《原本》がある世界で抗い続けろ!―原本が猿の始まり― 作:ぐぐぐああ
「ギャアア!」
目の前にゴブリンが現れた!鼻をつんざくような悪臭と醜悪な顔を持ち合わせているが、持っているのは、天然武器の棍棒のみでいかにも弱そうな風貌である。
幸い、ゴブリン魔術士の方ではない。あいつらは魔法を使うからといってローブは纏わないのだ。魔法というのは体内の魔力を活用し、ありとあらゆる現象を引き起こすものである。
「〈原本『猿』〉」
名を呼ぶと本は独りでに開きだし、文字が紅く染まる。
そして、筋肉に力を入れた時のように引き締まった。
原本、とは‘‘オリジナル’’と呼ばれる『神』や『魔物』の真似をすることである。例えば、ゴブリンはゴブリンの原本を持っていて、そして、進化してホブゴブリンになり、やがて原点回帰するらしい。
人間は強くなると神に近づくようだが、人間に原点回帰してもなんになる?と世間では論争が起こってるそうだ。
少年がゴブリンに袈裟斬りし、腹を裂いた。
「ふぅ」
彼の名は
「この世界に来て楽しいと思えることは少なかった」
彼は農村出身であり、原本を馬鹿にされることはあったが、普通に生きてはいた。ただ、戦争が起こり、捕虜となって皆、離れ離れになってしまった。文字通りの意味で、体がだが―――。彼が生きているのは、運が良く大規模な魔法に当たらず、近くには敵国の兵がいてすぐに捕虜となったからだ。
だが、最初は全てが納得いくはずはなかった。
「どうして!村の仲間や近くの街が!滅ぼされたのに、滅ぼした奴らの手伝いしなくちゃならないんだ!原本が『猿』で肉体強化されるだけですよ!意味分かんないこととか書いてあるし!」
「うるせぇ!」
顔を涙と鼻水でくしゃくしゃにして、抗議をしたが、一喝されてしまった。
そして、奴隷商の放った足蹴が見事腹に命中して、ザンゲはゴロゴロと転がっていった。奴隷商にとって奴隷というのは、言葉を喋る家畜に過ぎない。感情移入してるしてないにせよだ。
奴隷商の名前は知らない。ただ、賭博や賭けが好きで闘技場に足を踏み入れたりしているらしい。ザンゲが迷宮に連れて行かれたのも彼の‘‘賭け’’だ。彼は先見の眼は無いが持ち前の運の良さでこの奴隷商となった。
「お前が生きていられるのは、俺がちゃんと飯を与えてるからだろうが!少しは感謝しろ!」
壁と蹴りで挟み打ちになり、奴隷商の気が済むまで蹴られ続けた。農村でいた頃でさえ、厳しさを感じていたザンゲだが、それすら優しく、これが普通だと思えるほどの年月が経ち、今になる。
最初は古びた鉄の剣だったのが刃こぼれをして、薄っぺらい布の服には革をつけて、靴は何度も編み直した布を使っている。
「未だに世界のことなんて予想がつかない。いつ町が滅ぶのかも、いつ迷宮から魔物が漏れ出すかも分からない。どうして、原本があるのかも分からない。どうして、こんな世界に―――」
彼は前世で中学生であり、死因は火事での焼死だ。
ただ、自分の能力に関してはわかってきたところもある。
『猿』は肉体強化といっても満遍なく強くなる訳じゃなく、力などの瞬発力が高まっている。ただ、力の最大値が上がっても持続力が無くてガス欠する。
「『人間』だったら、持久力が上がるし、器用さも上がるし、誰かと仲良くするとバフかかるのにな。まぁ、『猿』みたいに力は強くならないけど」
ゴブリンが現れた!
今日は運がいい。彼が倒せる実力なのがゴブリンだけだからだ。他の魔物が現れれば彼はすぐ撤退してしまう。
彼は自分の胸の中に手を突っ込んだ。まるで、彼にでっかい穴が開いたようなものだ。そこから取り出したのは、原本で力を開放する。
「原本が『人間』だったら、自然とバフがついてるんだけどなぁ。普通」
彼はパーティを組んでいないが見ていなかった訳ではなく、わざわざ取り出した様子は見せていないので、自動なのだとそう認識した。
「ウッギャア!」
ゴブリンが乱雑に棍棒を振り回して向かってくる。彼は当たると危ないので最大限避けつつ、足を引っ掛けた。
「隙あり!」
ゴブリンの喉や心臓に何度も剣を突き刺した。ゴブリンは異常な生命力を持っているからだ。そして、ゴブリンの解体を始めて、紫色の魔石と呼ばれる物を取り出した。
「お、今日のは小指の爪一個分大きいぞ。品質は黒のかかった紫で悪いけど、ラッキー」
この魔石が金に替わり、金貨5枚が払われるとザンゲははれて奴隷から解放されることになる。この金額はこの世界の普通の人の生涯で稼ぐ量よりも多い。平均が異常に低いだけだが……。
冒険者ギルドと呼ばれるところでザンゲはゴブリンの魔石を換金していた。五匹倒してやっと銅貨2枚いったところだ。もっと、倒したいが、原本を使いすぎると燃え尽きてしまう。燃え尽きてしまうと数日再起までの時間を労するので、そんなことは基本しない。
「パーティの仲間に来てくれる人いますか?」
そう、ザンゲは仲間の大切さに気づき、冒険者ギルドに仲間を探すように頼んだ、が……奴隷の雑魚と組んでくれるはずはない。若干、諦めながらも聞いた。
「なんと、新人さんが組んでくれるそうです。しかも、冒険者養成所の人らしいですよ」
「や、やったぁ!」
―――これが全てのきっかけである。