「話すわ。“オラクルスピリット”達のことを」
「「「「『オラクルスピリット?』」」」」
スカーレットの単語にスカーレットとグロウ以外のみんなが小首を傾げる
スカーレットもみんなが疑問に思うのは確定だと思っていたので
「オラクルスピリットはわたくし達の世界から独立した力。つまり神に近い存在よ」
『神様……』
彩火の言葉に頷くスカーレット
「で、その神様がどうしたんだよ?」
「連合国軍がどうしてこの世界にいるのか、レイカラットを滅ぼしたのか、わたくしをの命を狙っているのか、ずっと考えていたけど、なんとなく合致したわ」
「合致?」
「ええ、真実を知っているわたくしがどうしても邪魔になるよの、世界を崩壊させるのに」
スカーレットの言葉にみんなが唖然として、空気が凍りついた
「え、どういうこと?」
戸惑う氷牙の言葉にスカーレットは冷静に言葉を返す
「言葉のままよ。世界の崩壊、まあ、あまり現実味のある話でないのは理解しているわ」
「だけど、それは今のスカーレットさんとは関係無いんじゃ……」
『虹海の言う通り、何なら今はレクリスに居ないわけだし……』
彩火と虹海の言葉に少し考え込み口を開く
「もしも、簡単に帰る手段をあっちが知っていたら……わたくし達が力を付けて帰って来る可能性がある……」
「だから、抹殺するって……そんなバカな。神様がそんな人間じみたことを……」
「意外とわからないわよ。人知を超越した力を持っていても、案外、考えは人間じみているみたいなことだってあるかもしれないわよ。だって、婚約者が居るのに若い女性に現を抜かす神様だって居るわけだし」
「確かにそう言われると、そうかも……」
みんなが納得している中、真氏が手を上げる
「じゃあ、1個質問いいかな。その張本人は誰なんだい?」
「オラクル二十一柱 XX ザ・ジャッジメント。復活、改善、発展を司るオラクル二十一柱のオラクルスピリットよ」
『ジャッジメント……』
「はいはい!私も質問していいかな?」
次にエマが手を上げる
「ええ、いいわよ」
「どうしてスカーレットちゃんだけ敵対しているの?」
「簡単な話。わたくし達、レイカラット側はジャッジメントの目的を偶然知ったから、そして連合国軍はジャッジメントの行いを正しいと思っているから、質問の返答としてはこんなもんかしら」
「じゃあさ、追加で!なんで連合国軍側はジャッジメントの目的に従っているの?世界が滅ぶのなら協力すべきだと思うんだけど?」
エマの連続質問に軽くため息をつき
「……昨日も思ったけど、あなた、結構グイグイ来るわね。……まあ、知らないからだと思う。それ以外はあまり考えられないわ……」
各国の王が欲望ために世界を滅ぼすのでは、と一瞬だけ頭に過ったが、スカーレット自身がそんな王であってほしくないと思っている
「じゃあ、連合国軍?はなんのためにジャッジメントのために動いているんですか?」
「詳しいことは知らないわ。多分、領地を増やす〜とか、願いを叶える〜とか言ったんじゃないかしら。曲がりなりにも神様だし」
「なんでも願いを……」
「叶える……」
エマと真氏は小声でスカーレットの言葉を繰り返した
「ええ、そうね」
「なるほど、それじゃあ……そのジャッジメントを止めないといけないのか……」
「でも、それ俺達には関係無いんじゃ……」
氷牙の失言にスカーレット以外からから冷ややかな目線を突き付けられた
氷牙も失言に気がつき、すぐに口を両手で抑えた
「ごめん……あからさまな失言だった……」
「わたくしは別に気にしてないわ。これに関してはこちらの問題だし、彩火を巻き込んだことは申し訳ないと思っているわ。だから、そう思われても仕方ないと思ってる」
「そうか……そっちも大変だもんな……」
氷牙はペコリとスカーレットに頭を下げる。スカーレットは「別にいいわ」と手を横に簡単に振らりながら返す
「じゃあ、そのジャッジメントを倒せば、もしかしたらスピリットの被害も無くなるのかな?」
真氏の言葉に「多分ね」と簡単に返す
「じゃあ、どうやってジャッジメントを見つけるの?連合国軍の誰かを捕まえて拷問しても、話してくれなさそうだし……」
エマの不安げな言葉にスカーレットは提案を上げるように人差し指を立てた
「最近、わたくしの世界からオラクルスピリットの姿が消えたらしいのよ。もしかしたらオラクルスピリットもこの世界に……」
スカーレットの言葉にエマは口元に手を当てる
「確かに……可能性が少しでもあるなら、オラクルスピリットを探すのもありかもね」
「だけど、どうやって?」
エマの言葉に真氏は疑問に覚えると、エマは真氏の肩に片手をポンと置き、にこやかな笑みを浮かべた
「それは、あなたの仕事だよ!」
エマの言葉に真氏はとんでもない大きなため息をはいた
「とりあえず、オラクルスピリット達のことは私達に任せて!どうにかするから」
「ええ、お願いするわ」
スカーレットの話がある程度終わり、エマが手を叩く
「次は私達の用を済ませないとね。虹海ちゃん、氷牙君、少しお時間貰ってもいいかな?」
2人は戸惑いながらも頷いた
「ありがとう。じゃあついてきて。行くよ真氏!」
「ああ」
エマはそう言って階段を登り彩火達が入って来た出入口とは逆方向の右の扉へと曲がった。虹海と氷牙はその後をついていく
金髪から銀髪に戻り、スカーレットから彩火に戻る
「あ〜の、私は?」
「少し待ってて」
真氏は彩火にそう言いエマ達の後を追うように右の扉に曲がって行った
ポツンとなった彩火。特にやることの無い彩火は椅子に座って待つことにした
グロウも隣の椅子にぴょいっと飛び乗り、人形のように座った
「よいしょっと!」
「何してるんだろ、あの2人」
「なんだか、エマが興味深そうにしてたからな〜」
『まあ、なんとなくはわかるけど……』
「わかるのスカーレット?」
『まあ、あの2人の記憶が消えなかったことが不可思議だから、調べているんでしょ?』
スカーレットの言葉に「あ〜」となる彩火。彩火自身もそれに関しては気になっていた。
「なんかあるのかな……」
彩火はどんどん不安になってきたタイミングで、奥の方からガチャリと音が鳴り、エマ達が帰ってきた
「ただいま~」
「早くない!!虹海、氷牙!何をしてたの?」
彩火の言葉に2人は悩むように小首を傾げ
「血を……抜かれただけ?」
「そうだな。献血しただけだな」
「記憶が消えなかったのが、気になったから採血してみたんだけど、特に以上とか変わった反応は無かったわ」
「逆に何も無いならよかったよ」
ホッと胸を撫で下ろす彩火を裏目にエマは腰に手を当て、頬をかく
「にしても、何で効かないんだろ?」
「まあ、とりあえず問題は無さそうだしいいんじゃない?」
真氏の言葉にもエマはあまり納得はしてない様子。そんなエマに真氏は軽くため息をつき
「今日は2人共ありがとね」
「はい!貴重なお話が聞けてよかったです!」
「俺達も協力出来そうな事が協力しますんで!」
「うん。そん時はよろしくね2人共!」
エマと虹海達が仲良く離している中、一歩後ろに居た彩火は浮かない顔をしていた
それに気づいたグロウは小首を傾げ
「どうしたんだ彩火?」
「……なんでもない。2人共、早く帰ろう!」
「おう、そうだな」
不安な表情から笑顔で2人を呼ぶ彩火にグロウは不思議に思うのだった
────
次の日の昼下がり、晴天の元に彩火と氷牙は体育館入口の横にある自販機の前にいつものように屯していた
氷牙が自販機でお金を入れ、オレンジの炭酸缶ジュースを購入し、取り出し口からジュースを手に取りプルタブを開けて、コンクリート製のスロープに腰掛ける彩火の方に視線を移す
「そういえば、グロウはどうしたんだ?」
氷牙の質問に彩火は「あぁ……」と空返事気味で答える。いつの間にか彩火のリュックから消えていたグロウ
すると自販機の陰からヒョコッと顔を出して
「呼んだ?」
「ビックリした!?」
「そこに居たの!?」
「うん!ずっと広場に居たぜ!」
サムズアップをするグロウに彩火は鋭い視線を送る
「誰にもバレていないよね」
「お〜怖ぁ〜」
彩火はグロウを連れて行くとき、氷牙と虹海以外には誰にも合わないようにとキツく言っていた
「こ、怖いよ……た、多分、バレてないと思うぜ!」
「ホントかな……」
グロウの言葉に彩火はため息を思わずついた。イマイチ信用されていないグロウ
「それにしても虹海は居ないな」
「あー、虹海は今日は病院に行ってるからね。てか、彩火も昼から病院だったよな?」
「うん……マジでめんどい……」
彩火は昼から早退して病院に行くことになっている。特に彩火は怪我や病気はしていないのだが、スカーレット関係を知らない母親と緋月から病院に行けっと言われたので行くことになっている
「どうして病院に?」
「うちの家族がスカーレットの事を知らないから……」
「あ~」
氷牙がなんとなく察しがついた
「それにしても虹海はなんか病気に罹っているのか?」
「病気というより通院かな?いろいろ持病があるから」
「持病……って、確か昔から持ってる病気だよな?」
「そうだな。喘息だったりアトピーだったり……」
「後、痔」
「結構、持ってるな〜」
グロウの言葉に2人は納得するように頷く
「そうだな、病弱じゃなかったら、運動神経もそれなりにいいし勉強も出来るし完璧人間なんだけどな〜」
「スタイルもいいし、高身長だし、割とイケボも出せるし、始めて待ち合わせした時に誰か分からなかったからね。ガチでイケメン俳優だと思ったし」
「あいつは、割と女性と病気で損しているよな」
氷牙の言葉に冬のような冷たい空気に覆われた。彩火は軽くため息をつき呆れた表情を浮かべる
「氷牙って、デリカシー無いよね」
「え!?」
「うん。シーラスが女性には紳士にって言ってたよ!」
「シーラスって誰だよ!?」
「だから、友達は少ないし、モテないし、身長低だし、スポーツしか出来ないし……ほんとに容姿はいいのに中身が終わってるからな……」
「……そこまで言うか……」
ボロクソに言われ流石にしゅんとなる氷牙。しゅんとなる氷牙にクスクスと悪戯に笑う彩火
氷牙は話を変えようと吐き出すように話題を変える
「そ、そ、そういえばスカーレットさんは出てきているのか?」
「スカーレット?いや……今日は出てきてないと思う……」
「そうなんだ」
「きっと疲れが爆発したんだと思うぜ。レイカラットに居た時はずっと警戒は解けれなかったし、何も警戒無しに寝るのは本当に久しぶり何だと思う」
グロウの言葉に一気にシーンとなる空気
レイカラットの現状を聞いた氷牙は思わず「日本ってマジで平和なんだな……」と自然と言葉が出た
グロウは氷牙の言葉に頷き
「そうだな。この国はあくびが出るくらい平和だし、オレの世界の王族はグリューム∴バウムの脅威にさらされているからな」
「グリューム∴バウムって黒い噂があるんだっけ?」
「ああ、その黒い噂が暗殺ってわけだ。見たことはねぇんだけどな!」
「その感じだと、本当に噂程度なんだな」
「アイツラは卑怯者ばっかだからな、隠し事とかうまいんだよな」
グリューム∴バウムを話し終わったと同時にチャイムが学校中に鳴り響いた
氷牙は思わず「やべぇッ」と口から漏れて、手にある缶ジュースを飲み干し、グロウが隠れていた自販機横にある青いゴミ箱に捨てる
氷牙が慌てていることに対して、彩火は落ち着いた様子で足元に置いていたリュックにグロウを詰め込む
「あっ、ちょ!!」
グロウが入ったゴソゴソ動くリュックを背負い
「じゃあね、氷牙!」
「ああ、また明日な!」
校舎に戻る氷牙と別れ病院に向かうのだった
────
中心地にある中央病院。六色市の中で一番大きな病院であり、内科から心療内科まである程度の科が揃っている
彩火は面倒くさそうに訪れ中央病院の自動扉が開く
「はぁ~ここにはあまり来たくないんだけど……」
「なんかあったのか?」
リュックからグロウの言葉に首を振りながら「なんでもない……」と空元気気味で返し、病院の中へと入っていく
院内は落ち着いた白を貴重としており、患者が静かに座っていた
彩火は真っ直ぐ窓口に向かう
「お大事に!」
「あ、ありがとうございます……」
群青色の長髪で、彩火が着る藍色のブレザーとは対の緋色のブレザーを着た少女が受付の人に軽く頭を下げる
そして彼女が出口に向かおうとした時に彩火の胸にぶつかる
「あっ、ごめんなさい!」
彼女は数歩後ろに下がり、すぐに頭を下げた
「いや、大丈夫!」
「そ、そうですか。で、では……」
彼女は駆け足で出口の方に向かって行った。するとブレザーのポケットから1枚の折りたたまれた紙切れがひらりと病院の床に落ちた
紙切れを見つけて広い上げると
「あの~これ」
しかし、彼女に彩火は聞こえなかったのか、そのまま病院を後にした
彩火は拾った折りたたまれた紙切れを開き内容を確認する
「……えーと、『六色港にある赤い倉庫に水浅葱虹海を隔離している』って……どういうこと!?」
病院内で思わず大きな声が出た。院内の待合室いた人が彩火に一気に注目を集める。視線に気づいた彩火は恥ずかしくなり軽く頭を下げて病院の外に出た
自動扉を出てすぐに軽く深呼吸をして、心身を落ち着かせてから再び紙切れの内容を確認する
「『六色港にある赤い倉庫に水浅葱虹海を隔離している』って、どういう意味なんだろ……」
紙切れの内容も気になったが、それ以上に彼女がなんでこんな意味不明な文書を持っているのかが気になった。ゴソゴソと背負ったリュックが動き
「どうしたんだ?」
「いや……まずは人が見えない場所に動いた方がいいかな」
『ふぁ〜、おはようございます。あら、目覚めが早いのね彩火』
精神世界でスカーレットが目を覚ました。スカーレットの台詞に突っ込もうか数秒悩んだが何も言わないことにした
「あっ、そうだ。これってどう思う?」
『えーと』
「『六色港にある赤い倉庫に水浅葱虹海を隔離している』って紙切れを拾ったんだけど……」
『ん〜行った方がいいかもしれないわね……取り返しのつかなくなる前に行動した方がいいわ』
「……わかった」
いろいろ気になることはあるが、彩火は紙切れをブレザーのポケットに押し込み、六色港に向けて足を進めようとした瞬間、背負ったリュックの中にいるグロウが
「病院はいいのか?」
「病気も怪我もしてないから別にいい!!」
不満を吐き出すようにグロウに言い、彩火はリュックを揺らしながら六色港に向けて足を急いで進めて病院を後にするのだった
────
六色市の漁獲量の9割をしめ、貿易港としても利用されている六色港
朝一はとても賑わっているが、昼過ぎはちらほらとしか人影が無く、閑散としていた
彩火は手紙に書いていた赤い倉庫を血眼になって探す。しかし、周りには青い屋根に潮風で錆びた建物、コンクリートで作られた連棟の建物しか並んで無かった
「どこなんだろ……」
背負ったリュックからグロウが顔出し
「俺も探すの手伝うぜ!」
人が居ないことを確認して、彩火はリュックを開け、グロウは飛び出した
「ふぅ~やっと動けるぜ!」
グロウは屈伸や肩のストレッチを行い、「じゃあ、探してくる〜」と軽いノリで彩火と離れた
離れたグロウの姿を見届けて、ポケットから紙切れを取り出し、紙切れの内容をなんども黙読する
そして、これに当てはまる建物が無いか、紙切れと照らしながら辺りを見渡す
『無さそうね……』
「うん……」
『どうしたの?』
「……なんか、紙の内容がもし現実だったらって思って……」
彩火の中にあるひっそりとあった不安がどんどんブロックのように重なってきた
不安に感じている彩火にスカーレットが優しい声で
『大丈夫よ。わたくしは虹海とは昨日が初めましてだったけど、あの子は心の強い子よ。シーラスっと同じ様にね』
「う、うん。そうだね」
スカーレットの言葉に彩火は少し不安が和らいだ気がした
すると彩火はふと視線の片隅に赤いものがチラッと見えた
「あ、あれ?」
彩火は赤いものが見えた方に歩を進める。すると、小さな赤いトタン屋根の小さな建物が連棟の建物のかなり外れに目立たない場所に建っていた
「これじゃあ、一発でわからないや……」
「おーい!見つけたか!」と後ろからグロウの声がした
『グロウと合流したわね。では、参ろうかしら』
スカーレットの言葉に頷き、彩火は赤いトタン屋根の建物に向かうのだった
赤いトタンの小屋の前に立ち、青い塗装がボロボロに剥げ落ち重々しい鉄扉が目の前に立ちはだかる
彩火は持ち手を持ち力いっぱいに扉を引く。しかし、1人の女子程度の力では扉はびくともしない
「ッ……マジか……」
一度、扉から手を離す。青い剥がれた塗装が手に付着して右手の白い包帯に青色が移っていた
剥げた塗料の塊を振り落とす
「うわぁ〜、どうしよう……」
「よし!俺も手伝うぜ!」
彩火は再び持ち手に手を置き、グロウは微かに開いた扉の隙間に手を掛け息を合わして同時に扉を引く
すると、扉は金属音と共にゆっくりと開いていく
「うぅぅぅー!!!えーい!」「おりゃー!!」
重々しい扉が開き倉庫の中が露わになる
中は薄暗く道具が散乱しており、かなり埃っぽかった
「ひどい環境……」
虹海の持病が再発しないかさらに心配が増える彩火
すると奥の方からゴホォ、ゴホォ、と誰かが咳き込む声がした
彩火は咳き込む音を頼りに物を避けながらゆっくりと近づく。すると、建物の一番奥の椅子に縛り付けられ座らされる虹海の姿があった
「……井亜ぁ……ゴホォ、ゴホォ!」
「虹海!!」
「早く助けないと!」
彩火とグロウは虹海に急いで近づこうと周りの物を蹴り飛ばして進もうとした瞬間、彩火の頭の上から薄気味悪い金属音がし、彩火は上を見上げる
すると、金属の檻のような物が降ってきて、埃を巻き上げ彩火を囲う
「うわぁ!何なの!?」
「この!」
グロウは檻がへし折れないか思いっきりパンチをしてみるがへし折れる感じがしない
「なんで……」
「それはスピリットや契約者の力を落とす魔法をその檻に掛けているからな」
緑のパーカーを深く被り少し窶れた表情をしている男性が物陰から姿を表す
男は虹海の隣に立ち、ケタケタと薄気味悪い笑みを浮かべていた
「やはり、友達を探して現れるとは……計算通りだったな」
「計算通り?」
「そうそう。まんまと引っかかってくれたとは。いや、あの女の子に井亜鈴 彩火の前に紙を落としてくれて頼んで正解だったよ」
ケタケタと彩火をあざ笑う
男の言葉を聞いて目線を上に向けて、さっき起きたことを頭の中で整理する
「え、って事はあの子も共犯ってこと?」
「まあ、俺の言葉をそのまま受け取るならな。しかし、馬鹿だな〜この子も井亜鈴彩火を助けてほしいと頼んだらコロッと劣悪な環境についてきたし……類は友を呼ぶとはまさにこのことだな」
男性の言葉に何も言えなくなった彩火
虹海は困っている人や友達をすぐに助けようとする心優しさを持っており、その優しさを一番知っているのは彩火自身だった
身内や友達を巻き込みたくなかった彩火には、目の前で起きている事はなんとしても避けたかった
彩火はあまりの無力さに思わず、檻の柵に掴み、そのままストンと膝を落とした
「……私の……せい……」
「彩火、落ち着け!」
グロウは真っ直ぐと男性を睨めつける
「こんな狡猾な事をするのはグリューン∴バウムのやつだな!」
グロウの言葉にケタケタと笑う男。男は得意げに人差し指を上げ
「いや~狩る相手の情報は仕入れとかないといけないしね。いろいろ、調べていたら彼女は責任感が強い。そして友達思いだ。だから、簡単なトラップを作れば、後は餌を撒くだけだ」
「ッ……相変わらず汚え連中だ!彩火!」
しかし、グロウの言葉に彩火は反応を示さず、ただただ斜め下を向き呆然と檻に掴み膝をついていた
「彩火!」
グロウは何度も呼びかけるが彩火はまったく反応を示さない
男はケタケタと笑いながらゆっくりと彩火の方に足を進める
「さてと、意気消沈もしたし、後は首を切れば我々の勝ちだ」
ゆっくりと近づく男、完全に無力化されているグロウは懸命に「彩火!彩火!」と何度も声を掛ける
すると呆然としていた彩火の口が動いた
「……ユルセナイ……」
「え?」
普段は明るく話す彩火とは思えないくらいボソボソと声を出す
「許せない!あんな奴……」
「井亜鈴ちゃん!」
彩火の感情に反応するように紋章が荒々しく赤黒く光りだした
『まずい!変わりなさい彩火!』
スカーレットは無理やり彩火と入れ替わった。そして赤黒い紋章は見る見るうちに光を失って行った
「危なかった……」
「リユ!」
『早く体を返して!あいつは……あいつは!虹海を!』
「落ち着きなさい彩火!怒りに任せたら碌でもない事が起きるのは火を見るより明らかよ!」
スカーレットの言葉に悔しい思いを押し殺しながら彩火は黙り込んだ。スカーレットは軽く息を吐きグロウの方に向き
「グロウ!柵と柵の間を広げられないかしら!」
「なるほど!やってみるぜ!」
グロウは柵と柵の間に手を突っ込み広げようとするが、柵一本一本が太く中々広がらなかった
グロウは困った表情を浮かべて首を横に振る。スカーレットは次の作戦を考えるために口元に手を置く
脱出の糸口が無いか、檻を見渡しているとある違和感に気づいた。思わず「あっ」と声が出て
「これって、わたくしをどうやってここから出すの?」
「……確かに!」
檻が四方を囲っているのでどうやってスカーレットを出すのか。牢屋のような扉が無いのでスカーレットを出すことが出来ない
スカーレットは近づいくる男に質問をする
「わたくしを殺した後にどうやって遺体を出すのかしら?」
「え、それは俺の懐にはこの檻を上げるスイッチを持っているから檻をもう一度上げるだけよ」
「……だいぶ……ハイテクなのね」
「この世界だから出来たことだ」
自慢げな男にどうやって懐のスイッチを取るかを考える
虹海が後ろから取るのが早いが、人質状態で縛られている虹海にそれを頼むのは難しい
スカーレットか脱出の糸口を考えている中、男は薄気味悪く笑いながら着実にスカーレットに近づいている。
そんな状態で虹海はゴソゴソと体を動かしていた。椅子の鉄パイプにロープを擦り合わせ摩擦熱でロープを焼き切ろうとしている、数十回、数百回……何度も何度も擦り合わせる
「井亜鈴ちゃんの足手まといには……」
虹海の思いが伝わるように腕に巻き付いたロープが焼き切れた
「よし!……次は足だ」
男性に気づかれないように小声で喜び、次は足のロープを切ろうとポケットから青いヘアピンを取り出し擦り始めた
「ッ……時間がかかるな……」
しかし、髪を留めるための小さなヘアピン。手に巻き付いたロープ以上に焼き切るのに時間が掛かる。それに手に強く巻き付けられ真っ赤に痕が残っており、なかなか手に力が入らずにいた
そんな状態でも早く切ろうと無理やり力を入れて無理やり切ろうとする
「クソ……なかなか切れない……」
なかなか切れないロープに焦りが生まれていた虹海
すると、無理やり力を入れるようにロープを切っていたため、手から弾くようにヘアピンが離れ、床に散らかっていた金属製の物に当たり甲高い音が小屋全体に鳴り響いた
「あ、」
思わず大きな声が出てしまい、音に気づいた男が虹海の方に視線を移した
「おっと、逃げられそうだね」
スカーレットの方から虹海に方向を変え、虹海の方にゆっくりと近づく
虹海は足が動かないため身動きが取れないため逃げることが出来ない
ゆっくりと手を鳴らしながらこちらに近づいて来る男。虹海は真っ直ぐと男を見つめていた
「ほぉ~、薄幸そうなのにそんな目をするんだな」
「確かに私は体力は無いし、かなり病弱です!だからって、別に薄幸とは一回も思ったことはありません!」
虹海の言葉に檻に囚われているスカーレットは
「とても、芯のある人なのね虹海は」
どんなに病弱でもどんなに体力がなくても芯は絶対に折れない……彼女の本質を見たスカーレットは、虹海に似ていて同じように芯が強く勇敢でいつも側にいた嘗ての従者と重ね合わせた
男はケタケタと笑いながら平手を振り上げる
「では、気絶してもらうか」
振り上げた平手を虹海の首元に向けて振り下ろす。虹海は恐怖のあまり思わず目を瞑った
『私に変わってくれないか?』
「え?」
虹海に聞こえた男性のような女性のような中性的な声。聞き心地のいい声に虹海は身を任せるように頷くとそのまま意識を失った
そして、振り下ろした平手は虹海の首元に直撃し首筋に赤い痕が出来る
虹海は目が覚める様子は無くそのまま気絶したのか床に乱雑に投げられた人形のようにピクリとも動かない
男は動かないことを確認して
「さてと、動かないか……では、首を頂戴しようか……」
男は再び薄気味悪い笑顔を浮かべながらスカーレットの方を向き再びゆっくりと歩み寄る。今度こそスカーレットの命を確実に狙える
「これで、リュイ様がグリューン∴バウムはもっと拡大する!」
そのことで頭がいっぱいになっていると男の後頭部に鉄パイプが直撃そのままぶっ倒れた
「何が……あって……」
男はゆっくりと飛んできた方に視線を移すとフラフラと立ち上がるスラッとした人影を見えた
「なっ……なぜ……立っ……」
男はそれを最後に完全に意識を失った
立ち上がった人影の虹海は「ハァハァハァ……」と激しく息を切らしながら男に近づき
「レディーを傷つけるのは論外だ」
虹海らしくない言葉を気絶している男に言い放ちながら、懐からボタンが1つしか無い簡単な作りのスイッチを取りだし、1つしか無い赤いボタンを押してスカーレットとグロウを囲っている檻を上昇させ、スカーレット達が出れるようにした
虹海はスカーレットの目の前で片膝をつき
「姫、到着に遅れてしまい申し訳ありません!ご怪我はありませんか?」
虹海らしくない言葉にスカーレットは虹海に近づくとギュッと頭を抱きしめた
虹海は少し目を丸くしたがすぐに受け止めるように目を瞑る
「……遅くなりすぎよ。なぜすぐに現れなかっのよ……従者ならすぐに現れるべきだろシーラス」
「申し訳ありません。水浅葱虹海さんの体を借りるのにどうすればいいのかわからなくて……」
シーラスの言葉にポトポトと大粒の涙を流すスカーレット。ずっと会いたくて、ずっと心配していた従者のひとりが虹海の体を借りて話している。今のスカーレットにとってこれ以上、嬉しいことはなかった
『よかったね』
「よかったなリユ!」
「……ええ」
普段から堂々としているスカーレットの涙ぐんだ声に珍しく感じる彩火
「姫、そろそろ出ないと……」
シーラスの言葉に手を離し、目から流れる涙を拭い
「そ、そうね。早くここから脱出しましょう。バレたら面倒くさいわ」
再会の悦びは一旦後回しにし、小屋を後にするスカーレット達
外に出た時には日は傾いており、茜色の空が海に反射して幻想的な海と空が広がっていた
「凄くキレイね」
「はい。とても」
スカーレットが金髪から銀髪に変わり彩火の人格になり、深い青藍色から元の薄幸な水色に戻った
「よかった。虹海が無事で」
「それはこっちの台詞。井亜鈴ちゃんが無事でよかったよ」
お互い心配や不安が解け自然に笑みが出る仲の良い2人
虹海がフラフラと辺りを探索するように歩き出し、彩火は精神世界のスカーレットに声を掛ける
「ありがとねスカーレット。おかげで頭が冷えたよ」
『別に構わないわ。でも、気を付けて紋章は感情に応えるように反応を示すから、怒りに任せて我を忘れると紋章が暴走をするのを覚えていて』
スカーレットの言葉に固唾を飲み、恐る恐る「……暴走するとどうなるの?」と質問をする
スカーレットは彩火の言葉に一拍置き
『召喚したスピリットが暴走する』
「スピリットを召喚出来るんだ……」
『小さそうなスピリットのカードを翳してみなさい』
彩火は適当にデッキを取り出しカードを翳す。するとバトルの時と同じように赤いシンボルが現れ割れる
「うわぁ~凄い!」
彩火はモロバトカゲを触る。ザラザラとした感触に現実にいるんだと思わせる
『レクリスなら無制限なんだけど、この世界では1分くらいね』
「へぇ~」
そんな会話をしているとモロバトカゲが光になって消滅した
「あっ、消えた……」
『それと、右手の平に炎がつくようなイメージをしながら念じてみて』
「炎が出るように……どういうこと?」
『属性に応じた簡単な魔法が使えるわ』
「マジ!!」
彩火の年齢で魔法が使えると言われたら興奮するのは当然
目をキラキラさせながら手の平に言われたように念じてみる。しかし、彩火の期待を裏切るように火はつかなかった
思わず小首を傾げる彩火
『焚き火がつくような感じで……』
「焚き火がつく感じ……」
彩火は目を瞑りキャンプ動画やテレビで見た焚き火がつく瞬間を思い出す
すると、彩火の手から小さなロウソクのような灯火がゆらゆらと灯りだした。その温かさを感じゆっくりと目を開ける彩火。目線の先には小さな灯火が包帯を燃料にゆらゆらと赤子のように燃えるのを数秒間見つめていた
「うわぁ〜……アチィ!!」
彩火は慌てながら振りほどくように火を消した。スカーレットは驚く彩火にクスクスと笑い
『炎は使いづらいのよ。火傷する可能性も高いし』
「だから、檻に入ってた時にしなかったんだ」
『それもあるけど、檻の厚さ的に溶かせるか微妙だったのよ、それに、火力を失敗したら小屋が燃える可能性もあったし』
スカーレットの言葉に納得する
『もし、紋章が暴走したら能力を制御出来なくなるから気を付けて』
「そ、そうか……」
彩火の頭に思わず最悪な事が頭に過った。もしあのまま怒りに任せていれば自分どころかグロウや虹海を危険な目に合わせた可能性があった
彩火は最悪が起きる可能性があった事に罪悪感を感じながら焼けて短くなった包帯を拾い上げ、少し紋章が見えつつなんとか巻き付け、フラフラと歩く虹海に合流した
────
彩火達は港から病院の方に移動する。その間、シーラスの話で盛り上がっていた
「シーラスさんにも相棒が居るんですね!」
「ああ、少し傲慢だが頼れる相棒がいる」
「シャックも居ればもっと楽しいんだけどなー」
「私が居ればシャックもこの世界も来ていると信じたいんだが……」
「シャックって言うんだ」
名前的にサメみたいなスピリットなんだな、と勝手に頭の中で想像を広げる彩火
「それにしても、姫と出会えたが事が何よりも幸福だった……」
「合わせようか?」
彩火の言葉に首を横に振るシーラス
「大丈夫です。姫が無事ならそれでいいので」
「そうなんだ……」
『ふ〜ん、そうなのね』
少し拗ねたような言い方のスカーレットに彩火はニヤニヤと笑みを浮かべる
そして、彩火はスカーレットと無理やり変わり
「ちょ、急に変わっているの!?」
『まあまあ、従者と積もる話があるでしょ!聞いてないフリをするから!』
スカーレットの半分からかいのような気遣いにスカーレットは呆れつつシーラスの方に視線を移す
「また……会えるとは思わなかったわ」
「はい。私もこのような形ですが、姫に再開出来るとは失礼ながら思いませんでした」
2人は同じ考えにクスクスと笑う
「それにしても、虹海さんの体はよく馴染みます。まるで自分の体のような」
女性の体に配慮してお腹の付近を触るシーラス。すると、スカーレットは虹海を観察するように見ていると
「……シーラス、後ろ髪を束ねてポニーテールにしてみて?」
「はぁ……」
シーラスはスカーレットに言われるがままに後ろ髪を手で掴みポニーテールを擬似的に作った
「こうですか?」
「……まんまね」
スカーレットは顎に手を当て納得するように頷く
「いや、ポニーテールにしたら、まんまシーラスよね。虹海の服装がかなり男子のようなものも相まって」
「そうですか?まあ、姫の言葉なら間違いないですね」
忠誠心の強すぎるシーラスに精神世界にいる黙り込んでいた彩火はあることに気がついた
『スカーレット、少しいいかな?』
「何かしら?」
『ふと、思ったんだけど、なんでシーラスってスカーレットの事を姫って言っているの?普通は王女とかじゃない?』
彩火の質問にクスクスと笑みを溢すスカーレット。彩火はスカーレットの笑みに小首を傾げる
「それはね。シーラスが小さい頃に初めて会った時にわたくしの事を姫って言ったのが始まりなのよ」
「ッ……。あれ?なんで入れ替わったの?」
力強い深い青色から幸薄そうな水色の髪に変わった
「隠れたわねシーラス。恥ずかしくなると隠れる癖、良くないわよ」
シーラスが精神世界に閉じこもった事をいいことに自分の従者を弄り尽くすスカーレット
「仲がいいんですね。スカーレットさん」
「仲がいいもなにも、わたくしの従者なのだから、信頼をしているだけよ」
「へぇ~カッコいいです!!」
スカーレットに羨望の眼差しを向ける。少し照れくさそうに頬をかき
「虹海と彩火もかなり仲良がいいじゃない」
「そうですね。だけど、私にとっては井亜鈴ちゃんは信頼よりも憧れの1人なので」
「憧れ?」
虹海は思い出に浸るようにうっとりした目で夕焼けの空を見上げる
「はい。私は井亜鈴ちゃんに救われたんです!」
見上げていた虹海はスカーレットの方に目線を向け満面の笑みの虹海の元気な言葉に小首を傾げるスカーレット
「何があったのか聞かせてくれない?」
「別にいい……」
虹海の話の途切れさせるように途中で夕方のチャイムが街全体に鳴り響いた
「ごめんなさい。私、門限があるからこれで!」
「そう。門限なら仕方ないわね。じゃあ、また今度聞かせて頂戴」
スカーレットの言葉にニコっと笑い、帰路へと足を進める虹海。スカーレットは虹海の後ろ姿に思い出したように手を叩き
「虹海!」
「はい?」
スカーレットの引き止めの言葉に振り返り
「シーラスの事をよろしくね」
「はい、任せてください!」
虹海が元気よく手を上げ、髪色が濃ゆくなると、唐突に右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出し
「……では、失礼します姫」
深く頭を下げて、帰路を足を進む
「相変わらず……謙虚ね」
「そうだね。だけど、あれがシーラスのいいところだ!」
「そうね。ほんとに!」
グロウの言葉にクスクスと笑うスカーレット
真面目過ぎるくらい主に忠実で、どんな人でも謙虚に接するシーラス・アルバストゥル
1人と1匹となった公園に吹く肌寒い春風。スカーレットの体は自然と体が振るえた
『そろそろ、私達も帰ろう。寒くなったし……』
「そうね。彩火のご家族に心配をかけるわけにはいかないわね」
彩火とスカーレットとグロウは雑談をしながら帰路に帰った。そんな楽しそうに雑談するスカーレットの足は跳ねるような軽い足取りでだった