『そろそろ朝よ。目を覚ましなさい』
「ん~~」
彩火は気高く凛々しい声のスカーレットに迷惑そうに寝返りを取る
「後、5分……」
『はぁ〜』
彩火の髪色が銀から金に変わり、目を覚ましゆっくりと体を起こした
「ふぁ~、彩火ったら中々起きないんだからから……」
『ぐぅ……』
「……これは当分起きないわね」
リユ・ニオン・スカーレットの朝は早い
起床は5:00、日も出ないうちに顔を洗うのルーティンだ。彩火から昨日、家の設備の場所はある程度聞いていたので、1階に降りて洗面所に向かう
「えーと、このじゃぐち?って言うのを捻ればいいのよね?」
戸惑いながら蛇口を捻るスカーレット。そして冷水が勢いよく出てきた
「うわぁ!」
勢いよく出てきた水に驚き体を仰け反った
スカーレットはゆっくりと蛇口を締めて緩めていき、丁度いい水圧に戻す
「これでいいのよね?にしても便利ね。捻れば水が出るって」
王女スカーレットが居た国、レイカラット王国では井戸や川から水をついで生活水と使用している。そんな国に長年居たので蛇口捻れば水が出るのはもの凄く便利だと思ってしまう
「是非ともわたくしの国にも導入したいわね……」
そんな事を言いながら顔を洗うスカーレット。すると階段を降りる音が響いた
「おはよう彩火。早いわね〜」
階段を降りて来て洗面所を覗いてきた女性。彩火と同じ銀髪のポニーテールをしている40代くらいの女性。彩火の母親だ
スカーレットは水色のフリルの付いたパジャマでカーテシーをして
「おはようございます。お母様」
「え?」
彩火の母親は少し戸惑った表情をした
「あ、朝ごはん作るね」
彩火の母親は戸惑いながら洗面所を後にした
スカーレットはそんなことは気にせず、両手に水を溜め顔の額に当てて顔を洗い、タオルを使い完全に水滴を拭き取り、自室に戻った
スカーレットはクローゼットの扉を開け立ち尽くした
「えーと、どれを着ればいいのかしら?」
レイカラット王国には無い衣服ばっかでどれを着ればいいのかわからなかった
「いくら、自分で着替えていけど……服の種類がよく分からないわね……」
小首を傾げ悩んでいると
「おはよう〜」
「おはよう、グロウ」
ベッド下で寝ていたグロウが目を擦りながらこちらに近づいてきた
グロウの目が完全に開いていないので、まだ眠たいのであろう
「どうしたんだ……スカーレット?」
「いえ、どれを着ればいいのかと思ってね……」
「昨日、着ていた服でいいんじゃない?」
昨日、彩火が制服をクローゼットに掛けていたのを思い出した
「あーあ、あれね」
スカーレットは彩火が脱いでいた制服を思い出し、手に取ると彩火が脱いでいた逆の順番で着替えていく
「スカート……中の白い服……藍色の上着を着て……これでいいのよね?」
ヒラヒラとスカートを掴み軽く回る。
「確か、そんな感じだったぜ!」
「そう。なら、良かったわ」
「彩火!ご飯よー!!」
1階から聞こえる彩火の母親の声。確かな空腹を感じていた
「降りましょうか」
「あっ、でも、俺は彩火の家族前に出れないからご飯食べれないや……」
昨日、彩火からグロウは家族の前に出てほしくないと約束した
ドラゴンがいれば面倒くさい事になるのは確定しているからだ
「そうだったわね。では、いってくるわ。彩火にも後でグロウに食べ物は無いか聞いてみるわね」
「まだ寝ているのか?」
「みたいね。まあ、寝る前の感じだと普段から夜更かしをしているようだし」
スカーレットは部屋の扉を開けて階段を使い1階に降り、階段を降りて突き当りの右にあるリビングの扉を開けた
「彩火、ご飯が出来てるよ」
「ええ、ありがとう」
テーブルに並べられた食パン、ヨーグルト、牛乳と王道な洋食の朝食。スカーレットは椅子を引いて座ると同時に水色のパジャマを着た、短い彩火と同じ銀髪の小学生くらいの少年が扉を開けて入ってきた
「おはよう……」
「おはよう、
スカーレットは手を合わせ、何から食べようと見渡していると何か違和感に気づいた
「……ナイフとフォークはあるかしら?」
スカーレットの言葉にガタッとなる母親と緋月
「え?ナイフ?あるけど……」
「なら、貸してくださらない?」
「えっ、ええ」
母親は戸惑いながら台所からナイフとフォークを持ってきた
母親からナイフとフォークを受け取ると
「ありがとう」
「姉ちゃん……キャラ変わりすぎじゃない?」
「……そんな事はないわ」
緋月の疑問を軽く流しナイフとフォークを音を立てずに使い、食パンを切り分けて口へと入れていく
そして食パンを食べ終わり、金属スプーンを使いヨーグルトを口に運び、コップに注がれたホットミルクを締めで飲みほし、手を合わせ、テーブル端にあるティッシュペーパーを1枚取り口元を拭いた
「誠に美味だったわ」
そう言って椅子を引き自室へと戻るスカーレット
そんな、スカーレットと彩火の人格が変わっている事を知らない母親と緋月は口を開いて
「どうしたのかしら彩火……」
「絶対変だよ。あんな口調じゃなかったって……」
「明日、早退させて病院に行かせましょうかね」
「そうだね……精神科に行くように僕が後で伝えておくよ!」
彩火とスカーレットが知らない所で家族から病気扱いされるのだった
────
自室に戻ったスカーレット
『ふぁ~、おはよう……』
「あら、目を覚ましたのね」
精神世界で目が覚めた彩火
『うん……あ、いろいろ準備してくれたんだ。ありがとう。後は私に任せて』
金髪から銀髪に変わり、スカーレットから彩火に変わる
「おっ、彩火!おはよう!」
「おはよう、グロウ!まさか精神世界で目を覚ます日が来ると思わなかったよ〜」
彩火が感想を言っていると、グロウが両手でお腹を押さえ
「彩火、腹減ったー。なんか無い?」
「マジか……そうだな〜後でコンビニに寄ろっか」
「え、マジ!?こんびに……?はよくわからないけど楽しみだぜ!」
目をキラキラしているグロウの横目で彩火は登校の準備をする。リュックに授業に必要な教材を入れ
「よし……これで準備はOKかな。てか、まだ7時になってないじゃん!」
普段は7時半くらいに登校する彩火
枕横で充電しているスマホを手に取る
「えーと後は……」
「……姉ちゃん?」
自室の扉越しから聞こえる緋月の声
「どうしたのひーくん?」
彩火は弟の事をひーくんと呼んでいる
「母さんが明日、早退して病院に行けって」
「え、なんで!?」
「だって、いろいろおかしいから……じゃあ」
弟の不安げな声と共に隣の部屋の扉が開いた音がした
彩火は力が抜けるようにため息を付きベッドに倒れ込み
「スカーレット……」
『何?』
「朝からどんな立ち振舞いしたの?」
「いつも通りよ」
「いつも通りか……」
お嬢様のスカーレットと一般市民の彩火は口調や態度に雲泥の差がある
彩火もそれに関してはなんとなくわかっていたが、ここまで家族から言われるとは思っていなかった
彩火は失敗したな〜と思いつつ
「……明日から、早起きするから、これからは私が家族とやり取りするよ」
『……なんだか、申し訳ないわね』
彩火は勢いよく体を起こし、グロウを見つめた
「な、何……」
「いや、どうやってグロウをコンビニに連れて行こうと思って……」
『そう言えば、この世界にはスピリットが居なかったのよね』
「スピリットのモデ……みたいな生き物は居るけど、流石にグロウみたいな生き物は居ないからね……」
彩火はリュックを覗き、グロウと合わせる。彩火が使うリュックはグロウの一回り大きい事がわかった
「……私のリュックって大きいのね。これなら、リュックに入るね!」
「え?何……なんか嫌な予感するんだけど……」
彩火はニヤニヤとしながらグロウに近づく、グロウは嫌な予感を感じたのか後ろにゆっくりと下がるが
彩火の魚を取るように素早くグロウの頭を掴み上げる
「は、離せ!!」
「流石に教科書が邪魔だな〜」
リュックをひっくり返し中身を全て出すと、グロウを押し込むようにリュックの中に入れる
「痛い!痛いから!」
彩火はリュックを床に置きチャックを軽く閉める
「よし!入った!!」
「痛いよぉ〜」
『中々、酷い場面を見たわ……』
そして、次に彩火は右手の紋章を見て
「これどうしようか……」
『確かこれってよくないのでしたっけ?』
タトゥーや入れ墨では無いが先生に確実に勘違いされるのは火を見るより明らかだった
「うん……とりあえず、包帯を巻くかな?」
昨日の夜からいろいろ考えた結果、包帯を巻くのが1番簡単だと思い、一応、包帯を部屋に持ってきていた
彩火は紋章を隠すように包帯を巻き、彩火はひっくり返した教材を肌色の手提げに入れて、早めに登校する事にした
階段を駆け降り玄関へと行くとスリッパからローファーに履き替え玄関のドアノブに手を掛ける
するとリビングの扉が開き母親が出てきた
「彩火……」
不安げな声を出す母親に振り向く彩火
「どうしたの?」
「いや、いってらっしゃい」
「うん。行って来ます」
少し隠した感じの母親の小首を傾げつつ玄関の扉を開けて、グロウの朝食を買いに行くためにコンビニ向かった
────
家から数10分くらいの所にあるコンビニエンスストア
彩火は近くのコンビニに到着し、誰も見てないことを確認すると、リュックを下ろしグロウを取り出した
「ブハァ!!息苦しい……」
「ごめんね。でも、ファスナーは開けておいたから息は出来てたでしょ?」
「ほんの少しな……」
文句を垂らしながら口を尖らせるグロウ
一応、リュックの天辺のファスナーだけ開けておいたので、リュックの中に入っているグロウは息は問題なく出来る
「とりあえず、好きな物ってある?」
「好きな物は甘い物とか……別になんでも食べられるぜ!」
「分かった。買ってくるから少し待ってて。てか、絶対にバレないでよ!面倒くさいから!」
「大丈夫!大丈夫!」
「……大丈夫なのかな……」
あまりにも自信のあるグロウの言葉に心配しつつ、コンビニに入って行った
コンビニの自動ドアが開くと店員さんからの「いらっしゃいませ~!」と店内に響く。店内には人がちらほらと見えており、彩火は辺りを見渡しながら店内を見ていく
「えーと」
『……いろんな物があるのね。ここは食料を売る商店になるのかしら?』
「食料以外にもいろいろ売ってるよ」
彩火はマスクなどを売っている棚に案内する
『へぇ~食料品以外にもいろいろあるのね』
「他にも筆記用具とか売ってるよ」
『へぇ~便利ね』
「うん。本当に便利」
彩火はスカーレットにコンビニの事を簡単に教えてレジの前に向かった
そしてレジ横にあるホットショーケースを眺める
「……ドラゴンは肉だよね。朝からお菓子だけはちょっと……」
『別になんでも構わないと思うわ。好き嫌いないのも』
「あっ、そうなんだ」
『ええ、甘い物が特に好きなだけで、基本なんでも食べるわ』
「へぇ〜てっきり苦いのとか苦手かと……」
甘い物が好きな人は苦いものや辛いものが苦手なイメージがあった
『別にそんな事をないと思うわ。城ではなんでも食べてたし』
「そうなんだ」
「あの……」
前の方から話しかける声が聞こえた
彩火はホットショートケースから声をした方に顔を向けると店員が顔を見せていた
「レジ前で大きな声の独り言は控えていただけないかなと……」
「いや、別に独り言は……」
すると彩火は冷ややかな目線を周りから感じた。自分が置かれている状況をなんとなく理解した彩火は急に恥ずかしくなり、静かに2、3人並ぶレジの後ろに並んだ
そして、数分経ち彩火の番となる
「えーと……チキンを2つください」
店員は彩火の言葉通りホットショートケースからチキンを取り出しレジのテーブルに袋に入ったチキンを置く
「袋は付けますか?」
「いえ、大丈夫です」
──5円もかかるからね
「では、420円です」
「あっ、はい」
彩火は赤い長財布から500円玉を出し、80円のお釣りと商品を持って、人を避けながら入口に向かう
「ありがとうございました!」
店員の言葉を背にしコンビニを後にし、入口前で軽く息を吐いた
「……そっか、スカーレットと喋っているのって、周りから見たら独り言なのか……」
『そうね……』
彩火はストレートの銀髪をもみクシャに掻き
「あーあー!!面倒くさい!!!」
彩火は思った事を吐き出し、グロウが待つコンビニの建物横に向かった
グロウは彩火の約束通り他の人に見つからないように低木の街路樹の中に隠れていた
「プファ!腹減ったぞ!」
首だけ街路樹から出すグロウ
「はいはい、これ」
彩火はさっき買ってきた、袋の上だけを破りチキンを上げる
「うわぁ〜美味そう!!」
グロウは街路樹から出てきてチキンを受け取ると、かぶりつく
「スゲェーうめぇー!!」
夢中にかぶりつくグロウに微笑むと
「スカーレットも食べる?」
『え、わたくし?』
「うん。だから、2つ買ったんだよ」
『そう、ならいただくわ』
彩火は静かに目を閉じると銀髪から金髪にかわりスカーレットの人格になると、彩火がやったように袋の上を切ると一口つける
「あっ、美味しい……」
『でしょでしょ!』
「いい感じにパリッと食感も良くて、油も出てきてとてもジューシィだわ」
『なんか食レポ上手いな……』
「おかわり無いのか?」
食べきった袋をスカーレットに見せつける
『もうないよ!』
「なら、わたくしのを上げるわ」
「ありがとう!!」
スカーレットは自分が食べていたチキンを渡す
「え、いいのか?」
「いいわよ」
グロウは目をキラキラさせながらチキンを受け取るとすぐにかぶりついた。相当気に入ったようだ
そんなグロウにスカーレットは微笑みを隠せないでいた
「あれ、井亜鈴ちゃん?」
「あっ、本当だ」
スカーレットは声がした方に振り向いた。そこには空色髪の水浅葱 虹海と白髪の鷺城 氷牙だった
「え……シーラス、シュロス……」
スカーレットは2人の姿を見てゆっくりと近づく
「ど、どうした……」
「え、ちょっ、怖い……」
そんな言葉を無視して2人に抱きついた
「え、ちょっ!?」
「どうしたの井亜鈴ちゃん!」
「良かった……生きてたんだ……」
スカーレットは感情が爆発したように涙を流し始めた
急に抱きつかれた虹海、氷牙は戸惑った表情を見せていると
『あっ、私に変わって!!』
スカーレットは彩火に変わり強制的に変わり
「ど、どうしたの2人共!」
「それはこっちのセリフだ!」
「いきなり泣き出すからびっくりした!」
2人の至極真っ当な意見にスカーレットが流した涙を拭いながら、あはは……と笑顔を見せる
「なんともないから!」
彩火は誤魔化しながらチンキを食べ終わったグロウに近づくとリュックに無理やり押し込む
「あっ、ちょっと!?」
「静かにして!」
「本当に大丈夫?」
「うん!うん!大丈夫だから!!」
彩火はグロウを詰め込むと、リュックを背負い
「早く学校に行こう!」
「え、うん」
「おっ、おう……」
何かを隠すように2人の背中を押すようにその場を立ち去る。モゾモゾと動くリュックを背に
────
仲良し3人組で登校している中、違和感が無いように彩火は2人に声が届かない範囲まで下がり
「スカーレット」
『どうしたの?』
彩火は周りに聞こえないくらいの小声でスカーレットに話し掛ける
「急に泣き出したから」
『申し訳なかったわ。……従者の事を思い出してしまって……』
「夢で出てきた人達だっけ、私は顔はよく知らないけど……あの感じだと2人にそっくりなんだろうね」
『ええ……まんまよ……』
普段は堂々としているスカーレットが弱々しい声を出した
「仲間思いなんだね」
『……わたくしから選んだ従者だもの……それなりの責任があるわ……』
晴天の空には似合わないほどの曇った心の中の空気に彩火は
「きっと、会えるよ!かならずね!スカーレットだって、私の中で生きているわけだし!」
元気な彩火の声にスカーレットはクスッと笑い
『……そうね。わたくしが悄気げていたらダメよね』
スカーレットの声に元気が戻った
「おーい、彩火!」
「早く来ないの?」
「あっ、ごめん!ちょっと待って!」
数メートル離れた2人に待ってとハンドサインを送る
「あのさ、私の中にいるだから、スカーレットが悩んでいる事は私に相談してよ。私もスカーレットに相談するから」
『わかったわ。ありがとう彩火』
2人が出会って1日しか経っていないが、確実とした絆が芽生えているのをお互いヒシヒシと感じるのだった
────
彩火達が通う
「ふわぁー、学校、面倒くさいな〜」
「学校前まで来て、それを言うのか」
呑気な彩火の言葉に氷牙の鋭いツッコミを入れる
すると、彩火の中にいるスカーレットがなんか嫌な予感を感じ
『なんか見られている気がする……』
「え?」
すると青白いドーム学校周辺を飲み込むように包んだ
「え、何!?」
正門前で戸惑いの声を上げる虹海
虹海だけではなく、周りから戸惑いの声が上がっている
そして数秒も経たずにかなり先で爆発音が響いた。きっとドームに激突した車が爆発した音なんだろう
戸惑っている人をかき分け彩火の目の前にローブを被った2人が現れる
「あなた達は昨日の!」
「井亜鈴彩火、見つけたぞ!」
「え、井亜鈴ちゃんの知り合い?」
「知り合い……だけど、友達とかじゃないかな……」
昨日起きたことを誤魔化す彩火
するとブルースの隣に居た細身の人がローブのフードを取る
紫髪の長髪に顔がとても整っている美女だ
「顔を見せるのは初めましてよね。井亜鈴彩火さん」
「あなたは……」
「私の名前はリオン。あなたを倒す名前よ」
「何……あなたも隣の人と同じグロウ狙いなの?」
彩火とパランの会話を割り込むように背中に背負うリュックがゴソゴソと動き出した。彩火はゴソゴソに気づき、リュックを下ろす。そしてパスナーを開けるとグロウが頭を出す
「ふぁー!息苦しい!」
「グロウ、ごめん。息苦しかったよね」
「本当だよ!!」
グロウと彩火の会話に周りが一気にざわつき始めた
「何あれ?てか、あれ井亜鈴さんよね?」
「へぇ~なんだあれ!変わった生き物が居るな!」
「スゲェ、写真だ!ネットに上げようぜ!」
そんな周りの視線を気にせず真っ直ぐとパランを見つめる
「で、目的は何?」
「リユ・ニオン・スカーレットの抹消……つまり、あなたが目的なのよ井亜鈴彩火さん」
「私?」
「あなたの中にいるリユ・ニオン・スカーレットを抹消することが連合国軍の目的だから、あなたを消せば目的は達成なのよ」
リオンの言葉に目を丸くした
すると隣に居た氷牙が
「おい、待てよ!どういうことだよ彩火!説明してくれよ!」
「……ごめん、氷牙……虹海と一緒に離れてて。こいつは私に用があるみたい」
「だけどあの人、彩火ちゃんを消そうとしているんだよ!」
「……ごめん……虹海……」
彩火は仲のいい虹海と氷牙に深刻そうな表情を浮かべながら頭を下げる
普段の彩火は2人にこんな深刻そうな表情で頭を下げない。そんな彩火の表情を見て思いが伝わったのか、彩火から数メートル離れる
彩火は2人から少し離れたのを確認してリオンの方に視線を戻す
「いい顔だね」
「で、どうやって私を消すの?銃、刃物?」
簡単に殺せそうな道具を上げる
リオンは小首を傾げ考えていると
「そうね〜。レクリスならそれで良かったんだけど……ここはそんな物を公共の前で使ったら銃刀法らしいからね。消す前に消されたら元も子もないし」
──そこら辺はきっちりしてるんだ
するとリオンはローブの中からバトスピを取り出す
「まあ、これかな?」
「バトスピ?」
「建物とかを破壊して事故死に見立てる!最高じゃない!!」
「……そんなことはさせない!私がここに居る人を全部守って私が勝つ!」
『彩火』
すると彩火の銀髪から金髪へと変わる
「これはわたくしがいることによって、引き起こした問題……わたくしが相手になるわ!」
スカーレットはリュックの外ポケットからデッキケースを取り出し、ケースからデッキを取り出した
「そっちの方がいろいろやりやすいや!」
「グロウ!」
「はいよ!」
グロウはカードになるとスカーレットは手に掴んだ
「行くわよ!「ゲートオープン!!界放!!」」
宣言と同時に眼の前は宇宙のような黒い空間に赤、白、紫、緑、黄、青色の星が辺りをキラリと光っていた
右手に巻き付けた包帯が解けて、赤々と輝く紋章が露わになる
紋章がある右手で、なぞるように制服に翳すと、どんどんと焼けていき中世風の紅色のプリンセスラインドレスへと変わり、丈も制服のスカート以上に伸び、地面に付きそうなくらい長くなり、茶色の革のローファーは高級感のある赤いチャンキーヒールに変わる
スカーレットは天を掴むように両手をそれぞれ掴み、力強く離すと金色の火花が散りティアラを描き、そのまま小さくなり金色のティアラとなって頭に被る
ドレスのスカートを掴み軽くステップを踏みながらクルッと回り、パッと両手を下に広げ宇宙のような空間を吹き飛ばした
「えー!?井亜鈴ちゃん!」
「スゲェ……彩火ぽくねぇ〜」
目を丸くして驚く虹海と氷牙
リオンはローブから簡単な鎧を着けたスタイリッシュな騎士のような姿となった
「準備は出来たわよ!」
「ええ、こちらも!」
半透明の板が現れるとデッキをセットする
「彩火、ルールに関しては任せたわ」
『OK』
「先行を貰うわ!行くわよグロウ!」
【ターン1】
「スタートステップ!」
『先行はコアステップは無いよ』
「わかったわ。ドローステップ、メインステップ、まずは相棒竜グロウを召喚!」
赤いシンボルが割れてグロウが現れる
「よっしゃー!」
気合を入れるように腕を引く
スピリットが出てきてバトスピを知っている人は興奮気味になる
「バーストをセット?……してターンエンド!」
【ターン2】
「私のスタートステップよね。コアステップ、ドローステップ、メインステップ、ランマー・ゴレムXを召喚2体を召喚!」
青シンボルが割れてランマー・ゴレム2体が出てくる
「うぉーーー!!やってしまえ!!」
ガヤの虹宝学生の声がけたたましく貫く。この青年の声は学校で一番うるさいとして有名だ
そんな青年の声にイラッと来たのか、パランは軽く舌打ちをして
「アタックステップ!ランマー・ゴレムでアタック!」
ランマー・ゴレムは足でもあるバネを使い飛び跳ねながら近づく
「そのアタックは……って」
しかしランマー・ゴレムは真っ直ぐスカーレットの方には行かず、さっきけたたましく声を上げた青年の方に向かい、ランマー・ゴレムの蹴りが青年に辺りを、正門のコンクリートの壁を突き破って吹き飛ばした
周りからは女子生徒の悲鳴が、男子生徒は吹き飛ばされた生徒の元に駆け寄る
「えっ、嘘……」
そのままランマー・ゴレムがスカーレットの方に向くと、スカーレットの方に向けて足のバネを使い飛び蹴りをする
「ライフ!」
スカーレットは慌ててライフで受ける宣言をした
ライフ状のバリアが破壊され、スカーレットを吹き飛ばす
「ッ……」
ライフ5→4
コンクリートの道路に強く背中を打つ
「痛いわね……それよりも、あなたがやった事はわかっているの?」
スカーレットはリオンがやった行為に言及する。スカーレットの言葉にクスクスと笑い
「うるさかったし、別に良いじゃない」
「一般市民を攻撃することがどれくらいタブーなのか、あなたも知っているはずよね?」
「それはもちろん」
「なら、あなたがやったことは大罪よ!」
「別にいいんじゃない?ほら、郷に入っては郷に従えってこの国の言葉があるらしいよ。だからそれに関してはなんの問題もないわ」
「そうなの彩火?」
『法律に関しては疎いからなんとも言えないけど、人を傷つけただけで傷害罪らしいからアウトだよ』
「傷害罪でダメみたいよ?」
「なら、ここに居る人を皆殺しにすれば問題ないわ」
中々、サイコパスな考え方のリオンに周りからガヤの声が消え去った
静まり返る空間にリオンは「ターンエンド」と宣言する
【ターン3】
「スタートステップ、コアステップよね?」
『うん……』
少しこもった彩火の言葉に小首を傾げつつターンを続ける
「メインステップ、しかし……見たことの無いカードがあるわね」
『あっ、昨日、ちょっとデッキを改造してたから』
「い、いつの間に……まあ、いいわ。リューキン、来なさい!スピリットを破壊するわ」
リューキンから放たれた炎が回復状態のランマー・ゴレムを破壊する
「アタックステップ、グロウ!頼むわ!」
「任せとけ!」
グロウは拳を握りパランに向けて攻撃を仕掛ける
カウント0→2
「ライフで受ける!」
グロウの拳がリオンのライフを砕く
「イタぁ!」
ライフ5→4
胸を抑えて痛みに耐える
「わたくしはこれでターンエンド!」
【ターン5】
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ、バーストセットして、エッフェル・ゴレムを召喚!召喚時に2枚引き、2枚破棄!」
破棄:ランマー・ゴレム ブリック・ゴレム
するとスカーレットが伏せたバーストが赤く光出すとコンクリート道路を突き破るほどの火柱が2本立ち上がり、ランマー・ゴレム、エッフェル・ゴレムを焼き尽くした
そして、コンクリート道路を突き破り、周りの砂埃を上げて強靭な羽を広げドレッドノーズが姿を現す
「頼むわドレッドノーズ!」
彩火の言葉に咆哮を上げる。すると周囲の建物のガラスが割れ周りから悲鳴が上がる
『ヤバい!ドレッドノーズが暴れたら被害がとんでもないことに!』
「そうね……ドレッドノーズ、加減して頼むわ」
スカーレットの言葉にドレッドノーズは頷いた
「ターンエンド」
【ターン6】
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ!では、彩火が入れたカードを使わせてもらうわ!ネクサス、紅きオベリスクを配置!」
スカーレットが紅きオベリスクを配置すると、コンクリート道路を突き破り紅いモニュメントが現れる
『私がデッキに入れたけど……やっぱりネクサスは町に被害が大きくなるよねー』
「そして、もう1匹のリューキン!ランマー・ゴレムを破壊しなさい!」
2体目のリューキンを召喚をランマー・ゴレムを破壊する
「これであなたのフィールドにスピリットはいない!わたくしのスピリットが全て攻撃したらライフは無くなりこちらの勝ちとなるわ!」
スカーレットのフィールドには回復状態のグロウ、リューキン2体、ドレッドノーズと、パランの残りライフを削るには十分だ
しかし、リオンは余裕な表情をしていた
「そのタイミングでバースト発動!」
リオンのバーストが捲れるとスカーレットのデッキの上から5枚が捲れる
オープン:覇王爆炎撃 リューキン ステゴウロ カウントドロー モロバトカゲ
「何……デッキがいきなり捲れて……」
『このバースト条件……まさか!』
「コスト4ヒット!貫く拳!我に勝利を導け!鉄の覇王サイゴード・ゴレム!」
青い稲妻と共にサイゴード・ゴレムが現れる
これでフルアタックしてもライフが削れなくなった
「BP11000……破壊は出来ないわね」
スカーレットのフィールドにはBP破壊出来るスピリットはいない
「だったら、ドレッドノーズでアタック!」
カウント2→4
ドレッドノーズの効果でカウント増やしつつ2枚ドローする
飛び上がると砂埃を上げながら一気にパランに近づく
「そのアタックはライフで受ける。ウッ!!」
ライフ4→3
ライフを火炎放射で砕き、その隙を狙ってグロウがライフを狙いに突っ込んできた
「今だぁぁぁあああ!!」
「グロウ待ちなさい!」
カウント4→6
グロウがリオンのライフを砕きそうになった瞬間、横入れを入れるように飛んできた拳がグロウの体を吹き飛ばし、学校裏まで飛んでいった
「そんなバカなぁぁぁあああ!!!」
『グロウが!』
「問題ないわ!リューキン、攻撃しなさい!このタイミングで相棒竜グロウ、マグナライガーを契約煌臨!」
校舎裏から火柱が上がると校舎の屋上から獅子のようなスピリットが現れる
咆哮を上げると屋上から跳び上がり、スカーレットの前に着地する
「行こうリユ!」
「ええ、やりましょグロウ」
『あっ、グロウなんだ……』
アタックしているリューキンはライフで受け、グロウ、改めてマグナライガーがアタックする
カウント6→8
「ッ……蘇って来るなんて……フラッシュタイミングで天輪蒼破でもう1匹のリューキンを破壊する!」
青い渦潮が回復状態のリューキンを飲み込んだ
その隙にマグナライガーはバリアを噛み砕いた
「ライフで……キャアッ!!」
ライフ2→1
「ターンエンド。エンドステップ時に紅きオベリスクの効果で、ソウルコアをリザーブに置いて、トラッシュのマグマンモスを回収するわ!」
【ターン7】
「首の皮一枚繋がった……ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ、バーストセット!竜骨棍カノープスをサイゴード・ゴレムにダイレクトブレイヴ!」
カノープスをサイゴード・ゴレムをブレイヴする
「さらに大海門を配置!」
リオンの後ろに巨大な青い凱旋門が現れる。その大きさに隣のビルが押し倒される
「アタックステップ!サイゴード・ゴレム大粉砕!レベル×5枚分破壊する!」
「合計15枚……」
スカーレットのデッキから15枚のカードが破棄された
「彩火、聞きたいのだけど、デッキが無くなるとどうなるの?」
『デッキが0枚で自分のスタートステップを迎えたら負けだよ』
「なるほどね……」
「バーストカード、絶甲氷盾ヒット!ドレッドノーズを破壊!」
サイゴード・ゴレムのロケットパンチでドレッドノーズを破壊する
「ッ……」
『ここは、私に任せてくれない?』
「彩火?バトルに抵抗感があったわよね。大丈夫?」
昨日のバトルで人の悲鳴、町が破壊されるのを見て少しバトルに抵抗感があり、スカーレットもそれは分かっていた
『多分、大丈夫……』
「……わかったわ」
銀髪に変わると、蒼い炎が彩火の体を包んだ
炎が消えると紅いドレスは蒼いドレスに変わり、地面スレスレのドレスから膝したくらいまで丈が短くなり、紅いチャンキーヒールから蒼いチャンキーヒールへと変わり、金色のティアラから銀色のティアラへと変わる
「こっから私が相手になる!」
「あれ……井亜鈴ち……ゴホォ、ゴホォ!」
「虹海!」
彩火は咳をする虹海の方に目を移す
「どこを向いている!」
「え?」
彩火が振り返った瞬間にサイゴード・ゴレムのロケットパンチが襲い、彩火のライフを砕いた
「ッ……」
ライフ4→3
膝を付き歯を食いしばり、両手で体を抑えて痛みに耐える彩火
『大丈夫!?』
「……相変わらず痛すぎ……だけど、それよりも……」
彩火はフラフラになりながらも立ち上がりゆっくりと虹海の方に近づく
「大丈夫……」
「それはこっちの、ゴホォ、ゴホォ、ゴホォ!」
「砂埃を吸って喘息が再発したみたい。それよりも、彩火の方は……」
「痛いけど大丈夫!まだ……戦える!」
「……そうか」
「このタイミングで大海門の効果!起動しなさい!海門機兵オーシャンゲート・ゴレム!」
カウント0→1
大海門が変形を開始、ビルを凌ぐ建造物はビルを軽々も超える青の機械兵となった
「オーシャンゲート・ゴレムの効果で、マグナライガーを破壊!」
オーシャンゲート・ゴレムはマグナライガーを握りしめ持ち上げるとコンクリートに叩きつけた
「ぐはぁ!!」
鈍い音と共に道路には巨大なクレーターが出来る
「グロウ!?」
「さて、スピリットの心配をしている場合かな?」
重厚な音と共にオーシャンゲート・ゴレムが彩火に向かってくる
オーシャンゲート・ゴレムのアタックを受ければ確実にひとたまりもないのはグロウを見たらわかる
さらに歩くたびに道路が軽い陥没を起こしている
「これ以上、町にも被害は出させない!フラッシュタイミング!マジック、シックスブレイズ!合計BP12000以下のスピリットを破壊する!」
6本の炎がオーシャンゲート・ゴレムに向って放たれた。BP10000のオーシャンゲート・ゴレムはこれに耐えきれず破壊される
「ッ……そんな隠し玉があるなんて……ターンエンド……」
【ターン8】
「さてと……デッキが薄いな……」
『大丈夫なの?』
「そうだね……バーストもある手札もかなりある……だけど、“あのカード”を引ければまだチャンスはあると思う……ドローステップ!よし、来た!リフレッシュステップ!メインステップ!」
彩火は1枚のカードを高らかに上げると
「掴み取れ!果てなき道の先にある勝利を我が拳に!相棒竜グロウに緋炎龍皇グロウカイザーを契約煌臨!」
オーシャンゲート・ゴレムが作ったクレーターから火柱が立ち上がる
そして火柱を打ち消すように拳が出てくる。拳を思いっきり突きつけると火柱が弾け、緋色の鱗を纏う勇猛なドラゴンが姿を表した
「オレ!完・全・復・活!!」
「そして、逆巻く炎よ!魔神となれ!異魔神ブレイヴ、炎魔神!」
グロウカイザーの後ろに炎陣が描かれ、炎陣から赤い魔神が姿を表す
これにはリオンも目を丸くする
「異魔神ブレイヴ!?」
『異魔神ブレイヴを使うなんてね』
「炎魔神よ!グロウカイザーに力を貸して!」
炎魔神から放たれた光がグロウカイザーの背を押すように繋がる
「うぉぉぉぉ!!力が漲るぜ!!」
「これで決める!アタックステップ!グロウカイザーでアタック!アタック時効果!カウント増やして1枚ドロー!」
カウント8→10
グロウは炎の羽で強く飛び上がり、リオンに向けて攻撃を仕掛ける
「さらにグロウカイザーのアタック時効果でサイゴード・ゴレムを破壊する!」
「おりゃ、くらえぇー!!!」
サイゴード・ゴレムの前に急降下して、赤々と滾る拳でサイゴード・ゴレムを貫いた
「さらに、炎魔神の追撃で、バーストを破壊!」
「なんだって!?」
炎魔神は拳を飛ばすと伏せていたリオンのバーストを破壊した
「コジロンド・ゴレムが……」
「アタック時後バーストかぁ……危なぁ……」
これでリオンのフィールドにはスピリットは居なくなった
グロウの拳が赤い炎から青い炎へと変わりリオンの前に立つ
「くらえぇ!一撃必殺!!灼炎轟龍拳ーーーーーッ!!」
青い炎の拳でリオンのライフを破壊した
「まさかぁ!!私まで負けるなんてぇーーー!!!」
グロウの一撃をくらい、大きく吹き飛んだリオン。硬いアスファルトの道路に強く背中を打ち付けた
「なんとかなった……」
力が抜けるように膝をつく彩火。次にターンを回せば確実にデッキアウトで負けていた
スピリット達も消え、グロウも元のサイズに戻った
「お疲れ彩火!」
「……うん」
彩火は汗を拭いふらつきながら立ち上がる
「彩火!大丈夫か!!」
膝をついている彩火に近づく氷牙と虹海
「うん……そっちは?」
「一応、虹海の喘息は収まったみたい」
「そうか、よかった……」
「ごめんね。私のせいでバトルに集中出来なかったよね……後、これ」
「ありがとう!」
虹海はスカーレットが飛ばしたリュックと手提げを彩火に渡す
そして、彩火は下に落ちた包帯を手に取り再び巻き始めた
「それにしても、なんだこの生き物?」
氷牙はグロウの方に視線を落とす。彩火が言い訳を考えている中、グロウは自慢げに胸を張り
「オレの名前はグロウ!」
「へぇ~グロウと言うんだ。トカゲ?」
「と、トカゲじゃないよ。変わったサル……」
「だから、サルじゃねぇ!!!」
「いいんだぜ別に、隠さなくて」
「私達、この子がカードになるところ、見てたし」
「あ~」
彩火は昨日のグロウの出会いを簡単に話した
「なんか、運命的な出会いみたいな感じだね」
「まあ、いろんな意味でそうだね……」
スカーレットの事も考えると確かに運命的な出会いだったかもしれない
そんな事を考えていると彩火達を囲っていたドームは見る見るうちに消え、空からひらひらと雪のような赤い粒子が降ってきた。きっとこれが記憶を消す物質なのだろう
雪のような粒子が降ってきたのと同時に彩火の衣装は光となって消えていき、元の制服姿に戻った
すると、グロウが違和感に気がついたのか、キョロキョロと辺りを見渡す。それを不思議に思った彩火は
「どうしたの?」
「なんか……来る」
「え?」
彩火とグロウが辺りを見渡すように首を動かすと、けたたましいエンジン音が鳴り響き彩火の方に近づいて来るのがわかった
彩火達はエンジン音の方に目線を移すと黒いバイクスーツに赤いヘルメット被った人が級ブレーキと共に彩火達の前に止まる
そして赤いヘルメットを取ると
「ふぅ~、ヤッホー!彩火ちゃん!」
「星野さん!」
「なんだ……おまえか……」
「やっと、ドームが開いたから入れたよ……」
「やっぱり外から入れないんだ……」
「そうね。ドーム外はクラクションの大合唱よ……耳が壊れるかと思った……」
耳の穴から水を出すように穿る。ヘルメット越しからうるさいのなら、相当なのだろう
すると頬が赤らんでいる氷牙と虹海が近づき
「あっ、あの……」
「ぼっ……お姉さんは彩火とはどんな関係なんですか?」
──なんか言いかけてわよね氷牙?
「うーん……」
エマは彩火の肩に腕を回し体を近づけ
「ふぇ?」
「仕事……仲間かな?」
大きな胸に顔が埋まり、少し息がしづらそうになっていた
「は、離して……ください……く、苦しいです……」
「あっ、ごめんね!」
エマは彩火から手を離した
すると、リオンの方からボソボソと声が聞こえた。彩火達は聞こえる範囲までリオン達に近づく
「クソ……クソ……まさかこんなやつに負けるなんて……」
悔しそうにコンクリートの道路を殴る
「ッ……後は俺に任せろ!」
隣に居たブルースは彩火に向けて手のひらを向ける
「また、バトルフィールドを展開するつもり!?」
「そうだ!このままスカーレットを倒して!レオザードに勝利を齎す!」
しかし、ブルースの意気込みと反対にバトルフィールドは展開はしなかった
「な、なぜ……」
ブルースが戸惑っていると空から黒いローブに身を包み猫耳が生えた完全に見た目が魔法使いの女性が現れる
「誰あれ、スカーレット知ってる?」
『あれは確か、ストレーガの……フェルマでしたっけ?』
「へぇ~、そうなんだ」
「なんであんたが……」
それを見たブルースは驚いたように目を丸くする
「あなた達の回収して来なさいとあなたの王に頼まれたので。にしてもその指輪が使えない理由を教えましょうか?」
「え、なんで……」
「その指輪にはジャッチメントの力が入っています。なのでこのバトルフィールドの内で契約者以外もスピリットの力を使い、操ることが出来ます。まだジャッチメントの力が弱いので数時間経たないと使えないです」
「何じゃそりゃ!ポンコツな魔道具を作りやがって!」
ブルースの文句を無視するように彼女はフィンガースナップをするとブルースとリオンは半透明の泡に閉じ込め、手に収まるまで小さくなりフェルマの手の中に収まった
そして彼女は彩火達の方に向き軽く頭を下げる
「粗相を起こして申し訳ありません井亜鈴彩火さん」
「いえ、大丈夫だよ……」
フェルマは2つの泡を持って空へと帰って行った
「何だったの?」
『ジャッチメント……』
意味深に話すスカーレット
「なんか知っているの?」
『わたくしの予想が合っていればだけど……』
「なんだか訳ありみたいだね。後でいろいろ聞かしてよ!」
すると彩火達の後ろからクラクションが鳴り響く
「おっと、避けないとね」
彩火達は歩道に避け車を通す
道路の穴を避けながらどんどんと車が通っていく
「あんな激しいバトルがあったのに、何もなかったように生活しているんだ?」
「記憶を消したらしいから……え、待って、なんで氷牙はバトルの事を覚えているの!?」
「え、覚えているけど……」
「ん~~なんで?」
エマも思わず小首を傾げた
昨日エマの言葉通りならフィールドが無くなった瞬間に記憶が無くなるはず
しかし、氷牙と虹海は記憶が消えた感じは無い
「どうなっているの……確かにフィールドが消えたと同時に記憶は消しているはずだけど……」
「記憶を消すって!!?」
「おい、どういうことだ彩火!?」
「まあまあ〜」
彩火は2人を落ち着かせようとするが、2人は彩火を疑いの目で睨みつける
「え、えっと……出来れば2人を巻き込みたくないんだけど……」
『いいんじゃない、話して上げなさい。あの感じだと言うまで離してくれないと思うわ』
彩火は軽くため息をついて
「……うん、わかった……」
彩火はエマの方に向き、話でいいのかアイコンタクトを取る。エマは彩火のアイコンタクトに頷くと、昨日彩火に話した事を氷牙と虹海に話した
2人はあまり納得していない表情を浮かべた
「なんか……混乱したよね……」
「うん……まあ……」
「そりゃ〜、誰だって同じ反応すると思うぞ……」
氷牙と虹海の言葉に苦笑いを浮かべる彩火
すると星野は3人に
「3人共、早く学校に行かないと授業遅れるよ」
「そうですね。氷牙、虹海、行こう!」
「え、うん」
「授業あるのかな?」
校舎の方に仲良さそうに向かう3人の後ろ姿を見守る星野
そして、氷牙、虹海の記憶が消えなかった事に小首を傾げる
「ん〜。他の人は記憶が消えっているのになんであの2人だけ……」
彩火は記憶が消えないように調整をしている。なのであの2人が記憶が消えないのはおかしいのだ
エマはスマホをバイクスーツのポケットから取り出すと誰かに電話を掛ける
「もしもし真氏、少し聞きたいんだけどいいかな?」
『どうした、エマ?』
エマのスマホごしから聞こえるイケボ
「少し聞きたいことがあるんだけど……」
─────
廃工場の入口の前に降り立つフェルマ
タンタンとブーツの音を鳴らしながら廃工場の奥へと入って行く
置き捨てられた山積みの包材の前に立つと、握りしめていたブルースの入った泡を放り投げた
小さな泡が割れてブルース達が出てくる
「痛ぁ……あれ?ここは……」
「アスル様の拠点じゃない?」
フェルマは大きな帽子を被った黒猫の姿となり、その場から静かに立ち去る
辺りを見渡すと昨日の夜に集まった廃工場に居た
すると昨日と同じように見下す少女が座っていた。それを見た2人はすぐさま膝を付き
「アスル様!」
「あなた達……私の言いたいことは分かっているわね?」
アスルの言葉に冷や汗が出てきた2人
どこまでも冷徹な瞳から放たれる殺すような突き刺される視線に、食い殺そうと言わんばかりのプレッシャーが2人を襲う
そんなプレッシャーに2人は口を開くことが出来なかった
「私に言うことは?」
「も、申し訳ありません……しかしぃ……」
「しかし?言い訳か?」
アスルから放たれたプレッシャーに完全に飲み込まれたリオン
「ま、まだ我々は出来まぁ……」
「私はハッキリと“最後のチャンス”と話したよな」
アスルがそう言うと2人の足下に赤々とした魔法陣が浮かび上がった。それを見た2人は一気に顔色が青ざめた
「や、やだぁ……ま、まだ死にたくない!!!アスル様!!もう一度最後のチャンスを!!」
「ええ、お、俺はまだ仕事出来ます!!だから、消すのは!!」
「ブルース……あなたはかなり醜い命乞いをするのね」
アスルの言葉を言うと光がもっと強くなった
2人はこのまま光に包まれたら確実に終わることを察した
「や、やだ……私が消える……お願い……まだやれます!だから……だから……」
「俺は……金が欲しいだけなんだ……こんなわけからない所で……消える……のは嫌だ!」
しかし、そんな命乞いを無視をするようにひたすら睨みつけていた
「やだぁ……抜ける……私が……消える……」
「クソ……クソ……こんなはずじゃ……」
2人の息絶えそうな悲鳴が廃工場に鳴り響き、赤い光が消えたと同時に2人の体は人形のように倒れた
まるで、魂が抜けたように静かになった
アスルは軽く息を吐き、左手の甲に獅子のような鬣が描かれており、カードを翳すと近衛獅団 工兵のダヴィドを呼び出した
「宿主が目覚めたら面倒くさい事になる。そこの2人を外に放り投げ捨てといて」
アスルの言葉に頷くとダヴィドは2人を軽々と持ち上げ工場の外に持って行った
一仕事を終えたように息を吐く。すると後ろの物陰から白い鬣を持ち、青い軍服を身を包む小さなライオンが姿を現す
「かなり疲れているようだなアスル!」
「ラオンかぁ……いや、大丈夫だ」
アスルはラオンと簡単な会話をして包材から飛び降りる
何事もなく着地をし、軽く背伸びをする
「部下を消したのか?」
サラサラとした赤の長髪に赤茶色の軍帽を被った赤錆色の瞳を持つ長身の青年が工場の物陰の暗闇から出てきた
「ええ、ウーラノス、あなたには関係ないでしょ?消したのはこちらの兵だ」
「しかし、最後の嘆きは哀れでしかなかったな」
青年の足元にいる白いプテラノドン
「しかし、ラオンの所の兵は少し貧弱すぎるな」
「ガッハッハ!言ってくれるな!」
ラオンは高笑いをしながらアスルの足元にやってくる
「なになに!ケンカ、ケンカ?!リュイも見たい!」
スキップをしながら若葉色のセミロングで中性的な顔をしている中学生くらいの子が物陰の暗闇から現れる
「俺達も混ぜてくれよ!」
その子の隣にホバリングをする緑のクワガタ
「で、どんなケンカするの?リュイもやりたい!」
「ケンカとは……野蛮な者め……」
アスルが座っていた包材の後ろから落ち着いた声が響く
「別にケンカするわけではないわ」
「ふん」
包材の後ろから紫色の着物を纏い、紫色のポニーテールでいかにも古風な見た目の男性と、足下には紫色の鎧を纏った武士の見た目をしたスピリットが顔を出した
「紫苑には関係ない」
「別に我々はケンカをしているわけではない」
「ウーラノスの言う通りだ。こんな所で国同士が揉めても不利益でしか無い」
「しかし、吾輩のグラムバルトとレオザードとは決着を付けたいものだ」
「ガッハッハ、それは今回の任務が終了したらいくらでも受けて立とう!テラードよ!」
バチバチと火花を散らすラオンとプテラノドンのスピリットのテラード
ウーラノスは口元に手を置き
「しかし、井亜鈴 彩火と言う少女は中々やるな」
「そうね。あの2人も特別弱いわけではないんだが……」
「どうしたアスルは興味があるのか?」
「まあ、少しだけね……」
「えー、次はリュイの番だよ!!それにとっくにうちの従業員は送りつけたし!」
「いつも準備が早いなリュイは」
リュイは自慢げに胸を張り
「フフン!!暗殺はスピード勝負ってパパが言っていたからね!まあ、簡単に首だけ持ってきてあげるよ!」
スキップしながら暗闇に消えていくリュイ、そんな自信満々の後ろ姿のリュイを見ながら紫苑は
「リュイ殿はまだ幼いが、腕は確か」
「それに幼いのもあって、人やスピリット達を殺すことに躊躇がないという、吾輩ですから、躊躇いはあるからな」
「しかし、戦争では慢心と躊躇が最大の敵だ」
「そうね。躊躇は自分を殺せと言っているものだし」
ここにいるみんながテラードの言葉に賛同するように頷いた
彩火達が普通の暮らしをしている中、確実に迫っている連合国軍だった
────
高層ビルとの間にある3階建ての雑居ビル。外観は少し古さが残り、周りの新しい高層ビルとは似合わない見た目だった
彩火の案内で氷牙と虹海は雑居ビルに訪れた
「てか、よくバレないなそれ……」
氷牙は虹海に抱えられているグロウの方に視線を移す
「みんな、ぬいぐるみだと勘違いしてくれたみたい」
「オレとしてはリュックの中よりはだいぶマシ!」
「……悪かったわね」
雑居ビルの1階にある少し錆びた鉄扉を開ける。扉の先は薄暗くかろうじて足元が見える程度だ
「暗すぎだろ!?」
「私も来た時もこんな感じだったよ」
するとバチバチっと上から音がなるとピカッと光る
「うっ……」
真っ暗から急に明るくなったため、明るさになれずパチパチと目を動かす
すると薄暗かった空間は周りは深緑の壁に囲われていて右には白い柵が建っていた
「明るくすると、こんな感じだったんだ……」
彩火が驚くように辺りを見渡す。すると右からタンタンと階段を登る足音がした
「ようこそ!2人共、ガブリエルのラボに!」
男性にはしては少し長い黄蘗色の髪をした漫画から出てきたような好青年がイケボと共に階段を上がってきた
「は、初めまして!」
虹海が頭を下げて挨拶をする
「初めまして、彩火さんも初めましてだよね。僕の名前は
「改めまして井亜鈴 彩火です」
「鷺城 氷牙です!」
「水浅葱 虹海です!」
「今日はよろしくね」
真氏に一通り挨拶をして、階段下に案内する
6つの巨大なモニターが正面にあり、部屋の真ん中には巨大なテーブルと9つの椅子が置かれていた
「この部屋、こんな感じだったんだ……」
「知らなかったんだ……」
「まあ、エマが暗いのが好きだからね。明るいと『モニターが見づらい!』って文句を言うし」
「目が悪くなりそうっすね……」
すると、後ろからゆっくりと階段を降りる足音がすると、彩火達は振り返ると
「来てくれたんだ、2人共」
「星野さん」
「さっきぶりね、彩火ちゃん。ありがとうね、2人を連れてきてもらって。あまり巻き込みたくないって言ってたのに」
「いえ、2人が『絶対に行くって!』言うこと聞かないので……」
少し呆れ気味で2人を見つめる彩火
「なんか……大変そうだね。じゃあ、早速本題に移ろうか。まずはスカーレットちゃんに出てきてほしいかな?」
「スカーレットちゃん?」
虹海が小首を傾げ、彩火が居る方に振り向く
「ええ、いいわよ」
「え、どうしたの井亜鈴ちゃん?雰囲気が全然違う!」
「てか、お前……金髪だっけ?」
「そうね。あなた2人には名前を言っていなかったわね。わたくしの名はスカーレット家38代王女!リユ・ニオン・スカーレット!今は井亜鈴 彩火の体を借りているわ」
「あっ、そうなんだ。私は水浅葱 虹海です」
「俺は鷺城 氷牙だ」
「2人の事はよく彩火が気にかけていたわ」
『もお〜そういうのはやめてよ〜』
精神世界で恥ずかしがる彩火にクスクスとスカーレットは笑い。エマの方に視線を戻した
「で、だいたい用はわかっているわ」
「なら、いろいろ教えて!」
「ええ、わかったわ」
そう言い、軽く息を吸うと
「話すわ。“オラクルスピリット”達のことを」