ガンダムビルドファイターズ《刃》ーブレイドー   作:オウガ・Ω

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五年前……コトニー総合病院




「先生、タカヤは、タカヤは大丈夫なんですか!!」



「す、少し落ち着いてください……タカヤ君の診断結果ですが…長期に渡る暴行で受けた骨折が数十カ所、そして薬物による投与、外的刺激による心神喪失状態……記憶喪失になってます」


「記憶…喪失……うそ、うそ……なんで」


「幸い、喪われたのは天瞳さんに預けられる直前から今日に至るまでの記憶です……御両親の事は覚えているのを確認できました」



「じ、じゃあ……タカヤは…」


「僕達の事を忘れてないんですね…良かった」



膝の上で拳をギュッと握りしめ涙を流すメイを抱き寄せ髪を梳くユウキ…二人がいるのは行方不明だったタカヤが運び込まれた病院の診察室。一年間必死に天瞳家、祖父オウマ、ミカヤと共に探し続けた二人は医師からの言葉を聞きようやく落ち着いた…しかし続けて語られた言葉に身を強ばらせた



「…………ただ長期に渡り使われた薬物に身体機能の一部…生殖機能に障害を与えるモノが検出されました………おそらくは」



「あ、あ、あ………アナタ……いや、そんな」



「メイ、しっかりして!まだ確証がないんだ……先生、タカヤをどうか、お願いです!」


縋るように医師に懇願するユウキに対して、メイの胸中にはある想いが渦巻く、タカヤをこんな目に合わせた相手、その原因を作った兄に対しての怒りがマグマのように煮えたぎっていた


(兄さん、あなたのせいでタカヤは!……そして宇宙ガンプラファイターX、アナタを絶対につぶしてあげる!!)


涙を流しながら誓いをたてしばらくして夫ユウキと共にタカヤが眠る病室へ歩く姿は修羅が見えた


閑話 闇ーアクムー 《弐》

「や、やめて」

 

 

乾いた音と共に何かが落ち必死に手を伸ばした先にはRX-78-2ガンダム。見てもわかるように完璧に仕上げられたガンプラに指先がふれる寸前で風を切る音と共に粉々にくだけひび割れたガンダムの頭が転がり顔の前で止まる。まるで痛いと訴えかけるよう目があった

 

 

 

「あ~あ壊れちゃった……脆いねえ」

 

 

 

「う、うう……やめて…もうガンプラを壊さないで」

 

 

 

「や~だね♪」

 

 

 

涙を瞳に溜めながら訴えるも笑いながら追い討ちをかけるよう無傷で残ったガンプラを踏み潰していくのはうずくまる少年と年が変わらない。ただ一つ違うのは奇妙な仮面をつけていることだけの違いしかない

 

 

「さて不良品は壊れちゃったし、新しいの作ってよ………俺に相応しいガンプラをさ?」

 

 

 

「い、いやだ…ガンプラを大事にしないガンプラマフィアなんかに作るも……うっ!?」

 

 

拒絶の言葉を遮るかのよう仮面を付けた少年の蹴りが深々とお腹へ突き刺さり一瞬、息が止まり悶えながら嘔吐しコンクリートの床を汚し。何度も咳き込む少年の頭を乱暴につかみ仮面の奥にある瞳と視線があった

 

 

 

「うわ、きったな…ばっちい、ばっちい…えと、なんかいった?……聞こえかったらかもう一度いってくれないかな~」

 

 

 

「ガ、ガンプラマフィアなん……っあ!?」

 

 

「聞こえない、聞こえないよ~?さあ、男の子なんだから元気よくハキハキしゃべろうか?ほら、ほら、ほら、ほら!」

 

 

 

「ぼ、僕は……っ!?キミなん…がっ!……ガンプラを!?」

 

 

「あは、聞こえないよ。全然きこえないよ秋月タカヤ…ほら、ほら、ほら、ほら、ほらぁ!!」

 

 

 

閑話 闇ーアクムー

 

 

 

 

つかみあげた頭をコンクリートの床へ叩きつけ、繰り出された蹴りが再びうずくまる少年の腹部へ何度も何度も何度も深くめり込んだ…

 

 

 

 

痛みと衝撃に意識が飛びそうになる。それを見計らってるように蹴りは止み、無理矢理からだを起こされ右腕を少年の背後にいる黒服の男に強引に押さえつけられた

 

 

「ふ~疲れた……さあ、もう一度聞くけどさ…………俺に相応しいガンプラを作ってよ?強くて誰にも負けない最強のガンプラ……二代目メイジンカワグチの甥なら出来るよね?」

 

 

 

「に、二代目?……メイジン…カワグチ?」

 

 

 

「あ、知らないんだったけメンゴ、メンゴ♪………でもそんなの関係ないか。ガンプラと工具、材料は最高のモノをオレのパパが用意してくれたんだからさ……早くうちに帰りたいんじゃ無いのかな~」

 

 

「……」

 

 

黙り込むタカヤ…あの日、ベスト8に進出した母メイの応援に第2回ガンプラバトル世界大会の正面ゲートに初めて一人でココまで来ていた…建物から感じる熱気と闘志、ガンプラ愛を幼いながら肌で感じ取り喜びに震えていた

 

 

 

「ここが世界からたくさんのファイターが世界一、《キングオブガンプラ》を決めるばしょ…えと入場カードは……あった~はやくお母さんとお父さんのところにいかなきゃ。あ、カヤお姉ちゃんに着いたよって連絡しなきゃ」

 

 

 

歩きながら端末を手に天瞳家にかけた…しかし呼び出しコールが鳴る前にすぐに繋がった

 

 

 

『タッくんかい!な、なにかあったの?』

 

 

 

「いま会場についたよ」

 

 

 

『そ、そうなんだ……もう、おどろいたよ』

 

 

「しんぱいさせてゴメンねカヤお姉ちゃん。あ、そろそろお母さんの試合が始まるから…」

 

 

 

『うん、帰ってきたらメイ叔母様や世界中のファイターのお話をたくさん聞かせてくれるかな?』

 

 

 

「もっちろん♪一緒に湯浴みしながらた~っくさん話すよ」

 

 

『本当かい!なら楽しみにしているよ…じゃ、またね』

 

 

 

 

「うん、またねカヤお姉ちゃ……っ!?」

 

 

 

 

最後まで言いかけた時、電気みたいなのが体を流れゆっくりと床に倒れ込んだ…身体が痺れて自由が聞かず意識が遠のいていく

 

 

 

「対象を確保した……アマミ、指示を」

 

 

 

タカヤが最後に目にしたのは深々と防止を被り黒づくめの男の姿だった……次に意識を取り戻した時に目にしたのは見組み立ての無数のガンプラの箱と様々な工具と材料が置かれた机、少し離れた場所には頑丈な扉があるだけの室内にいた

 

 

それから地獄が始まった…ガンプラを作れと言う仮面を付けた少年に少しでも逆らえば殴る、蹴るの暴行を加えられ治療は愚か食事すらも与えられない日々の繰り返しだった

 

 

 

『いい加減にしてくれないかなあ…でも、そんな頑固キミを心変わりさせてあ~げ~るよ』

 

 

 

『な、なに?ん、ん、ん、ん~~~~ℵ#@∋∀#ℵ&∃∇#ℵ@@∬!!』

 

 

 

無理矢理椅子に押さえつけられ怪しく輝く薬剤を腕に打たれた瞬間。目の前に光が瞬き焦点が定まらずあらぬ方向を向き、身体が絶えず震え声にもならない叫びが室内に響いた

 

 

 

『ふふふ…あははは♪ほら、もっと素直になれるように薬液追加、追加~』

 

 

 

 

『んづきがあ!フブクニヤタシカナハ!!#ℵ∃∇##∋@@&&!!』

 

 

 

仮面の少年の歓喜に満ちた笑い声は叫びに消された……それからすでに半年が過ぎても変わらなかった

。それでも仮面の少年の要求に応えなかったのは父と母がガンプラマフィアの事を教えていたのもあったからだ

 

ガンプラマフィアは依頼されれば大会の妨害、さらには優れたガンプラを欲し、手に入れるためには非合法手段をも取る事すらも厭わない

 

 

何よりガンプラを目的達成の手段として使うだけで愛していない

 

 

 

ガンプラとガンダム作品が心から好きなタカヤにとって相容れないのも無理もなかった。しかし長期に渡る暴行と薬物投与はすでに体と精神をも蝕み始めていた

 

 

 

「だんまりか、まったく頑固だね~少し君と遊ぶの疲れてきたよ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「でも、そのだんまり何時までできるかな~…………えと天瞳ミカヤ、12歳……ふ~ん、なかなか可愛いじゃないか」

 

 

 

 

仮面の少年の口から出たミカヤの名前に俯かせていた顔が上がり瞳に光が戻る…それを見て手にした黒い手帳を読み上げていく

 

 

 

「…ガンプラ天瞳流宗家の跡取り娘でファイターか?ん……あははは傑作だね。君とは許嫁の間柄なんだね、健気に君をいまでも探してるなんて……見つかるわけないだろ、バカの極みだね」

 

 

 

「…ちゃ…ない…」

 

 

 

「ん?なんか言った?」

 

 

「カヤお姉ちゃんはバカじゃない……」

 

 

 

「………そうか、そうか流石は許嫁なことだけはあるね……でもさこうして夜まで探していると不幸な事故に巻き込まれるかもね~例えば車に轢かれたり、それか不審な車にさらわれてどこかの脂ぎったオヤジの慰みモノ、玩具…ボテ腹にされて廻されるかもね」

 

 

 

それを聞き身体を震わしキッと睨みつけるタカヤ、仮面の奥にある瞳には愉悦の色をみた

 

 

 

「まさか……カヤお姉ちゃんに!」

 

 

 

「さあ、どうかな?オレのリュウノスケパパなら平気でやるけどね~ストラトスの家を破産させた時は愉快痛快だったね……さあ、どうする?ガンプラ作ってくれないかな?」

 

 

 

「…………う、く………う」

 

 

 

「ほらほら、早くしないと不慮の事故に巻き込まれるかな~♪大好きなカヤお姉ちゃん、どうなっても知らないよ」

 

 

 

大げさに手を広げ仮面越しに囁く、だが彼の声を耳に入らない…タカヤは必死に考える。ガンプラを作ればガンプラマフィアに悪用される。もし作らなければミカヤは仮面の少年の言葉通りになってしまう

 

 

「優柔不断だね~ならば10秒まってあげるよ……9、8、7……」

 

 

 

作る、作らない……今まで必死に耐え拒んでいた。しかし身体と精神は限界寸前にまで追い込まれていた…そして

 

 

「4、3………「……る」……え、ナニ?」

 

 

 

「作る………作るから……だから………カヤお姉ちゃんに手を出すな……」

 

 

 

「サンキュー?さあ、今から作って貰うよ。オレが世界を制覇する為の最強のガンプラを」

 

 

 

無機質など仮面の奥で笑みを浮かべ無理矢理椅子に座らせ机に向かわせると部下にその場を任し部屋を後にした…タカヤは目の前につまれたガンプラの箱を手にとり中を開け、説明書を読み終えランナーを手にしニッパーでパーツを丁寧に切り離していく…机に何かが落ちた

 

 

 

「……ひぐ、く……」

 

 

大粒の涙を流しながら切り離しパチリとはめていく…涙が机を濡らしていく…涙の理由は…大好きなミカヤを守るためとはいえガンプラマフィアにガンプラを作る事

 

 

そして、ある想いが胸を占めていた

 

 

 

(…………最強のガンプラ……作ってあげるよ。でも君たちには使いこなせないガンプラを………カヤお姉ちゃんを守るためにガンプラマフィアに作る……道を外れた者に相応しい名を持つガンプラを)

 

 

 

ガンプラマフィアからミカヤを守る為にガンプラマフィアにガンプラを作る……矛盾している事を知りながらも、意識を目の前のガンプラに集中していく……そして誘拐されて一年が過ぎた

 

 

 

「コレが最強のガンプラ……オレのガンプラ、ガンダム龍刃王……」

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

仮面の少年が手にしたガンプラに歓喜の声をあげる背後には椅子に力なく座るタカヤの姿…指先は塗料にまみれデザインナイフ、ヤスリでついたキズ、頬は痩せこけ瞳は虚ろで焦点が定まらず髪は背中まで伸びていた。しばらくして仮面の少年は手にしたガンプラをケースに入れながらこちらを向いた

 

 

 

「さすがだね~凄い出来だよ……じゃあ約束通り家に帰してあげるよ」

 

 

 

 

「帰れる……」

 

 

 

帰れると聞き微かに瞳に光が宿る。ようやく解放される、何より父、母、ミカヤと会えることが生気を取り戻していく…しかし背後から二人の黒づくめの男性に椅子に押さえつけられ、頭に無数のコードが繋がれた

ヘッドギアを被らされる。そのコードは仮面の少年に繋がっているのがわかる

 

 

「な、なにを」

 

 

 

「このガンプラはオレだけのガンプラだからさ……もし壊れたら修理も出来ないだろ?だからお前から制作手順とビルダーとして技能を奪わせてもらおうかなってね」

 

 

 

「や、やだ……はなして」

 

 

 

「こっちだって約束守ったんだから等価交換って奴なんだよね~あ、もしかしたらココに居た時を含めた記憶が消えてしまうから……」

 

 

 

 

「いや……だ……やめ……やだ!」

 

 

 

「やだねったら、やだね~じゃバイバ~~イ…秋月タカヤ……」

 

 

 

 

必死に身をよじらせヘッドギアから逃れようとした…しかし無情にもヘッドギアから放電が始まり体が震えた、頭が焼き付くような痛みが走り回った

 

 

 

「@&&@∋ℵ∇∇∀∬★☆※§¶‡†º¦ª/~__!‥▽▲♤◑◐☆!!」

 

 

 

ーぼくは《あきつきたかや》、おねえちゃは?ー

 

 

 

ーわたし◐☆§†‡¶◑《》▽▲☆♤《》▽‡ー

 

 

 

ノイズ混じりの記憶が色あせ割れていく……様々な光景が溢れ出しては色あせ粉々に砕けるなか、タカヤは意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方から降り始めた雨がアスファルトて舗装された道路をたたく…誰もが傘をさし歩く中で小さな路地裏にあるゴミ捨て場が動き、何かが這い出ると立ち上がった…瞳は虚ろで風が吹けば今にも倒れそうな足取りで少年は歩を進めていく

 

 

 

「……あ、う」

 

 

 

しかし足がもつれ倒れた。しかし必死に立ち上がろうとする身体に雨は容赦なく体温を奪っていく。しかし瞳は路地裏の先…車が走る大通りに向けられゆっくりと立ち上がり歩き出した

 

 

 

「はあ、はあ……」

 

 

 

何度も倒れ、立ち上がりながら路地裏を抜け見えた光、そこには無数の車が走り歩行者が横断歩道を歩く姿、再び歩き出したが反対側からきたくすんだ金髪の女性とぶつかり倒れふした。それをみてただ事じゃないと気づいたのか抱きかかえ呼びかけた

 

 

 

「あ、う……」

 

 

「きみ、どうしたの?……ひどい熱…誰か救急車を!急いで!!」

 

 

 

「あ、ああ……う」

 

 

 

女性の声を最後に少年……秋月タカヤは意識を失った…大事な記憶を喪いながらも、この日家族の元に帰ってきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話 闇ーアクムー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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