火威青は問いかける   作:シャイニングピッグEX

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初めましての方は初めまして、そうでない方はこんにちは。

ぜのぎんです。これからあなたの目はあなたの身体を離れ、この未知なる物語の世界へと迷い込むのです。

でもどうか、己の身体だけは見失わないように。

戻れなくなっても、責任は取れませんから、悪しからず。


フブラの嫁入り

何かの文献で読んだことがある。宇宙にはバランスと言うものが存在し、それが崩れた時、つまりアンバランスになった時、どこかに怪獣が現れるのだ、と。

 

 漫画家である僕にとって面白い情報ではあったが、自分の漫画に活かせるかどうか、と言う点では正直微妙なところだった。

 

 宇宙の神秘やロマンを求める者にとってはとても目を惹かれる情報ではあるが、そこに怪獣と言う非現実的なものが差し込まれると途端に何か違う、そうではないのだと思ってしまう。

 

 怪獣や宇宙人と言ったものはあくまでフィクションや創作物の中にしか登場しないものだ。僕はずっとそう思っていた。

 

 しかし、目の前にいるその存在によって、この考えは全く反対の思想へと塗りつぶされることとなった。

 

 コオン、コオンと狐のように鳴く白くてまん丸で狐耳と尻尾が生えた推定四十mの怪獣、フブラは一心不乱にどこかへ向かって街の中を歩いていた。

 

 街の人々はフブラから逃げるように散り散りになりながら車道や歩行者用道路もお構い無しに走って逃げている。その中で、一人白い髪の女の子が立ち止まってフブラを見上げて何かを叫んでいた。

 

 「やめてフブラ!止まって!」

 

 あの子だ。あの子はフブラが現れる度に現場に現れる。そしてその度にフブラを止めに来ていた。度々ニュースでフブラが映るとあの子も画面端の方に映っているのをよく見ていた。

 

 フブラが現れると、その度にどんな天気であろうと雲が全て引いていき、晴天になるのとは裏腹にとんでもない量の雨が降る。いわゆる狐の嫁入りと呼ばれる天候状態になるのだ。

 

 そして気付けば、フブラの周囲にはあの子と僕の二人だけになっていた。僕達二人はそれぞれ場所は離れながらもフブラを追いかけながらその行動を見守っていた。

 

 フブラはとある漫画の出版社、松書房の前で立ち止まった。すると、これまで出していた鳴き声もピタリと止まり、気付けば雨と共に太陽の光の中に消えていた。

 

 フブラが消えた後もあの子はフブラがいた出版社のところを眺めていた。ここまで見て来たが何も関係が無いわけが無い。僕はあの子の元へ駆け寄った。

 

 「ねえ君、あの怪獣の事を知っているのかい?良かったら、聞かせて貰えないかな?」

 

 「えっ?あ、あなたは?」

 

 「僕は火威青。ただの漫画家だよ」

 

 「漫画家の人なんですか。私は白上吹雪です」

 

 「吹雪ちゃんね。吹雪ちゃんはあのフブラの事を、何か知ってるの?」

 

 「あの子は…フブラは私が生み出してしまったんです」

 

 「生み出してしまった?…とにかく、ここで話もなんだし、場所を変えようか」

 

 二人は近くの喫茶店に入り、案内された席について紅茶を二杯注文した。

 

 怪獣が出た直後という事もあって他に客はいなかったが、店は営業していた様で安心した。

 

 「それじゃあ、改めて聞かせて欲しいんだけど、吹雪ちゃんはフブラとどう言う関係なの?」

 

 「あれは一ヶ月ほど前の事でした…私はある漫画が好きでずっと読んでいたんですが…」

 

「漫画のことで何かあったの?」

 

 「漫画を描いていた先生が病気で亡くなってしまったんです。それによって漫画も打ち切りが決まったんですが…」

 

 「最終回が見れなかった、と?」

 

 吹雪はコクリと頷いた。

 

 「ふむ…それは残念だったね。それでフブラが現れたと?」

 

 「いえ、それだけではないんです。その後に出版社側で別の最終回が出たんですが、ソの最後が…」

 

 そう言って吹雪は一冊の漫画雑誌を取り出した。

 

 青はそれを受け取り、吹雪が読んでいた漫画を読んだ。よく見れば、自分も購読して読んでいる雑誌だった。

 

 「…ふむ…これは…」

 

 その最終回は作風が一気にガラッとかわり、ラブコメと言う平和な日常が一転、突如現れた宇宙人に支配されて主人公達が壮絶な末路を辿ると言うものであった。

 

 「私が望んでいる最後はこんな終わり方じゃないんです!作者が亡くなってしまったからって好き勝手に変えて…!」

 

 「泣かないで、吹雪ちゃん。君の気持ちは分かるから…」

 

 「本当ですか?」

 

 「うん、僕も漫画家だからね。僕の知らないところで勝手に終わらせられたら困るよ。とはいえどうしたものかな」

 

 すると、青の携帯電話が着信を知らせ、その電話を受けた。

 

 「もしもし?」

 

 『もしもし青くん?今暇かしら?良かったら一緒にご飯でも食べない?』

 

 「梨々華ちゃん、今ちょっと取り込んでてね…」

 

 『もー!何よ!私より大事な用事があるっていうの!?』

 

 「そうじゃないよ梨々華ちゃん。梨々華ちゃんの事も大事だけど、もう既に先約がいるんだ」

 

 『…また今度埋め合わせしてよね!』

 

 「うん。勿論だよ。ありがとう梨々華ちゃん。…あ、ところで梨々華ちゃん、一つお願いがあるんだけどさ、今すぐそっちに行ってもいいかな?」

 

 『いいけど…何かあるの?』

 

 「うん。もしかしたらあのフブラを止められるかもしれないんだ」

 

 『フブラって…あのフブラ?それを止める方法があるの?』

 

 「ちょっとした賭けだけど、やる価値はあるかもしれない。それには梨々華ちゃんの協力も欲しいんだ」

 

 『いいけどぉ〜…ちょっと都合が良すぎるんじゃない?』

 

 「また今度梨々華ちゃんの為に一日働くから、ね?それで手を打ってくれないかな」

 

 『冗談よ。私達の仲じゃない。私も一日空けておくから、さっさとおいでね』

 

 「ありがとう梨々華ちゃん。すぐ行くよ」

 

 そう言って通話は切れ、青は携帯電話をポケットにしまった。

 

 「…という訳で吹雪ちゃん、僕と一緒に来てくれないかな?」

 

 「えっと…どこへ?」

 

 「一条コーポレーションだよ」

 

 二人は喫茶店を出て、青の友達の一条コーポレーションの社長、一条梨々華の元へ訪れた。

 

 梨々華は既に会社の入口で待っていた。

 

 「あのフブラを止められるって、どういうこと?」

 

 「それにはこの子の事が関係しているんだ」

 

 青はこれまでの事情を話した。

 

 「つまり、納得のいく最終回を吹雪ちやんんが読むことが出来れば、フブラも出なくなるかも、って事ね?」

 

 「うん。フブラは吹雪ちゃんの様々な感情から生まれた怪獣だと思うんだ。なら、吹雪ちゃんが満足することが出来れば、フブラも出なくなるかも、って僕は思うんだ」

 

 「うーん、あまりにも不確定要素が多いけれど…」

 

 梨々華はちらりと吹雪の方を見た。

 

 「わ、私からもお願いします!フブラを…止めないと…」

 

 「…ねえ吹雪ちゃん。あなたはどうしたい?」

 

 「え?」

 

 梨々華は吹雪に目線を合わせて正面から向き合った。

 

 「フブラを止めたい?それとも、吹雪ちゃんが満足する最終回を読みたい?」

 

 「…満足する最終回を読みたい、です」

 

 「…うん。わかった。吹雪ちゃんの要望は叶えてみせるわ」

 

 そう言うと梨々華はどこかへ電話をかけた。

 

 「もしもし?一条コーポレーションの一条梨々華ですが、そちらの雑誌の最終回になった漫画の…はい。そうです。その漫画だけ差し替えて頂くことは可能でしょうか。漫画も含め諸々の金額や負担はこちらでしますので。はい…はい。ありがとうございます。後ほど御社に伺います」

 

 そう言って梨々華は電話を切った。

 

 「二人とも着いてきて。その松書房に行くわよ」

 

 「流石梨々華ちゃん」

 

 「えっえっいいんですか!?」

 

 「フブラを止められるならなんだって協力するわよ。それに〜…一条コーポレーションの名前を売れるチャンスにもなるしね。さあ、そうと決まれば善は急げよ!」

 

 三人は一条コーポレーションの社用車に乗り込み、出版社の元へと走らせた。

 

 「いらっしゃいませ」

 

 「一条コーポレーションの一条梨々華です。編集長はいらっしゃいますか?」

 

 「少々お待ちください」

 

 受付の女性が松書房の編集長へ電話を繋ぎ、すぐに来てくれることとなった。

 

 そして、十分程経っただろうか。近くにあったエレベーターの扉が開き、一人の男性が出てきた。

 

 「初めまして。一条コーポレーションの一条梨々華と申します」

 

 「こちらこそ初めまして、松書房編集長の竹下です。ここで立ち話もなんですし、応接室までいらっしゃって下さい」

 

 そう言って三人は編集長に連れられ、会社の応接室に入った。

 

 「雑誌の件でしたね。詳しく聞かせてください」

 

 梨々華はこれまでの経緯を話した。

 

 「…つまり、そちらの白いお嬢さんからフブラが出て、それを出なくするにはウチの漫画の一部を差し替えて欲しい、そう言うことですね?」

 

 「ええ」

 

 「不可能ではありませんが…一体どなたが漫画を描くんですか?作者はもう亡くなってしまったんですよ?」

 

 「僕が描きます」

 

 それに名乗り出たのは青であった。

 

 「僕も漫画家です。それに、その漫画はずっと読んできましたから」

 

 「ふむ…分かりました。いいでしょう。ただし条件があります」

 

 「どんな条件でしょうか」

 

 「今日から一週間以内にその最終回の漫画を完成させてください。もちろんこちらのOKが出るまでです」

 

 「そんな条件、守れるわけ…」

 

 「分かりました。やりましょう」

 

 「ちょ、青くん!?一週間なのよ!?」

 

 「そ、そうですよ!いくらなんでも一週間なんて…」

 

 「大丈夫だよ、吹雪ちゃん、梨々華ちゃん。僕はね、納期を破ったことは一度も無いんだ」

 

 二人と出版社を出て解散したあと、家に着いた青は早速漫画を描き始めた。

 

 不眠不休でネームを何本か描きあげ、二日後に松書房へネームを提出した。

 

 「流石ですね、火威さん…ご拝読します」

 

 竹下は早速ネームを読み始めた。

 

 「ふむ…このネームなら読者は満足するでしょう。こちらを仕上げてきてください」

 

 「ありがとうございます!」

 

 青は眠気と疲労で倒れそうになりながらも松書房を出た。

 

 会社の前には梨々華が社用車で迎えに来ていた。

 

 「梨々華ちゃん…」

 

 「さ、乗って。貴方も疲れてるんじゃない?」

 

 「その通りだよ…ありがとう梨々華ちゃん」

 

 青は車に乗り込み、自宅まで送ってもらった。

 

 「今日は一度寝なさい。そうでないと出来るものも出来ないわよ」

 

 「ありがとう梨々華ちゃん。大好きだよ」

 

 「いいからさっさと寝なさい!…もう」

 

 少し顔を赤くして頬を膨らませながらも梨々華は青を下ろし、青は梨々華を見送った。

 

 青は言われた通り自宅で睡眠を取り、長い時間睡眠を取った後、漫画の仕上げに入った。

 

 そして、残り一日となったところで松書房に描き終わった最終回の漫画を持ち込んだ。

 

 内容としては主人公がヒロインに告白し、数年後には家庭を持って終わると言う王道の終わり方だった。

 

 「約束通り終わらせてくれましたね火威さん。分かりました。後はこちらに任せてください」

 

 「ありがとうございます!」

 

 そして、一週間が経った頃、松書房は差し替え版として雑誌を発行していた。

 

 エゴサーチをすると、作者が変わって困惑はしていたものの、以前の下手な最終回よりはマシだと言うことで受け入れられている様子だった。

 

 吹雪も読んでいたのだろうか、それ以降フブラが現れることはぱたりと無くなった。

 

 一ヶ月ほど経ったある日の雨の日、青は外を出歩いていた。

 

 街にはいつもと変わらない日常が広がっていた。一つ変わったことがあるとすれば、フブラがいない事だろうか。フブラがいないとなれば当然、吹雪もいない。

 

 吹雪は満足してくれたのだろうか。

 

 傘と地面に降る雨の音を聞きながらそんなことを思っていた。

 

 考えていても仕方がないと、火威青は再び歩き出す。

 

 水溜まりに映った松書房の前には、フブラが立ち止まっていたのだった。




今回はここまでです。

基本的に一話完結なので、この話の続きは皆さんで想像して頂ければ幸いです。

明確な答えはないので、皆さんで是非想像を膨らませて見てください。それではまたお会いしましょう。


あなたの目は、あなたの身体に戻れましたか?
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