ガンダムビルドファイターズ《刃》ーブレイドー   作:オウガ・Ω

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遥か昔、天竺に生を受けた目覚めし人《釈尊》が開き広めた仏教。その教えに従い数多の弟子の一人が、その身姿を形に残した…その時代にあったとされる技術の粋を込め作り上げられたソレは歴史の流れに埋もれ消えた

しかし、弟子と戦士の末裔は天竺、唐、日本へ辿り着き造り一族と接触し秘伝を108からなる秘伝帳に纏め編纂した

中でも優れた八巻を廻り関ヶ原ウォーズが起きたのは記憶に新しい…が、近年ある噂が流れた


優れた八巻の模型秘伝帳はあと一つ存在し、今でも釈尊の弟子と戦士の末裔が守り抜いてると


その9番目の秘伝帳の名は…










第十八話 動きだす悪意。模型秘伝帳…そして

アクション商事…海外に多くの支社を持つ大企業。しかしソレは表向きの顔だ

 

ガンプラバトルの健全化および違法バトル、付随する犯罪を取り締まる国際ガンプラ警察が置かれている。今、ここでは危険極まりない思想をもつ宇宙ガンプラファイターXへの特別捜査本部が置かれ捜査が進められていたのだが…

 

 

「ヤツらの足取りが掴めねえな……くそ」

 

 

「ヒロシ課ち…捜査官、こちらもダメです…わざわざ足のつくような逃走経路、欺瞞工作はヤツの十八番ですよ」

 

 

「ち、あの野郎のせいで何人のビルダー、ファイター、そしてその家族が不幸になったか……オレの娘《レヴィ》の彼氏《将来の息子》まで……くそが!」

 

 

ダンッとデスクを叩く、その音に捜査官も躰を振るすも仕事に戻る…サエグサ模型店でのカレトヴルッフ争奪ペアバトル会場に乗り込んだヒロシが見たのはもぬけの殻となったバトル筐体、そして

 

 

─タッ君、タッ君!─

 

 

─タカタカ!お願い……目を開けてよ─

 

 

─おい、タカヤ……寝てんじゃねえよ…─

 

 

ぐったりとした娘《レヴィ》の彼氏を抱き抱え大粒の涙を流して何度も呼びかける少女たち…あの明るく元気な末娘《レヴィ》が泣きじゃくる姿を思いだしギリッと歯ぎしりする

 

今、アキツキ・タカヤ《将来の息子》はコースト総合病院に緊急搬送され意識が戻らないまま一週間過ぎた。何度も足を運んでは他の子と共に呼びかけてる…痛々しくて見ていられない

 

 

─ボクたちね。絶対にタカタカのブレイドを直すから……─

 

 

この状況を生み出した張本人…宇宙ガンプラファイターXを必ず逮捕する。最強のガンプラを手にしながら弱みにつけ込み他者を不幸にする事に悦に浸るコイツだけはとヒロシを初めとした捜査官は誰もが決めていた

 

 

しかし、ソレを嘲うようにドアが勢いよく開け放たれ、息を切らした捜査官が飛び込んできた

 

 

「ヒロシ…課ち……捜査官!……が……創寺から金ノ巻…奪われ…宇宙……プ……ファイターXに」

 

 

「金の巻が、模型秘伝帳が奪われたのか!宇宙ガンプラファイターXに!?なんてことだ!………コレじゃ関ヶ原ウォーズの蒸し返しじゃねえかよ!水戸の爺さんが持っていた五巻の行方もわからないのに……」

 

 

声を大にしヒロシの叫びが木霊する…模型秘伝帳を巡る戦いが始まろうとしていた

 

 

第十八話 動きだす悪意。模型秘伝帳…─浸食─

 

 

コースト総合病院 同アキツキ・タカヤ病室……

 

 

消毒液の匂いが漂い、規則正しい電子音がなる室内。そのベッドに眠るのは一週間前に運び込まれたタカヤ。あの戦いの直後に意識を失い昏睡したままが続いてる中、静かに扉が開いた

 

 

「タッくん……」

 

黒髪を揺らし入ってきたのはミカヤ。そのまま備え付けの椅子に座り手を握った

 

「タッくん、気分はどうかな………今、ブレイドをレヴィ、ノーヴェと一緒に直してるんだ…アシムレイトで繋がったままで痛いかも知れないけど。必ず直すから安心して」

 

 

優しく握る手に涙が落ちていく

 

 

「みんなに話したよ……わたしとタッくんのことを……ノーヴェやレヴィは幼馴染みだったのを気にしてないって感じでね……今までだまってたからなんか言われるかと思ったんだ…」

 

 

─なんとなくわかってた。バレないとおもったか?あんな風に接してたらバレバレなんだよ─

 

 

─うんうん、ミカヤンってタカタカの事を全部知ってる感じだしね─

 

 

「って言われたけど……あ、ケンカはしてないから安心してね……」

 

 

優しい声はタカヤに向けられるも意識のないいま届いてるかわからない…それでもミカヤは声をかけ続けた

 

必ず目を覚ますと…そのやりとりは個室の外に届く

 

 

「テンドウのお嬢さん、アソコまで若の事を…」

 

 

「ああ、テンドウのお嬢さんだけじゃねえ。テスタロッサ嬢、ナカジマ嬢もだ……若、早く目明けてくださいよ。親爺も心配してんでさあ」

 

 

サングラスに黒服の男二人が涙ぐむ…彼等はタカヤの曾祖父、“ガンプラ任俠アキツキ組“組長にして縕喃学園長《アキツキ・オウル》の配下。運び込まれたタカヤの身辺警護の為につけられている。向かい側にある応接室では

 

 

「オウルお祖父さま、何かわかった?」

 

 

「すまんの。ワシの情報網を使っても足取りが掴めねえな……ヤツがワシのシマ入ってきたとわかってればキッチリ落とし前つけて“沈めてやる“貰う予定だったんだがよお」

 

 

紋付き袴に杖をつく老人…タカヤの曾祖父アキツキ・オウルが物騒なワードと共に吐き出したのをみてメイもユウキも若干冷や汗を流した

 

「オ、オウル義祖父さん、落ちついて……いまヒロシさん、ガンプラ警察もだけどシャッフル同盟も動いてるし…」

 

 

「……ヤツは模型秘伝帳《金ノ巻》を盗みやがって…水戸の爺さんが持ってた五巻は行方知れずだ。次に狙うとしたらモアイが持ってる《木ノ巻》、造形の里にある《土ノ巻》…………そして《天ノ巻》も狙ってるだろうなユウキ」

 

 

「《天ノ巻》……たしか仏教発祥の地《天竺》で釈尊様の涅槃姿を彫り上げた弟子の一人が最古の技法、造形法と失われた技術を持ち、釈尊様の身を護るクシャトリアと共に日本に渡り書き記した九番目の模型秘伝帳になった……でも噂じゃ」

 

 

「あるんだよ……水戸の爺さんが逝く10年前、久々に飲んでた時にな。《天ノ巻》は釈尊の弟子で姿を彫り上げた仏師と戦士《クシャトリア》の子の子孫が護ってたらしい……」

 

「らしい?」

 

歯切れの悪い言葉に疑問が浮かぶユウキに応えるよう紡ぎ出された

 

 

「三十数年前、《天ノ巻》の噂を聞きつけた馬鹿に事故に見せかけられて殺された。ソレを継承した夫婦、生まれたばかりの双子の兄妹もろともな………あんな悔しそうな水戸の爺さんは見たこと無かった。それ以来《天ノ巻》は行方知れずだ」

 

 

そう口にしオウルは目を閉じ息を深くはき、ユウキは《関ヶ原ウォーズ》から十数年、宇宙GファイターXが日本に現れた理由。カレトヴルッフ、そして《天ノ巻》を含めた八巻全てを手にし宇宙最強のガンプラファイターとなりガンプラマフィアの力を世界に知らしめることだと気づいた

 

 

「ガンプラバトル第7回世界大会がはじまるまで二ヶ月…ソレまでになんとか手を打たないと…」

 

 

「そん時はあのゲロ以下のクズ《宇宙GファイターX》は性懲りもなく現れるに違いねぇ……タカヤのまえにな」

 

 

「現れたら………潰す。今度こそ絶対に…」

 

ガンプラバトル公正委員会よりも父親として、曾孫を苦しめたクズへのけじめを、修羅の兄をもつも母としてタカヤの為、ガンプラバトルの為に必ずケリをつけることを誓う

 

しかし、この時は知らなかった…病室に眠るタカヤの身に新たな異変が起きつつあることを。声をかけるミカヤも、あとで来るレヴィ、ノーヴェ、バトルを通じて友情を結んだワタルも気づくことなく

 

 

───────

────

 

 

薄暗い灯りの中、足下に敷き詰められた赤く血のような絨毯を歩くのは漆黒のマントを翻し、シルクハットにタキシード姿の男…宇宙GファイターXことアマミ・イッキ。その先にある豪奢な作りの玉座へ身を預けるよう座り足を組んだ

 

その手にはペアマッチの優勝賞品で奪われたカレトヴルッフが踊るように遊びながら端末を手にし短くコールする。間を置かずに繋がると映されたのはホテルの一室。碧銀の髪を揺らし俯く少女の姿…無論、観られてることに気づいてない

 

 

「…ストラトス、無様な負けっぷりだな?」

 

 

『……はい』

 

 

「せっかく俺が用意したガンプラを無駄に……コレじゃ教えられ無いなあ?今までバックアップしてきたのがさあ?意味わかるよなあ?」

 

 

画面の向こうで躰を振るわした

 

 

『お願いします!次は必ず、必ず勝ちます!だから、だからッ!!』

 

 

 

端末を握り締めすがるよう嘆願するアインハルト、仮面の奥にある顔は愉悦に満ち口角がつり上がる…大事な家族のために必死になる姿はたまらない心地よさに躰を震わせ、近くに置かれた卓上にある傷だらけのアストレイ・リュウジンオーを目にする

 

 

『なんでも、なんでもします!だから、だから…』

 

 

「………ふう…冗談だよ。冗談……まあ次は無いから……必要なパーツは送るからさしばらくは自由にしていいよ」

 

 

『…………はい』

 

 

躰を震わせるアインハルトを見て今までの鬱憤が綺麗さっぱり消え、盗撮カメラを切りイッキは仮面に手をあて笑いだした

 

 

「あはは、あはは、あ~あスッキリした……さてカレトヴルッフは手には入ったし、あとは模型秘伝帳を手に入れるだけかな?……オレの為にパパが取り損なった《天ノ巻》をね」

 

 

仮面の向こうにある瞳が妖しく光った

 

 

──────

────

 

 

深夜、コースト総合病院…月明かりに照らされるも薄暗い病室に寝かされたタカヤがゆっくりと躰を起こした…顔を俯かせベッドから降り机に座り灯りをつける

 

「…………」

 

その前には痛々しいまでに傷ついたアストレイ・ブレイド。ミカヤ、ノーヴェ、レヴィの手で外装とフレームは修復されるも進んでいない。タカヤにしかわからない改造が施されているからだ。無言でソッとフレームに手を触れ、離すとデザインナイフ、ニッパー、スケール、エッチングソー、クリアーパーツを切り出していくなか微かに唇が震えた

 

 

………ガン…ラバ…ル……は…勝…すべて

 

 

抑揚無き声と共にプラ板を切り離し、熱を加えた真鍮線を溶かしこむ。コレをやや曲線を加えた曲げ加工、形を整えていき、残像を残しながら手を動かし、やがて禍々しい装甲が出来上がる

 

 

……ガンプラバトルは勝利こそ…絶対……宇宙(ガンプラ)ファイター(エックス)。見せてやろう…()のガンプラバトルを新たな刃と共に……

 

 

顔を俯かせたまま言葉を紡ぐタカヤ…月明かりに照らされ絨毯に伸びた影…揺らめくマフラーとコートをたなびかせる 悪鬼(二代目メイジン・カワグチ)にも見えた

 

 

 

 

第十八話 動きだす悪意。模型秘伝帳…─浸食─

 

 





「目を覚ました少ね…いやタッくん。私は嬉しさでおもわず果てそうになったよ…」



「でもだ、なんか様子が可笑しいしブレイドがあんな禍々しくなってる?」



「タカタカ、なんか怖いよ…」


ガンダムビルドファイターズ─刃─


第十九話 変貌と覆面


『恐れていた事が起きたか……目を覚ませタカヤ!!』


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