Final FantasyⅨ-リリカル・クロニクル RE.   作:竜の蹄

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今回はバトルはありません。ジタンとビビの日常を描いてます。
また、ジタンとはやても少しだけ絡みます。


第九幕 決意を新たに

 季節外れの吹雪の日から、4日経った日……テレビニュースでは、あの吹雪の事が連日の様に取り上げられていた。 

 異常気象か、果ては科学実験では無いか、と様々な憶測が並べ立てられた。

 

 なのはは漸く熱が下がり、3日程、学校を休んだ後、今日から復学した。仲良しのアリサ、すずかと共に下校していた。

 

「本当に心配したよ、なのはちゃん。風邪で3日も休んで……」

「にゃはは、ゴメン。もう大丈夫だから」

 

 すずかの言葉に、なのはは笑って答える。アリサは呆れた様子だ。

 

「でも、あんな吹雪の中、アンタ、何で外をウロウロしてたのよ? 風邪引いて当たり前じゃない」

「あ〜、えっとね……」

 

 アリサの質問に対して、なのはは言い淀んだ。まさか、黒のワルツ1号と戦って氷漬けにされてました、なんて言える訳が無い。

 

「……ユーノ君‼︎ ユーノ君が帰って来なかったらから、心配で探しに行ったの‼︎」

「ああ、あのフェレットだね?」

「……ふーん……」

 

 すずかは、ユーノが居なくなったから探しに出た、と言う話を信じた様だが、アリサは訝しげだ。

 

「……なのは。最近、アタシ達に何か隠してない?」

「へッ?」

「隠してるつもりだったんだろうけど、丸わかりだからね?」

 

 勘の良いアリサは、ここ最近の、なのはの様子が変な事に気付いていた。すずかも察しては居たが、なのはが話してくれるのを待とう、と言う風にアリサと話していたのだ。

 

「……別に、何も……」

「本当に?」

 

 アリサはなのはの前に立ち、ズイッと立ちはだかる。

 

「アタシ、嘘を吐くのも吐かれるのも嫌いなの知ってるでしょ?」

「知ってるよ……長い付き合いだもん」

「じゃあ、話しなさいよ。アンタの隠し事を!」

「あ、アリサちゃん。そんな強く言わなくても……」

 

 尋常では無いアリサの様子に、すずかは宥めようとした。だが、アリサは聞かない。

 

「すずかだって気になってるんでしょう⁉︎ この際、はっきりさせなきゃ‼︎」

「で、でも……」

「ほら‼︎ 白状しなさいよ、なのは‼︎ 何を隠してるの⁉︎」

「あ、アリサちゃん……」

 

 なのはは迫ってくるアリサに、どう答えるべきか、と悩んでいた。

 

 

「おいおい、喧嘩は止めろよ」

 

 

 突如、3人の横から声がした。其処には、購入した商品を詰めたスーパーの袋を持ったジタンが居た。何時も冷静な彼には珍しく、少し慌てた様子だ。

 

「ジタンさん……」

 

 なのははジタンの姿に、少しホッとした。すずかも同様だ。反対にアリサは、ムスッとしていた。

 

「どうして、ジタンさんが?」

「買い出しの帰りだよ。いやァ、ツイてたよ‼︎

 卵はお一人様一パックまでって言われたけどさ、レジを変えて、3パックも買ってやった‼︎」

 

 まるで主婦みたいな事を言いながら、ジタンは卵の入った袋を見せた。この世界に来て、まだ一月も経たないが、すっかり地球での生活にジタンは馴染んでいる様だ。

 

「で? 喧嘩の原因はなんだ?」

「べ、別に喧嘩してた訳じゃ……」

「そうよ! 子供の話に口挟まないで!」

「アリサちゃん、そんな言い方……!」

 

 ジタンの言葉に、なのはは口籠る。アリサは、フンッとそっぽを向きながら反論し、すずかはアリサを嗜める。

 

「何だ、昼ご飯のオカズの取り合いでもしたか? 懐かしいな、俺もガキの頃……」

「そんなんじゃ無いわよ‼︎」

 

 茶化す様にジタンは言ったが、アリサは顔を赤くして怒鳴る。

 

「じゃあ、何だよ? お兄さんに話してみな?」

 

 ジタンは優しく諭すが、アリサは背を向けた。

 

「あ、アリサちゃん? 何処行くの?」

「帰るのよ‼︎ なのは‼︎ 明日、また学校で続きだからね‼︎」

 

 そう吐き捨て、アリサは走って行った。すずかも、心配そうにこっちを見たが、ジタンは走り去るアリサを指差し「追いかけろ」と言わんばかりに、顎でしゃくる。

 すずかもジタンの意図を察し、なのはに「また明日ね」と言って、走り去った。残されたのは、ジタンとなのはだ。

 

「大丈夫か、なのは?」

「……うん……」

 

 ジタンは、なのはの様子を見て、大体の事情を理解した。多分、なのはが隠れてやっている事が原因で、アリサと揉めたのだろう。

 ふと、ジタンは「場所、変えるか」と言って、なのはを手招きする。なのはは、こくりと頷いた。

 

 

 2人は手近にある公園へ来て、ベンチを見つけると、腰を下ろした。公園の入り口にあった自動販売機で、ジタンは缶ジュースを買って、一本をなのはに渡した。

 なのはは、缶ジュースの蓋を開ける事もせずに、ジタンをチラチラと伺っていた。ジタンは気にせず、缶ジュースを飲み始める。

 先日の吹雪が嘘の様に、陽気な空模様だ。ジタンは空を仰ぎつつ、なのはに言った。

 

「聞かないのか? 俺に聞きたい事があるんだろ?」

 

 なのはの考えを的中したかの様に、ジタンは聞いた。なのはは驚いて、ジタンを見る。

 

「……どうして、分かったの?」

「何となくな。多分、アリサと揉めた理由も、それだろ? 聞きたい事があるなら、話してやるよ。俺が知ってる限りな」

 

 ジタンの言葉に、なのはは戸惑う。正直に言えば、ジタンには聞きたい事が沢山あった。だが、ここ数日で様々な事が積み重なり、なのはも混乱している。

 しかし、なのはは意を決して、ジタンに尋ねる。

 

「あの金髪の子とジタンさんは、どんな関係なの?」

 

 それは、なのはの一番の謎だった。ジュエルシードを追う過程で、なのはは幾度か自分と同年代の魔導師と出会った。

 彼女も理由は定かでは無いが、ジュエルシードを求めている。その理由を知りたくて、彼女とは何度か戦ったが、実力は上であり、一度も勝てていない。

 この前、ジタンに言われた通り、自分の気持ちを彼女に伝えたが結局、彼女とは話す事すら出来なかった。

 そして、その時、彼女の傍らに居た者……あの時は様子は違っていたが、4日前の黒のワルツ1号の起こした事件の際、やはり、ジタンだった事を確信した。

 なのはの質問に、ジタンは少し悩んだ様だが、話し始める。

 

「……アイツの名前は、フェイト。フェイト・テスタロッサだ」

「フェイトちゃん?」

 

 友達でも無い子を「ちゃん」付けで呼んだ彼女に、ジタンは少し笑った。

 

「何か、変な事を言った?」

 

 笑われた事に少し気を悪くしたなのはは、ジタンを睨む。だが、ジタンは首を横に振った。

 

「いや……なのはは、フェイトと友達になりたいんだなって思ってさ。フェイトだったんだろ? いつか話してた『考えの合わない子』って」

 

 ジタンの指摘に、なのはは頷く。

 

「俺とフェイトの関係か……まァ、強いて言えば同居人だな。色々あって、この町に来たばかりで行く宛も頼る者も居ない俺を受け入れてくれた……」

「ジタンさんを受け入れてくれた?」

 

 なのはの言葉にジタンは、彼女をまっすぐと見る。

 

「もう薄々、分かってるかもしれないけどな……俺は、この町の……いや、地球の人間じゃ無い。かと言って、フェイト達と同じ世界から来た人間でも無い。『ガイア』って言う別の世界から来たんだ」

「ガイア?」

 

 なのははキョトンとした。恐らく、理解するには難しいだろう。だが、なのはも魔導士である以上、魔法の世界の知識は断片的にある筈だ。ならば、ジタンの秘密を話しても問題無いだろう。

 

「じゃあ、ジタンさんは何で地球に来たの?」

「言ったろ? “色々あった”って。それで、元の世界に帰る方法が見つかる間、フェイトの家に居候させて貰ってるって訳」

 

 正確に言えば、ジタンを地球に送り込んだ張本人は、ガーランドだ。彼が、ジタンがガイアに帰るチャンスが見つかるまで、地球で機を窺え、と言ったのだが、それ以降は全くの音沙汰無しと来ている。

 とは言え、ガイアに帰る方法を知るなら、フェイト達と行動した方が効率が良いのも事実だ。故に、ジタンは特に焦っていない。

 

「ジタンさんを、この前見た時、尻尾が生えてたよね? ガイアって所では、皆そうなの?」

「……うーん、何て言ったら良いかな? 複雑なんだけど、尻尾が生えているのは俺だけだ。けど、普通の人間の方が多いぜ?」

「……そっか……」

 

 取り敢えず、納得してくれたみたいだ。ジタンの出生の事は、まだなのはには話せない。話した所で理解して貰えるとは思っていないが……。

 

「……フェイトちゃんはどうして、ジュエルシードを探してるの?」

「……悪いが、それは言えねェな。フェイトにも口止めされてるし、何より、俺自身、フェイトの事を知らない部分が多い。

 だが、これだけは言えるぜ。少なくとも、フェイトは

ジュエルシードを使って悪巧みをしようって訳じゃ無い。

なのはと同じで、ジュエルシードを探し出す大切な理由があるんだ、と俺は睨んでる」

 

 アルフから聞いた話から統合しても、フェイトはジュエルシードを求める理由は、彼女の母親にあるのは確実だ。

 だが、フェイトもアルフも、その母親については、決して口を割ろうとはしない。こればかりは、ジタンにさえも話せない事なのだろう。

 ジタンの言葉に、なのはは目に見えて分かる様に、ガッカリとしていた。

 

「悪かったな、なのは。一番、知りたかった事を話せてやれなくて」

「ううん。でも、フェイトちゃんが悪い子じゃ無いのが分かって良かった。ジタンさんの事も知れたし」

 

 やっと、笑顔を見せたなのはに、ジタンは安堵した。

 

「じゃあ、今度は俺が質問だ。なのはは、どうして魔導師になった? ジュエルシードを探しているって言うのと、何か関係があるのか?」

 

 次に、ジタンが疑問に思っていた事を、なのはに尋ねた。どう言う経緯を経て、なのはは魔導師になり、ジュエルシードを探しているのか……ジタンは、それが気掛かりだった。以前、なのはが魔導師になった理由を話していたが、彼女の口から改めて、真意を尋ねる事にした。

 

「……ジュエルシードは、元々、ユーノ君が探していた物なんだって。それを探していたら怪我をして、私が助けたの。それで、ユーノ君の代わりに……」

「……ジュエルシードを探してやろう、って訳か……。で、そのユーノって奴は何処に居るんだ? 歩けないくらい、酷い怪我だったのか?」

「……それは……」

 

「僕は此処です!」

 

 口籠るなのはの代わりに、1匹の動物が現れた。4日前、なのはと共に居たイタチに似た喋る動物だ。

 

「僕が、ユーノです。僕の不始末で、21個あったジュエルシードを流出させてしまって、その全てが地球に流れ着いてしまったんです」

「21個⁉︎ じゃあ、なのはやフェイトが封印した分を合わせても、まだ沢山あるって訳か⁉︎」

 

 ジタンは、ジュエルシードの新情報に舌を巻いた。先日、ジュエルシードが変異したユミールは中々の強敵だった。つまり、早いとこに全てのジュエルシードを回収しなければ、あんな化け物がウジャウジャ出てくる事になる。

 

「はい……。だから、僕は自分の不始末を払拭する為、地球にやって来たんですけど……」

「……大体の経緯は理解したよ。けど……客観的に見て、第三者として言わせて貰うが……無茶し過ぎだ」

 

 そう言ったジタンの言葉には、2人を嗜める様な言い方が含まれていた。なのはもユーノも、ハッとした顔になる。

 

「先ず、あれもこれもやろう、と詰め込み過ぎだ。お前等、2人共。そもそも、ユーノ。お前、ジュエルシードを集める事に専念し過ぎて、なのはを危険に晒してるって自覚はあるか?」

「……はい……」

 

 ジタンの怒気を孕んだ言葉に、ユーノは項垂れる。なのはは、ユーノは悪くない、とフォローしようとしたが、ジタンの話は続いた。

 

「なのは、お前もお前だ。ユーノの代わりに、ジュエルシードを探してあげたいって思うのは悪い事じゃ無いけどな、それをやる以上は危険な事に自ら、片足を突っ込む事になる。この前だって俺が、あと少し駆けつけるのが遅けりゃ、お前は此処に居なかったのかもしれないだろ?」

 

 その言葉に、なのははブルっと震えた。そうだった……黒のワルツ1号に挑んだが、その桁違いの実力に、なのはは完膚なきまでに敗北し、氷漬けにされてしまったのだ。ジタンの言う通り、あと少し、ジタンの到着が遅れていたら、自分は死んでたかもしれない、と今更に悪寒が走る。

 

「……もし、なのはの身に万が一の事があったら、桃子さんや美由希、お前の親父さんや兄貴、それにアリサやすずかが悲しむだろうって考えなかったか?」

 

 ジタンの的を射た言葉に、なのははションボリと項垂れるしかなかった。ジタンの言う通りだからだ。あの時、死ぬかも知れないって思った時、脳裏に浮かんだのは、自分の家族や友達の事だった。

 

「……別に責めてる訳じゃ無いけどな……お前の事を気に掛けてる人は沢山居るし、お前に何かあったら悲しむ人も同じくらい居る。

 その人達に対して、お前等のしている事は少し、お粗末じゃ無いかって俺は思うぜ? まあ、俺が言いたい事はそんだけだ」

 

 ジタンは怒鳴る訳でも無く、静かに諭す様に説教をした。なのはもユーノも、もう何も言えなくなっていた。

 

「……ごめんなさい……」

「言っただろ? 別に責めてないって。けどな、やるんなら中途半端にあれもこれもやろうなんて思わなくて良い。今、自分が『出来る事をやって』いけば良いんだ。これは、俺の親父の受け売りだけどな」

 

 出来る事をやる……それは、ジタンの育ての親で、タンタラスのボスであるバクーの口癖だった。

 豪放磊落で、あまり物事を拘らない性分の彼だが、決して適当に事を進めたり、何も考えずにただ突っ走る様な猪突猛進なタイプでは無い。

 何かをやる際は、先ず自分達が出来る事をやる……まだ幼かった頃のジタンや、タンタラスの若い団員達にも言い聞かせていた。

 だから、ジタンもバクーに倣い『出来る事をやっていく』事を心掛けていた。

 

「……で、なのは? それ踏まえて聞いとく。続けるのか? ジュエルシード探しとフェイトの事」

「……うん!」

「この前みたいなヘマは、もうしないって約束できるか?」

 

 ジタンは出来れば、なのはには手を引いて貰いたい、と言うのが正直な気持ちだった。ジュエルシードを探すだけでは無く、フェイトの秘密や黒のワルツ1号の存在、更にジタンの前に現れたケフカと言う正体不明の男の事も、ジタンは懸念していた。黒のワルツやケフカが、ジュエルシードと関わっているかは、ジタンにも分からない。だが少なくとも、彼等が何かしらの意図を持って行動しているのは明白だった。

 だが、なのはは応える。

 

「絶対、とは言えないけど……でも、今度は大丈夫‼︎ 誰が来ても負けない様に、頑張るから‼︎ それに……フェイトちゃんがジュエルシードを探しているなら、私も力になりたいの‼︎」

「元はと言えば、僕の蒔いた種です! 最後まで責任を持ちます!」

 

 なのはとユーノの決意を聞いたジタンは笑った。

 

「よし! 良い顔だ、2人共! それに、お前等がヤバかったら、俺が何とかしてやる‼︎」

「ジタンさんが?」

「ああ! 無限の可能性って奴に期待してな‼︎」

「ふふッ……何それ、変なの……!」

 

 ジタンの言葉に、なのはは思わず吹き出す。ユーノも笑っていた。さっきまでのギスギスした空気は無くなっていた。

 

 

 

「じゃあ、私、帰るね‼︎」

 

 なのはは立ち上がった。元気を取り戻し、ジュースを勢いよく飲んだのを見て、ジタンも安心した。ユーノは、なのはの肩に収まった。

 

「おう。俺も店に戻らなきゃな。サボってたら、桃子さんに怒られちまう」

「お母さんは優しいから、大丈夫だよ」

 

 そう言って、なのはは走って行く。その後ろ姿に、ジタンは声を掛けた。

 

「アリサと仲直り出来たら良いな‼︎」

「うん‼︎」

 

 そう言いつつ、なのはは帰って行った。ジタンは暫く、その姿を見守ったいたが、やがて物思いに耽る。

 

「ジュエルシード……か。一体、何の為に、あんな厄介な物が?」

 

 改めて、ジュエルシードが危険極まりない代物だと知ったジタンは、早急に回収すべきだ、と考えた。

 とは言え、ジタン1人では、ジュエルシードが何処にあるか分からないし、見つけたとしても、魔導師では無いジタンでは封印すら出来ない。

 やはり、ジュエルシード探しは、フェイトとなのはに任せるしか無い。しかし、問題はフェイトとなのはだ。

 あの2人が和解すれば、ジュエルシードも早く見つかるのだろうが、今の2人ら図らずとも敵対関係にある。

 何とか、あの2人の間を取り持つ事が出来たら……。

 

「……て、近所の世話焼きばあさんか、俺は……」

 

 ジタンは自分で言った事に、ツッコミを入れた。疲れてるのかな、と我ながら自分のお節介さを自嘲した。

 ふと、ジタンは公園のを見てみると、二組の来園者が目に付いた。1人は、なのはやフェイトと同い年くらいの少女だ。だが、その子は足が不自由なのか車椅子に乗っていた。その少女の隣に寄り添う様に歩いているのは……。

 

「アイツは⁉︎」

 

 遠目から見ても、あの先の折れ曲がったとんがり帽子はよく視認出来る。間違いなく、ビビだ。

 まさか、こんな所で出会うとは……ジタンは、急いでビビの所へと走った。

 

 

 

「ええ天気やね、ビビ君」

 

 はやては車椅子を動かしながら、ビビに言った。ビビも、はやての言葉に反応する。

 

「うん、そうだね。でも、お姉ちゃんは大丈夫? 寒くない?」

 

 ビビは、はやての身体を気遣った。足が不自由な事以外は健康体そのものであるはやてだが、いつ体調を崩してしまうか分からないからだ。言わば、はやての身体には、いつ爆発するか分からない不発弾を抱えているに等しい。

 だからこそ、はやては本来なら出歩かずに安静にして然るべきなのだが、はやて本人は、家の中に閉じ籠っていたら余計な事を考えてしまい、却って体調に悪いとして、出来得る限りは外の空気に触れる事を望んでいる。

 ビビも、そんな彼女の意思を汲んで、隙を見つけては彼女に付き添い、図書館や病院へ行く事を日課にしていた。

 

「この前の吹雪で僅かに残っていた桜の花、完全に散ってしもたな……」

「桜の花?」

 

 ビビは、はやての言った“桜の花”に反応した。

 

「うん。春になるとな、ピンク色の花を一面に咲かせるんや。それはもう、綺麗なんよ? 来年は、ビビ君とお花見したいわ。お弁当食べながら……」

 

 来年の春を考えるはやてを見たビビは、とても楽しみに思う反面、不安に駆られた。本当に来年の春、はやては生きていてくれるのだろうか? もしかしたら、明日か明後日か、果ては一分一秒先かに、はやて本人身体は急変してしまう可能性も無きにしも非ずだ。

 だから、未来の事を話すはやてを見たら、どうしても考えてしまう。未来なんて欲しくない……ただ、はやてと過ごす今が永遠に続けば、と……。

 

「ビビ君、どないしたん?」

 

 黙したまま立ち尽くすビビに、はやては尋ねた。ビビは、はやてを見ながら言った。

 

「……綺麗な桜を見たら、はやてお姉ちゃんの病気も治るかな?」

 

 ビビの言葉に、はやては彼の思いを察した。自分がいつ死ぬか分からない事、はやてと共に居られなくなる事に対し、不安を覚えている事を……。

 ビビを気遣う様に、はやては笑いながら言う。

 

「治るよ! 来年も再来年も、桜の花を見たら、ちゃんと治るわ!」

「ほんと?」

「本当や! だって、治らない病気なんて絶対にないもん‼︎ だから、私も大丈夫や‼︎」

 

 はやての言う『大丈夫』には、確証が無い。けど、ビビは信じていた。はやては死なないし、来年再来年と春を共に過ごせる……と。

 

 

「おーい、ビビ‼︎」

 

 

 ふと名前を呼ばれて、ビビは振り返る。其処には、走って来るジタンの姿があった。笑顔でジタンは近づいて来た。

 

「こんな所で会えるとはな‼︎ 探してたんだぜ?」

「え……あの……」

 

 ビビは困惑していた。ジタンとは、黒のワルツの一件で知り合ったが、どうも彼はビビを知っている様子だ。しかし、ビビはジタンの事を知らないし、この前も、状況が状況だけに共闘したに過ぎない。

 はやてはビビの様子を見て、警戒しながらジタンを見る。

 

「お兄さん、誰なん? ビビ君、怯えてるやんか?」

 

 はやては、ジタンを威嚇する様に言った。対して、ジタンは肩を竦めながら答えた。

 

「怪しい者じゃ無いぜ? 俺はジタン。ビビの友達だ」

「……こう言うてるけど……ビビ君、本当なん?」

 

 友達、と言われて、はやてはビビに確認を取った。ビビと暮らし始めてから、彼が一人で出歩いた事はあまり無い。だから、親しい人間が居る、と言うのも疑わしかった。

 だが、ビビははやてと出会う前の記憶が無い。だから、記憶を失う前に、ビビと出会い交友を持った人物なら、と推測したが、それだけで本当にビビの友達だとは言い切れない。

 ビビは、はやての問いに答えた。

 

「……うまく説明出来ないけど、ジタンさんは昔の僕を知っているらしいんだ。それに、僕もよく分からないけど……ジタンさんを知らない筈なのに、会った事がある気もして……」

 

 言い淀みながらも、ビビは言った。彼の言葉を聞いて、漸くはやては警戒を緩めた様だ。

 

「……ビビ君が言うなら、本当なんやと思う。ビビ君は嘘が下手やもん、すぐに分かるわ」

 

 はやては揶揄う様に言い、ビビは気恥ずかしげに帽子を触った。ジタンは微笑ましげに見ながら、このはやてがビビの言っていた『お姉ちゃん』だと悟った。

 

(ダガーは……来てないんだな……)

 

 ジタンは、愛する人が来ていなかった事への安堵と落胆の入り混じった複雑な感情になった。

 

「えっと……君の名前は?」

「私は、はやてや! 八神はやて!」

 

 はやては自身の名を名乗った。なのはやフェイトと同年代ながら、2人より達観して何処か大人びて見える子だ。

 

(喋り方が、少しルビィに似てるけど……アイツとはタイプが違うな……)

 

 そう考えながら、ジタンはタンタラス時代の仲間であり、劇団と言う表の顔では女優でもあったルビィを思い出す。

 独特な喋り方は何処か彼女に似ているが、ルビィの様な気の強さは感じられない。そう言えば、彼女は時間に煩く、少しでも約束の時間に遅れようものなら、ブランクは勿論、ボスであるバクーも手に負えないくらい機嫌が悪くなったのを覚えている。

 

「……? あの、私の顔に何か?」

 

 はやてはキョトンとしていた。ジタンは苦笑する。

 

「いや……君と喋り方が似た奴を知ってるからさ……。懐かしかっただけ」

「そうなんですか……」

 

 最初は警戒していたはやても、ジタンを信用していた。ビビは、ジタンを見上げながら尋ねる。

 

「……えっと……ジタンさん?」

「ジタンで良いよ。なァ、ビビ……お前、本当に何も覚えて無いのか?」

「……」

 

 ジタンはビビに改めて聞いた。黒のワルツの時は、確かめる余裕は無かったが、もう一度、調べる事にした。

 

「ガーネット、スタイナー、フライヤ、クイナ、エーコ、サラマンダー……この名前に聞き覚えは?」

 

 仲間達の名前を順番に並べてみたが、ビビは首を横に振る。この分じゃ、アレクサンドリアやリンドブルムの名を出しても同じだろう。

 

「そう言うたら、ビビ君のお祖父ちゃんの事は覚えてたんちゃう?」

 

 はやての発言にジタンは顔を輝かせた。

 

「それだ! ビビ、お前のじいさんの事はどうだ⁉︎ 名前は確か……クワンだった筈だ‼︎」

「クワン……」

 

 ジタンの言葉に、ビビは頭を捻る。クワン……何となくだが、思い出せそうになった。

 

「……言われてみれば……お祖父ちゃんと洞窟みたいな所で暮らしてた気がする……。ちょっと変わり者だったけど……」

「そうだよ! 思い出せたじゃないか‼︎」

「良かったね、ビビ君‼︎」

 

 断片的ながら、記憶の一部を取り戻したビビに、ジタンとはやては喜んだ。

 

「……でも、それだけ……。後は頭の中に靄がかかったみたいで分からないや……」

 

 ビビは悲しそうに言った。ジタンはビビの肩に手を置き、力強く励ました。

 

「焦らなく良いさ。ゆっくり思い出していけば良い。それに、お前は記憶を取り戻す事くらい大切な事があるだろ?」

「?」

 

 ジタンの意味深な発言に、ビビは小首を傾げた。ジタンはビビの耳元に口を近づけて言った。

 

「(可愛い子じゃないか、はやて。今は子供だけど、大人になったら美人になるぜ? 今の内に粉をかけとけよ?)」

「??? はやてお姉ちゃんに何で粉をかけるの?」

「(シーッ‼︎ 声がデカいって‼︎ 物の例えだよ‼︎)」

 

「……何や知らないけど、変な事をビビ君に吹き込まんといてや」

 

 コソコソと話すジタンに、はやては目くじらを立てる。ジタンは慌てて誤魔化した。

 

「別に、変な事じゃ無いって‼︎ だよな、ビビ⁉︎」

「え……うん……」

 

 まだ、ビビには、こう言った話題は分からない様だ。ジタンは立ち上がる。

 

「ま、何かあったら、何時でも俺を頼ってこい! お前がはやてを守る様に、俺がお前とはやてを守ってやる!」

「はやてお姉ちゃんを守る?」

「そ‼︎ 女の子を守ってこそ、男だからな‼︎」

 

 ジタンはビビに向き直りながら言った。

 

「ビビの事、頼むな? また、会いに来ても良いか?」

「勿論や‼︎」

 

 はやての返答を聞くと、ジタンは踵を返した。

 

「じゃあ、俺は行くわ。もし、俺に会いたい時は翠屋って店に尋ねてきな? お客様として歓迎するよ。其処で今、働いてるから」

「あ……ありがとう」

「おおきに! またね、ジタンさん!」

 

 2人に見送られながら、ジタンは走り去った。はやてはビビに話しかけてくる。

 

「ええ人やね、ジタンさん。竹を割った様なサッパリした人や!」

「うん……。あのね、お姉ちゃん……」

「なァに、ビビ君」

 

 ビビは真面目な顔で、はやてを見る。はやてはいつも通り、優しく見つめた。

 

「……えっと……僕、はやてお姉ちゃんを守れる様に頑張るよ……」

「うん、期待してる!」

 

 そう言って笑うはやて。ビビは改めて決意した。何があっても、はやてだけは守り抜いて見せると……。

 

 

 海鳴市から遠く離れた廃墟にて、闇の中に佇む1人の影……。

 

「ヒョッヒョッヒョ‼︎ 私の計画は完璧‼︎ そして、新たな作戦も完成した‼︎」

 

 狂気の道化師ケフカは高らかに笑いながら叫んだ。すると背後に立つ人物を振り返った。

 

「お前の指示は一つだ! ワルツ1号の様な小細工は必要ない‼︎ ジタン、ビビを誘き出せ‼︎ 尻尾のある男と、とんがり帽子の小僧だ‼︎」

 

 ケフカは手を翳すと、ジタンとビビの姿を映し出す。

 

「男は殺せ‼︎ だが、小僧は生かして連れてこい‼︎ 多少、痛めつけても良いが、殺すなよ?」

「ククク……あいわかった……」

「よォ〜し‼︎ 黒のワルツ2号、行け‼︎」

 

 ケフカの指示に改造黒魔道士兵ー黒のワルツ2号の両眼が妖しい光を放った……。

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