く中で随分砂埃を浴びたりして汚れている筈なのに、最近は何故か殆ど身体が汚れていないし、匂いもしない。

 一度鳥たちも洗おうとしたが、絶叫するビーバー並の剣幕で決死の抵抗を受けたので、断念した。

 でも匂ってみると臭くない。何故だ。

 

 

 道中、妖精の類の干渉を受けることもあった。

 ある時は森のある地点を一生ループする悪戯をされ、またある時はいつものように水場に寝床を構える最中、その水場に引き摺り込まれかけもした。

 稀に意思疎通が出来る妖精が居るので、何故こうも狙われるのか尋ねてみた。 するとその妖精は、『あなたが綺麗だったから。だから汚れないようにしないといけないの』とだけ言われた。

 

 

 ……悪意はない。

 本当の本心から、一切の悪気なくそう思っているらしい。頼むから少しくらい我慢を覚えてくれ。

 何故なら一行に要約すると、「一生ここにいてね♡」ってことだ。死んでもお断りである。

 その後、やはりその妖精も自身を捕らえようとしてきたので、いつものように返り討ちにしてさっさと逃げた。

 

 池に引き込まれそうになった時は、直前で鳥たちが何とか陸に引き戻してくれた。

 そしてその後は鳥たちが炎を吐いて、その池を干上がらせていた。 ……お前らそんなこと出来たんか。

 

 

 トリスタンは教訓を得た。

 ……妖精とは得てして大抵がその場の気分で動く刹那主義で、恐らく誰かに迷惑がかかるような行為を『悪い事』として認識していない。 多分妖精はそういった感じの生き物なのだと。

 

 ……トリスタンの嫌いな物リストに、妖精が追加された瞬間である。

 

 

「疲れた……。もう妖精案件は懲り懲りですね……」

「「「コー、ケッコー……」」」

 

 

 主に妖精に苦しめられた旅路の果て。

 行き着いたのは、大きな湖であった。多分これがマーリンの言っていた場所だろう。

 湖の畔の木にもたれかかり、数日ぶりのマトモな休息が得られることにひどくほっとしている自分が居た。

 

 

 休める。これが何とも素晴らしい。

 最近は森を歩けば妖精にちょっかいを掛けられ、空を飛べば幻術で妨害され、眠ろうとした時は危うく永眠させられそうになりもした。 

 いくらなんでも、運が悪すぎるとかそういう次元を超えている。 ……私は妖精ホイホイか、とツッコミの一つでも言いたくなるレベルだったのだ。

 

 

「―――ぁ」

『無理だわ、これ』

 

 

 だからだろうか。

 ずっと張り詰めていた緊張の糸が切れたからか、プツンと電池が切れたようにトリスタン達は眠ってしまった。

 丁度湖の中から現れる、敵意のないであろう人外の気配を感じながら。

 

 

「……どうしましょう」

「……zzz」

 

 

 現れた湖の乙女(ヴィヴィアン)は困惑する。

 己の領域に入る、聖なる者達の気配を感じて姿を表して見れば、そこに居たのは静かに寝息を立てる赤髪の見目麗しい貴公子と、その上で寝ている三羽の鳥だ。

 

 神造兵装を求めて等の何かしらの用向きがあるのなら、ただソレに相応しいかの試練を与えるのみ。

 だがこの貴公子は見た感じ、彼女から見ても相当な面倒事に晒されたらしいというのは一目で分かった。 

 何せ、身体中に夥しい数の妖精の気配の残り香があるのだ。妖精に好かれやすい体質なのだろう。

 

 

 さらに鳥の方も、刺激しては不味そうだというのをヴィヴィアンはひしひしと感じていた。

 湖の乙女としては正直、鳥の方にはお引き取り願いたかったが……不死鳥を連れる騎士とは、何ともまあ英雄らしい肩書きであろう。

 

 

 そうして彼女は一つ、妙案を思いついた。

 ただまあその為には、この貴公子が目覚めるのを待たねばならないが。

 

 

「……zzz」

「……これも何かの運命。仕方ありません、少し待ちましょうか」

 

 

 心優しきヴィヴィアンは、寛容であった。

 

 

 

 




型月版アーサー王伝説は原点より二十年以上早くカムランに到達する訳だけど、どんな過密スケジュールなのか。
シリアスを書こうとしたらNIWATORIが勝手に全部破壊して行くのどうして……?

※NIWATORIについて

ジョン
三匹の中の中心的なポジ。
最初にトリスタンの下へと飛んできたのがコイツ。
トリスタンの右肩が定位置。

タロウ
三匹の中で一番大人しい。
ただし怒らせると怖いタイプであり、トリスタンが妖精に池に引き込まれそうになった際に、池を干上がらせたのはコイツ。
トリスタンの左肩が定位置。

ピエール
多分三羽の中ではダントツの問題児。
マーリンに一番当たりが強いのもコイツだし、多分人語が話せるならアキレウスのクサントスみたいな性格をしてる。
トリスタンの頭の上が定位置。

……なんだこれ。


トリスタン
マーリンに魔眼弄られたり妖精に絡まれたりで散々な目にあったと同時に、妖精から好かれやすいという罰ゲームみたいな体質があることが判明。 おそらくこの身体に元から備わっていた物である。
この後、後のズッ友にして■■と出会うらしい。


マーリン
おっ、魔眼が動作不良起こしてる……修理したろ!くらいのノリでトリスタンの魔眼を弄くり回した。
なお、内訳はアルトリアの役に立つ云々を含めた善意が四割、なんか面白そうという興味が六割である。
でも成功したから文句は無いよね!って感じのやつ。 


ヴィヴィアン
皆さんご存知、とある魔女の別側面にして湖の乙女。ミニュエ等の別名もあったりする。
なんか気配を感じて出ていったらヤバい鳥連れた青年が居た。しかもかなりの妖精に憑かれかけててびっくり。
でもそれはそれとして、かなり強そうなので『あの子』と引き合わせれば役に立ちそう……と考えている。






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